説明

鉄筋継手

【課題】施工効率の改善が図れる鉄筋継手を提供する。
【解決手段】内周に雌ねじ6が形成された略筒状のカプラー1に、ねじ節鉄筋2a、2bが螺合挿入されている。また、カプラー1中央部に設けられた注入孔4より、カプラー1とねじ節鉄筋2a、2bの間隙にはグラウト材3が充填されている。グラウト材3には膨張材が混入されており、グラウト材3の膨張による体積歪が2000μ以上となるように膨張材の混入量が調節されている。また、グラウト材3の圧縮強度を高めるために、グラウト材3の水結合材比は15質量%以上22質量%以下の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋継手に関し、特に、鉄筋の機械式継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋継手として、2本のねじ節鉄筋をカプラーで連結し、前記2本の鉄筋にそれぞれ螺合された一対のロックナットを前記カプラーの両端面に向かって締め付ける機械式継手が用いられることがある。しかし、このような機械式継手では、施工に非常に手間がかかる、ロックナット締め付け用の工具が何セットも必要となる、締め付けた後にロックナットが緩むことがある、といった問題がある。そのため、特許文献1では、軸方向の両端部にねじ穴が設けられるとともに内周面に突条部を有するスリーブに、2本の異形鉄筋を挿入し、前記スリーブのねじ穴に螺合するボルトによって前記2本の異形鉄筋を前記突条部に押し付けた状態で、前記スリーブ内にグラウト材を充填する鉄筋継手が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002―256655号公報(第2−3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の鉄筋継手は、カプラーによる鉄筋継手と比較して、形状が太くて長くなるため、鉄筋が高密度で配筋される部位において使用しづらい問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、施工効率の改善が図れる鉄筋継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋継手では、内周に雌ねじが形成された略筒状のカプラー両端からそれぞれねじ節鉄筋を挿入し、前記カプラーの雌ねじとねじ節鉄筋の雄ねじとの間の螺合部の空隙にグラウト材を充填することにより、ロックナットを用いることなく前記ねじ節鉄筋を接合する鉄筋継手であって、前記グラウト材に膨張材を混入し、前記螺合部の空隙への前記グラウト材充填後1週目における弾性域正負繰り返し試験での20回目加力時の接合鉄筋の割線剛性を1回目の加力時の接合鉄筋の割線剛性で除した値が0.5より高く、しかも、20回目の加力時の接合鉄筋のすべり変形量が0.3mm以下となるように、前記グラウト材の膨張による一軸拘束下での体積歪を、前記カプラー内にケミカルプレストレスが導入可能な2000μ以上とすることを特徴とする。
【0007】
ここで、体積歪は、体積の変化量を元の体積で除した値であり、μは、10−6を意味する。
グラウト材に膨張材を混入することにより、鉄筋とカプラーとの間の非常に狭い空隙内でグラウト材を膨張させ、グラウト材の膨張による体積歪が2000μ以上になると、グラウト材の膨張がカプラーに抑制されて、カプラー内にケミカルプレストレスが導入され、鉄筋継手の力学的性能が向上するものである。特に、鉄筋とカプラーとの遊びがなくなるため、初期歪を小さくすることができる。
本発明によれば、カプラー両端のロックナットを必要としないため、施工効率の改善が図れる鉄筋継手を実現することができる。
【0008】
また、本発明では、前記グラウト材の水結合材比を15質量%以上22質量%以下とすることが好ましい。
ここで、水結合材比は、グラウト材に含まれる水の質量をセメントを含む結合材の質量で除した値である。
【0009】
鉄筋継手の力学的性能とグラウト材の圧縮強度には相関があり、グラウト材の圧縮強度が大きくなるほど鉄筋継手の引張り強度は大きくなる。また、グラウト材の圧縮強度は水結合材比を小さくするほど大きくなる。本発明においては、グラウト材の圧縮強度を100N/mm程度以上とする必要がある。そのため、後述する実験結果に基づき、水結合材比を22質量%以下とする。一方、水結合材比を小さくしすぎるとグラウト材の充填性が悪くなるため、後述する実験結果に基づき、15質量%以上とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係る鉄筋継手によれば、カプラー両端のロックナットを必要としないため、施工効率の改善が図れる鉄筋継手を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る鉄筋継手の実施形態の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る鉄筋継手の実施形態の一例を示すものである。
この図に示すように、本実施形態による鉄筋継手では、内周に雌ねじ6が形成された略筒状のカプラー1に、ねじ節鉄筋2a、2bが螺合挿入されている。また、カプラー1中央部に設けられた注入孔4より、カプラー1とねじ節鉄筋2a、2bの間隙にはグラウト材3が充填されている。なお、グラウト材3をカプラー1の注入孔4から注入する際、カプラー1とねじ節鉄筋2a、2bの間隙から空気が抜けるため、空気抜き用の孔は特に必要としない。
グラウト材3には膨張材が混入されており、グラウト材3の膨張による体積歪が2000μ以上となるように膨張材の混入量が調節されている。また、グラウト材3の圧縮強度を高めるために、グラウト材3の水結合材比は15質量%以上22質量%以下の範囲にある。
【0013】
本実施形態による鉄筋継手では、カプラー1内周に形成された雌ねじ6と、ねじ節鉄筋2a、2b外周の雄ねじ5とが螺合されることにより、ねじ節鉄筋2a、2bの引き抜きに対して抵抗するうえ、グラウト材3の高強度化および膨張材の使用によりカプラー1内に導入されるケミカルプレストレスによって鉄筋継手の力学的性能をさらに向上させることができる。特に、ねじ節鉄筋2a、2bとカプラー1との遊びがなくなるため、初期歪を小さくすることができる。
【実施例】
【0014】
グラウト材として2種類のセメントを用い、膨張材を混入しない場合について、現場で練混ぜが行える範囲で水結合材比をできるだけ小さくして試験練りを行ったときの水結合材比および材齢28日における圧縮強度を表1に示す。セメント1の場合では、水結合材比22%程度が最小限度であり、そのときのグラウト材の圧縮強度は142N/mm程度であった。また、セメント2の場合では、水結合材比16%程度が最小限度であり、そのときのグラウト材の圧縮強度は115N/mm程度であった。いずれも従来のグラウト材の圧縮強度70N/mmを大きく上回る結果が得られた。
【0015】
【表1】

【0016】
次に、セメント1に膨張材を混入したグラウト材を用いた鉄筋継手について、建設省住指発第31号(平成3年1月31日)[別添の1の1]鉄筋継手性能判定基準に示す弾性域正負繰返し試験を実施した結果を表2に示す。表2中、A級継手規格とは、強度と剛性に関してはほぼ母材並みであるが、その他に関しては母材よりもやや劣る継手をいう。また、剛性低下率は、20回目の加力時における接合鉄筋の割線剛性を1回目の加力時における接合鉄筋の割線剛性で除した値であり、すべり量は、20回目の加力時における接合鉄筋のすべり変形である。なお、この際の割線剛性は、母材の規格降伏点の0.95倍の応力における接合鉄筋の割線剛性である。
その結果、1週目において、膨張材を混入しない場合にはA級継手規格を満足しなかったが、膨張材を5%以上混入した場合にはA級継手規格を満足する結果が得られた。なお、セメント量に対して膨張材を5%程度混入すると、材齢28日において、グラウト材の体積歪は5×10μから1×10μ程度となる測定結果が得られている。
【0017】
【表2】

【符号の説明】
【0018】
1…カプラー
2a、2b…ねじ節鉄筋
3…グラウト材
4…注入孔
5…雄ねじ
6…雌ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に雌ねじが形成された略筒状のカプラー両端からそれぞれねじ節鉄筋を挿入し、前記カプラーの雌ねじとねじ節鉄筋の雄ねじとの間の螺合部の空隙にグラウト材を充填することにより、ロックナットを用いることなく前記ねじ節鉄筋を接合する鉄筋継手であって、
前記グラウト材に膨張材を混入し、前記螺合部の空隙への前記グラウト材充填後1週目における弾性域正負繰り返し試験での20回目加力時の接合鉄筋の割線剛性を1回目の加力時の接合鉄筋の割線剛性で除した値が0.5より高く、しかも、20回目の加力時の接合鉄筋のすべり変形量が0.3mm以下となるように、前記グラウト材の膨張による一軸拘束下での体積歪を、前記カプラー内にケミカルプレストレスが導入可能な2000μ以上とすることを特徴とする鉄筋継手。
【請求項2】
前記グラウト材の水結合材比を15質量%以上22質量%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋継手。

【図1】
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【公開番号】特開2009−287387(P2009−287387A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190487(P2009−190487)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【分割の表示】特願2003−195234(P2003−195234)の分割
【原出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(391037803)株式会社伊藤製鐵所 (1)
【出願人】(390005186)日本スプライススリーブ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】