説明

鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム及びその生産出荷計画作成方法

【課題】 鉄鋼業における製品の生産から出荷までを一貫して管理可能な生産出荷計画作成システム及びその生産出荷計画作成方法を提供する。
【解決手段】 製造ラインを品種に応じて1又は複数有する鉄鋼製造設備で製造された製品を、輸出向けの船舶で出荷するための生産出荷計画作成システム及び作成方法であって、製品の注文に基づいてその納期を満たす船舶による製品の出荷計画を作成する出荷計画作成手段と、この計画から粗生産計画を作成する上り計画作成部、同じ鋼種を集約するため粗生産計画のうち鉄源製造装置の生産計画を並べ替える再編成部、及びこの計画から精生産計画を作成する下り計画作成部を備える生産計画作成手段と、製品の出荷量から算出する販売価格の合計と製品を出荷するまでに要する製品の処理量の変動費の合計の差を算出し、その差が最大の精生産計画で製品を出荷する船舶を決定する演算手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の製造工程を有する製鉄所から、主に輸出向けの中型又は大型の船舶を用いて製品を出荷するための鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム及びその生産出荷計画作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼製品の製造に際しては、上工程である製鋼及び鋳造工程における製造ロットの制約が非常に厳しく、競争力のある製品を製造するためには、上工程の製造ロット編成における高歩留な計画が不可欠であった。また、運用面に着目すると、保有設備の稼働率を最大限にすることが重要であり、そのために、例えば、熱延(熱間圧延)工程、冷延(冷間圧延)工程、及びめっき(連続亜鉛めっき)工程を有する下工程の需要供給バランスを精度良く予測し、生産計画を立案する必要があった。更に、顧客に対する納期確約を履行するためにも、下工程の需要供給バランスを考慮した生産計画の立案が必要であった。
生産計画の立案に関しては、例えば、自動車のような組み立て産業における部品供給コントロール(即ち、在庫管理)を中心とした内容のものが開示されているが、この生産計画では、主として自製原料を取り扱う素材産業に対応できるものではなかった。この素材産業としての特異性として、例えば、鉄鋼業においては、各製造工程の生産効率化の因子(例えば、製鋼転炉は成分単位、熱延は加熱温度)が異なるため、各製造工程の最大能力を指向すると、二律背反の要素を有する等の恐れがある。
【0003】
そこで、素材産業に適用する生産計画として、特許文献1に、例えば、1週間分の注文群に対して製鋼及び熱延工程の制約を考慮した製造ロット編成を実施し、その結果を下工程の生産計画に連携させる対話型スケジューリングシステムが開示されている。
また、特許文献2には、上り(遡り)計画作成処理工程で作成された生産計画の注文群を第1の取り合わせ制約に基づいて処理をして、上工程の製造ロットの粗生産計画を作成する上工程粗計画処理工程と、この上工程粗計画処理工程で作成された生産計画の注文群のうち至近の着手分を第2の取り合わせ制約に基づいて処理をして、上工程の製造ロットの精生産計画を作成する上工程精計画処理工程とを有する鉄鋼中間製品の生産計画作成方法が開示されている。
そして、特許文献3には、注文情報、注文投入情報、及び納期情報から対象材源を抽出して、揚港ごと又は河岸ごとに情報を集約し、その結果に基づいて予定配船ロット番号を付与する方法が開示されている。
以上の方法により、納期遅れが発生しにくく、更には中間製品の在庫量も抑制した設備運用が可能になる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−268908号公報
【特許文献2】特開2003−256020号公報
【特許文献3】特開2002−91536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の生産計画の立案には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1の方法は、選択された注文群のみを対象にしたものであるが、実際の注文群は1ケ月分から2ケ月分存在しており、販売計画に基づいて製造計画を策定し、1週間単位に至近の注文群を選択して製造につなげているため、この点において適用範囲及び処理内容に改善の余地を残している。また、需要家の注文がすべて大口であれば問題は生じにくいが、小口の注文を製造につなげるためには、歩留と納期の両方を考慮した細かな判断が要求される。そのため、1週間単位の注文群選択にそぐわないという問題点があった。
そして、特許文献2は、上り計画を作成する際の制約条件が1種類に固定されており、作成した上り計画の精度を十分に高めることができず、その結果より高収益を志向するには至っていない。
特許文献3においても、計画を作成する際の制約条件が1種類に固定されており、高収益を志向するには至っていない。
更に、中型又は大型の船舶で輸出する製品は、船舶に積載する最低積載量が定められており、それを保障するため、完成した製品の荷揃い(製造及び納庫完了)のための滞貨時間が長かった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、生産計上から出荷までの連動した計画を自動計算することで、鉄鋼業における製品の生産から出荷までを一貫して管理可能な鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム及びその生産出荷計画作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムは、鉄源製造装置及びその他の1以上の製造装置が備えられた製造ラインを品種に応じて1又は複数有する鉄鋼製造設備で製造された製品を、輸出向けの中型又は大型の船舶で出荷するための生産出荷計画作成システムであって、
前記製品の注文に基づいて、該製品の納期を満たすために前記船舶による前記製品の出荷計画を作成する出荷計画作成手段と、
前記出荷計画に基づいて、出荷する前記品種ごとに前記製造ラインの最終工程から順に前記鉄源製造装置まで遡って粗生産計画を作成する上り計画作成部、前記品種を同じ鋼種の鉄源に集約するため、前記上り計画作成部で作成した前記粗生産計画のうち前記鉄源製造装置の生産計画の並べ替えを行う再編成部、及びこの並べ替えられた生産計画に基づいて、前記鉄源製造装置から前記製造ラインの最終工程まで下る精生産計画を作成する下り計画作成部を備える生産計画作成手段と、
前記生産計画作成手段により複数作成された前記精生産計画に基づいて、予め定められた設定期間内の前記製品の出荷量から算出する販売価格の合計と、前記製品を出荷可能とするまでに要する前記設定期間内の前記製品の処理量の変動費の合計の差を算出し、その差が最も大きくなる精生産計画を選択して、前記製品を出荷するための前記船舶を決定する演算手段とを有する。
【0008】
第1の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、使用される前記船舶の向け先と前記品種ごとの積載量のデータを格納する船舶記憶部と、
前記製品の注文の品種ごと及び向け先ごとの注文量とその納期のデータを格納する注文記憶部と、
前記各製造装置における前記品種ごとの単位時間当たり生産量のデータを格納する設備能力記憶部と、
前記各製造装置における前記品種間の切り替え時の制約条件と稼働シフトのデータを格納する設備稼働記憶部と、
前記各製造装置の修繕及び工事の期間と開始日のデータを格納する設備修繕記憶部と、
前記品種ごとに前記製造ラインの必要通過工程のデータを格納する通過工程記憶部と、
前記品種ごとに販売価格のデータを格納する販売価格記憶部と、
前記製造ラインの各通過工程及び前記品種ごとに変動費のデータを格納する変動費記憶部とを更に有し、
前記出荷計画作成手段により、前記出荷計画を、前記船舶記憶部と前記注文記憶部の各データに基づいて、予め定めた期間内に製造できる前記製品の注文を該製品の出荷に使用する前記船舶ごとに集計し、その船舶の前記品種ごとの最低積載量を全ての積載種類に対して満たすように作成し、
前記上り計画作成部により、前記粗生産計画を、前記設備能力記憶部、前記設備稼働記憶部、前記設備修繕記憶部、及び前記通過工程記憶部の各データを用い、前記出荷計画に基づいて作成し、
前記再編成部により、前記鉄源製造装置の生産計画の並べ替えを、予め定めた組み換え可能期間の範囲内で行い、
前記演算手段により、選択された前記精生産計画の前記製品の注文を、該製品の出荷に使用する前記船舶ごとに集計して、その船舶の前記品種ごとの最低積載量を全ての積載種類に対して満たす前記船舶を選択し決定することが好ましい。
【0009】
第1の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、前記設備能力記憶部は複数の設備能力パターンのデータを記憶し、前記設備稼働記憶部は複数の設備稼働パターンのデータを記憶し、前記設備修繕記憶部は複数の設備修繕パターンのデータを記憶しており、前記上り計画作成部と前記下り計画作成部で、前記複数の設備能力パターンのデータ、前記複数の設備稼働パターンのデータ、及び前記複数の設備修繕パターンのデータからそれぞれ1つずつのデータを選択して用いることが好ましい。
【0010】
第1の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、前記生産計画作成手段により、前記複数の設備能力パターン、前記複数の設備稼働パターン、及び、前記複数の設備修繕パターンのデータを使用して複数の前記精生産計画を作成し、
前記演算手段により、前記販売価格の合計を、前記設定期間内の前記製品の出荷量から前記販売価格記憶部のデータに基づき算出し、前記変動費の合計を、前記製品を出荷可能とするまでに通過した前記設定期間内の前記製造ラインの各工程ごとの処理量から前記変動費記憶部のデータに基づき算出して、前記販売価格の合計と前記変動費の合計の差が最大となる前記設備能力パターン、前記設備稼働パターン、及び前記設備修繕パターンを使用する前記精生産計画を選択することが好ましい。
【0011】
第1の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、前記鉄源製造装置は転炉及びそれに付帯する製造装置であって、前記その他の1以上の製造装置は前記鉄源製造装置の下流側に配置される前記製品の製造装置であることが好ましい。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成方法は、第1の発明に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムを使用して、前記製品の生産から前記船舶による出荷までの計画を作成する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜5記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム、及び請求項6記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成方法は、出荷計画作成手段、生産計画作成手段、及び演算手段を有しているので、生産計上から出荷までの連動した計画を自動計算し、製品の生産から出荷までを一貫生産管理できる。従って、従来のように、生産が完了した後に、船舶の入港指示を出すことなく、この計画に基づいて入港指示を出すことができ、製品の倉庫内滞貨時間を最小限にすることが可能な計画を立案できる。また、作成した生産計画の精度を十分に高めることができ、その結果従来よりも高収益を得ることが可能になる。
【0014】
特に、請求項2記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムは、製品の製造に要する各条件を詳細に設定するので、作成した生産出荷計画の精度を更に高めることができる。
また、請求項3記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムは、複数の設備能力パターンのデータと、複数の設備稼働パターンのデータと、複数の設備修繕パターンのデータとを使用できるので、作成した生産出荷計画の精度を更に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムを使用した生産出荷計画作成方法のフローチャート、図2は同生産出荷計画作成システムで作成した仮粗生産計画の説明図、図3は同生産出荷計画作成システムで作成した粗生産計画の説明図、図4は同生産出荷計画作成システムで作成した並べ替え後の精生産計画の説明図、図5は同生産出荷計画作成システムを適用したコンピュータの配置構成の説明図である。
【0016】
本発明の一実施の形態に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム(以下、単に計画作成システムともいう)は、転炉を有する鉄源製造装置と、この鉄源製造装置の下流側に配置されるその他の製造装置が備えられた製造ラインを、品種に応じて1又は複数有する鉄鋼製造設備で製造された製品を、輸出向けの中型又は大型の船舶で出荷するための生産出荷計画作成システムであって、生産計上から出荷までの連動した計画を自動計算し、製品の生産から出荷までを一貫生産管理するものである。以下、詳しく説明する。
【0017】
図5に示すように、鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムは、データ記憶手段、出荷計画作成手段、生産計画作成手段、及び演算手段を備え、データの入力及び削除が可能であり、ホストコンピュータ10とのデータの送受信が可能なコンピュータ11に構築されるものである。なお、データ記憶手段、出荷計画作成手段、生産計画作成手段、及び演算手段の各処理は、コンピュータ11内の記憶装置に格納されたプログラムにより実行される。ここで、各手段は、1台のコンピュータ11のみに構成することなく、ホストコンピュータ10とのデータの送受信が可能であり、しかも相互にデータの送受信が可能な複数台のコンピュータ12〜14にそれぞれ構築することも可能である。このとき、各コンピュータ12〜14に構築された各手段の処理は、それぞれのコンピュータ内の記憶装置に格納されたプログラムにより実行される。
データ記憶手段は、船舶記憶部、注文記憶部、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、通過工程記憶部、販売価格記憶部、及び変動費記憶部を有し、生産計画作成手段は、上り(遡り)計画作成部、再編成部、及び下り計画作成部を有している。
【0018】
データ記憶手段の船舶記憶部は、使用される船舶の向け先と品種ごとの最低及び最高積載量のデータを格納するものである。この船舶記憶部に入力されたデータ群の一例を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
ここで、対象となる船舶は、内航船と比較して入港可能な頻度が少なく(例えば、月に3回以上5回以下程度)、しかも複数種類の製品を積載し搬送する中型又は大型の船舶である。なお、中型の船舶とは、最大積載量が例えば、2千トン以上3千トン以下程度の船舶であり、大型の船舶とは、最大積載量が例えば、1万トン程度の船舶である。
また、品種とは、最終製品の種類又は分類を意味し、熱間圧延(熱延)コイル及び冷間圧延(冷延)コイル以外に、例えば、薄板、電磁鋼板、ステンレス鋼板、厚板、条鋼、又は形鋼がある。
なお、船舶記憶部に入力されるデータは、データベース化して蓄積されているため、表1と異なる形態で出力することもできる。
【0021】
注文記憶部は、注文の品種(種類)ごと及び向け先ごとの注文量とその納期のデータを格納するものである。この注文記憶部に記憶されたデータ群の一例を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
ここで、製造ラインは、鉄源工程(製鋼工程ともいう)に配置される転炉とこれに付帯する二次精錬及び連続鋳造を行う製造装置を有する鉄源製造装置と、鉄源工程の下流側に配置される例えば、熱延、冷延、焼鈍、及び表面処理(亜鉛めっきなど)のいずれか1又は2以上を行う製品の製造装置で構成されている。。
なお、注文記憶部に入力されるデータも、データベース化して蓄積されているため、表2と異なる形態で出力することも勿論可能である。
【0024】
設備能力記憶部は、各製造装置における品種ごとの単位時間当たり生産量(トン/時間)のデータを格納し、設備稼働記憶部は、各製造装置における品種間の切り替え時の制約条件と稼働シフトのデータを格納するものである。ここで、制約条件とは、例えば、表面にめっきする製造ライン(例えば、溶融亜鉛めっきライン)での、品種の切替えに伴う製造ラインの停止又は鋼板パスラインの変更を意味する。また、製造ラインの停止を伴わなくても、例えば、冷間圧延工程では、鋼板の幅を、広い幅から狭い幅に順次通板(同一のロールで圧延する場合)するためのスケジュール的な制約もある。
そして、稼働シフトとは、各製造装置の稼働状況、即ち稼働させる作業者の勤務形態(例えば、2交代又は3交代)で決定されるものである。
なお、同じ製造装置が複数設置されている場合、例えば、A〜C(複数)の冷延装置が設置されている場合は、採用可能な複数の設備能力パターンのデータ、及び複数の設備稼働パターンのデータ、即ち(1)A〜Cのいずれの冷延装置も使用可、(2)Aのみ使用可、(3)Bのみ使用可、のようなデータを、設備能力記憶部又は設備稼働記憶部に格納しておくことが好ましい。
【0025】
設備修繕記憶部は、各製造装置の修繕及び工事の期間と開始日のデータを記憶するものである。ここで、A〜Cの冷延装置の修繕計画を例にとって説明すると、各冷延装置ごとに、可能休止期間(開始日時及び終了日時)と工期時間を設定できる。
このように、A〜Cの冷延装置が設置されている場合、採用可能な複数の工事の順番、即ち(1)A→B→C、(2)B→A→C、(3)C→B→A、のような設備修繕パターンのデータを、設備修繕記憶部に格納しておくことが好ましい。
通過工程記憶部は、品種ごとに前記した製造ラインの必要通過工程の指定、即ち通過必須工程のデータを格納するものである。
【0026】
販売価格記憶部は、品種ごとに販売価格(円/トン)のデータを格納するものである。ここで、販売価格としては、例えば、国内価格A、国内価格B、輸出価格A、及び輸出価格Bがある。
変動費記憶部は、製造ラインの各通過工程及び品種ごとの変動費(円/トン)を格納するものである。ここで、変動費は、例えば、鉄源工程の場合は各転炉について、熱延工程の場合は各熱延について、製品工程の場合は電気亜鉛めっき及びブリキめっきについて、製造に要する費用がそれぞれ設定される。
以上の各記憶部により、データ記憶手段が構成されている。なお、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、通過工程記憶部、販売価格記憶部、及び変動費記憶部の各データは、船舶記憶部及び注文記憶部の各データのように、データベース化して蓄積されており、例えば、表の形態で出力することも可能である。
【0027】
計画作成システムの出荷計画作成手段とは、製品の注文に基づいて、製品の納期を満たすために船舶による製品の出荷計画を立案し、格納するものである。なお、出荷計画の立案に際しては、船舶記憶部と注文記憶部の各データに基づいて作成する船舶の接岸配置計画(バース計画)、即ちどの船舶がどの岸壁にどの程度の期間(接岸して離岸するまでの期間)停泊するかの計画を使用する。
【0028】
生産計画作成手段とは、上り計画作成部、再編成部、及び下り計画作成部を備えるものである。
上り計画作成部とは、前記した製品の出荷計画に基づいて、出荷する品種ごとに各製造ラインの最終工程から順に転炉まで遡って粗生産計画を立案する部分である。なお、粗生産計画の立案に際しては、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、及び通過工程記憶部の各データを使用する。
【0029】
また、再編成部とは、製品を同じ鋼種の鉄源に集約するため、上り計画作成部で作成した粗生産計画のうち転炉の生産計画の並べ替えを行う部分である。
そして、下り計画作成部とは、再編成部で並べ替えられた転炉の生産計画に基づいて、転炉から製造ラインの最終工程まで下る精生産計画を立案する部分である。なお、精生産計画の立案に際しては、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、及び通過工程記憶部の各データを使用する。
なお、この上り計画作成部、再編成部、及び下り計画作成部のいずれか1又は2以上の処理に関しては、アスペンテック・ブローナー社が販売している「プロダクションプランナー」というソフトウェアを使用することも可能である。
【0030】
演算手段とは、生産計画作成手段により複数作成された精生産計画に基づいて、予め定められた設定期間(例えば、1ヶ月)内の製品の出荷量から算出する販売価格の合計と、製品を出荷可能とするまでに要する設定期間内の製品の処理量の変動費の合計の差を算出し、その差が最も大きくなる精生産計画を選択して、製品を出荷するための船舶を決定するものである。この差は、収益の管理指標であるスループット(TP)と呼ばれるものである。
(TP)=(販売単価)×(出荷量)−(変動費単価)×(処理量)
ここで、処理量には、製品の出荷をしなくても、その期間内に処理した量(即ち、製品在庫量)も含まれるため、在庫相当分の変動費を低減し、変動費単価と処理量との積を小さくすることで、スループットを大きくしてより高収益が可能となる計画を立案できる。
なお、演算手段での算出に際しては、注文記憶部、販売価格記憶部、及び変動費記憶部の各データを使用する。
【0031】
続いて、本発明の一実施の形態に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成方法を、前記した計画作成システムを使用して説明するが、生産計画作成手段による粗生産計画から精生産計画までの処理に関しては、例えば、特許文献2に開示されているように、従来行われている方法と略同様であるため、同様の部分については簡略化して説明する。
まず、図1に示すように、ステップ1(ST1)において、データ記憶手段の船舶記憶部、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、通過工程記憶部、販売価格記憶部、及び変動費記憶部に必要なデータを、それぞれ入力する。この各データは、例えば、各製造ラインのデータを管理しているホストコンピュータから取得することも、また、過去の操業実績に基づいて入力(修正)することも可能である。
次に、ステップ2(ST2)において、本社のホストコンピュータから送信された顧客からの注文情報(例えば、品種、向け先、及びその納期)が、コンピュータに入力されて受注処理されると共に、データ記憶手段の注文記憶部に入力される。
【0032】
ステップ3(ST3)において、出荷計画作成手段により、製品の出荷計画を行う。ここでは、注文記憶部に入力された注文情報、即ち品種及び向け先に基づき、この条件に適した船舶を船舶記憶部から選択して、製品の注文を製品の出荷に使用する船舶ごとに集計する。なお、この集計は、製品の納期が予め定めた期間(例えば、1ヶ月程度)内の全品種ごとの積載量が、選択された船舶の最低積載量を満足するように行う。また、集計に際しては、例えば、品種が同じで、その納期日が同じ又は近日であれば、それらを1つの注文群として集約することも可能である。
【0033】
そして、注文記憶部に入力された製品の注文の納期に間に合うように、船舶のバース計画、即ちその船舶をどの岸壁(バース)にどの程度の期間停泊させるかの計画を行う。
これにより、輸出向けの製品の出荷計画と共に、国内向けの製品の出荷計画を作成できる。
なお、輸出向けの製品は、通常、製品を船舶に積み込む日時を納期日とみなしている(配船日基軸)。一方、国内向けの製品については、トラック輸送又は内航船輸送となり、客先の要求に応じて、Just in timeデリバリー又は生産完了時の自動出荷(客先近くの港倉庫までの出荷又は直納もある)となる。
【0034】
ステップ4(ST4)において、生産計画作成手段の上り計画作成部により、図2に示すように、ステップ3で作成した製品の出荷計画で得た製品の納期日を基準とし、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、及び通過工程記憶部の各データを用いて、出荷する品種ごとに各製造ラインの最終工程から順に鉄源工程まで遡って粗生産計画を作成する。なお、図2において、縦軸の上側が上工程である鉄源工程に相当し、下側が下工程である製品工程に相当する。
【0035】
ここでは、時間軸(横軸)を逆に進めて各製造工程での処理開始及び終了時間情報を算出し、処理結果を上り計画作成部に格納する。各製品には、その注文量があるため、各注文の製造工程ごとの処理時間及び工程間の移動時間を積算し、最上流工程へ遡ることにより、納期日に最も引きつけて製造に着手する場合の上工程の処理開始時間情報が得られる。
しかし、各製造工程の製造装置には、その製造能力及び修繕を行う時期があり、単純に上り計画を作成しても、必ずしもその計画が実行できるとは限らない。そこで、設備能力記憶部の複数の設備能力パターン、設備稼働記憶部の複数の設備稼働パターン、及び設備修繕記憶部の複数の設備修繕パターンから、それぞれ1つずつのデータを選択して使用し、図3に示すように、更に各製造装置の製造能力、稼働時期、及び修繕時期(図3中の斜線部分)を考慮した粗生産計画を作成する。
【0036】
ステップ5(ST5)において、生産計画作成手段の再編成部により、図4に示すように、ステップ4で作成した粗生産計画のうち転炉の生産計画を使用して、製品(図4中の□部分)を同じ鋼種の鉄源ごとに集約するため並べ替えを行う。同じ鉄源の鋼種に集約するための制約条件としては、例えば、化学成分、鋳造幅、ロット質量上下限、及び鋳造設備の選択がある。なお、この集約処理は、予め定めた組み換え可能期間(例えば、1週間程度)の範囲内で行う。
そして、例えば、鉄源歩留及び納期進み遅れ(粗生産計画から得られる各製品の製造要望日と、並べ替えにより得られる各製品の製造予定日との較差を全注文について集計して得られる計画の遅れ進みの総和)を評価し、必要に応じて再度の並べ替えを行った後、この並べ替えた転炉の生産計画を再編成部に格納する。
このように、同じ鉄源の品種に集約することで、大口の取引のみならず、小口の取引も考慮した並べ替えを実施できる。
【0037】
ステップ6(ST6)において、生産計画作成手段の下り計画作成部により、ステップ5で並べ替えた転炉の生産計画でそれぞれ配置された各鉄源の品種の製造日を基準とし、設備能力記憶部、設備稼働記憶部、設備修繕記憶部、及び通過工程記憶部の各データを用いて、転炉から各製造ラインの最終工程まで下る精生産計画を作成する。
ここでは、時間軸(横軸)を進めて各製造工程での処理開始及び終了時間情報を算出し、処理結果を下り計画作成部に格納する。なお、この精生産計画についても、粗生産計画と同様に、設備能力記憶部の複数の設備能力パターン、設備稼働記憶部の複数の設備稼働パターン、及び設備修繕記憶部の複数の設備修繕パターンから、それぞれ1つずつのデータを選択して使用することで、各製造装置の製造能力、稼働時期、及び修繕時期を考慮した精生産計画を作成できる。
【0038】
このステップ6においては、最終的に精生産計画から得られる製品の納期日が、要求される納期日を満足しない場合、即ち納期割れが生じた際には、再度ステップ4へ戻り、納期割れが生じなくなるまで粗生産計画の作成を繰り返し行う。なお、再度ステップ4へ戻る場合は、その条件が不適であることを上り計画作成部に格納し、その条件での処理を行わないようにする。
一方、ステップ6において、精生産計画から得られる製品の納期日が、要求される納期日を満足する場合は、ステップ7(ST7)でこの精生産計画を下り計画作成部に格納する。このように、精生産計画を立案した後は、再度ステップ1に戻って、設備能力記憶部及び設備修繕記憶部の各パターンのデータを選択し直し、ステップ2以下の処理を順次行って複数の精生産計画を作成する。なお、予め入力されている設備能力記憶部、設備稼働記憶部、及び設備修繕記憶部の各パターンで、そのパターンを使用可能な場合は、各パターンのデータを入力し直すことなく、その全データを使用して複数の精生産計画を作成し下り計画作成部に格納する。
【0039】
最後に、ステップ8(ST8)において、演算手段により、以上の方法で作成された複数の精生産計画を使用してスループットを算出する。
ここで、販売価格の合計は、作成した複数の精生産計画の製品の出荷量と、販売価格記憶部の各販売価格単価との積を求めることで算出する。また、変動費の合計は、作成した複数の精生産計画で、製品を出荷可能とするまでに通過した製造ラインの各工程ごとの処理量(在庫量も含む)と、変動費記憶部の変動費単価との積を求めることで算出する。
以上の方法により、スループットが最大となる設備能力記憶部、設備稼働記憶部、及び設備修繕記憶部の各パターンを使用した精生産計画を選択し、演算手段に格納する。
【0040】
続いて、選択された精生産計画の製品の注文を、船舶記憶部に格納された製品の出荷に使用する船舶ごとに集計し、その船舶の品種別最低積載量が、全ての積載種類に対して満たす船舶を選択し決定する。そして、その船舶のデータを演算手段に格納し、その船舶の発注を行う。
これにより、従来は8割程度の製品の生産完了を受けて、その後の製造予定を推測し、船舶の入港支持を出していたが、この生産出荷計画をベースにして、製品の製造前に配船指示を出すことができるので、製品の倉庫内滞貨時間を最小限にする計画を立案できる。
また、輸出用船舶は、単一品種を積載するものでなく、複数品種を一緒に船積みするケースが多く、この生産出荷計画により、複数品種の荷揃いに対応可能な計画を立案できる。
【0041】
以上、本発明を、一実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム及びその生産出荷計画作成方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムを使用した生産出荷計画作成方法のフローチャートである。
【図2】同生産出荷計画作成システムで作成した仮粗生産計画の説明図である。
【図3】同生産出荷計画作成システムで作成した粗生産計画の説明図である。
【図4】同生産出荷計画作成システムで作成した並べ替え後の精生産計画の説明図である。
【図5】同生産出荷計画作成システムを適用したコンピュータの配置構成の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
10:ホストコンピュータ、11〜14:コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄源製造装置及びその他の1以上の製造装置が備えられた製造ラインを品種に応じて1又は複数有する鉄鋼製造設備で製造された製品を、輸出向けの中型又は大型の船舶で出荷するための生産出荷計画作成システムであって、
前記製品の注文に基づいて、該製品の納期を満たすために前記船舶による前記製品の出荷計画を作成する出荷計画作成手段と、
前記出荷計画に基づいて、出荷する前記品種ごとに前記製造ラインの最終工程から順に前記鉄源製造装置まで遡って粗生産計画を作成する上り計画作成部、前記品種を同じ鋼種の鉄源に集約するため、前記上り計画作成部で作成した前記粗生産計画のうち前記鉄源製造装置の生産計画の並べ替えを行う再編成部、及びこの並べ替えられた生産計画に基づいて、前記鉄源製造装置から前記製造ラインの最終工程まで下る精生産計画を作成する下り計画作成部を備える生産計画作成手段と、
前記生産計画作成手段により複数作成された前記精生産計画に基づいて、予め定められた設定期間内の前記製品の出荷量から算出する販売価格の合計と、前記製品を出荷可能とするまでに要する前記設定期間内の前記製品の処理量の変動費の合計の差を算出し、その差が最も大きくなる精生産計画を選択して、前記製品を出荷するための前記船舶を決定する演算手段とを有することを特徴とする鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム。
【請求項2】
請求項1記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、使用される前記船舶の向け先と前記品種ごとの積載量のデータを格納する船舶記憶部と、
前記製品の注文の品種ごと及び向け先ごとの注文量とその納期のデータを格納する注文記憶部と、
前記各製造装置における前記品種ごとの単位時間当たり生産量のデータを格納する設備能力記憶部と、
前記各製造装置における前記品種間の切り替え時の制約条件と稼働シフトのデータを格納する設備稼働記憶部と、
前記各製造装置の修繕及び工事の期間と開始日のデータを格納する設備修繕記憶部と、
前記品種ごとに前記製造ラインの必要通過工程のデータを格納する通過工程記憶部と、
前記品種ごとに販売価格のデータを格納する販売価格記憶部と、
前記製造ラインの各通過工程及び前記品種ごとに変動費のデータを格納する変動費記憶部とを更に有し、
前記出荷計画作成手段により、前記出荷計画を、前記船舶記憶部と前記注文記憶部の各データに基づいて、予め定めた期間内に製造できる前記製品の注文を該製品の出荷に使用する前記船舶ごとに集計し、その船舶の前記品種ごとの最低積載量を全ての積載種類に対して満たすように作成し、
前記上り計画作成部により、前記粗生産計画を、前記設備能力記憶部、前記設備稼働記憶部、前記設備修繕記憶部、及び前記通過工程記憶部の各データを用い、前記出荷計画に基づいて作成し、
前記再編成部により、前記鉄源製造装置の生産計画の並べ替えを、予め定めた組み換え可能期間の範囲内で行い、
前記演算手段により、選択された前記精生産計画の前記製品の注文を、該製品の出荷に使用する前記船舶ごとに集計して、その船舶の前記品種ごとの最低積載量を全ての積載種類に対して満たす前記船舶を選択し決定することを特徴とする鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム。
【請求項3】
請求項2記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、前記設備能力記憶部は複数の設備能力パターンのデータを記憶し、前記設備稼働記憶部は複数の設備稼働パターンのデータを記憶し、前記設備修繕記憶部は複数の設備修繕パターンのデータを記憶しており、前記上り計画作成部と前記下り計画作成部で、前記複数の設備能力パターンのデータ、前記複数の設備稼働パターンのデータ、及び前記複数の設備修繕パターンのデータからそれぞれ1つずつのデータを選択して用いることを特徴とする鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム。
【請求項4】
請求項3記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、前記生産計画作成手段により、前記複数の設備能力パターン、前記複数の設備稼働パターン、及び、前記複数の設備修繕パターンのデータを使用して複数の前記精生産計画を作成し、
前記演算手段により、前記販売価格の合計を、前記設定期間内の前記製品の出荷量から前記販売価格記憶部のデータに基づき算出し、前記変動費の合計を、前記製品を出荷可能とするまでに通過した前記設定期間内の前記製造ラインの各工程ごとの処理量から前記変動費記憶部のデータに基づき算出して、前記販売価格の合計と前記変動費の合計の差が最大となる前記設備能力パターン、前記設備稼働パターン、及び前記設備修繕パターンを使用する前記精生産計画を選択することを特徴とする鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムにおいて、前記鉄源製造装置は転炉及びそれに付帯する製造装置であって、前記その他の1以上の製造装置は前記鉄源製造装置の下流側に配置される前記製品の製造装置であることを特徴とする鉄鋼製品の生産出荷計画作成システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄鋼製品の生産出荷計画作成システムを使用して、前記製品の生産から前記船舶による出荷までの計画を作成することを特徴とする鉄鋼製品の生産出荷計画作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−293549(P2006−293549A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111241(P2005−111241)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000191076)新日鉄ソリューションズ株式会社 (136)
【Fターム(参考)】