説明

鋼管の熱処理方法および熱処理設備

【課題】鋼管における材質差の発生や外径変形の発生を抑制し、均一な熱処理を行うことができ、且つ、高強度・高加工性が担保される鋼管の熱処理方法および熱処理設備を提供する。
【解決手段】鋼管を加熱および冷却することによって熱処理を行う鋼管の熱処理方法であって、鋼管をAc3温度以上になるまで加熱を行う加熱工程と、加熱後の鋼管をAc3温度以上で保持し均熱させる均熱工程と、均熱後の鋼管をAc1温度〜Ac3温度まで空気冷却させる空冷工程と、空冷後の鋼管を水冷によって急冷させる急冷工程と、を備える鋼管の熱処理方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば拡管用油井管等の鋼管全体を均一に熱処理するための鋼管の熱処理方法および熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば拡管用油井管等の所定長さに切断された鋼管の製造においては、鋼管を加熱した後に急冷却を行う熱処理が行われている。特許文献1には、鋼管を水平配置されたローラによって搬送し、搬送経路上で誘導加熱と冷却水による急冷を行う装置が開示されている。
【0003】
また、一般的な鋼管の熱処理においては、鋼管の加熱を行った後、加工ひずみを取り除くために加熱された鋼管を所定の温度に保持する保持炉において均熱させ、その後冷却を行う方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−17339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1においては、鋼管の加熱を行った後に均熱を行っていないため、例えば鋼管の外周面と鋼管内部との加熱にむらが生じ、均一な熱処理が行われない。そのため、冷却後の鋼管に材質差の発生や外径変形等の問題が生じていた。また、従来一般的に用いられている保持炉を用いて鋼管の加熱後の均熱を行う場合、保持炉内の上部と下部で温度差が生じるため、均熱の際に鋼管に保持炉の温度差が伝達される。この問題は事前に推測でき、鋼管の搬送時に回転させながら搬送させることで、温度むらを発生させないように設備を設置した。しかし実態は保持炉内では20度弱の温度差が生じており、鋼管を回転させながら搬送した場合でも、周方向で20度程度の温度むらが発生してしまう。鋼管の周方向や厚さ方向に温度むらが生じた状態で冷却が行われるため、やはり鋼管の均一な熱処理が行われず、冷却後の鋼管に材質差の発生や、図5にみられるような−0.5〜+0.5mmの螺旋状の外径変形等の問題が生じていた。これらの問題を解決するためには、例えば保持炉を大型化させ、保持炉の大きさを鋼管の大きさに対して十分に大きいものとすることで保持炉内に保持される鋼管の均熱を均一に行うような方法が考えられるが、多くの設備コストや保持炉のための広い設置スペースが必要となるため、好ましくないといった事情がある。
【0006】
そこで、上記事情に鑑み、本発明の目的は、鋼管における材質差の発生や外径変形の発生を抑制し、均一な熱処理を行うことができ、且つ、高強度・高加工性が担保される鋼管の熱処理方法および熱処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、鋼管を加熱および冷却することによって熱処理を行う鋼管の熱処理方法であって、鋼管をAc3温度以上になるまで加熱を行う加熱工程と、加熱後の鋼管をAc3温度以上で保持し均熱させる均熱工程と、均熱後の鋼管をAc1温度〜Ac3温度まで空気冷却させる空冷工程と、空冷後の鋼管を水冷によって急冷させる急冷工程と、を備える鋼管の熱処理方法が提供される。
【0008】
前記均熱工程において、鋼管をAc3温度以上で保持均熱する時間は1分以上であることが好ましい。
【0009】
前記空冷工程において、空冷時間は30秒以上かつ空冷終了時の鋼管温度はAc1温度〜Ac3温度の間であることが好ましい。
【0010】
上記熱処理方法においては、前記鋼管は油井管として用いられる拡管用鋼管であってもよい。
【0011】
また、別な観点からの本発明によれば、鋼管の熱処理を行う熱処理設備であって、鋼管をAc3温度以上になるまで加熱を行う加熱装置と、加熱後の鋼管をAc3温度以上で保持し均熱させる均熱装置と、加熱後の鋼管がAc1温度〜Ac3温度まで空気冷却された後、空冷後の鋼管を水冷によって急冷させる冷却装置と、を備える熱処理設備が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼管における材質差の発生や外径変形の発生を抑制し、均一な熱処理を行うことができ、且つ、高強度・高加工性が担保される鋼管の熱処理方法および熱処理設備が提供される。即ち、加熱された鋼管を保持(均熱)し、均熱を行った後に空気冷却を行うことで、鋼管周方向の温度むらが解消され、鋼管周方向でのフェライト・オーステナイト分率が均一化された状態で急冷を行うことが可能となり、鋼管における材質差の発生や外形変形の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】熱処理設備を示す概略側面断面図である。
【図2】熱処理設備を示す概略平面断面図である。
【図3】ローラの形状を示す説明図である。
【図4】鋼管の温度変化と時間の関係をグラフ化した図である。
【図5】鋼管の真円度異常(外径変形)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1は本発明の実施の形態にかかる鋼管Pの熱処理方法を行う熱処理設備10を示す概略側面断面図である。また、図2は熱処理設備10を上から見た概略平面断面図である。
【0016】
図1、図2に示すように、熱処理設備10は、搬送経路1に沿って複数設置されるローラ2と、搬送経路1上に並列して近接配置される加熱装置3、均熱装置4および冷却装置5から構成されている。ここで、搬送経路1上において鋼管Pの搬送上流側(図1、図2中左側)から下流側(図1、図2中右側)に向けて、加熱装置3、均熱装置4、冷却装置5が順に配置されている。また、搬送経路1は、搬送上流側から搬送下流側に行くに従って(図1中右に向かって)、低くなる経路であり、搬送経路1において鋼管Pは徐々に下方に搬送されていく。鋼管Pの熱処理は、鋼管Pを加熱装置3、均熱装置4、冷却装置5の順に通過させることで行われる。
【0017】
図3はローラ2の形状を示す説明図であり、搬送経路1に沿って複数配置されるローラ2の内の1つの断面を搬送経路1方向から拡大して見た図である。なお、図3中の破線は、ローラ2上において鋼管Pが搬送されている場合の鋼管Pを示すものである。図3に示すように、ローラ2には、その幅方向中央部にロール径の絞られた絞り部2aが形成されており、絞り部2aに比べロール径の長い部分がロール端部2bとなっている。鋼管Pの搬送時には、絞り部2aに鋼管Pがはめ込まれる形で、搬送が行われる。また、ローラ2の2箇所の端部(ロール端部2b)には回転軸6が設けられており、回転軸6が回転することによってローラ2が回転し、ローラ2上に載せられた鋼管Pが搬送される構成である。
【0018】
また、図2に示すように、搬送経路1上においてローラ2は、平面視の状態で、その回転軸6が搬送経路1の進行方向に対して直角になるようには配置されておらず、所定の角度θだけ搬送経路1に直角な方向から傾いた状態で配置される。このように、搬送経路1に対して傾いた状態で配置されるローラ2に設けられた絞り部2aにはめ込まれる形で、鋼管Pが搬送経路1上流から下流に搬送される場合に、上述したローラ2が搬送経路1の進行方向に対して角度θだけ傾いてことにより、鋼管Pはその周方向に随時回転しつつ、搬送経路1上を搬送されることとなる。なお、ローラ2に設けられる絞り部2aの形状や深さ、また、ローラ2の平面視における傾きθは、搬送対象である鋼管Pの大きさや形状によって適宜好適なものへ変更することが好ましい。
【0019】
以上のように構成される熱処理設備10において、行われる鋼管Pに対する熱処理について以下に説明する。熱処理される鋼管Pの種類は特に限定されないが、本実施の形態では、鋼管Pを油井管として用いられる拡管用の電縫鋼管である場合を例として説明する。この電縫鋼管の組成は、例えば、必須元素として、C:0.03〜0.20質量%、Si:0.01〜1.20質量%、Mn:0.30〜2.50質量%、P:0.03質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.01〜0.1質量%、N:0.01質量%以下、Ti:0.005〜0.05質量%、Ca:10〜40ppmを含み、選択元素として、Nb:0.01〜0.1質量%、V:0.01〜0.1質量%を含み、残部がFeからなる組成である。一般的に、電縫鋼管はシームレス鋼管等に比べ厚さのばらつきが少ないため、拡管時の破裂が防止される点で優れている。
【0020】
また、鋼管Pのサイズとしては、例えば1本の長さが10〜15m、外径が114〜340mm、板厚が5.2〜13mmであるものが好ましい。
【0021】
例えば上述した電縫鋼管である鋼管Pの熱処理としては、まず、搬送経路1の上流から、周方向に随時回転した状態で搬送される鋼管Pが、加熱装置3に搬入される。加熱装置3としては、例えば鋼管Pの外周に沿って配置されたコイルに高周波電流を流し、装置内部を通過する鋼管Pに誘導電流を生じさせて加熱を行うインダクションヒータが例示される。加熱装置3において、鋼管Pは7〜50秒程度の短時間で900℃以上の温度域、即ちAc3温度(オーステナイト変態温度)以上の温度まで昇温される(加熱工程)。なお、加熱装置3としてインダクションヒータを用いる場合の出力は、管厚、搬送速度、昇温量、設置スペースにもよるが、600kW程度の出力を用いることが一般的である。
【0022】
加熱装置3における鋼管Pの昇温は、鋼管Pの外表面からその昇温が行われるため、鋼管P内部は昇温されにくく、また、昇温されたとしても、外表面の昇温に比べその昇温は遅れて行われることとなる。そこで、加熱された鋼管Pは、加熱装置3に次いで、均熱装置4に搬入される。均熱装置4としては例えば電気ヒーターによる電気炉が挙げられる。均熱装置4に搬入された鋼管Pは、加熱装置3において昇温させられた状態のままの温度で保持均熱され、鋼管Pの外表面と内部の温度が均一になるように均熱工程が行われる。鋼管Pとして電縫鋼管を熱処理する場合には、均熱工程はAc3温度以上の温度で1分以上保持均熱しておくことが好ましい。
【0023】
例えば上記説明した組成である電縫鋼管である鋼管PをAc3温度以上の温度で1分以上保持均熱すると、鋼管内部まで、Ac3温度以上の温度に昇温され、その状態で保持されるため、鋼管Pの組織がオーステナイト単層からなる組織となる。なお、均熱工程における均熱装置4での鋼管Pの保持が1分未満である場合には、鋼管組織中のセメンタイトを完全に溶解させることができず、上記オーステナイト単層組織とはならない。
【0024】
そして、均熱工程が行われた鋼管Pは均熱装置4から搬出され、空気冷却(自然空冷)される(空冷工程)。ここで、空気冷却によって鋼管PはAc1温度(Ac1変態点)〜Ac3温度の間の温度まで冷却される。ここでの空冷工程における冷却速度は、空冷中にフェライト粒の成長による強度低下を防止する観点から、1〜2℃/secであることが好ましい。また、周方向の温度むらを取り除く為に、鋼管サイズにもよるが、空冷時間は30秒程度必要と考えられる。温度範囲は冷却開始直前がAc1〜Ac3の間に入っていることが必要である。鋼管の温度は、加熱装置3及び4出側に設置されている放射温度計11にて計測する。この空冷工程により、鋼管Pの組織はオーステナイト・フェライトの二相組織となる。
【0025】
次いで、空気冷却された後の鋼管Pは、搬送経路1に沿って搬送され、冷却装置5に搬入される。冷却装置5は、例えば複数の水冷ノズルを備える水冷式の装置であり、大量の冷却水を鋼管Pに噴射することによって急冷を行うものである。上記説明した電縫鋼管である鋼管Pを冷却装置5で冷却する場合、約700℃(Ac1温度より少し高い温度)から300℃程度まで、20℃/sec以上の冷却速度で急冷することが好ましい。この急冷工程においては、フェライト中にマルテンサイトが析出することとなり、鋼管Pの組織はフェライト・マルテンサイトの二相組織となる。即ち、フェライト組織とマルテンサイト組織からなるデュアルフェーズ鋼(二相鋼)鋼管が得られる。なお、急冷工程で300℃程度まで急冷された鋼管Pは冷却装置5から搬出された後、随時放冷によって室温程度の温度まで冷却されることとなる。
【0026】
図4は、以上説明した加熱工程(加熱)、均熱工程(保持)、空冷工程(空冷)、急冷工程(急水冷)における鋼管Pの温度変化と時間の関係をグラフ化したものである。図4に示すような温度変化でもって鋼管Pの熱処理を行うことにより、加熱された鋼管Pを保持(均熱)し、均熱を行った後に空気冷却を行うことで、鋼管周方向の温度むらが解消され、鋼管周方向でのフェライト・オーステナイト分率が均一化された状態で急冷を行うことが可能となり、鋼管における材質差の発生や外形変形の発生が抑制される。また、得られる鋼管の強度・加工性が十分に担保される。
【0027】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例として、下記表1に示す成分で、外径244.5mm×肉厚11.05mm×長さ13.4mの鋼管を、下記表2の条件で熱処理し、真円度のバラつきを調査した。真円度のバラつき評価は、従来の二相域加熱の場合のバラつき(表2のNo.4)に対し1/2以下を合格とした。なお、Ac1温度、Ac3温度は以下の式(1)および式(2)に鋼の成分の質量%を入れて計算することで求められる。
Ac1=723−10.7×Mn%−16.9×Ni%+29.1×Si%+16.9×Cr%+6.38×W%・・・(1)
Ac3=910−203×(C%)1/2−15.2×Ni%+44.7×Si%+104×V%+31.5×Mo%+13.1×W%−30×Mn%−11×Cr%−20×Cu%+700×P%+400×Al%+400×Ti%・・・(2)
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
鋼管を二相域まで加熱し急冷を実施した従来の場合(表2のNo.4)、真円度のバラつきが、3σで0.68mmだったのが、本発明によりγ単相域までの加熱や空冷条件を規定し周方向の温度むらを取り除いた後、急冷を行うことで真円度のバラつきが、例えばNo.1のように3σで0.32mmと半減以下となり真円度が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、例えば拡管用油井管等の鋼管全体を均一に熱処理するための鋼管の熱処理方法および熱処理設備に適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1…搬送経路
2…ローラ
3…加熱装置
4…均熱装置
5…冷却装置
6…回転軸
10…熱処理設備
11…放射温度計
P…鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管を加熱および冷却することによって熱処理を行う鋼管の熱処理方法であって、
鋼管をAc3温度以上になるまで加熱を行う加熱工程と、
加熱後の鋼管をAc3温度以上で保持し均熱させる均熱工程と、
均熱後の鋼管をAc1温度〜Ac3温度まで空気冷却させる空冷工程と、
空冷後の鋼管を水冷によって急冷させる急冷工程と、を備える鋼管の熱処理方法。
【請求項2】
前記均熱工程において、鋼管をAc3温度以上で保持均熱する時間は1分以上である、請求項1に記載の鋼管の熱処理方法。
【請求項3】
前記空冷工程において、空冷時間は30秒以上かつ空冷終了時の鋼管温度はAc1温度〜Ac3温度の間である、請求項1または2に記載の鋼管の熱処理方法。
【請求項4】
前記鋼管は油井管として用いられる拡管用鋼管である、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管の熱処理方法。
【請求項5】
鋼管の熱処理を行う熱処理設備であって、
鋼管をAc3温度以上になるまで加熱を行う加熱装置と、
加熱後の鋼管をAc3温度以上で保持し均熱させる均熱装置と、
加熱後の鋼管がAc1温度〜Ac3温度まで空気冷却された後、空冷後の鋼管を水冷によって急冷させる冷却装置と、を備える熱処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−21181(P2012−21181A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158163(P2010−158163)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】