説明

鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置

【課題】非常通報時の客室状況の適正な把握を容易にする。
【解決手段】鉄道車両の客室に設置され、非常通報ボタン、客室マイク、客室スピーカ、客室内を撮影する第1のカメラを含むカメラ付き非常通報器と、客室内を撮影する第2のカメラと、非常通報器と音声回線を介して接続され、乗務員室マイク及び乗務員室スピーカとを含む非常通報受報器と、乗務員室に設置され第1及び第2のカメラで撮影された映像を表示する表示器とを備え、非常通報ボタンが客室内の通報者によりオンにされた場合に、非常通報器及び非常通報受報器は客室及び乗務員室間で音声回線を介して双方向に通話可能な状態となり、第1のカメラが通報者を撮影する一方、第2のカメラが客室内全体を撮影し、第1及び第2のカメラによる映像が映像用回線を介して表示器に伝達され、表示器が、第1及び第2のカメラからの映像の少なくとも一方を表示する鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の客室で発生した非常事態を乗務員室の乗務員に連絡する鉄道車両用の非常通報装置に関し、特に、鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客からの操作により非常事態発生を乗務員に知らせる非常通報装置と運転情報である運転番号・号車番号・地点情報・駅間情報等の運転情報車両データを設定する車両情報設定器とを備えた鉄道車両に、カメラと画像制御器とを設備しかつ前記鉄道車両の乗務員室に操作表示部付画像伝送装置を設備して、前記画像制御器と前記操作表示部付画像伝送装置間とを2芯シールド線1本で接続される鉄道車両の客室内監視システムにおいて、乗客からの操作により非常事態発生を乗務員に知らせる非常通報又は扉開閉異常などが複数の車両から同時に発せられた場合に1両毎に配設されている2個の発生車両のカメラ映像を画像制御器から2芯シールド線を経由して、車両情報設定器からの運転情報車両データである運転番号・号車番号・地点情報・駅間情報・発生時の日付情報等とともに、5秒程度の間隔で運転台の操作表示部付画像伝送装置のモニタ画面に2画面表示にて映し出し、かつ車両情報設定器から操作表示部付画像伝送装置への当該運転情報車両データが伝送不良などで途絶えても操作表示部付画像伝送装置のモニター画像を手動扱いにより各車両からの発生車両のカメラ映像を適宜1画面・2画面・4画面等に選択表示が自在にできることを特徴とする鉄道等車両監視用の画像伝送装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−346261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1記載の技術では、非常事態の発生時に、乗客と乗務員との音声による1対1の個別通話を行うことができる。このとき、乗務員室に送られ乗務員が視認できる映像は、不特定の車内全体の映像となる。従って、乗客の音声から伝わる非常事態の状況(客室
の様子)と、映像から伝わる状況とが必ずしも一致しないおそれがあった。このため、乗
務員が非常事態の内容を十分に把握して的確な判断を行うために、非常通報時に乗務員がより好ましい映像情報を得ることが望まれていた。
【0004】
本発明の目的は、鉄道車両における非常通報時において、乗務員が非常通報の内容を適正に把握可能な映像を入手し得るカメラ付き非常通報装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記した目的を達成するために以下の構成を採用する。
【0006】
すなわち、本発明は、鉄道車両の客室に設置され、非常通報を入力するための非常通報入力手段と、客室音声を入力する客室マイクと、乗務員室からの音声を出力する客室スピーカと、前記客室内を撮影する第1のカメラとを含むカメラ付き非常通報器と、
前記客室内を撮影する第2のカメラと、
前記カメラ付き非常通報器と音声回線を介して接続され、乗務員室音声を入力する乗務員室マイクと、前記音声回線を介して受信された客室音声を出力する乗務員室スピーカとを含む非常通報受報器と、
前記乗務員室に設置され、前記第1及び第2のカメラで撮影された映像が映像用回線を介して接続され、前記第1及び第2のカメラで撮影された映像を表示する表示器とを備え、
非常通報が前記非常通報入力手段から入力された場合に、前記カメラ付き非常通報器及び前記非常通報受報器は、客室と乗務員室との間で前記音声回線を介して双方向に通話可能な状態となるとともに、前記第1のカメラが通報者を撮影する一方、前記第2のカメラが前記客室内全体を撮影し、前記第1及び第2のカメラによる映像が前記映像用回線を介して前記表示器に伝達され、前記表示器が、前記第1及び第2のカメラからの映像の少なくとも一方を表示することを特徴とする鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置である。
【0007】
表示器は、第1及び第2のカメラからの映像の一方を選択的に表示、又はこれらの映像の双方を並列に表示することができる。
【0008】
本発明において、例えば、前記カメラ付き非常通報器は、前記客室に少なくとも2つ設置され、少なくとも2つのカメラ付き非常通報器の一方の非常通報入力手段から非常通報が入力された場合に、この非常通報が入力されたカメラ付き非常通報器が備える第1のカメラが通報者を撮影し、残りのカメラ付き非常通報器が備える第1のカメラが前記第2のカメラとして前記客室内全体を撮影するように構成することができる。
【0009】
また、本発明は、前記第1及び第2のカメラの撮影方向を調整する調整手段をさらに含み、
前記調整手段は、前記客室内の通報者により前記カメラ付き非常通報器の一方の非常通報入力手段から非常通報が入力された場合に、前記第1のカメラを通報者に向けるとともに、前記第2のカメラを前記客室全体を見渡す方向に向けるように構成することができる。
【0010】
また、本発明は、前記第1及び第2のカメラは、前記客室を平面視したときの該客室の中心点を対称の中心とする点対称に設置されるように構成することができる。
【0011】
また、本発明において、前記カメラ付き非常通報器及び前記非常通報受報器は、音声信号を通過させて映像信号を遮断する第1のフィルタ回路を介して前記音声回線に接続され、前記第1及び第2のカメラ並びに前記表示器は、映像信号を通過させて音声信号を遮断する第2フィルタ回路を介して前記音声信号に接続され、前記音声回線が前記第1及び第2のカメラからの映像信号を前記表示器へ伝送する前記映像用回線として機能するように構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉄道車両における非常通報時において、乗務員が非常通報の内容を適正に把握可能な映像を入手し得るカメラ付き非常通報装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0014】
〈カメラ付き非常通報装置の構成〉
図1は、鉄道車両用の非常通報器にカメラを組み込んだ、本発明の実施形態の一例を示すカメラ付き非常通報装置の構成例を示す図である。図1に示す鉄道車両の例では、先頭車両と中間車両とを含み、先頭車両は、乗務員室と客室とを含み、中間車両は客室を含んでいる。このような鉄道車両に、カメラ付き非常通報装置が搭載されている。
【0015】
カメラ付き非常通報装置は、各客室に設置されたカメラ付き非常通報器1A,1B(1
Aと1Bを区別しない場合には、「カメラ付き非常通報器1」と表記する)と、乗務員室
に設置される非常通報受報器2と、非常通報受報器2に組み込まれた映像表示器(ディス
プレイ)5とで構成される。乗務員室には、さらに、モニタ設定器3と、モニタ制御器4
とが設置されている。
【0016】
カメラ付き非常通報器1は、各客室に対して少なくとも1台設置される。但し、2台以上を設置するのが好ましい。図1に示す例では、各客室に対し、2台のカメラ付き非常通報器1A及び1Bが設置されている。1つの客室に対して、カメラ付き非常通報器1を複数台設置することで、1つの客室に2台以上のカメラが設置されるようにすることができる。
【0017】
複数のカメラ付き非常通報器1は、同じ構成を有することができる。図1に示す中間車両のカメラ付き非常通報器1Aを例にすると、カメラ付き非常通報器1Aは、送話マイク11と、送話マイク11に接続された送話増幅器12と、受話増幅器13と受話スピーカ14とを備えている。送話増幅器12は通報送話回線6に接続され、受話増幅器13は、通報受話回線7に接続されている。通報送話回線6及び通報受話回線7で、非常通話音声回線が構成される。
【0018】
さらに、カメラ付き非常通報器1は、非常通報入力手段としての通報押しボタン(非常
通報スイッチ)15と、通報押しボタン15の状態(オン/オフ)を検知し、通報押しボタ
ン15がオンされたとき(非常通報が入力されたとき)に非常通報をモニタ端末器31を介してモニタ回線32に接続するともに、当該カメラ付き非常通報器1が設置された車両の車側灯9A及び9Bを点灯させる通報制御部18を備えている。車側灯9A及び9B(9
Aと9Bを区別しない場合は「車側灯9」と表記)は、通報押しボタン15の操作により
点灯し、乗務員が車両外から目視で編成車両の号車位置を確認する電灯(ランプ)である。
【0019】
さらに、カメラ付き非常通報器1は、カメラ16と、カメラ制御部17とを備えている。カメラ制御部17は、中継器51を介して映像伝送路52(映像用回線)に接続されている。映像伝送路52は、例えば光ファイバで構成される。カメラ16で撮影される映像は、カメラ制御部17にて、A/D変換によりディジタル信号に変換され、中継器51に送出される。カメラ制御部17は、カメラ16からの映像信号のA/D変換に加えて、符号化圧縮処理(例えば、MPEGのような符号化圧縮規格にしたがったフォーマット変換処
理)を行うこともできる。
【0020】
中継器51は、光信号の終端及び中継機能を備えており、カメラ制御部17からのディジタル信号(電気信号)を光信号に変換して映像伝送路(光伝送路)52に送出する。或いは、映像伝送路52から入力される光信号の中継処理(増幅処理、再生処理)を行うことができる。映像表示器5には、光信号の図示されない回線終端装置が具備されており、カメラ制御部17から映像伝送路52及び中継器51を通じて伝送されてきた光信号を終端し、光信号をディジタル信号(電気信号)に変換する。また、映像表示器5は、接続線53を介してモニタ制御器4に接続されている。
【0021】
上述したように、カメラ付き非常通報器1と非常通報受報器2とは、音声回線として機能する通報送話回線6と通報受話回線7とで接続されている。さらに、カメラ付き非常通報器1と非常通報受報器2との間を伝達される音声及び映像、並びに非常事態が発生した車両(カメラ付き非常通報器1が作動された車両)の車両号車番号及びカメラ付き非常通報器1の通報・受報・確認・保留・リセット(解除)等の各種信号制御は、モニタ回線32を介してモニタ制御器4に接続されたモニタ端末器31と通報制御部18とのやりとりを通じて行われる。
【0022】
非常通報受報器2は、送受話器(ハンドセット)21と、送話増幅器22と、受話増幅器23と、スピーカ24と受報制御部25とで構成されている。受報制御部25に接続され
たブザー(Bz)8は、乗客の通報押しボタン15の操作で鳴動する乗務員室に設備された非常呼び出しブザーである。
【0023】
映像表示器5とモニタ端末器31とに接続されるモニタ制御器4には、図示されない速度発電機からの速度(車速)及び車両の位置情報と、非常ブレーキ情報と、車両号車番号に伴う非常事態発生車両の車両号車番号・通報押しボタン情報・海/山側のドア開閉情報などの各種情報(これらは、通報制御部18からの非常通報発生を契機に、モニタ端末器3
1からモニタ制御器4に伝達される)に加え、モニタ設定器3より列車運行番号、編成車
両番号、時刻情報などが入力される。
【0024】
通報押しボタン15が押されると、これに接続された通報制御部18からモニタ端末器31に通報押しボタン15が押されたこと(非常事態発生)を示す信号が伝達され、モニタ端末器31からモニタ回線32を介して通報信号が受報制御部25に接続され、ブザー8が鳴動する。
【0025】
モニタ制御器4は、自身に入力される各種情報を、接続線53を介して映像表示器5に伝達することができ、映像表示器5は、カメラ16からの映像と並列に、又は個別に、モニタ制御器4からの各種情報を画面に表示することができる。
【0026】
〈カメラ付き非常通報装置の動作〉
次に、カメラ付き非常通報装置の動作概要を、図1を用いて説明する。図1において、乗客が乗務員に非常事態を通報する場合には、乗客はカメラ付き非常通報器1の通報押しボタン15を押す。すると、通報押しボタン15に関連づけられた通報制御部18が作動する。通報制御部18は、車側灯9A及び9Bを点灯させる。また、通報制御部18は、モニタ端末器31を介してモニタ回線32で、受報制御部25及びモニタ制御器4に、非常事態発生車両の車両号車番号と通報信号とを伝達する。非常通報受報器2では、カメラ付き非常通報器1からの通報信号が受信されると、受報制御部25がブザー8を鳴動させ、乗客から非常通報が発せられたことを乗務員に知らせる。
【0027】
乗務員(主に車掌が対応する)は、ブザー8の鳴動(乗客からの非常通報)を受け、非常通報受報器2の送受話器(ハンドセット)21を取り上げる(フックアップ)する。送受話器21のフックアップ動作により、送話増幅器22及び受話増幅器23が起動状態となる。また、非常通報受報器2の受報制御部25から非常通報を受報した旨の確認信号がモニタ回線32よりモニタ端末器31を経由して、通報押しボタン15が押されたカメラ付き非常通報器1の通報制御部18に伝達される。すると、図示されないカメラ付き非常通報器1の受報表示灯が点灯し、通報を行った乗客に非常通報が確立したことを知らせる。また、確認信号の受信を契機として、カメラ付き非常通報器1の送話増幅器12,受話増幅器13,及びカメラ制御部18が動作状態となる。
【0028】
送話増幅器12と受話増幅器13とカメラ制御部17とが動作状態になると、送話マイク11に向けて発せられた乗客の音声は、送話増幅器12で音声増幅され、通話送話回線6を経由して非常通報受報器2の受話増幅器23でさらに音声増幅されて、スピーカ24及び送受話器21の受話器から出力される。これによって、乗務員は乗客より発せられた音声(客室内音声)を聞くことができる。
【0029】
一方、非常通報受報器2の送受話器21で発せられた乗務員の音声は、送話増幅器22で音声増幅され、通報受話回線7からカメラ付き非常通報器1の受話増幅器13で更に音声増幅されて、受話スピーカ14から出力される。これにより、通報者(乗客)は、乗務員の音声を聞くことができる。このようにして、乗客と乗務員との間で、音声による同時送受話による(双方向の)連絡通話を行うことができる。
【0030】
カメラ付き非常通報器1が非常通報受報器2からの確認信号を受信するのと並列して、カメラ付き非常通報器1のカメラ制御部17も音声回路(増幅器12及び13等)とともに動作状態となる。カメラ制御部17の起動により、カメラ16で撮影される客室内の映像(例えば、カメラ付き非常通報器1に近接した乗客の映像)は、カメラ制御部17,中継器51,映像伝送路52を経由し、映像表示器5に伝送される。映像表示器5は映像を表示する。これによって、乗務員は客室内の映像を見ることができる。
【0031】
非常通報受報器2の映像表示器5で表示される乗客の映像は、モニタ設定器3とモニタ端末器31とを接続したモニタ制御器4からの入力信号によって、列車運行番号・車両号車番号・発生時刻・地点情報(列車走行位置)などの運転情報を、乗客の映像とともに表示して、音声と映像とで、現場に即したきめ細かな非常通報連絡を行うことができる。
【0032】
乗務員と乗客との間の音声及び映像による非常通報連絡の終了(終話)は、乗務員が非常通報受報器2の送受話器(ハンドセット)21をフックダウン(送受話器掛け台に送受話器
をおく操作)すると、非常通報受報器2の受報制御機25からリセット信号がモニタ端末
器31を経由して、通報押しボタン15が押されたカメラ付き非常通報器1A及び接続線33を介してカメラ付き非常通報器1Bに送られ、カメラ付き非常通報器1A及び1Bの回路及び機能が初期状態(待機状態)にリセットされる。
【0033】
〈カメラ付き非常通報器の設置例〉
図2は、客室に対するカメラ付き非常通報器の設置例を示す図である。図2(A)は、客室車両の内部(客室)に設置された2台のカメラを平面的に示し、図2(B)は、図2(A)に示した客室における各カメラの設置高さ及び撮影範囲の例を車両の側面側から見た図である。
【0034】
カメラ付き非常通報器1は、少なくとも1車両に2台以上配置されるのが好ましい。図1及び図2に示す例では、2つのカメラ付き非常通報器1A及び1Bが1つの客室内に設置されている。図1に示すように、カメラ付き非常通報器1A及び1Bの一方(ここでは
1Aを一方とし1Bを他方とする)の通報押しボタン15が押されると、通報押しボタン
15の起動信号がカメラ付き非常通報器1Aの通報制御部18(18Aとする)から、接続線(信号線)33を介してカメラ付き非常通報器1Bの通報制御部18(18Bとする)に伝達され、通報制御部18Bが、カメラ制御部17Bを動作状態にし、カメラ16Bの撮影を開始させる。但し、カメラ付き非常通報器1Bにおける音声による非常連絡機能は起動されない。これによって、カメラ16Bで撮影される客室内の映像は、中継器51を経由して、カメラ付き非常通報器1Aのカメラ16Aで撮影された映像とともに非常通報受報器2の映像表示器5に伝送される。
【0035】
映像表示器5に伝送されたカメラ16A及びカメラ16Bの映像は、例えば、映像表示器5の画面分割表示により同時に表示される。或いは、乗務員による画面切り替え操作や、時間単位での自動切り替え操作を通じて一方の映像が選択的に表示される。
【0036】
2台のカメラ16A(第1のカメラ)及び16B(第2のカメラ)は(以下、16Aと16
Bとを区別しない場合には「カメラ16」と表記)、客室を平面視したときの該客室の中
心点Xを対称の中心とする点対称となるように設置することができる。図2(A)及び(B)に示す例では、紙面の左側を車両進行方向(先頭方向)とし、進行方向(左側)を前方、その逆方向(右側)を後方としたときに、カメラ16Aは、前方内壁面の進行方向に対して右側に取り付けられ、カメラ16Bは、後方内壁面の進行方向に対して右側に取り付けられている。図2(A)に示すように、カメラ16Aは、客室内の中心点Xを基準(対称の中心)とした点対称となっている。言い換えれば、カメラ16A及び16Bは、中心点Xを通過す
る直線上において、中心点Xから夫々相反する方向にほぼ等距離離れた位置に配置される。この例では、客室内におけるカメラ16A及び16Bの取り付け高さは揃えられている。すなわち、カメラ16A(カメラ16B)は、中心点Xを基準として180°水平方向に回転したとき、カメラ16B(カメラ16A)の位置にくるようになっている。
【0037】
このように、カメラ16A及び16B(カメラ付き非常通報器1A及び1B)は、車両貫通路付近において、客室の長手方向において対角線上に夫々取り付けられることができる。また、カメラ16A及び16Bは、中心点Xを対称の中心として、車両の両側(左側及
び右側)の扉付近に配置することもできる。
【0038】
カメラ付き非常通報器1は、通報者による送話マイク使用の利便性を考慮して送話マイク位置を中心にその取り付け位置が決められる。送話マイク位置は、車両の床面から1〜2mの高さに設定される。カメラ16A及び16Bは、通報者の顔を撮影すべく、少なくとも送話マイク11の位置よりも高い位置に設置される。例えば、カメラ16A及び16Bは、その視線(撮影方向)が水平方向を向いたときに、可能な限り広い範囲で客室内全体が撮影されるような高さで設定される。
【0039】
カメラ16A及び16Bは、撮影方向を少なくとも上下方向で変更可能な角度調整機構を備える。但し、カメラ16A及び16Bの取り付け高さが十分に高い場合には、カメラ16A及び16Bは、水平方向及びその下側の範囲で上下方向の撮影方向を変更可能な角度調整機構を備えるようにしても良い。さらに、カメラ16A及び16Bは、水平方向(
左右方向)の角度調整機構を備えることができる。カメラ16の上下方向及び水平方向に
対する角度変更可能範囲は、カメラ16の取り付け位置に応じて設定される。
【0040】
カメラ付き非常通報器1A及び1Bの一方(例えば1Aを一方とし他方を1Bとする)の通報押しボタン15が押された場合、カメラ付き非常通報器1Aのカメラ16Aが通報者(乗客)の顔を中心として撮影する一方で、他方のカメラ付き非常通報器1Bのカメラ16Bが車内全体を撮影するようにカメラ16A及びカメラ16Bの撮影方向及び撮影範囲(
画角)が調整される。
【0041】
例えば、カメラ16A及び16Bの取り付け高さが、人の平均身長よりも十分に高い(
乗客の大半がカメラを見上げる高さである)場合には、通報押しボタン15が押された側
のカメラ16Aは、撮影方向を下方向に傾けて、カメラ16Aを見上げる通報者の顔を中心に撮影されるようにし、他方のカメラ16Bは、客室の全体を撮影すべく、撮影方向を例えば水平方向よりやや下方向にする。また、カメラ16Bの画角は、カメラ16Aよりも小さくなるように設定される。すなわち、カメラ16Aが必要に応じてズームインされるのに対し、カメラ16Bはズームアウトされる。
【0042】
カメラ16A及び16Bは撮影方向及び画角を変更するためのアクチュエータを有しており、カメラ制御部17は、アクチュエータに制御信号を与えてカメラ16A及び16Bの撮影方向及び画角を調整する調整手段として機能する。例えば、カメラ16A及び16Bは、通報者を撮影する場合と客室内を撮影する場合との少なくとも二つの撮影位置を有し、通報押しボタン15が押されたか否かによって、二つの角度位置の一方を夫々のカメラ16A及び16Bが選択するように、各カメラ制御部17が各カメラ16A及び16Bのアクチュエータに制御信号を与える。
【0043】
カメラ16は、例えば、カメラ付き非常通報器1の筐体の正面に、通報押しボタン15、送話マイク11及び受話スピーカ14とともに配置される。但し、撮影位置を考慮して、カメラ16がカメラ付き非常通報器1本体と別体で構成され、カメラ16が本体よりも高い位置に設置されるようにしても良い。
【0044】
また、送話マイク11、通報押しボタン15、受話スピーカ14及びカメラ16は、図1の上下方向の配列順に従って配列されても良く、或いは、カメラ付き非常通報器1の正面(操作面)において、送話マイク11を基準として、その上側に通報押しボタン15、受話スピーカ14、カメラ16の順で上下方向に直線配置することができる。
【0045】
映像表示器5は、図1に示したように、非常通報受報器2に組み込まれる(同一の筐体
内に収容される)ようにするのが望ましい。但し、映像表示器5は、カメラ付き非常通報
器2と別体で構成され、乗務員室内の乗務員が見やすい位置に取り付けられるようにすることができる。また、車両(乗務員室)に用意されるモニタ装置(車両運行情報管理装置)のディスプレイと兼用されるようにしても良い。
【0046】
また、非常通報受報器2は、車両に搭載される運転士と車掌との業務連絡通話に使用される、いわゆる乗務員間連絡装置を兼用するように構成することができる。
【0047】
また、上述した実施形態の構成では、通報押しボタン15が押されなかった側のカメラ付き非常通報器1のカメラ16が客室内全体を撮影する。このようなカメラ16の代わりに、車両内や扉付近の異常状態監視のために車両の天井や扉付近に設けられている監視カメラを用いても良い。或いは、カメラ16がこのような監視カメラとしての機能を兼ねるようにしても良い。
【0048】
図3は、カメラ付き非常通報装置の他の実施形態の構成例を示す図である。図3は、カメラ付き非常通報器1と非常通報受報器2と映像表示器5とからなるカメラ付き非常通報装置において、カメラ付き非常通報器1と非常通報受報器2とを接続する非常通報装置の音声送受話回線(音声回線)である通報送話回線6と通報受話回線7とに音声フィルタ(音
声フィルタ回路)61と映像フィルタ(映像フィルタ回路)62とを挿入したものである。
【0049】
音声フィルタ61は通報送話回線6を流れる音声信号(の周波数)を通過させる一方で映像信号(の周波数)を遮断し、映像フィルタ62は、通報送話回線6を流れる映像信号(の
周波数)を通過させる一方で音声信号(の周波数)を遮断する。このような構成により、カ
メラ付き非常通報器1からの音声信号は、音声フィルタ61を介して非常通報受報器2に接続され、カメラ付き非常通報器2からの音声信号は音声フィルタ61を介してカメラ付き非常通報器1に接続される。さらに、カメラ16からの映像信号は、映像フィルタ62を介して映像表示器5に接続される。
【0050】
これによって、音声用回線と映像用回線とを、既存の非常通報装置の音声送受話回線(
通報送話回線6及び通報受話回線7)で共用することができる。このため、図3では、図
1における中継器51及び映像伝送路52が省略されている。よって、カメラ映像伝送用の新規回線を車両に増設する必要がなくなるので、引通線に余裕のない旧型の車両にもカメラ付き非常通報装置を適用することができる。
【0051】
また、図3では、非常通報装置1の音声送受話回線をカメラ16の映像信号伝送用回線として兼用する例を示した。もっとも、車両の既存設備である、乗務員間連絡装置で使用される乗務員間連絡音声送受話回線が映像信号伝送用回線を兼ねるように構成することもできる。すなわち、カメラ付き非常通報器1、非常通報受報器2を音声フィルタ61を介して乗務員間連絡音声送受話回線に接続し、映像表示器5及びカメラ16を映像フィルタ62を介して乗務員間連絡音声送受話回線に接続する。
【0052】
さらに、カメラ付き非常通報器1,非常通報受報器2の少なくとも一方、及び映像表示器5に記録器(例えば、記録端末として機能するコンピュータ)を接続し、記録器のコンピ
ュータが音声及び映像を車両の運行情報(列車運行番号、車両号車番号、地点情報、駅間
情報、発生時の日時情報等)と関連付けて記録媒体上に記録するように構成しても良い。
【0053】
本実施形態によれば、列車、電車、モノレール等のような鉄道車両における、乗客と乗務員との間の非常連絡に、音声とともに通報者の映像と車内全体の映像の両方の撮影映像を乗務員が見ることで、乗務員は客室の状況(非常事態)を適正に把握することができ、的確な状況処理を行うことができる。
【0054】
(その他)
本発明は、以下の態様を含むことができる。
【0055】
(態様1) 先頭車両と中間車両で編成される、列車、電車、気動車、モノレール等の先頭車両乗務員室には非常通報受報器を、先頭車両の客室を含む中間車両の客室には非常通報器を備える、鉄道車両用の非常通報装置において、客室の非常通報器にはカメラを組み込み、先頭車両の乗務員室には前記、客室非常通報器からのカメラ映像を表示する映像表示器を備えて、映像と音声とで乗務員と乗客とが非常通報連絡をするカメラ付き非常通報装置において、客室に配置するカメラ付き非常通報器は少なくとも1車両に2台以上を配置して、客室で非常事態が発生し、前記、客室のカメラ付き非常通報器に備えられた通報押しボタンが押されると、通報押しボタンが押されたカメラ付き非常通報器はカメラと音声回線が動作すると同時に、同一車両に備えられた、もう一方のカメラ付き非常通報器のカメラが前記、通報押しボタンが押された側の通報制御器よりの起動条件によりカメラのみが動作し、撮影された映像を乗務員室内の映像表示器に表示することで、音声と2台以上
のカメラ映像とで非常通報連絡をすることを、特徴とした鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【0056】
(態様2) 前記カメラ付き非常通報器のカメラは少なくとも、前方水平方向と水平方向に対し下方方向の2方向以上に角度調整ができ、通報押しボタンが押された側のカメラ
角度は通報者の目線に合わせた下方方向に向け、もう一方のカメラ付き非常通報器のカメラは、当該車両の周囲状況を乗務員が把握し易くする目的で、車内全体を見通せるように前方水平方向に角度設定されることを、特徴とした態様1記載の鉄道車両用のカメラ付き
非常通報装置。
【0057】
(態様3) 前記カメラ付き非常通報器の操作面又は表面には、少なくともカメラと受話スピーカと送話マイクと通報押しボタンとを備え、前記、カメラと受話スピーカと送話マイクと通報押しボタンの取り付け配置は、乗客からの送話マイクを基準として、上方向に通報押しボタン、受話スピーカ、最上部にカメラを配置すること、あるいは、乗客からの送話マイクを基準として、送話マイクと通報押しボタンを同列とし、上方向に受話スピーカ、最上部にカメラを配置することを、特徴とした態様1または2記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【0058】
(態様4) 前記客室に設備するカメラ付き非常通報器の2箇所以上の取り付け場所は
、例えば車両貫通路付近に客室内の長手方向に向かって対角線上にそれぞれ取り付けることを、特徴とした態様1から3記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【0059】
(態様5) 前記客室に設備するカメラ付き非常通報器の2箇所以上の取り付け場所は
、例えば車両長手方向に対し両側(右側、左側)扉付近に対角線上にそれぞれ取り付けることを、特徴とした態様1から3のいずれかに記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【0060】
(態様6) 前記先頭車両の乗務員室に備えられた前記、客室のカメラ付き非常通報器
からのカメラ映像を表示する映像表示器は、前記、非常通報受報器に組み込むことを、特徴とした態様1から3のいずれかに記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【0061】
(態様7) 前記カメラ付き非常通報器と非常通報受報器と映像表示器とからなるカメラ付き非常通報装置において、前記カメラ付き非常通報器と非常通報受報器とを接続する非常通報装置の音声送受話回線を音声フィルタと映像フィルタとで分離して、カメラ付き非常通報器と非常通報受報器間の音声は音声フィルタを介して接続し、カメラ付き非常通報器のカメラ映像はディジタル変換して、映像フィルタを介して先頭車の映像表示器に映像を伝送することを、特徴とした態様1〜6のいずれか一項に記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】鉄道車両用の非常通報装置の実施形態の全体構成例を示す図
【図2】客室に対する非常通報器及びカメラ配置の例を示す説明図
【図3】鉄道車両用の非常通報装置の実施形態の他の構成例を示す図
【符号の説明】
【0063】
1A,1B・・・カメラ付き非常通報器
2・・・非常通報受報器
3・・・モニタ設定器
4・・・モニタ制御器
5・・・映像表示器
6・・・通報送話回線
7・・・通報受話回線
8・・・ブザー
9A,9B・・・車側灯
11・・・送話マイク
12,22・・・送話増幅器
13,23・・・受話増幅器
14,24・・・受話スピーカ
15・・・通報押しボタン
16A,16B・・・カメラ
17A,17B・・・カメラ制御部
18A,18B・・・通報制御部
25・・・受報制御器
31・・・モニタ端末器
33,53・・・接続線
51・・・中継器
52・・・映像伝送路
61・・・音声フィルタ
62・・・映像フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の客室に設置され、非常通報を入力するための非常通報入力手段と、客室音声を入力する客室マイクと、乗務員室からの音声を出力する客室スピーカと、前記客室内を撮影する第1のカメラとを含むカメラ付き非常通報器と、
前記客室内を撮影する第2のカメラと、
前記カメラ付き非常通報器と音声回線を介して接続され、乗務員室音声を入力する乗務員室マイクと、前記音声回線を介して受信された客室音声を出力する乗務員室スピーカとを含む非常通報受報器と、
前記乗務員室に設置され、前記第1及び第2のカメラで撮影された映像が映像用回線を介して接続され、前記第1及び第2のカメラで撮影された映像を表示する表示器とを備え、
非常通報が前記非常通報入力手段から入力された場合に、前記カメラ付き非常通報器及び前記非常通報受報器は、前記客室と前記乗務員室との間で前記音声回線を介して双方向に通話可能な状態となるとともに、前記第1のカメラが通報者を撮影する一方、前記第2のカメラが前記客室内全体を撮影し、前記第1及び第2のカメラによる映像が前記映像用回線を介して前記表示器に伝達され、前記表示器が、前記第1及び第2のカメラからの映像の少なくとも一方を表示する、
ことを特徴とする鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【請求項2】
前記カメラ付き非常通報器は、前記客室に少なくとも2つ設置され、
少なくとも2つのカメラ付き非常通報器の一方の非常通報入力手段から非常通報が入力された場合に、この非常通報が入力されたカメラ付き非常通報器が備える第1のカメラが通報者を撮影し、残りのカメラ付き非常通報器が備える第1のカメラが前記第2のカメラとして前記客室内全体を撮影する
請求項1記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のカメラの撮影方向を調整する調整手段をさらに含み、
前記調整手段は、前記客室内の通報者により前記カメラ付き非常通報器の一方の非常通報入力手段から非常通報が入力された場合に、前記第1のカメラを通報者に向けるとともに、前記第2のカメラを前記客室全体を見渡す方向に向ける
請求項1又は2記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【請求項4】
前記第1のカメラ及び前記第2のカメラは、前記客室を平面視したときの該客室の中心点を対称の中心とする点対称となるように設置される
請求項2又は3記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。
【請求項5】
前記カメラ付き非常通報器及び前記非常通報受報器は、音声信号を通過させて映像信号を遮断する第1のフィルタ回路を介して前記音声回線に接続され、前記第1及び第2のカメラ並びに前記表示器は、映像信号を通過させて音声信号を遮断する第2フィルタ回路を介して前記音声信号に接続され、前記音声回線が前記第1及び第2のカメラからの映像信号を前記表示器へ伝送する前記映像用回線として機能する
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両用のカメラ付き非常通報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−56921(P2009−56921A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225442(P2007−225442)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(592066860)八幡電気産業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】