説明

銀付調皮革様シート

【課題】 長期間の使用後においても型崩れしない等、形態安定性に優れ、ソフトで緻密な折れシボを有し、高級感に優れた、乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いることのできる銀付調皮革様シートを提供する。
【解決手段】 高分子弾性体が含有された基体層および銀面層からなる皮革様シートであって、該基体層が銀面層に近い側から、極細繊維からなる不織布層(1)、織編物層(A)、極細繊維からなる不織布層(2)からなり、かつ、不織布層(1)の厚みが不織布層(2)の厚みより小さいことを特徴とする皮革様シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折れシボが良好で、長期間の使用後においても型崩れが少なく、ソフトな風合いを有する、自動車用シート等の乗物用座席に用いられる上張材やクッションシート、ソファーおよび椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いられる銀付調皮革様シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用シートに代表される乗物用座席やインテリア製品は、織編物を繊維質基体としてその上に離型紙とポリウレタンを用いた乾式造面処理による銀面層を形成した銀付調皮革様シートや、該織編物上に予め発泡層を形成し、さらにその上に乾式造面処理による銀面層を形成した銀付調皮革様シートを多く採用しているが、上記銀付調皮革様シートはいずれも天然皮革のような緻密な折れシボを有したものではなかった。
【0003】
一方、繊維不織布を基材とした皮革様シート、特に極細繊維不織布を基材とした皮革様シートは天然皮革に近似したソフトで充実感のある風合いから、用途を問わず高級素材として採用されている。しかし該基材が極細繊維不織布のみからなるものは、繰り返しの荷重等の負荷により容易に変形しやすいという問題がある。例えば、上記基材が極細繊維不織布のみからなる皮革様シートを椅子の上張材に使用した場合、長期間、繰り返し体重がかかるため、上張材に使用されている皮革様シートが歪みを生じやすいという問題もある。このような問題に対して、織編物を該皮革様シート裏面に貼り合わせることで克服することは可能である。しかしながら、風合いが硬くなり、また裏面側が伸び難く、表面を内側に折った場合に大きな座屈した皺やシボが発生し、複雑なデザインを有するものには、粗い皺が生じるため商品価値が落ちる場合が多い。特に基材の表面に乾式造面処理をして、裏面に布張りを行って伸び止めをした銀付調皮革様シートは、風合いは硬く、折れシボが粗くなる傾向がある。また、繊維不織布と編織物を積層したものを基材として皮革様シートを製造する方法も公知である(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、得られる皮革様シートは伸止め感や機械物性は良好であるものの、未だ緻密な折れシボを有する銀付調皮革様シートは得られていない。
また、ポリウレタン弾性長繊維を集積してなる長繊維フリースの少なくとも片面に、螺旋捲縮を持つ短繊維を集積してなる短繊維ウェブを積層し、該短繊維をニードリングによって、絡合させた伸縮性不織布を皮革様シート用基体とする方法が提案されている(特許文献2を参照。)。また、第1層が短繊維ウエッブ、第2層がエラストマーからなる伸縮性不織布、第3層が短繊維ウエッブであり、第1層と第3層の繊維は第2層を貫通し部分的に交絡しており、第1層及び/又は第3層の単繊維間が接着剤及び/又は熱融着で部分的にドット接着され、伸縮性を少なくとも1方向で保持していることを特徴とする伸縮性不織布を用いた皮革様シートが提案されている(特許文献3を参照。)。しかしながら得られた皮革様シートは、伸縮性に優れ、毛羽抜け性に優れるものの、銀付調皮革様シートとして高級感のある緻密な折れシボを有するものは得られなかった。
【0004】
【特許文献1】特公平4−1113号公報
【特許文献2】特開平4−257363号公報
【特許文献3】特開平7−70902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車に代表される高級化志向に伴い、インテリア、自動車用座席、航空機用座席および船舶用座席などの乗物用座席の上張材や、クッションシート、ソファーおよび椅子などのインテリア家具の上張材の分野では、風合いがソフトで高級感のある緻密な折れシボを有し、耐表面耐摩耗性が良好で、長期間の使用後においても伸びやつぶれ等の型崩れが無く、座屈感のあるしわやシボの発生の無い高い形態安定性を兼ね備えた銀付調皮革様シートが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するに際し、鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、高分子弾性体が含有された繊維質基体層および銀面層からなる銀付調皮革様シートであって、該繊維質基体層が、銀面層に近い側から順に極細繊維からなる不織布層(1)、織編物層(A)および極細繊維からなる不織布層(2)から構成され、かつ、極細繊維からなる不織布層(1)の厚みが極細繊維からなる不織布層(2)の厚みより小さいことを特徴とする銀付調皮革様シートである。そして、織編物層(A)と極細繊維からなる不織布層(1)または極細繊維からなる不織布層(2)のいずれかの間にポリウレタンシート(B)が挿入されていることが好ましく、高分子弾性体が水系のポリウレタンエマルジョンから形成されたものであることが好ましく、極細繊維からなる不織布層(1)と極細繊維からなる不織布層(2)の厚みの比率が(1)/(2)=0.9〜0.1であることが好ましい。また、銀面層の最表層がシリコン変性ポリウレタンからなることが好ましく、銀面層の厚みが10〜150μmであることが好ましい。そして上記の銀付調皮革様シートが上張材として用いられている乗物用座席である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、長期間の使用後においても型崩れしない等、形態安定性に優れ、緻密で細かい折れシボを有し、高級感に優れ、ソフトで良好な風合を有する銀付調皮革様シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられる極細繊維からなる不織布層(1)および不織布層(2)を構成する繊維は、特に制約は無いが、銀付調皮革様シートを形成した場合に天然皮革様の細かい折れシボと天然皮革様の風合いが得られる点から、単繊維繊度0.5dtex以下の極細繊維またはその繊維束を主体とする構成が好ましい。そして、得られる皮革様シートの機械物性および剥離物性を考慮すると短繊維繊度は0.0001dtex以上であることが好ましい。
極細繊維は、公知の紡糸方法で得られるものが使用でき、特に限定されるものではない。例えば単成分ポリマーを用いた直接紡糸から得られる極細繊維でもよいし、少なくとも2種類のポリマーからなる極細繊維発生型の複合繊維から極細化処理後に得られる極細繊維であってもよい。極細繊維発生型の複合繊維とは、例えば、海成分が溶剤または分解することで残った島成分がフィブリル化する海島型複合繊維で代表される抽出型複合繊維や、機械的・物理的な方法や分割処理剤による化学的な方法によって各ポリマーからなる極細繊維にフィブリル化する剥離分割型複合繊維等が挙げられる。極細繊維発生型の複合繊維は、紡糸後、必要に応じて延伸、熱処理、機械捲縮、カット等の処理工程を経て、繊度1〜15dtexの短繊維とした後でカード法などの公知の方法によりウェブを形成するか、あるいはスパンボンド法などの公知の方法で長繊維のままウェブとする。極細繊維を構成するポリマーとしては、紡糸可能なポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロンなどの溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、またはそれらの共重合体の溶融紡糸可能なポリエステル類から選ばれる少なくとも1種類のポリマーが得られる皮革様シートの物性や風合等を兼ね備える点で好ましく用いられる。また、抽出型複合繊維で抽出または分解除去される成分は、極細繊維成分と溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性を異にし、極細繊維成分との相溶性の小さいポリマーであり、かつ紡糸条件下で極細繊維成分より溶融粘度が小さいかあるいは表面張力が小さいポリマーである必要があるが、本発明においては環境汚染、溶解時の収縮特性等総合的に考慮すれば熱溶融・熱水溶解可能なポリビニルアルコールを用いることがより好ましい。さらに、上記極細繊維成分には、本発明の効果を損なわない限りにおいてカーボンブラックや酸化チタン等に代表される無機顔料や有機顔料の添加により紡糸時点で着色することや、あるいは公知の繊維用添加剤を配合して使用することができる。例えば、触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、滑剤、防汚剤、蛍光増白剤、艶消剤、光沢改良剤、制電剤、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤、無機微粒子などが含まれてもよい。
【0009】
一方、本発明に用いられる織編物(A)の組織は、特に限定しない。また織編物(A)を構成する繊維は、本発明の銀付調皮革様シートにした場合に目的の用途における実用上の強度が得られるかぎり、特に限定することはなく、公知のポリマーから構成される繊維を用いることが可能である。また、織物を構成する糸としては、モノフィラメント糸や紡績糸でもよいが、使用する糸番手に対する織編物自体の風合いや物性とのバランスの観点からマルチフィラメント糸が好ましい。繊維を複数本束ねたマルチフィラメント糸により織編物を構成する際には、糸が解れないように撚りをかけたり糊剤を付与したりするのが好ましく、その糸の撚り数は特に制限は無いが、得られる銀付調皮革様シートの風合いの点から10〜2000T/mの撚り数であることが好ましく、100〜1000T/mであることがより好ましい。また、糸番手としては、目的により適宜変更可能であるが、通常30dtexから200dtexのものが用いられる。上記番手が200dtexを越すと得られる銀付調皮革様シートは風合いが硬く、また、厚みの薄いものが得られにくい。また30dtexより細い場合、必要な強度を得るためには織本数を高くする必要があるが、その場合、ニードルパンチ法および/または高圧水流処理法で不織布との絡合処理を行う際に、不織布と織編物が一体化されにくい。上記範囲内での糸番手の糸をマルチフィラメント糸とする場合には、1本辺りのフィラメント数は6〜100本の範囲で設定することが好ましい。フィラメント数を6本より少なくすることで糸自体は柔らかくなる傾向があるが、糸物性は低下してしまい、また後述する貫通処理工程の際に糸が損傷し易くなる傾向も見られ、また100本より多くすることで風合が劣る傾向や、糸番手を一定にすると一本あたりの繊維の繊度を小さく抑えなければならないといった問題がある。また、糸を構成するフィラメントとして、前記した極細繊維発生型の複合繊維を用いて、貫通工程の後の何れかの段階でこれを極細化することは、マルチフィラメント糸をさらに多くのフィラメント数からなるフィラメント糸とすることができるので、貫通工程時の糸損傷を極力回避しつつ銀付調皮革様シートとして風合いが良好なものを得ることもできるので好ましい方法の1つである。織編物の目付は、得られる銀付調皮革様シートの風合いの観点から、30〜200g/mが好ましい。目付が30g/m未満の場合、織編物の強度が不足し、また、糸ずれにより織編物の形態が崩れやすくなる。また、200g/mを超える場合、得られる銀付調皮革様シートの風合いが硬くなりやすく、かつ、織編物と不織布の一体化が得られにくい。また、織密度に関しては、目付けとの関係もあるが、風合、絡合安定性および物性等を兼ね備えた点で、タテヨコ共に20〜100本/inchであることが好ましい。
【0010】
本発明の繊維質基体層は、銀面層に近い側から順に極細繊維からなる不織布層(1)、織編物層(A)および極細繊維からなる不織布層(2)から構成されるが、織編物層(A)と極細繊維からなる不織布層(1)または極細繊維からなる不織布層(2)のいずれかの間にポリウレタンシート(B)を挿入することが工程の収縮しわ、折れシボおよび折れしわが緻密になる点で好ましい。
本発明に用いられるポリウレタンシート(B)の形状は不織布あるいはフィルムの何れも使用でき特に限定するものではないが、挿入後の絡合処理の安定性、風合いおよび繊維質基材層表面の平滑性の点で不織布が好ましく用いられる。不織布の製造方法は特に限定することはないが、例えば後述するようなメルトブローン方式で得ることができる。
ポリウレタンシート(B)を構成するポリウレタンとしては、炭素数2〜12の脂肪族ジオールまたは脂環族ジオール、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖状又は側鎖状の脂肪族ジオール、或は脂環族ジオールから選ばれた少なくとも1種類のジオールと、脂肪族ジカルボン酸、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、又はそれらジカルボン酸のエステルなどから選ばれた少なくとも1種類のジカルボン酸或はそのエステルとを反応させて得た平均分子量600〜3000のポリエステルジオールと、有機ジイソシアネートとして、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族又は脂環族のジイソシアネートを主体とした有機ジイソシアネート、それに必要に応じて脂肪族ジイソシアネート又はナフタリン環を有するジイソシアネートから選ばれた有機ジイソシアネートと、活性水素原子を2個有する低分子化合物、例えば、ジオール、アミノアルコール、ヒドラジン、ジアミンなどから選ばれた鎖伸長剤を反応させることにより得られるポリウレタンを用いることが好ましい。反応方法としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤を所望の組成比で選び、溶融重合法、塊状重合法あるいは溶液重合法などによる重合反応が挙げられ、このようにして熱可塑性ポリウレタンを製造する。使用するポリウレタンの種類としては、上記ポリエステル系ポリウレタンに限定されるものではなく、目的に応じてポリエーテル系、ポリカーボネート系、又はそれらの共重合体や混合物が適宜選択される。
【0011】
さらに、ポリウレタンシート(B)用のポリウレタンは、引張りによる動的粘弾性測定(周波数11Hz)される貯蔵弾性率の温度依存性においてゴム状平坦領域の終点として求まる熱軟化温度が、100〜220℃の範囲で設定した温度となるように適宜設計し、製造することが好ましい。熱軟化温度は、特にポリウレタンの分子量や、ポリウレタンの組成においてハードセグメントである前記有機ジイソシアネートと鎖伸長剤の種類、および比率への依存性が高く、ポリウレタンシート(B)の形成性や目的とする物性、さらには銀付調皮革様シートの製造工程における極細繊維との接着性のコントロール性との兼ね合いで適宜設定するのが好ましい。
【0012】
これらの熱可塑性ポリウレタンからなる均一性の良い不織布を得るためには、ポリウレタン製造時の組成において、ソフトセグメントとなるポリマージオールの含有量が45〜75質量%となるようにすることがより好ましい。また、鎖伸長剤は特に低分子量の脂肪族ジオール又はイソホロンジアミンから選ばれた化合物を主体とした鎖伸長剤を用いて重合したポリウレタンであって、ポリウレタンの固有粘度〔η〕が0.5〜1.5dl/gの範囲となるように重合度を調整することが特に好ましい。ポリウレタン中のソフトセグメントの含有量が45質量%に満たない場合は、溶融ポリマーの紡糸性や極細化の点では良いが、柔軟化、伸縮性、形態の安定化、面の平滑性などの点で好ましくない。また、ソフトセグメントの含有量が75質量%を越えて多くなると、柔軟性の点では良いが、紡糸性、極細化が悪くなる。一方、ポリウレタンの固有粘度〔η〕が0.5より小さい場合には紡糸性が低下するとともに極細化が困難となる。また、ポリウレタンの固有粘度〔η〕が1.5より大きい場合には溶融粘度が高くなり良好な繊維流の形成が得られない。また、上記ポリウレタンに適量のブロッキング防止剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤等の添加剤を加えることもできる。
上記ポリウレタンからなる不織布を得るためのメルトブローン方式としては、紡糸温度を220〜280℃の範囲内で、ポリウレタンの溶融粘度が500ポイズ以下となるように設定し、所望のポリウレタン不織布層の目付となるよう噴出空気量を設定する。
【0013】
ポリウレタンシート(B)の目付は10〜150g/mの範囲が好ましい。10g/m以上とすることで銀付調皮革様シートに十分な伸縮性を付与することができ、平滑性や折れシボの緻密さが良好となる。又、150g/m以下とすることで、銀付調皮革様シートが重くなることを防ぎ、さらには風合いもゴムライクにならないことから商品価値が上がる。
【0014】
次に、上記極細繊維あるいは極細繊維発生型の複合繊維を用いて前述の通り、例えば、短繊維であればカードで解繊後、ウェッバーを通してウェブを形成し、また、長繊維であればスパンボンド法などにより紡糸と同時にウェブを形成し、ウェブ(1)およびウェブ(2)を形成する。得られたウェブは、所望の重さ、厚さに積層し、必要に応じてニードルパンチ、高速水流などの公知の方法により仮絡合処理が行われた後、あるいは行わない状態、即ちウェブの状態の不織布で、不織布(1)および不織布(2)とする。そして、不織布(1)、織編物(A)および不織布(2)を順次積層する。そして、好ましくは、さらに織編物層(A)と極細繊維からなる不織布層(1)または織編物層(A)と極細繊維からなる不織布層(2)の間にポリウレタンシート(B)を挿入する。上記ウェブの目付は、それぞれ目的とする銀付調皮革様シートの目付に応じて設定されるが、ウェブ(1)およびウェブ(2)の目付けはそれぞれ80〜2000g/mの範囲が好ましく、100〜1500g/mの範囲が工程通過性および風合等が良好な点でより好ましい。また、織編物(A)との絡合性確保や工程通過安定性の点から、織編物(A)と積層する前のそれぞれのウェブに対し、パンチ数20〜100パンチ/cmの範囲のニードルパンチ処理を施し、仮絡合処理を行うことが好ましい。なお、ここでいうパンチ数とは、ニードルパンチ処理工程を通してウェブの単位面積当たりに突き刺したフェルト針の累計本数であり、例えばフェルト針が10本/cmの密度で配置されたニードルボードをウェブへ50回突き刺せば、そのニードルパンチ処理工程でのパンチ数は500パンチ/cmである。
【0015】
前述の通り、繊維質基体層を構成する不織布(1)、不織布(2)、ポリウレタンシート(B)および織編物(A)の積層形態は、不織布(1)−織編物(A)−ポリウレタンシート(B)―不織布(2)、または不織布(1)−ポリウレタンシート(B)−織編物(A)―不織布(2)となる。そして、得られる銀付調皮革様シートを構成する繊維質基体層が、銀面層に近い側から順に極細繊維からなる不織布層(1)、織編物層(A)および極細繊維からなる不織布層(2)から構成され、かつ、極細繊維からなる不織布層(1)の厚みが極細繊維からなる不織布層(2)の厚みより小さいことが重要である。そして、ポリウレタンシート(B)が挿入された場合でも同様である。極細繊維からなる不織布層(1)の厚みが極細繊維からなる不織布層(2)の厚み以上に厚い場合には銀面層を内側に折った場合に大きく落ち込んだ座屈シボやシワが発生する。そして、極細繊維からなる不織布層(1)と極細繊維からなる不織布層(2)の厚みの比率が(1)/(2)=0.9〜0.1であることが表面の平滑性と細かで緻密な折れシボや折れシワが得られる点で好ましく、(1)/(2)=0.2〜0.7であることがより好ましい。上記範囲にする為には、絡合状態や銀付調皮革様シートの厚みによって一概には決まらないが、不織布(2)の目付けを不織布(1)の目付けより50g/m以上増やすことが好ましく、また、不織布(2)の厚みを不織布(1)の厚みより0.1mm以上厚くすることが好ましい。
【0016】
不織布(1)、不織布(2)、ポリウレタンシート(B)および織編物(A)の絡合一体化は、特に方法を制限するものでは無いが、不織布(1)および不織布(2)として高目付の不織布を使用する場合、不織布(1)、不織布(2)自身を効果的に絡合させつつ、同時に3層あるいは4層を絡合一体化させるのに好ましい方法としてはニードルパンチ法が挙げられる。ニードルパンチ処理する際のパンチ数は、上記3層あるいは4層を絡合一体化させるために、300〜4000パンチ/cmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜3500パンチ/cmの範囲である。300パンチ/cm未満では、絡合一体化が不充分であり、4000パンチ/cmを超えると不織布(1)、不織布(2)および織編物(A)を構成する繊維のニードルによる損傷が目立つようになり、ひどい場合には物性が大幅に低下してしまうこともある。ニードルパンチ処理における針の突き刺し深さは、最終的に得られる銀付調皮革様シートとしての機械物性の観点から、不織布(1)および不織布(2)の繊維がそれぞれポリウレタンシート(B)および織編物(A)を貫通する必要があるため、不織布(1)および不織布(2)の側からニードルパンチする場合、針のバーブが少なくともポリウレタンシート(B)および織編物(A)を貫通する深さに設定しておく必要がある。
ついで、上記絡合一体化して得られた繊維質基体は、必要性に応じて、繊維質基体の厚さ方向にプレスして繊維質基体の平滑性を向上させる。プレスの方法は、2本の加熱ロール間を通す方法、予熱状態にした繊維質基体を冷却ロール間に通す方法等の従来公知の方法が利用できる。
【0017】
上記積層し絡合一体化された繊維質基体に、さらに高分子弾性体を含有することが、天然皮革様の風合いおよび充実感と機械的物性の向上の点で重要である。高分子弾性体としては、風合いや充実感の点でポリウレタンが好ましい。また、高分子弾性体の付与方法としては、高分子弾性体の溶液、分散液、溶融液などを含浸または塗布する方法が挙げられる。付与する繊維質基体がポリウレタンシート(B)を有していない場合、公知の高分子弾性体の溶液、分散液、溶融液を含浸・凝固させる方法が用いられる。また繊維質基体ポリウレタンシート(B)を有する場合、ポリウレタンシート(B)を構成するポリウレタンを必要以上に溶解させてしまうような溶剤を使用した高分子弾性体溶液の使用は好ましくない。更に、環境に配慮する点で溶剤系の高分子弾性体は好ましくい。従って、付与する高分子弾性体がポリウレタンである場合には、ポリウレタンの非溶剤、即ち水を主体とする液体にポリウレタンを分散させた水系のポリウレタンエマルジョンを用いることが好ましい。
【0018】
上記高分子弾性体には、必要に応じてカーボンブラックや顔料などの着色剤、増粘剤、酸化防止剤、分散安定剤等の添加剤を配合することができる。繊維質基体層に占める高分子弾性体の比率は、例えばポリウレタンの場合、得られた銀付調皮革様シートに柔軟な風合いと弾性回復性を持たせるために、極細繊維化する前の段階において、固形分として質量比で5〜50%、好ましくは10〜40%の範囲で含有させることが好ましい。ポリウレタン比率が5%未満の場合には、緻密な弾性体スポンジ(多孔構造)が形成されにくく、柔軟な風合いが得られにくいのみならず、機械物性等が低下する場合がある。ポリウレタン比率が50%を超える場合には、風合いがゴムライクになるので本発明が目的とする用途における素材として適さない場合が多い、また織編物(A)による型崩れ防止効果を阻害する傾向もみられる。
【0019】
不織布(1)および不織布(2)を構成する繊維が極細繊維であれば、そのまま不織布(1)および不織布(2)は極細繊維からなる不織布層(1)および極細繊維からなる不織布層(2)となるが、不織布(1)および不織布(2)を構成する繊維が極細繊維発生型の複合繊維である場合、例えば、該複合繊維が海島型複合繊維で代表される抽出型複合繊維の場合、繊維構成ポリマーのうちの少なくとも1成分(海島型複合繊維の場合には、海成分構成ポリマー)を溶解剤若しくは分解剤で処理して、また、剥離分割型複合繊維の場合、または機械的若しくは化学的処理により各ポリマーからなる極細繊維あるいは極細繊維束に変性することで、不織布(1)および不織布(2)を極細繊維からなる不織布層(1)および極細繊維からなる不織布層(2)とすることができる。同様に、織編物(A)も例えば上記極細繊維発生型繊維から構成されている場合、極細繊維に変性することで織編物層(A)とすることができる。
そして、極細繊維発生型の複合繊維の上記極細化変性処理は、高分子弾性体を付与する前あるいは後いずれであっても良く、また、高分子弾性体の付与処理は、極細繊維あるいはその繊維束に変性する前にいったん付与して、変性処理後に追加付与(二段付与)を行っても良い。但し、風合いの点からは変性処理前に高分子弾性体を付与することが好ましい。
繊維質基体層の厚みは、得られる銀付調皮革様シートの用途等によって任意に選択でき、特に制限されるものではないが、その厚みは0.3〜10mm程度であることが好ましく、0.4〜5mm程度であることがより好ましい。見掛け密度は0.20〜0.80g/cmが好ましく、0.30〜0.70g/cmが更に好ましい。0.20g/cm未満であると細かな折れ皺が得られにくく、さらに機械物性も低下する傾向がある。0.80g/cmを超えると得られる銀付調皮革シートの風合いが硬くなる傾向がある。
【0020】
上記で得られた繊維質基体層は、そのままの状態で、あるいは本発明の構成および効果を損なわないようにスライス、バフィング等により所望の厚みに調整した後、繊維質基体層を構成する極細繊維からなる不織布層(1)側に銀面層を形成する必要がある。銀面層を構成する高分子弾性体は、銀付調皮革様シートの銀面層を構成する公知の高分子弾性体であれば特に限定するものではないが、風合や物性を兼ね備える点でポリウレタンが好ましく用いられる。そして、そのなかでもシリコン変性ポリウレタンを銀面層の最表層に用いることが、得られる銀付調皮革様シートの耐摩耗性に優れる点で好ましく用いられる。銀面層を形成する高分子弾性体には、必要に応じて、耐光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、防黴剤、浸透剤、レベリング剤、増粘剤、感熱ゲル化剤、造膜助剤、架橋剤、染料、顔料、充填剤などの1種または2種以上を含有していてもよい。
銀面層の形成方法に関しては、湿式造面方法、乾式造面方法および溶融造面方法等で代表される公知の形成方法であれば特に限定するものではないが、銀面層を形成する高分子弾性体の塗布量は固型分で10〜300g/mとすることが好ましく、銀面層の厚みは30〜150μmであることが風合いや表面物性及び折れシボが良好となる点で好ましい。
また、離型紙を用いない場合、エンボス加工により所望の型押しを行うことができる。そして、裏面側の外観や風合いを目的として、起毛しても良い。
得られた銀付調皮革様シートの厚みは、使用目的によっても異なるが、座席の上張材として使用する場合、0.4〜3.0mmであることが好ましく、見掛け密度は充実感、ドレープ性、優れた機械的物性をもたらす点で0.2〜0.8g/cmであることが好ましい。
【0021】
以下、本発明は実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部、%等の量、比率に関する記載は断わりが無い限りすべて質量に関するものである。
【0022】
[銀面層および各不織布層の厚み測定]
それぞれの厚みは、銀付調皮革様シートの断面を走査型電子顕微鏡で50倍に拡大撮影し、任意の10点を選び、厚み測定を行いそれら平均値で算出した。
【0023】
[折れシボ性評価]
人工皮革の製造に従事している者が、得られた銀付調皮革様シートを銀面層方向に曲げるように折込んだときの外観の評価を以下の方法で評価した。
○:緻密で細かい折れシボや折れしわが発生するもの
×:座屈感のある大きな折れシボや大きく深いしわが発生するもの
【0024】
[極細繊維発生型繊維の製造]
エチレン単位10モル%含有、けん化度98.4モル%、融点206℃のポリビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製 エクセバール)(以下、PVAと称することもある)チップを海成分に用い、固有粘度0.65(フェノ−ル/テトラクロロエタンの等質量混合溶液にて30℃で測定)のイソフタル酸8モル%含有したポリエチレンテレフタレ−ト(融点234℃)チップを島成分とし、島成分が37島となるような溶融複合紡糸用口金(0.25φ、550ホール)を用い、海成分/島成分比率=30/70の比率、口金温度250℃で吐出し紡糸した。該紡糸繊維をローラープレート方式で通常の条件により延伸して海島型複合繊維を得た。紡糸性、連続ランニング性、延伸性は良好で全く問題がなかった。この海島型複合繊維を、捲縮機で捲縮を付与し51mmにカットしてステープル化した。この海島型複合繊維からなるステープルは単繊度4.13dtex、強度3.2cN/dtex、伸度40%と良好であった。
【0025】
[織物の作成]
80dtex/36fの仮撚り加工を施したポリエステル製の糸に、600T/mの追加撚糸加工をした後、織り密度82本×76本/inchで織り加工を行い、目付50g/mの平織物(A)を得た。
【0026】
[ポリウレタン不織布の作成]
平均分子量1150のポリ3−メチル−1,5ペンチルアジペートグリコールと、平均分子量2000のポリエチレングリコールと4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび1,4−ブタンジオールを0.9:0.1:4:3のモル比(イソシアネート基に基づく理論窒素量4.63%)で仕込みスクリュー式混練型重合機を用い溶融重合法でポリウレタンを重合した。このポリウレタンの熱軟化温度は125℃であった。得られたポリウレタンは溶融状態のままメルトブロ−法で、温度260℃に加熱したダイオリフィスの両側にあるスロットから温度260℃に加熱した高速空気流で繊維状溶融ポリウレタンを微細繊維状に搬送し、2m/分で移動する金網上に捕集距離40cmの位置で捕集した。捕集したウェブは微細繊維のランダムウェブであり、平均目付35g/m、平均厚み1.2mm見かけ密度0.25g/cmのポリウレタンのメルトブローン不織布を得た。
【実施例1】
【0027】
極細繊維発生型繊維として、上記海島型複合繊維からなるステープルを使用して、カード、クロスラッパーの工程を経て、ウェブを作成し、仮絡合処理として40パンチ/cmのニードルパンチ処理を行い、目付120g/mの不織布(1)および目付312g/mの不織布(2)を得た。
上記で得られた不織布(1)、不織布(2)および平織物(A)を不織布(1)−平織物(A)―不織布(2)の順に積層し、シングルバーブのフェルト針を使用して、不織布(1)側及び(2)側から交互に平織物をそれぞれのバーブが貫通するようにパンチ数が合計で1500パンチ/cmとなるようにニードルパンチを行い、不織布(1)、不織布(2)および平織物(A)を絡合一体化させて、目付502g/mの繊維質基体を得た。
得られた繊維質基体を200℃の熱風中で加熱し、その後金属プレスロールで目付けを669g/m、見かけ密度を0.45g/cm、厚みを1.48mmとした後、高分子弾性体として、水系のポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン14%液(日華化学株式会社製 エバファノールAP−12)を上記繊維質基体に含浸後、ピックアップ率120%になるようにマングルで絞り、付着量を繊維質基体に対して16.8%となるように調整した。その後連続的にピンテンター乾燥機で150℃、7分間加熱乾燥した。
【0028】
この繊維質基体を更に熱水90℃中でディップニップを繰り返し、海成分のPVAを除去後、乾燥機で140℃、5分間加熱乾燥し、厚さ1.33mm、目付け604g/mのポリウレタンが含有された繊維質基体を得た。得られた繊維質基体の不織布層を構成している繊維の単繊維繊度は0.07dtexであった。繊維質基体をサンドペーパーを用いて、不織布(1)側の面より0.08mmmm、不織布(2)側の面より0.05mm研削を行い、厚み1.2mmの繊維質基体を得た。走査電子顕微鏡を用いて、繊維質基体を構成する不織布層(1)および不織布層(2)の厚みを測定した結果、平織物を間にして不織布層(1)の厚みが0.20mm、不織布層(2)の厚みが0.85mmであった。
【0029】
この繊維質基体を次の組成の柔軟処理溶液を含浸倍率60%にして含浸付与して、乾燥機で120℃乾燥して柔軟処理した。
柔軟処理溶液組成
ニッカシリコンAM−204(日華化学株式会社製) 15部
ラステックスLB (大京化学株式会社製) 15部
水 70部
【0030】
柔軟化した繊維質基体の不織布層(1)側に、離型紙DE―43K(大日本印刷株式会社製)を用いて次の条件で乾式造面を行い、60℃で48時間熟成を行った後に離型紙を剥がして銀面層を形成した銀付調皮革様シートを得た。
最表層
WET塗布量 115g/m
組成
クリスボンNY−324(シリコン変性Pu大日本インキ化学工業株式会社製) 100部
ダイラックL−1770S(大日本インキ化学工業株式会社製) 20部
イソプロピアルコール 10部
トルエン 10部
ジメチルホルムアミド 10部
中間層
WET塗布量 135g/m
NY−324(大日本インキ化学工業株式会社製) 100部
ダイラック L−1770S(大日本インキ化学工業株式会社製) 20部
イソプロピアルコール 10部
トルエン 10部
ジメチルホルムアミド 10部
接着層
WET塗布量 180g/m
クリスボンTA−205(ポリカーボネート系Pu:大日本インキ化学工業株式会社製)100部
バーノック950(架橋剤(大日本インキ化学工業株式会社製)) 10部
アクセルT(架橋促進剤(大日本インキ化学工業株式会社製)) 2部
メチルエチルケトン 25部
ジメチルホルムアミド 25部
【0031】
得られた銀付調皮革様シートをさらに機械揉み機による揉み加工を行った。得られた銀付調皮革様シートは、柔軟で銀面側に折りまげた時も緻密で細かな折れシボおよび折れしわを有するものであった。得られた銀付調皮革様シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ上層より、銀面層75μm、不織布層(1)0.2mm、平織物層0.15mm、不織布層(2)0.85mm(不織布層(1)厚み/不織布層(2)厚み=0.24)、全層の厚みが1.27mmであった。
さらに上記銀付調皮革様シートを自動車の座席の上張材として使用したところ、2ヶ月間の使用においても型崩れが殆んど無いものであり、また銀面層の表面外観も目視したところ摩耗したような部分は見当たらなかった。
【実施例2】
【0032】
実施例1で得られた不織布(1)、不織布(2)および平織物(A)とポリウレタン不織布(B)を不織布(1)−ポリウレタン不織布(B)−平織物(A)―不織布(2)の順に積層し、シングルバーブのフェルト針を使用して、不織布(1)側および不織布(2)側から交互に平織物およびポリウレタン不織布(B)をバーブがそれぞれ貫通するように、そしてパンチ数が合計で2000パンチ/cmとなるようにニードルパンチを行い、不織布(1)、不織布(2)、ポリウレタン不織布(B)および平織物(A)を絡合一体化させて、目付537g/mの繊維質基体を得た
得られた繊維質基体を200℃の熱風中で加熱し、その後金属プレスロールでプレスを行い繊維質基体の表面を平滑すると同時にポリウレタン不織布(B)を溶融した。
得られた繊維質基体の見掛け密度は0.45g/cm、厚みは1.51mm、目付けは704g/mであった。その後、高分子弾性体として、水系のポリエーテル系ポリウレタンエマルジョン28%液(日華化学株式会社製 エバファノールAP−12)を上記繊維質基体に含浸後ピックアップ率65%になるようにマングルで絞り付着量を繊維質基体に対して18.2%となるように調整した。その後連続的にピンテンター乾燥機で150℃、7分間加熱乾燥した。
【0033】
この繊維質基体を更に熱水90℃中で浸漬絞液を繰り返し、海成分のPVAを除去後、乾燥機で140℃、5分間加熱乾燥し、厚さ1.36mm、目付け653g/mのポリウレタンが含有された不織布層を構成している繊維の単繊維繊度が0.07dtexからなる繊維質基体を得た。繊維質基体をサンドペーパーを用いて、不織布(1)側の面より0.08mm 不織布(2)側の面より0.05mm研削を行い、1.23mmの繊維質基体を得た。走査型電子顕微鏡を用いて繊維質基体を構成する不織布層(1)および不織布層(2)の厚みを測定した結果、平織物を間にして不織布層(1)の厚みが0.28mm、不織布層(2)の厚みが0.88mmであった。
【0034】
得られた繊維質基体に次の柔軟処理溶液を含浸倍率60%にして含浸付与して、乾燥機で120℃乾燥して柔軟処理した。
柔軟処理溶液組成
ニッカシリコンAM−204(日華化学株式会社製) 15部
ラステックスLB (大京化学株式会社製) 15部
水 70部
【0035】
柔軟化した繊維質基体の不織布層(1)側に、離型紙DE―43Kを用いて実施例1と同じ方法で乾式造面を行い、60℃で48時間熟成を行った後に離型紙を剥がして銀面層を形成した銀付調皮革様シートを得、さらに機械揉み機による揉み加工を行った。得られた銀付調皮革様シートは、柔軟で平滑性に優れ、銀面側に折りまげた時も緻密で細かな折れシボおよび折れしわを有するものであった。得られた銀付調皮革様シートの断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ上層より、銀面層75μm、不織布層(1)0.2mm、ポリウレタン不織布層は0.03mmでフィルム状の状態であった。また、平織物層0.15mm、不織布層(2)0.85mm(不織布層(1)厚み/不織布層(2)厚み=0.24)、全層の厚みが1.31mmであった。さらに銀付調皮革様シートを自動車の座席の上張材として使用したところ、2ヶ月間の使用においても型崩れが殆んど無いものであり、また銀面層の表面外観も目視したところ摩耗したような部分は見当たらなかった。
【実施例3】
【0036】
実施例―1で使用した柔軟処理溶液で柔軟処理後の繊維質基体の不織布(1)側に離型紙をDE―43Kを用いて次の条件で乾燥温度を120℃で乾式造面を行い、60℃で48時間熟成を行った後に離型紙を剥がして銀付調皮革様シートを得た。
最表層
WET塗布量170g/m
組成
ハイドランWLS−211(ポリカーボネート系Pu:大日本インキ化学工業株式会社製)100部
ハイドランアシスターW1(大日本インキ化学工業株式会社製) 0.2部
ハイドランアシスターT1(大日本インキ化学工業株式会社製)/水=1/1 1.0部
ハイドランアシスターCS−7(大日本インキ化学工業株式会社製) 4.0部
セイカセブン DW−1780黒(大日精化工業株式会社製) 10部
接着層
WET塗布量 180 g/m
ハイドランWLA−404(ポリカーボネート系Pu:大日本インキ化学工業株式会社製)100部
ハイドランアシスターW1(大日本インキ化学工業株式会社製) 0.2部
ハイドランアシスターT1(大日本インキ化学工業株式会社製)/水=1/1 1.5部
ハイドランアシスターC5(大日本インキ化学工業株式会社製) 10.0部
【0037】
得られた銀付調皮革様シートに、さらに揉み加工を施すと柔軟で銀面側に折った場合でも緻密な折れシボを有する銀付調皮革様シート得た。さらに機械揉み機による揉み加工を行った。得られた銀付調皮革様シートは、柔軟で銀面側に折りまげた時も緻密で細かな折れシボおよび折れしわを有するものであった。得られた銀付調皮革様シートの断面を電子顕微鏡で観察したところ上層より、銀面層130μm、不織布層(1)0.20mm、平織物層0.15mm、不織布層(2)0.85mm(不織布層(1)厚み/不織布層(2)厚み=0.24)、全層の厚みが1.33mmであった。さらに銀付調皮革様シートを自動車の座席の上張材として使用したところ、2ヶ月間の使用においても型崩れが殆んど無いものであった。
【0038】
比較例1
実施例1で得られた繊維質基体を用いて、不織布層(2)側に実施例1と同じ方法で乾式造面を行う以外は実施例と同様の方法で銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートを銀面側に折り曲げた場合、折れシボは座屈の大きなシボや深いシワが発生して緻密な高級感のある折れシボ感が得られず、品位の落ちるものであった。
【0039】
比較例2
実施例2で得られた繊維質基体を用いて、不織布層(2)側に実施例2と同じ方法で乾式造面を行う以外は実施例2と同様の方法で銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートを銀面側に折り曲げた場合、折れシボは座屈の大きなシボや深いシワが発生して緻密な高級感のある折れシボ感が得られず、品位の落ちるものであった。
【0040】
比較例3
実施例3で得られた繊維質基体を用いて、不織布層(2)側に実施例3と同じ方法で乾式造面を行う以外は実施例3と同様の方法で銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートを銀面側に折り曲げた場合、折れシボは座屈の大きなシボや深いシワが発生して緻密な高級感のある折れシボ感が得られず、品位の落ちるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の銀付調皮革様シートは、鉄道乗物用座席、自動車用座席、航空機用座席、船舶用座席などの乗物用座席の上張材、ソファー、クッション、椅子などのインテリア製品の上張材として特に有用であり、またそれ以外の用途、例えば衣料、靴、鞄、小物入れ、手袋などの広範な用途にも有効に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子弾性体が含有された繊維質基体層および銀面層からなる銀付調皮革様シートであって、該繊維質基体層が、銀面層に近い側から順に極細繊維からなる不織布層(1)、織編物層(A)および極細繊維からなる不織布層(2)から構成され、かつ、極細繊維からなる不織布層(1)の厚みが極細繊維からなる不織布層(2)の厚みより小さいことを特徴とする銀付調皮革様シート。
【請求項2】
織編物層(A)と極細繊維からなる不織布層(1)または極細繊維からなる不織布層(2)のいずれかの間にポリウレタンシート(B)が挿入されている請求項1に記載の銀付調皮革様シート。
【請求項3】
高分子弾性体が水系のポリウレタンエマルジョンから形成されたものである請求項1または2に記載の銀付調皮革様シート。
【請求項4】
極細繊維からなる不織布層(1)と極細繊維からなる不織布層(2)の厚みの比率が(1)/(2)=0.9〜0.1である請求項1〜3いずれか1項に記載の銀付調皮革様シート。
【請求項5】
銀面層の最表層がシリコン変性ポリウレタンからなる請求項1〜4いずれか1項に記載の銀付調皮革様シート。
【請求項6】
銀面層の厚みが10〜150μmである請求項1〜5いずれか1項に記載の銀付調皮革様シート。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の銀付調皮革様シートが上張材として用いられている乗物用座席。

【公開番号】特開2007−162170(P2007−162170A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360537(P2005−360537)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】