説明

銀金属粒子及び金属塩を含む組成物

本発明は、銀金属粒子及び添加物を含む組成物であって、前記添加物が、金属をイットリウム若しくは周期表第2族の金属とした金属塩又は金属塩の混合物であり、且つ前記組成物が2原子%より少ない前記金属を含んでいることを特徴とする組成物に関するものである。前記金属塩は、マグネシウム酢酸塩とするのが好ましい。前記組成物は、例えばAMLCDに使用する耐熱性で導電性の銀含有層を形成するのに利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀金属粒子及び添加物を含む組成物と、耐熱性導電層と、この耐熱性導電層を有するアクティブマトリクス液晶ディスプレイ(AMLCD)と、製品の銀含有層の製造に上記組成物を使用する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀粒子を含む組成物は、他の成分を有するか否かに拘わらず当該技術分野において周知である。例えば、欧州特許出願公開第826415号明細書には、銀ゾルの調整方法が開示されている。これらの銀ゾルは、基板上に導電性薄膜を形成するのに用いられている。このような導電性薄膜は、基板上に銀ゾルをスピンコーティングすることにより形成され、その後これらを150℃で加熱している。
【0003】
欧州特許出願公開第276459号明細書には、陰極線管の製造方法が開示されている。この場合、少量の(特に)銀を含有する帯電防止用の二酸化シリコン薄膜が調整された。また、金属粒子を含有する溶液又はコロイド溶液に対し、溶液の安定性を増大させるための添加物としてカチオン性又はアニオン性界面活性剤が添加され、その後この材料が噴霧法、分散法又は浸漬法により基板上に設けられ、続いて200℃で15分間加熱されることにより帯電防止薄膜が形成された。
【0004】
銀含有層、特に80容積%以上の銀を含有する銀含有層は、不可逆的なヒロック、剥脱及びクリープのいずれか又は任意の組み合わせの重大な現象が現れないようにするには、250℃を超える温度で加熱し得ず、200℃よりも高い温度で加熱しないのが好ましいことを確かめた。クリープ現象とは、薄膜が、銀を含有する複数の小さな部分と、その間にある銀を含んでいない部分とに分かれるように劣化する過程を言う。クリープ現象が起こると表面が粗くなり、このことは、銀含有層の鏡面状の外観が失われることを意味する。剥脱及びクリープ現象の双方又はいずれか一方を受けた銀含有層(又は薄膜)は、もはや低い抵抗率を有さないものとなり、導電性が低くなることにより、このような銀含有層は、6μΩ・cm(マイクロオーム・センチメートル)より低い抵抗率を必要とする殆どの用途に対して適さないものとなる。銀含有層は、通常、有機結合材料又は安定剤のような有機材料も含む組成物から形成されるが、充分な導電性を有する銀含有層を形成するのに比較的低温(250℃未満、好ましくは200℃未満)の処理しか使用し得ないため、通常、このような銀含有層は、上記温度で充分に除去されないある量の有機材料を含んでいる。また、他の処理工程において、高温(250℃より高い温度)の処理が必要となる場合もある。例えば、CRTコーン部をスクリーンに固着するのは450℃で行われる。このような高温で銀を使用しうるようにするためには、銀ペースト中にポリマー結合剤及びフリットガラス粒子を混合することができる。しかし、フリットガラス粒子が存在すると導電性が著しく低下してしまう。更に、これらの添加する粒子は、ミクロンレンジの寸法を有しているため、このような混合ペーストは、もはや1μmより薄肉の銀含有層を形成するのに適したものとならない。アクティブマトリクス液晶ディスプレイ(AMLCD)に用いられるCorning(登録商標)1737ガラス上のような絶縁表面上に設けられる良導電性の銀薄肉層、又は赤外線反射積層体に用いられるガラス又はその他の何らかの基板上に設けられる良導電性の銀薄肉層は、無電解銀めっき処理を用いて形成することができるが、他の反応工程における最高温度は250℃に制限されてしまう。この温度では、Si34の堆積が起こるし、その上、無電解めっき処理は、速度の遅い非平衡処理であり、浴のポットライフを短くするため、いずれにせよ商業的に望ましいものではない。
【0005】
導電性及び鏡面状の外観を損なうことなく、250℃より高い温度で加熱し得る薄肉の導電性銀含有層を形成する方法が特に必要とされている。
【0006】
国際出願PCT/IB02/04461号の明細書においては、銀金属粒子と、少なくとも1つのメチル基及び少なくとも1つのアルコキシ基を有するシラン誘導体である添加物とを含む組成物が、極めて安定であり、基板上に被着して、450℃、通常は700℃の高温に、多くの例では1000℃もの高温に加熱しうることが確かめられている。更に、上記の高温にしたこれら組成物から形成した200nmの厚さの銀含有層の抵抗率は、2.5〜6μΩ・cmもの低さに維持されることが確かめられており、これら抵抗値は、3〜4μΩ・cmとなることが確かめられている250℃で銀を無電解堆積して得られた銀含有層の抵抗率に完全に匹敵しうるものである。上記国際出願の例によれば、スピンコーティングされたガラスプレートが、250℃で30分間硬化処理され、その後350℃、450℃、500℃及び550℃で30分間更に熱処理される。抵抗率及び層厚に関してこれらの銀含有層により得られた結果は、上記国際出願の図中に記載されている。これらの図から分かるように、上述した方法では、少なくとも約400℃の温度で加熱処理を行った場合にのみ抵抗率が4μΩ・cmより低くなる。このような温度の処理では、例えば、通常のLCDディスプレイを製造する必要がある場合に問題を生ずることが分かった。このようなディスプレイにおいて能動層に対する基板として通常使用されるガラスの加熱上限温度は、約350℃である。これより高温では、基板が変形するおそれがある。このことは、実際上充分な導電性を有する銀層を一般的なガラス基板上に形成し得ないことを意味する。従って、銀金属粒子及びシラン誘導体添加物を用いる従来の方法について、この方法と同様の耐クリープ特性を有するが、250℃〜400℃の温度で加熱可能な熱の影響を受けやすい基板上に被着しうる新たな添加物を探し出し、導電性及び鏡面状の外観を失わない層が得られるようにすることによりこの従来の方法を改良することが必要である。
【0007】
銀金属粒子及び添加物を含む組成物であって、この添加物が、金属をイットリウム又は周期表第2族の金属とした金属塩又は金属塩の混合物であり、且つ前記組成物が2原子%より少ない前記金属を含んでいることを特徴とする組成物を用いることによって、上述した問題が解決されることを確かめた。従って、一般に使用することのできる金属塩は、Y、Mg、Ca、Sr及びBaの塩から選択する。金属塩はマグネシウム塩とするのが最も好ましい。
【0008】
また、本発明の銀含有層では、ガラスのような無機基板に対する接着性も増大する。更に、この組成物は、250℃〜450℃、より好ましくは250℃〜350℃の熱処理を適用する場合に特に有用であることを確かめた。これらの有利な特性により、本発明の組成物を有する銀含有薄膜は、AMLCD、受動集積素子、(高速インテリジェントトラッキング(FIT)に用いられるような)耐高温反射層、及び約350℃より高い温度に耐えられない基板を用いる反射型ディスプレイに用いるのに極めて適したものとなる。銀にマグネシウム塩を加えることは、2002年1 月に発行された“Journal of the Korean Physical Society” 40(1)の110〜114頁のLee氏等の論文に記載されている。しかし、この論文の著者は、スパッタリング処理を用いて銀に対して5原子%ものマグネシウムを加えている。本発明による銀層にこのような量のマグネシウムを加えると、得られる層は、結晶化したマグネシウム塩を含むものとなり、ディスプレイ等の銀層として被着するのに不適なものになる。本発明によれば、ディスプレイに使用しうる層を得るのに、銀に加える金属が2原子%より少なくなる層を形成するのが重要であることを確かめた。
【0009】
金属塩は、金属酸化物塩、金属硝酸塩、金属炭酸塩、金属リン酸塩等のような無機塩や、金属酢酸塩、金属プロピオン酸塩、金属クエン酸塩、金属ステアリン酸塩、金属酒石酸塩等のような有機塩とすることができる。また、無機塩と有機塩との混合物を含む、これら塩の混合物も使用することができる。これら金属塩は、マグネシウム塩とするのが好ましく、マグネシウムの有機塩又はマグネシウム硝酸塩とするのがより好ましい。マグネシウム塩は、マグネシウム酢酸塩又はマグネシウム硝酸塩とするのが最も好ましい。この組成物が含む金属の量は、好ましくは1原子%より少なくし、最も好ましくは0.25〜0.5原子%にする。2原子%より高い濃度では、銀金属構造の乱れのために導電性が減少する。
【0010】
本発明の最も一般的な組成物は、金属塩を含むコロイド状銀ゾルである。これらのゾルは、極めて安定で且つポットライフが長くなる。これらのゾルを基板上に被着するのは、当該技術分野で既知の方法、例えばスピンコーティング又は印刷処理により簡単に行うことができる。
【0011】
通常、この組成物は、基板、一般的にはガラスのような無機基板上に設けられて耐熱性で導電性の銀含有層を形成する。これらの層は、特にアクティブマトリクス液晶ディスプレイ(AMLCD)に用いることができる。
【0012】
一般に、これらの組成物は、銀含有層が250℃〜350℃の温度に曝されることになる装置に使用する当該銀含有層を形成するのにも極めて適している。このような導電層は、AMLCDや、有機エレクトロルミネッセント(ディスプレイ)装置や、若しくはプラズマディスプレイパネルのような製品や、又はIR反射性積層体にも適用することができる。
本発明を以下の例により説明する。
【実施例】
【0013】
マグネシウム酢酸塩を銀コロイド分散水(17重量%の銀及び13重量%の安定剤を含む日本ペイント社製のゾル)に加え、銀に加えるマグネシウムを0.25原子%にした。得られた混合物を水で希釈し所望の粘度にした。
【0014】
比較例
前述の国際出願PCT/IB02/04461号の明細書に記載された方法に従って、MTMS(メチルトリメトキシシラン)と銀コロイド分散水(上述した日本ペイント社製)とを混合して、銀に加えて3原子%のシリコンを含む懸濁液を得ることでMTMS含有銀層を形成した。
【0015】
本発明の実施例及び比較例の層を、スピンコーティングによりCorning(登録商標)1737基板上に堆積し、80℃で5分間乾燥させた。サンプルを210℃の空気中で前硬化させた後、これを100%の酸素雰囲気とした管状炉中で硬化させた。加熱速度は25℃/分とし、サンプルを終点温度で30分間保持した。冷却後、4点接触式プローブを用いてシート抵抗を測定し、アルファステップ(型式)なる測定装置を用いて層厚を測定し、これらの値から抵抗値を計算した。RBS測定を用いて銀の量を測定した。抵抗率を硬化温度の関数として図1に示す。図2においては、銀層の相対密度を、硬化温度の関数として示す。
【0016】
金属塩Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Sr(NO3)2、Ba(NO3)2及びY(Ac)3によっても上述の代表的なマグネシウム塩の場合と同様の結果が得られた。Co(Ac)2 でも良好な結果が得られた。
【0017】
銅塩及びパラジウム塩の双方又はいずれか一方のような他の金属塩を加えることにより、耐腐食性を向上させることができる。例えば、スパッタリングの代わりに湿式堆積処理を用いて、0.9原子%のPdと1.7原子%のCuとを含む銀の「APC」被膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明による銀層(三角記号)及び本発明によらない銀層(四角記号)の、硬化温度T(℃)に対する抵抗率R(μΩ・cm)を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明による銀層(三角記号)及び本発明によらない銀層(四角記号)の、硬化温度T(℃)に対する相対密度d(無次元単位)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀金属粒子及び添加物を含む組成物において、
前記添加物が、金属をイットリウム、コバルト若しくは周期表第2族の金属とした金属塩又は金属塩の混合物であり、且つ前記組成物が2原子%より少ない前記金属を含んでいることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、
前記金属がマグネシウムである組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の組成物において、
前記金属塩が、マグネシウム硝酸塩、又はマグネシウムと有機塩基との塩である組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物において、
前記金属塩が、マグネシウム酢酸塩である組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物において、
この組成物が、1原子%より少ない金属を含んでいる組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物において、
前記銀金属粒子が、コロイド状銀ゾルである組成物。
【請求項7】
銀組成物含有層を有する導電層であって、前記組成物が、銀と、金属を周期表第2族の金属とした金属塩又は金属塩の混合物とを含んでおり、且つ前記組成物が2原子%より少ない前記金属を含んでいる導電層。
【請求項8】
請求項7に記載の前記導電層を有する製品。
【請求項9】
請求項7に記載の前記導電層を有するアクティブマトリクス液晶ディスプレイ。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を銀含有層の製造に使用する方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−521665(P2006−521665A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502530(P2006−502530)
【出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【国際出願番号】PCT/IB2004/050037
【国際公開番号】WO2004/069452
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】