説明

銀ペースト及びその銀ペーストの製造方法

【課題】微細配線可能で且つ高い接続信頼性を有する導体を形成するための銀ペーストを提供する。
【解決手段】ロッド状銀粉と樹脂成分と有機溶剤とからなる銀ペーストであって、前記ロッド状銀粉の粉粒は針状であり、走査型電子顕微鏡像から判断できる一次粒子の平均長径Lが10μm以下であることを特徴とする銀ペースト等を採用する。特に、前記ロッド状銀粉は、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液に水溶性銀化合物の水溶液を添加し、該銀化合物を銀に還元するのに十分な温度に加熱することにより得られたものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、ロッド状銀粉を含む銀ペーストに関する。特に、低抵抗で且つ接続信頼性に優れた導体を形成出来る銀ペーストを提供する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銀ペーストは、そのペースト内に球状若しくはフレーク状の粉粒形状を持つ銀粉を混合分散させ用いられてきた。そして、その銀ペーストは、一般的な低温焼成セラミック基板の回路形成等の焼成用途の他、特許文献1に開示されているようなプリント配線板の配線回路、ビアホール充填、部品実装用接着剤等の用途において、種々の樹脂成分と一緒に固化して用いる用途が存在している。後者のような用途においては、導電性フィラーとしての銀粉の粉粒同士が焼結することなく、粉粒同士の接触のみで電気的導電性を得るというのが一般的であった。
【0003】
近年は、回路の配線幅や配線膜厚等が著しく微細なものとなってきたため、銀ペーストを用いて形成した導体に対し、より低い電気抵抗率と高い接続信頼性が要求されてきた。従来の銀ペーストは、粉粒同士の接触により導電性を得ているため、さらなる低電気抵抗化を図るためには、粉粒同士の接触面積をさらに増やす必要があるが、一般に、接触面積を増やすために用いられているフレーク状銀粉は、粒子形状が不均一であり、かつ粒度分布が広いことから、さらなる微細配線の形成において、高い接続信頼性を得る事ができない。よって、銀粉の粉粒同士の接触面積を効率良く増やし、かつ微細配線での高い接続信頼を有する銀ペーストへの要求が高まってきた。一般に、この要求に応えるには、接触面積を増やすフレーク状銀粉の形状や粒度分布を均一にする検討がなされてきた。
【0004】
従来の球状銀粉の製造には、特許文献2に記載したように有機還元剤と亜硫酸塩及びアルカリ若しくはアルカリ塩でpH調整した溶液を還元反応温度10℃〜50℃で反応させ、銀粉末を得て銀ペーストに加工して用いられてきた。
【0005】
また、銀ペーストを焼成して得られる導体の低抵抗化を図るため、他の手段として特許文献3にあるように、粉粒同士の接触面積の広く取れるフレーク銀粉(鱗片状銀粉)の使用も検討されてきた。フレーク銀粉は、銀粉の粉粒を物理的に塑性加工して押しつぶすことにより製造されるものであり、鱗片状銀粉と表現されることもある。確かに、フレーク銀粉は、その形状から容易に考えられるように、粉粒同士の接触面積を広く確保できるため焼成導体の低抵抗化には有効なものであった。
【0006】
更に、銀粉として、非特許文献1に開示されたようなロッド状銀粉が知られていたが、あくまでも実験的に製造可能なものと言われ、その量産手法に関しては、何ら確立されておらず、その使用方法に関しても確立されていなかった。
【特許文献1】特開2001−107101号公報
【特許文献2】特開平04−059904号公報
【特許文献3】特開平10−183209号公報
【非特許文献1】スギモト タダオ編、“ポリオール プロセス”、「ファイン パーティクルス(FINE PARTICLES)」(米国)、マーセル・デッカ一社(Marcel Dekker,Inc.)、2000年、p461−496
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の銀ペースト技術において、銀ペーストを用いて形成する導体の低電気抵抗化を目指す場合には、銀ペースト内の銀粉の含有量を増加させ、導体密度を向上させ対応するのが一般的であるが、製品価格の上昇及び資源の無駄遣いを極力避ける観点から好ましくない。更に、銀粉の種類に応じて以下に述べるような問題があり、市場の要求を満足できるものではなかった。
【0008】
従来の球状銀粉の持つ問題: 従来の銀粉を含んだ銀ペーストを用いた回路形成においては、加熱温度が300℃以下という非焼成若しくは低温焼成型の用途が多く、低抵抗化には粉粒同士の接触面積を増やす事が好ましいとされてきた。しかし、球状銀粉の接触面積を著しく増やすことは、その物理的形状から不可能である。そのため、ペースト中の銀粉含有量を増加させ導体を形成しても、得られた導体中の銀粉同士の接触密度が著しく向上することはなく、低抵抗化を図ることができなかった。球状銀粉を単独で用いる銀ペーストの場合、低電気抵抗化のみを考えると導体中の銀含有量が95wt%前後となるように設計せざるを得なかった。
【0009】
従来のフレーク銀粉の持つ問題: 従来のフレーク銀粉を用いて銀ペーストに加工し、導体を形成すると、その形状故に導体密度を向上させ、導体の低電気抵抗化が可能であった。このフレーク銀粉を用いる銀ペーストの場合、低電気抵抗化のみを考えるとフレーク銀粉の含有量が90wt%〜95wt%程度となるものが採用されてきた。従来のフレーク銀粉を用いる限り、近年のファインピッチ化した回路形成等には全く対応できない銀ペーストしか得られないのである。なぜなら、従来の製造方法で得られる銀粉の粉粒中には、粒子径が10μmを超える粗粒を含んでいる。その結果、スクリーン印刷法を用いて、微細回路を精度良く描こうとしても、スクリーンが目詰まりを起こし、回路断線を引き起こす可能性が高くなるのである。そして、従来のフレーク銀粉は、略球状の粉粒を物理的に塑性変形して製造する物であり、出来上がるフレーク銀粉の粉粒形状を制御することが困難であり、粉粒の凝集を防止するために添加する滑剤による粉粒表面の汚染があり、不純物含有量が多くなると言う欠点が存在していた。
【0010】
以上に述べた球状銀粉及びフレーク銀粉の持つ欠点は、その粉体特性及び粉粒の物理的形状に依存するところが大きく、今後の微細配線でかつ高い信頼性を有する導体を形成するための銀ペーストを作成するという点に関しての、根本的な問題解決は困難と判断出来る。ところが、市場では、国際的な技術競争や価格競争を勝ち抜いていくために、銀ペーストを用いて形成する導体のさらなる微細化と低抵抗化や、より安価で経済的な銀ペーストの製造が可能な銀粉を求める声が高くなってきている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下に述べるロッド銀粉を導電性フィラーとして用いた銀ペーストを採用することで、従来にない銀ペーストを得るに到ったのである。以下、「銀ペースト」と「銀ペーストの製造方法」とに分けて説明する。
【0012】
<銀ペースト>
本件発明に係る銀ペーストは、ロッド状銀粉と樹脂成分と有機溶剤とからなる銀ペーストにおいて、前記ロッド状銀粉の粉粒は針状であり、走査型電子顕微鏡像から判断できる一次粒子の平均長径Lが10μm以下である。
【0013】
ペーストを構成するロッド状銀粉: このロッド状銀粉の粉粒は、文字通り「ロッド(竿)」の形状を備えている。このロッド状銀粉の走査型電子顕微鏡像を図1に示している。本件発明で、ロッド状銀粉を用いたのは、粉粒形状が非常に特異な形状をしており、その粉粒同士の接触点が、ロッド状銀粉の粉粒の長径方向に沿った距離分確保できる。そのため、銀ペースト中の含有量が低くとも、銀ペーストに加工して形成した導体回路の電気的導通性を確実に確保し、回路の導電信頼性を高めることができるからである。
【0014】
そして、次に走査型電子顕微鏡像の画像により得られる一次粒子の平均長径Lが10μm以下という微粒のロッド状銀粉としての粉体特性が求められるのである。このように長い長径を持つことにより、粉粒同士の接触点が増加し、銀ペーストに加工したときの銀粉含有量が低くとも電気的導通特性に優れた導体形成が可能となるのである。そして、ロッド状銀粉の粉粒の平均長径が10μmを超えると、以下に述べる銀ペーストに加工して、スクリーン印刷法で回路形状を形成しようとしたときのスクリーンの目詰まりが飛躍的に起こりやすくなるのである。ここで、平均長径Lとは、走査型電子顕微鏡像の画像により得られる50個の一次粒子の長径を測定し、平均して求めた長径のことである。更に、ロッド状銀粉の粉粒の平均長径が8.0μm以下となると、銀ペーストで形成した回路形状をファインピッチ化することが可能となり好ましい。更に、ロッド状銀粉の粉粒の平均長径が5.0μm以下となると、焼成加工したときの導体の表面粗さが飛躍的に滑らかなものとなり更に好ましいのである。
【0015】
更に、ロッド状銀粉を構成する粉粒には、比表面積が3.0m/g以下であるという粉体特性を備えることが好ましい。この比表面積は、実測した比表面積であり、ロッド銀粉試料2.00gを150℃で1時間の減圧による脱気処理を行った後、モノソーブ(カンタクロム社製)を用いてBET1点法で測定したものである。比表面積の値が大きな場合には、ペースト化したときのペースト粘度が高くなり、銀ペーストの取扱が困難となる。ここで言うロッド状銀粉の表面状態は比較的に滑らかであるが、比表面積が3.0m/gを超えるとペースト粘度が増大する傾向が顕著になるのである。更に、比表面積が2.5m/g以下となると、ペーストを構成する有機剤の種類によらず低粘度化が達成できるので、より好ましいものとなる。
【0016】
更に、前記ロッド状銀粉の粉粒の結晶子径(111)は30nm以上である事が好ましいのである。ここで結晶子径を、「結晶子(111)」と標記したのは、X線回折による(111)面のシグナル強度を持って換算したときの結晶子径を用いたのである。通常の大半の微細配線用途のペーストに用いられる球状銀粉やフレーク銀粉は、平均粒子径が0.3〜2μm程度であり、この粒子径範囲の結晶子径(111)は、10nm〜30nmレベルであり、これに比べれば、本件発明に係るロッド状銀粉の結晶子径は非常に大きなものであると言える。本件発明で用いたロッド状銀粉は、その粒子の長径が長くなるほど、結晶子径も大きくなる。従って、逆に考えれば、ロッド状銀粉の粒子が微粒化すればするほど、結晶子径が30nmに近づくのである。このことから、以下に述べる製造方法において、一方向凝固法と同様に、一定の結晶方向に配向した電気化学的結晶成長が起こることでロッド状となっていると推測出来る。
【0017】
この結晶子径は、電気抵抗率と耐熱収縮性との相関関係が一般的に言われている。即ち、結晶子径が大きな程、電気抵抗率が低くなり、また、耐熱収縮性に優れていると言われる。即ち、結晶子径が大きな銀粉を用いて銀ペーストを製造し、この銀ペーストで導体形成を行った場合、低抵抗率化が達成でき、かつ、焼成前後の回路形状の寸法安定変化率が小さくなり寸法安定性に優れるものとなる。本件発明に係るロッド状銀粉の場合、この優れた導体の低抵抗率化と耐熱収縮特性が得られるものと考えられる。
【0018】
また、ロッド状銀粉のみを用いた銀ペーストの場合、その特異な形状と高い結晶性から、得られた導体中の銀粉含有量が90wt%以下であっても、微細配線用途に十分な低抵抗化が可能であり、良好な導電性を備える導体を得る事が可能となるのである。
【0019】
ペーストを構成する樹脂成分: 本来であれば、銀ペーストを構成する樹脂成分を特に限定する必要は無いと考える。しかしながら、上述した如き微粒のロッド状銀粉をフィラーとして用いることを前提に、ロッド状銀粉の良好な分散性を確保できる組成を採用しなければならない。また、本件発明に係る銀ペーストはファインピッチな回路形成が可能でかつ、低抵抗化となることを目的としており、採用される焼成温度以下で溶媒が除去でき、しかもファインピッチ回路形成用途に適したペースト性能を確保できる樹脂組成を採用しなければならない。
【0020】
これらのことを考慮して、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂から選ばれる1種以上を含む組成を採用するのが望ましいのである。
【0021】
これらの樹脂成分を、より具体的に特定すれば、次のようになる。a)エポキシ樹脂とは、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ノボラック型、クレゾールノボラック型、グリシジルアミン型、グリシジルエーテル型、脂肪族型、複素環式型エポキシ樹脂等である。
【0022】
b)ポリエステル樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレングリコールマレエートフタレート、ポリプロピレングリコールフマレートフタレート、ポリプロピレングリコールマレート、ポリプロピレングリコールフマレート、ポリプロピレングリコールアジペートマレート等のジカルボン酸とグリコールの重合物等である。
【0023】
そして、ここで言うポリエステルの合成には、以下に述べるジカルボン酸類とグリコール類とを縮合反応させて得られるのであることが望ましいのである。ジカルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、炭素数12〜28の2塩基酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3ーシクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、2−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールA、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールS、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸、水素添加ナフタレンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸等である。
【0024】
グリコールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール等を用いるのである。
【0025】
c)ケイ素樹脂とは、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アルキッド変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、メチルスチリル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等である。
【0026】
d)ユリア樹脂とは、アミン変性ユリア樹脂、ブタノール変性ユリア樹脂等である。
【0027】
e)アクリル樹脂とは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリイタコン酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリイタコン酸塩等である。
【0028】
f)セルロース樹脂とは、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、アセチルセルロース等である。
【0029】
これらは1種でも2種以上を同時に用いても構わないのである。これらに関しても、分散させる銀粉が容易に分散し、且つ、銀粉の粉粒表面の変質を防止することが可能だからである。
【0030】
銀粉とペーストとの配合バランス: 更に、本件発明に係る銀ペーストのロッド状銀粉と有機成分との配合バランスを適正なものとしなければ、良好な回路形状を形成できるものとはならない。そこで、本件発明者等が、鋭意研究の結果、銀ペーストを用いて導体を形成し、その後180℃程度で焼成して得られた導体中のロッド状銀粉含有量が、75wt%以上、より好ましくは80〜93wt%の範囲にあれば、良好な回路等の導体形成が可能と判断したのである。ロッド状銀粉の含有量が75wt%未満の場合には、いかに分散性が高く微粒のロッド状銀粉を用いても、焼成して形成した回路等の膜密度が低下し比抵抗が高くなるのである。そして、ロッド状銀粉の含有量が93wt%を超えると、銀ペーストの粘度が急激に上昇し、ファインピッチ回路形状等を形成するには使いづらい銀ペーストとなる。仮に、粘度を下げるために銀ペースト作製時に溶剤を多く添加すると、形成した回路の膜密度が低くなり、結果的に比抵抗が高くなるのである。
【発明の効果】
【0031】
本件発明に係るロッド状銀粒子を用いた銀ペーストは、従来の銀粉を用いた銀ペーストと比べ、フィラーであるロッド状銀粒子の結晶子径が高いことから、当該粒子自体の電気抵抗が低く、当該粒子の含有量が低くとも、形成した導体が良好な電気的導電性を示すものとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
<ロッド状銀粉の製造方法>
本件発明に係る銀ペーストは、銀粉に、ロッド状銀粉を用いることが前提である。しかも、上述の銀ペースト製造方法の説明から理解できるように、当初から粒度分布に優れ且つ高分散のロッド状銀粉を使用することができれば、極めて有利なものとなる。従って、以下に述べる手法で得られるロッド状銀粉を用いることが好ましいのである。
【0033】
本件発明者等は銀化合物の還元について鋭意検討した結果、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液中で水溶性銀化合物を還元することにより、粒度分布に優れ且つ高分散のロッド状銀粉が得られることを見いだした。即ち、本件発明のロッド状銀粒子の製造方法は、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液に水溶性銀化合物の水溶液を添加し、該銀化合物を銀に還元するのに十分な温度に加熱することを特徴とする。
【0034】
本件発明の製造方法で用いることができる分散剤として、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)等の含窒素有機化合物や、ポリビニルアルコールを挙げることができ、ポリビニルピロリドンを好適に用いることができる。
【0035】
本件発明の製造方法においては、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液中の分散剤の量が1,3−ブタンジオールの質量基準で0.005質量%以上、好ましくは0.01〜5質量%であることが好適である。分散剤の量が0.005質量%未満である場合には、本件発明で目的としている生産性の高さが不十分となる傾向があり、また生成するロッド状銀粒子の形状がイビツになる傾向もある。逆に、5質量%を超えても、生産性の点でそれに見合った効果は得られないだけでなく、反応系の粘度が高くなり、生成銀の回収に不利となる傾向がある。
【0036】
また、本件発明の製造方法においては、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液に添加する水溶性銀化合物水溶液の添加量が銀換算で1,3−ブタンジオールの質量基準で0.1〜10質量%となり且つ分散剤の質量基準で0.5〜50倍となる量であることが好ましい。水溶性銀化合物水溶液の添加量が上記の範囲よりも少ない場合には、本件発明で目的としている生産性の高さが不十分となる傾向がある。逆に、水溶性銀化合物水溶液の添加量が上記の範囲より多くても、それに見合った効果は得られない傾向がある。
【0037】
本件発明の製造方法においては、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液に、室温で又は所望により該混合溶液を40〜70℃に加熱した後に、水溶性銀化合物の水溶液を添加する。その後、銀化合物を銀に還元するのに十分な温度に加熱する必要がある。この加熱温度は、好ましくは、85℃以上で、分散剤の沸点又は分解温度と1,3一ブタンジオールの沸点との内で一番低い温度未満であり、より好ましくは100〜160℃程度である。従って、分散剤として、その沸点又は分解温度がこの加熱温度よりも高いものを用いる。また、本件発明の製造方法においては、ロッド状銀粒子の成長を確実にするために銀化合物を銀に還元するのに十分な温度に10分間以上保持することが好ましい。なお、本件発明の製造方法で用いることができる水溶性銀化合物として、例えば硝酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、シアノ銀酸塩、銀アンミン錯体等を挙げることができる。
【0038】
以上に述べてきた銀粉製造方法により得られた銀粉は、走査型電子顕微鏡像の画像解析により得られる一次粒子の長径が8.0μm以下であり、極めて細いというロッド状銀粉であり、しかも良好な分散性を備える。ペースト加工して、その銀ペーストを用いて形成する回路をファインピッチ化し、形成した回路の導電性確保が容易となるのである。
【0039】
<銀ペーストの製造>
上述のような製造方法で得られたロッド状銀粉と上述の有機剤(樹脂成分と溶剤とを含む)との混合方法に関して、特に制限はなく常法を適用することができる。
【0040】
本件発明に係る銀ペーストは、内包されているロッド状銀粉が、従来に無い微粒且つ高分散の銀粉であるため、微粒で且つ有機剤への優れた分散性を示すため、ファインピッチ回路の形成に最適で、形成した導体の比抵抗を小さくすることが可能となる。
【0041】
以下、実施例と比較例とを対比しつつ、より詳細に説明することとする。
【実施例】
【0042】
ロッド状銀粉の製造: 50mlビーカーに1,3−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製)44.53g及びポリビニルピロリドンK30(和光純薬工業株式会社製)0.09gを加え、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、溶解させた。この溶液をホットスターラーで加熱して50℃になった段階で、この溶液に、硝酸銀(大浦貴金属工業株式会社製)0.67gと超純水1.00gとからなる水溶液を滴下し、その溶液温度が120℃になるまで加熱してその温度に維持した。120℃に到達した30分後にサンプリングを行い、反応進行状態を銀イオンメーター(堀場製作所製のF−23)を用いて確認した。このときの反応前理論銀イオン濃度は9381ppm、30分反応後の銀イオン濃度310ppmであり、反応率96.70%であり、120℃に到達した30分後には反応は実質的に終了していた。
【0043】
以上のようにして得られたロッド状銀粉を分取するため、ヌッチェを用いて濾過し、100mlの水と50mlのメタノールとを用いて洗浄し、更に70℃×5時間の乾燥を行た。この得られたロッド状銀粉の一次粒子の平均長径Lが5.3μm、比表面積が2.28m/g、粉粒の結晶子径(111)が108.7nmであった。そして、得られたロッド銀粉の粉粒の走査型電子顕微鏡像が図1に示すものである。
【0044】
銀ペーストの製造: 脂環式エポキシ樹脂(日本化薬社製:AK−601)6.19gと酸無水物系硬化剤(日本化薬社製:カヤハードMCD)1.43gと、アミンアダクト型硬化剤(味の素ファインテクノ社製:アミキュアMY−24)0.38gと、粘度調整剤としてα−ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)をロッド状銀粉の含有率に応じて適宜用い、パドル型混練機で5分間混練した後、上記ロッド状銀粉を加え、さらに10分間混練した。そして、得られた混練物を引き続き3本ロールで混練した後、脱泡機(シンキー社製:AR−250)を用いて混練物中に含まれる気泡を除去し、銀ペーストAを得た。このときの銀ペーストAは、ロッド状銀粉の含有率を92.2wt%、88wt%、85wt%と変化させ、銀ペーストA−1、銀ペーストA−2、銀ペーストA−3の三種類の銀ペーストとした。
【0045】
得られたそれぞれの銀ペーストを、スクリーン印刷機を用いて配線幅50μm、配線と配線の間隔を50μmとしアルミナ基板に印刷したところ、配線の断線やニジミが無い良好な印刷性を示した。また、スクリーン印刷機に用いたスクリーンを顕微鏡により観察した結果、スクリーンの目に銀粉は全く目詰まりしていない事を確認した。
【0046】
引き続きスクリーン印刷機を用いて、アルミナ基板上に比抵抗測定用のサンプルとして、縦4cm×横3cmの条件で、上記銀ペーストを印刷した後、温度180℃の条件で1時間乾燥させた。このようにして得られた乾燥膜の表面抵抗を4探針抵抗測定器(三菱化学社製:ロレスタGP)で測定し、また、乾燥膜の膜厚をデジタル膜厚計で測定し、比抵抗を算出した。その結果、銀ペーストA−1を用いた場合の比抵抗は、5.59×10−5Ω・cm、銀ペーストA−2を用いた場合の比抵抗は、6.94×10−4Ω・cm、銀ペーストA−3を用いた場合の比抵抗は、1.16×10−3Ω・cmであった。
【比較例】
【0047】
この比較例では、実施例のロッド状銀粉に代えて、球状銀粉(平均粒径:1.65μm、結晶子径(111):12.1nm)を用い、その他の条件は実施例と同様に、球状銀粉の含有率を92.2wt%、88wt%、85wt%と変化させ、銀ペーストI、銀ペーストII、銀ペーストIIIの三種類の銀ペーストとした。そして、実施例と同様の比抵抗評価を行った。従って、ここでは球状銀粉の製造に関してのみ説明する。
【0048】
球状銀粉の製造: まず最初に、63.3gの硝酸銀を1.0リットルの純水に溶解させ硝酸銀水溶液を調製し、これに250mlの25wt%濃度アンモニア水を一括で添加して攪拌することにより銀アンミン錯体水溶液を得たのである。
【0049】
そして、この銀アンミン錯体溶液を反応槽に入れ、ここに還元剤として21gのヒドロキノンを1.3リットルの純水に溶解させたヒドロキノン水溶液を一括で添加して、液温を20℃に維持して攪拌し反応させることで銀粉を還元析出させた。
【0050】
以上のようにして得られた微粒銀粉を、ヌッチェを用いて濾過し、100mlの水と50mlのメタノールとを用いて洗浄し、更に70℃×5時間の乾燥を行い球状銀粉を得たのである。この得られた球状銀粉の一次粒子の平均粒径1.65μm、比表面積が0.4m/g、粉粒の結晶子径(111)が12.1nmであった。そして、得られたロッド銀粉の粉粒の走査型電子顕微鏡像が図1に示すものである。以下、球状銀粉の含有率を上記のように変化させ、銀ペーストI、銀ペーストII、銀ペーストIIIの三種類の銀ペーストとした。
【0051】
得られたそれぞれの銀ペーストを、スクリーン印刷機を用いて配線幅50μm、配線と配線の間隔を50μmとしアルミナ基板に印刷したところ、配線の断線やニジミが無い良好な印刷性を示した。また、スクリーン印刷機に用いたスクリーンを顕微鏡により観察した結果、スクリーンの目に対する目詰まりは全くしていない事が確認できた。
【0052】
引き続きスクリーン印刷機を用いて、アルミナ基板上に比抵抗測定用のサンプルとして、縦4cm×横3cmの条件で、上記銀ペーストを印刷した後、温度180℃の条件で1時間乾燥させた。このようにして得られた乾燥膜の表面抵抗を4探針抵抗測定器(三菱化学社製:ロレスタGP)で測定し、また、乾燥膜の膜厚をデジタル膜厚計で測定し、比抵抗を算出した。その結果、銀ペーストIを用いた場合の比抵抗は1.56×10+4Ω・cm、銀ペーストII及び銀ペーストIIIを用いた場合の比抵抗の測定は出来なかった。
【0053】
<実施例と比較例との対比>
上記実施例と比較例との比抵抗の値を対比すれば、比較例の場合の導体の比抵抗がかなり高くなっていることが明らかである。しかも、比較例の場合には、球状銀粉の含有量が90wt%以下になると、180℃×1時間の乾燥膜での抵抗測定は不可能となり、導体の電気的導電性が得られないことが理解出来るのである。これに対し、実施例のロッド状銀粉を用いると、銀ペースト内の含有率が90wt%未満の領域でも、導体の良好な電気的導電性能を得ることが可能であることが理解出来る。
【参考例】
【0054】
(参考例1)
銀粉の製造: ここでのロッド状銀粉の製造は、ポリビニルピロリドンK30の量を0.09gから0.05gに変更した以外は実施例と同様に処理したものである。このときの反応前理論銀イオン濃度は9381ppm、30分反応後の銀イオン濃度185ppmであり、反応率98.03%であった。120℃に到達した30分後には反応は実質的に終了していた。この得られたロッド状銀粉の一次粒子の平均長径Lが7.3μm、比表面積が2.34m/g、粉粒の結晶子径(111)が107.5nmであった。そして、得られたロッド銀粉の粉粒の走査型電子顕微鏡像が図2に示すものである。
【0055】
銀ペーストの製造: 脂環式エポキシ樹脂(日本化薬社製:AK−601)6.19gと酸無水物系硬化剤(日本化薬社製:カヤハードMCD)1.43gと、アミンアダクト型硬化剤(味の素ファインテクノ社製:アミキュアMY−24)0.38gと、粘度調整剤としてα−ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)をロッド状銀粉の含有率に応じて適宜用い、パドル型混練機で5分間混練した後、上記ロッド状銀粉を加え、さらに10分間混練した。そして、得られた混練物を引き続き3本ロールで混練した後、脱泡機(シンキー社製:AR−250)を用いて混練物中に含まれる気泡を除去し、銀ペーストBを得た。このときの銀ペーストAは、ロッド状銀粉の含有率を88wt%とした。
【0056】
この得られた銀ペーストBを、スクリーン印刷機を用いて配線幅50μm、配線間ギャップを50μmとしアルミナ基板に印刷したところ、配線の断線やニジミが無い良好な印刷性を示した。また、スクリーン印刷機に用いた版を顕微鏡により観察した結果、版に銀粉が全く目詰まりしていない事を確認した。
【0057】
更に、スクリーン印刷機を用いて、アルミナ基板上に比抵抗測定用のサンプルとして、縦4cm×横3cmの条件で銀ペーストBを印刷した後、温度180℃の条件で1時間乾燥させた。このとき得られた乾燥膜の表面抵抗を4探針抵抗測定器(三菱化学社製:ロレスタGP)で測定し、また、乾燥膜の膜厚をデジタル膜厚計で測定し、比抵抗を算出した。その結果、比抵抗は2.49×10−4Ω・cmであった。
【0058】
(参考例2)
銀粉の製造: ここでの銀粉の製造は、実施例と共通するため、重複した説明を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0059】
銀ペーストの製造: エチルセルロース(和光純薬社製)1.5gと粘度調整剤としてα−ターピネオール(ヤスハラケミカル製)28.5gとロッド状銀粉とをパドル型混練機で10分間混練した。
【0060】
このようにして得られた混練物を引き続き3本ロールで混練した後、脱泡機(シンキー社製:AR−250)を用いて混練物中に含まれる気泡を除去し、銀ペーストCを得た。このときの銀ペーストCは、ロッド状銀粉の含有率を88wt%とした。この銀ペーストCを、スクリーン印刷機を用いて配線幅50μm、配線間ギャップ50μmとしアルミナ基板に印刷したところ、配線の断線やニジミが無い良好な印刷性を示した。また、スクリーン印刷機に用いた版を顕微鏡により観察した結果、版に銀粉が全く目詰まりしていない事を確認した。
【0061】
更に、スクリーン印刷機を用いて、アルミナ基板上に比抵抗測定用のサンプルとして、縦4cm×横3cmの条件で銀ペーストCを印刷した後、温度180℃の条件で1時間乾燥させた。このようにして得られた乾燥膜の表面抵抗を4探針抵抗測定器(三菱化学社製:ロレスタGP)で測定し、また、乾燥膜の膜厚をデジタル膜厚計で測定し、比抵抗を算出した。その結果、比抵抗は5.37×10−3Ω・cmであった。
【0062】
(参考例3)
銀粉の製造: ここでの銀粉の製造は、実施例と共通するため、重複した説明を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0063】
銀ペーストの製造: アクリル酸エステルポリマー(日本純薬社製:ジュリマーAT−510)0.6gとオキサゾリン基含有ポリマー(日本触媒社製:エポクロスWS−500)0.6gとα−ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)28.7gと上記ロッド状銀粉をパドル型混練機で10分間混練し、銀ペーストDを得た。このときの銀ペーストDは、ロッド状銀粉の含有率を88wt%とした。
【0064】
このようにして得られた銀ペーストDを、スクリーン印刷機を用いて配線幅50μm、配線と配線の間隔を50μmとしアルミナ基板に印刷したところ、配線の断線やニジミが無い良好な印刷性を示した。また、スクリーン印刷機に用いた版を顕微鏡により観察した結果、版に銀粉が全く目詰まりしていない事を確認した。
【0065】
更に、引き続きスクリーン印刷機を用いて、アルミナ基板上に比抵抗測定用のサンプルとして、縦4cm×横3cmの条件で銀ペーストDを印刷した後、温度180℃の条件で1時間乾燥させた。このようにして得られた乾燥膜の表面抵抗を4探針抵抗測定器(三菱化学社製:ロレスタLP)で測定し、また、乾燥膜の膜厚をデジタル膜厚計で測定し、比抵抗を算出した。その結果、比抵抗は2.25×10−3Ω・cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本件発明に係る銀ペーストは、結晶子径の大きな高結晶性のロッド状銀粒子をフィラーとして含有するため、銀ペースト中のロッド状銀粒子の含有量が低くとも、形成した導体の導電性を確保し、且つ当該導体の低抵抗化が図れ、同時に良好な耐熱収縮性能が得られる。従って、高価な素材である銀の使用量の低減が可能であり、安価で且つ高品質な低抵抗導体を備える回路基板等の市場供給が可能となる。
【0067】
また、本件発明に係る銀ペーストの製造方法を用いることで、有機剤中での銀粒子の分散性に優れた銀ペーストを効率よく得ることができ、高品質の焼成導体形成用の銀ペーストを安定して生産でき、安価に市場に供給することが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本件発明に係るロッド状銀粉の走査型電子顕微鏡像。
【図2】本件発明に係るロッド状銀粉の走査型電子顕微鏡像。
【図3】比較例で用いた球状銀粉の走査電子顕微鏡観察像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド状銀粉と樹脂成分と有機溶剤とからなる銀ペーストであって、
前記ロッド状銀粉の粉粒は針状であり、走査型電子顕微鏡像から判断できる一次粒子の平均長径Lが10μm以下であることを特徴とする銀ペースト。
【請求項2】
前記ロッド状銀粉は、比表面積が3.0m/g以下である請求項1に記載の銀ペースト。
【請求項3】
前記ロッド状銀粉は、粉粒の結晶子径(111)が30nm以上である請求項1又は請求項2に記載の銀ペースト。
【請求項4】
前記ロッド状銀粉は、1,3−ブタンジオールと分散剤との混合溶液に水溶性銀化合物の水溶液を添加し、該銀化合物を銀に還元するのに十分な温度に加熱することにより得られたものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の銀ペースト。
【請求項5】
前記樹脂成分は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂から選ばれる1種以上を含むものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の銀ペースト。
【請求項6】
ロッド銀粉の含有量が50wt%〜95wt%である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の銀ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−40650(P2006−40650A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216705(P2004−216705)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】