説明

鉛フリー型コンポジット組成物

【課題】金属とポリマとからなり、Sn−Pb系の共晶はんだに比べて融点が低い鉛フリー型コンポジット組成物を提供する。
【解決手段】本発明の鉛フリー型コンポジット組成物1は、ポリノルマルブチルアクリレート2中にSn-In-Bi合金の微粒子3を均一に分散させたもので、Sn-In-Bi合金は57.50重量%のBi、25.20重量%のIn及び17.30重量%のSnを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛以外の金属とポリマとのコンポジット組成物に関し、より詳しくは、Sn−Pb系の共晶はんだよりも融点の低い鉛フリー型コンポジット組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板への電子部品の接合には、従来、Sn−Pb系の共晶はんだ、いわゆる含鉛はんだが一般的に用いられていたが、電子部品が実装されたプリント配線基板を含む電気・電子機器を廃棄処理した際、前記接合に使用されたはんだに含まれる鉛は自然環境に対して悪影響を与える問題があった。このため、鉛を含まない鉛フリーはんだの開発が望まれていた。
このような鉛フリーはんだとしては、例えば、特許文献1に示すようなSn−Ag−Cu系の鉛フリーはんだが開発され、多く使われるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−321982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、Sn−Ag−Cu系はんだは、Sn−Pb系の共晶はんだに比べて融点が高いので、接合時の加熱温度をSn−Pb系の共晶はんだを使用するときよりも高く設定する必要がある。このように接合温度が高くなると、熱の影響で電子部品が劣化する危険性がある。
また、電気・電子機器の製造設備においても、共晶はんだ対応型の従来のはんだ付け装置よりも高温加熱が可能である高温対応型のはんだ付け装置が必要になるが、このような高温対応型のはんだ付け装置は、高い耐熱性を要求するために装置自体のコストが高く、更に、加熱のためのエネルギもまた従来のはんだ付け装置よりも多く必要となり、そのランニングコストも嵩むといった問題がある。
【0005】
以上のような不具合を避けるためには、接合温度をなるべく低くすることが好ましく、そのためには、低融点の新規な接合材の開発が必要である。ここで、従来のはんだ付け装置の使用を前提とすれば、新規な接合材の融点は、Sn−Pb系の共晶はんだの融点程度であってもよいが、地球環境負荷の低減や省エネルギの観点からは、より低い融点の新規な接合材の開発が望まれる。
【0006】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、鉛以外の金属とポリマとからなり、Sn−Pb系の共晶はんだに比べて融点が低い鉛フリー型コンポジット組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の鉛フリー型コンポジット組成物は、アクリレート系ポリマに一様に分散されたSn-In系合金の微粒子を含むことを特徴とする(請求項1)。
この構成によれば、Sn−Pb系の共晶はんだに比べて融点が低い接合材を得ることができる。
【0008】
好ましくは、前記微粒子は、粒径が10〜100nmである構成とする(請求項2)。
【0009】
具体的には、前記Sn-In系合金は、Sn-In-Bi合金であり、前記アクリレート系ポリマは、ポリノルマルブチルアクリレートである構成とする(請求項3)。
より具体的には、前記Sn-In-Bi合金は、57.50重量%のBi、25.20重量%のIn及び17.30重量%のSnからなる構成とする(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るコンポジット組成物は、従来使用されていたSn−Pb系の共晶はんだの融点よりも更に低い融点を有しているので、新規な接合材料として採用することができる。
【0011】
本発明のコンポジット組成物を接合材として使用した場合、接合温度を従来よりも十分低く設定できるので、電子部品の熱劣化は十分に抑えられ、電気・電子機器の品質の向上に寄与する。また、製造設備を高温対応型に変更する必要がなく、製造設備のコストを低く抑えることができるので、全体として電気・電子機器の製造コスト削減にも寄与する。また、加熱温度は低くてすむので、使用エネルギの削減を図ることができ、省エネルギ及び地球環境負荷の低減を実現することができる。しかも、鉛を含んでいないので、自然環境へ悪影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係るコンポジット組成物の構成を拡大して示した概略構成図である。
【図2】示差走査型熱量測定の結果を示すグラフである。
【図3】X線回折測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明者らは、アクリレート系ポリマ中に低融点合金の微粒子を分散させることにより、低融点合金の融点を更に低下させることができるとの知見を得、この知見に基づき本発明はなされたものである。
【0014】
図1に示したように、本発明に係る鉛フリー型コンポジット組成物1は、アクリレート系ポリマ2中に鉛フリーのSn−In系の低融点合金(以下、Sn−In系合金という)の微細粒子3を均一に分散させた形態をとる。
一般に低融点合金とは、Snの融点(230℃)程度より低い融点を持つ合金を指し、主に、多元系共晶組成の合金である。
【0015】
本発明に用いるSn−In系合金としては、例えば、Sn−Inの2元系共晶合金、Sn-In-Biの3元系共晶合金などが挙げられる。具体的には、2元系共晶合金として52重量%のSn、48重量%のInからなる共晶組成のSn−In合金、あるいは、3元系共晶合金として57.50重量%のBi、25.20重量%のIn及び17.30重量%のSnからなる共晶組成のSn-In-Bi合金が使用可能である。ここで、Sn−In合金の融点は119℃であり、Bi-In-Sn合金の融点は80℃である。
【0016】
一方、アクリレート系ポリマは、主鎖にアクリル酸エステルを持つ高分子であり、金属との結合性に優れている。
本発明に適したアクリレート系ポリマとしては、ポリメチルアクリレート(以下、PMAという)、ポリエチルアクリレート(以下、PEAという)、ポリノルマルブチルアクリレート(以下、PnBAという)等が挙げられる。ここで、PMAは、その重量平均分子量及びガラス転移温度がそれぞれ、3.10×10、−27℃である。PEAは、その重量平均分子量及びガラス転移温度がそれぞれ、9.50×10、−39℃である。そして、PnBAは、その重量平均分子量及びガラス転移温度がそれぞれ、9.90×10、−49℃である。
【0017】
次に、本発明の鉛フリー型コンポジット組成物を製造する方法につき以下に説明する。
まず、Sn−In系合金及びアクリレート系ポリマを重量比で5:5となるように調量し、これらを加熱装置付きの容器に収容する。そして、Sn−In系合金とアクリレート系ポリマとを加熱してそれぞれ溶融状態とする。ここで、加熱温度は、Sn−In系合金の融点よりも20℃高い温度とすることが好ましい。この温度に保持して激しく攪拌することにより、上記したアクリレート系ポリマとSn−In系合金のコンポジットを得ることができる。
【0018】
ここで、容器内にて溶融状態にあるアクリレート系ポリマ及びSn−In系合金を激しく攪拌するとき、ホモジナイザを用いて攪拌することが好ましい。これにより、溶融したSn−In系合金は微細化されてアクリレート系ポリマ中に均一に分散する。このとき、Sn−In系合金はナノメートルレベルの滴径に微細化されるのが好ましい。このようにSn−In系合金がナノメートルレベルの滴径を有していれば、Sn−In系合金はアクリレート系ポリマ中にては均質な分散状態を保つことができる。このようにして得られたSn−In系合金及びアクリレート系ポリマの攪拌混合物は、この後、冷却工程を経て本発明の鉛フリー型コンポジット組成物になる。
【0019】
ここで、溶融状態にあるSn−In系合金は温度が低下するに従い、同じく溶融状態にあるアクリレート系ポリマ中にてその結晶化が進行するが、Sn−In系合金とアクリレート系ポリマとの界面では、その相互作用により結晶化が抑制されて合金内部より結晶化速度がより遅くなって金属の結晶成長がし難くなり、粒径が数10nm程度の微細粒子が形成される。この結果、アクリレート系ポリマ中には、数10nm程度の粒径を有する微細粒子が凝集して形成された、粒径が100nm程度のSn−In系合金の微粒子が形成される。ここで、一般的に数10nm程度まで微細化された金属粒子は、バルク状態の金属よりも低い融点を示すことが知られていることから、Sn−In系合金の微細粒子が本発明の鉛フリー型コンポジット組成物の低融点化に大きく寄与しているものと考えられる。
【0020】
(実施例1)
57.50重量%のBi、25.20重量%のIn及び17.30重量%のSnからなる共晶組成のSn-In-Bi合金10gとPnBA10gとを加熱装置付きの容器に収容し、これらを100℃に加熱して溶融させた。得られた溶融物を温度100℃に保持したまま、ホモジナイザにより回転速度3000rpmの条件下で5分間攪拌し、溶融したPnBA中に微細なSn-In-Bi合金を均一に分散させた。その後、室温まで冷却し、鉛フリー型コンポジット組成物(以下、実施例コンポジットという)を得た。
【0021】
実施例コンポジットに対し、示差走査型熱量測定(以下、DSC測定という)を行った。具体的には、DSC測定では、示差走査熱量計にセットされた実施例コンポジットに対し、温度範囲−50〜200℃にて昇温速度20℃/min、降温速度10℃/minで加熱冷却を行い、その際の実施例コンポジットの熱量を測定した。この結果を図2中、実施例コンポジットの昇温時DSC曲線をa、降温時DSC曲線をbで示した。
【0022】
また、実施例コンポジットに対し、X線回折測定(以下、XRD測定という)を行った。具体的には、XRD測定では、X線回折装置を用い、以下の条件下にて測定が行われた。
X線源:CuKα線(λ=1.54Å)、管電圧:40kV、管電流:40mA、測定速度:2θ=2度/min、測定範囲:2θ=15〜40度である。
【0023】
測定結果であるXRDプロファイルを図3に示す。ここで、室温(約25℃)まで冷却した実施例コンポジットのXRDプロファイルをg、−20℃まで冷却した実施例コンポジットのXRDプロファイルをhで示した。図3において、縦軸は、回折X線の強度であり、1秒間に検出器が取り込んだ回折X線数(cps)を示し、横軸は、回折角度(度)を示している。
【0024】
(比較例1)
PnBAの代わりにポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAという)を用い、そして、加熱温度180℃で加熱して溶融させたことを除き、実施例コンポジットと同様にしてコンポジット組成物(以下、比較例コンポジットという)を作製した。なお、PMMAの重量平均分子量は、12.0×10、そのガラス転移温度が−49℃である。
【0025】
比較例コンポジットに対して実施例コンポジットと同様にDSC測定を行い、その結果、即ち、比較例コンポジットの昇温時DSC曲線c、降温時DSC曲線dを図2に併せて示す。
【0026】
(参考例)
Sn-In-Bi合金単独の試料につきDSC測定とXRD測定を行い、その結果を図2、3中に、昇温時DSC曲線e、降温時DSC曲線f、XRDプロファイルiとして併せて示した。
【0027】
図2、3からは以下のことが明らかである。
まず、図2に示すように、Sn-In-Bi合金単独の昇温時DSC曲線eからはその融解ピークが80℃付近に現れており、降温時DSC曲線fからはその結晶化ピークが70℃付近に現れていることがわかる。このことから、Sn-In-Bi合金単独の融点すなわち融解の起こり始める温度は80℃であることがわかる。
【0028】
次に、比較例コンポジットの昇温時DSC曲線cからは融解ピークが80℃付近に現れていることがわかる。このことから、比較例コンポジットは、融点が80℃であることがわかり、Sn-In-Bi合金と同じ融点を有するものといえる。
これに対し、実施例コンポジットの昇温時DSC曲線aからは融解ピークが80℃に加えて70℃にも現れていることがわかる。このことから、実施例コンポジットの融解は70℃から起こり始めるため、融点は、70℃となり、Sn-In-Bi合金の融点よりも10℃ほど低いことがわかる。このことは、PnBAがSn-In-Bi合金の微粒子に対して何らかの作用を及ぼして融点の低い相を形成しているためであると考えられる。
【0029】
一方、図3に示すように、Sn-In-Bi合金のXRDプロファイルiからは、明確な回折ピークを確認することができる。
【0030】
これに対し、室温まで冷却した実施例コンポジットのXRDプロファイルgからは、Sn-In-Bi合金で見られた明確な回折ピークが消失し、金属の結晶化が進んでいないことが確認できる。一方、−20℃まで冷却した実施例コンポジットのXRDプロファイルhからは幅が広いながらも回折ピークが見られ、その結晶化が進んでいると考えられる。しかし、Sn-In-Bi合金の回折パターンで見られた回折ピークとは回折角度が異なることから、実施例コンポジットは、Sn-In-Bi合金とは異なった結晶構造を有し、この結晶構造が実施例コンポジットの低融点化に寄与していると考えられる。
【符号の説明】
【0031】
1 鉛フリー型コンポジット組成物
2 アクリレート系ポリマ
3 Sn-In系合金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリレート系ポリマに一様に分散されたSn-In系合金の微粒子を含むことを特徴とする鉛フリー型コンポジット組成物。
【請求項2】
前記微粒子は、粒径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリー型コンポジット組成物。
【請求項3】
前記Sn-In系合金は、Sn-In-Bi合金であり、
前記アクリレート系ポリマは、ポリノルマルブチルアクリレートである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛フリー型コンポジット組成物。
【請求項4】
前記Sn-In-Bi合金は、
57.50重量%のBi、25.20重量%のIn及び17.30重量%のSnからなる
ことを特徴とする請求項3に記載の鉛フリー型コンポジット組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−255406(P2011−255406A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132855(P2010−132855)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000243906)株式会社メイコー (34)
【Fターム(参考)】