説明

鋳造金型

【課題】 筒部を有する鋳造品を、サイドゲートからの溶湯充填により鋳造する場合に、鋳造欠陥が生じるのを抑制する。
【解決手段】 車両用ホイールを鋳造する金型は、ディスク部成形空間と、このディスク部成形空間の周縁に連なりこの周縁から上方に延びるリム部成形空間20b(筒部成形空間)とを有している。リム部成形空間20bには、側部湯道が連なり、この側部湯道のリム部成形空間20bへの開口端がサイドゲート25xとなる。側部湯道におけるサイドゲート25x近傍の湯道部分25bは、上方から見た時、リム部成形空間20bの周面の法線に対して傾斜しており、湯道部分25bと、リム部成形空間20bの周面の法線Nとの交差角度Θが、5〜30°である。湯道部分25bの下面25Lはリム成形空間20bに向かって下がるように傾斜し、リム成形空間20bの外周面との境がアール面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒部を有する鋳造品のための金型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミ合金製(軽合金製)の車両用ホイールを鋳造する低圧鋳造装置が開示されている。この装置の金型は、ディスク部成形空間とリム部成形空間(筒部成形空間)とを有している。金型の複数の側部湯道の先端は、リム部成形空間の周面に開口してサイドゲートとなっている。
【0003】
鋳造時には、溶湯が側部湯道を通り、サイドゲートからリム部成形空間に供給される。
【特許文献1】特開2001−300716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の金型では、側部湯道を通りサイドゲートから注がれた溶湯は、ディスク部成形空間内の溶湯溜まり又はリム部成形空間内の溶湯溜まりに流れ落ちる。このように溶湯が溶湯溜まりへ流れ落ちる際、成形空間内の空気等の気体が巻き込まれて、溶湯溜まり中に気泡となって入り込み、この気泡が原因となって鋳造品に巣等の鋳造欠陥が生じることがある。
【0005】
本発明者は、上記現象を詳細に分析した。その分析について図6,図7を参照しながら説明する。図6は、特許文献1と同様の金型の横断面図であり、側部湯道におけるサイドゲート25x近傍の湯道部分が符号25bで示されている。この湯道部分25bは、円筒形状をなすリム部成形空間20bの外周面に対して直交している。換言すれば、湯道部分25bは、リム部成形空間20bの中心軸線20xを通る線L’に沿って延びている。
【0006】
上記構成のため、図7に示すように、側部湯道の湯道部分25bを通ってサイドゲート25xから注がれた溶湯は、リム部成形空間20b内を垂直に流下する。この流下の過程で巻き込まれた気泡Kは、溶湯溜まりY’に生じた渦に取り込まれて溶湯溜まりY’から脱出するのが容易ではない。その結果、上記の不都合が生じるのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、中心軸線が上下方向に延びる筒部成形空間と、この筒部成形空間に連なる側部湯道とを備え、この側部湯道の筒部成形空間への開口端がサイドゲートとなる鋳造金型において、上記側部湯道におけるサイドゲート近傍の湯道部分が、上方から見た時、上記筒部成形空間の周面の法線に対して傾斜していることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、サイドゲートからの溶湯の流れが周方向のベクトルを持つので、溶湯溜まりに巻き込まれた気泡を、良好に脱出させることができ、巣等の鋳造欠陥の発生を抑制できる。
【0009】
好ましくは、上記サイドゲート近傍の湯道部分と、上記筒部成形空間の周面の法線との交差角度が、5〜30°である。5°未満であると、上記効果が薄くなり、30°を超えると、金型強度の低下,金型製作コストの上昇を招くからである。
【0010】
好ましくは、上記サイドゲート近傍の湯道部分の少なくとも下面が、上記筒部成形空間に向かうにしたがって下がるように傾斜している。この構成によれば、サイドゲートから流れ出た溶湯は、湯道からサイドゲート、筒部成型空間へと溶湯が流れるときに流れの方向変化が少なく、流れの乱れが少ないため、気泡の巻き込みを抑制する。そのため、鋳造欠陥の発生をより一層抑制することができる。
【0011】
好ましくは、上記湯道部分の下面と上記筒部成形空間の外周面との境が、アール面取りされている。この構成によれば、サイドゲートから筒部成形空間に流れ出た溶湯が、筒部成形空間の外周面に沿って流れやすく、溶湯の流れが筒部成形空間の外周面から剥離し難くなり、気泡の巻き込みを抑制する。そのため、鋳造欠陥の発生をより一層抑制することができる。
【0012】
好ましくは、車両用ホイールを鋳造するためのものであって、ディスク部成形空間と、このディスク部成形空間の周縁に連なりこの周縁から上方および下方に延びるリム部成形空間とを有し、このリム部成形空間が上記筒部成形空間として提供される。これにより、高品質の車両用ホイールを鋳造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、筒部を有する鋳造品の品質向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態をなす、アルミ合金製(軽合金製)の車両用ホイール(鋳造品)の低圧鋳造装置について、図1〜図3を参照しながら説明する。車両用ホイールは、周知のようにディスク部とディスク部の周縁に一体に形成されたリム部(円筒形状の筒部)とを有している。
【0015】
図1に示すように、上記低圧鋳造装置は、金型10と、金型10の下方に設置された溶湯保持炉とを基本構成要素として備えている。
【0016】
図1、図2に示すように、上記金型10は、所定位置に固定された下型11と、下型11の真上に位置して昇降する上型12と、周方向に複数に分割された横型13とを備えている。なお、これら図では横型13の分割面は省略する。
【0017】
図1に示すように、上記金型10の型締め状態では、内部に車両用ホイールを鋳造するためのホイール成形空間20が形成される。
【0018】
上記ホイール成形空間20は、ディスク部成形空間20aとその周縁に連なる円筒形状のリム部成形空間20b(筒部成形空間)とを有している。リム部成形空間20bの中心軸線20xは、ディスク部成形空間20aの中心を通り垂直に延びている。
【0019】
隣接する横型13の側面間には、複数の側部湯道25が形成されている。本実施形態では、横型13が3分割されており、側部湯道25が周方向に等間隔離れて3つ形成されている。
【0020】
側部湯道25は、垂直に延びる第1湯道部分25aと、この第1湯道部分25aの上端から金型10の径方向,内方向に延びる第2湯道部分25bとを有している。本実施形態では、第2湯道部分25bの上面25Uは水平に延び、第2湯道部分25bの下面25Lは、内方向に向かってすなわち上記リム部成形空間20bに向かって下がるように傾斜している。
【0021】
金型10を固定する台にはストーク(図示しない)の上端が接続されており、上記第1湯道部分25aの下端に連なっている。このストークは垂直に下方に延び、その下端が溶融保持炉(図示しない)内の溶湯に浸漬している。
【0022】
上記第2湯道部分25bの先端は、ディスク部成形空間20aから離れて、上記リム部成形空間20bの外周面に開口し、サイドゲート25xとなっている。そのため、第2湯道部分25bはサイドゲート25x近傍の湯道部分となっている。
【0023】
上記第2湯道部分25bの下面25Lとリム部成形空間20bの外周面との境は、アール面取りされている。このアール面取り部を図において符号25Rで示す。
【0024】
図2に示すように、側部湯道25の第2湯道部分25bは、上方から見て、リム部成形空間20bの外周面の法線に対して傾斜している。すなわち、リム部成形空間20bの外周面の法線Nと、第2湯道部分25bの幅方向中央を通る線L(第2湯道部分25bの延び方向を表す線)とがなす角度は、ゼロではなく、所定の角度Θで交わっている。この交差角度Θは、5〜30°の範囲にある。
【0025】
参考までに、本実施形態では、リム部成形空間20bが円筒形状をなしているので、その外周面の法線Nは、必ず中心軸線20xを通ることになる。
【0026】
上記構成の装置を用いた低圧鋳造方法について詳述する。金型10を締めた状態で、溶湯保持炉にト゛ライエア等の加圧気体を供給し、溶湯表面を加圧すると、溶湯がストーク,側部湯道25を通り、サイドゲート25xからリム部成形空間20bに注がれる。
【0027】
サイドゲート25xから注がれた溶湯は、リム部成形空間20bを流れ落ちてディスク部成形空間20aへと供給され、ディスク部成形空間20aを満たした後、リム部成形空間20bを満たす。これにより、車両用ホイールが鋳造される。
【0028】
図3に示すように、上記サイドゲート25xから注がれた溶湯Yが、ディスク部成形空間20aまたはリム部成形空間20bの溶湯溜まりY’へと流れ落ちる際、成形空間20内の空気等の気体を巻き込むため、溶湯溜まりY’に気泡Kが生じる。
【0029】
本実施形態では、サイドゲート25x近傍の第2湯道部分25bがリム部成形空間20bの周面の法線に対して傾斜しているため、溶湯は第2湯道部分25bを通る際に、矢印A1で示すような周方向の運動エネルギーを付与される。
【0030】
そのため、溶湯はリム部成形空間20bを流れ落ちる際に、真下ではなく周方向のベクトルを含んで、矢印A2で示すように斜めに流れ落ちる。
【0031】
その結果、溶湯溜まりY’内において、矢印A3で示すように周方向のベクトルを含んだ流れが生じる。この流れは、溶湯Y’中に入り込んだ気泡Kを溶湯Yの流れ込み位置から周方向にずれた位置へと追いやり、気泡Kが溶湯溜まりY’から脱出するの助ける。
【0032】
上記のように、溶湯Yの流れ込みの際に生じた気泡Kが溶湯溜まりY’から容易に脱出できるので、鋳造された車両用ホイールのリム部に巣等の鋳造欠陥が残るのを抑制できる。
【0033】
上記第2湯道部分25bと法線Nとの交差角度Θが5°以上であるので、上述した良好な気泡離脱効果を確保できる。また、交差角度Θが30°以下であるので、金型10の強度が低下したり、金型10の製作コストが上昇するのを回避できる。
【0034】
また、第2湯道部分25bの下面25Lがリム部成形空間20bに向かうにしたがって下がるように傾斜しているため、サイドゲート25xから流れ出た溶湯は、湯道25bからサイドゲート25x、筒部成型空間20bへと溶湯が流れるときに流れの方向変化が少なく、流れの乱れが少ないため、溶湯の流速が遅くなり、気泡の巻き込みを抑制することができる。
【0035】
さらに、第2湯道部分25bの下面25Lとリム部成形空間20bの外周面との境が、アール面取りされている(符号25R参照)ため、サイドゲート25xからリム部成形空間20bに流れ出た溶湯が、リム成形空間20bの外周面に沿って流れやすく、溶湯の流れがリム部成形空間20bの外周面から剥離し難くなり、その結果、気泡の巻き込みを抑制することができる。
【0036】
以下、本発明の他の実施形態について、説明する。これら実施形態において先行する実施形態に対応する構成部には同番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0037】
図4に示す第2実施形態では、第2湯道部分25bの上面25Uも下面25Lと同様にリム部成形空間20bに向かうにしたがって下がるように傾斜しているため、第2湯道部分25b全体が傾斜している。これによれば、より一層気泡の巻き込みを抑制することができる。他の構成は第1実施形態と同様である。
【0038】
上記第1,第2実施形態において、下型11の中央にも中央湯道を形成してもよい。この中央湯道は垂直に延び、その下端にストークの上端が接続されている。このストークの下端は溶湯保持炉の溶湯に浸漬される。中央湯道の上端は上記ディスク部成形空間20aの下面中央に開口してセンターゲートとなる。上述の溶湯保持炉内への加圧気体供給時に、溶湯が上記ストークおよび中央湯道を通ってセンターゲートからディスク部成形空間20aに供給される。
【0039】
図5の第3実施形態では、筒部成形空間120bの平断面が多角形例えば六角形をなしている。この筒部成形空間120bの外周面は、6つの平坦な面からなり、そのうちの選択された3つの平坦面に側部湯道25の第2湯道部分25bが連なっている。
【0040】
第3実施形態でも、第2湯道部分25bの延び方向を表す線Lは、筒部成形空間120bの平坦面の法線Nに対して所定角度Θで交差している。また、図示しないが、第2湯道部分25bの下面は第1実施形態と同様に傾斜している。その結果、第1実施形態と同じ効果が得られる。第3実施形態の他の構成および溶湯の流れを含む作用は、第1実施形態と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0041】
なお、筒部成形空間120bが多角形をなしている場合には、第2湯道部分25bの延び方向を表す線Lは、図示のように、筒部成形空間120bの中心軸線120xを通ることもある。
【0042】
本発明は、上記実施形態に制約されず、種々の形態を採用可能である。例えば、側部湯道におけるサイドゲート近傍の湯道部分の上下面は水平であってもよい。また、本発明の金型は、低圧鋳造のみならず、高圧鋳造にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態をなす低圧鋳造装置の金型の縦断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う金型の横断面図である。
【図3】同実施形態において、側部湯道を通りサイドゲートからリム部成形空間に注がれた溶湯の流れを、内側すなわち図2においてIII方向から見た概略図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す図1相当図である。
【図5】本発明の第3実施形態を示す図2相当図である。
【図6】従来の鋳造金型の横断面図である。
【図7】同従来金型における溶湯の流れを、内側すなわち図6においてVII方向から見た概略図である。
【符号の説明】
【0044】
10 金型
20b リム部成形空間(筒部成形空間)
20x 中心軸線
25 側部湯道
25b 第2湯道部分(サイドゲート近傍の湯道部分)
25L 第2湯道部分の下面
25U 第2湯道部分の上面
25R アール面取り部
25x サイドゲート
120b 筒部成形空間
120x 中心軸線
N 法線
L 湯道部分の延び方向を表す線
Θ 交差角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線が上下方向に延びる筒部成形空間と、この筒部成形空間に連なる側部湯道とを備え、この側部湯道の筒部成形空間への開口端がサイドゲートとなる鋳造金型において、
上記側部湯道におけるサイドゲート近傍の湯道部分が、上方から見た時、上記筒部成形空間の周面の法線に対して傾斜していることを特徴とする鋳造金型。
【請求項2】
上記サイドゲート近傍の湯道部分と、上記筒部成形空間の周面の法線との交差角度が、5〜30°であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造金型。
【請求項3】
上記サイドゲート近傍の湯道部分の少なくとも下面が、上記筒部成形空間に向かうにしたがって下がるように傾斜していることを特徴とする請求項1および2に記載の鋳造金型。
【請求項4】
上記湯道部分の下面と上記筒部成形空間の外周面との境が、アール面取りされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋳造金型。
【請求項5】
車両用ホイールを鋳造するためのものであって、ディスク部成形空間と、このディスク部成形空間の周縁に連なりこの周縁から上方および下方に延びるリム部成形空間とを有し、このリム部成形空間が上記筒部成形空間として提供されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋳造金型。
【請求項6】
請求項5の鋳造金型で製造した車両用ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−125572(P2007−125572A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319024(P2005−319024)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】