説明

鉄道車両構体

【課題】 側構体と屋根構体との接合部分にできる段差や樋をホームに立った乗客から見えないようにした鉄道車両構体を提供すること。
【解決手段】 側構体1、屋根構体2、妻構及び台枠を接合することによりなるものであって、側構体1は、その上部が湾曲して屋根構体2側に延び、その端部11aが低い位置にある屋根構体2の端部と接続板41によって接合され、その接続板41によってできた車体長手方向に連続する側構体1と屋根構体2との段差が樋42を構成する鉄道車両構体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根構体や側構体などを接合することにより組み立ててなる鉄道車両構体に関し、特に屋根構体と側構体との接合部における段差をなくした鉄道車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、側構体が台枠の長手方向に沿って左右両側に接合され、その前後には妻構体が、そして上部には屋根構体が接合された鉄道車両構体から構成されている。そうした鉄道車両構体に関しては、その一例として本出願人が提案した特開2003−191842号公報に開示されたものを挙げることができる。これはステンレス製構体の車両であって、側構体ブロックなどのパーツを接合して組み合わせる構造の鉄道車両構体である。図8は、同公報に開示された鉄道車両構体の側面図である。
【0003】
鉄道車両構体100は、側構体101の上部に屋根構体102が接合され、側構体101の下部が台枠103に接合されている。そうした鉄道車両構体を構成する同公報に記載された一車両分の側構体101は、2組の車端窓ブロック111と3組の中間窓ブロック112、そして各窓ブロック111,112の間に位置する4組の側入口ブロック113を接合して構成されている。各ブロック111〜113は、骨組みに側外板が貼られて作成されている。そして、各ブロック111〜113が接合してできた側構体101には上部に屋根構体102が載せられて接合されている。図9は、その側構体101と屋根構体102との接合部分を示した断面図である。
【0004】
屋根構体102は、屋根外板121の下面に車体幅方向に延びた垂木122が複数設けられている。その屋根外板121は、車体幅方向中央部分が波形に形成され、幅方向両端の角部にかけては垂木122と離れるように外形形状が形成され、そこには凹形状の樋123が車体長手方向の全長にわたって形成されている。そうした屋根構体102は、垂木122の端部が長桁125に接合され、その長桁125に側構体101の柱127が接合されている。このとき屋根外板121は、樋123の外側が湾曲して下向きに下がり、端部124が垂直になって側構体101の側外板128に対して外側から重ねられる。そして、その外板同士が重なり合った部分がスポット溶接によって接合される。
【特許文献1】特開2003−191842号公報(第2−3頁、図2)
【特許文献2】特開平5−4579号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の鉄道車両構体は、前述したように屋根構体102の屋根外板121が側構体101の側外板128に外側から重ねられて接合していたため、その部分に段差ができてしまい、外観を損なって見栄えが良くなかった。
一方、前記特許文献2には、屋根構体と側構体の接合部に図10に示すような樋を構成したものが開示されている。具体的には、屋根構体201の屋根外板211が、幅方向の端部を上方に折り曲げて樋212が形成され、側構体202の側外板213が樋212を構成する屋根外板の折り曲げ部分に外側から重ねて接合されている。従って、こうした鉄道車両構体では屋根外板211と側外板213との段差が側構体202の側面に現れないが、樋212bの存在がホームに立った乗客からも良く確認でき、その点で見栄えが良くなかった。
【0006】
また、屋根外板121と側外板128の重なり部分をスポット溶接にて接合する場合、その接合部には更にシール材を用いた水密処理が必要であった。しかし、その接合部におけるシール材は、経年劣化によって取り替える必要が生じたり、洗車に使用する洗剤との相性が悪い場合にはシールを劣化させてしまい、そのための取り替えも必要であった。従って、従来の鉄道車両構体は、側構体101と屋根構体102との間のシール材に関するメンテナンスが面倒であった。
【0007】
そこで本発明は、かかる課題を解決すべく、側構体と屋根構体との接合部分にできる段差や樋をホームに立った乗客から見えないようにした鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鉄道車両構体は、側構体、屋根構体、妻構及び台枠を接合することによりなるものであって、前記側構体は、その上部が湾曲して前記屋根構体側に延び、その端部が低い位置にある前記屋根構体の端部と接続板によって接合され、その接続板によってできた車体長手方向に連続する側構体と屋根構体との段差が樋を構成するものであることを特徴とする。
また、本発明に係る鉄道車両構体は、前記側構体および屋根構体と接続板とがMIG溶接又はTIG溶接によって連続的に溶接されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両構体は、前記側構体および屋根構体と接続板とがレーザ溶接にて連続的に溶接されたものであることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る鉄道車両構体は、前記側構体が窓開口部を備える窓ブロックと入口開口部を備える側入口ブロックとが接合されたものであって、各ブロックを構成する外板が湾曲して前記屋根構体側に延び、前記接合板を介して前記屋根構体に接合されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両構体は、各ブロックを構成する外板の車体内側には、その曲面に沿って設けられた継ぎ手部材が設けられ、前記接続板はその継ぎ手部材によって位置決めされるようにして接合されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明の鉄道車両構体によれば、側構体が屋根構体側に湾曲して延びており、側構体端部がホームに立った乗客から見ることのできない位置にある。そして、側構体がその位置で屋根構体と接続板を介して接合されているため、その接合部分を見ることができず、更にはその接続板によってできた樋も乗客からは確認できなくなって見栄えが良くなる。
また、側構体と屋根構体側との接合部分が乗客からは見えない位置にあるため、その部分をMIG溶接又はTIG溶接によって連続的に溶接しても、そこにできるビードを後処理する必要もないため加工が簡単になる。
また、こうしたMIG溶接やTIG溶接、更にはレーザ溶接などによって連続的に溶接することによって接合部の水密性を確保することができ、スポット溶接の場合に必要であったシール材を不要とし、シール材を交換するためのメンテナンスが必要なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係る鉄道車両構体の一実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態の鉄道車両構体は、図7を示して説明した従来例のものと同様に、側構体の上部には屋根構体が、側構体の下部には台枠が接合されたものであり、更に前後には妻構が接合されている。そして、その側構体は、車端や中間の窓ブロックの間に配置された側入口ブロックが接合され一体になるものである。
【0012】
図1及び図2は、そうした側構体を構成する中間窓ブロックと側入口ブロックとが分離した状態を示した斜視図であって、特に図1には車体外側から見た図を示し、図2には車体内側から見た図を示している。また図3は、中間窓ブロックの両端に側入口ブロックを接合した状態を車内側から示した斜視図である。図1及び図2は、側入口ブロック20の全体を示し中間窓ブロック10の半分が示されている。一方、図3は、中間窓ブロック10の全体を示し、その両側に接合された側入口ブロック20の半分が示されている。
【0013】
中間窓ブロック10は、幕板や腰板を含む外板11に骨部材を接合して作成されたものである。骨部材は、例えば図3のA−A断面を表した図4に示すように、断面がハット形の骨部材12などが外板11裏面に縦横に接合されている。具体的には、外板11に形成された窓開口部19の左右縦2辺に沿って2本の側柱12が、そして外板11の左右両端部に位置する各2本ずつの側柱12の合計6本が側構体の高さに合わせて形成されている。一方、窓開口部19の上下横2辺には幕帯部材13と腰帯部材14とが形成されている。そして、その窓開口部19の上下には幕骨15が縦方向に形成され、縦方向の各骨部材12,15の間には横向きに複数の補強骨16が接合されている。更に外板11の下端部分には、その底辺に沿って太い長土台部材17が接合されている。
【0014】
側入口ブロック20は、入口枠21をメインにして構成されている。その入口枠21は、入口開口部29を形成するものであって左右の縦フレーム部22と、入口開口部29下方の腰板部23と、上方の幕板部24とから構成されている。特に幕板部24は櫛歯状に形成され、縦フレーム部22から延長した2本の櫛歯板24aと、その間に2本の櫛歯板24bとの計4本がある。そして、こうした櫛歯板24a,24bを含む膜板部24の表面に外板25が貼り付けられている。櫛歯板24a,24bの間にはそれぞれ断面ハット形の補強骨26が外板25内側に接合され、入口開口部29下の腰板部23には、その底辺に沿って太い長土台部材27が設けられている。
【0015】
側入口ブロック20を構成する入口枠21は、縦フレーム部22の左右両側の辺が起立した立ち上がり21a,21bが形成されている。ここで図5は、図3のB−B断面を示した図である。入口枠21の縦フレーム部22は、左右の立ち上がり21a,21bによって断面がコの字形に形成されている。そして、内側の立ち上がり21aは、入口開口部29の形状に沿って環状に形成され、外側の立ち上がり21bは、櫛歯板24a上方の曲線部を除く直線部にまで形成されている。
入口開口部29の上下には、その立ち上がり21aに連結され補強材を形成する補強骨31,32が接合され、特に補強骨32は、櫛歯板24a,24bに沿って延びた櫛歯形状になっている。
【0016】
ところで、本実施形態の鉄道車両構体では、図1及び図2を見て分かるように、その側構体上部が不図示の屋根構体側にまで延びて湾曲している。従って、中間窓ブロック10や側入口ブロック20は、同じように外板11,25が上方において湾曲形状を有している。そして、中間窓ブロック10では、側柱12や幕骨15の延長上に外板11の湾曲形状に沿った継ぎ手部材35が設けられ、側入口ブロック20では、補強骨32の櫛歯板24a,24bに沿った櫛歯部分に、外板25の湾曲形状に沿った継ぎ手部材36が設けられている。そして、その曲面部分には長手方向に断面ハット形状の補強材37,38が継ぎ手部材35,36をそれぞれつなぐように設けられている。
【0017】
ここで図6は、側構体上部すなわち外板上部の湾曲部分を示した断面図である。外板11(外板25も同じ)は、図示するように上部が湾曲し、その先の平面部11aに接続板41が接合されている。この接続板41は、一車両分の長さの長尺な板材であって、幅方向の両端は逆向きに折れ曲がって折端41a,41bが形成されている。そして、この接続板41は、車端や中間の窓ブロック及び側入口ブロックが互いに接合してできた側構体と、屋根構体との連結に使用される。
【0018】
このとき一方の折端41aは、外板11上端の平面部11aに下から接合され、他方の折端41bには屋根側接続板43の端部が載せられて接合される。従って、側構体1と屋根構体2との接続部分は、湾曲した側構体先端よりも屋根構体端部が低い位置になるように段差が形成される。本実施形態の鉄道車両構体では、こうして接続板41の段差面41cによって形成された段差が屋根に降った雨がホームに居る乗客にかからないように水を集めて通す樋42となる。この樋42は、車体上部の湾曲部の先にあって、ホームなどから乗客が車両を見た場合でもその存在が分からない位置にある。
【0019】
次に図7は、側構体1と屋根構体2との連結部分について詳細な構造を示した断面図であり、特に継ぎ手部材35の箇所を示したものである。側構体1では外板11の湾曲面内側に継ぎ手部材35が設けられ、その継ぎ手部材35下方には側柱12などが縦方向に設けられている。接続板41は、その段差面41cが継ぎ手部材35に当てられるようにして位置決めされている。継ぎ手部材35は、図2にも示すように顎部35aが突き出され、その顎部35aに沿って接続板41の折端41bが配置されている。そして、折端41bに接合された屋根側接続板43と留め金具44との間には、先端を入れるようにして垂木45が設けられ、車体幅方向中央部分が波形に形成された屋根外板46が屋根側接続板43に接合され、垂木45の上に配置されている。
【0020】
以上のようにして構成される鉄道車両構体を構成する各部は、次のようにして接合される。先ず、中間窓ブロック10と側入口ブロック20とは、外板11の車体内側面に対して入口枠21は左右の縦側辺が上下にわたって当てられ、車体外側からレーザによる連続溶接が行われる。
また、中間窓ブロック10は、外板11が幕板部を含む上部外板11Aと、腰板部を含む下部外板11Bとから構成されており、特に窓開口部19の高さで上下に分割されている。そのため、上部外板11Aと下部外板11Bは、互いが上下に突き当てられ、窓開口部10の高さで現れた接合線18がレーザによる連続溶接によって接合される。
【0021】
そして、側構体1と屋根構体2との接合は、接続板41とその折端41a,41bに重ねられた外板11や屋根側接続板43とが溶接接続される。具体的には、図6に示す外板11先端と接続板41との隅部p1と、屋根側接続板43先端と接続板41との隅部p2とが連続溶接される。ここでは、前述した入口枠21や外板11のようにレーザを使用しれ連続溶接する他、仕上がりが乗客から見える位置にないのでビードの後処理が不要なことからMIG溶接やTIG溶接によって連続的に接合するようにしてもよい。また、この他の接合部についても適宜レーザ溶接などの接合が行われる。
【0022】
よって、本実施形態の鉄道車両構体によれば、側構体1が屋根構体2側に湾曲して延びており、側構体1端部がホームに立った乗客から見ることのできない位置にある。そして、側構体1がその位置で屋根構体2と接続板35を介して接合されているため、その接合部分を見ることができず、更にはその接続板35によってできた樋36も乗客からは確認できないため見栄えが良くなる。また、側構体1と屋根構体2との接合部分が乗客からは見えない位置にあるため、その部分をMIG溶接又はTIG溶接によって連続的に溶接しても、そこにできるビードを後処理する必要もないため加工が簡単になる。
更に、こうしたMIG溶接やTIG溶接、更にはレーザ溶接などによって連続的に溶接することによって接合部の水密性を確保することができ、スポット溶接の場合に必要であったシール材を不要とし、シール材を交換するためのメンテナンスが必要なくなる。
【0023】
以上、本発明に係る鉄道車両構体の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなくその趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
前記実施形態では、側構体1を中間窓ブロック10や側入口ブロック20からなるものを示して説明したが、この他に押出し中空型材で構成するようなものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態の鉄道車両構体を構成する側構体の中間窓ブロックと側入口ブロックについて分離した状態を車体外側から示した斜視図である。
【図2】実施形態の鉄道車両構体を構成する側構体の中間窓ブロックと側入口ブロックについて分離した状態を車体内側から示した斜視図である。
【図3】実施形態の鉄道車両構体を構成する側構体の一部であって、中間窓ブロックの両端に側入口ブロックを接合し状態を車内側から示した斜視図である。
【図4】図3のA−A断面を示した図である。
【図5】図3のB−B断面を示した図である。
【図6】側構体上部に当たる外板上部の湾曲部分を示した断面図である。
【図7】側構体と屋根構体との連結部分について詳細な構造を示した断面図である。
【図8】従来の鉄道車両構体を示した側面図である。
【図9】従来の側構体と屋根構体との接合部分を示した断面図である。
【図10】従来の屋根構体と側構体との接合部に設けられた樋の構成した図である。
【符号の説明】
【0025】
1 側構体
2 屋根構体
10 中間窓ブロック
11 外板
12 側柱
13 幕帯部材
14 腰帯部材
19 窓開口部
20 側入口ブロック
21 入口枠
22 縦フレーム部
23 腰板部
24 幕板部
25 外板
29 入口開口部
21a,21b 立ち上がり
41 接続板
42 樋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側構体、屋根構体、妻構及び台枠を接合することによりなる鉄道車両構体において、
前記側構体は、その上部が湾曲して前記屋根構体側に延び、その端部が低い位置にある前記屋根構体の端部と接続板によって接合され、その接続板によってできた車体長手方向に連続する側構体と屋根構体との段差が樋を構成するものであることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両構体において、
前記側構体および屋根構体と接続板とがMIG溶接又はTIG溶接によって連続的に溶接されたものであることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項3】
請求項1に記載する鉄道車両構体において、
前記側構体および屋根構体と接続板とがレーザ溶接にて連続的に溶接されたものであることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する鉄道車両構体において、
前記側構体は、窓開口部を備える窓ブロックと入口開口部を備える側入口ブロックとが接合されたものであって、各ブロックを構成する外板が湾曲して前記屋根構体側に延び、前記接合板を介して前記屋根構体に接合されたものであることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項5】
請求項4に記載する鉄道車両構体において、
各ブロックを構成する外板の車体内側には、その曲面に沿って設けられた継ぎ手部材が設けられ、前記接続板はその継ぎ手部材によって位置決めされるようにして接合されたものであることを特徴とする鉄道車両構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−50850(P2007−50850A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238878(P2005−238878)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】