説明

銀粉表面のアジピン酸の定量方法

【課題】導電膜の形成に用いられる樹脂硬化型導電性ペーストに配合される銀粉表面に被覆される多価カルボン酸、特にアジピン酸を効率的に定量することが可能な銀粉表面のアジピン酸の定量方法を提供する。
【解決手段】銀粉に被覆された銀粉表面のアジピン酸の定量方法であって、アジピン酸が被覆された銀粉からアジピン酸を溶出させる塩酸溶出工程と、アジピン酸が溶出された塩酸溶出液においてアジピン酸をエステル化するエステル化工程と、を備えるアジピン酸の定量方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体部品等の電子部品や太陽電池の電極および回路形成に用いられる導電性ペーストに配合される銀粉表面の多価カルボン酸、特にアジピン酸の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば半導体部品等の電子部品や太陽電池の電極および回路形成には銀粉を有機成分中に分散させて形成される導電性ペーストが使用されている。そして、特に樹脂硬化型導電性ペーストにおいては、樹脂の体積収縮により銀粉同士が接触して導通が取られる。従って、樹脂硬化型導電性ペーストに配合される銀粉としては、接触面積が大きいフレーク状(鱗片状)銀粉が使用されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一般的に、フレーク状銀粉は球状または不定形状の銀粉をフレーク状にすることで得られる。球状または不定形状の銀粉を製造する方法としては、例えばアトマイズ法や湿式還元法等が知られている。そして、球状または不定形状の銀粉をフレーク状にする方法としては、例えば湿式粉砕法や、ボールミル(例えば特許文献2参照)を用いる方法、あるいは振動ミル等を用いた乾式粉砕法などが知られている。
【0004】
また、樹脂硬化型導電性ペーストの用途としては、上述したように電子部品や太陽電池の電極および回路形成が挙げられる。そして、近年、電子部品の小型化・高性能化が進み、これに伴い実装に際しての高密度化、高信頼性が要求されるようになり、樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成する電極や回路の導電性向上が強く求められている。太陽電池の電極形成においても、電極の導電性が変換効率の向上につながることから、樹脂硬化型導電性ペーストを用いて形成する電極の導電性向上が求められている。
【0005】
上記導電性ペーストに配合される銀粉においては、表面に有機物を被覆させたものを用いることで、作製される導電膜の抵抗を低減させることが一般的に知られている。この時、銀粉表面に被覆させる有機物の量が少なすぎる場合には、導電膜の抵抗の低減が担保されない恐れがあり、また、多すぎる場合には不経済となってしまうことから、好ましい量を被覆させる必要がある。多価カルボン酸の定量方法としては、例えば、非特許文献1にアジピン酸エステル溶液の分析をガスクロマトグラフ質量分析装置(以下、GC−MSとも呼称する)によって行う方法が記載されている。また、特許文献3には、ステアリン酸の定量を示差熱分析機(TG−DTA)でのTGの減少率から行う実施例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−150837号公報
【特許文献2】特開2003−55701号公報
【特許文献3】特許第4242019号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】株式会社島津製作所ホームページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1や特許文献3に記載され、銀粉の表面に被覆された有機物を定量する方法として知られている炭素分析や重量減量率による方法では、特定の有機物について定量することはできず、所望の種類の有機物のみを効率的に定量することができないといった問題点があった。特に、銀粉表面に被覆されたアジピン酸については、溶出させる方法が知られておらず、定量することが困難であった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて行われたものであり、その目的は、導電膜の形成に用いられる樹脂硬化型導電性ペーストに配合される銀粉表面に被覆される多価カルボン酸、特にアジピン酸を効率的に定量することが可能な銀粉表面のアジピン酸の定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アジピン酸の被覆された材料銀粉からアジピン酸を溶出させる方法として塩酸溶出を用いることが好適であることを知見し、さらには、アジピン酸が溶出された塩酸溶液においてアジピン酸をメチル化し、親水性を弱めた状態で有機溶媒に抽出することでGC−MSによる測定が可能となることを知見した。
【0011】
上記知見に基づく本発明によれば、銀粉に被覆された銀粉表面のアジピン酸の定量方法であって、アジピン酸が被覆された銀粉からアジピン酸を溶出させる塩酸溶出工程と、アジピン酸が溶出された塩酸溶出液においてアジピン酸をエステル化するエステル化工程と、を備えるアジピン酸の定量方法が提供される。
【0012】
上記アジピン酸の定量方法においては、前記エステル化工程によりエステル化されたアジピン酸エステルを有機溶媒に抽出する抽出工程と、アジピン酸エステルの検量線から前記抽出工程において抽出されたアジピン酸エステル量を求め、換算計算によってアジピン酸を算出する算出工程と、を備えていても良い。
【0013】
上記アジピン酸の定量方法において、前記塩酸溶出工程において用いる塩酸の濃度は9質量%以上であっても良い。また、前記抽出工程に用いられる有機溶媒はn−ヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒であっても良い。更には、前記算出工程におけるアジピン酸ジメチル量は、ガスクロマトグラフ質量分析法によって求められても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電膜の形成に用いられる樹脂硬化型導電性ペーストに配合される銀粉表面に被覆される多価カルボン酸、特にアジピン酸を効率的に定量することが可能な銀粉表面のアジピン酸の定量方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかるアジピン酸の定量方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明者らは、図1に示すように、アジピン酸を表面に被覆させた銀粉(以下、試料銀粉とも呼称する)におけるアジピン酸の定量方法として、試料銀粉から塩酸溶出を用いてアジピン酸を溶出し、さらに、アジピン酸が溶出された塩酸溶液においてアジピン酸をエステル化し、親水性を弱めた状態で有機溶媒に抽出してGC−MSによる定量を行う方法が有効であることを知見した。以下には、その定量方法について詳細に説明する。
【0017】
(試料銀粉)
本実施の形態にかかるアジピン酸の定量方法においては、例えばアジピン酸の被覆された粒状銀粉やフレーク状銀粉におけるアジピン酸の定量が行われる。粒状銀粉やフレーク状銀粉としては、公知の還元法などにより、表面処理剤などを添加する前の材料銀粉が得られる。この材料銀粉にアジピン酸等の有機物を添加し、混合することで、材料銀粉の表面にアジピン酸等の有機物が被覆された状態となった試料銀粉が得られる。これら試料銀粉は、定量時には0.1〜10g程度用いることが好ましい。また、材料銀粉の粒径は、形状を問わず、0.1μm〜50μmであることが好ましい。更には、材料銀粉に被覆される有機物としては、アジピン酸以外にも、カルボキシル基を2個以上含む多価カルボン酸が用いられ、例えばコハク酸、グルタル酸、ジクリコール酸およびマレイン酸が例示される。
【0018】
また、本実施の形態では、粒状の銀粉の表面に被覆されたアジピン酸の定量を行うものとして説明しているが、銀粉の粉末に添加されたアジピン酸の量を定量する場合にも適用できる。即ち、アジピン酸等の有機物の添加量によっては、表面に被覆される以外に粒子間にアジピン酸(有機物)が存在する場合があるが、この場合でも、銀粉の粉末に添加したアジピン酸等の量は、粉末から試料を適切にサンプリングすれば、本発明にかかる定量方法によって定量可能である。
【0019】
なお、上記「フレーク状銀粉」の「フレーク状」とは、アスペクト比が3以上である銀粉とその形状をいう。ここで、前記アスペクト比は、(平均長径L/平均厚みT)により求める。「平均長径L」と「平均厚みT」は、走査型電子顕微鏡で測定した粒子100個の平均長径と平均厚みを示す。
【0020】
(塩酸溶出工程)
本実施の形態にかかるアジピン酸の定量方法においては、先ず、上述した試料銀粉を所定量秤量し、所定量の塩酸(高濃度の塩酸水溶液)に浸漬して、アジピン酸を濃塩酸液に溶出する。濃塩酸により、試料銀粉からアジピン酸を回収でき、精度の高い定量分析が可能となる。ここで、試料銀粉と濃塩酸液は、密閉容器に収納されることが望ましい。これは、有機物であるアジピン酸の揮発を防ぐためである。溶出を確実にするために、容器に入れて密閉し、温度制御が可能な装置である例えば乾燥機やドラフター内の温水浴等において所定温度でもって所定時間保持する。そして、超音波分散と振とうを所定時間行い、試料銀粉の表面に被覆されたアジピン酸を塩酸に溶出させる。この超音波分散と振とうにおいては、溶出反応の促進のため、塩酸溶出液を例えば50℃、30分間の条件で加温させつつ行うことが好ましい。なお、ここで用いられる密閉容器としては例えばテフロン(デュポン社商標)製の容器が例示される。
【0021】
また、この塩酸溶出工程において使用される塩酸の濃度は9質量%以上であれば、みこしの量としての定量を判定することができ、より好ましくは、18質量%以上であれば、分析精度が分析値に対し±20%以内である高精度な定量分析が可能である。更には、塩酸濃度35質量%以上であれば、分析精度がより向上し、分析値の再現性も顕著に向上する。また、使用する塩酸水溶液の量は試料銀粉の量や予想される含有アジピン酸量に応じて適宜定めればよいが、例えば試料銀粉5gに対して50mL以上であることが好ましい。
【0022】
(エステル化工程)
アジピン酸の定量は最終的にはGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置)によって行われるが、上記塩酸溶出工程においてアジピン酸が溶出された塩酸溶液の状態ではGC−MSによる測定ができないため、溶出されたアジピン酸を有機溶媒で抽出する必要がある。しかしながら、アジピン酸は親水性が強いという性質を有しているため、そのままの状態では有機溶媒によって抽出することが困難である。そこで、本実施の形態にかかるアジピン酸の定量方法では、上記塩酸溶出工程において溶出されたアジピン酸をエステル化するエステル化工程が行われる。
【0023】
エステル化工程は、塩酸溶出液を所定量採取し、所定量のメタノール(MeOH)を添加してメチル化によって行われる。また、試料安定等のため、乾燥機などの一定の環境条件において保持することで行われる。これにより、溶出されたアジピン酸がメチル化され、アジピン酸ジメチルとなる。このメチル化によりガスクロマトグラフ質量分析法(GC−MS)での測定が可能な試料形態となる。なお、このエステル化工程においては、メタノール以外にも例えばエタノールを用いてエステル化を行うこともできる。また、使用するメタノール量としては、例えば塩酸溶出液0.5mLに対しメタノール0.5mLである場合が例示されるが、採取された塩酸溶出液のアジピン酸を効率的にメチル化できる量であれば良い。また、エステル化工程後の試料液は放冷によって常温まで冷却することが好ましい。これは、試料液の温度が高い場合、後述する抽出工程における抽出分配率が変化してしまう恐れがあるからである。
【0024】
(抽出工程)
上記エステル化工程においてメチル化されたアジピン酸ジメチルは、後述するGC−MSによるアジピン酸ジメチル量の測定のため、有機溶媒、アルコール等に溶かした状態にされる必要がある。そこで、上記エステル化工程においてメチル化が完了した試料液に有機溶媒を添加し、振とう抽出によってアジピン酸ジメチルを有機溶媒に抽出する。なお、有機溶媒への抽出を完全にするため、振とう抽出は複数回行うことが好ましい。また、ここで用いられる有機溶媒としては、例えばn−ヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒が好ましく、混合比率はジクロロメタン:n−ヘキサン=1:4であることが好ましい。
【0025】
(算出工程)
上記抽出工程において抽出された有機溶媒(試料液)中のアジピン酸ジメチルはGC−MSによって定量される。この時、アジピン酸ジメチルの検量線液を調製し、アジピン酸ジメチル調製濃度とピーク面積値の関係から検量線が作成され、作成された検量線から試料液のアジピン酸ジメチル量が求められる。そして、求められたアジピン酸ジメチル量から換算計算によってアジピン酸量が算出される。この算出されたアジピン酸量と試料銀粉量を比較することで、試料銀粉におけるアジピン酸含有量(質量%)が定量化されることとなる。なお、検量線液は、上記エステル化工程において用いた薬品に応じて適宜選択すれば良い。
【0026】
従来は銀粉表面に被覆されたアジピン酸を溶出させる方法が知られていなかったために高精度且つ効率的なアジピン酸の定量ができなかったが、上記説明した本実施の形態にかかるアジピン酸の定量方法により、試料銀粉の表面に被覆されたアジピン酸の定量を高精度且つ効率的に行うことが可能となる。即ち、例えば、試料銀粉に被覆された0.02質量%以上、5.0質量%以下のアジピン酸量を精度良く定量化でき、特に、被覆量が1質量%以下の場合でも高精度で定量化が可能となるため、製品銀粉(粉体)の開発に本発明にかかる定量方法は非常に有用である。
【0027】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は上記説明した形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例として、以下に実際に材料銀粉の表面に被覆されたアジピン酸を所定の条件で定量した定量結果を示す。なお、以下の実施例においては、本発明にかかるアジピン酸の定量方法を実証するため、事前に材料銀粉に被覆させるアジピン酸の量を定めておき、被覆させたアジピン酸の量と、定量方法によって測定した測定値とを比較した。
【0029】
(実施例1)
先ず、試料銀粉1として湿式還元法によって得られ、有機物を添加していない材料銀粉に、アジピン酸を添加し、混合することで0.02質量%のアジピン酸を表面に被覆させた試料銀粉を用意した。この試料銀粉の平均粒径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定したところ、5.9μmであった。そして、5gの試料銀粉を濃度35質量%の濃塩酸50mLと共にテフロン製の耐熱・耐圧容器に仕込み、密閉した。そして、該容器を乾燥機において120℃、50minの条件下で保持させ、その後、超音波分散と振とうを20min行い、塩酸溶出工程を行った。ここでのアジピン酸の被覆量(質量%)は、添加したアジピン酸質量(g)÷(添加したアジピン酸質量(g)+材料銀粉質量(g))を百分率で表した値である。
【0030】
続いて、塩酸溶出工程後の試料液を0.5mL分取し、試験管に仕込み、更にメタノール0.5mLを添加させて乾燥機において50℃、30minの条件で保持させた。これにより溶出されたアジピン酸のメチル化処理が行われ、アジピン酸ジメチルが生成された。
【0031】
次いで、メチル化が完了した試料液に、ジクロロメタンとn−ヘキサンの混合有機溶媒(混合比1:4)を5mL添加させ、1minの振とう抽出を2回行うことで、アジピン酸ジメチルを混合有機溶媒に抽出させた。
【0032】
そして、アジピン酸ジメチルが抽出された混合有機溶媒に対し、ガスクロマト定量分析装置であるGC−MS(GC: Hewlett Packard HP 6890 Series MS: Hewlett Packrd
5973 Mass Selective Detector)を用いてMSイオン化EI法による測定を行い、求められたアジピン酸ジメチル量から換算計算によってアジピン酸量を算出した。この算出したアジピン酸量と試料銀粉量を比較することで、試料銀粉におけるアジピン酸被覆量(質量%)が定量化された。その結果、試料銀粉1におけるアジピン酸被覆量は0.016質量%であると定量された。
【0033】
(実施例2)
本発明の実施例2として、材料銀粉に、0.3質量%のアジピン酸を表面に被覆させたもの(試料銀粉2)を用意し、アジピン酸の定量を行った。なお、アジピン酸の定量方法は、上記実施例1と同一条件下で同一の方法を用いたため、その詳細な説明は省略する。実施例2においては、試料銀粉2におけるアジピン酸被覆量は0.29質量%であると定量された。
【0034】
(実施例3)
本発明の実施例3として、材料銀粉に、0.5質量%のアジピン酸を表面に被覆させたもの(試料銀粉3)を用意し、アジピン酸の定量を行った。なお、アジピン酸の定量方法は、上記実施例1と同一条件下で同一の方法を用いたため、その詳細な説明は省略する。実施例3においては、試料銀粉3におけるアジピン酸被覆量は0.49質量%であると定量された。
【0035】
(実施例4)
本発明の実施例4として、材料銀粉に、0.02質量%のアジピン酸を表面に被覆させたもの(試料銀粉1)を用意し、アジピン酸の定量を行った。なお、実施例4においては、塩酸溶出工程の条件を上記実施例1と異なる条件とした。即ち、1.5gの試料銀粉を濃度35質量%の濃塩酸50mLと共にテフロン製の耐熱・耐圧容器に仕込み、密閉し、該容器を乾燥機において50℃、30minの条件下で保持するものとした。その他の工程については上記実施例1と同様を採用したため、その詳細な説明は省略する。実施例4においては、試料銀粉4におけるアジピン酸被覆量は0.020質量%であると定量された。
【0036】
(実施例5)
本発明の実施例5として、材料銀粉に、0.02質量%のアジピン酸を表面に被覆させたもの(試料銀粉1)を用意し、アジピン酸の定量を行った。なお、実施例5においては、塩酸溶出工程の条件を上記実施例1と異なる条件とした。即ち、1.5gの試料銀粉を濃度35質量%の濃塩酸50mLと共にテフロン製の耐熱・耐圧容器に仕込み、密閉し、乾燥機における保持を行わず、超音波分散と振とうのみを行うことで塩酸溶出工程とした。その他の工程については上記実施例1と同様の方法を採用したため、その詳細な説明は省略する。実施例5においては、試料銀粉5におけるアジピン酸被覆量は0.020質量%であると定量された。
【0037】
(実施例6)
本発明の実施例6として、材料銀粉に、0.1質量%のアジピン酸を表面に被覆させたもの(試料銀粉4)を用意し、アジピン酸の定量を行った。実施例6においては、塩酸溶出工程における塩酸濃度を18質量%とした。先ず、5gの試料銀粉を濃度18質量%の濃塩酸25mLと共にビーカーに仕込み、時計皿でふたをして、ヒータ上で15分煮沸した。その後、超音波分散と振とうを20min行い、塩酸溶出工程を行った。続いて、塩酸溶出工程後の試料液を0.1mL分取し、試験管に仕込み、更に35質量%の塩酸0.4mL、メタノール0.5mLを添加させて乾燥機において50℃、30minの条件下で保持させた。これにより溶出されたアジピン酸のメチル化処理が行われ、アジピン酸ジメチルが生成された。その他の工程については上記実施例1と同様の方法を採用したため、その詳細な説明は省略する。実施例6においては、試料銀粉4におけるアジピン酸被覆量は0.096質量%であると定量された。塩酸溶出工程における塩酸濃度を18質量%とした場合にも、高精度な定量値が得られることが分かった。
【0038】
(実施例7)
本発明の実施例7として、材料銀粉に、0.02質量%のアジピン酸を表面に被覆させたもの(試料銀粉5)を用意し、アジピン酸の定量を行った。実施例7においては、塩酸溶出工程における塩酸濃度を9質量%とし、その他の工程については実施例1と同様の方法を採用したため、その詳細な説明は省略する。実施例7においては、試料銀粉5におけるアジピン酸被覆量は0.012質量%であると定量された。即ち、塩酸溶出工程における塩酸濃度を9質量%とした場合には、おおよその定量値を得ることができ、みこしとして把握可能となった。
【0039】
以下の表1には、上記実施例1〜7における実際に被覆させたアジピン酸量(質量%)、塩酸濃度(%)、塩酸溶出工程における加熱条件(℃・min)及びアジピン酸分析値(質量%)をまとめたものである。
【表1】

【0040】
以上、実施例1〜7に示したアジピン酸含有量の定量結果から、本発明にかかるアジピン酸の定量方法によって、材料銀粉に被覆される(含有される)アジピン酸被覆量を高精度で定量可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば半導体部品等の電子部品や太陽電池の電極および回路形成に用いられる導電性ペーストに配合される銀粉表面の多価カルボン酸、特にアジピン酸の定量方法に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉に被覆された銀粉表面のアジピン酸の定量方法であって、
アジピン酸が被覆された銀粉からアジピン酸を溶出させる塩酸溶出工程と、
アジピン酸が溶出された塩酸溶出液においてアジピン酸をエステル化するエステル化工程と、を備えるアジピン酸の定量方法。
【請求項2】
前記エステル化工程によりエステル化されたアジピン酸エステルを有機溶媒に抽出する抽出工程と、
アジピン酸エステルの検量線から前記抽出工程において抽出されたアジピン酸エステル量を求め、換算計算によってアジピン酸を算出する算出工程と、を備える、請求項1に記載のアジピン酸の定量方法。
【請求項3】
前記塩酸溶出工程において用いる塩酸の濃度は9質量%以上である、請求項1または2に記載のアジピン酸の定量方法。
【請求項4】
前記抽出工程に用いられる有機溶媒はn−ヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載のアジピン酸の定量方法。
【請求項5】
前記算出工程におけるアジピン酸エステル量は、ガスクロマトグラフ質量分析法によって求められる、請求項1〜4のいずれかに記載のアジピン酸の定量方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−122880(P2012−122880A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274601(P2010−274601)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】