説明

鋼板の表面疵検査装置

【課題】ハングアップ及びオーバースペックを抑制しつつ、鋼板製造ラインにおいて鋼板の表面疵の検査を適切に行うことができる鋼板の表面疵検査装置を提供する。
【解決手段】1つの鋼板製造ライン1上に複数の表面疵検査装置を配置し、各配置位置において鋼板2の表面疵を検出する。このとき、上流側に配置した表面疵検査装置で検出した表面疵を含む領域をマスク領域とした連続マスク画像を作成し、下流側に配置した表面疵検査装置では、撮像装置で撮像した鋼板2の表面画像(鋼板連続画像)において上記マスク領域をマスクした後、弁別処理により表面疵を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板製造ライン上に配置されて鋼板の表面疵を検査する鋼板の表面疵検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板製造ラインにおいて鋼板の表面疵を検査する表面疵検査装置として、光学系を利用したものがある。光学式の表面疵検査装置は、設置条件の制約から、1つの製造ラインに1台(表面用・裏面用の1組)のみ設置されるのが一般的である。
表面疵検査装置では、製造ライン上で新たに発生した疵も検出する必要があることから、製造ラインの最下流位置に設置するのが望ましい。ところが、光学式の表面疵検査装置は、検査性能を高精度にするためには、表面疵検査装置周辺の振動や検査表面への外乱のない安定した位置に設置する必要があり、このような安定した位置は製造ラインの中央に位置する場合が多いことから、必ずしも最下流位置に設置することができない。そのため、表面疵検査装置の設置箇所よりも下流側で新たに疵が発生すると、これを検出することができず、表面疵の見逃しにより欠陥材が流出してしまうおそれがある。
【0003】
欠陥の見逃し対策として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、鋳造、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、めっき、表面処理などの各製造ラインに表面疵検査装置を1台ずつ設置し、各表面疵検査装置で取得した疵検査画像を保存して並列的にモニタ表示することで、疵発生の原因工程をさかのぼって調査し易くするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−329600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術にあっては、各表面疵検査装置の疵検査画像を並列的に表示するだけであり、表面疵検査装置の処理負荷については考慮されていない。すなわち、1つの製造ラインに表面疵検査装置を1台しか設置しておらず、また、後工程の表面疵検査装置では、前工程の表面疵検査装置で検出した表面疵も併せて検出する構成であるため、突発的に表面疵が多量発生すると表面疵検査装置の画像処理が追いつかず、当該画像処理を行う演算装置がハングアップするおそれがある。
【0006】
これを防止するために、突発的に表面疵が多量発生することを想定して処理能力の高い演算装置を用いることも考えられるが、この場合、装置が高額化すると共に、通常の疵発生状態のときにオーバースペックとなり効率が悪い。
そこで、本発明は、ハングアップ及びオーバースペックを抑制しつつ、鋼板製造ラインにおいて鋼板の表面疵の検査を適切に行うことができる鋼板の表面疵検査装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る鋼板の表面疵検査装置は、鋼板製造ライン上における鋼板の表面疵を検査する鋼板の表面疵検査装置であって、1つの鋼板製造ライン上の異なる位置に配置され、当該配置位置での鋼板の表面疵を検出する複数の疵検出手段を備え、前記複数の疵検出手段は、前記配置位置での鋼板の表面画像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段で撮像した表面画像から鋼板の表面疵を判別する判別手段と、をそれぞれ備え、前記判別手段は、前記撮像手段で撮像した表面画像において、自身に対応する前記疵検出手段よりも前記鋼板製造ラインにおける上流側に配置された前記疵検出手段で検出した表面疵に対応する画像領域をマスクした後、前記表面疵を判別することを特徴としている。
このように、1つの鋼板製造ライン上に複数の疵検出手段を設けるので、1つの疵検出手段の配置位置よりも下流側で新しく疵が発生した場合であっても、これを下流側に配置した疵検出手段で検出することができる。
【0008】
また、マスク処理により、上流側に配置した疵検出手段で検出した表面疵を下流側に配置した疵検出手段では検出しないようにするので、下流側の疵検出手段での弁別処理負荷を軽減することができる。さらに、下流側の疵検出手段で検出できない表面疵や検出したくない表面疵を上流側で検出しておくことができるなど、複数の疵検出手段で弁別処理を分散することができる。そのため、突発的に表面疵が多量発生した場合であっても、下流側において適切に処理することができるので、演算装置のハングアップを抑制することができる。したがって、突発的に表面疵が多量発生した場合を想定して、下流側に処理能力の高い演算装置を設置する必要がなく、通常の疵発生状態における演算装置のオーバースペックを抑制することができる。
以上のように、1つの鋼板製造ライン上に疵検出手段を1つのみ配置する場合と比較して、表面疵検査の処理能力を向上させることができる。
【0009】
また、上記において、前記複数の疵検出手段は、それぞれ表面疵の検出精度が異なり、前記検出精度の低い前記疵検出手段の配置位置よりも前記鋼板製造ラインにおける下流側に、前記検出精度の高い前記疵検出手段を配置することを特徴としている。
これにより、上流側の疵検出手段では比較的大きな疵のみを検出し、これをマスクすることで下流側の疵検出手段では比較的小さな疵のみを検出対象とすることができる。そのため、下流側の疵検出手段では、大きな疵も併せて検査する場合と比較して、より精密な検査を行うことができる。
さらに、上記において、前記複数の疵検出手段は、それぞれ表面疵の検出精度が異なり、前記検出精度の高い前記疵検出手段の配置位置よりも前記鋼板製造ラインにおける下流側に、前記検出精度の低い前記疵検出手段を配置することを特徴としている。
【0010】
一般に、検出精度の高い疵検出手段ほど外乱の少ない安定した位置への設置が求められることから、設置条件の制約が多く、検出精度の低い疵検出手段は設置条件の制約が少ない。このように、設置条件の制約により、検出精度の高い疵検出手段を鋼板製造ラインの下流位置に配置できない場合であっても、当該下流位置に設置条件の制約の少ない疵検出手段を配置することができるので、検出精度の高い疵検出手段の下流側で新たに発生した疵も確実に検出することができる。
【0011】
また、上記において、前記検出精度の低い前記疵検出手段を、前記鋼板製造ライン上の最下流位置に配置することを特徴としている。
これにより、鋼板製造ライン上で発生した疵を確実に検出することができる。
さらにまた、上記において、前記判別手段は、前記撮像手段で撮像した表面画像において、自身に対応する前記疵検出手段よりも前記鋼板製造ラインにおける上流側に配置された前記疵検出手段で検出した表面疵に対応する画像領域の外周部に所定のマージンを設けた領域をマスクした後、前記表面疵を判別することを特徴としている。
これにより、上流側の疵検出手段で検出した表面疵を適切に下流側でマスクすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1つの鋼板製造ライン上に複数の疵検出手段を設け、マスク処理により上流側の疵検出手段で検出した表面疵を下流側の疵検出手段では検出しないようにするので、鋼板製造ライン上で新たに発生した鋼板の表面疵を適切に検出することができると共に、複数の疵検出手段で弁別処理負荷を分散することができる。したがって、画像処理を行う演算装置のハングアップ及びオーバースペックを抑制しつつ、鋼板製造ラインにおける鋼板の表面疵の検査を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態における鋼板製造ラインを示す図である。
【図2】第1の実施形態における表面疵検査装置の構成を示すブロック図である。
【図3】鋼板の表面疵検査手順を模式的に示す図である。
【図4】第1の実施形態の動作を説明する図である。
【図5】第2の実施形態における鋼板製造ラインを示す図である。
【図6】第2の実施形態における表面疵検査装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(構成)
図1は、本発明に係る鋼板の表面疵検査装置を搭載した鋼板製造ラインを示す図である。
図中符号1は、鋼板製造ラインである。この鋼板製造ライン1では、鋼板2を払い出しリール3から払い出し、第1の製造装置4で処理した後、ロール5及び6を介して第2の製造装置7へ搬送する。そして、その鋼板2に対して、第2の製造装置7で第1の製造装置4とは異なる処理を施した後、鋼板2をロール8及び9を介して搬送し、巻き取りリール10で巻き取る。
ここで、第1の製造装置4は、ルーパ、脱脂装置、酸洗装置などである。また、第2の製造装置7は、酸洗装置、メッキ装置、焼鈍装置などである。また、ロール8及び9は、デフレクタロール等、比較的大径のロールである。
【0015】
第1の製造装置4の後段及び第2の製造装置7の後段には、それぞれ鋼板2の両面の画像を撮像する撮像装置21a,21b及び22a,22bが配置されている。撮像装置21a及び22aは、鋼板2の表側の面を撮像する表面用撮像装置であり、撮像装置21b及び22bは、鋼板2の裏側の面を撮像する裏面用撮像装置である。
これら撮像装置21a,21b及び22a,22bは、光学式の表面疵検査装置を構成するものあって、それぞれ鋼板2の検査面に光を投光する光源と、検査面で正反射した反射光を受光して検査面の連続画像(鋼板連続画像)を得るカメラとを備える。ここで、鋼板連続画像とは、上記反射光の情報(光の強度)を電気信号に変換し、デジタル化した連続画像信号である。
【0016】
本実施形態では、鋼板製造ライン1に複数の表面疵検査装置を配置しており、複数の表面疵検査装置のうち撮像装置21a,21bを備える上流側表面疵検査装置の性能(検出精度)と、撮像装置22a,22bを備える下流側表面疵検査装置の性能(検出精度)とを異ならせるものとする。
ここでは、上流側表面疵検査装置を比較的性能の低い簡易型、下流側表面疵検査装置を高性能型とする。簡易型の表面疵検査装置とは、振動等の外乱には強いが、検査面上の面状疵のような大きな疵の有無のみが判別可能な性能を有するものをいう。また、高性能型の表面疵検査装置とは、検査面上の微小疵まで検出可能であり、例えば疵の種類や大きさ、形まで判別可能な性能を有するものをいう。
【0017】
なお、以下の説明では、撮像装置21a及び21bを単に撮像装置21と称し、撮像装置22a及び22bを単に撮像装置22と称する。
撮像装置21及び22でそれぞれ得られた鋼板連続画像は、表面疵検査装置を構成する画像処理装置30に入力される。そして、画像処理装置30は、入力された鋼板連続画像から鋼板2の表面疵を判別することで、各撮像装置の配置位置での鋼板2の表面疵をそれぞれ検出する。
【0018】
図2は、表面疵検査装置の構成を示すブロック図である。また、図3は、鋼板2の表面疵検査手順を模式的に示す図である。
図2に示すように、表面疵検査装置50は、撮像装置21,22と、画像処理装置30と、モニタ40とを備える。また、画像処理装置30は、第1の疵検出部31と、マスク画像作成部32と、マスク処理部33と、第2の疵検出部34とを備える。ここで、撮像装置21、第1の疵検出部31及びマスク画像作成部32で上流側表面検査装置を構成し、撮像装置22、マスク処理部33及び第2の疵検出部34で下流側表面検査装置を構成している。
【0019】
第1の疵検出部31は、撮像装置21から入力される鋼板連続画像から、鋼板2の表面疵を検出する。ここでは、鋼板連続画像に対して予め設定した簡易検査用閾値を用いて2値化処理を行い、簡易検査用閾値を超えた画像データに対応する鋼板位置を疵部分と判定する。すなわち、撮像装置21から図3(a)に示すような鋼板連続画像G21が入力されると、第1の疵検出部31は2値化処理(弁別処理)により疵部分F1を検出する。なお、上記簡易検査用閾値は、比較的大きな疵のみを判別可能な程度に比較的高めに設定しているものとする。この第1の疵検出部31で検出した鋼板2の表面疵の情報は、オペレータが認識可能なようにモニタ40に表示する。
【0020】
マスク画像作成部32は、第1の疵検出部31で検出した疵部分を含む画像領域をマスク領域とする連続マスク画像を作成する。ここでは、図3(b)に示すように、第1の疵検出部31で特定した疵部分F1の外周部に所定のマージン(例えば、1画素分)を設けてマスク領域FM1を設定し、2値化された連続マスク画像Mを得る。なお、マスク領域FM1は、疵部分F1を含む矩形領域に設定することもできる。
【0021】
マスク処理部33は、撮像装置22から入力される鋼板連続画像と、マスク画像作成部32で作成した連続マスク画像とを合成し、鋼板連続画像を連続マスク画像でマスクする。合成に際し、画像収集クロック(同期信号)を用いてスタート位置(鋼板2の先頭位置)をずれなく合わせるようにする。すなわち、撮像装置22から図3(c)に示すような鋼板連続画像G22が入力されたとき、図3(d)の連続マスク画像M(図3(b)の連続マスク画像M)でマスクすると、マスク後の鋼板連続画像として図3(e)に示す鋼板連続差分画像G22aが得られる。
【0022】
なお、上記のように同期信号を用いてスタート位置を合わせたとしても、鋼板2の振動や、サンプリングの個々のタイミングにより、鋼板連続画像と連続マスク画像との合成位置が所望の位置に完全に一致しない場合がある。そのため、このような合成位置ずれを考慮してマスク領域の上記マージンを大きめに設定したり、鋼板連続画像からの長手方向若しくは幅方向のプロフィールを用いてピークのパターンがマッチするように時々同期調整したりすることが望ましい。長手方向のプロフィールを用いた同期調整としては、例えば長手1mのマスク画像データを切り出し、鋼板連続画像から最もパターンの合う位置を長手方向に検索し、合成位置を決定する処理を行う。
【0023】
第2の疵検出部34は、マスク処理部33で得られた鋼板連続差分画像G22aから、鋼板2の表面疵を検出する。ここでは、鋼板連続画像G22aに対して予め設定した高性能検査用閾値を用いて2値化処理を行い、高性能検査用閾値を超えた画像データに対応する鋼板位置を疵部分と判定する。これにより、第2の疵検出部34は、図3(e)に示す疵部分F2を検出する。なお、上記高性能検査用閾値は、比較的小さな疵を判別可能なように比較的低めに設定しているものとする。この第2の疵検出部34で検出した鋼板2の表面疵の情報は、オペレータが認識可能なようにモニタ40に表示する。
このように、1つの鋼板製造ライン1に複数(ここでは、2台)の表面疵検査装置を配置し、上流側で検出した疵部分をマスク処理することで、下流側ではこれを検出しないようにする。これにより、下流側では、上流側で検出できなかった疵や、上流側の表面疵検査装置の配置位置以降で新たに発生した疵のみを検出するようにする。
【0024】
なお、図2において、上流側表面疵検査装置(撮像装置21、第1の疵検出部31及びマスク画像作成部32)が、上流側に配置した検出精度の低い疵検出手段に対応しており、撮像装置21が撮像手段、第1の疵検出部31及びマスク画像作成部32が判別手段に対応している。また、下流側表面疵検査装置(撮像装置22、マスク処理部33及び第2の疵検出部34)が、下流側に配置した検出精度の高い疵検出手段に対応しており、撮像装置22が撮像手段、マスク処理部33及び第2の疵検出部34が判別手段に対応している。
【0025】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について、図4を参照しながら具体的に説明する。
払い出しリール3から払い出された鋼板2は、第1の製造装置4を通過した後、簡易型の上流側表面疵検査装置で表面の疵検査が行われる。このとき、撮像装置21では、光源から鋼板2の表面に光を照射し、その反射光を受光することで鋼板連続画像を得る。ここで、撮像装置21から図4(a)に示すような鋼板連続画像が得られたものとすると、画像処理装置30は、第1の疵検査部31で、この鋼板連続画像に対して2値化処理を行うことで表面疵の弁別処理を行い、鋼板2の表面に発生している疵F3を検出する。ここで検出される疵F3は、連続疵のような比較的大きな疵である。検出された疵F3はモニタ40に表示される。これにより、オペレータはこの時点で鋼板2に疵F3があることを認識することができる。
【0026】
また、画像処理装置30は、マスク画像作成部32で、図4(b)に示すように、第1の疵検査部31で検出した疵F3を含む領域M3をマスク領域とした連続マスク画像を作成し、これを記憶しておく。
その後、鋼板2が鋼板製造ライン1上を搬送され、図4(a)に示す鋼板連続画像に対応する鋼板2が第2の製造装置7を通過すると、高性能型の下流側表面疵検査装置でその表面の疵検査が行われる。このとき、撮像装置22から図4(c)に示すような鋼板連続画像が得られたものとする。この場合、画像処理装置30は、マスク処理部33で、この鋼板連続画像に図4(b)に示すマスク画像を合成し、鋼板連続画像からマスク領域M3をマスクする。その結果、上流側表面疵検査装置で検出した疵F3に対応する画像領域がマスクされ、図4(d)に示す鋼板連続差分画像が得られる。
【0027】
すると画像処理装置30は、第2の疵検査部34で、この鋼板連続差分画像に対して2値化処理を行うことで表面疵の弁別処理を行う。このとき、図4(c)に示すように、撮像装置22では大型疵F3の他に、撮像装置21で見落とした比較的小さな疵F4を検出しているものとすると、鋼板連続差分画像は、図4(d)に示すように疵F4のみが撮像された状態となる。そのため、第2の疵検査部34は、鋼板2の表面の疵F4のみを検出する。ここで検出された疵F4はモニタ40に表示され、オペレータはモニタ40を確認することで鋼板2に疵F4があることを認識することができる。
【0028】
このように、鋼板製造ライン1における上流側に簡易型の表面疵検査装置を配置し、下流側に高性能型の表面疵検査装置を配置し、上流側表面疵検査装置で検出した疵はマスクして下流側表面疵検査装置では検出しないようにする。そのため、下流側表面疵検査装置で扱う画像を少なくすることができ、下流側表面疵検査装置の弁別処理負荷を軽減することができる。
【0029】
また、上流側で大型疵を検査対象とすると、下流側では小さな疵のみを検査対象とする(詳細分離する)ことができるので、下流側では大型疵も併せて検査する場合よりも精密な検査を行うことができる。さらに、下流側に高性能型の表面疵検査装置を配置することで、上流側に設置した簡易型の表面疵検査装置で検出できなかった小さな疵を下流側で検出することができ、適切な表面疵判定を行うことができる。
【0030】
ところで、光学式の表面疵検査装置は、設置条件に制約があるため、1つの鋼板製造ラインに1台のみ設置する設備が一般的である。ところが、表面疵検査装置が1台しか設置されていないと、通常運転状態に比して表面疵が多量に発生した場合に処理が追いつかず、表面疵検査を自動的に中止するなどの異常発生時処理が介入してしまう。多量に疵が発生することを想定し、表面疵検査装置の演算装置に処理能力の高い装置を用いることも考えられるが、この場合、装置が高額化すると共に、通常の疵発生状態のときの処理能力が余ってしまい、装置のオーバースペックとなるため効率が悪い。
【0031】
これに対して本実施形態では、1つの鋼板製造ライン1上に複数の表面疵検査装置を配置し、上流側の表面疵検査装置と下流側の表面疵検査装置とで弁別処理を分散させることができるので、表面疵検査装置を1台のみ設置した場合と比較して、処理能力を向上させることができる。
【0032】
(効果)
このように、上記第1の実施形態では、1つの鋼板製造ライン上に複数の表面疵検査装置を配置し、各配置位置での鋼板の表面疵を検出する。このとき、上流側表面疵検査装置で検出した表面疵を、下流側表面疵検査装置ではマスク処理により検出しないようにするので、複数の表面疵検査装置で重複して同一の疵を検出するのを防止し、不要な画像処理(弁別処理)を削減することができる。
【0033】
また、上流側に簡易型の表面疵検査装置を配置し、下流側に高性能型の表面疵検査装置を配置するので、上流側では比較的大きな表面疵のみを検出し、下流側では比較的小さな表面疵の集まりのみを対象に検査を行うことができる。したがって、下流側表面疵検査装置の処理能力を向上させることができ、大きな表面疵も併せて検査する場合よりも精密な検査を行うことができる。このとき、上流側表面疵検査装置で検出できなかった小さな疵も、高性能型の下流側表面疵検査装置で検出することができるので、鋼板の表面疵の見落としがない。さらに、上流側表面疵検査装置の配置位置よりも下流側で新たに発生した疵も、下流側表面疵検査装置で検出することができる。
【0034】
また、上記のように複数の表面疵検査装置で検出精度を異ならせることで、各検査装置で検出する疵の種類(大きさ等)を分けることができ、画像処理負荷を分散させることができる。そのため、画像処理装置のハングアップを抑制することができる。さらに、表面疵の多量発生時を想定して処理能力の高い画像処理装置を設置する必要がないため、装置のオーバースペックを防止することができる。
したがって、鋼板製造ライン上に高性能型の表面疵検査装置を1台のみ配置する場合と比較して、表面疵検査の処理能力を向上させることができるので、適切に鋼板の表面疵を検出することができ、欠陥材の流出を抑制することができる。
【0035】
さらにまた、上流側で検出した表面疵の画像領域に対し、所定のマージンを設けてマスク領域を設定するので、マスク処理時における画像合成位置のずれや、表面疵検査装置の検出精度の差に起因する疵部分の検出誤差等をカバーし、適切にマスク処理を行うことができる。
また、画像合成に際し、同期信号を用いてスタート位置を合わせるので、比較的容易に合成位置を決定することができる。さらにまた、鋼板連続画像からのプロフィールを用いて定期的に同期調整を行えば、外乱等による合成位置ずれを補正することができ、適切なマスク処理を行うことができる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明における第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、上述した第1の実施形態の撮像装置21及び22に加えて、巻き取りリール10の直前にも撮像装置を設置するようにしたものである。
(構成)
図5は、第2の実施形態における鋼板製造ライン1を示す図である。
この鋼板製造ライン1において、払い出しリール3から鋼板2を払い出し、ロール9によって鋼板2を搬送するまでの工程は図1に示す鋼板製造ライン1と同様であるため、ここでは工程の異なる部分を中心に説明する。
【0037】
図5に示す鋼板製造ライン1では、ロール9によって搬送された鋼板2に対して、第3の製造装置11で第1の製造装置4及び第2の製造装置7とは異なる処理を施した後、鋼板2をロール12及び13を介して搬送し、巻き取りリール10で巻き取る。ここで、第3の製造装置11は、例えばルーパである。
巻き取りリール10の直前(鋼板製造ライン1の最下流位置)には、鋼板2の両面の疵を撮像する撮像装置23a,23bが配置されている。撮像装置23aは、鋼板2の表側の面を撮像する表面用撮像装置であり、撮像装置23bは、鋼板2の裏側の面を撮像する裏面用撮像装置である。これら撮像装置23a,23bは、上述した撮像装置21a,21bと同様の構成を有し、簡易型の表面疵検査装置を構成するものである。
【0038】
なお、以下の説明では、撮像装置23a,23bを単に撮像装置23と称する。また、撮像装置21を備える表面疵検査装置を上流側表面疵検査装置、撮像装置22を備える表面疵検査装置を中央表面疵検査装置、撮像装置23を備える表面疵検査装置を下流側(最下流位置)表面疵検査装置という。
このように、本実施形態では、1つの鋼板製造ライン1に複数(ここでは、3台)の表面疵検査装置を配置し、上述した第1の実施形態と同様に、上流側で検出した疵部分をマスク処理することで、下流側ではこれを検出しないようにする。
【0039】
図6は、第2の実施形態における表面疵検査装置50の構成を示すブロック図である。
第2の実施形態における画像処理装置30は、マスク画像作成部35と、マスク処理部36と、第3の疵検出部37とが追加されていることを除いては、図2に示す画像処理装置30と同様の構成を有する。そのため、ここでは構成の異なる部分を中心に説明する。なお、撮像装置21、第1の疵検出部31及びマスク画像作成部32で上流側表面疵検査装置を構成し、撮像装置22、マスク処理部33、第2の疵検出部34及びマスク画像作成部35で中央表面疵検査装置を構成し、撮像装置23、マスク処理部36及び第3の疵検出部37で最下流位置表面疵検査装置を構成している。
【0040】
マスク画像作成部35は、第1の疵検出部31及び第2の疵検出部34で検出した疵部分を含む画像領域をマスク領域としたマスク画像を作成する。すなわち、マスク画像作成部32で作成した連続マスク画像と、第2の疵検出部34で特定した疵部分を含むようにマスク領域を設定して2値化された連続マスク画像とを合成し、最終的な連続マスク画像を作成する。
マスク処理部36は、撮像装置23から入力される鋼板連続画像と、マスク画像作成部35で作成した連続マスク画像とを合成し、鋼板連続画像を連続マスク画像でマスクする。
【0041】
第3の疵検出部37は、マスク処理部36で得られたマスク後の鋼板連続画像から、鋼板2の表面疵を検出する。ここでは、当該鋼板連続画像に対して予め設定した簡易検査用閾値を用いて2値化処理を行い、簡易検査用閾値を超えた画像データに対応する鋼板位置を疵部分と判定する。この第3の疵検出部37で検出した鋼板2の表面疵の情報は、オペレータが認識可能なようにモニタ40に表示する。
【0042】
なお、図6において、中央表面疵検査装置(撮像装置22、マスク処理部33、第2の疵検出部34及びマスク画像作成部35)が、上流側に配置した検出精度の高い疵検出手段に対応しており、撮像装置22が撮像手段、マスク処理部33、第2の疵検出部34及びマスク画像作成部35が判別手段に対応している。また、最下流位置表面疵検査装置(撮像装置23、マスク処理部36及び第3の疵検出部37)が、下流側に配置した検出精度の低い疵検出手段に対応しており、撮像装置23が撮像手段、マスク処理部36及び第3の疵検出部37が判別手段に対応している。
【0043】
(動作)
次に、第2の実施形態の動作について具体的に説明する。
払い出しリール3から払い出された鋼板2は、第1の製造装置4を通過した後、簡易型の上流側表面疵検査装置で表面の疵検査が行われる。このとき、撮像装置21から図7(a)に示すような鋼板連続画像が得られたものとすると、画像処理装置30は、第1の疵検査部31で、鋼板2の表面に発生している比較的大きな疵F3を検出する。また、画像処理装置30は、マスク画像作成部32で、図7(b)に示すように、第1の疵検査部31で検出した疵F3を含む領域M3をマスク領域とした連続マスク画像を作成し、これを記憶しておく。
【0044】
その後、鋼板2が搬送され、図7(a)の鋼板連続画像に対応する鋼板2が第2の製造装置7を通過すると、高性能型の中央表面疵検査装置でその表面の疵検査が行われる。このとき、上流側表面疵検査装置において、鋼板2の表面に発生している比較的小さな疵F4を見落としていたものとすると、撮像装置22からは、図7(c)に示すような疵F4を含む鋼板連続画像が得られる。
【0045】
画像処理装置30は、マスク処理部33で、この鋼板連続画像に図7(b)に示すマスク画像を合成し、マスク領域M3をマスクする。これにより、図7(d)に示す鋼板連続差分画像が得られる。すると画像処理装置30は、第2の疵検査部34で、この鋼板連続差分画像から鋼板2の表面に発生している比較的小さな疵F4を検出する。また、画像処理装置30は、マスク画像作成部35で、図7(e)に示すように、第1の疵検査部31で検出した疵F3を含む領域M3と、第2の疵検査部34で検出した疵F4を含む領域M4とをマスク領域とした連続マスク画像を作成し、これを記憶しておく。
【0046】
その後、鋼板2がさらに搬送され、図7(a)の鋼板連続画像に対応する鋼板2が第3の製造装置11を通過し、鋼板製造ライン1の最下流位置に到達すると、簡易型の最下流位置表面疵検査装置でその表面の疵検査が行われる。このとき、第2の製造装置7を通過した後の鋼板2に新たに表面疵F5が発生しているものとすると、撮像装置23からは、図7(f)に示すような疵F5を含む鋼板連続画像が得られる。
【0047】
画像処理装置30は、マスク処理部36で、この鋼板連続画像に図7(e)に示すマスク画像を合成し、マスク領域M3及びM4をマスクする。これにより、撮像装置21で検出した疵F3に対応する画像領域と、撮像装置22で検出した疵F4に対応する画像領域とがマスクされ、図7(g)に示す鋼板連続差分画像が得られる。これにより画像処理装置30は、第3の疵検査部37で、この鋼板連続差分画像から鋼板2の表面に新たに発生した疵F5を検出する。
【0048】
ところで、光学式の表面疵検査装置は、検査精度を高精度にすればするほど、鋼板製造ラインにおいて鋼板の上下振動の少ない安定した位置への設置が要求される。さらに、検査表面への外乱(防錆材や薬液塗布環境、太陽光などの強力な外光、粉塵、機械的干渉、周囲温度、保全スペースの確保不可など)についても、できるだけ少ない場所を選定することが望ましい。このような安定した位置は、鋼板製造ラインの中央に位置する場合が多く、鋼板製造ライン上に高性能型の表面疵検査装置を1台しか配置しない場合、表面疵検査装置の配置位置よりも下流側で新たに疵が発生すると、これを検出することができない。
【0049】
これに対して、本実施形態では、高性能型の表面疵検査装置の配置位置よりも下流側に、設置条件の制約の少ない簡易型の表面疵検査装置を配置するので、高性能型の表面疵検査装置の配置位置よりも下流側で新たに疵が発生した場合であっても、これを簡易型の表面疵検査装置によって検出することができる。
【0050】
(効果)
このように、上記第2の実施形態では、複数の表面疵検査装置のうち上流側に高性能型の表面疵検査装置を配置し、下流側に簡易型の表面疵検査装置を配置する。したがって、設置条件の制約により高性能型の表面疵検査装置を鋼板製造ラインの下流位置に配置できない場合であっても、当該下流位置に設置条件の制約の少ない簡易型の表面疵検査装置を配置することができるので、高性能型の表面疵検査装置よりも下流側で新たに発生した疵は簡易型の表面疵検査装置によって適切に検出することができる。
また、簡易型の表面疵検査装置を鋼板製造ラインの最下流位置、すなわち巻き取りリールの直前に配置することで、鋼板製造ライン上で発生した疵を見落としなく検出することができ、欠陥材の流出を適切に防止することができる。
【0051】
(変形例)
なお、上記各実施形態においては、鋼板製造ライン1上に配置する複数の表面疵検査装置を、何れも光学式の表面疵検査装置とする場合について説明したが、これら複数の表面疵検査装置は同じ検査原理でなくてもよい。
また、上記各実施形態においては、連続マスク画像の作成に際し、画像信号に対して正規化処理を施すようにしてもよい。例えば、通常の状態で256グレイスケールである場合、中間の128グレイスケールとなるように自動追従(自動ゲイン調整)を行う。このように、画像信号を正規化した後、128グレイの上下に所望の閾値を設けて必要な連続マスク画像を作成する。正規化処理を施すことで、表面疵検査装置が異なる種類であっても適切に処理することができる。なお、正規化の目標値は128グレイに限定されるものではなく、機器の差や鋼板の状況等から適宜決定するものとする。
さらに、上記各実施形態においては、鋼板製造ライン1上に疵検査装置を2つ又は3つ配置する場合について説明したが、4つ以上配置することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1…鋼板製造ライン、2…鋼板、3…払い出しリール、4…第1の製造装置、5…ロール、6…ロール、7…第2の製造装置、8…ロール、9…ロール、10…巻き取りリール、11…第3の製造装置、12…ロール、13…ロール、21a,21b…撮像装置、22a,22b…撮像装置、23a,23b…撮像装置、30…画像処理装置、40…モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板製造ライン上における鋼板の表面疵を検査する鋼板の表面疵検査装置であって、
1つの鋼板製造ライン上の異なる位置に配置され、当該配置位置での鋼板の表面疵を検出する複数の疵検出手段を備え、
前記複数の疵検出手段は、
前記配置位置での鋼板の表面画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像した表面画像から鋼板の表面疵を判別する判別手段と、をそれぞれ備え、
前記判別手段は、前記撮像手段で撮像した表面画像において、自身に対応する前記疵検出手段よりも前記鋼板製造ラインにおける上流側に配置された前記疵検出手段で検出した表面疵に対応する画像領域をマスクした後、前記表面疵を判別することを特徴とする鋼板の表面疵検査装置。
【請求項2】
前記複数の疵検出手段は、それぞれ表面疵の検出精度が異なり、
前記検出精度の低い前記疵検出手段の配置位置よりも前記鋼板製造ラインにおける下流側に、前記検出精度の高い前記疵検出手段を配置することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の表面疵検査装置。
【請求項3】
前記複数の疵検出手段は、それぞれ表面疵の検出精度が異なり、
前記検出精度の高い前記疵検出手段の配置位置よりも前記鋼板製造ラインにおける下流側に、前記検出精度の低い前記疵検出手段を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板の表面疵検査装置。
【請求項4】
前記検出精度の低い前記疵検出手段を、前記鋼板製造ライン上の最下流位置に配置することを特徴とする請求項3に記載の鋼板の表面疵検査装置。
【請求項5】
前記判別手段は、前記撮像手段で撮像した表面画像において、自身に対応する前記疵検出手段よりも前記鋼板製造ラインにおける上流側に配置された前記疵検出手段で検出した表面疵に対応する画像領域の外周部に所定のマージンを設けた領域をマスクした後、前記表面疵を判別することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鋼板の表面疵検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−173044(P2012−173044A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33347(P2011−33347)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】