説明

鋼板用洗浄装置

【課題】ブラシローラを有する鋼板用洗浄装置に関して、ブラシローラ中央部の洗浄液等の滞留を抑制する。
【解決手段】鋼板11をその長手方向に搬送しながら洗浄する鋼板11の洗浄装置1であって、鋼板11の表裏両面にそれぞれ当接して鋼板11の表裏面を洗浄液で洗浄する少なくとも一対のブラシローラ30(31,32)を備え、これらのブラシローラ30を回転することによって鋼板11は洗浄されるとともに搬送され、ブラシローラ30は、軸方向中心部に周囲に渡り所定の幅Waを有した帯状の中央ブラシ部70と、この中央ブラシ部70によって軸方向において左右に分割された一対の側ブラシ部71を有し、この側ブラシ部71は、所定の幅Wbを有し、鋼板11との接触によって中央ブラシ部70から鋼板11の幅方向端部REU,LEUに向かって洗浄液POLを送ることができる螺旋状に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシローラを有する鋼板用洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鋼板用洗浄装置では、ブラシローラを回転させて鋼板(ワーク)の表面に付着した粉塵などの異物を取り除いている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献2や3には板状部材の処理を行うブラシローラに関して、軸方向に洗浄液等を移動させるべくブラシ毛を螺旋方向に植毛する技術が記載されている。
【特許文献1】特開平6−91327号公報(第7−9頁、図4)
【特許文献2】特開平11−323582号公報(図4)
【特許文献3】特開平2002−096038号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献3の図2に示されるように、軸方向に洗浄液等を移動させるようにブラシ毛を螺旋方向に植毛した場合であっても、軸方向中央部の螺旋方向が変わる位置ではブラシ毛が無い部分に洗浄液等が滞留し、被洗浄物である鋼板に汚れが残存したり、新たな汚れが付着したりするおそれがあった。さらに滞留の影響で、ブラシの毛と毛の間にも埃、塵、切屑など鋼板の前処理工程において発生した異物が溜まり、ブラシローラの清掃に手間がかかるというおそれがあった。
【0004】
そこで、本発明は、ブラシローラ中央部の洗浄液等の滞留を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、鋼板をその長手方向に搬送しながら洗浄する鋼板の洗浄装置であって、鋼板の表裏両面にそれぞれ当接して鋼板の表裏面を洗浄液で洗浄する少なくとも一対のブラシローラを備え、これらのブラシローラを回転することによって鋼板は洗浄されるとともに搬送され、ブラシローラは、軸方向中心部に周囲に渡り所定の幅を有した帯状の中央ブラシ部と、この中央ブラシ部によって軸方向において左右に分割された一対の側ブラシ部と、を有し、この側ブラシ部は、所定の幅を有し、鋼板との接触によって中央ブラシ部から鋼板の幅方向端部に向かって洗浄液を送ることができる螺旋状に設けられていることを特徴としている。
【0006】
前記構成によれば、ブラシローラが当接する鋼板の表面をこすると、ブラシローラの幅方向の中央に備えた中央ブラシ部によって洗浄液、塵埃や切りくずなどの洗浄液等が左右に振り分けられ、中央ブラシ部からブラシローラの端へ向かって洗浄液等を送ることができる螺旋方向に巻き付けた側ブラシ部によって洗浄液等を外側へ誘導することができる。
【0007】
前記洗浄液等の振り分けは、中央ブラシ部と洗浄液等という物体間において強制的に相互作用を起こさせることにより、洗浄液等を中央ブラシ部の左右いずれかの側ブラシ部へ誘導している。なお、中央ブラシ部によって洗浄液等が左右どちらの側ブラシ部へ振り分けられるかは、複雑な初期条件、境界条件等に依存する所謂カオス理論に従うため、常に一定とはならない。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鋼板用洗浄装置は、鋼板およびブラシローラに洗浄液、塵埃や切りくずなどの洗浄液等を溜まり難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[第1実施形態]
図面を参照して本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る鋼板用洗浄装置の側断面図である。鋼板用洗浄装置1は、主にフレーム10と、前部搬送ローラ20と、ブラシローラ30と、後部搬送ローラ40と、から構成されている。
【0010】
フレーム10には、前部搬送ローラ20と、ブラシローラ30と、後部搬送ローラ40が内部に配設されている。鋼板11は、図1の左側の矢印INからフレーム10内に導入され、右側の矢印OUTの方向へ搬出される。この間に、鋼板11はフレーム10の内部に備えたローラ等によって洗浄される。
【0011】
前部搬送ローラ20は、互いに対向する上部ローラ21と下部ローラ22とからなり、所定のローラ間隔で鋼板11を挟みながら引き込み、ブラシローラ30へ鋼板11を送る。
ブラシローラ30は、互いに対向する上部ブラシローラ31と、下部ブラシローラ32と、入口側に設けた洗浄ノズル80とから構成されており、所定のローラ間隔で鋼板11を押圧しつつ回転することで、鋼板11の表面を清浄にする。
【0012】
後部搬送ローラ40は、前部搬送ローラ20と同様で、互いに対向する上部ローラ41と下部ローラ42とからなり、回転しながら鋼板11の清浄化を図るとともに、防錆油の均一化を図る。
駆動機構60は、前部搬送ローラ20(上部ローラ21、下部ローラ22)、後部搬送ローラ40(上部ローラ41、下部ローラ42)の4本のローラを全て同期させて同回転数で回転させる。
【0013】
図2は図1のI矢視から見た正面図であり、ブラシローラ30の上部ブラシローラ31および下部ブラシローラ32を示している。図2では、ブラシローラ30に備えられたブラシ36,37を示している。上部ブラシローラ31は第1駆動手段61によって所定の速度で回転するとともに、下部ブラシローラ32も第2駆動手段62によって所定の速度で回転する。このとき、上部ブラシローラ31は、鋼板11の厚みに対応して上方の油圧シリンダ64を作動させ、軸受箱63とともに昇降する。
【0014】
上部、下部ブラシローラ31,32の所定の速度はともに、他のローラ(図1の前部搬送ローラ20、後部搬送ローラ40)とは異なる速度に設定するのが望ましい。
速度を変化させることで、ブラシローラ30が鋼板に当接したときに両者の速度の違いによって、ブラシローラ30に備えられたブラシが鋼板11をこすり、洗浄効果を高めるためである。
【0015】
上部ブラシローラ31は、ローラ本体33と、このローラ本体33の軸方向中央部の周囲に渡り帯状にブラシ37を取り付けた中央ブラシ部70と、この中央ブラシ部70によって軸方向において左右に分割されブラシ36,36を螺旋状に取り付けた側ブラシ部71とからなる。
【0016】
下部ブラシローラ32も上部ブラシローラ31と同様であり、ローラ本体34と、このローラ本体34の軸方向中央部の周囲に渡り帯状にブラシ37を取り付けた中央ブラシ部70と、この中央ブラシ部70によって軸方向において左右に分割されブラシ36,36を螺旋状に取り付けた側ブラシ部71とからなる。
【0017】
図3は図2のII部詳細図であり、構成が錯綜して見難くなるのを回避するため、上部ブラシローラ31の側ブラシ部71の一部と中央ブラシ部70および下部ブラシローラ32の中央ブラシ部70のみを示している。
上部ブラシローラ31は、ローラ本体33の軸方向中央の外周面に所定幅Waのブラシ37を帯状に巻きつけた中央ブラシ部70と、所定幅Wbのブラシ36を中央ブラシ部70に対して対称に所定ピッチPで、ローラ本体33の端REU,LEU(図2も併せて参照)へ向かう(矢印A,Bの方向)螺旋方向(矢印C,D)に巻き付けた側ブラシ部71とから構成されている。なお、このように螺旋状に巻きつけることにより、塵埃や切りくずなどの対象物POLをローラが回転することによって任意の方向へ送ることができる。
【0018】
下部ブラシローラ32も上部ブラシローラ31と同様であり、ローラ本体34の軸方向中央の外周面に所定幅Waのブラシ37を帯状に巻きつけた中央ブラシ部70と、所定幅Wbのブラシ36(上部ブラシローラ参照)を中央ブラシ部70に対して対称に所定ピッチP(上部ブラシローラ参照)で、ローラ本体34の端RED,LED(図2も併せて参照)へ向かう(矢印A,Bの方向)螺旋方向(矢印E,F)に巻き付けた側ブラシ部71とから構成されている。
なお、ブラシ37の幅Wa、ブラシ36の幅Wbおよび螺旋のピッチPは、回転速度や前工程に応じて任意に決定される。
【0019】
図4は図3のIII−III線断面図であり、ブラシローラ30の断面に洗浄ノズル80の断面を追加して併記した状態を示す。
ブラシローラ30は、所定のローラ間隔で矢印X方向へ搬送される鋼板11を押圧しつつ回転(矢印G,Hの方向)することで、鋼板11の表面の塵埃や切りくずなどの対象物POLを取り除くとともに、洗浄ノズル80からブラシローラ30側に向けて洗浄油(液)を供給し、鋼板11表面の防錆油を適度に除去する。
【0020】
次に鋼板11の洗浄方法を図3および図4を参照して説明する。
まず、図4の上部ブラシローラ31と下部ブラシローラ32をそれぞれ矢印G,Hの方向に回転させ、その次に、ブラシローラ30の入口側に洗浄油(液)を洗浄ノズル80で吹き付けながら、入口側から鋼板11を矢印Xの方向に通しつつ鋼板11の表面を上部ブラシローラ31と下部ブラシローラ32のブラシ36,37,36,37でこする。図3に示すように、中央ブラシ部70によって振り分けられた洗浄油(液)とともに塵埃や切りくずなどの対象物POLは、螺旋方向に従い、ローラ本体33,34の端REU,LEU,RED,LED(図2参照)へ向かって送られ、矢印A,Bの方向である外側へ誘導することができる。その結果、ブラシ36,37,36,37内に塵埃や切りくずなどの対象物POLが溜まり難く、ブラシローラ30の清掃回数を少なくすることができるとともに、ラインの休止回数を減らすことができ、生産効率の向上を図ることができる。
【0021】
次に鋼板用洗浄機のブラシローラの作用を詳細に説明する。
図5は本発明に係るブラシローラの作用を示す模式図である。ここでは、側ブラシ部71について説明し、中央ブラシ部70の作用については後記する。
鋼板11を矢印Xの方向の下流側へ送りつつ、上部ブラシローラ31を矢印Gの方向へ回転させて鋼板11の表面をこすると、螺旋状に形成した側ブラシ部71(図2参照)によって鋼板11面上の塵埃や切りくずなどの対象物POLには矢印A,B方向の分力FD,FDが発生するので、対象物POLは鋼板11の中央からローラ本体33の端REU,LEUに向かって進む。その結果、ブラシ36の毛である樹脂製線材38間に鋼板11から取り除いた埃や塵が溜まるのを抑制することができる。
下部ブラシローラ32は上部ブラシローラ31と同様の構成であり、同様の作用を発揮する。
【0022】
次に図6を参照して、本実施形態の実施例と従来技術の比較例における作用の違いについて説明する。なお、図6では、洗浄、搬送される鋼板や、ブラシローラの周囲の構成要素については省略し、上部ブラシローラ31のローラ本体33と側ブラシ部71(ブラシ36),中央ブラシ部70(ブラシ37)に注目して模式化している。
【0023】
図6(a)に示す比較例(従来技術)は、特許文献3に記載されているものであり、実施例との差異は中央ブラシ部を有していないことである。比較例において、ブラシローラが回転し、鋼板を洗浄、搬送すると、螺旋ブラシ部171によって掻き採られた対象物POLは、ブラシ間の隙間を通って、中央から端部へ移動していく。しかし、螺旋の方向が変わるV字の部分では、ブラシ136によって掻き出され、もしくはブラシから滲み出た洗浄液等の対象物POLは、中央に集まる。このとき、左右のブラシ部から排出される洗浄液等の量に大きな差はできにくいため、回転方向Gと一致した方向(矢視参照)に流れが発生し、左右いずれにも対象物POLが振り分けられず、V字の中側の中央に対象物POLが滞留するおそれがある。
【0024】
次に図6(b)に示す実施例では、比較例と異なり、洗浄液等の対象物POLは中央ブラシ部70によってカオス的に振り分けられるため、回転方向Gから僅かに傾いた方向(矢視参照)に流れが発生する。この傾きは、対象物POLが中央から端部へ移動する方向となり、対象物POLは中央から端部へ移動し、洗浄液等の滞留が抑制される。
【0025】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。図7は、本実施形態の側ブラシ部と中央ブラシ部の部分の拡大説明図である。
図7に示すように、本実施形態における側ブラシ部271は、図6(a)で示した従来技術である比較例と同様な形態となっている。この従来技術の側ブラシ部271において、中央で螺旋の方向が変わる部分に中央ブラシ部270が備えられている。
【0026】
図6(a)で示した従来技術である比較例においては、前記したようにV字の中側の中央に対象物POLが滞留するおそれがある(図6(a)参照)。しかしながら、本実施形態のように備えられた中央ブラシ部270では、中央ブラシ部端部272がこの滞留した対象物を掻き採ることができる。そして、中央ブラシ部270と鋼板との接触面では、図6(b)において説明したように作用し、洗浄液等の滞留を抑制することができる。
【0027】
さらに、本実施形態の構成は、従来技術(図6(a)比較例参照)に、中央ブラシ部270を付加することでも達成することができ、新たな製品の設計、製造等を要しない。そして、中央ブラシ部270を着脱可能として、これを適宜交換することにより、洗浄能力の低下、洗浄液等の滞留を抑制する能力の低下を防止することも可能となる。
【0028】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、図面に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋼板用洗浄装置の側面図である。
【図2】図1のI−I矢視図である。
【図3】図2のII部詳細図である。
【図4】図3のIII−III線断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るブラシローラの作用を示す模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るブラシローラの中央ブラシ部(実施例)と従来技術(比較例)との作用比較を示す模式図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るブラシローラの中央ブラシ部と側ブラシ部の拡大説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 鋼板用洗浄装置
11 鋼板
10 フレーム
20 前部搬送ローラ
30 ブラシローラ
31 上部ブラシローラ
32 下部ブラシローラ
33,34 ローラ本体
36,37 ブラシ
40 後部搬送ローラ
60 駆動装置
70 中央ブラシ部
71 側ブラシ部
80 洗浄ノズル
POL 対象物
P 所定ピッチ
Wa 中央ブラシ部のブラシの所定幅
Wb 側ブラシ部のブラシの所定幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を搬送しながら洗浄する鋼板の洗浄装置であって、
前記鋼板の表裏両面にそれぞれ当接して前記鋼板の前記表裏面を洗浄液で洗浄する少なくとも一対のブラシローラを備え、これらのブラシローラを回転することによって前記鋼板は洗浄されるとともに搬送され、
前記ブラシローラは、軸方向中心部に周囲に渡り所定の幅を有した帯状の中央ブラシ部と、この中央ブラシ部によって軸方向において左右に分割された一対の側ブラシ部と、を有し、
この側ブラシ部は、所定の幅を有し、前記鋼板との接触によって前記中央ブラシ部から前記鋼板の幅方向端部に向かって前記洗浄液を送ることができる螺旋状に設けられていることを特徴とする鋼板の洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−144216(P2009−144216A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324413(P2007−324413)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【Fターム(参考)】