説明

鋳鉄管の表面処理方法

【課題】鋳鉄管の外面に溶射皮膜が形成される鋳鉄管の表面処理方法において、水密性の低下や防食性能の低下を防止することができる鋳鉄管の表面処理方法を提供する。
【解決手段】鋳鉄管の外表面に、犠牲陽極効果のある溶射皮膜を形成し、この溶射皮膜に、イワタカップで20秒以下である粘度の液状物質を塗布し、さらにこの上に水系または溶剤系の塗料を塗装する。この方法によれば、溶射皮膜を形成した後に、イワタカップで20秒以下である粘度の低い液状物質を供給することで、前記液状物質の少なくとも一部が溶射皮膜に浸透して、前記液状物質の少なくとも一部が溶射皮膜の空隙や亀裂に入り込んで埋められて、溶射皮膜の水密性や防食性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳鉄管の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4(a)、図5および図6(a)に示すように、一般に、地中に埋設される鋳鉄管1は土壌地下水等による腐食を防止するため、外面に防食皮膜2が形成される。この防食皮膜2としては、塗膜の他、亜鉛や亜鉛アルミ合金など、素地金属より卑な電位となる金属を犠牲陽極として素地表面に溶射させて溶射皮膜を形成することが知られている(例えば、特許文献1等)。溶射皮膜2は、埋戻土砂などの衝撃や摩擦に耐える機械的耐久性が優れるため、耐久性を要求される埋設鋳鉄管等の防食皮膜として採用されている。なお、溶射皮膜2が形成された鋳鉄管1は、外観体裁を整えるなどの目的から、図4(b)に示すように、その後に、外面に塗料4が上塗りされて塗膜が形成される場合が多い。なお、図5における6は挿口、7は受口、8はゴム輪、9は離脱防止用のロックリング、10は芯出し用ゴムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−230482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、溶射皮膜2は、図7に示すように、溶射したままの状態では空隙や亀裂が多く存在する。したがって、このように空隙や亀裂が多く存在した状態では、図5および図6(a)に示すような継手部におけるゴム輪6の接触部分に対応する箇所で、管内の水道水Wなどが外部に漏洩して、水密性が悪くなったり、防食性能が低下したりすることがあった。特に、図6(b)に示すように、塗膜3に傷Kを生じた場合には、管内の水道水Wなどが溶射皮膜2に直接接触するとともに水圧が直接作用するので、溶射皮膜2を通過する割合が大きくなり、水密性の低下や防食性能の低下が顕著となる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するもので、鋳鉄管の外面に溶射皮膜が形成される鋳鉄管の表面処理方法において、水密性の低下や防食性能の低下を防止できる鋳鉄管の表面処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、鋳鉄管の外表面に、犠牲陽極効果のある溶射皮膜を形成し、この溶射皮膜に、イワタカップで20秒以下である粘度の液状物質を塗布し、さらにこの上に水系または溶剤系の塗料を塗装することを特徴とする。
【0007】
この方法によれば、溶射皮膜を形成した後に、イワタカップで20秒以下である粘性の低い液状物質を供給することで、前記液状物質の少なくとも一部が溶射皮膜に浸透して、前記液状物質の少なくとも一部が溶射皮膜の空隙や亀裂に入り込んで埋められて、溶射皮膜の水密性や防食性能が向上する。
【0008】
なお、溶射皮膜としてはZn、Al、Mg又はそれらを含む合金・混合物であることが好ましく、液状物質としては、有機系、有機無機複合系または無機系であることが好ましく、塗料としては、アクリル系、またはエポキシ系であることが好ましい。
【0009】
さらに、鋳鉄管を、30℃以上、100℃以下の温度に加温した状態で、鋳鉄管の外表面に溶射した溶射皮膜に液状物質を塗布し、塗布後30秒以内に上塗りの塗料を塗装することにより、液状物質の塗布工程後の乾燥時間を短くして、生産ラインにおける同じ塗装場で、液状物質の塗布と塗料の上塗りとを行うことができるなど生産効率を向上させることができる。また、この場合の液状物質としては、コロイダルシリカ系またはアルキルシリケート系であることが好ましく、良好な水密性および防食性能が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶射皮膜を形成した後に、イワタカップで20秒以下である粘性の低い液状物質を供給することで、前記液状物質の少なくとも一部が溶射皮膜に浸透して、前記液状物質の少なくとも一部が溶射皮膜の空隙や亀裂に入り込んで埋められて、溶射皮膜の水密性や防食性能が向上し、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の実施の形態に係る鋳鉄管の表面処理方法の各工程に対応する断面図である。
【図2】本発明の実施の形態および比較例に係る試験片の評価方法に用いる試験装置を簡略的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態および比較例に係る試験片の評価結果を示す図表である。
【図4】(a)、(b)はそれぞれ従来の鋳鉄管の表面処理方法の各工程に対応する断面図である。
【図5】鋳鉄管接合部の断面図である。
【図6】(a)、(b)はそれぞれ従来の鋳鉄管の課題を説明するための要部拡大断面図である。
【図7】鋳鉄管に溶射皮膜を形成した状態を拡大して示す断面図(断面写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、図1(a)〜(d)は、本発明の実施の形態に係る鋳鉄管の表面処理方法の各工程に対応する断面図である。
図1(a)、(b)に簡略的に示すように、本発明の実施の形態に係る鋳鉄管の表面処理方法では、鋳鉄管1の外表面に犠牲陽極効果のある溶射皮膜2を形成し、この溶射皮膜2に、イワタカップで20秒以下である粘度で、浸透性のよい塗料、または塗膜を形成しない液状物質3を塗布するなどして供給し(図1(c)参照)、さらにこの上に水系または溶剤系の塗料4を上塗り塗装して(図1(d)参照)鋳鉄管として製品化している。なお、図1(c)、(d)では、液状物質3を塗布した後に、溶射皮膜2の表面に液状物質3の塗膜3aが形成される場合を示しているが、これに限るものではなく、塗膜3aを形成しないものでも差支えない。
【0013】
ここで、犠牲陽極効果のある溶射皮膜2としては、Zn、Al、Mg又はそれらを含む合金・混合物であることが好ましい。また、液状物質3は、有機系、有機無機複合系または無機系である。また、塗料4は、アクリル系、またはエポキシ系であることが好ましい。
【0014】
なお、鋳鉄管の製品は生産ラインに沿って製造する場合が多いが、液状物質3の乾燥が遅い場合には、生産ラインを長くして、液状物質3の供給工程と、塗料の上塗り工程との間に乾燥時間を確保しなければならず、生産ラインのスペースおよび乾燥時間が必要である。常温で上記のように粘度が低い液状物質3を供給すると、浸透性がよい場合が多いので、一般に乾燥に時間を要する。そのため、生産ラインでは、予め、被塗物である鋳鉄管1を温めることが好ましく、これにより、乾燥を早くして生産性を上げることが可能となる。このように、液状物質3の供給(塗布)工程後の乾燥時間を短くする(例えば、30秒以内)ことで、生産ラインにおける同じ塗装場で、液状物質3の供給(塗布)と塗料4の上塗りとを行うことができた。また、液状物質3として乾燥が早い性質を有するものを用いる場合には、液状物質3の溶射皮膜2への浸透する度合いが小さくなる傾向があるが、液状物質3として耐熱性を上げることで、液状物質3の溶射皮膜2への浸透する度合いが小さくなることを最小限に抑えることができる。
【0015】
ここで、上記表面処理方法による鋳鉄管の水密性や防食性能を確認すべく、以下の試験を行った。すなわち、図2に簡略的に示すように、鋳鉄管1の一部におけるその外周全周にわたって形成された溶射皮膜2、液状物質3、および塗料4の部分を切削するなどして削除し、鋳鉄管1の一部が露出する部分を形成するとともに、この鋳鉄管1の露出部および露出部近傍箇所を外側から覆うように、継ぎ輪12を、その両端部がシール材11で密封された状態で外装させる。そして、継ぎ輪12と鋳鉄管1の外周との間に水圧をかけた状態で水を注入する。これにより、溶射皮膜2や液状物質3の端面から、圧力が作用した状態で水を侵入させ、外部に水が漏れないかどうかを確認する。なお、図2において、13は、シール材11を押圧してシール材11のシール機能を確保する押し輪、14は、継ぎ輪12のフランジ部に螺合され、押し輪13によりシール材11を押圧させるためのボルト、15は水を送るためのポンプ、16は圧力計、17は開閉弁である。
【0016】
溶射皮膜2を形成する鋳鉄管1の試験片として、直径100mm、長さ150mmの鋳鉄管1を用い、この試験片の表面に、溶射皮膜材として、厚さ50μmの亜鉛を、電気式アーク溶射法により、260g/mの溶射量で溶射した。
【0017】
そして、溶射皮膜2の外周に複数種類の液状物質3を、この液状物質3の目標膜厚が10μmとなるように塗布し、さらに、塗料4としてアクリル樹脂塗料を上塗りして、試作番号1〜6の試験片を作成した。この後、水密性試験として、15kgf/cmの水圧を24時間作用させ、目視による水の漏洩程度を確認した。また、防食性試験として、塩水噴霧試験を行った。なお、塩水噴霧試験としては、塗料4の上塗りをしない状態で、50×50mmのクロスカットを形成した状態で試験片の表面に塩水を噴霧し、赤錆発生までの期間を測定した。
【0018】
図3に示す図表において、これらの測定結果を示す。なお、図3に示す図表において、試作番号1および4の液状物質Aとは、アクリルシリコン系(有機無機複合系の一例)であり、試作番号2の液状物質Bとは、ウレタン系(有機系の一例)であり、試作番号3の液状物質Cとは、エポキシ系(有機系の一例)であり、試作番号5の液状物質Dとは、コロイダルシリカ系(無機系の一例)、アルキルシリケート系(有機無機複合系の一例)である。また、試作番号6は、液状物質3が全く供給されていない溶射皮膜2に塗料4が上塗りされた比較例であり、防食性能については、この試作番号6の鋳鉄管1を基準(1)としている。
【0019】
図3に示すように、粘度がイワタカップで20秒を超える25秒である試作番号3の液状物質Cを用いた場合には、液状物質3が全く供給されていない比較例としての試作番号6の鋳鉄管1の場合と比較して、水密性が殆ど変わらない(あまり良くない)とともに、防食性能も少ししか向上しなかった。
【0020】
これに対して、粘度がイワタカップで20秒以下である(今回の試験例では全て20秒である)試作番号1、2、4、5の液状物質4(A、B、D)を用いた場合には、前記試作番号6の鋳鉄管1の場合と比較して、防食性能が大きく向上した。
【0021】
また、塗布時の鋳鉄管1の温度が30℃の場合に、液状物質Aからなる試作番号1の鋳鉄管1は、水密性および防食性能とも極めて良好であったが、同じ液状物質Aからなる試作番号1の鋳鉄管1でも、塗布時の鋳鉄管1の温度が100℃の場合の試作番号4のものについては、試作番号1の鋳鉄管1のものと比較すると、水密性および防食性能とも若干低下した。これに対して、耐熱性を改良した液状物質Dを用いた場合には、良好な水密性および防食性能が得られた。
【0022】
このような結果からもわかるように、溶射皮膜2を形成した後に、イワタカップで20秒以下である粘性の低い液状物質3を供給することで、液状物質3の少なくとも一部が溶射皮膜2に浸透して、液状物質3の少なくとも一部が溶射皮膜2の空隙や亀裂に入り込んで埋められ、溶射皮膜2の水密性や防食性能が向上し、信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0023】
1 鋳鉄管
2 溶射皮膜
3 液状物質
4 塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管の外表面に、犠牲陽極効果のある溶射皮膜を形成し、この溶射皮膜に、イワタカップで20秒以下である粘度の液状物質を塗布し、さらにこの上に水系または溶剤系の塗料を塗装することを特徴とする鋳鉄管の表面処理方法。
【請求項2】
溶射皮膜がZn、Al、Mg又はそれらを含む合金・混合物であることを特徴とする請求項1記載の鋳鉄管の表面処理方法。
【請求項3】
液状物質が、有機系、有機無機複合系または無機系であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳鉄管の表面処理方法。
【請求項4】
塗料が、アクリル系、またはエポキシ系であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の鋳鉄管の表面処理方法。
【請求項5】
鋳鉄管を、30℃以上、100℃以下の温度に加温した状態で、鋳鉄管の外表面に溶射した溶射皮膜に液状物質を塗布し、塗布後30秒以内に上塗りの塗料を塗装することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鋳鉄管の表面処理方法。
【請求項6】
液状物質が、コロイダルシリカ系またはアルキルシリケート系であることを特徴とする請求項5に記載の鋳鉄管の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−222664(P2010−222664A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72966(P2009−72966)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】