説明

鋳造用中子の塗型方法

【課題】十分な塗型剤浸透層を形成できる鋳造用中子の塗型方法を提供する。
【解決手段】円筒状の中子11を回転テーブル2に載置して、その上下端の開口部を蓋部材3と回転テーブルで閉塞し、回転テーブルの中心孔2aに、軸受5を介して中子の内部の空気を吸引する吸気管4を嵌挿して内部を負圧とし、中子の外周面にスプレーガン1で霧状の塗型剤Sを吹き付けることにより、砂を固めたポーラスな中子の筒壁内に外周側から内周側へ流れる空気流を生じさせて、外周面に塗布される塗型剤Sをこの空気流で外周面から壁内へ導き、十分な塗型剤浸透層を形成できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の筒状の中子の外周面に塗型剤を塗布する鋳造用中子の塗型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造用中子は、鋳型と同様に、砂を固めて形成され、型砂に溶湯金属が直接接触するのを防止して、良好な鋳物の品質と鋳肌面を得るために、黒鉛、コークス、ジルコン、けい砂等の微粉を基材とする塗型剤が塗布される。このような中子は、効率よく鋳造空間を形成するために、筒状とされたものが多い。遠心鋳造用の中子では、例えば、受け口部を有する鋳鉄管を鋳造する場合に、受け口部の内周側に配置されるもののように、円筒状とされたものが多い。これらの筒状の中子は外周面に塗型剤が塗布される。
【0003】
このような筒状の中子の外周面に塗型剤を塗布する塗型方法としては、塗型剤を刷毛で塗る刷毛塗り法、塗型剤の溶液中に中子を浸漬するドブ漬け法(例えば、特許文献1参照)、スプレーガンで霧状の塗型剤を吹き付けるスプレー法(例えば、特許文献2参照)等が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−192497号公報
【特許文献2】特開平9−168851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した各種の塗型方法のうち、刷毛塗り法は、特段の設備を必要とせず簡便であるが、塗型剤を均一に塗布するのに熟練を要し、作業能率も低い問題がある。ドブ漬け法は、浸漬槽に最初に浸漬され、深くまで浸漬される下部分は十分な塗型剤浸透層が形成されるが、最後に浸漬され、浅くまでしか浸漬されない上部分に十分な塗型剤浸透層が形成されない場合があった。また、ドブ漬け法は浸漬槽を必要とし、内周面に塗型剤が付着しないように、浸漬時に筒状の中子の下端開口を閉塞する必要もあるので、設備が複雑で大掛かりなものとなるとともに、外周面に付着した過剰な塗型剤を取り除いて、均一な塗型層を形成するために、刷毛塗りによる仕上げ作業を必要とすることもある。
【0006】
一方、スプレー法は、自動化が容易で生産性を向上でき、設備も簡素化できることから、近年採用されるケースが増加していが、霧状の塗型剤が周辺に飛散して、周辺環境を悪化させるとともに、塗型剤の歩留りが低下する問題がある。また、スプレー法は、ドブ漬け法は勿論、刷毛塗り法と較べても、塗型剤浸透層があまり形成されず、型砂の焼き付き等の不具合が発生する恐れがある。特に、円筒状の中子を回転させながら外周面に塗型剤を塗布する場合は、中子に作用する遠心力によって、塗型剤浸透層がより形成され難くなる。なお、刷毛塗り法でも、より十分な塗型剤浸透層の形成が望まれている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、十分な塗型剤浸透層を形成できる鋳造用中子の塗型方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、鋳造用の筒状の中子の外周面に塗型剤を塗布する鋳造用中子の塗型方法において、前記筒状の中子の両端開口部を閉塞し、この閉塞した少なくとも一端側の開口部から内部の空気を吸引して内部を負圧とし、前記中子の外周面に塗型剤を塗布する方法を採用した。
【0009】
すなわち、筒状の中子の両端開口部を閉塞し、この閉塞した少なくとも一端側の開口部から内部の空気を吸引して内部を負圧とし、中子の外周面に塗型剤を塗布することにより、砂を固めたポーラスな中子の筒壁内に外周側から内周側へ流れる空気流を生じさせて、この空気流で外周面に塗布される塗型剤を外周面から壁内へ導き、十分な塗型剤浸透層を形成できるようにした。
【0010】
前記塗型剤の塗布を、スプレーガンで霧状の塗型剤を吹き付けるスプレー法で行う場合は、前記外周側から内周側へ流れる空気流によって、吹き付けられる霧状の塗型剤の周辺への飛散を抑制して、周辺環境の悪化も防止することができる。
【0011】
前記中子を円筒状のものとし、この円筒状の中子を中心軸の回りに回転させながら、前記外周面に塗型剤を塗布する場合は、中子に作用する遠心力に抗して、外周面に塗布される塗型剤を前記空気流によって外周面から壁内へ導くことができる。
【0012】
前記回転する円筒状の中子の両端開口部を閉塞する部材の少なくとも一方に中心孔を設け、この中心孔に軸受を介して、前記内部の空気を吸引する吸気管を嵌挿することにより、回転する中子の内部を容易に負圧にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る鋳造用中子の塗型方法は、筒状の中子の両端開口部を閉塞し、この閉塞した少なくとも一端側の開口部から内部の空気を吸引して内部を負圧とし、中子の外周面に塗型剤を塗布するようにしたので、中子の筒壁内に外周側から内周側へ流れる空気流を生じさせて、外周面に塗布される塗型剤をこの空気流で外周面から壁内へ導き、十分な塗型剤浸透層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】円筒状の中子を用いる遠心鋳造装置を示す概略切欠き正面図
【図2】図1の中子を示す切欠き斜視図
【図3】図2の中子の第1の実施形態の塗型方法を示す切欠き縦断面図
【図4】図2の中子の第2の実施形態の塗型方法を示す切欠き縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、円筒状の中子11を用いる遠心鋳造装置を示す。この遠心鋳造装置は鋳鉄管Pを鋳造する横型のものであり、円筒状の鋳造金型12が一対の回転駆動ローラ13に支持されて水平軸の回りに高速回転し、溶湯Aが供給される取鍋14と、取鍋14から溶湯Aを投入され、鋳造金型12内に一端側から挿入される注湯樋15が、走行台車16によって鋳造金型12の軸方向に移動するようになっており、鋳鉄管Pの受け口部P1が鋳造される鋳造金型12の一端の内周側に、円筒状の中子11が配置される。
【0016】
前記円筒状の中子11は砂を固めて形成され、図2に示すように、円筒部11aの一端側に鋳造金型12との間を閉塞する外向きの鍔11bが設けられ、他端側に溶湯Aを堰き止める内向きの鍔11cが設けられている。
【0017】
図3は、前記円筒状の中子11の外周面に塗型剤Sを塗布する第1の実施形態の塗型方法を示す。この塗型方法は、スプレーガン1から霧状の塗型剤Sを吹き付けるスプレー法であり、中子11は、外向きの鍔11bが設けられた下端側を、回転する回転テーブル2に載置されて閉塞され、内向きの鍔11cが設けられた上端側を蓋部材3で閉塞されている。回転テーブル2の中心孔2aには、中子11の内部の空気を吸引するように固定された吸気管4が、回転テーブル2を回転自在に支持する軸受5を介して嵌挿されている。
【0018】
したがって、前記回転テーブル2上で回転しながら塗型剤Sを吹き付けられる中子11の内部は、吸気管4による空気の吸引で負圧となり、砂を固めたポーラスな円筒部11aには、外周側から内周側へ流れる空気流が生じ、その外周面に吹き付けられる塗型剤Sがこの空気流に導かれて外周面から浸透し、十分な塗型剤浸透層が形成される。
【実施例】
【0019】
実施例として、前記吸気管で内部の空気を吸引しながら、回転する中子の外周面に塗型剤を吹き付け、塗型後の塗型剤浸透層の深さを調査する塗型試験を行った。吸気管の吸引圧力は、1.7Kpa(実施例1)と2.1Kpa(実施例2)の2段階に設定した。比較例として、吸気管で内部の空気を吸引しない塗型試験も行った。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に、上記塗型試験の結果を示す。中子11の内部の空気を吸引しない比較例では、塗型剤浸透層の深さが0.5mmであったのに対して、吸引圧力1.7Kpaで空気を吸引した実施例1では1.0mm、吸引圧力2.1Kpaで空気を吸引した実施例2では1.5mmと塗型剤浸透層の深さが増加しており、本発明に係る中子の塗型方法は十分な塗型剤浸透層を形成できることが確認された。また、各実施例では、吹き付けられる塗型剤の周辺への飛散も抑制されることが確認された。
【0022】
図4は、前記円筒状の中子11の外周面に塗型剤Sを塗布する第2の実施形態の塗型方法を示す。この塗型方法も、基本的な構成は第1の実施形態と同じスプレー法であり、中子11の内部の空気を吸引するように固定された吸気管4が、上端側を閉塞する蓋部材3の中心孔3aに、軸受5を介して嵌挿されている点が異なる。その他は第1の実施形態と同じであり、回転する中子11の外周面に、スプレーガン1から霧状の塗型剤Sが吹き付けられる。
【0023】
上述した各実施形態では、円筒状の中子を回転させながら、スプレー法で外周面に塗型剤を吹き付けたが、本発明に係る中子の塗型方法は、スプレー法以外の刷毛塗り法、ドブ漬け法等にも適用でき、中子は円筒状以外の筒状のものとすることもできる。
【0024】
また、上述した各実施形態では、中子を回転テーブル上に載置して、塗型剤を吹き付けたが、本発明に係る中子の塗型方法は、回転テーブルを用いる方法以外にも、例えば、中子を回転可能に宙吊りにして、塗型剤を吹き付ける方法も採用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 スプレーガン
2 回転テーブル
2a 中心孔
3 蓋部材
3a 中心孔
4 吸気管
5 軸受
11 中子
11a 円筒部
11b、11c 鍔
12 鋳造金型
13 回転駆動ローラ
14 取鍋
15 注湯樋
16 走行台車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用の筒状の中子の外周面に塗型剤を塗布する鋳造用中子の塗型方法において、前記筒状の中子の両端開口部を閉塞し、この閉塞した少なくとも一端側の開口部から内部の空気を吸引して内部を負圧とし、前記中子の外周面に塗型剤を塗布するようにしたことを特徴とする鋳造用中子の塗型方法。
【請求項2】
前記塗型剤の塗布を、スプレーガンで霧状の塗型剤を吹き付けるスプレー法で行うようにした請求項1に記載の鋳造用中子の塗型方法。
【請求項3】
前記中子を円筒状のものとし、この円筒状の中子を中心軸の回りに回転させながら、前記外周面に塗型剤を塗布するようにした請求項1または2に記載の鋳造用中子の塗型方法。
【請求項4】
前記回転する円筒状の中子の両端開口部を閉塞する部材の少なくとも一方に中心孔を設け、この中心孔に軸受を介して、前記内部の空気を吸引する吸気管を嵌挿した請求項3に記載の鋳造用中子の塗型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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