説明

錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法

【課題】錫又は錫を主体とした鉛を含有しない金属メッキが施された小型・高密度パッケージング電子部品であるコネクタや端子から、錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法を提供する。
【解決手段】錫又は錫を主体とした鉛を含まない金属メッキが施されたコネクタや端子2を還元反応場が形成される溶液7中で超音波を照射する。この方法によって、メッキ工程、加工工程の簡単な後処理として、従来の鉛を含有した金属メッキと同様に針状ウィスカが発生しないコネクタや端子部品を供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫又は錫を主体とする金属メッキが施された電気・電子部品であるコネクタや端子から発生する錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の実装部品等に鉛(特定有害物質)を含まない錫めっき(はんだメッキを含む)を施した場合、めっき部分から錫ウィスカが発生し、めっき初期に認められなくても時間経過と共に発生・成長するという現象が生じる。当該錫めっきをコネクタや端子に採用した場合、特に針状に成長するウィスカは、極間に接触することで電気回路の短絡という重大な障害を引き起こす心配があり、この予見が重要となっている。このような背景から、電子情報産業技術協会(JEITA)では、電子デバイスのウィスカ試験方法の標準化を行い、JIS原案の作成および国際電子技術委員会(IEC)国際提案が計画されている。
日米欧の研究機関・企業等では、この発生メカニズムの解明と抑制方法に取り組んでいるが、何れも抜本的な解決策が見出されていないという国際的緊急課題である。
【0003】
これまで、鉛を含有する錫メッキが施された上述の部品からは針状ウィスカが発生し難いことが知られている。
しかし、昨今、地球環境問題に対する関心が高まる中、特に鉛の使用削減に対する要求が高くなってきている。
このような背景から鉛を含有しない錫メッキを施した部品の使用が急務になっているが、上述のウィスカ発生を完全に防止できる方法は未だ開示されていない。
【0004】
そこで、当該ウィスカを抑制する方法として、メッキ下地にニッケルめっきを施し、表層にビスマスを含有した錫メッキを使用する方法(特許文献1を参照)、メッキ膜の膜厚方向の錫合金成分含有率が増加するように合金成分に濃度勾配をもたせて錫合金めっき膜を形成する方法(特許文献2を参照)、表面処理剤ベンズイミダゾール化合物およびその塩を含むハンダ用の錫メッキ表面処理剤(特許文献3を参照)、錫又は錫合金メッキ膜を作成するためのメッキ液に、サッカリンナトリウムを含有させると共にメッキ時の電流密度を15mA/cm2以上、カソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上に制御する方法(特許文献4を参照)、 錫又は錫合金メッキ液の添加剤として、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物及びビスフェノールFプロピレンオキサイド付加物からの群から選ばれた少なくとも一種を含むものを使用する方法(特許文献5を参照)が開示されている。
また、銅等を導体パターンとするフィルムキャリアを製造するに際し、メッキ後にウィスカが発生したフィルムキャリアを精製水もしくはその加温中にて超音波を15秒間照射して、当該ウィスカを根本から切断除去し、更にフィルムキャリアを乾燥・焼鈍する方法(特許文献6を参照)が開示されている。
【0005】
以上のような方法が開示されているが、鉛が含有しない純錫メッキはもとより、ウィスカ発生を抑制するとされているビスマスや銀を含有した錫メッキにおいてもウィスカの発生は未だ完全に防止できていないことは、上述の電子情報産業技術協会(JEITA)・錫ウィスカ抑制技術研究委員会で周知されているとおりである。
また、この事実は、パナソニック四国エレクトロニクス株式会社が開発した銀含有量の最適化とメッキ膜厚(約1μm)の最適化による商品として公知となっているが、長さ10μm以下のウィスカは発生するものとしている。
【0006】
また、メッキ液の添加剤として種々の付加物を加える方法は、メッキ膜厚が2μmを超える部品では当該ウィスカの発生を完全に抑制できない等の課題がある。
【0007】
このように、上述の何れの方法も多品種の汎用電子部品であるコネクタや端子のメッキ部分に対する共通のウィスカ抑制方法としての採用が困難である。
【0008】
本発明に類似した方法として、特許文献6に示した「フィルムキャリアのウィスカー除去方法及びその装置」がある。
当該特許では開示されていないが、メッキ処理後に発生成長したウィスカを低周波数の超音波振動によって除去しようとしているものである。更にその後、成長の遅いウィスカの発生を抑制する補完方法として焼鈍熱処理を行っているものと推察する。
しかしながら、例え、成長したウィスカを他方法によって完全に除去しても長時間経過すると共に新たにウィスカが発生成長することは発明者によって確認されている。
また、焼鈍熱処理温度は開示されていないが、当該熱処理によって新たなウィスカの発生を完全に抑制できないことは、電子情報産業技術協会(JEITA)の「ウィスカ試験方法分科会」報告結果から予測される。
【特許文献1】特開2006-319288号公報
【特許文献2】特開2000-174191号公報
【特許文献3】特開2004-156094号公報
【特許文献4】特開2006-322014号公報
【特許文献5】特開2002-275678号公報
【特許文献6】特開平06-77291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に純錫メッキが施された電気・電子部品のコネクタや端子、半導体リードフレーム等において錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、特に錫を主体とした鉛を含有しない金属メッキ、特に純錫メッキが施された電気・電子部品の後処理方法であって、錫メッキ・加工処理後の未だウィスカが出現していない段階(潜在期間)で、当該メッキ部を溶液中で超音波照射することによって錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制することを特徴としている。換言すれば、ウィスカの発生する原因は、メッキ処理過程やその後の加工過程でメッキ膜に生じる応力の開放現象によって、酸化雰囲気中で錫原子がメッキ膜外に押し出されて単結晶として成長するとするものと考えられる。このメッキ膜外に押し出されるまでに一定の潜伏期間が存在するので、この潜伏期間中に超音波照射するものである。
【0011】
本発明は、前記超音波照射の反応場として、還元剤を溶解した溶液中や超音波照射による化学反応よって還元反応場を形成するポリオール(水酸基を2個以上含有する化合物)が含まれる液体中で超音波照射することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、特に錫を主体とした鉛を含まない金属メッキ膜表面からの錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法である。電気・電子部品の金属メッキ処理、切断・曲げ加工による外部応力が付与された直後に、還元剤としてクエン酸、シュウ酸又はその塩類、グリセリンの何れか一つまたはこれらを適量混合した溶液中で超音波を照射することで、メッキ膜表面から時間経過すると共に発生・成長するウィスカの発生を抑制することができる。
同様にメッキ膜の内部応力によって針状ウィスカが発生すると言われている半導体リードフレーム上からのウィスカの発生を抑制することができる。
この現象の全てが明らかになってはいないが、液体中に超音波を照射することによって、キャビテーションと呼ばれる気泡の発生、圧縮、崩壊過程がおこり、数千度、数千気圧の高温の反応場が形成される現象は公知の事実である。
この現象によって、メッキ膜に残留した応力集中の分散・緩和が還元反応場で行われて、針状のウィスカの成長が阻止されているものと推察している。
また、グリセリンによる還元反応場は、超音波照射によって、ポリオールが分解されて発生した水素で還元雰囲気が形成されているものと推察している。
尚、酸化雰囲気中では針状ウィスカの発生が助長されることが発明者によって確認されている。
従って還元反応場で超音波照射をことが必要条件である。
【0013】
本発明によれば、従来技術のようにビスマス等の希少金属を添加することなく、また複雑な生産工程を経ることなく当該ウィスカの発生源から絶って防止することが可能になる。
また、部品の外部応力に起因すると言われているコネクタ端子あるいはFPC(Flexible Printed Circuit/FFC(Flexible Flat Cable)から発生するウィスカ、内部応力に起因すると言われている半導体リードフレームから発生するウィスカ等々、種々の形態で発生するウィスカに対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明である電気・電子部品のメッキ膜表面から発生する針状ウィスカの発生を抑制する方法として、コネクタ端子を例にして、図1の超音波照射装置にて説明する。
1は超音波照射装置であって、2は電気・電子部品のコネクタ端子、3は水槽、4は超音波振動子、5は水、6は収納槽、7は還元剤が溶解した溶液又はポリオールが含まれる液体である。
まず、メッキ処理後に切断や曲げ加工が施された電気・電子部品のコネクタ端子2は、前記超音波照射装置1内に収納され、所定時間の超音波が照射される。この超音波照射装置1は、水槽3の下面に超音波振動子4が設置され、水槽3内は、水5で満たされており、コネクタ端子2を収納する収納槽6が前記超音波振動子4に隣接するように設置されている。
この収納槽内6には、還元剤が溶解した溶液7又はポリオールが含まれる液体7で満たされており、コネクタ端子2がこの収納槽6に収納される。
そして、この状態で前記超音波振動子4を作動させ、液体7中に超音波を照射することによって、キャビテーションと呼ばれる気泡の発生、圧縮、崩壊過程がおこり、数千度、数千気圧の高温の反応場が形成される現象は公知の事実である。
この現象によって、コネクタ端子2のメッキ膜に残留した応力集中の分散・緩和が還元反応場で行われて、針状のウィスカの成長が阻止されているものと推察している。
【実施例1】
【0015】
短時間の加熱・冷却過程で残留応力を付与された錫メッキ電子部品をグリセリン中で超音波周波数40kHz、合計90分間断続的に照射、その後に酸化雰囲気である大気中に40時間放置した場合の錫メッキ表面を走査型電子顕微鏡で観察した状態を図2に示す。写真のとおり、塊状の錫ウィスカが検出されているが、針状のウィスカの発生が抑制されて目的を達成していることが明らかになっている。
一方、本発明の超音波照射を行わないで、上記と同様に大気中に放置した場合は、図3に示すように大量の針状ウィスカが発生している。
因みに、従来使用されていた鉛入り金属メッキは、ウィスカが発生しないのではなく、ウィスカ形状が塊状であることに起因して短絡による障害が生じていなかったのである。
【実施例2】
【0016】
銅メッキ下地に純錫メッキを施した直径0.45mmの線材試料に曲げ応力を付与した直後にグリセリン中で周波数40kHz、60分間連続超音波照射、その後大気中に24時間放置した試料を光学顕微鏡で観察した結果を図4に示す。
また、同様に、0.4重量パーセントのクエン酸水溶液中(精製水)で周波数40kHz、60分間連続超音波照射、その後に24時間放置した試料を光学顕微鏡で観察した結果を図5に示す。何れの場合も針状のウィスカの発生が抑制されて目的を達成していることが明らかになっている。
一方、本発明の超音波照射を行わないで、上記と同様に大気中に放置した場合は、図6に示すように針状の長いウィスカが発生している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の針状ウィスカの発生を抑制する方法を実施する超音波照射装置の説明図である。
【図2】短時間の加熱冷却によって発生した塊状ウィスカの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】従来の短時間の加熱冷却によって発生した針状ウィスカの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】純錫メッキ試験材に曲げ応力を付与・グリセリン中で超音波照射、大気放置後に光学顕微鏡で観察した写真である。
【図5】純錫メッキ試験材に曲げ応力を付与・クエン酸溶液中で超音波照射、大気放置後に光学顕微鏡で観察した写真である。
【図6】従来の純錫メッキ試験材に曲げ応力を付与、大気放置後に発生した針状ウィスカの光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0018】
1 超音波照射装置
2 コネクタ端子
3 水槽
4 超音波振動子
5 水
6 収納槽
7 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫又は錫を主体とした鉛を含有しない金属メッキが施された小型・高密度パッケージング電子部品であるコネクタや端子の後処理方法であって、前記コネクタや端子を溶液中で超音波照射することによって錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法。
【請求項2】
前記超音波照射の反応場として、還元剤が溶解した溶液中で照射することを特徴とする請求項1記載の錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法。
【請求項3】
前記還元剤として、クエン酸、シュウ酸、又はそれらの塩類の何れか一つ、またはそれらを混合した溶液を用いることを特徴とする請求項2の錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法。
【請求項4】
前記超音波照射の反応場として、ポリオールが含まれる液体中で照射することを特徴とする請求項1記載の錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法。
【請求項5】
前記ポリオールが含まれる化合物として、グリセリンを用いることを特徴とする請求項4記載の錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法。
【請求項6】
前記超音波照射方法として、錫メッキ処理後のウィスカが出現するまでの潜伏期間中に超音波を照射することを特徴とする請求項1の錫メッキの針状ウィスカの発生を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−280559(P2008−280559A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123976(P2007−123976)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】