説明

鋼材表面の湿式化学処理方法

【課題】 鋼材の湿式化学表面処理後の対向多段式洗浄による水洗において、洗浄水量を大幅に削減し、廃水処理を解消する。
【解決手段】 1)洗浄排水は全量上流の化学処理槽に転用して廃水を無くする。2)必要洗浄水準(=化学処理槽濃度/最終洗浄濃度)に対応して水量比k(=洗浄水量/付着水量)と洗浄段数nの関係を特定し、3)k≧1.6とし、4)スプレイ洗浄を効果的に組み込むことにより過大な設備にならず既存設備の改造により実施することができる。処理液の節減と言う付随効果も得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式による鋼材表面の化学処理又は電気化学処理の後の表面洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材に冷間加工や各種表面処理を施すに当たり予め表面の酸化膜及び付着物の除去がなされる。塩酸、硫酸等による酸洗は除去の確実性と除去後の表面活性の点で優れた手段である。酸洗後の洗浄が不十分であると後続工程で種々の問題を引き起こす。例えば最終製品が錆びやすい。酸洗後の例えば燐酸亜鉛等による化成皮膜処理がなされる場合も処理後の洗浄不足は被膜を劣化させる。各種金属の電解めっきを施した後も水洗される。このように鋼の表面改質のため湿式化学処理や電気化学処理を行った後は、処理液除去のための洗浄が不可欠となっている。
【0003】
被処理材がコイル状線材、結束棒鋼、塊状鋼材等の一個物鋼材や個別部品の場合、化学処理と後続の水洗洗浄の反復は1品毎に回分式で処理される。
【0004】
洗浄方法として被処理材を水槽に浸漬する方法を基にして、通常対向多段式水洗方法が採用される。当該方法はカスケード方式と称され、被処理材は直列多段の洗浄槽を順次渡り歩き、他方洗浄水は逆向きに移送される。新水は最終段の槽に供給され上流側の段へ順次移送されつつ洗浄に使用され、初段(工程上流側)の洗浄槽で使用された後は廃水処理装置に転送され中和・分別等の無害化処理を行った後放流又は転用される。本方式は原理的に洗浄水量の低減と洗浄水準の向上の両面に対して著効がある。
【0005】
洗浄水量の低減は用水量の節減だけでなく廃水の無害化処理量の削減の両面に作用し、洗浄水準の向上は化学処理により改質された表面の経時的な劣化を防止する。しかるに実操業では作業条件の変動により又ユーザー要求水準の引き上げによりしばしば洗浄に問題が起こる。対策として既存設備では段数不足により対処できず、その結果洗浄水の大量消費を誘発している。また廃水処理工程では環境基準を遵守するため適切な処理方法、適切な設備及び厳密な管理を要する。プラントの建設、維持コストは当業者にかなりの負担となっている。
【0006】
特許文献1には、洗浄水量の一般的な低減策である初段にスプレイ洗浄を行い、後続の浸漬洗浄の水量を低減する方法が図4中に示されている。しかしスプレイ洗浄、浸漬洗浄の両排水は上流の化学処理槽へ転用するとか、排水を廃水処理不要とする等の示唆は無い。
【0007】
特許文献2では、直進する線材の酸洗とその後の水洗においてそれぞれの槽の液の一部を上流側に設けた予備酸洗槽にそれぞれ移送して有効利用し、排酸と排水の削減する方法が開示されている。本方法の場合排水の削減は効果的だが、削減の多くは上流の熱処理工程から持ち込まれる熱による蒸発補給に依存しており汎用的でない。その上廃水処理が不要となる可能性には示唆がない。
【0008】
湿式化学処理では処理液の一部は必然的に洗浄工程に持ち込まれ、その分消費増になっている。貴金属めっきにおいては高価なめっき液の一部が洗浄槽に持ち込まれる。その削減のためメッキ槽の上で初段の洗浄を行う方法がなされている。著効があるが付着液の一部は流出し流出貴金属を全量回帰させるには到っていない。
【0009】
【特許文献1】公開特許公報2003−34888号
【特許文献2】公開特許公報平成9−157873号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鋼材表面の湿式による化学処理又は電気化学処理において、処理直後表面に付着残存している処理液を水洗除去するに当たり、最も効果的とされるカスケード方式洗浄においても大量の汚染排水の発生は避けられず、廃水処理が不可欠となっている。廃水処理は直接のコスト負担だけではなく中和汚泥の処理等環境負担となっている。本発明は、化学処理後の洗浄水量を大幅削減し、その結果廃水処理自体を不必要とすることを課題としている。同時に化学処理液の消費節減をも課題とする。
【0011】
カスケード方式洗浄は対向流式熱交換器と同様に条件の最適化により数学的には限りなく少量の水量で且つ限りなく高度に洗浄することが可能である。問題は設備的・経済的・作業的に容易に実施する方法が育っていないだけである。本発明はその方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題解決のため最初に洗浄排水は全量上流の化学処理槽の補給水として転用し廃水をゼロとすることを基本条件とする。そのためには使用し得る洗浄水量は大きく制限されるが、所望の洗浄水準を確保するため未知であったカスケード方式の条件最適化により許容水量の問題を解決する。
【0013】
第2に浸漬式洗浄とスプレイ式洗浄の比較検討から、スプレイ式洗浄はやり方次第で効果が大きいという新事実に気付き、これを理論的に検討した結果、意外にも1段の処理の中に対向多段式処理の機能即ち浸漬数段に相当する機能があることを発見し、総合して以下の発明を構成した。
【0014】
第1の発明は、鋼材を処理槽に浸漬して表面を化学処理又は電気化学処理した後直ちに該鋼材表面に付着残存している該処理液を除去するために適用される対向多段式水洗方法であって、所定量Pの新水を直列多段に構成された洗浄工程の最終段に供給し、且つ各段の洗浄水を同一量Pだけ初段に向けて順次上流段に移送し、他方化学処理後の鋼材を初段から最終段に向けて順次移送して鋼材を回分式に反復洗浄する方法において、1)移送された洗浄水は全量初段を経て該化学処理槽に混入させて該槽の補給水とし、2)所望希釈比 Ci/Cn に対応して水量比kと洗浄段数nを下記式に基づいて設定し、3)該k値を1.6以上とすることを特徴とする鋼材表面の化学処理方法である。
【0015】
第2の発明は、鋼材がコイル状線材、棒鋼、条鋼、結束棒鋼、塊状鋼材のいずれかの一個物鋼材であり、奇数段目は該鋼材を気中に懸架して洗浄水を吹き付けて洗浄しつつ該洗浄排水を工程上流側の槽に落下させ、偶数段目は槽中に浸漬して洗浄することを特徴とする第1発明に記載の化学処理方法である。
【0016】
第3の発明は、化学処理又は電気化学処理の内容が、塩酸、硫酸、硝酸、弗酸、リン酸のいずれかによる表面清浄化・活性化、又は燐酸亜鉛液による化成被膜形成、又はZn,Sn,Cu,Cu−Sn,Ni,Cr,Ag,Au,Ptのいずれかの電解めっきであることを特徴とする第1又は第2発明に記載の化学処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
鋼材の化学処理や電気化学処理において該処理後の表面の清浄化のため水洗処理がなされる。使用済み洗浄水は大量に廃水となり中和処理等廃水処理が不可欠である。本発明の洗浄方法によると洗浄水量は極めて少なく、しかも使用後の水は上流工程の化学処理の槽の希釈水又は補給水として全量再使用されるので系外への廃棄が無くなる。廃水処理設備が不要になる。用水の消費が節減される。製造コスト低減及び環境保全に効果的に応用可能である。比較的安い改造費用で実施することができる。
【0018】
本発明はさら次の作用・効果を持つ。化学処理又は電気化学処理工程から水洗工程に持ち出される処理液量が削減され消費量の節減になる。また処理液の一部は一時的には洗浄工程に持ち出されるが最終的には全量処理液に回帰するので高価な金属メッキの場合には特に都合が良い。従来排水に混入した金属化合物の一部は廃水処理を通して環境に放出されているが、これが本発明では全量老廃処理液に残留し回収が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下実施の形態について図を参照しつつ説明する。図1は第1発明を実施するための具体事例である第2発明のコイル状鋼線材を酸洗、水洗する設備の概略側面図である。
【0020】
酸洗処理される線材コイル1はカスケード式3段の塩酸下流槽2、塩酸中流槽3、仕上げの塩酸上流槽4へ順次浸漬され酸化膜除去と表面活性化処理がなされる。化学処理が完了した該コイル1は上流槽4の直上に引き上げられ、直ちに振動台5が該コイル1の下に挿入され、該コイル1を該振動台5に受け、振動作用により付着液の脱落を促進する。
【0021】
次ぎに振動を作用させつつ、下流水洗槽6からポンプ12によって吸引された洗浄水を所定量P(kg/コイル)のみ第1スプレイ8により該コイル1に吹き付けて付着液を洗浄しつつ混合水となって塩酸上流槽4に落下させる。使用し得るスプレイ水量が限られているので微細スプレイにして時間を延長するのが効果的である。また後述するがコイル上部を優先して洗浄するのが肝要である。振動は混合と落下を促進させる。この初段操作によりコイル1に付着して下流水槽6に持ち込まれる付着液の量Qと濃度は従来方式と比較し格段に減少する。振動は吊り具14を介して作用させてもよい。付着液量Qは鋼材の大きさや形状により異なるので予め実測しておく。洗浄水量Pは塩酸原液を所定濃度に希釈する水量、塩酸槽の蒸発補充水量、鋼材に付着して持ち出される水量の和とする。当該洗浄では洗浄水準は流れ落ち作用によりコイルの上下で差が生ずる。
洗浄水準を定量的に表記するため次式で定義される希釈比を使用する。
希釈比Ci/Cn=処理液濃度Ci/洗浄後の付着液濃度Cn −−(3)
【0022】
次に該コイル1は処理液(塩酸+塩化鉄を含有)が少量混入している下流水槽6に浸漬し、望ましくは振動、攪拌を加え付着液を分散させる。この第2段操作によりコイルの各部分が均等に洗浄され前工程の不均一は解消される。
【0023】
次に該コイル1を、下流水洗槽6の直上に引き上げ、上流洗浄槽7からポンプ13によって吸引された洗浄水の該所定量P(kg/コイル)のみ第2スプレイ9により洗浄し、排水は下流水洗槽に脱落させる。この第3操作により洗浄が進行すると同時に下流水洗槽6の洗浄水が上流水洗槽7へ持ち込まれる量を格段に減少させる。スプレイ洗浄後該コイルを上流水槽7に浸漬する。コイルの各部分は均等に洗浄され前工程の不均一洗浄が解消される。上流水槽7には新水が新水配管12から所定量Pだけ供給される。
【0024】
新水の経路は、新水配管10→上流水洗槽7→ポンプ13→第2スプレイ9→下流水槽6→ポンプ12→第1スプレイ8→塩酸上流槽4となり最終は老廃塩酸の一部となる。その間スプレイ式2回、浸漬式2回を交互に合計4回の洗浄により希釈比は容易に1000以上となる。
【0025】
以上は線材コイルの塩酸による表面処理とその後の洗浄の具体例を説明したが、棒鋼・条鋼・結束鋼材・塊状鋼材等のいずれかの一個物鋼材を回分式で各種の化学処理を施す場合に一般化すれば以下となる。
まづ化学処理槽で受入可能な補給水量P例えば20(kg/鋼材トン)を操業データから把握する。次ぎに鋼材に付着して後段の洗浄槽に持ち込まれる水量Q例えば5(kg/鋼材トン)を実測して求める。次ぎにk=P/Qの値を算出し、k≧1.6を確認する。適合すれば洗浄は有効に進む。不適合なら例えば振動付加のようなQ値の低減策を講ずる。次ぎに所望希釈比Ci/Cn 例えば2000を設定する。次式に基づいて洗浄段数nを決定する。数式の根拠は後述する。
Ci/Cn =(1−kn+1)/(1−k) −−−−−−−(1)
k=P/Q −−−−−−−−−−−−−−−−(2)
【0026】
塩酸による処理を例に挙げたが硫酸、硝酸、弗酸その他酸等による付着物除去+表面活性化又は燐酸亜鉛等による被膜処理又はZn、Sn、Sn+Cu、Cu、Ni、Cr、Ag、Au、Pt等の電解めっき等にも同様に適用することができる。
【0027】
以下上記のプロセスの根拠・作用について説明する。
始めに対向多段式水洗方法の原理と要点を整理し、それを基に発明の個別要件の意味、根拠、作用、効果について述べる。
図2Aは単一洗浄槽において1)一定量の洗浄水が出入し、2)且つ充分な攪拌が作用している場合の溶質収支を示すモデルである。洗浄を反復すると槽の濃度はいずれ平衡値C1 に接近する。平衡状態では槽に流入する溶質量(左辺)と槽から流出する量(右辺)は等しくなり(3)式が成立する。槽の容量は平衡に達する時間(又は回数)には影響するが平衡値には関係しない。
Ci・Q+C0・P=C1(P+Q) −−−−−(3)
ここでC0 =0(新水を使用)、P/Q=kとすると(4)式が得られる。
Ci/C1=1+k −−−−−(4)
式中、C0 : 流入する洗浄水の処理剤濃度
Ci : 流入する付着液の処理剤濃度(=処理槽の濃度)
1 : 洗浄槽中の処理剤濃度
P : 流出入する洗浄水量(kg/コイル)
Q : 流出入する付着水量(kg/コイル)
鋼材が槽を通過する前後の付着液の濃度比Ci/C1 は希釈比であり洗浄水準を表す。
【0028】
図2Bは対向2段洗浄の場合を示し、同様の計算により2段目の平衡濃度C2 と処理槽濃度の比は(5)式で示される。
Ci/C2 =1+k+k2 −−−−−−−−−−−−−(5)
一般化のため上記基本式を直列n段の槽において各段の排水が次段の洗浄水となる場合に拡張し整理すると(6)式が得られる。
Ci/Cn =(1−kn+1)/(1−k) −−−−−−−(6)
ここでk=1の場合は(7)式になる。
Ci/Cn =n+1 −−−−−−−−−−−−(7)
【0029】
上記モデルは混合が瞬時に完了する条件下であるが、実際のプラントでは不完全である。
混合の程度を示す混合係数eを導入して補正しなければならない。
Ci/Cne =[1−(k・e)n+1]/(1−k・e) −−−−(8)
e=1は完全混合、e=0は完全不混合即ち洗浄不能を意味し、実際は両者の中間にあり洗浄の撹拌強化、付着膜の除去、十分な時間等により1に近い値が得られる。コイルを槽に浸漬洗浄する場合は洗浄時間は最大化学処理時間まできょようされるので充分でありe値はほぼ1と見なせる。実際そうなっている。即ち(6)式が使用可能である。
【0030】
図3は希釈比とk値と段数nとの関係を示す。図から希釈比Ci/Cnは、k値が大きいほど急速に向上し、k≦1なら実質洗浄不能、k=1.5では低水準だが有効、k≧2で高水準の希釈が容易に得られることが解る。k値が十分大きくない場合は段数nの増加により対処する。希釈比Ci/Cnは製品品質に関わり、例えば100以上、1000、3000以上以上が必要となる。
以上が第1発明における特定条件(1)、(2)、(3)式の根拠である。
【0031】
k値は出入する付着量Qに対する出入する洗浄水量Pの比である。付着量Qは作業条件によって決まる定数であり、例えば横吊りの1トン・コイルの場合約3〜5kgである。他方洗浄水量Pは可変であるが自ずと上限がある。即ち、既述のように例示した塩酸の場合、処理槽において原液希釈用水量+蒸発分補充用水量+付着水量以内でなければ廃水発生となる。化学処理の内容によって前2者の量は大きく変わる。必要希釈比を得るため洗浄水量Pを上限値を超え使用しなければならない場合には、処理槽において超過分だけ蒸発濃縮して対処する手もある。付帯設備が増加するが原理、効果は同様である。k値を大きくするには付着量Qはできるだけ削減することが望ましい。
【0032】
付着量Qの削減策として、コイル状鋼材の場合、振動付加による脱落促進により従来の半分程度に減少した。しかし化学処理液を脱落させる初段操作を長くやっていると鋼材の自熱により表面が乾燥して変色する問題が生じた。当問題はスプレイによる湿潤維持により解決された。スプレイ洗浄と脱落を併行させる根拠はここにある。
【0033】
第2発明におけるスプレイ方式による洗浄機構を検討する。
図2Cは一個物鋼材をスプレイ洗浄する場合の溶質収支モデルを示す。系はスプレイ水+鋼材表面の付着混合部+落下水から成る。スプレイ水をコイルの上部に優先的に作用させると、付着スプレイ水と付着液は混合しながら鋼材表面を流れ落ちる。これは1段でも対向多段洗浄と類似の対向流連続処理と見なされる。
【0034】
理想的な対向流連続処理では、混合区間内の最後尾即ち新水が系内に入るところでは混合液濃度は限りなく新水の濃度に接近し、区間内先頭部では限りなく付着液濃度に接近する。即ち段数nが極めて大きい多段系に相当することになる。n値は洗浄される材料の形状、洗浄水の作用方法、混合区間、混合時間等各種要因が絡む。計算は困難であるので実験的に概数を求めるのが妥当である。要はスプレイ洗浄のような流し落としの場合、対向多段式洗浄機構として作用し、浸漬洗浄の数段に相当し得るということである。
【0035】
コイル状線材の塩酸による酸洗後、コイルハンガー15に付設した振動装置により振動しつつスプレイ洗浄し、落下混合水を回収してその量と平均濃度を調査した。回収量は常に使用量を越えていた。計算からnの概数として少なくとも2の可能性を得た。即ちスプレイ洗浄を適切に作用させると浸漬洗浄の数段分の効果があることが解った。
【0036】
他方スプレイ洗浄の場合、洗浄が不均一という弱点がある。特にリング間の接触部は混合が進みにくいとかコイル底部に比較的濃い混合液が残存すると言う問題である。前者の問題には振動の付加が有効であり、後者に対しては付着液の分散に効果のある浸漬処理を後続させて解決する。以上が本発明においてスプレイ処理と浸漬処理を交互に配置する理由である。
【0037】
上記の解析及び実験から総合洗浄段数nは(10)式により近似できる。
n=q×r+s −−−−−−−−−−−−−−(10)
式中、q: スプレイ洗浄の相当段数(2〜4)
r: スプレイ洗浄段数
s: 浸漬洗浄段数
ここで実施可能な条件としてq=2、r=2,s=2、k=4とすると希釈比Ci/Cn≒5000となって高度の洗浄がなされることが解る。
【実施例】
【0038】
図1に示す対向多段式の洪水式塩酸3槽と洪水式水洗2槽から構成される線材コイルの酸洗装置(但しスプレイ洗浄装置は含まれず)において、比較例として炭素鋼線材の1トン・コイルを酸洗し水洗した。高品質の洗浄水準である希釈比2000以上を得るため、従来は平均値で塩酸は16kg/t、用水は500kg/tを消費していた。本発明の方法として上記設備に図1に示すように、初段としてスプレイ装置を付設し、水洗槽を分離し、水洗槽間にスプレイ装置を挿入した。振動付加において洗浄水量を22kg/tに制限して、排水は全量を塩酸槽に流入させた。処理完了した線材コイルは品質上問題無かった。処理槽4の塩酸濃度と槽7の塩酸濃度との比即ち希釈比は約4000が得られた。水洗槽及び塩酸槽の濃度管理にも特に問題は生じった。用水量は従来の1/20以下になり、廃水処理の省略と品質向上の目処が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、既存の線材酸洗装置を比較的容易に改造して応用することができる。酸洗だけではなく種々の化学処理、電解メッキ等に応用することができる。線材だけではなく棒鋼等個物鋼材を回分式に化学処理する場合に効果的に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】は本発明をコイル状線材の酸洗と水洗に適用する具体事例を示す。
【図2】は浸漬式洗浄及びスプレイ式洗浄における物質収支の概念図である。
【図3】は希釈比に及ぼす水量比kと洗浄段数nとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1:線材コイル 2:塩酸下流槽 3:塩酸中流槽 4:塩酸上流槽 5:振動台 6:下流水洗槽 7:上流水洗槽 8:第1スプレイ 9:第2スプレイ 10:新水配管 11:塩酸原液配管 12,13:ポンプ 14:吊り具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を処理槽に浸漬して表面を化学処理又は電気化学処理した後直ちに該鋼材表面に付着残存している該処理液を除去するために適用される対向多段式水洗方法であって、所定量Pの新水を直列多段に構成された洗浄工程の最終段に供給し、且つ各段の洗浄水を同一量Pだけ初段に向けて順次上流段に移送し、他方化学処理後の鋼材を初段から最終段に向けて順次移送して鋼材を回分式に反復洗浄する方法において、1)移送された洗浄水は全量初段を経て該化学処理槽に混入させて該槽の補給水とし、2)所望希釈比 Ci/Cn に対応して水量比kと洗浄段数nを下記式に基づいて設定し、3)該k値を1.6以上とすることを特徴とする鋼材表面の化学処理方法。
Ci/Cn=(1−kn+1)/(1−k) −−−−(1)
k=P/Q −−−−−(2)
ここで、Ci: 化学処理槽における処理剤の濃度(%)
Cn: 最終洗浄段における化学処理剤の濃度(%)
P : 最終洗浄段に供給される洗浄水量(=各段を通過する洗浄水量)
Q : 各段間において鋼材に付着して流出流入する液量
n : 洗浄段数
【請求項2】
鋼材がコイル状線材、棒鋼、条鋼、結束鋼材、塊状鋼材のいずれかの一個物鋼材であり、奇数段目は該鋼材を気中に懸架して洗浄水を吹き付けて洗浄しつつ該洗浄排水を工程上流側の槽に落下させ、偶数段目は槽中に浸漬して洗浄することを特徴とする請求項1に記載の化学処理方法。
【請求項3】
化学処理又は電気化学処理の内容が、塩酸、硫酸、硝酸、弗酸、リン酸のいずれかによる表面清浄化・活性化、又は燐酸亜鉛による化成被膜形成、又はZn,Sn,Cu,Cu−Sn,Ni,Cr,Ti,Ag,Au,Ptのいずれかの電解めっきであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−142736(P2010−142736A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323091(P2008−323091)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(306030275)
【Fターム(参考)】