説明

鉄筋接合構造及び鉄筋接合方法

【課題】ねじ式鉄筋継手の部材用意の手間を抑えながら、一対の鉄筋を接合用カプラで接合した後にもカプラを回転できる鉄筋継手構造を提供する。
【解決手段】ピッチP1の雄ねじ部23が形成された第1鉄筋22と、ピッチP2(P2≠P1)の雄ねじ部33が形成された第2鉄筋32と、調整鉄筋17、第1カプラ11及び第2カプラ14を用いて接合する。調整鉄筋17は、第1鉄筋22と対向する端部にピッチP1の雄ねじ部18と、第2鉄筋32と対向する端部にピッチP2の雄ねじ部19と、が形成される。第1カプラ11は、ピッチP1の雌ねじ部13を有し、第1鉄筋22と調整鉄筋17とを接合する。第2カプラ14は、ピッチP2の雌ねじ部16を有し、第2鉄筋32と調整鉄筋17とを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双方とも固定された鉄筋同士がねじ式鉄筋継手により接合された構造及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャスト鉄筋コンクリート部材同士を接合する場合、部材の連続性を保つため、双方の鉄筋の端部同士を重ね合わせたり、直接接合したりするなどして、確実な荷重伝達が鉄筋においてもできるようにする必要がある。
鉄筋同士を接合する方法には様々ものがあるが、その中の1つとして、ねじ式鉄筋継手がある。これは、鉄筋端部に雄ねじを切っておき、内面に雌ねじを設けた接合用カプラ(又はスリーブ)にて接合する方法である。ねじ式鉄筋継手は、溶接のように接合に熟練を要さず、かつ短時間で接合できるのが特徴である。
ねじ式鉄筋継手は、簡易な鉄筋継手として非常に有効である一方で、プレキャストコンクリート部材のように固定された鉄筋同士を接合する場合、一方の鉄筋のねじ山と他方の鉄筋のねじ山の位相がずれると、カプラを双方のねじ山に螺合できないので、接合が不可能となる問題がある。
【0003】
この問題点に対し、特許文献1(特開昭63−122852号公報)、特許文献2(特開2011−84897号公報)に解決策が提案されている。
特許文献1は、一方の鉄筋と他方の鉄筋の間に調整鉄筋を設ける。調整鉄筋のねじ山のピッチを、一般部(鉄筋に形成されたねじ)よりも小さくすることで、一対の鉄筋のねじ山ピッチの位相ずれに対応する。一方で、カプラには内部に大ピッチと小ピッチの雌ねじが加工されている。大ピッチの部分を一般部に螺合し、小ピッチの部分を調整鉄筋に螺合することで、調整鉄筋及びカプラを介して一対の鉄筋を接合する。
特許文献2は、一方の鉄筋と他方の鉄筋の間に調整鉄筋を設ける点では特許文献1と同じである。特許文献2は、2本の調整鉄筋を用意し、一般部と接合される側のねじ山は一般部と同ピッチとし、また、調整鉄筋同士が接合される側のねじ山は一般部と異なるピッチとする。さらに、調整鉄筋同士が接合される側のねじ山を互いに逆ねじとし、そこに介在するカプラを回すことで自在に調整鉄筋の長さを変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−122852号公報
【特許文献2】特開2011−84897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄筋の接合部は接合強度を担保するために、カプラに対する鉄筋のねじ込み長さが所定長さ以上必要である。ところが、特許文献1は、互いに異なるねじピッチの一対の鉄筋が接合用カプラに接合されるため、接合用カプラで接合した後は、カプラを回転させることができない。したがって、特許文献1によると、カプラを接合した後にその位置を調整することによって必要なねじ込み長さを得ることができない。ねじ込み長を確認しながらカプラと鉄筋を接合することはできるが、この方法は接合効率が悪い。
また、特許文献2は、調整鉄筋に逆ねじを形成する特殊な加工が必要な形態と、又は、内外両面にねじ加工した特殊なカプラが必要な形態と、を提案しているが、一対の鉄筋を接合するのに前者の場合には2本の調整鉄筋と3つのカプラが必要であり、後者の場合には1本の調整鉄筋と4つのカプラが必要であるために、ねじ式鉄筋継手の構成部材が多くなる。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、ねじ式鉄筋継手の部材数を抑えながら、一対の鉄筋を接合用カプラで接合した後にも一対の鉄筋の接合を構造的に強固にできる鉄筋継手構造及び鉄筋接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特許文献1、特許文献2を含め従来のねじ式鉄筋継手が、接合される一対の鉄筋に形成されるねじ部のピッチが同じであるという固定観念を廃することで、上記した目的を達成できることを知見し、本発明を完成するに到った。
すなわち本発明の鉄筋接合構造は、接合端部にピッチP1の雄ねじ部aが形成された第1鉄筋と、第1鉄筋と同軸上に配置され、接合端部にピッチP2(P2≠P1)の雄ねじ部bが形成された第2鉄筋と、を、以下の調整鉄筋、第1カプラ及び第2カプラを用いて接合するものである。
調整鉄筋は、第1鉄筋と第2鉄筋の間に配置される。この調整鉄筋は、第1鉄筋と対向する端部にピッチP1の雄ねじ部Aと、第2鉄筋と対向する端部にピッチP2の雄ねじ部Bと、が形成される。
第1カプラは、ピッチP1の雌ねじ部αを有し、雄ねじ部aと雄ねじ部Aに雌ねじ部αが螺合されることで、第1鉄筋と調整鉄筋とを接合する。
第2カプラは、ピッチP2の雌ねじ部βを有し、雄ねじ部bと雄ねじ部Bに雌ねじ部βが螺合されることで、第2鉄筋と調整鉄筋とを接合する。
かくして、第1鉄筋と第2鉄筋は、調整鉄筋、第1カプラ及び第2カプラを介して接合される。
【0007】
本発明の鉄筋接合構造によると、第1カプラにより接合される部分は、第1鉄筋、調整鉄筋及び第1カプラのねじのピッチがP1で同じであり、また、第2カプラにより接合される部分は、第2鉄筋、調整鉄筋及び第2カプラのねじのピッチがP2で同じである。したがって、接合後に接合要素である第1カプラ及び第2カプラの回転による移動が可能であり、接合後に必要なねじ込み長さに調整することで、鉄筋の接合を構造的に強固にできる。
また、本発明の鉄筋接合構造によると、部材に逆ねじのような特殊な加工を施すことなく、ねじ部(雄ねじ部a、雄ねじ部A、雌ねじ部α、雄ねじ部b、雄ねじ部B、雌ねじ部β)は全て標準的な右ねじで統一できるし、調整鉄筋と2つのカプラ(第1カプラ、第2カプラ)という最小限の数の部材で、第1鉄筋と第2鉄筋とを接合できる。したがって、部材の数を抑えることができる。
もちろん、本発明の鉄筋接合構造によると、調整鉄筋にP1、P2とピッチの異なる雌ねじ部α、雌ねじ部βが形成されているため、特許文献1などと同様に、調整鉄筋の位置を調整することにより、第1鉄筋と第2鉄筋の間に生じるねじピッチの位相ずれを解消できる。
【0008】
本発明の鉄筋接合構造は、様々な部位に適用することができる。
その一例として、複数の第1鉄筋を備える第1鉄筋コンクリート梁と、複数の第2鉄筋を備える第2鉄筋コンクリート梁と、の間において、対応する第1鉄筋と第2鉄筋とを接合するのに用いることができる。この形態は、鉄筋コンクリート梁同士を接合することになる。
【0009】
また本発明の鉄筋接合構造は、複数の第1鉄筋を備える第1鉄筋コンクリート梁と、複数の第2鉄筋を備える第2鉄筋コンクリート梁と、を、コンクリート柱を介して接合する場合にも適用できる。
この場合、コンクリート柱を貫通して調整鉄筋を配置させ、第1鉄筋コンクリートとコンクリート柱の間において、第1鉄筋と調整鉄筋とを第1カプラが接合し、第2鉄筋コンクリートとコンクリート柱の間において、第2鉄筋と調整鉄筋とを第2カプラが接合する、ことが好ましい。
この形態によると、第1カプラと第2カプラがコンクリート柱の両側に振り分けられるので、各々の接合部にカプラが1つだけ置かれるのみであるから、コンパクトな鉄筋接合構造を実現できる。
【0010】
本発明は、また、接合端部にピッチP1の雄ねじ部aが形成された第1鉄筋と、第1鉄筋と同軸上に配置され、接合端部にピッチP2(P2≠P1)の雄ねじ部bが形成された第2鉄筋と、を接合する方法を提供する。この接合方法は、以下のステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)及びステップ(d)を備えている。
ステップ(a):第1鉄筋と対向する端部にピッチP1の雄ねじ部Aと、第2鉄筋と対向する端部にピッチP2の雄ねじ部Bと、が形成された調整鉄筋を第1鉄筋と第2鉄筋の間に配置する。
ステップ(b):ピッチP1の雌ねじ部αを有し、雄ねじ部aと雄ねじ部Aに雌ねじ部αが螺合される第1カプラにより、第1鉄筋と調整鉄筋を接合する。
ステップ(c):ピッチP2の雌ねじ部βを有し、雄ねじ部bと雄ねじ部Bに雌ねじ部βが螺合される第2カプラにより、第2鉄筋と調整鉄筋を接合する。
ステップ(d):第1鉄筋、調整鉄筋それぞれに対する第1カプラのねじ込み量、および第1鉄筋、調整鉄筋それぞれに対する第2カプラのねじ込み量を、鉄筋接合強度を担保する所定のねじ込み量以上となるよう調整する。
なお、ステップ(b)とステップ(c)の順番は、ステップ(b)が先でもよいし、ステップ(c)が先でもよく、任意である。
【0011】
以上の鉄筋接合方法においても、鉄筋接合構造と同様に、第1鉄筋コンクリート梁と第2鉄筋コンクリート梁とを接合する場合、第1鉄筋コンクリート梁と第2鉄筋コンクリート梁とを、コンクリート柱を介して接合する場合、をはじめとして、種々の接合形態に適用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成のねじ式鉄筋継手によると、互いにピッチの異なる雄ねじを両端に設けた調整鉄筋の使用により、ねじ山位相の調整が可能となる。そのため、プレキャスト鉄筋コンクリート部材の鉄筋のように固定された鉄筋同士において、一方の鉄筋のねじ山と他方の鉄筋のねじ山の位相がずれていても容易に接合が可能となる。また、一対の鉄筋接合部(接合する部材の鉄筋と調整鉄筋との接合部)において、互いにねじピッチは同じであるため、接合後のカプラの移動が可能となる。よって、一対の鉄筋を接合用カプラで接合した後にも、接合強度を担保するカプラの所定ねじ込み量の確保が可能となり、接合部を構造的に強固にできる。さらに、本発明の鉄筋接合部は接合用カプラ2個と調整鉄筋1つの少ない部材数での実現が可能である。
以上より、本発明によれば、ねじ式鉄筋継手の部材の数を抑えながら、一対の鉄筋を接合用カプラで接合した後にもその接合を構造的に強固にできる鉄筋継手構造及びねじ山位相ずれの影響を受けない容易な鉄筋接合方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は第1実施形態によるねじ式鉄筋継手を介して接合された一対のプレキャスト梁を示す斜視図、(b)は一対の鉄筋の接合構造を示す断面図である。
【図2】第1実施形態によるねじ式鉄筋継手で一対の鉄筋を接合する手順を示す図である。
【図3】(a)は本実施形態において、ねじ式鉄筋継手を介して接合されたプレキャスト梁を模式的に示す図であり、(b)は比較例において、ねじ式鉄筋継手を介して接合されたプレキャスト梁を模式的に示す図である。
【図4】第2実施形態によるねじ式鉄筋継手を介して接合されたプレキャスト柱とプレキャスト梁を示す斜視図である。
【図5】第2実施形態によるねじ式鉄筋継手を介して接合されたプレキャスト柱とプレキャスト梁を模式的に示す図である。
【図6】本発明が適用されうる形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態は、梁20と梁30が鉄筋接合構造10を介して接合される例を示す。
梁20は、図1に示すように、コンクリートをプレキャストすることにより作製されたものであり、種々の建造物の構造を担う。梁20は、水平方向に延びる矩形断面の梁本体21と、複数の第1鉄筋22と、を備えている。直線状の第1鉄筋22は、軸方向に沿って梁本体21の内部に保持されるが、梁20と接合される側の端部は梁本体21から露出する。第1鉄筋22は、梁本体21から露出する部分に雄ねじ部23が形成されている。雄ねじ部23は、第1鉄筋22の先端から所定の範囲の接合端部に形成されている。雄ねじ部23はピッチがP1とされる。雄ねじ部23(雄ねじ部a)は、軸方向の長さが、第1カプラ11の長さ以上に設定されている。なお、ここではプレキャストされた鉄筋コンクリートからなる梁20(30)を示すが、本発明の対象は現場打ちされた鉄筋コンクリートであっても良い。
梁30は、図1に示すように、梁本体31と、第2鉄筋32と、を備え、基本的には梁20と同様の構成をなしている。ただし、雄ねじ部33(雄ねじ部A)のピッチP2は、雄ねじ部23のピッチP1よりも大きく設定されている。つまり、ピッチP2とピッチP1は、P2>P1の関係を有している。なお、雄ねじ部23、33は、並目ねじを用いればよいが、細目ねじなどの他のねじ種を用いることを許容する。また、全て標準的な右ねじで統一できるが、左ねじを用いることを許容する。
梁20と梁30は、第1鉄筋22が露出する側と第2鉄筋32が露出する側を対向して配置される。各々対応する第1鉄筋22と第2鉄筋32は、同軸上に配置されており、鉄筋接合構造10により接合される。
【0015】
鉄筋接合構造10は、図1に示すように、第1鉄筋22,32に加えて、第1鉄筋22の雄ねじ部23に一部が螺合する第1カプラ11と、第2鉄筋32の雄ねじ部33に一部が螺合する第2カプラ14と、第1鉄筋22と第2鉄筋32の間に配置される調整鉄筋17と、を備えている。
第1カプラ11は、鋼製かつ筒状のカプラ本体12の内周面に、全長に渡って一様な雌ねじ部13が形成されたものである。雌ねじ部13は、第1鉄筋22の雄ねじ部23が螺合する内径、ピッチP1及びねじ溝断面形状を有している。
第2カプラ14は、鋼製かつ筒状のカプラ本体15の内周面に、全長に亘って一様な雌ねじ部16が形成されたものである。雌ねじ部16は、第2鉄筋32の雄ねじ部33が螺合する内径、ピッチP2及びねじ溝断面形状を有している。
調整鉄筋17は、一方の端部に雄ねじ部18(雄ねじ部α)が、他方の端部に雄ねじ部19(雄ねじ部β)が、形成されている。雄ねじ部18はピッチがP1であり、雄ねじ部19はピッチがP2である。調整鉄筋17は、雄ねじ部18が梁20の第1鉄筋22(雄ねじ部23)に対向し、雄ねじ部19が梁30の第2鉄筋32(雄ねじ部33)に対向するようにして、第1鉄筋22と第2鉄筋32の間に配置される。
【0016】
第1カプラ11は、一端側が第1鉄筋22の雄ねじ部23と螺合し、他端側が調整鉄筋17の雄ねじ部18と螺合することで、第1鉄筋22と調整鉄筋17を接合する。また、第2カプラ14は、一端側が第2鉄筋32の雄ねじ部33と螺合し、他端側が調整鉄筋17の雄ねじ部19と螺合することで、第2鉄筋32と調整鉄筋17を接合する。こうして、梁20と梁30は、鉄筋接合構造10を介して接合される。
【0017】
次に、鉄筋接合構造10を用いて、梁20の第1鉄筋22と梁30の第2鉄筋32を接合する手順を、図2を参照しながら説明する。
図2(a)に示すように、接合作業を始める前に、第1カプラ11を第1鉄筋22にねじ込んでおく。この際、第1カプラ11が第1鉄筋22の先端から突出しないように後退させておく。そのために、雄ねじ部23に雌ねじ13の全域を螺合させる。これは、調整鉄筋17を第1鉄筋22と第2鉄筋32の間に配置する際に、調整鉄筋17に第1カプラ11を干渉させないためである。ただし、調整鉄筋17が短い場合には、第1カプラ11が第1鉄筋22の先端から突出していても、調整鉄筋17と干渉することがない場合もあるので、第1カプラ11の後退は本発明において必須の要素ではない。なお、第1カプラ11と同様に、第2カプラ14を第2鉄筋32にねじ込んで後退させておく。
第1カプラ11がねじ込まれた第1鉄筋22と第2カプラ14がねじ込まれた第2鉄筋32の間であって、かつ第1鉄筋22及び第2鉄筋32と同軸上に、調整鉄筋17は配置される。調整鉄筋17は、第2鉄筋32よりも第1鉄筋22に近接するように配置される。これは、次の手順において、調整鉄筋17と第1鉄筋22を第1カプラ11により接合するのを先行させるためである。
【0018】
次に、図2(b)に示すように、第1カプラ11の雌ねじ部13が調整鉄筋17の雄ねじ部18と螺合するまで第1カプラ11を回転させる。これで、第1鉄筋22と調整鉄筋17が第1カプラ11を介して接合される。この段階における第1カプラ11の軸方向の位置は任意であるが、例えば、第1カプラ11の軸方向の中央に第1鉄筋22と調整鉄筋17の境界を一致させる。
【0019】
次に、図2(c)に示すように、調整鉄筋17の雄ねじ部19と第2鉄筋32の雄ねじ部33のねじ山ピッチの位相が一致するように、調整鉄筋17を回転させてその位置を調整する。この回転により調整鉄筋17から第2鉄筋32までの距離が縮まる。
【0020】
次に、図2(d)に示すように、第2カプラ14の雌ねじ部16が調整鉄筋17の雄ねじ部19と螺合するまで第2カプラ14を回転させる。これで、第2鉄筋32と調整鉄筋17が第2カプラ14を介して接合される。この段階における第2カプラ14の軸方向の位置は任意であるが、例えば、第2カプラ14の軸方向の中央に第2鉄筋32と調整鉄筋17の境界を一致させる。
【0021】
以上の手順により、第1鉄筋22と第2鉄筋32が、第1カプラ11、第2カプラ14及び調整鉄筋17を介して接合されるが、第1カプラ11に対する調整鉄筋17及び第1鉄筋22の両者のねじ込み長さ、第2カプラ14に対する調整鉄筋17及び第2鉄筋32の両者のねじ込み長さを所望する範囲に収めるために、例えば図2(e)に示すように、第2カプラ14(または第1カプラ11)を適宜回転させることができる。第1カプラ11、第2カプラ14の位置を定めた後には、図2(f)に示すように、第1カプラ11、第2カプラ14の移動(回転)を拘束する回り止め45を第1カプラ11、第2カプラ14の両端に設けることが好ましい。
接合後は、コンクリートを打設するなどして接合部を含めた梁20と梁30の間を埋めて、梁20と梁30の接合作業が終わる。
【0022】
ここで、第1カプラ11、調整鉄筋17及び第1鉄筋22は、同じピッチP1のねじが螺合することで接合されたものであるから、接合後であっても第1カプラ11を回転させることで、ねじ込み長さを調整することで、第1鉄筋22と第2鉄筋32の接合を構造的に強固にできる。第2カプラ14、調整鉄筋17及び第2鉄筋32についても同様である。また、本実施形態によると、カプラへの鉄筋のねじ込み長さを確認しながらカプラと鉄筋を接合する必要がないので、接合効率もよい。
【0023】
また、鉄筋接合構造10は、第1カプラ11を回して調整鉄筋17と第1鉄筋22に架け渡し、また、第2カプラ14を回して調整鉄筋17と第2鉄筋32に架け渡す構造である。したがって、第1カプラ11及び第2カプラ14は、必要なねじ込み長さが確保できる最低限の長さがあれば足りる。これに対して、例えば特許文献1のように、ねじ込まれている調整鉄筋を回してカプラから引き出す構造の場合には、調整鉄筋が引き出された後にはカプラ内部に空隙が残り、この空隙の分だけカプラを長く作製する必要がある。通常、鉄筋接合後はプレキャスト部材間に現場打ちコンクリートを打設するため、鉄筋接合部はできる限り小さい方がのぞましいが、この点で本発明は特許文献1に対し有効である。さらに、複数の鉄筋間を接合する場合、カプラ(鉄筋接合部)は構造的脆弱部になるおそれがあることや、適切な鉄筋間隔を確保できないなどの理由から、複数のカプラが一断面上に配置されないよう互い違いに配置されることがあるが、カプラが長くなると、一断面上にカプラが重複する可能性が高くなる。
図3を参照して説明すると、本実施形態のように第1カプラ11及び第2カプラ14が短いと、図3(a)のように同一断面上に重複する第1カプラ11及び第2カプラ14が存在しないか、存在する可能性が小さいのに対して、第1カプラ11又は第2カプラ14が長いと、図3(b)のように同一断面上に重複する第1カプラ11又は第2カプラ14が存在するか、存在する可能性が大きい。
【0024】
また、鉄筋接合構造10は、第1カプラ11、第2カプラ14を回して接合するものであり、カプラと比較して径の小さい調整鉄筋17を回して接合するものに比べて、作業性がよい。なお、調整鉄筋を回す特許文献1は、調整鉄筋に割りピンを挿して回すことができる、としているが、本発明のように相対的に径の大きなカプラは容易に回転が可能であるため、強度部材である鉄筋自体に孔を開けることなく容易に位置調整できる。
【0025】
なお、以上の実施形態は、第1鉄筋22に第1カプラ11を、また、第2鉄筋32に第2カプラ14をねじ込んでおく例を示したが、本発明は、調整鉄筋17に第1カプラ11及び第2カプラ14をねじ込んでおいてもよい。前者の場合には、第1鉄筋22、第2鉄筋32が、各々、梁本体21、31に固定されているので、第1カプラ11、第2カプラ14を回す作業の際に、第1鉄筋22、第2鉄筋32がつれ回るのを阻止する必要がない。一方、後者の場合には、調整鉄筋17にあらかじめ第1カプラ11及び第2カプラ14をまとめてねじ込むことができ、梁本体21、22に固定された第1鉄筋22、32に第1カプラ11、14をねじ込むのに比べて、第1カプラ11及び第2カプラ14をねじ込む作業の負担が軽くて済む、という利点がある。なお、後者の場合には調整鉄筋17の雄ねじ部(雄ねじ部a)は、軸方向の長さが、第1カプラ11の長さ以上に設定される。
【0026】
また、以上の実施形態は、第1鉄筋22と調整鉄筋17を接合し、次いで、第2鉄筋32と調整鉄筋17を接合する、という手順としたが、この逆、つまり、第2鉄筋32と調整鉄筋17を接合し、次いで、第1鉄筋22と調整鉄筋17を接合する、という手順でもよい。ただし、前者の場合には、第1鉄筋22と調整鉄筋17が小さいピッチP1を介して第1カプラ11に螺合されていることから、調整鉄筋17を回して第2鉄筋32とねじピッチの位相を合わせる際に微調整できる利点ある。
【0027】
[第2実施形態]
第1実施形態は梁20と梁30を接合する例について説明したが、本発明は柱を介して一対の梁を接合するのにも適用できる。第2実施形態は、その一例について説明する。
第2実施形態は、図4、図5に示すように、梁20と梁30の間にプレキャストされた柱40が介在している。なお、梁20、梁30は、第1実施形態と同様の構成を有しているものとする。
柱40には、鉄筋通し孔41がプレキャスト時に形成されている。鉄筋通し孔41は、接合される梁20の第1鉄筋22、梁30の第2鉄筋32に対応する位置、数だけ設けられている。鉄筋通し孔41は、梁20が配置される側の第1接合面42と梁30が配置される側の第2接合面43の間を貫通している。鉄筋通し孔41には、鉄筋接合構造10の調整鉄筋17が挿通される。そして、第1鉄筋22、第2鉄筋32との接合のために調整鉄筋17が回転できるように、鉄筋通し孔41の開口径が定められる。なお、鉄筋通し孔41にはシース管を挿入してもよい。
【0028】
調整鉄筋17は、鉄筋通し孔41を介して、柱40を貫通し、一方端は梁20が接合される側に張り出しており、他方端は梁30が接合される側に張り出している。
一方端において、調整鉄筋17は、第1カプラ11により、梁20の第1鉄筋22と接合されている。また、他方端において、調整鉄筋17は、第2カプラ14により、梁30の第2鉄筋32と接合されている。つまり、対応する第1鉄筋22と第2鉄筋32は、第1カプラ11、調整鉄筋17及び第2カプラ14を介して接合されている。そして、2つの第1カプラ11、14は、各々、梁20と柱40の間、梁30と柱40の間に振り分けられている。換言すると、梁20と柱40の間の接合部、梁30と柱40の間の接合部には、各々、カプラ(11,14)を一つだけ設ければよいので、コンパクトな接合構造を実現できる。
【0029】
上記実施の形態では、梁20と梁30の接合、柱40を介した梁20と梁30の接合を例に本発明を説明したが、本発明はこれに限定されずに、例えば、図6に示すように、鉄筋52が固定されたコンクリート製の柱本体51からなる柱50と、梁20と、を接合するのに適用できる。
また、鉄筋(第1鉄筋,第2鉄筋)、調整鉄筋及びカプラ(第1カプラ,第2カプラ)などの鉄筋接合構造に用いられる部材は、鉄筋接合構造に求められる強度を担保するように、使用する材料、寸法などの仕様が設定されることは言うまでもない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 鉄筋接合構造
11 第1カプラ
12 カプラ本体
13 雌ねじ部
14 第2カプラ
15 カプラ本体
16 雌ねじ部
17 調整鉄筋
18,19 雄ねじ部
20,30 梁
21 梁本体
22 第1鉄筋
23 雄ねじ部
31 梁本体
32 第2鉄筋
33 雄ねじ部
40 柱
41 鉄筋通し孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合端部にピッチP1の雄ねじ部aが形成された第1鉄筋と、
前記第1鉄筋と同軸上に配置され、接合端部にピッチP2(P2≠P1)の雄ねじ部bが形成された第2鉄筋と、
前記第1鉄筋と対向する端部に前記ピッチP1の雄ねじ部Aと、前記第2鉄筋と対向する端部に前記ピッチP2の雄ねじ部Bと、が形成され、前記第1鉄筋と前記第2鉄筋の間に配置された調整鉄筋と、
前記ピッチP1の雌ねじ部αを有し、前記雄ねじ部aと前記雄ねじ部Aに前記雌ねじ部αが螺合されることで、前記第1鉄筋と前記調整鉄筋を接合する第1カプラと、
前記ピッチP2の雌ねじ部βを有し、前記雄ねじ部bと前記雄ねじ部Bに前記雌ねじ部βが螺合されることで、前記第2鉄筋と前記調整鉄筋を接合する第2カプラと、
を備えることを特徴とする鉄筋接合構造。
【請求項2】
複数の前記第1鉄筋を備える第1鉄筋コンクリート梁と、複数の前記第2鉄筋を備える第2鉄筋コンクリート梁と、の間において、
対応する前記第1鉄筋と前記第2鉄筋とを接合する、
請求項1に記載の鉄筋接合構造。
【請求項3】
複数の前記第1鉄筋を備える第1鉄筋コンクリート梁と、複数の前記第2鉄筋を備える第2鉄筋コンクリート梁と、を、コンクリート柱を介して接合し、
前記調整鉄筋が、前記コンクリート柱を貫通して配置され、
前記第1鉄筋コンクリートと前記コンクリート柱の間において、前記第1鉄筋と前記調整鉄筋とを前記第1カプラが接合し、
前記第2鉄筋コンクリートと前記コンクリート柱の間において、前記第2鉄筋と前記調整鉄筋とを前記第2カプラが接合する、
請求項1に記載の鉄筋接合構造。
【請求項4】
接合端部にピッチP1の雄ねじ部aが形成された第1鉄筋と、
前記第1鉄筋と同軸上に配置され、接合端部にピッチP2の雄ねじ部bが形成された第2鉄筋と、を接合する方法であって、
前記第1鉄筋と対向する端部に前記ピッチP1の雄ねじ部Aと、前記第2鉄筋と対向する端部に前記ピッチP2の雄ねじ部Bと、が形成された調整鉄筋を前記第1鉄筋と前記第2鉄筋の間に配置するステップ(a)と、
前記ピッチP1の雌ねじ部αを有し、前記雄ねじ部aと前記雄ねじ部Aに前記雌ねじ部αが螺合される第1カプラにより、前記第1鉄筋と前記調整鉄筋を接合するステップ(b)と、
前記ピッチP2の雌ねじ部βを有し、前記雄ねじ部bと前記雄ねじ部Bに前記雌ねじ部βが螺合される第2カプラにより、前記第2鉄筋と前記調整鉄筋を接合するステップ(c)と、
前記第1鉄筋、前記調整鉄筋それぞれに対する前記第1カプラのねじ込み量、および前記第1鉄筋、前記調整鉄筋それぞれに対する前記第2カプラのねじ込み量を調整するステップ(d)と、
を備えることを特徴とする鉄筋接合方法。
【請求項5】
複数の前記第1鉄筋を備える第1鉄筋コンクリート梁と、複数の前記第2鉄筋を備える第2鉄筋コンクリート梁と、の間において、
対応する前記第1鉄筋と前記第2鉄筋とを接合する、
請求項4に記載の鉄筋接合方法。
【請求項6】
複数の前記第1鉄筋を備える第1鉄筋コンクリート梁と、複数の前記第2鉄筋を備える第2鉄筋コンクリート梁と、を、コンクリート柱を介して接合し、
前記調整鉄筋が、前記コンクリートを貫通して配置され、
前記第1鉄筋コンクリートと前記コンクリート柱の間において、前記第1鉄筋と前記調整鉄筋とを前記第1カプラが接合し、
前記第2鉄筋コンクリートと前記コンクリート柱の間において、前記第2鉄筋と前記調整鉄筋とを前記第2カプラが接合する、
請求項4に記載の鉄筋接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112994(P2013−112994A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259997(P2011−259997)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】