説明

鉛蓄電池

【課題】 高温雰囲気において使用した場合においても減液性能の低下を引き起こさず、メンテナンスフリー性を高めた長寿命の鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 Sbを含まない正極格子体に正極活物質が充填された正極板と、Sbを含まない負極格子体に負極活物質が充填された負極板と、前記正極板と前記負極板の間に設けられたセパレータとを備えた鉛蓄電池であって、前記正極格子体が1.2wt%以上のSnを含むPb−Sn合金母材であり、前記正極格子体が前記正極活物質と接する面の少なくとも一部にSbとSnを含む表面層が備えられ、前記表面層に含まれるSb量が、前記正極活物質量の0.01〜0.2wt%であり、前記表面層に含まれるSb濃度が3.0wt%以下であり、前記表面層に含まれるSn濃度が前記正極格子体に含まれるSn濃度以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジン始動用やバックアップ電源用といった様々な用途に鉛蓄電池が用いられている。その中でも始動用の鉛蓄電池は、エンジン始動用セルモータへの電力供給とともに、車両に搭載された各種電気・電子機器へ電力を供給する。エンジン始動後、電池はオルタネータによって充電される。ここで、電池の充電と放電とがバランスし、電池のSOC(充電状態)が90〜100%に維持されるよう、オルタネータの出力電圧および出力電流が設定されている。
【0003】
一方、車両には各種の電気機器が搭載されており、電気機器の負荷電流がエンジン停止中はもとより、アイドリング中において、オルタネータの発電能力を超える場合がある。このような場合、不足する電力は蓄電池により賄われる。その結果、蓄電池の放電深度はより深くなる傾向にある。
【0004】
さらに、一部の車両を除き、一般的に蓄電池はエンジンルーム内に搭載される。近年、車両の高性能化あるいは小形軽量化により、エンジンルーム内の機器の集積度は高くなる。その結果、蓄電池の使用温度も高くなる傾向にあり、80℃を超えるような温度雰囲気下で用いられることも決して稀ではない。
【0005】
このような、高温雰囲気下においてより深い放電深度で用いられた場合の蓄電池寿命を改善するために、例えば特許文献1には鉛−カルシウム−スズ合金の正極格子表面にスズおよびアンチモンを含有する鉛合金層を形成することが示されている。正極格子表面に存在するスズおよびアンチモンは活物質の劣化および活物質−格子界面での高抵抗層の形成を抑制し、深い放電での寿命特性を改善する。
【0006】
また、特に正極格子表面に配置したアンチモンは、その一部が正極活物質に捕捉されるものの、他の一部はその微量が電解液に溶出し、負極板上に析出する。負極活物質上に析出したアンチモンは負極の充電電位を貴に移行させることによって、充電電圧を低下させる作用を有している。前記したような、定電圧充電制御における充電電圧の低下は充電電流を増大させる。その結果として、正極における充電電気量は確保され、充電不足を要因とする正極の劣化とこれによる蓄電池の短寿命は抑制される。このような構成は、鉛蓄電池の高温雰囲気下における寿命特性の改善の極めて有効であり、一部実用化がなされてきた。
【特許文献1】特開平3−37962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の構成を有した鉛蓄電池は正極格子表面に微量含まれたSbが負極に移行するためにメンテナンスフリー性を損なうこととなる。すなわち、メンテナンスフリー性の中でも自己放電性能の低下は通常想定される車両の走行頻度からみて、実用上問題となることはないが、メンテナンスフリー性のもう一つの指標である減液性能に関して、特に蓄電池の寿命末期に近づくにつれて減液速度が増大するという課題があった。そしてこのような傾向は、蓄電池の使用温度が高温になるにつれ、より加速される。
【0008】
したがって本発明は、高温雰囲気において使用した場合においても減液性能の低下を引
き起こさず、メンテナンスフリー性を高めた長寿命の鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Sbを含まない正極格子体に正極活物質が充填された正極板と、Sbを含まない負極格子体に負極活物質が充填された負極板と、前記正極板と前記負極板の間に設けられたセパレータとを備えた鉛蓄電池であって、前記正極格子体が1.2wt%以上のSnを含むPb−Sn合金母材であり、前記正極格子体が前記正極活物質と接する面の少なくとも一部にSbとSnを含む表面層が備えられ、前記表面層に含まれるSb量が、前記正極活物質量の0.01〜0.2wt%であり、前記表面層に含まれるSb濃度が3.0wt%以下であり、前記表面層に含まれるSn濃度が前記正極格子体に含まれるSn濃度以上であることを特徴とするものであり、寿命末期における減液量の増大を抑制しつつ、高温雰囲気下においても長寿命化を図ることができる。
【0010】
ここで、表面層中のSb濃度が3.0wt%を越える場合、単位時間当たりのSbの溶出速度が増大し、正極活物質で捕捉されずに電解液まで到達したSbが負極に移行し、減液量を増大させると推測され、表面中のSb量が正極活物質の0.25wt%以上の場合、正極活物質が捕捉できるSb量を超え、過剰になったSbが負極に移行し、減液量を増大させると推測できる。
【0011】
本発明では、表面層におけるSb濃度と正極活物質量に対するSb量を規定することによって、減液性能を低下させることなく、Sbによる正極活物質改質による寿命延長効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、高温雰囲気下における寿命特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の鉛蓄電池に用いる正極格子の母材は実質上Sbを含まない鉛合金により作製される。Sbを含まない鉛合金としては、強度および耐腐食性の面でPb−Ca−Sn合金を用いる。正極格子中のCaの量としては格子強度の観点から、0.03〜0.1wt%、Snの量としては格子強度および耐腐食性の観点より、1.2wt%以上が適切である。ここで、正極格子が鋳造格子である場合には、Sn量が2.5wt%以上になると腐食しやすく短寿命となり、正極格子がエキスパンド格子である場合では、Sn量が2.0wt%を越えると合金の延びが減少し、エキスパンド加工時に好ましくない骨切れが生じやすくなる。なお、本発明において、正極格子中に、実質上Sbを含まないとは、0.002wt%以下を意味する。この程度の含有量のSbが正極格子に含まれたとしても、負極にには移行せず、結果として負極における自己放電量や、電解液の減液といった電池のメンテナンスフリー性能に影響を与えることはない。
【0015】
また、本発明においてはこのSbを含まない正極格子の正極活物質と接する表面の少なくとも一部にPb−Sb−Sn合金等のSbとSnとを含む層を形成し、この層中に含まれるSb量を正極活物質に対して0.01〜0.20wt%、好ましくは、0.01〜0.10wt%の範囲とする。また、本発明は正極格子表面のSbを含む層中に少なくとも正極格子母材よりも高濃度のSnを含む。
【0016】
また、格子の作製方法としては、従来から知られている鋳造格子、連続鋳造格子あるいは、上記鉛合金の圧延体にパンチング加工やエキスパンド加工を施した格子体を用いるこ
とができる。これらによって得た格子体にPb−Sb−Sn合金を溶射することによって得ることができる。また、Pb−Sb−Sn合金と格子母材合金を重ね合わせ、両者を一体化したものを用いることも可能である。
【0017】
上記の正極格子体に正極活物質ペーストを充填後、熟成乾燥することにより、未化成状態の正極板を得る。なお、正極活物質ペーストとしては、従来から知られているように、鉛酸化物および金属鉛を成分とする鉛粉を水と希硫酸で練合して得ることができる。本発明では正極活物質量と正極格子表面上に存在するSb量の比率を、Sb量を化成終了後の正極活物質量に対して、0.01〜0.2wt%、好ましくは0.01〜0.1wt%の範囲とする。
【0018】
次に、負極格子体も正極格子体と同様、実質上Sbを含まない鉛合金により作製される。Sbを含まない鉛合金としてはPb−Ca−Sn合金を用いることができるが、負極格子では正極に比較して腐食の影響を受けないので、Snの添加は必ずしも必要ではない。但し、Snは格子強度を向上したり、鋳造格子作製時の溶融鉛の湯流れ性を向上させるので、0.2wt%〜0.6wt%程度添加してもよい。なお、負極格子体中のCa量は正極と同様、格子強度を確保することを主目的として0.03〜0.1wt%添加する。なお、負極格子体におけるSbの存在は直接負極の自己放電と電解液の減液に影響を及ぼすので、0.001wt%以下とする。また、負極格子体の製造方法は、正極格子体と同様の方法とする。
【0019】
このようにして得た負極格子体に負極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥して未化成状態の負極板を作製する。なお、これらの負極板と正極板とを、ガラス繊維やポリプロピレン樹脂繊維等の耐酸性繊維で構成したマットセパレータとを組み合わせて極板群を構成することが好ましい。この極板群を用いて鉛蓄電池を構成することにより、本発明の鉛蓄電池を得ることができる。
【0020】
なお、従来のポリエチレンシート製のセパレータを用いることも勿論、可能であることは言うまでもないが、充放電サイクルを繰返して行うことによって発生する正極活物質の軟化脱落を抑制するために、マットセパレータを用いることが好ましい。
【0021】
具体的な鉛蓄電池の例としては、上述の極板群の6個を電槽に収納し、極板群間を直列に接続した後、電槽開口部を蓋で覆うとともに、直列接続において両端に位置する極板群から導出した極柱を蓋にインサート成形された端子ブッシングに挿通し、端子ブッシングと極柱先端を溶接する。その後、蓋に設けた注液口より希硫酸電解液を注液して、化成充電を行って鉛蓄電池とする。なお、化成充電後において、極板群を構成する正極板および負極板の少なくとも充放電反応に寄与する極板表面がすべて電解液に浸漬した構成を有している。
【実施例1】
【0022】
(実施例1)
Pb−Ca−Sn合金からなる正極板、Pb−Ca−Sn合金からなる負極板およびポリエチレンセパレータを用い、正極格子母材と表面層を表1に示されるものとしたそれぞれの電池を作製した。
【0023】
【表1】

次いで、それぞれの電池に対して寿命試験と減液性能試験を行った。その結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

ここで、寿命試験は、70℃気相中で、25A、4分間放電を行った後14.8V(最大電流25A)、10分間充電を行ったものを一サイクルとし、前記サイクルの480サイクル毎に25℃気相中で、356A、30秒放電時の放電末期電圧を測定し、前記放電末期電圧が7.2Vに低下するまでのサイクル数を寿命サイクル数とした。
【0025】
また、減液性能試験(減液量の測定)は、40℃水槽中で、14.4V(定電圧)、500時間充電を行った後、充電前後における質量減少を減液量とした。なお、表2における初期減液量とは、新しい電池で計測した減液量であり、試験後減液量とは、寿命試験を行った後の電池で計測した減液量である。
【0026】
表2の結果から明らかなように表面層を有さない電池(例えば電池Aや電池H)では、寿命サイクル数の減少が認められる。また、表面層を有している電池であっても正極格子母材に含まれるSn量が0.8wt%の電池(例えば電池F3)では十分なサイクル寿命を得ることができず、表面層中のSb濃度が5.0wt%の電池や正極活物質に対するSb量が0.005wt%あるいは0.25wt%の電池(例えば電池B1や電池B5)では、試験後(すなわち寿命末期)の減液量が大幅に増加しているため、所定期間毎に定期的な液面管理を行っていても、この期間中に液面が最低液面を下回り、負極ストラップや
極板が電解液から露出し、容量低下が急激に進行したり、負極ストラップで腐食が発生するため好ましくない。
【0027】
一方、正極格子母材に含まれるSn量が1.2wt%以上、表面層中のSb量濃度3.0wt%以下、正極活物質に対するSb量が0.01〜0.2wt%である電池(例えば電池B4や電池C4)では、良好なサイクル寿命と減液性能を得ることができる。
【0028】
さらに、正極活物質に対する表面層中のSb量が0.01〜0.1wt%の電池(例えば電池B2)では試験後の減液量を抑制でき、より良好な減液性能を得ることができる。(実施例2)
Pb−Ca−Sn合金からなる正極板、Pb−Ca−Sn合金からなる負極板およびガラスマットセパレータを用い、正極格子母材と表面層を表3に示されるものとしたそれぞれの電池を作製した。
【0029】
【表3】

次いで、それぞれの電池に対して寿命試験と減液性能試験を行った。その結果を表2に示す。
【0030】
【表4】

表2に示される電池H〜電池J5と表4に示される電池K〜電池M5の結果から、ガラスマットを用いた電池K〜電池J5の方が、より良好な寿命特性が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る鉛蓄電池は、高温雰囲気下での寿命特性を向上させることができるので、車両の鉛蓄電池として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sbを含まない正極格子体に正極活物質が充填された正極板と、Sbを含まない負極格子体に負極活物質が充填された負極板と、前記正極板と前記負極板の間に設けられたセパレータとを備えた鉛蓄電池であって、
前記正極格子体が1.2wt%以上のSnを含むPb−Sn合金母材であり、
前記正極格子体が前記正極活物質と接する面の少なくとも一部にSbとSnを含む表面層が備えられ、
前記表面層に含まれるSb量が前記正極活物質量の0.01〜0.2wt%であり、
前記表面層に含まれるSb濃度が3.0wt%以下であり、
前記表面層に含まれるSn濃度が前記正極格子体に含まれるSn濃度以上である鉛蓄電池。
【請求項2】
前記表面層中におけるSb量が前記正極活物質量の0.01〜0.1wt%である請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記セパレータがマットセパレータである請求項1に記載の鉛蓄電池。

【公開番号】特開2006−66253(P2006−66253A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248062(P2004−248062)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】