説明

銀含有粉体の製造方法、銀含有粉体及びその分散液

【課題】 銀含有粉体中に銀ナノ粒子を95質量%以上で含有する、保存安定性と再分散性とを有する乾燥状態の銀含有粉体と、それを再分散して得られる低温融着可能な銀含有粉体の分散液、及び工業的生産性に優れるそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】 (1)ポリエチレンイミン中のアミノ基にポリエチレングリコールが結合してなる化合物(X)、またはポリエチレンイミン中のアミノ基にポリエチレングリコールとエポキシ樹脂とが結合してなる化合物(Y)の存在下、水性媒体中で、銀化合物を銀ナノ粒子(Z)に還元する工程、(2)化合物(X)又は化合物(Y)と、銀ナノ粒子(Z)と、水性媒体との混合物に有機溶剤を加えて遠心濃縮する工程、(3)(2)で得られた濃縮物を乾燥する工程とを有することを特徴とする銀含有粉体の製造方法、該方法で得られる銀含有粉体、これを再分散させた分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均粒子径が2〜50nmの銀ナノ粒子を含有する粉体とその粉体の分散液に関するものであり、詳しくは、特定の化合物の存在下、銀化合物の還元反応、濃縮、乾燥工程を経ることにより得られる、固体状態で安定な銀含有粉体と、これを溶剤に再分散させて得られる分散液、及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高集積化された高機能で小型・薄型の情報機器の開発には、半導体の微細加工技術の更なる開発と同時に、その微細加工を生かし支える信頼性の高い実装技術が必要である。その実装技術の要素技術には、金属微粒子の製造と、それをペースト化して用いる微細配線・接続技術があり、インクジェット等の印刷技術との組み合わせが注目され、近年各社が競って様々なアプローチで技術開発を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一般に金属微粒子を製造するには、いわゆるトップダウンと呼ばれる粉砕技術に基づくもの(例えば、特許文献2及び3参照。)と、ボトムアップと呼ばれる分子または原子の化学的・物理的挙動を把握しこれを制御することによって構造を制御する方法(例えば、特許文献4〜6参照。)があり、トップダウン法ではその粒子径をナノメートルオーダーまで均一粉砕することが困難であることから、近年ではボトムアップ法が注目されている。
【0004】
粒子径がナノサイズまで小さくなった金属ナノ粒子は、表面エネルギーが増大するため該粒子表面での融点降下が生じ、その結果、金属ナノ粒子同士の融着が起こりやすく保存安定性が悪くなることが知られている。従って金属ナノ粒子は該融着を防止するための保護剤等で被覆されで、分散溶媒中にコロイド状に分散した分散液としたものが多く提供されている。
【0005】
それに対して、乾燥状態(固体)の金属ナノ粒子は、それを様々な用途における液状組成物や固体の混合物に容易に配合可能である点から、保護剤で保護された金属ナノ粒子のコロイド状分散液よりもその応用範囲が広く、また、輸送、保管の面からも工業的には有利であると考えられる。例えば、分散溶媒中にコロイド状に安定分散した分散液から分散溶媒を留去、蒸散させて、金属ナノ粒子を含む粉体(固体)を得ようとした場合、隣接した粉体の表面に存在する保護剤同士の粘着や、十分に保護されていない箇所からの金属ナノ粒子同士の融合等により安定に保存することができず、実用的ではない。
【0006】
また、既に本発明者らが前記特許文献6等で提供した技術では、金属イオンの還元によって得られた金属ナノ粒子と高分子化合物とからなる分散体を単離する際に、原料とした金属化合物から発生する対イオン等を除去するために透析法を用いているが、この手法では製造サイクル・コスト的に工業的実施には不向きである。また、該特許文献6等の実施例で記載した、透析した後、乾燥して得られる粉体中における金属含有率はいずれも92質量%未満であり、導電性材料として使用するには高温での処理が必要であった。
【0007】
金属微粒子の製造方法としては、例えば、アルカリ可溶性ポリマーの存在下で金属イオンを還元して得られる金属微粒子含有液を凍結乾燥法により乾燥する方法が提供されている(例えば、特許文献7参照)。該手法では、アルカリ可溶性ポリマーを完全に溶解させる必要があることから、pHが12程度のアルカリ水溶液を多量に必要とするため、一定量の金属含有粉体を得るためには、使用したアルカリ性水溶液の廃液処理の環境負荷が高く、工業的製法としてふさわしくないものである。更に、前記特許文献7の実施例で得られる金属含有粉体中における金属含有率はいずれも90質量%未満と低いものであり、導電性ペースト等の導電性材料として使用した際には、粉体中の金属以外の固形分が多いことから、導電性発現のために高温での処理が必要と考えられる。また前記特許文献7における安定性は、粉体を得てからすぐに有機溶剤に再分散させた際の分散安定性と該再分散液の経時保存安定性である点から、固体状態(粉体)での保存安定性を保証するものでもない。
【0008】
また、金属微粒子の分散液から余剰の分散剤等を除去し、乾燥することによって固体粉末状態の金属微粒子を得る方法も提供されているが(例えば、特許文献8参照。)、その手法は煩雑であり、また再分散可能な溶媒が限定され応用面での制約が大きい。
【特許文献1】特開2004−74267号公報
【特許文献2】特開2007−265801号公報
【特許文献3】特開2007−254845号公報
【特許文献4】特開平11−319538号公報
【特許文献5】特開2006−257484号公報
【特許文献6】特開2008−37884号公報
【特許文献7】特開2007−86777号公報
【特許文献8】国際公開2005/037465号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、銀含有粉体中に平均粒子径が2〜50nmの銀ナノ粒子を95質量%以上で含有する、良好な保存安定性と優れた再分散性とを有する乾燥状態の銀含有粉体と、それを各種溶剤に再分散して得られる、低温融着可能な銀含有粉体の分散液、及び工業的生産性に優れるそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高い分散性を発現することに寄与するセグメントと、金属の微粒子を固定化したり、金属イオンを還元したりすることが可能なセグメントの、少なくとも2種のセグメントを有する化合物の存在下で銀化合物を還元した後、濃縮・乾燥工程を経ることにより、平均粒径が小さく、且つ銀含有率が高い銀含有粉体が得られること、得られた銀含有粉体は固体状態での保存安定性に優れ、かつ各種溶剤への再分散が容易で、その他の分散剤を使用しなくても安定性に優れる分散液が得られること、得られた分散液を塗布すると、低温での融着により高い導電性を発現しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、
(1)数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(X)、または、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(Y)の存在下、水性媒体中で、銀化合物を銀ナノ粒子(Z)に還元する工程、
(2)(1)で得られた、化合物(X)又は化合物(Y)と、銀ナノ粒子(Z)と、水性媒体との混合物に有機溶剤を加え、その後濃縮する工程、
(3)(2)で得られた濃縮物を乾燥する工程
とを有することを特徴とする銀含有粉体の製造方法、及び該製造方法で得られる平均粒子径が2〜50nmの銀ナノ粒子を95質量%以上で含有する銀含有粉体を提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、前記銀含有粉体を各種溶剤に再分散して得られる銀含有粉体の分散液及びこれを用いる導電性ペーストを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明で得られる銀含有粉体は、用いる高分子化合物中のポリエチレンイミン鎖の還元能力、配位結合力や静電的な相互作用等により、銀イオンが銀ナノ粒子に還元された際、その銀ナノ粒子表面に高分子化合物が配位されてなる一定の大きさを有する乾燥状態の粉末であり、保存安定性に優れる。また、この銀含有粉体は水や各種の有機溶剤への再分散性に優れており、分散剤等のその他の化合物を使用することなく、分散液を容易に調製することができる。従って、金属材料、導電材料の各種用途に応じ、粉体そのまま、または分散液に調製してからでも配合に用いることができる。
【0014】
また、本発明で得られる銀含有粉体の分散液は、該粉体中の銀ナノ粒子を被覆する化合物中の前述のポリエチレンイミン鎖の機能により、銀イオンの還元反応で得られた銀ナノ粒子を安定に保持しており、該化合物中の親水性セグメントや疎水性セグメントが、各種媒体との親和力と、セグメント間の相互作用による強い反発力とをバランスよく発現させることにより、分散性と保存安定性に優れる。
【0015】
また、本発明で得られる銀含有粉体はナノメートルサイズの銀ナノ粒子と有機化合物からなる、一定の構造を有し、且つ銀含有率が高いものである点から、高品位の導電性材料等として好適に用いることができる。更には、比表面積が大きい、表面エネルギーが高い、プラズモン吸収を有する等の金属のナノメートルサイズの微粒子としての特徴を有し、種々の化学的、電気的、磁気的性能を兼備し、多岐にわたる分野、例えば触媒、電子材料、磁気材料、光学材料、各種センサー、色材、医療検査用途等への応用が可能である。また本発明の銀含有粉体及びその分散液の製造方法は、温和な条件下での銀イオンの還元反応に基づくものであり、再現性に優れ、後処理方法も汎用の設備で実施可能であり、工業的製法として優位性が高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の銀ナノ粒子粉体の製造方法は
(1)数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(X)、または、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(Y)の存在下、水性媒体中で、銀化合物を銀ナノ粒子(Z)に還元する工程、
(2)(1)で得られた、化合物(X)又は化合物(Y)と、銀ナノ粒子(Z)と、水性媒体との混合物に有機溶剤を加え、その後濃縮する工程、
(3)(2)で得られた濃縮物を乾燥する工程
とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明における銀ナノ粒子とは、透過型電子顕微鏡写真で観測される粒子径がナノメートルオーダーであることを意味するものであり、その形が完全な球体であることを必要としない。又、化合物(X)又は化合物(Y)を構成する各セグメントの数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した、ポリスチレン換算値である。
【0018】
本発明において使用する化合物(X)および化合物(Y)を構成するポリエチレンイミン鎖(a)は、該鎖中のエチレンイミン単位が銀およびそのイオンと配位結合可能であり、更に銀イオンの還元を促して銀ナノ粒子(Z)とし、該銀ナノ粒子(Z)を安定化し保持する高分子鎖である。その構造はエチレンイミン単位を主な繰り返し単位とし、直鎖状、分岐状のいずれであっても良く、市販品・合成品のいずれでも良い。
【0019】
本発明で得られる銀含有粉体の大きさは、用いる化合物(X)または化合物(Y)の分子量やポリエチレンイミン(a)の分子量だけではなく、該化合物(X)または化合物(Y)を構成する各成分、即ち、ポリエチレンミン(a)、後述する親水性セグメント(b)、化合物(Y)であっては更に後述のエポキシ樹脂(c)の構造や組成比、また原料として用いる銀の種類によっても影響を受ける。また、銀含有粉体における銀ナノ粒子(Z)の含有率を上げるためには、分岐状のポリエチレンイミン鎖を用いることが好ましい。
【0020】
一般に市販されている分岐状ポリエチレンイミンは3級アミンによって分岐状となっており、本発明で使用する化合物(X)または化合物(Y)の原料として用いることができる。保存安定性に優れる銀含有粉体やその分散液が得られる、好ましい粒径の銀含有粉体が得られる点からは、分岐度を(3級アミン)/(全てのアミン)のモル比で示すと(1〜49)/(100)の範囲の分岐度であることが好ましく、工業的な製造面、入手のし易さ等も鑑みるとより好ましい分岐度の範囲は(15〜40)/(100)である。
【0021】
前記ポリエチレンイミン(a)部分の平均分子量としては、低すぎると、化合物(X)または化合物(Y)による銀ナノ粒子(Z)の保持能力が低下しやすく、保存安定性が不十分になることがあり、高すぎると銀含有粉体が巨大化しやすく、該分散液の保存安定性に支障をきたすことがある。従って、得られる銀含有粉体およびその分散液の保存安定性がより優れたものであり、該粉体中の銀ナノ粒子(Z)の含有率を高くすることができる観点から数平均分子量としては500〜50,000の範囲であり、1,000〜40,000の範囲であることが好ましく、1,800〜30,000の範囲であることが最も好ましい。
【0022】
ポリエチレングリコール(b)の分子量としては、親水性有機溶剤に分散させる場合は、分子量が低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎると分散体同士が凝集してしまう可能性が考えられる。また、銀含有粉体においては、固体状態における凝集のない保存安定性と、銀含有率を高くすることとのバランスをとることが必要である点から、ポリエチレングリコール(b)部分の数平均分子量としては500〜5,000であり、1,000〜3,000であることがより好ましい。
【0023】
ポリエチレングリコール(b)は一般的に市販品でも、合成品でも良い。また、他の親水性ポリマーとの共重合体等であっても良い。このとき使用できる親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。得られる銀含有粉体中の銀含有率を高める点から、共重合体を使用する場合においても、全体の分子量が500〜5,000の範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明において使用する化合物(Y)中には、更に疎水性セグメントとしてエポキシ樹脂(c)を結合してなるものである。化合物(Y)中にエポキシ樹脂(c)由来の構造を含有させることにより、該化合物(Y)を水または親水性溶媒中に再分散した場合には、分子内又は分子間相互の強い会合力により、ミセルのコアを形成し、安定なミセルを形成してその中に銀ナノ粒子(Z)を取り込んで安定な分散液を得ることができる。また疎水性有機溶媒中に再分散させる場合には、該溶剤との高い親和性を有することで、分散安定性に優れたものにすることが可能となる。
【0025】
エポキシ樹脂(c)は一般的に市販、又は合成可能な構造であれば特に限定されることなく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、特開2003−201333号記載のキサンテン型エポキシ樹脂等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。これらの中でも、得られる銀含有粉体またはその分散液を導電性ペーストとして用いる際に、基板との密着性に優れる等の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、親水性有機溶剤中での会合力が強く、分散安定性・保存安定性に優れる銀含有粉体の分散液が得られる点から、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂等の3官能以上のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、これらのエポキシ樹脂は、そのまま化合物(Y)の原料としても良く、更には目的とする化合物(Y)の構造等に応じて、種々の変性を加えたものであっても良い。例えば、エポキシ樹脂(c)中のエポキシ基の一部を、金属との相互作用を有する芳香環を有する化合物で予め開環させて、より安定な銀含有粉体とすることもできる。
【0026】
また、エポキシ樹脂(c)の分子量としては特に限定されるものではないが、親水性有機溶剤中に再分散させる場合は、低すぎると分散安定性が悪化し、高すぎるとミセル同士が凝集してしまう可能性が考えられ、また疎水性有機溶剤中に分散させる場合は、低すぎるとミセルの分散性が乏しくなり、高すぎると溶媒との親和性が保持できなくなる。これらの観点、および銀含有粉体の固形分中における銀含有率を容易に高めることができる点から、エポキシ樹脂(c)の数平均分子量としては通常100〜200,000であることが好ましく、特に300〜100,000であることが好ましい。
【0027】
本発明で用いる化合物(X)および化合物(Y)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、設計どおりの化合物を容易に合成可能である点から、下記の方法によるものが好ましい。
【0028】
ポリエチレンイミン(a)は前述したとおり、市販又は合成したものを好適に用いることができる。まず、分岐状ポリエチレンイミン鎖を用いる場合について説明する。
【0029】
分岐状ポリエチレンイミンの末端は1級アミンとなっているため、ポリエチレングリコール(b)の末端を1級アミンと反応する官能基に予め変性させて、反応させることによって、本発明で用いる事ができる化合物(X)を合成することができる。1級アミンと反応する官能基としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルデヒド基、カルボキシ基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基、イソチオシアネート基、ハロゲン、酸クロライド、スルホン酸クロライド等が挙げられる。なかでもカルボキシ基、イソシアネート基、トシル基、エポキシ基、グリシジル基は反応性、取扱い易さ等、製法上有利であり、好ましい官能基である。
【0030】
また1級アミンと直接反応する官能基でなくとも、種々の処理を行うことによって1級アミンと反応可能な官能基にできるものであれば良く、例えば、ヒドロキシ基を有するポリエチレングリコールを用いるのであれば、これをグリシジル化する等の手法でポリエチレンイミン鎖と反応させても良い。更には、分岐状ポリエチレンイミン鎖の1級アミンを、官能基を有するポリエチレングリコールと反応可能な他の官能基に変換する処理を施した後、これらを反応させて化合物(X)を合成することも可能である。
【0031】
ポリエチレンイミン鎖(a)が直鎖状ポリエチレンイミン鎖の場合は、リビング重合によって、まずポリアシル化エチレンイミン鎖を合成し、引き続き、ポリエチレングリコールを導入することによって高分子化合物を得た後、ポリアシル化エチレンイミン鎖を加水分解して直鎖状ポリエチレンイミン鎖とする方法が挙げられる。
【0032】
また、本発明で用いる化合物(Y)に合成方法については、前記特許文献6や、特開2006−213887号公報、特許第4026662号、特許第4026664号等にて、既に本発明者により提供しているので、それを参照すれば良い。
【0033】
本発明で用いる化合物(X)および化合物(Y)中のポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(b)としては特に限定されるものではないが、得られる銀含有粉体の保存安定性、その分散液の分散安定性及び保存安定性に優れる点から、通常(a):(b)=1:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30になるように設計することが好ましい。
【0034】
また、化合物(Y)を用いる場合、ポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)、エポキシ樹脂(c)の各成分の鎖を構成するポリマーのモル比(a):(b):(c)としては特に限定されるものではないが、得られる銀含有粉体の保存安定性、その分散液の分散安定性及び保存安定性に優れる点から、通常(a):(b):(c)=1:1〜100:1〜100の範囲であり、特に1:1〜30:1〜30になるよう設計することが好ましい。
【0035】
本発明に使用する化合物(X)および化合物(Y)は、銀ナノ粒子(Z)を安定に存在させることが出来るポリエチレンイミン(a)とは別に、ポリエチレングリコール(b)、又は、更にエポキシ樹脂(c)に由来する構造を有する。上記したように、ポリエチレングリコール(b)の部分は、親水性有機溶剤中では溶媒と高い親和性を示し、また、エポキシ樹脂(c)の部分は親水性有機溶剤中で強い会合力を示す。さらには、エポキシ樹脂(c)中に芳香環を有する場合には、該芳香環の有するπ電子が銀と相互作用することによって、さらに銀含有粉体を安定化することに寄与するとも考えられる。
【0036】
また、化合物(X)および化合物(Y)中に存在するポリエチレングリコール(b)由来構造部分は、後の精製工程において、一度濃縮した後、水または水と親水性有機溶剤との混合溶剤に再分散させる際、該化合物(X)または化合物(Y)と銀ナノ粒子(Z)との効率的な再配置を行なうことに寄与すると考えられる。即ち、ポリエチレングリコール(b)由来構造が再分散のときに溶剤側へ偏在することによって、化合物中のポリエチレンイミン(a)由来構造の全てが銀ナノ粒子(Z)の安定的な保持に関与するようになると考えられ、このことが、必要最低限の化合物(X)又は化合物(Y)で銀ナノ粒子(X)を安定化することになり、得られる銀含有粉体中の銀含有率を高くすることができるものと推察できる。従って、この様にして得られる銀含有粉体はその最表面がポリエチレングリコール(b)由来構造で覆われた状態になっていると考えられ、該粉体を再分散させて分散液を調製する際に、新たな分散剤を使用しなくても最分散が容易でかつ安定性に優れたものとなる要因であると考えられる。
【0037】
本発明の製造方法における第一工程は、前述の化合物(X)又は化合物(Y)を水性媒体、即ち水又は水と親水性有機溶剤との混合溶剤に溶解又は分散させる工程である。ポリエチレンイミン(a)とポリエチレングリコール(b)と、更に化合物(Y)である場合には、エポキシ樹脂(c)との組合せにより、水性媒体への溶解性・分散性が異なるが、均一に溶解または分散させることが必要となる。ここで用いることができる親水性有機溶剤としては、25〜35℃で、水100質量部に対して、少なくとも5質量部混和し、均一な混合溶剤が得られるものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン等を挙げることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。また、各種イオン液体を用いても良い。
【0038】
前記化合物(X)又は化合物(Y)と、水性媒体との使用割合としては、取り扱い上の容易性と、銀イオンの還元反応の容易性の観点、得られる銀含有粉体の銀含有率の向上の観点から、化合物(X)又は化合物(Y)の濃度が1〜20質量%になるように用いることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。この時、化合物(X)又は化合物(Y)の溶解性・分散性が不足する場合には、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を併用した混合溶剤を用いることで溶解性・分散性を調整することができる。化合物(X)又は化合物(Y)を溶解または分散させるには、通常、室温で静置、又は攪拌を行えばよく、必要に応じて超音波処理、加熱処理等を行ってもよい。また化合物(X)又は化合物(Y)の結晶性等により、水性媒体とのなじみが低い場合には、例えば、化合物(X)又は化合物(Y)を少量の良溶媒で、溶解又は膨潤させた後、目的とする水性媒体中へ分散させる方法でもよい。このとき、超音波処理又は加熱処理を行うとより効果的である。
【0039】
化合物(X)または化合物(Y)の溶液または分散液を調製した後、銀化合物を混合するが、このとき、得られる銀含有粉体中の銀含有率を高める観点から、化合物(X)又は化合物(Y)100質量部に対して、銀として400〜9900質量部になるよう用いることが好ましい。さらに水性媒体の使用量を削減することによって生産性を高めることと、還元反応の制御を容易に行なうことができる観点から、不揮発分として2〜80質量%になるよう混合することが好ましい。より好ましくは、化合物(X)又は化合物(Y)100質量部に対して、銀として900〜9900質量部、不揮発分として3〜50質量%となるように用いることである。
【0040】
この時、用いることができる銀化合物としては、還元反応によって銀ナノ粒子(Z)が得られるものであればよく、例えば、硝酸銀、酸化銀、酢酸銀、フッ化銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、銀ヘキサフルオロフォスフェート、乳酸銀、亜硝酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀、過塩素酸銀、硫酸銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、亜硫酸銀、銀テトラフルオロボレート、p−トルエンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀、等が挙げられ、取り扱い容易性、工業的入手容易性の観点から、硝酸銀または酸化銀を用いることが好ましい。
【0041】
前記工程において、化合物(X)又は化合物(Y)が溶解または分散している水性媒体と銀化合物とを混合する方法としては、特に限定されるものではなく、該化合物(X)又は化合物(Y)が溶解または分散している媒体に銀化合物を加える方法、その逆の方法、或いは別の容器に同時に投入しながら混合する方法でもよい。攪拌等の混合方法についても、特に限定されない。
【0042】
この時、還元反応を早めるために、必要に応じて30〜70℃程度に加温しても良く、また、還元剤を併用しても良い。
【0043】
前記還元剤としては、特に限定されるものではないが、還元反応を容易にコントロールすることができるとともに、後の精製工程で容易に反応系から除去可能である点から、例えば、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウム等のホウ素化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類、アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の酸類、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等のヒドラジン類等を用いることが好ましい。これらの中でも、工業的入手のし易さ、取扱い面等からより好ましいものとしては、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸ナトリウム等である。
【0044】
前記還元剤の添加量は、銀イオンを還元するのに必要な量以上であれば特に限定されるものではなく、上限は特に規定するものではないが、銀イオンの10モル倍以下であることが好ましく、2モル倍以下であることがより好ましい。
【0045】
また、還元剤のその添加方法は限定されるものではなく、例えば、還元剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。また還元剤を加える順序についても限定されることはなく、予め化合物(X)又は化合物(Y)の溶液または分散液に還元剤を添加しておいても、銀化合物を混合するときに同時に還元剤を加えてもよく、さらには、化合物(X)又は化合物(Y)の溶液または分散液と銀化合物とを混合した後、数時間経過した後、還元剤を混合する方法であってもよい。
【0046】
特に酸化銀や塩化銀等の水性媒体に溶解しない、または溶解しにくい原料を用いる場合には、錯化剤を併用しても良い。前記錯化剤としては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ジメチルアミノプロパノールなどが挙げられる。
【0047】
上記錯化剤の添加量は、酸化銀等に配位されて錯体をつくるのに充分な量であればよく、上限は特に規定するものではないが、用いる酸化銀等の40モル倍以下であることが好ましく、20モル倍以下であることがより好ましい。また、該錯化剤の添加方法は限定されるものではなく、例えば、錯化剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。
【0048】
工程(1)における還元反応にかかる時間は、還元剤の有無や用いる化合物(X)又は化合物(Y)の種類等によって異なるが、通常0.5〜48時間であり、工業的生産の観点から0.5〜24時間に調製することが好ましい。調製する方法としては、加温する温度、還元剤や錯化剤の投入量およびその時期等による方法が挙げられる。
【0049】
工程(1)に引き続き、工程(2)である、有機溶剤を加えてからの濃縮を行なうことになるが、濃縮としては特に限定されるものではなく、透析、遠心分離、沈殿法などのいずれを用いても良く、また同時に用いても良い。このとき使用できる有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、濃縮工程にかかる時間を短縮できる観点、該有機溶剤の再利用が可能である点、工程(1)で得られた混合物との混合が容易である点から、沸点が120℃以下、好ましくは100℃以下の有機溶剤であることが好ましく、特に親水性有機溶剤と疎水性有機溶剤との混合溶剤を用いることが好ましい。その使用量としても特に限定されるものではないが、工程(1)で得られた混合物に対して1.5〜5倍量、好ましくは2〜3倍量になるよう混合することが好ましい。また、濃縮法としては工業的生産性に優れる点から、遠心分離法を用いることが好ましい。この遠心濃縮工程においては、工程(1)で用いた媒体の一部のほか、必要に応じて添加した還元剤や錯化剤、および銀イオンの対イオン等を除去することを目的とするものである。従って、工程(1)で用いた原料に応じた濃縮方法を用いることが好ましく、不揮発分が30質量%以上、好ましくは50質量%以上まで濃縮する。
【0050】
遠心濃縮させた後、水性媒体を除去するために、減圧乾燥または凍結乾燥を行なう。特に銀の含有率が高い銀含有粉体を容易に得ることができる点からは、凍結乾燥が好ましい。
【0051】
減圧乾燥する場合には、温度は40℃以下で行なうことが好ましく、特に30℃以下で行なうことが好ましい。従って、分散媒体が、この温度で十分の除去できるよう、真空度を調節する必要がある。
【0052】
凍結乾燥は、スラリー状、または固体状の銀含有粉体を凍結させ、これを減圧下に放置することで水性媒体を蒸発させるものであるから、まずは予備凍結し、次に減圧する操作が必要である。これを順に説明する。
【0053】
まず、予備凍結操作である。実際の操作は、スラリー状または固体状の銀含有粉体を冷却させることによって行う。冷却温度は、銀含有粉体が凍結する温度ならばどのような温度でもかまわないが、例えば、0℃以下、−90℃以上の温度を好ましく採用することができる。これよりも温度を低くしても、エネルギーを余計に使うのみで得られる銀含有粉体の性状等には影響を与えるものではなく、これより温度が高い場合には、実際に凍結させることができない。また、凍結にかける時間は、凍結するのに必要な時間であれば特に限定されないが、30分から6時間程度にするのが一般的である。
【0054】
また、凍結操作を行なう前に工程(2)で得られた濃縮物にさらに水を添加してから凍結させることが好ましい。水を新たに加えることに予って、濃縮物中に存在している水以外の溶剤を、水と共沸させることで容易に除去できるとともに、化合物(X)又は化合物(Y)中のポリエチレンイミン(a)由来構造部分とポリエチレングリコール(b)由来構造部分の間の静電的相互作用や水素結合、及び銀ナノ粒子(Z)とエチレンイミンユニット間の相互作用によって銀ナノ粒子(Z)を効率的に被覆しなおすことができ、乾燥後の粉体の保存安定性が向上し、再び溶剤類に分散させる際には良好な再分散性が得られ、銀含有粉体の粒径の均一化や、これを用いて得られる塗膜の導電性発現等の効果を得ることができる。
【0055】
水の添加量としては、特に制限されるものではないが、上述の効果を効率よく発現させることと、乾燥工程にかかる時間短縮のバランスの観点から、濃縮物中の固形分の重量に対して通常0.01〜100倍量であり、0.1〜10倍量の範囲であることが好ましい。
【0056】
また、凍結乾燥の速度や凍結の度合いを制御するために、有機溶剤を併用して凍結乾燥することも出来る。用いることができる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどのポリオール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチルなどのエステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル等の二トリル類、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチレンクロライド、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル類、その他、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、ヘキサメチル亜燐酸トリアミドなどを挙げることができる。またこれらの溶剤の添加量としては、濃縮物中における固形分の重量に対して、0.001〜1倍の範囲であることが好ましい。
【0057】
次に減圧にする操作について説明する。減圧操作は、通常の市販の凍結乾燥機を使用して得られる減圧状態でかまわないが、具体的には、凍結している水を昇華させる必要性から通常620Pa以下であり、100Pa以下にすることが好ましく、40Pa以下にすることがより好ましい。
【0058】
また、減圧にする時は、必ずしもすぐに所定の減圧度にする必要はなく、揮発物を除くために、比較的圧力の高い状態に放置した後に、所定の減圧度まで下げる方法でも良い。
【0059】
この様な有機溶剤の混合・濃縮・必要により行う再分散・乾燥の工程を経ることによって、得られる銀含有粉体は、固体状態での保存安定性に優れると共に、各種溶剤へ再分散させたときの均一性が高く、またその平均粒径を小さくすることができる。さらに、銀含有粉体中の銀含有率を高くすることができるため、導電性ペースト等として好適に用いることができる銀含有粉体を、高効率で製造することが可能となる。
【0060】
一般に数十nmのサイズ領域にある金属の微粒子は、その金属種に応じて、表面プラズモン励起に起因する特徴的な光学吸収を有する。従って、本発明で得られる銀含有粉体のプラズモン吸収を測定することによって、該粉体中には、銀がナノメートルサイズの微粒子、即ち銀ナノ粒子(Z)として存在していることを確認することが出来、更には、該分散体をキャストして得られる膜のTEM(透過電子顕微鏡)写真等にて、その形状や粒径等を観測することも可能である。
【0061】
上述のように、本願発明の製造方法では、水性媒体中における自発的な還元反応、汎用の濃縮工程、必要により水の添加、乾燥という、温和な条件下、汎用の設備で行うことが可能であり、また、使用する溶剤等は濃縮や乾燥工程によって単離・分離可能であることから再利用できるものであり、工業的生産性に優れている。また得られる銀含有粉体は、任意の溶剤への再分散が可能であることから、目的とする用途に応じた製品設計が可能であり、有用性が高い。
【0062】
本発明の銀含有粉体は、ポリエチレンイミン(a)にポリエチレングリコール(b)が結合した化合物(X)、またはポリエチレンイミン(a)にポリエチレングリコール(b)とエポキシ樹脂(c)とが結合した化合物(Y)と、平均粒子径が2〜50nmの銀ナノ粒子(Z)とを含有し、該粉体中の銀ナノ粒子(Z)の含有率が95質量%以上であることを特徴とする。更に本発明の銀含有粉体の分散液は、前述の銀含有粉体を用いて、これを水や各種の有機溶剤に再分散させて得られるものである。
【0063】
従来、銀含有粉体を用いた水系分散体において、固形分中の銀含有率が90%程度までのものは作られているが、これを超えるものを安価に製造するのは大変困難であった。例えば、親水性モノマーと、金属への配位能力のあるモノマーとのランダム共重合体は多数知られているが、これを使用して銀含有粉体を作ろうとすると、銀に対する配位能力と、親水性との両立が難しく、結果的にポリマーを大量に使用して分散体を得ることしか出来なかった。そこで、銀に対する配位能力を持たせる部分と親水性を持たせる部分とを役割分担させた構造のポリマー、例を挙げれば(マルチ)ブロック共重合体やグラフト共重合体等を使用する場合には、補助的に、低分子錯化剤や還元剤を系中に加える必要があり、分散状態の良い銀含有粉体の分散体を調整した後、余剰の低分子錯化剤、還元剤、さらには錯化剤と還元剤との反応生成物等と銀含有粉体との分離が困難になるという問題がある。これを解決するには透析操作などの工業的生産には不向きな設備投資が必要であるか、または前記特許文献8等で提供されたような煩雑な工程が必要になる。
【0064】
本願では、特定の化合物(X)又は化合物(Y)を用いて銀化合物の還元反応を行った後、上述の濃縮・乾燥工程を続けて行うことで、上記の問題点を解決するものである。
【0065】
本発明の銀含有粉体、およびこれを用いて得られる分散液において、該粉体固形分中の銀含有率は95質量%以上であることを必須とし、前述の製造方法によれば、96質量%以上にすることもできる。銀の含有率を高くすることによって、導電性材料として必須の物性である低抵抗値を容易に実現できる。即ち、この様な高含有率で銀を含有し、且つ安定性に優れることが、従来提供されている銀微粒子やその分散体、これらを用いた導電性ペーストでは達成できなかった、低温(〜180℃)での加熱のみで、所望の導電性(低抵抗値)を発現させることができるものである。また、前述の微細配線等に好適に用いられる導電性ペーストの原料等に用いるためには、銀含有粉体の平均粒子径が小さいほど好ましいものであるが、本発明で得られる銀含有粉体は、TEM観察で得られる写真から無作為に抽出した100個の粒子の粒子径の平均値が2〜50nmという従来にない小さいものであることも大きな特徴であるとともに、優位性を有するものでもある。
【0066】
従来、導電性ペーストは高温、例えば、250〜350℃に加熱をしなければ所望の導電性皮膜が得られにくいものであった。即ち、高温に加熱することによって、金属微粒子を安定化していた保護剤等を分解し一部を除去し、皮膜中の金属以外の成分の含有率を下げるとともに、金属微粒子を融着させ導電性を発現させるものである。金属微粒子の粒子径を小さくすれば、融着させるために必要な温度を下げることができるものの、そこまで粒子径を小さくすると、それを保護するために用いる保護剤を多量に必要とすることになり、固形分中の金属含有率を高くすることができない。即ち、従来技術において、金属含有率を高めることと、金属微粒子の粒子径を小さくすることとはトレードオフの関係にあり、本発明はこのトレードオフを解消したものである。
【0067】
前記のように本発明の銀含有粉体は、その平均粒子径が小さく、銀含有率が高いものであるが、特に導電性ペースト等に用いて導電性皮膜を形成させる原料として用いる場合には、示差走査熱量測定で求められる融点が100〜250℃であることが好ましく、特に100〜200℃であることが好ましい。この温度範囲に融点があることによって、従来耐熱性が低いためにその上に導電性皮膜を形成させることが困難であった、ガラス基板やプラスチック基板へも応用可能となる。
【0068】
本発明の銀含有粉体は、1個の銀ナノ粒子(Z)と1個の化合物(X)または化合物(Y)とからなるものであっても、複数個の銀ナノ粒子(Z)、または複数個、複数種の化合物(X)、化合物(Y)を含むものであっても良い。
【0069】
本発明の銀含有粉体は、乾燥状態では粉体同士が凝集しており、浮遊しない。例えば、本発明の銀含有粉体の作業場で採集した空気を用いて浮遊粉塵測定を行なうと、環境管理許容濃度である3mg/mよりもはるか少ない0.005mg/m以下であり、飛散しない特徴を有する。これは、本発明において使用する化合物(X)または化合物(Y)中のポリエチレンイミン(a)中のエチレンイミンユニットが、銀ナノ粒子(Z)と配位結合しながら隣接している銀含有粉体中の化合物(X)又は化合物(Y)と効率的に高い密度で水素結合を形成し、さらに、銀ナノ粒子(Z)に配位結合している化合物(X)または化合物(Y)相互間のファンデルワールス力による相互作用により、銀含有粉体の乾燥状態では該粉体同士が凝集していることによると考えられ、このことは、該粉体をTEMで観測すると数十ミクロンと大きくなっていることから明らかであり、浮遊粉塵の飛散がおさえられていると考えられる。
【0070】
本発明で得られた銀含有粉体は、各種溶剤に再分散させて本発明の分散液とすることができる。このときの濃度としては特に限定されるものではなく、分散液中の銀含有粉体の濃度が10〜70質量%であることが好ましく、特に20〜60質量%であることが好ましい。分散液中の銀含有粉体の濃度は、その分散液を使用する応用分野の形態に応じて調整可能である。尚、この時使用できる溶剤は特に限定されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン等を挙げることができ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。特にその中でも、再分散溶剤としては均一分散性を容易に得られる点から、ヒドロキシ基を有する化合物からなる溶剤であることが好ましい。また、再分散の方法としては特に限定されるものではなく、溶剤を撹拌しながら固体状の銀含有粉体を加えることも、固体状の銀含有粉体に溶剤を加えていくことも出来る。
【0071】
疎水性有機溶剤に再分散させる場合には、化合物(Y)を用いて得られる銀含有粉体であることが好ましく、該化合物(Y)中のエポキシ樹脂(c)由来構造部分が粉体の最表面に再配置することによって、銀含有粉体が溶剤中で安定化されるものと推察される。従って、再分散工程において、水や親水性の有機溶剤、或いはこれらの混合溶剤を用いる場合よりも若干時間がかかることがある。このため、より生産性を高めるためには、濃度を20〜60質量%にすることが好ましく、単純な攪拌の他に、超音波処理等の分散技術を併用することが好ましい。
【0072】
本発明の銀含有粉体及びその分散液の用途としては、なんら限定されるものではなく、各種の導電性組成物・接着用組成物等、更には銀ナノ粒子に由来する特殊な発色を利用する塗料用組成物等、様々な分野の組成物に添加・混合して用いることができる。
【0073】
これらの中でも、特に、導電性ペーストとして好適に用いることができる。代表的な使用方法を挙げるならば、目的に応じて選択された種々の基材上に、キャスト、スピンコーター、バーコーター、アプリケーター、各種印刷機、プリンター、ディスペンサー等によって基材上に加工する方法、銀含有粉体の分散液又はこれを含む組成物中へのディッピングによる加工法等といった基材上に成形加工物を作成する方法や、フローガンやフローコーター等を用いた方法、スプレー等による吹き付け法、刷毛塗りやパフ塗り、ローラー塗り等による方法、複数の同じ又は異なる基材に挟む方法、これらの方法を繰り返し行うことによって厚膜構造又は肉厚構造等とする方法、異なる物質を組み合わせて前述の方法を繰り返すことによって積層構造とする方法等といった、基材上に成形加工物を作成する方法、前記基材上に作成した種々の成形加工物を基材からはずして成形加工物を得る方法、基材とその他の材料等の間に挟む方法、基材上の他の材料の一部若しくは全部を被覆させる方法、同じ又は異なる材料の一部又は全部を被覆させる方法、目的に応じた種々の型、或いは型枠を利用して加工する方法等が挙げられる。
【0074】
前述の種々の加工の前工程、又は途中、後工程等において、脱水、脱溶剤、乾燥、加熱、紫外線照射、電子線照射等の処理を種々の目的に応じて好適に施すことも可能であり、これらの処理方法は特に限定されることなく用いることができる。
【0075】
上記加工方法によって得られる形態は、特に限定されるものではない。特に上述した代表例によって得られた加工物の形態の例としては、塗膜、被覆膜、被覆物、接合物、積層板、封止物、フィルム、シート、ボード、繊維状成形加工物、チューブ状成形加工物、立体成形加工物、ゲル状成形加工物、固体ゾル状成形加工物等が挙げられる。
【0076】
上記導電性ペーストとして用いる場合には、目的に応じて選択された他の成分と混合することができ、該他の成分は特に限定されるものではない。例えば、電子材料用であれば、種々の導電性成分や、電子材料との親和性や密着性を向上させる成分等であり、表面を平滑、或いは凹凸を制御する成分、各種の沸点を有する溶剤、粘度調節剤等であり、様々な目的に適した各種添加剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断わりがない限り「%」は「質量%」を表わす。
【0078】
合成例1〔化合物(X−1)の合成例〕
窒素雰囲気下、メトキシポリエチレングリコール[Mn=2,000]20.0g(10.0mmol)、ピリジン8.0g(100.0mmol)、クロロホルム20mlの混合溶液に、p−トルエンスルホン酸クロライド9.6g(50.0mmol)を含むクロロホルム(30ml)溶液を、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロホルム50mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100ml、そして飽和食塩水溶液100mlで順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、80℃で減圧乾燥して、トシル化された生成物22.0gを得た。
【0079】
得られた生成物のH−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)の測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.82(d),7.28(d),3.74〜3.54(bs),3.41(s),2.40(s)
【0080】
上記で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物5.39g(2.5mmol)、分岐状ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)を20.0g(0.8mmol)、炭酸カリウム0.07g及びN,N−ジメチルアセトアミド100mlを、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回繰り返し洗浄した後、減圧乾燥して、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した化合物(X−1)の固体を24.4g得た。
【0081】
得られた生成物のH−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)の測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):3.50(s),3.05〜2.20(m)
【0082】
合成例2〔化合物(Y−1)の合成例〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂EPICLON AM−040−P(DIC工業株式会社製、エポキシ当量933)18.7g(20m当量)、4−フェニルフェノール1.28g(7.5mmol)、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.26ml(0.12mol%)及びN,N−ジメチルアセトアミド50mlを、窒素雰囲気下、120℃で6時間反応させた。放冷後、水150ml中に滴下し、得られた沈殿物をメタノールで2回洗浄した後、60℃で減圧乾燥して、単官能性のエポキシ樹脂を得た。得られた生成物の収量は19.6g、収率は98%であった。
【0083】
得られた単官能性のエポキシ樹脂のH−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)の測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.55〜6.75(m),4.40〜3.90(m),3.33(m),2.89(m),2.73(m),1.62(s)
【0084】
上記で得られた単官能性のエポキシ樹脂3.0g(1.5mmol)、アセトン50mlの溶液に合成例1で得られた化合物(X−1)14.4g(0.48mmol)、メタノール60mlの溶液を加えて、窒素雰囲気下、60℃で2時間攪拌した。反応終了した後、脱溶剤することにより、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールとエポキシ樹脂とが結合してなる化合物(Y−1)を得た。
【0085】
実施例1
合成例1で得た化合物(X−1)を0.592g用いた水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちしながらさらに20時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
【0086】
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定(日立製作所株式会社製、UV−3500)により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM測定(日本電子株式会社製、JEM−2200FS)より球形の銀ナノ粒子が確認された。そして、TG−DTA(SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300)を用いて、固体中の銀含有量を測定した結果、97.2%を示した。
【0087】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール200mlとヘキサン200mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール50mlとヘキサン50mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にさらに水20gを加えて2分間攪拌して、減圧下有機溶剤を除去した。さらに水10gを加えて攪拌分散した後、該分散体を−40℃の冷凍機に1昼夜放置して凍結し、これを凍結乾燥機(東京理化器械株式会社社製 FDU−2200)で24時間処理して、灰緑色の金属光沢があるフレーク状の塊9.1gを得た。得られた銀含有粉体(固体)は光学顕微鏡(オリンパス蛍光顕微鏡BX60、オリンパス光学工業株式会社製)による観察結果、数十ミクロンの凝集体になっていることが確認された。この粉体中における銀含有率はTG−DTA(SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300)を用いて測定したところ97.4質量%であり、透過型電子顕微鏡写真で観測できる銀ナノ粒子の粒子径を無作為に100個抽出し、これの平均値を求めたところ、平均粒子径は16.8nmであり、示差走査熱量測定(SIIナノテクノロジー株式会社製、DSC7200)で求められる融点は140〜170℃であった。
【0088】
また、得られた銀含有粉体約60gを別の容器に移す作業を行ない、その作業場の空気を採集して光散乱式デジタル粉塵計(株式会社レックス製、M−3423)を用いて浮遊粉塵測定を測定した。その結果は0.005mg/m以下であり、作業場の大気中に浮遊粉塵はほぼ無いと考えられる。さらに、子の銀含有粉体を室温(25℃)下で3ヶ月静置した後も、上記性状値に変化がないことを確認した。
【0089】
上記で得た銀含有粉体を純水に3時間攪拌することより再分散させて固形分率20%の分散液を調製し、スピンコーターを使ってスライドグラス上に700rpmで30秒スピンコートして薄膜にした。これをホットプレート上で180℃、30分間加熱し、フィルムの体積抵抗率を三菱化学株式会社製「低抵抗率計ロレスタEP」で測定し、フィルムの厚さをレーザー共焦点顕微鏡で測定して補正して求めたところ、5.4μΩ・cmであった。
【0090】
上記で得た銀含有粉体を純水の他に、エタノール、イソプロピルアルコール及びエタノールと水の混合溶剤などを用いて3時間攪拌することより再分散させて分散液を調製した。下記の表に種々の分散液の分散安定性及び保存安定性の評価結果を示した。
【0091】
【表1】

【0092】
分散安定性:分散液を5℃冷蔵庫に3日静置後、層分離と分散状態保持を目視観測。
保存安定性:分散液を5℃冷蔵庫に3ヶ月保存後、銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真から得られる平均粒子径及び透過型電子顕微鏡写真での形状を比較。
【0093】
実施例2
合成例2で得た化合物(Y)を0.263g用いた水溶液77.0gにジメチルエタノールアミン23.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、若干発熱した。引き続き、反応温度を45℃にして硝酸銀5.0gに徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わった。その後、反応温度を50℃にして4.5時間攪拌して反応を終了し、黒赤色の分散体を得た。
【0094】
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nm付近にプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM測定より球形の銀ナノ粒子が確認された。また、TG−DTAを用いて、固体中の銀含有量を測定した結果、96.6%を示した。
【0095】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール100mlとヘキサン100mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール25mlとヘキサン25mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物に水10gを加えて2分間攪拌して、減圧下有機溶剤を除去した。ここにさらに水5gを加えて攪拌分散した後、これを−40℃の冷凍機に1昼夜放置して凍結し、これを凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製 FDU−2200)で12時間処理して、灰緑色の金属光沢があるフレーク状の塊3.1gを得た。これを純水に再分散させて固形分率30%の分散液を作成し、スピンコーターを使ってスライドグラス上に700rpmで30秒スピンコートして薄膜にした。これをホットプレート上で180℃、30分間加熱し、この抵抗率を測定したところ、3.7μΩ・cmであった。
【0096】
上記で得た銀含有粉体を純水の他に、エタノール、イソプロピルアルコール及びエタノールと水の混合溶剤などを用いて3時間攪拌することより再分散させて分散液を調製した。下記の表に種々の分散液の分散安定性及び保存安定性の評価結果を示した。
【0097】
【表2】

【0098】
比較例1
化合物(X−1)の代わりに分岐ポリエチレンイミン(日本触媒株式会社製、SP−200)0.474gを用いた他は実施例1と同様にして銀含有粉体を得ようとした。反応温度を保ちながら攪拌を続けていたが、反応時間と共に沈殿が生じ、銀ナノ粒子の分散体は得られなかった。該沈殿は金属光沢を有し、水または極性溶剤中でも分散せず、銀ナノ粒子特有のプラズモン吸収は観測されなかった。
【0099】
比較例2
化合物(Y−1)の代わりに分岐ポリエチレンイミン(日本触媒株式会社製、SP−200)0.210gを用いた他は実施例2と同様にして銀含有粉体を得ようとした。反応温度を保ちながら攪拌を続けていたが、反応時間と共に沈殿が生じ、銀ナノ粒子の分散体は得られなかった。該沈殿は金属光沢を有し、水または極性溶剤中でも分散せず、銀ナノ粒子特有のプラズモン吸収は観測されなかった。
【0100】
比較例3
上記の実施例1の工程(1)で得られた分散液に有機溶剤を用いた遠心濃縮工程を経ずに、すぐに凍結乾燥工程を行った。水量が多いため、凍結乾燥するに約10日間掛かるものの乾燥粉体ではなく粘土状の塊になった。得られた粘土状の銀含有固体を用いて実施例1同様に蒸留水に3時間攪拌して再分散させて固形分率20%の分散液を調製し、スピンコーターを使ってスライドグラス上に700rpmで30秒スピンコートして薄膜にしたが、製膜性の良い薄膜にならなかった。これをホットプレート上で180℃、30分間加熱し、フィルムの体積抵抗率を三菱化学株式会社製「低抵抗率計ロレスタEP」で測定したところ、オーバレンジ(O.L.測定不能)であった。
【0101】
比較例4
上記の実施例2の工程(1)より得られた黒赤色の分散液に有機溶剤を用いた遠心濃縮工程を経ずに、すぐに凍結乾燥工程を行った。水量が多いため、凍結乾燥するに約5日間掛かるものの乾燥粉体ではなく高粘性の塊になった。得られた高粘性塊の銀含有固形物を用いて実施例2同様に蒸留水に3時間攪拌して再分散させて固形分率30%の分散液を調製し、スピンコーターを使ってスライドグラス上に700rpmで30秒スピンコートして薄膜にしたが、製膜性の良い薄膜にならなかった。これをホットプレート上で180℃、30分間加熱し、フィルムの体積抵抗率を三菱化学株式会社製「低抵抗率計ロレスタEP」で測定したところ、オーバレンジ(O.L.測定不能)であった。
【0102】
比較例5
実施例2の工程(1)で得られた黒赤色の分散液中の硝酸イオンを除去するために、得られた分散体100gを透析チューブ(RVDF 500,000、スペクトラ社製)に入れて2.5Lの水中に約16時間水交換を3回繰り返して行った。引き続き、透析液を用いて2回繰り返し遠心分離(8000回転、5分)して、固形分50%に濃縮されたペースト状の銀含有粉体を得た。処理時間は実施例2の約1時間以下に比べて、合計で約55時間かかり、後処理工程中で発生した廃液量は実施例2の30倍以上であった。これらのことから、本発明の製造方法は、後処理工程が容易で、工業的に実用性の高い銀含有粉体の製造方法であることが明白である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1で得られた銀含有粉体のTEM画像である。
【図2】実施例1で得られた銀含有粉体の写真である。
【図3】実施例1で得られた銀含有粉体の光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られた銀含有粉体の水分散液の写真である。
【図5】実施例2で得られた銀含有粉体のTEM画像である。
【図6】実施例2で得られた銀含有粉体の写真である。
【図7】実施例2で得られた銀含有粉体の水分散液の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(X)、または、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(Y)の存在下、水性媒体中で、銀化合物を銀ナノ粒子(Z)に還元する工程、
(2)(1)で得られた、化合物(X)又は化合物(Y)と、銀ナノ粒子(Z)と、水性媒体との混合物に有機溶剤を加え、その後濃縮する工程、
(3)(2)で得られた濃縮物を乾燥する工程
とを有することを特徴とする銀含有粉体の製造方法。
【請求項2】
前記(3)の乾燥工程が凍結乾燥である請求項1記載の銀含有粉体の製造方法。
【請求項3】
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)が結合してなる化合物(X)、または、
数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(a)中のアミノ基に、数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(b)と、エポキシ樹脂(c)とが結合してなる化合物(Y)が、
透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が2〜50nmの銀ナノ粒子(Z)の表面を被覆してなる銀含有粉体であって、
該銀含有粉体中の銀含有率が95質量%以上であることを特徴とする銀含有粉体。
【請求項4】
示差走査熱量測定で求められる融点が100〜200℃の範囲である請求項3記載の銀含有粉体。
【請求項5】
前記銀含有粉体が、乾燥状態では凝集しており、且つ溶剤(I)の存在下では分散するものである請求項3または4記載の銀含有粉体。
【請求項6】
前記溶剤(I)が、ヒドロキシ基含有溶剤である請求項5記載の銀含有粉体。
【請求項7】
請求項3〜6の何れか一項に記載の銀含有粉体を溶剤(I)に分散させてなることを特徴とする銀含有粉体の分散液。
【請求項8】
銀含有粉体の濃度が20〜60質量%である請求項7記載の銀含有粉体の分散液。
【請求項9】
請求項3〜6の何れか一項に記載の銀含有粉体を用いて得られることを特徴とする導電性ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−7124(P2010−7124A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167262(P2008−167262)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】