説明

鋼帯の静電塗油装置および静電塗油方法

【課題】めっき鋼帯の表面に所定量の塗油剤を塗油する静電塗油装置による帯電した細粒化油の噴霧状態が適正であることを常時自動的に判定する。
【解決手段】所定の速度で搬送されるめっき鋼帯2の表面に向かって帯電した細粒化油3を噴霧するためのノズル4と、高電圧を発生してノズル4に一定の電圧を印加する高電圧発生装置5を有する高電圧発生系6とを備える静電塗油装置11である。さらに、ノズル4から帯電した細粒化油3を噴霧する際に細粒化油3の噴霧状態に連動して変動する電流値が予め定めた、めっき鋼帯2の搬送速度に応じて変動して設定される所定の範囲内にあるか否かを測定する塗油時電流判定装置12を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の静電塗油装置および静電塗油方法に関し、具体的には、例えば圧延鋼帯やめっき鋼帯等の鋼帯の表面に所定量の塗油剤を塗油するための静電塗油装置および静電塗油方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延鋼帯やめっき鋼帯等の鋼帯は、その製造工程でコイルに巻き取られて出荷されるが、出荷先で使用されるまでの防錆対策として、さらには出荷先で加工される際の加工油(例えばプレス加工における絞り油)として、コイルに巻き取られる直前の工程で塗油剤が塗油される。
【0003】
図4は、従来の静電塗油装置1を用いた静電塗油工程を模式的に示す説明図である。図4に示すように、鋼帯2に塗油剤を塗油する際に、鋼帯2の表面2a(以下、「上面2a」という)の単位面積当りの塗油量が所定の量で一定となるようにする必要があるため、鋼帯2の上面2aに対する塗油剤の塗油には、静電塗油装置1が用いられる。なお、図4および後述する図1では、説明を簡略化するために省略しているが、鋼帯2のもう一方の表面2b(以下、「下面2b」という)にも同様に塗油剤を塗油することができる静電塗油装置1がもう一基配置されている。
【0004】
静電塗油装置1は、所定の速度で搬送される鋼帯2の上面2aに向かって帯電した細粒化油3を噴霧するためのノズル4と、高電圧を発生してノズル4に一定の電圧を印加する高電圧発生装置5を有する高電圧発生系6と、ノズル4に塗油剤を供給するための油溜めタンク7を有する塗油剤供給系8とを備える。
【0005】
高電圧発生装置5は、電圧発生部5a、昇圧部5bおよび制御部5cを有しており、昇圧部5bで発生した高電圧は、高電圧発生系6を介してノズルに印加される。これにより、塗油剤供給系8によりノズル4に供給された塗油剤に高電圧が印加され、ノズル4から帯電した細粒化油が鋼帯2の上面2aに向けて噴霧される。静電塗油装置1による塗油剤を塗油された鋼帯2は、その後直ぐに巻取機9によりコイルに巻き取られる。
【0006】
一方、静電塗油装置1の設置位置の直ぐ上流工程において、作業員10の目視により、鋼帯2の上面2aの軽微な品質不良(異物付着等)の最終検査が行われており、適宜、搬送速度を3〜15m/min程度に大幅に落として、鋼板表面の品質検査を行った後に通常の搬送速度(例えば300m/min)に戻す作業が行われている。
【0007】
このため、静電塗油装置1による塗油剤の噴霧量を、このように大幅に変更される鋼帯2の搬送速度に応じて、変更する必要がある。この静電塗油装置1は、塗油量に関係なく、一定の電圧がノズル4に印加されるものであるため、噴霧量の調整は、塗油剤供給系8からの塗油剤の供給量を調整すること、具体的には、この静電塗油装置1を通過する鋼帯2の搬送速度や板幅、塗油量に応じて油溜めタンク7からの送油量を調整することにより、行われる。
【0008】
特許文献1には、静電塗油装置のノズルに印加する電圧を制御することにより低速領域での塗油量を調整し、塗油量を調整する発明が開示されている。また、特許文献2には、低速域での塗油量を多めにして速度上昇とともに速度比例制御へ移行することにより塗油量を調整する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−133864号公報
【特許文献2】特開2003−260387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図4に示す静電塗油装置1のノズル4は、帯電した細粒化油の噴霧に伴って、詰まりや鉄粉などの付着を生じることがある。ノズル4に詰まりまたは鉄粉などの付着を生じると、特に低塗油量時の塗油状態が不安定になってマダラ状に塗油むらを生じたり、鋼帯2の搬送方向に部分的に全く塗油されない部分が発生したりするといった、塗油不良を生じる。しかし、基本的に静電塗油装置1を通過した鋼帯2は、その後直ちにコイルに巻き取られるために、塗油状態を検査する検査員を常時配置しないと、塗油不良のコイルが大量に出荷されてしまうおそれがある。検査員を配置することは、製造コストの上昇につながるのみならず、検査員が確実に異常を認識できる保証もなく、例えば搬送速度が速いと軽度の不良を見逃してしまうことが懸念される。
【0011】
このため、図4に示す静電塗油装置1のノズル4の詰まりが生じていないか、すなわち静電塗油装置1による帯電した細粒化油の噴霧状態が適正であるかを常時自動的に監視する必要がある。
【0012】
しかし、特許文献1、2により開示された発明は、いずれも静電塗油装置による塗油量を調整することを目的とするに過ぎないので、これらの発明に基づいても、静電塗油装置による帯電した細粒化油の噴霧状態が適正であることを常時自動的に監視することはできない。
【0013】
本発明の目的は、例えば圧延鋼帯やめっき鋼帯等の鋼帯の表面に所定量の塗油剤を塗油する静電塗油装置による帯電した細粒化油の噴霧状態が適正であることを常時自動的に判定することができ、これにより、塗油不良のコイルの発生を迅速かつ確実に防止することができるため静電塗油装置および静電塗油方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、印加電圧が一定であり送油量を調整することにより鋼帯の表面への塗油量を調整する静電塗油装置においては、ノズル詰まり等の設備異常により噴霧状態が適正でなくなり塗油量が安定しないことを、高電圧発生装置における昇圧部からノズルまでの間に塗油時に流れる電流値を常時自動的に測定・判定し、この電流の測定値があらかじめ定めた管理範囲を逸脱する場合には、ノズル詰まり等の設備異常により噴霧状態が適正でない旨の信号を出力すること、すなわち、製造条件によって変動する油の噴霧量と電流値との関係式を導き、この関係式を基準に想定した管理範囲と、静電塗油装置からの電流値の実測値とを照らし合わせることにより塗油状態を連続的かつ自動的に判定できることを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0015】
本発明は、所定の速度で搬送される鋼帯の表面に向かって帯電した細粒化油を噴霧するためのノズルと、高電圧を発生してノズルに一定の電圧を印加する高電圧発生装置を有する高電圧発生系とを備える静電塗油装置であって、さらに、ノズルから帯電した細粒化油を噴霧する際に細粒化油の噴霧状態に連動して変動する電流値が予め定めた所定の範囲内にあるか否かを判定する塗油時電流判定装置を備えることを特徴とする鋼帯の静電塗油装置である。
【0016】
別の観点からは、本発明は、所定の速度で搬送される鋼帯の表面に向かって帯電した細粒化油を噴霧するためのノズルと、高電圧を発生してノズルに一定の電圧を印加する高電圧発生装置を有する高電圧発生系とを備える静電塗油装置を用いて鋼帯に静電塗油を行う際に、ノズルから帯電した細粒化油を噴霧する際に細粒化油の噴霧状態に連動して変動する電流値を測定し、測定した電流値が予め定めた所定の範囲内にあるか否かを判定することによって鋼帯の塗油不良を検知することを特徴とする鋼帯の静電塗油方法である。
【0017】
これらの本発明では、所定の範囲が、鋼帯の表面への細粒化油の噴霧状態が良好であることを示す範囲であることが望ましい。
これらの本発明では、所定の範囲が、搬送される鋼帯の搬送速度に応じて変動して設定されることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、例えば圧延鋼帯やめっき鋼帯等の鋼帯の表面に所定量の塗油剤を塗油する静電塗油装置による帯電した細粒化油の噴霧状態が適正であることを常時自動的に判定することができ、これにより、塗油不良のコイルの発生を迅速かつ確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に係る静電塗油装置を用いた静電塗油工程を模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、めっき鋼帯の表面における、ノズルからの噴霧量と、塗油時電流判定装置により測定された昇圧部の電流値との関係を測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、めっき鋼帯のもう一方の表面における、ノズルからの噴霧量と、塗油時電流判定装置により測定された昇圧部の電流値との関係を測定した結果を示すグラフである。
【図4】図4は、従来の静電塗油装置を用いた静電塗油工程を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の説明では、鋼帯がめっき鋼帯である場合を例にとる。
図1は、本発明に係る静電塗油装置11を用いた静電塗油工程を模式的に示す説明図である。同図に示すように、この静電塗油装置11は、ノズル4と、高電圧発生系6と、塗油時電流判定装置12とを備えるので、これらの構成要素を順次説明する。
【0021】
[ノズル4]
図1に示すように、めっきを行われためっき鋼帯2は、静電塗油装置11による静電塗油工程の直ぐ上流工程において、作業員10の目視により、めっき鋼帯2の上面2aの軽微な品質不良(異物付着等)の最終検査が行われる。
【0022】
このような品質不良の有無を監視するため、必要に応じて(監視する品質不良の見つけやすさや製造作業基準等に定められた搬送速度に応じて)、作業者10は手元操作盤20を操作し、プロセスコンピュータ13に鋼帯搬送速度変更指令S1が出力される。プロセスコンピュータ13は鋼帯搬送速度変更指令S2を出力し、巻き取り機9の駆動モータ14の回転速度が変更される。このようにして、通常時は30〜400m/min程度であるめっき鋼帯2の搬送速度が、3〜15m/min程度に大幅に低下する。
【0023】
また、後述する静電塗油装置11による塗油剤を塗油された鋼帯2は、その後直ぐに巻取機9によりコイルに巻き取られて、出荷される。
図1に示す静電塗油装置11はノズル4を有する。ノズル4は、所定の速度で搬送されるめっき鋼帯2の上面2aに向かって帯電した細粒化油3を噴霧するためのノズルであり、この種のノズルとして周知慣用のものである。
【0024】
ノズル4の下方には、ノズル4から離間して、電圧を印加されるインダクトバー15、16が配置される。インダクトバー15、16は図示するように、ノズル4から各帯電粒子の反発により微粒子に分解された油をこれらがお互いに反発する電気的な斥力により、更に小さい微粒子に分解するためのものである。ノズル4から噴霧される帯電した細粒化油3の広がりを適正なものとする。
【0025】
ノズル4は以上のように構成される。
[高電圧発生系6]
図1に示す静電塗油装置11は高電圧発生系6を有する。高電圧発生系6は、高電圧を発生してノズル4に一定の電圧を印加する高電圧発生装置5と、高電圧発生装置5とノズル4とを接続する高圧ケーブル17とにより構成される。
【0026】
高電圧発生装置5は、電圧発生部5a、昇圧部5bおよび制御部5cを有しており、昇圧部5bで発生した一定の高電圧は、高電圧発生系6を介してノズル4に印加される。
また、図1に示す静電塗油装置11は塗油剤供給系8を有する。塗油剤供給系8は、ノズル4に塗油剤を溜める油溜めタンク7と、油溜めタンク7に溜められた塗油剤を供給するポンプ18と、配管19とにより構成される。
【0027】
この静電塗油装置11では、塗油剤供給系8によりノズル4に供給された塗油剤に、高電圧発生系6により高電圧が印加され、ノズル4から帯電した細粒化油が鋼帯2の上面2aに向けて噴霧される。
【0028】
高電圧発生系6は、以上のように構成される。
[塗油時電流判定装置12]
上述したように、図1に示す静電塗油装置11は、塗油剤にマイナスの高電圧を印加してマイナス電化に帯電させ、マイナス電荷に帯電させた塗油剤をノズル4およびインダクトバー15、16により細粒化して噴霧し、プラス電荷に帯電しためっき鋼帯2に吸着させるものである。なお、帯電されていないものに電荷を近づけると、電荷とは逆の極性で帯電される。
【0029】
塗油剤の噴霧量は下記(1)式により算出された指示にしたがって供給される。
噴霧量[g/min]=目標塗油量[g/m]×塗油幅[m]×めっき鋼帯の搬送速度[m/min]・・・(1)
図1に示す静電塗油装置11は、ノズル4への印加電圧が一定であるために細粒化した油は一定の電荷に帯電するので、噴霧時には、高電圧発生装置5の昇圧部5b〜制御部5c〜高圧ケーブル17〜ノズル4〜めっき鋼帯2の間には、噴霧量に比例した値の電流が流れることとなる。なお、ノズル4に印加する電圧は、使用する油、静電塗油装置11と塗油剤の各種機器の配置に応じて、適宜決定される。
【0030】
ここで、図1に示す静電塗油装置11は、ノズル4への印加電圧が一定であるため、高電圧発生装置5の昇圧部5b〜制御部5c〜高圧ケーブル17〜ノズル4〜めっき鋼帯2の間を流れる電流値(μA)と、ノズル4からの塗油剤の噴霧量(g/min)との関係は、下記(2)式に示す関係となる。
【0031】
電流値=A×噴霧量+B・・・(2)
(2)式において符号Aは、昇圧部5bにより印加される電圧や使用する塗油剤の特性によって決定される定数であり、符号Bは、噴霧量=0の時に漏れ電流および塗油剤以外の場所に流れる無効電流である。
【0032】
符号Bについては、具体的には、塗油剤の量、設備の配置(2つのインダクトバー設定距離等)、めっき鋼帯2の搬送速度等を勘案して、事前に塗油不良発生時のデータを採取し、予め塗油不良と判定する境界条件を定めておく。測定した電流値と(2)式を比較し、符号Bが前記境界条件を逸脱しているか判定することによって、異常を検知することができる。
【0033】
このため、図1に示す静電塗油装置11は、噴霧時に、高電圧発生装置5の昇圧部5b〜制御部5c〜高圧ケーブル17〜ノズル4〜めっき鋼帯2の間に流れる、噴霧量に比例した値の電流を測定することができる塗油時電流判定装置12が配置されている。この電流値は、換言すると、ノズル4から帯電した細粒化油を噴霧する際に細粒化油の噴霧状態に連動して変動する。
【0034】
本実施の形態では、図1に示すように、高電圧発生装置5の昇圧部5bに流れる電流を測定するように構成した。昇圧部5b〜制御部5c〜高圧ケーブル17〜ノズル4〜めっき鋼帯2の間における昇圧部5bに流れる電流を測定することにより、ノズル4の詰りだけではなく、例えば、インダクトバー15、16の曲損や高電圧発生装置5の各部の接触不良等といった、制御部5c〜高圧ケーブル17〜ノズル4〜めっき鋼帯2の間における設備不良の発生をも検出することができるからである。
【0035】
しかし、電流の測定箇所は、昇圧部5bに限られるものではなく、昇圧部5b以降、すなわち昇圧部5b〜制御部5c〜高圧ケーブル17〜ノズル4〜めっき鋼帯2のいずれかを流れる電流値であってもよい。
【0036】
塗油時電流判定装置12は、上述したように測定される電流値が、予め定めた所定の範囲、すなわちめっき鋼帯2の上面2aへの細粒化油の噴霧状態が良好であることを示す範囲内にあるか否かを判定する。そして、範囲内にない場合(塗油不良と判定した場合)には、異常を知らせる警報を出力するように構成される。
【0037】
また、上述したように、めっき鋼帯2の搬送速度は、通常時の30〜400m/min程度から、作業者10による修正作業時の3〜15m/min程度まで、極めて広い範囲にわたって変動する。
【0038】
このため、塗油時電流判定装置12における上述した所定の範囲は、搬送されるめっき鋼帯2の搬送速度に応じて変動して設定する。すなわち、作業者10がめっき鋼帯2の上面2aにおける品質不良(異物付着等)を発見した場合、あるいは製造作業基準等で定められた特に注意して品質検査をする箇所の検査をする場合等に、手元操作盤20を操作してプロセスコンピュータ13に鋼帯搬送速度変更指令S1が出力されると、塗油時電流判定装置12は、プロセスコンピュータ13から鋼帯搬送速度変更指令S2を受け取り、この鋼帯搬送速度変更指令S2に応じて、上述した所定の範囲を変動して設定する。塗油時電流判定装置12に記憶させる所定の範囲は、例えば、めっき鋼帯2の搬送速度、設定塗油量、塗油幅に応じたテーブル値として設定することが望ましい。
噴霧量[g/min]=目標塗油量[g/m]×塗油幅[m]×めっき鋼帯の搬送速度[m/min]・・・(1)
例えば、80m/minの搬送速度で搬送される鋼帯の表面に、塗油幅1750mm、目標塗油量2.0g/mの条件で塗油する場合、噴霧量は、(1)式より、2.0[g/m]×1.75[m]×80[m/min]=280[g/min]となる。よって、鋼帯の表面側で採取しておいた操業データ(油種類,塗油量,搬送速度,電流値,塗油幅,塗油異常有無等)から得られる適正電流値は、この実施例の鋼帯2の上面2aの値により、以下のように計算により、
電流値=噴霧量[g/min]×0.0121+7.5676
=280[g/min]×0.0121+7.5676
=10.96
≒11[μA]
と算出される。ここで、これまでに塗油異常が確認された操業データに基づき噴霧状態が適正である(2)式の符号Bに相当する誤差範囲を、−8μA以上17μA以下と定めておく。
【0039】
このため、上述した条件で塗油する場合には、測定した電流値が28μA以上または3μA以下になるとプロセスコンピュータ13にアラームが出力される。
このようにして、本発明に係る静電塗油装置および静電塗油方法によれば、例えば圧延鋼帯やめっき鋼帯等の鋼帯の表面に所定量の塗油剤を塗油する静電塗油装置による帯電した細粒化油の噴霧状態が適正であることを常時自動的に判定することができ、これにより、塗油不良のコイルの発生を迅速かつ確実に防止することができる。
【0040】
また、複数の油種を切り替えて塗油する静電塗油装置の場合、油の種類に応じて異常を検知する境界条件を設定しておけば、油種を切り替えても塗油不良の監視を続けることができる。
【実施例1】
【0041】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
図1に示す静電塗油装置11を用いて、合金化溶融亜鉛めっき鋼帯2の上面2a、下面2bに、塗油剤(商品番号550S、日本パーカライジング社製)を、上面2aに対する印加電圧:−65kV、下面2bに対する印加電圧:−75kVで印加し、ノズル4からの噴霧量と、塗油時電流判定装置12により測定された昇圧部5bの電流値との関係を測定した。
【0042】
上面2aにおける結果を図2にグラフで示し、下面2bにおける結果を図3にグラフで示す。
この結果、図2にグラフで示すように、上面2aにおいては、電流値(μA)=噴霧量(g/min)×0.0121+7.5676の関係にあり、一方、下面2bにおいては、電流値(μA)=噴霧量(g/min)×0.0145+14.224の関係にあり、いずれも、噴霧量(g/min)と電流値(μA)には正の相関関係があることが確認された。
【0043】
そこで、本実施例では、塗油時電流判定装置12において、噴霧状態が適正である(2)式の符号Bに相当する範囲を、上述したように上面2aでは−8μA以上17μA以下、下面2bでは−14μA以上17μA以下と定め、この範囲を逸脱した場合にプロセスコンピュータ13にアラームを出力するように設定した。
【0044】
そして、総数750本の合金化溶融亜鉛めっき鋼帯2の巻取りを一週間にわたって行った。その結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼帯の表面に所定量の塗油剤を確実に塗油することができたとともに、帯電した細粒化油の噴霧状態が適正でない場合全てにおいて警報が出力され、これにより、塗油不良のコイルの発生を迅速かつ確実に防止することができた。
【符号の説明】
【0045】
1 従来の静電塗油装置
2 鋼帯
2a 表面
3 細粒化油
4 ノズル
5 高電圧発生装置
5a 電圧発生部
5b 昇圧部
5c 制御部
6 高電圧発生系
7 油溜めタンク
8 塗油剤供給系
9 巻取機
10 作業員
11 本発明に係る静電塗油装置
12 塗油時電流判定装置
13 プロセスコンピュータ
14 駆動モータ
15、16 インダクトバー
17 高圧ケーブル
18 ポンプ
19 配管
20 手元操作盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の速度で搬送される鋼帯の表面に向かって帯電した細粒化油を噴霧するためのノズルと、高電圧を発生して前記ノズルに一定の電圧を印加する高電圧発生装置を有する高電圧発生系とを備える静電塗油装置であって、さらに、前記ノズルから帯電した細粒化油を噴霧する際に該細粒化油の噴霧状態に連動して変動する電流値が予め定めた所定の範囲内にあるか否かを測定する塗油時電流判定装置を備えることを特徴とする鋼帯の静電塗油装置。
【請求項2】
前記所定の範囲は、前記鋼帯の表面への前記細粒化油の噴霧状態が良好であることを示す範囲である請求項1に記載された鋼帯の静電塗油装置。
【請求項3】
前記所定の範囲は、前記搬送される鋼帯の搬送速度に応じて変動して設定される請求項1または請求項2に記載された鋼帯の静電塗油装置。
【請求項4】
所定の速度で搬送される鋼帯の表面に向かって帯電した細粒化油を噴霧するためのノズルと、高電圧を発生して前記ノズルに一定の電圧を印加する高電圧発生装置を有する高電圧発生系とを備える静電塗油装置を用いて鋼帯に静電塗油を行う際に、
前記ノズルから帯電した細粒化油を噴霧する際に該細粒化油の噴霧状態に連動して変動する電流値を測定し、測定した電流値が予め定めた所定の範囲内にあるか否かを判定することによって前記鋼帯の塗油不良を検知すること
を特徴とする鋼帯の静電塗油方法。
【請求項5】
前記所定の範囲は、前記搬送される鋼帯の搬送速度に応じて変動して設定される請求項4に記載された鋼帯の静電塗油方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76024(P2012−76024A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224044(P2010−224044)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(504208474)LUI株式会社 (11)
【Fターム(参考)】