説明

銀ナノ粒子の製造方法、銀ナノ粒子およびその用途

【課題】硬化膜の比抵抗の良好な銀ペ−スト用銀ナノ粒子(平均粒径1〜20nm)を化学還元法により高収率で製造する方法の提供。
【解決手段】硝酸銀水溶液に化学量論より過剰のアンモニア水を加えて銀錯体を形成し、高分子分散剤が2%以上含有するメチルエチルケトン溶剤中、溶剤と水との比が0.90以上で、温度20〜40℃で、ホルマリン水溶液で還元し銀ナノ粒子を製造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀コロイド溶液の製造方法及びそれから得られる銀ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子の製造方法にはさまざまな方法があるが、その一つとして化学的還元法が挙げられる。得られた銀粒子は電子回路の厚膜形成に適した導電ペ−ストとして使用できる。
【0003】
しかし、該化学的還元方法は、銀粒子径の制御が難しく合成した銀粒子の平均径が約数ミクロンであることより加熱後の銀の融着が不十分となり電気抵抗が高くなる欠点、また接着性が低いという問題があった。更に、回路用途の場合不純物の存在により信頼性低下を引き起こす。この不純物除去のため限外濾過を使用して不純物を除去する方法があるが該設備が必要となりコスト高となるという問題がある。
【特許文献1】特願昭60‐77907号
【特許文献2】特開2004-75703号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、銀の粗大粒子の生成を抑制し、銀ナノ粒子を効率的にかつ安価に環境面の問題無く製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、銀粒子サイズがnmサイズの範囲のものを限外濾過を必要としないで容易に製造できる方法を見出し本発明を完成させた。
【0006】
即ち第一の発明は、 銀ナノ粒子の製造方法であって、硝酸銀水溶液に化学量論量より過剰のアンモニア水を加えて錯体を形成する工程、高分子分散剤及び溶剤を添加する工程、銀イオンをホルマリン水溶液で還元する工程を含み、前記高分子分散剤と前記銀の合計量中に占める銀の含有量が80重量%以下であることを特徴とする平均粒子直径が1〜20nmの銀ナノ粒子の製造方法である。
【0007】
溶剤がメチルエチルケトンであり、銀イオンの還元後、メチルエチルケトン溶剤を二以上の官能基を有する溶剤又は/及び高沸点芳香族系溶剤で置換する工程を含むことは、印刷性を向上し粘度の安定性の点で好ましい態様である。
該高分子分散剤と該銀中の銀の占める割合が、80重量%以下であることは、該銀ナノ粒子の収率アップの点で好ましい態様である。
該高分子分散剤が、溶剤相中に2重量%以上含有する状態で還元を開始するこ
とは銀-高分子分散剤の生成あるいは銀ナノ粒子サイズを安定化する点で好まし
い態様である。
【0008】
該溶剤と水の重量比(溶剤/水)が0.90以上の状態で還元を開始することは、生成する銀-高分子分散剤を溶剤中に溶解させる点で好ましい態様である。
該ホルマリン水溶液で銀イオンを還元する時の温度が、20℃〜40℃であることは、銀ナノ粒子を均一に生成する点で好ましい態様である。
【0009】
第二の発明は、前記の製造方法により製造された銀ナノ粒子であり、第三の発明は、前記の銀ナノ粒子により回路が形成された回路基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により得られた銀ナノ粒子は、平均直径1〜20nmサイズの銀粒子であり、かつ銀収率が高収率で得られる。又、得られた銀粒子を含む銀ペーストを温度250℃で低温焼成することで低い比抵抗値が得られ、回路基板の回路形成用として好適に使用できる。また、化学的還元方法で使用される溶剤等は、再利用可能であり非常に効率的な製造方法である。又、設備が簡単であることより生産効率からも優れた製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、従来からある化学的還元方法で得られる銀粒子サイズを直径数nmオ−ダ−での製造を可能にした画期的な製造方法である。本発明の製造方法は、反応槽がどのような材質であろうが反応槽の内壁への吸着を押さえる事が可能である。通常ガラス製のフラスコを使用して合成するが、還元中に銀の粒子が反応槽に付着すると同時に時間とともに銀の成長が起こり付着量が徐々に増加していく。また、攪拌中に溶剤相に粗大粒子が発生し、収率の低下とともに回路基板用としての価値を損ねるという問題がある。本発明は、このような問題を解決するために鋭意検討したものである。
【0012】
本発明は、硝酸銀水溶液に化学量論量より過剰のアンモニア水を加えて錯体を形成する工程、高分子分散剤及び溶剤を添加する工程、銀イオンをホルマリン水溶液で還元する工程を含み、該高分子分散剤と該銀中の銀の占める割合が80重量%以下であることを特徴とし、溶剤中に平均粒子直径が1〜20nmの銀ナノ粒子を形成させることができる。
【0013】
以下、具体的に本発明を説明するが、下記の例示に限定されるものではない。
まず、ガラス製のフラスコを使用し、硝酸銀水溶液(1Mol/l)を出発原料とし、アンモニア水(29重量%)を添加する。溶液は、透明色から黒色の酸化銀へ変化する。さらに添加していくと透明になり銀の錯体が生成する。この時点が化学
量論量でさらに少量を添加する。さらに過剰のアンモニアを添加する場合は、水
洗による不純物除去、たとえばアンモニアの除去に時間がかかる場合がある。
【0014】
次に、溶剤に溶解させた高分子分散剤と溶剤を添加する。
本発明は、添加する高分子分散剤量は、高分子分散剤量と銀中の銀の占める割合が、80重量%以下にする必要があり、より好ましくは75重量%以下であり、65重量%以上である。この範囲にすることにより直径1〜20nmの銀粒子を高収率で得ることができる。80重量%を超える場合は、高分子分散剤-銀ナノ粒子の凝集が起こり銀ナノ粒子の分離が困難となる傾向にある。
【0015】
本発明で使用する溶剤は、水に一部溶解することのできる溶剤であればよく例えば、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン等々が挙げられる。
本発明で使用する高分子分散剤は、溶剤に2重量%以上可溶であるものが好ましく、例えば、市販品のソルスパ−ス20000、ソルスパ−ス24000、ソルスパ−ス26000、ソルスパ−ス28000、ソルスパ−ス34000、(以上,日本ル−ブリゾ−ル株式会社製)、フロ−レンDOPA-158、フロ−レンDOPA-22、フロ−レンDOPA-17、フロ−レンG-700、フロ−レンTG-720W、フロ−レンTG-730W、フロ−レンTG-740W、フロ−レンTG-745W、(以上、共栄社化学株式会社製)、等が挙げられる。
【0016】
引き続き、37重量%ホルマリン水溶液を添加し、銀錯体を還元すると同時に高分子分散剤により銀ナノ粒子表面に保護膜を形成し銀ナノ粒子を安定化する。還元温度は、20℃〜40℃の間が好ましい。さらに、粗大粒子の発生を抑えて銀収率を挙げるためには、25℃〜35℃がより好ましい。
20℃以下では、反応速度が遅いために銀の収率が悪い場合がある。40℃以上では、反応速度が速いために、粗大粒子が生成する傾向にある。該ホルマリン水溶液の添加量は、化学量論量以上であれば良い。後述するようにアンモニア除去と同様に過剰のホルマリンを洗浄するのに時間を要する点で多すぎると好ましくない。
【0017】
本発明で使用する溶剤は、親水性のメチルエチルケトンが最も適している。
すなわち、メチルエチルケトンは水に約10重量%溶解するため、水相側の銀錯体が銀に還元された際、水相に溶けている高分子分散剤が銀の廻りを保護し溶剤相に移すことが可能になると考えられる。還元開始時の溶剤と水の重量比は、0.90以上が好ましい。重量比が、0.90未満であると黒色の酸化銀の粗大粒子が発生する場合がある。
【0018】
本発明は、高分子分散剤の含有量が溶剤相に2重量%以上含有するように調整するのが好ましい。2重量%以上含むと粒子径は安定になる。高分子分散剤が2重量%未満の場合は、銀の粗大粒子が発生する場合がある。
銀イオンを還元するホルマリンの量は、化学量論量より過剰が好ましい。
ホルマリンは、ホルマリンがアンモニアと反応してウロトロピン生成量が増加し本来必要なホルマリン量が減少するからである。ホルマリンを化学量論量の1.5倍程度使用する場合、銀錯体の還元時に発生するウロトロピンを該錯体が還元された際に生成する蟻酸により分解し、ホルマリンに戻ることにより銀ナノ粒子の収量が増加すると推測できる。粗大銀粒子は、生成するウロトロピンに吸着し、水相に除去される。
本発明は、還元後静置することにより、上層の溶剤相に高分子分散剤で安定化した銀ナノ粒子が生成する。水相には粗大粒子と共に析出したウロトロピンが沈降する。
【0019】
次に、反応槽より分液ロ−トに傾斜あるいは吸引により移液する。傾斜させて移液する方法は、生成したウロトロピンが混入する恐れがあるため吸引して移液する方法が好ましい。又、ヌッチェ等の濾過器による濾過によってもかまわない。移液後、メチルエチルケトン/水=1:1の溶液を供給し、振動させ不純物を水相側に移動させる。水の量を多くすると分離時間が長くなるので好ましくない場合がある。さらに、静置後水相を分離し廃棄する。分離した水に塩酸水溶液を添加して白濁の有無を確認することにより、アンモニアと未反応の硝酸銀を除去できたかを判断する。該操作を繰り返し完全にアンモニアを除去する。アンモニアの除去後、減圧濃縮を行う。この際、トルエン、キシレン等の共沸溶剤を使用する事により水を効率よく除去できる。水を除去後、二つ以上の官能基を持つ溶剤、または/及び高沸点芳香族系化合物を添加し、更にトルエンを適宜添加し減圧濃縮を行うことにより、銀ナノペ−ストが得られる。
【0020】
二つ以上の官能基を持つ溶剤としては、例えばジエチレングリコ−ルモノブチルエ−テルアセタ−ト、ジエチレングリコ−ルモノエチルエ−テルアセタ−ト、エチレングリコ−ルモノブチルエ−テルアセタ−ト、エチレングリコ−ルモノエチルエ−テルアセタ−ト等が挙げられ、高沸点芳香族系溶剤には、市販のスワゾ−ル1500、ソルベントナフサ、ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ペンチルベンゼン、テトラリン、等が挙げられる。
【0021】
本発明に使用する水は、蒸留水以外としては超純水によってもかまわない。しかし、製造コストの面で高くるため余り好ましくない。 比抵抗値の測定は、ポリイミドフィルムに2mm幅で長さ8mmのラインを間隔をあけて、5本をスクリ―ン印刷により形成し250℃で2時間乾燥後、各1本づつ断面積と抵抗値を測定し、計算により求めた。
本発明の銀ナノ粒子の平均粒子直径は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM-2010)により測定した。
本発明で得られた銀収率は、熱分析計(島津製作所製TGA-51)により測定し、計算により求めた。
【0022】
本発明のテープ引き剥がし試験方法は、銀ナノペ−ストをイミドフィルムにスクリ−ン印刷により印刷し、250℃で乾燥後12mmのセロハンテ−プを貼り付け直角に引き剥がすことにより実施した。
【実施例1】
【0023】
以下、実施例により説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
硝酸銀水溶液1mol/lの125gを1lの丸底フラスコに投入し、攪拌速度を180rpmとし、フラスコ内を窒素50ml/分で通気しながら液温を28℃とし、29重量%アンモニア水14gを40分で滴下し、銀錯体を生成後、メチルエチルケトンに溶解した高分子分散剤(ソルスパ−ス24000)10重量%溶液を49gと希釈用の該メチルエチルケトン120gを添加した。さらに、10重量%ホルマリン水溶液33.04gを1時間で添加した。10分後、攪拌を停止し上層の溶剤相を吸引により分液ロ−トに移液し、分離後水を廃棄した。さらにメチルエチルケトン40mlと蒸留水40mlを添加し振動等で液を混合する。混合後静置し、水相部を廃棄する。さらに、この操作を繰り返して該排水中のアンモニア及び硝酸銀が消失するまで繰り返した。アンモニアの確認は、0.1N-HCLにて行った。該排水中の白濁が消失したら移液し、トルエンを100mlを添加し共沸脱水濃縮によりメチルエチルケトンと水を除去した。除去後ブチルカルビト−ルアセテ−ト2gとトルエン100mlを添加し、減圧蒸留により銀ナノ粒子を得た。
【0024】
結果を、表−1に纏めた。銀ナノ粒子の収率は、硝酸銀ベースで70重量%であり、該銀ナノ粒子を透過型電子顕微鏡により測定した結果、平均粒子直径1〜15nmの銀粒子であった。又、得られた銀ナノ粒子を含む銀ナノペースト(銀ナノ粒子:60重量%、高分子分散剤:25重量%、溶剤:15重量%)をポリイミドフィルムに印刷し250℃、2時間乾燥後した。比抵抗値は、2.5μΩcmであった。又、テ−プ引き剥がし試験で剥がれない事がわかり回路基板として適用できる。
【0025】
(実施例2)
還元温度が32℃で、10重量%ホルマリン水溶液を50gにし、メチルエチルケトンを130gにし、メチルエチルケトンを除去した後スワゾ−ル1500を3g添加した以外は、実施例1と同様に製造した。
結果は、表−1に示すように銀ナノペーストの収率は、90重量%で銀ナノペ−ストを透過型電子顕微鏡により測定した結果、平均粒子直径1〜20nmの銀粒子であった。又、ポリイミドフィルムに実施例1と同様の組成の銀ナノペーストを印刷し250℃、2時間乾燥後の比抵抗値を測定したところ、2.7μΩcmであった。又、テ−プ引き剥がし試験で剥がれない事がわかり回路基板として適用できる。
【0026】
(実施例3)
還元温度が23℃である以外は、実施例1と同様に製造した。
結果は、表-1に示すように粒子径が1〜20nmで、銀収率が44重量%で得られた。
【0027】
(比較例1)
還元時の溶剤中の高分子分散剤濃度を1.3重量%とし、メチルエチルケトンを145g添加した以外は、実施例1と同様に製造した。
結果は、表-1に示すように平均粒子径が0.1〜3μmであることより回路基板には不適であった。
【0028】
(比較例2)
10重量%高分子分散剤を19gとし、メチルエチルケトンを90gとし実施例1と同様に製造した。
結果は、表-1に示すように平均粒子径が0.1〜5μmであり、回路基板には不適であった。 以上、結果を表−1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により得られた銀ナノ粒子は、電子回路基板の回路用途に適用できる。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ粒子の製造方法であって、硝酸銀水溶液に化学量論量より過剰のアンモニア水を加えて錯体を形成する工程、高分子分散剤及び溶剤を添加する工程、銀イオンをホルマリン水溶液で還元する工程を含み、前記高分子分散剤と前記銀の合計量中に占める銀の含有量が80重量%以下であることを特徴とする平均粒子直径が1〜20nmの銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
溶剤がメチルエチルケトンであり、銀イオンの還元後、メチルエチルケトン溶剤を二以上の官能基を有する溶剤又は/および高沸点芳香族系溶剤で置換する工程を含むことを特徴する請求項1に記載の銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記高分子分散剤が、溶剤相中に2重量%以上含有する状態で還元を開始することを特徴とする請求項1または2に記載の銀ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤と水の重量比(溶剤/水)が0.90以上の状態で還元を開始することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
還元温度が、20℃〜40℃であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造された平均粒子直径が1〜20nmの銀ナノ粒子。
【請求項7】
請求項6に記載の銀ナノ粒子により回路が形成された回路基板。

【公開番号】特開2006−328472(P2006−328472A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153212(P2005−153212)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】