説明

鎖状テトラホスフィンテトラオキシド、該鎖状テトラホスフィンテトラオキシドを配位子とする希土類金属錯体、及びその用途

【課題】本発明は、高い発光強度を安定して発揮し、かつ有機媒体に対して高い溶解性を示す希土類金属錯体を実現するための配位子を提供する。
【解決手段】
一般式:


(式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して環を形成していてもよく、l、m及びnはそれぞれ同一または異なって2以上の整数を示す。)
で表される鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鎖状テトラホスフィンテトラオキシド、該鎖状テトラホスフィンテトラオキシドを配位子とする希土類金属錯体、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスフィンオキシドは産業上有用なファインケミカルズであり、さらに高付加価値のファインケミカルズ合成用の触媒原料、機能性材料等に用いられている。また、ホスフィンオキシドは、公知の方法(例えば、クロロシラン及びアルキルアミンの混合物を用いる方法等)により、産業上有用なホスフィンに容易に変換できるため、ホスフィンを合成するための中間体としても利用されている。
【0003】
特に、近年、エレクトロルミネッセンスや白色LED照明の分野では、希土類金属酸化物、窒化物等の無機化合物蛍光体に代わり、ホスフィンオキシド配位子を持つ希土類金属錯体を含有する蛍光体が注目を集めている。前記蛍光体は、例えば、LED又は半導体レーザーと組み合わせることにより発光装置を提供することができる(非特許文献1のp138〜144)。
【0004】
また、近年、偽造、不正複写等の防止を目的としたセキュリティー用途等に使用される発光性インクとしても、ホスフィンオキシド配位子を持つ希土類金属錯体を含有する蛍光体が注目を集めている(特許文献5)。
【0005】
前記錯体は、前記無機化合物蛍光体と同様にf軌道の電子遷移に基づく発光が可能である。また、ホスフィンオキシド配位子の構造制御や分子設計を行うことによって、光物性の精密制御を行うことができる。さらに、前記錯体は、有機溶媒及びシリコーン樹脂、フッ素樹脂等の液状ポリマーに均一に溶解するため、透明性の高い蛍光体材料を提供することができる。従来用いられていた無機化合物蛍光体は、前記液状ポリマーに溶解せず、液状ポリマー中で分散する傾向がある。そのため、得られる蛍光体材料は、光散乱して光取り出し効率が低下する問題があった。
【0006】
ホスフィンオキシド配位子を持つ希土類金属錯体として、例えば、特許文献1には、単座配位子のホスフィンオキシドが希土類金属イオンに配位してなる錯体が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の希土類金属錯体は、液状ポリマーなどの有機媒体中で、ホスフィンオキシド単座配位子が希土類金属イオンから解離しやすいため、高い発光強度を安定して発揮できる蛍光体を実現できない。
【0008】
そこで、錯体の安定性向上のため、2座配位子のビスホスフィンジオキシドを希土類金属イオンに配位させた錯体が提案されている(特許文献2〜5)。
【0009】
また、さらなる錯体の安定性向上等を目的として、特許文献6には、4座配位子である大環状テトラホスフィンテトラオキシドを配位子として用いた希土類金属錯体についても報告されている。
【0010】
これら特許文献2〜6のホスフィンオキシド配位子を有する希土類金属錯体は、液状ポリマーなどの有機媒体中での安定性が未だ不十分である。また、特許文献1〜6及び非特許文献2の配位子を有する希土類金属錯体は、液状ポリマー等の有機媒体に対する溶解度が低い。そのため、希土類金属錯体を有機媒体中に十分に溶解させることができず、結果的に高発光の材料を実現できないという欠点があった。
【0011】
従って、高い発光強度を安定して発揮し、かつ有機媒体に対して高い溶解性を示す希土類金属錯体を実現可能にする新規ホスフィンオキシド配位子の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−81986号公報
【特許文献2】特開2004−262909号公報
【特許文献3】特開2005−82529号公報
【特許文献4】特開2005−15564号公報
【特許文献5】特開2006−77191号公報
【特許文献6】特開2007−1880号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】足立吟也監修、「希土類の機能と応用」CMC出版(2006) p138〜144
【非特許文献2】M. Vincens, et al., Tetrahedron, 1991, 47, 403.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高い発光強度を安定して発揮し、かつ有機媒体に対して高い溶解性を示す希土類金属錯体を実現するための配位子を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造のテトラホスフィンテトラオキシドが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、下記のテトラホスフィンテトラオキシド及びその用途に係る。
1. 一般式:
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して環を形成していてもよく、l、m及びnは
それぞれ同一または異なって2以上の整数を示す。)
で表される鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
2. 一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して環を形成していてもよく、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す上記項1に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
3. 一般式(1)中、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRが、それぞれ同一又は異なって置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す上記項1又は2に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
4. 一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す上記項1〜3のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
5. 一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す上記項1〜4のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
6. 一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す上記項1〜5のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
7. 一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3、5、7、9又は11を示す上記項1〜6に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
8. 上記項1〜7のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドを含む希土類金属錯体。
9. 前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの4つの酸素原子のうち、少なくとも1つの酸素原子が希土類金属イオンに配位している上記項8に記載の希土類金属錯体。
10. 前記希土類金属イオンが、Eu3+、Tb3+、Er3+、Gd3+又はTm3+である上記項9に記載の希土類金属錯体。
11. 前記希土類金属イオンが、Eu3+又はTb3+である上記項9に記載の希土類金属錯体。
12. さらに、一般式(2)
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Rは水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRはそれぞれ同一又は異なって置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。)
で表されるβ−ジケトナト配位子が配位している上記項8〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体。
13. 上記項1〜7のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドと、一般式(3)
LnLp (3)
(式中、Lnは希土類金属イオンを示し、pは1〜5の整数を示し、Lは前記β−ジケトナト配位子を示し、該pが2以上の整数である場合、該β−ジケトナト配位子同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるβ−ジケトナト希土類金属錯体とを溶媒中で反応させることにより得られる請求項12に記載の希土類金属錯体。
14. 前記反応における前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジ
ケトナト希土類金属錯体(3)との反応比率((1)/(3))が、モル比で0.3〜0.7である上記項13に記載の希土類金属錯体。
15. 前記反応における前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)との反応比率((1)/(3))が、モル比で0.5である上記項13又は14に記載の希土類金属錯体。
16. 前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)として、一種又は二種以上のβ−ジケトナト希土類金属錯体を反応させる上記項13〜15のいずれかに記載の希土類金属錯体。
17. 上記項8〜16のいずれかに記載の希土類金属錯体が有機媒体に溶解してなる発光媒体。
18. 上記項17に記載の発光媒体を有する白色LED素子。
19. 上記項8〜16のいずれかに記載の希土類金属錯体を含む蛍光性インキ組成物。
20. 上記項8〜16のいずれかに記載の希土類金属錯体を含む発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0021】
本発明の新規鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)は、希土類金属イオンに配位して希土類金属錯体組成物を形成することができる。
【0022】
前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位子として有する前記希土類金属錯体は、1)従来の発光材料よりも発光強度が高く、2)有機媒体に対する溶解度が高く、3)有機媒体中において前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)が希土類金属イオンから解離しにくい性質を持つ。
【0023】
従って、前記錯体を含有する蛍光体は、高い発光強度を安定して発揮することができる。また、前記錯体は、有機媒体(特に、液状ポリマー)に溶解しやすいため、透明性の高い高発光材料を提供できる。
【0024】
また、本発明の希土類金属錯体は、熱等に対する耐久性に優れている。
【0025】
特に、前記錯体は、白色LED素子の発光層(発光媒体)、蛍光性インキ組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、LEDチップ2と発光媒体3とからなる発光層1を有するLED素子の断面図(模式図)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)
本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)は、一般式:
【0028】
【化3】

【0029】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して環を形成していてもよく、l、m及びnはそれぞれ同一または異なって2以上の整数を示す。)
で表される。
【0030】
置換されていても良い飽和炭化水素基の飽和炭化水素基としては、特に限定されず、例えば、C〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基、C〜C12シクロアルキル基等が挙げられる。
【0031】
〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示できる。
【0032】
〜C12シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示できる。
【0033】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されないが、例えばフルオロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0034】
フルオロアルキル基としては、例えば、C1−6ぺルフルオロアルキル基が挙げられる。C1−6ぺルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、トリデカフルオロヘキシル基等を例示できる。
【0035】
アルコキシ基としては、例えば、C1−6アルコキシ基が挙げられる。C1−6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。
【0036】
アリールオキシ基としては、例えば、C6−12アリールオキシ基が挙げられる。C6−12アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0037】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。
【0038】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0039】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0040】
特に、置換されていても良い飽和炭化水素基としては、置換されていてもよいC3〜20の飽和炭化水素基が好ましく、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、置換されていてもよいC4〜18の飽和炭化水素基がより好ましい。
【0041】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、C6〜20アリール基が挙げられる。C6〜20アリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0042】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0043】
1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0044】
1−6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。
【0045】
6−14アリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0046】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0047】
アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、前記飽和炭化水素基の置換基として述べたアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基と同じである。
【0048】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0049】
特に、置換されていてもよいアリール基としては、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、置換されていてもよいC6−15のアリール基が好ましい。
【0050】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。
【0051】
前記芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示できる。
【0052】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0053】
前記置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0054】
特に、置換されていてもよいヘテロアリール基としては、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、置換されていてもよいC5〜15のヘテロアリール基が好ましい。
【0055】
置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0056】
置換されていてもよいアラルキル基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0057】
前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0058】
同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して形成する環としては、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環等が挙げられる。
【0059】
式(1)中のl、m及びnは、それぞれ同一または異なって2以上の整数であればよいが、好ましくは3〜12の整数である。特に、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、l、m及びnは、それぞれ同一または異なって3、5、7、9又は11であることがより好ましく、3又は5であることがさらに好ましい。
【0060】
特に、本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとしては、一般式(1)中、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドが好ましく、一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドがより好ましく、一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドがさらに好ましく、一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3、5、7、9又は11を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドが最も好ましい。
【0061】
鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の製造方法
本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば公知の方法を適宜組み合わせることにより製造することができる。例えば、l、m及びnが3以上の整数である鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)については、下記反応式1に示す合成経路またはこれを応用した合成経路に従って製造できる。また、l及びnが2で、mが2以上の整数である鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)については、下記反応式2に示す合成経路またはこれを応用した合成経路に従って製造できる。
【0062】
以下、本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの製造方法について、下記反応式1及び反応式2の方法を代表例として具体的に説明する。
【0063】
<反応式1>
【0064】
【化4】

【0065】
第一工程
第一工程では、ビスホスフィン(4)と脱離基含有不飽和炭化水素(5)とを反応させることにより、ホスホニウム塩(6)を得る。
【0066】
一般式(4)中のR及びRは、上記R及びRと同じである。特に、R及びRは、それぞれ同一又は異なって置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基が好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基がより好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基がさらに好ましい。R同士及びR同士は、それぞれ互いに同一又は異なっていてもよい。
【0067】
一般式(4)中のmは3〜12の整数が好ましく、3、5、7、9又は11がより好ましい。
【0068】
ビスホスフィン(4)は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手できる。
【0069】
一般式(5)中、Xは脱離基である。前記脱離基としては、例えば、トルエンスルホニルオキシ基(OTs基)、メタンスルホニルオキシ基(OMs基)、ハロゲン原子等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等が挙げられる。この中でも特にホスホニウム塩(6)が高収率で得られ、且つ、化合物(5)が安価に得られる点から特に、ハロゲン原子が好ましく、Brがより好ましい。
【0070】
一般式(5)中のl及びnはそれぞれ3〜12の整数が好ましい。
【0071】
脱離基含有不飽和炭化水素(5)は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手できる。
【0072】
第一工程における脱離基含有不飽和炭化水素(5)の使用量は、特に限定されないが、ビスホスフィン(4)1molに対し、2〜4mol程度が好ましく、2〜3mol程度がより好ましい。
【0073】
ビスホスフィン(4)と脱離基含有不飽和炭化水素(5)との反応は溶媒中で行うことが好ましい。
【0074】
前記溶媒は、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジブチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル、ジヒドロピラン、1,4−ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。この中でも特に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0075】
前記反応は、バッチ式又は連続式のいずれの反応形式で行ってもよい。
【0076】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0077】
反応温度は、前記反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよいが、通常−20〜300℃程度、好ましくは0℃〜200℃程度である。
【0078】
反応時間は、特に限定されず、反応温度及び反応の進行程度に応じて適宜設定すればよいが、通常1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度である。
【0079】
上記リン化合物(4)と上記化合物(5)とを溶媒中で反応させる際、反応液中における上記リン化合物(4)及び化合物(5)の仕込み重量モル濃度は、リン化合物(4)と上記化合物(5)が溶解する濃度であれば限定されないが、好ましくは各々0.1mol/kg以上であり、0.2〜2mol/kgがより好ましい。
【0080】
反応後は、必要に応じて、得られた粗ホスホニウム塩からホスホニウム塩(6)を単離、精製してもよい。単離方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。ホスホニウム塩(6)を単離する方法としては、例えば、濾過、遠心分離等が挙げられる。溶媒に溶解したホスホニウム塩(6)を単離する方法としては、例えば、再結晶、再沈殿等が挙げられる。その他、反応終了後に得られた混合液を濃縮及び乾燥させることにより単離してもよい。得られたホスホニウム塩(6)を精製する方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば再結晶、再沈殿等が挙げられる。
【0081】
また、ホスホニウム塩(6)を単離、精製せずに、第二工程へ移行してもよい。すなわち、第一工程で得られたホスホニウム塩(6)に対して、直接、下記第二工程の反応を行ってもよい。
【0082】
第二工程
第二工程では、触媒存在下、ホスホニウム塩(6)とホスフィンオキシド(7)とを反応させることにより、ホスホニウム塩(8)を得る。
【0083】
前記リン化合物(7)中のR、R、R及びRは、上記R、R、R及びRと同じである。
【0084】
前記リン化合物(7)は、下記式のように、互変異性体のリン化合物(7’)との平衡状態で存在する。
【0085】
【化5】

【0086】
前記リン化合物(7)及び(7’)は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手できる。例えば、R. Hays, J. Org. Chem., 1968, 33, 3691. に記載の方法、すなわち、ジエチルホスファイト1molに対して、3molのグリニャール反応剤を反応させることによりR、R、R及びRが同一の前記リン化合物(7)を製造できる。また、G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc. (C), 1967, 1789. に記載の方法によりR、R、R及びRが互いに異なるリン化合物(7)を製造することができる。
【0087】
特に、R、R、R及びRとしては、それぞれ同一又は異なって置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基が好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基がより好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基がさらに好ましい。
【0088】
前記触媒としては、例えば、ラジカル開始剤型触媒、遷移金属錯体触媒、塩基性触媒等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。この中でも特に、ラジカル開始剤型触媒が好ましい。ラジカル開始剤型触媒を用いることにより、目的のホスホニウム塩(8)をより良好な収率で製造できる。
【0089】
ラジカル開始剤型触媒としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物、トリアルキルボラン等が挙げられる。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(AMVN)、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等を例示できる。有機過酸化物としては、ジベンゾイルパーオキシド(BPO)、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジイソブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチル−O)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等を例示できる。トリアルキルボランとしては、トリエチルボラン、トリブチルボラン等のトリアルキルボラン等を例示できる。これらラジカル開始剤型触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0090】
遷移金属錯体触媒としては、例えば、Fe錯体、Ni錯体、Pd錯体等が挙げられる。Fe錯体としては、[CpFe(CO)、Fe(CO)等を例示できる。Ni錯体としては、NiCl(PPh、NiBr(PPh等を例示できる。Pd錯体としては、PdCl(PPh、PdCl(PhCN)、PdCl(CHCN)等を例示できる。これら遷移金属錯体触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0091】
塩基性触媒としては、 例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、イソプロピルマグネシウムイソポロポキシド、t−ブチルマグシウムメトキシド等が挙げられる。これら塩基性触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0092】
特に、前記触媒としては、ラジカル開始剤型触媒が好ましく、アゾ化合物、有機過酸化物及びトリアルキルボランが好ましい。
【0093】
前記触媒の使用量は限定的ではないが、前記ホスホニウム塩(6)1molに対し、通常、0.01〜5mol程度、好ましくは0.02〜3mol程度、より好ましくは0.05〜1mol程度である。
【0094】
第二工程におけるリン化合物(7)の使用量は、特に限定されないが、ホスホニウム塩(6)1molに対し、2〜6mol程度が好ましく、2〜3mol程度がより好ましい。
【0095】
ホスホニウム塩(6)とリン化合物(7)との反応は、前記触媒存在下、溶媒中で行うことが好ましい。
【0096】
前記溶媒は、触媒機能を効果的に発現するものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。前記芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を例示できる。前記脂肪族炭化水素系溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、デカリン等を例示できる。前記エーテル系溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、THF、DME、シクロペンチルメチルエーテル、ジヒドロピラン、1,4−ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、アニソール等を例示できる。前記エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等が例示できる。前記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等を例示できる。前記アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド等を例示できる。前記スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。この中でも特に、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒が好ましい。
【0097】
前記ホスホニウム塩(6)、リン化合物(7)及び前記触媒は反応効率の観点から溶媒に完全に溶解することが好ましい。また前記ホスホニウム塩(6)は反応しながら溶解しても良い。
【0098】
前記反応は、バッチ式又は連続式のいずれの反応形式で行ってもよい。
【0099】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0100】
反応温度は、前記反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよいが、通常−20〜200℃程度、好ましくは0℃〜150℃程度である。例えば常圧で反応する場合は、0℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0101】
反応時間は、特に限定されず、反応温度及び反応の進行程度に応じて適宜設定すればよいが、通常15分〜72時間程度、好ましくは1〜36時間程度である。
【0102】
反応後は、必要に応じて、得られた粗ホスホニウム塩からホスホニウム塩(8)を単離、精製してもよい。単離方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。ホスホニウム塩(8)を単離する方法としては、再結晶、再沈殿等が挙げられる。その他、反応終了後に得られた混合液を乾燥させることにより単離してもよい。得られたホスホニウム塩(8)を精製する方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば再結晶、再沈殿等が挙げられる。
【0103】
また、ホスホニウム塩(8)を単離、精製せずに、第三工程へ移行してもよい。すなわち、第二工程で得られたホスホニウム塩(8)に対して、直接、下記のアルカリ加水分解を行ってもよい。
【0104】
第三工程
第三工程では、第二工程で得られたホスホニウム塩(8)をアルカリ加水分解することにより、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を得る。
【0105】
具体的には、水単独又は水と共溶媒との混合溶媒系に前記ホスホニウム塩(8)及び塩基を加えて加水分解反応を行う。
【0106】
前記共溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒が好ましい。
【0107】
前記混合溶媒中の水の含有量は、5重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。
【0108】
前記塩基としては、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)等を用いることができる。これら塩基については、単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0109】
塩基の使用量については、前記ホスホニウム塩(8)1分子に対して、2当量以上となるように設定することが好ましい。特に、反応速度を高めるために、前記ホスホニウム塩(8)1分子に対して、塩基を4当量以上添加することが好ましく、4〜20当量添加することがより好ましい。
【0110】
水又は前記混合溶媒中における前記ホスホニウム塩(8)の濃度は、0.01mol/kg以上が好ましく、0.05〜2mol/kgがより好ましい。前記ホスホニウム塩(8)の濃度が0.01mol/kg以上の場合、効率的に加水分解反応を行うことができ、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を高収率で得やすくなる。
【0111】
第三工程における加水分解反応は、反応効率の観点から、均一系反応であることが好ましい。また、前記加水分解反応が不均一系である場合、反応を加速させるために界面活性剤や相関移動触媒をさらに添加しても良い。
【0112】
前記加水分解反応は、バッチ式、連続式のいずれの反応形式で行っても良い。
【0113】
反応圧力は、常圧〜100kg/cmの範囲でよい。
【0114】
反応温度は、特に限定されないが、通常0〜300℃、好ましくは25〜200℃である。例えば、常圧で反応を行う場合の反応温度は、60℃〜反応溶媒の還流温度が好ましい。
【0115】
反応時間は、反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよく限定されるものではない。反応後は、必要に応じて、得られた鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒を加えることにより鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を抽出分離する方法、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることにより鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を抽出分離する方法等が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0116】
<反応式2>
【0117】
【化6】

【0118】
第一工程
第一工程では、ビスホスフィン(9)の脱アルキル反応によりビスホスフィン(10)を得る。
【0119】
一般式(9)及び(10)中のR及びRは、上記R及びRと同じである。特に、R及びRは、それぞれ同一又は異なって置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基が好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基がより好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基がさらに好ましい。R同士及びR同士は、それぞれ互いに同一又は異なっていてもよい。
【0120】
一般式(9)中のmは3〜12の整数が好ましく、3、5、7、9又は11がより好ましい。
【0121】
前記ビスホスフィン(10)は、ビスホスフィン(9)を例えば、Dicksonらの文献(Ron. S. Dickson, et. al. Organometallics 1999, 18, 2912-2914.)に記載の方法で合成できる。すなわち、THF中、ビスホスフィン(9)1molに対して、10molのリチウムワイヤーを作用させることによりR及びRがそれぞれ同一又は異なっていてもよい前記ビスホスフィン(10)を製造できる。
【0122】
前記ビスホスフィン(9)は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより得られる。
【0123】
第二工程
第二工程では、ホスフィン酸クロライド(11)とビニルマグネシウムクロライド(12)とを反応させることにより、ホスフィンオキシド(13)を得る。
【0124】
一般式(11)中のR、R、R及びRは、上記R、R、R及びRと同じである。特に、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基が好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基がより好ましく、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基がさらに好ましい。
【0125】
ホスフィン酸クロライド(11)及びビニルマグネシウムクロライド(12)は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手できる。
【0126】
ホスフィン酸クロライド(11)及びビニルマグネシウムクロライド(12)を反応させる際、ホスフィン酸クロライド(11)及びビニルマグネシウムクロライド(12)を溶媒に溶解させておくことが好ましい。溶液中のホスフィン酸クロライド(11)及びビニルマグネシウムクロライド(12)の濃度は、前記反応が好適に進行する範囲内であればよく特に限定されるものではない。
【0127】
前記溶媒としては、ホスフィン酸クロライド(11)とビニルマグネシウムクロライド(12)との反応を妨げない限りは特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、THF、DME、シクロペンチルメチルエーテル、ジヒドロピラン、1,4−ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。この中でも特に、THFが好ましい。
【0128】
特に、前記反応では、前記ホスフィン酸クロライド(11)に、ビニルマグネシウムクロライド(12)の溶液を滴下することが好ましい。
【0129】
前記滴下は、得られる反応液の温度が通常−20〜60℃程度、好ましくは−10〜40℃程度、さらに好ましくは0〜20℃となる条件下で行うことが望ましい。
【0130】
滴下速度は、上記滴下温度範囲内であれば特に限定されないが、前記ビニルマグネシウムクロライド(12)の溶液が、通常15分〜12時間程度、好ましくは30分〜6時間程度かけて滴下されるように設定することが望ましい。
【0131】
滴下終了後、必要に応じて、通常0〜30℃程度、好ましくは5〜25℃程度の温度でさらに反応させてもよい。
【0132】
反応後は、必要に応じて、得られたホスフィンオキシド(13)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよく限定されるものではない。例えば、反応終了後、希硫酸、希塩酸、酢酸水溶液等の酸性水溶液、塩化アンモニウム水溶液等の弱酸性水溶液、又は、塩化ナトリウム水溶液等の中性水溶液を使用し、小量残存するホスフィン酸クロライド(11)及びビニルマグネシウムクロライド(12)を不活性にした後、得られた混合液に有機溶媒を加えることによりホスフィンオキシド(13)を抽出分離する方法や、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることによりホスフィンオキシド(13)を抽出分離する方法等が挙げられる。
【0133】
得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0134】
第三工程
第三工程では、触媒存在下、ビスホスフィン(10)とホスフィンオキシド(13)とを反応させることにより、ホスフィンオキシド(14)を得る。
【0135】
前記触媒としては、例えば、上記ラジカル開始剤型触媒、上記遷移金属錯体触媒、上記塩基性触媒等を用いることができる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。この中でも特に、目的のホスフィンオキシド(14)をより良好な収率で製造できる点で、ラジカル開始剤型触媒が好ましく、アゾ化合物、有機過酸化物及びトリアルキルボランがより好ましい。
【0136】
前記触媒の使用量は限定的ではないが、前記ビススフィン(10)1molに対し、通常、0.01〜5mol程度、好ましくは0.02〜3mol程度、より好ましくは0.05〜1mol程度である。
【0137】
第二工程におけるホスフィンオキシド(13)の使用量は、特に限定されないが、ビスホスフィン(10)1molに対し、2〜6mol程度が好ましく、2〜3mol程度がより好ましい。
【0138】
ビスホスフィン(10)とホスフィンオキシド(13)との反応は、前記触媒存在下、溶媒中で行うことが好ましい。
【0139】
前記溶媒は、触媒機能を効果的に発現するものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、上記芳香族炭化水素系溶媒、上記脂肪族炭化水素系溶媒、上記エーテル系溶媒、上記エステル系溶媒、上記アルコール系溶媒、上記アミド系溶媒、上記スルホキシド系溶媒等を使用できる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。この中でも特に、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。
【0140】
ビスホスフィン(10)、ホスフィンオキシド(13)及び前記触媒は反応効率の観点から溶媒に完全に溶解することが好ましい。またビスホスフィン(10)とホスフィンオキシド(13)は反応しながら溶解しても良い。
【0141】
前記反応は、バッチ式又は連続式のいずれの反応形式で行ってもよい。
【0142】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0143】
反応温度は、前記反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよいが、通常−20〜200℃程度、好ましくは0℃〜150℃程度である。例えば常圧で反応する場合は、0℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0144】
反応時間は、特に限定されず、反応温度及び反応の進行程度に応じて適宜設定すればよいが、通常15分〜72時間程度、好ましくは1〜36時間程度である。
【0145】
反応後は、必要に応じて、得られたホスフィンオキシド(14)を単離、精製してもよい。単離方法としては、公知の方法を適宜採用すればよく、反応終了後に得られた混合液を乾燥させることにより単離してもよい。得られたホスフィンオキシド(14)を精製する方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。公知の方法としては、例えば、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0146】
第四工程
第四工程では、第三工程で得られたホスフィンオキシド(14)のホスフィン部位を酸化することにより、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を得る。例えば、特許文献2に記載の方法に従い、溶媒中、ホスフィンオキシド(14)を溶解させた後、市販の35%過酸化水素水を作用させることで鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を得ることができる。
【0147】
反応に使用する溶媒としては、特に限定されない。例えば、上記芳香族炭化水素系溶媒、上記脂肪族炭化水素系溶媒、上記エーテル系溶媒、上記エステル系溶媒、上記アルコール系溶媒、上記アミド系溶媒、上記スルホキシド系溶媒等を使用できる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。この中でも特に、THF、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒が好ましい。
【0148】
ホスフィンオキシド(14)は反応効率の観点から溶媒に完全に溶解することが好ましい。またホスフィンオキシド(14)は反応しながら溶解しても良い。
【0149】
反応温度は、適宜設定すればよいが、通常−20℃〜100℃程度、好ましくは−10℃〜30℃程度である。
【0150】
反応時間は、特に限定されず、反応温度及び反応の進行程度に応じて適宜設定すればよいが、通常1〜50時間程度、好ましくは1時間〜4時間程度である。
【0151】
反応後は、チオ硫酸ナトリウム水溶液等で残存する過酸化物を完全に除外した後、得られた粗鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒及び水を加えることにより鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を抽出分離する方法が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0152】
希土類金属錯体
本発明の希土類金属錯体は、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を含む錯体である。具体的に、本発明の希土金属類錯体は、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子が希土類金属イオン(中心金属イオン)に配位したものである。即ち、本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)は、希土類金属錯体の配位子として用いることができる。
【0153】
前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位子として有する前記希土類金属錯体は、1)従来の発光材料よりも発光強度が高く、2)有機媒体に対する溶解度が高く、3)有機媒体中において前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)が希土類金属イオンから解離しにくい性質を持つ。
【0154】
従って、前記錯体を含有する蛍光体は、高い発光強度を安定して発揮することができる。また、前記錯体は、有機媒体(特に、液状ポリマー)に溶解しやすいため、透明性の高い高発光材料を提供できる。
【0155】
また、本発明の希土類金属錯体は、熱等に対する耐久性に優れている。
【0156】
特に、本発明の希土類金属錯体に配位する鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)としては、一般式(1)中、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドが好ましく、一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドがより好ましく、一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドがさらに好ましく、一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3、5、7、9又は11を示す鎖状テトラホスフィンテトラオキシドが最も好ましい。
【0157】
前記希土類金属錯体は、中心金属イオンとして前記希土類金属イオンを有し、且つ、配位子として前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を有する限り特に限定されるものではない。
【0158】
前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の4つの酸素原子のうち、少なくとも1つの酸素原子が希土類金属イオンに配位していればよい。例えば、一つの希土類金属イオンに対して鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の四つの酸素原子が配位原子として配位する形態、希土類金属錯体が希土類金属イオンを二つ有する場合に、一方の希土類金属イオンに対して鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の二つの酸素原子が配位し、且つ、他方の希土類金属イオンに対して該鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の残り酸素原子二つが配位する形態等が挙げられる。
【0159】
前記希土類金属イオンとしては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの+2価、+3価などの陽イオンが挙げられる。特に、Lnとしては、Eu3+、Tb3+、Gd3+、Tm3+又はEr3+が好ましく、前記希土類金属錯体が高い赤色発光強度を示す点でEu3+がより好ましく、前記希土類金属錯体が高い緑色発光強度を示す点でTb3+がより好ましい。前記希土類金属錯体が複数の希土類金属イオンを含有する場合、希土類金属イオン同士は、互いに同一であることが好ましい。
【0160】
前記希土類金属錯体には、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)以外の配位子が配位していてもよい。前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)以外の配位子としては、特に限定されず、例えば、β−ジケトナト配位子、スルホニルイミド配位子、カルボキシレート配位子、アルコキシ配位子、アリールオキシ配位子、エーテル系配位子、アミン系配位子、クラウンエーテル系配位子、アザクラウンエーテル系配位子等が挙げられる。これらの配位子は、一種単独で又は二種以上で前記希土類金属イオンに配位していてよい。この中でも特に、β−ジケトナト配位子が好ましい。
【0161】
β−ジケトナト配位子としては、一般式(2)
【0162】
【化7】

【0163】
(式中、Rは水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRはそれぞれ同一又は異なって置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。)
で表されるβ−ジケトナト配位子が好ましい。
【0164】
に関し、ハロゲン原子としては例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0165】
、R及びRに関し、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素の飽和炭化水素基としては特に限定されず、例えば、C〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基、C〜C12シクロアルキル基等が挙げられる。
【0166】
〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示できる。
【0167】
〜C12シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示できる。
【0168】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されないが、例えばフルオロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0169】
フルオロアルキル基としては、例えば、C1−6ぺルフルオロアルキル基が挙げられる。C1−6ぺルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、トリデカフルオロヘキシル基等を例示できる。
【0170】
アルコキシ基としては、例えば、C1−6アルコキシ基が挙げられる。C1−6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。
【0171】
アリールオキシ基としては、例えば、C6−12アリールオキシ基が挙げられる。C6−12アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0172】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。
【0173】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0174】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0175】
、R及びRに関し、置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、C6−14アリール基が挙げられる。C6−14アリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0176】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0177】
1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0178】
1−6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。
【0179】
6−14アリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0180】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0181】
アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、前記飽和炭化水素基の置換基として述べたアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基と同じである。
【0182】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0183】
、R及びRに関し、置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。
【0184】
前記芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示できる。
【0185】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0186】
、R及びRに関し、置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0187】
置換されていてもよいアラルキル基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0188】
前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0189】
及びRに関し、炭素数が1〜20のぺルフルオロアルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状のいずれでも良い。例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ペンタフルオロシクロプロピル、ヘプタフルオロイソプロピル、ノナフルオロブチル、ノナフルオロイソブチル、ヘプタフルオロシクロブチル、ウンデカフルオロペンチル、ウンデカフルオロイソペンチル、ノナフルオロシクロペンチル、トリデカフルオロヘキシル、トリデカフルオロイソヘキシル、ウンデカフルオロシクロヘキシル、ペンタデカフルオロヘプチル、ヘプタデカフルオロオクチル、ノナデカフルオロノニル、ヘンイコサフルオロデシル、トリコサフルオロウンデシル、ペンタコサフルオロドデシル、ヘプタコサフルオロトリデシル基等が挙げられる。
【0190】
特に、前記β−ジケトナト配位子としては、R及びRが互いに同一又は異なって置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、炭素数1〜20のぺルフルオロアルキル基であり、Rが水素原子、重水素原子、ハロゲン原子であるβ−ジケトナト配位子が好ましく、R及びRが互いに同一又は異なって置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基であり、炭素数1〜20のぺルオロアルキル基であり、Rが水素原子、重水素原子であるβ−ジケトナト配位子がより好ましい。
【0191】
前記希土類金属錯体の製造方法としては、例えば、希土類金属イオン及び希土類金属塩から選ばれる少なくとも一種と前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とを溶媒中で反応させる方法が挙げられる。
【0192】
希土類金属イオンとしては、上述した希土類金属イオンが挙げられる。
【0193】
希土類金属塩としては、例えば、希土類金属ハロゲン化物、希土類金属硝酸塩、希土類金属カルボキシレート、希土類金属アルコキシド、希土類金属アリールオキシド、β−ジケトナト希土類金属錯体、スルホニルイミド希土類金属錯体等が挙げられる。
【0194】
特に、β−ジケトナト希土類金属錯体を前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と反応させることが好ましい。
【0195】
前記溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、オクタノール等のアルコール系溶媒;水等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。これら溶媒の中でも特に、ハロゲン系溶媒及び芳香族系溶媒が好ましい。
【0196】
反応形式は、バッチ式又は連続式のいずれであってもよい。
【0197】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0198】
反応温度は、適宜設定すればよいが、通常−20〜200℃程度、好ましくは20〜150℃である。例えば、常圧で反応する場合は、20℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0199】
反応時間は、特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分〜24時間程度、好ましくは30分〜12時間程度である。
【0200】
反応後、必要に応じて、公知の精製方法により精製してもよい。公知の精製方法としては、例えば、再結晶、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0201】
なお、希土類金属イオンに前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)が配位しているか否かを後述する蛍光強度測定試験等により確認できる。
【0202】
本発明の希土類金属錯体は、特に、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と、一般式(3)
LnLp (3)
(式中、Lnは希土類金属イオンを示し、pは1〜5の整数を示し、Lは前記β−ジケトナト配位子を示し、該pが2以上の整数である場合、該β−ジケトナト配位子同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるβ−ジケトナト希土類金属錯体(3)とを前記溶媒中で反応させることにより得られるものが好ましい。反応は、例えば、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)とを前記溶媒中で混合することにより行われる。前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)との仕込みモル比は、特に限定されず、例えば、後述する反応比率となるように適宜設定すればよい。
【0203】
前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて反応させる。
【0204】
前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて反応させる。
【0205】
前記反応における前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)との反応比率((1)/(3))は、モル比で0.3〜0.7であることが好ましく、0.5であることがより好ましい。前記反応比率((1)/(3))が、モル比で0.3〜0.7である場合、得られる希土類金属錯体は、後述する発光媒体等の発光源として好適に作用する。特に、前記反応比率((1)/(3))が、モル比で0.5である場合、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体がより確実に得られる。
【0206】
前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシドと前記β−ジケトナト希土類金属錯体との反応比率((1)/(3))が、モル比で0.5である場合、例えば、下記の希土類金属錯体を一種単独で又は二種以上の混合物として得ることができる。
【0207】
【化8】

【0208】

【0209】

【0210】

【0211】

【0212】
(式中、R、R、R、R、R、R、l、m、n、p、Ln及びLは前記と同じであり、q、r、s、t、u、v及びwはそれぞれ1以上の整数を示し、*はLnを介して[ ]内の構造式を繰り返すことを意味する。)
希土類金属錯体の用途
本発明の希土類金属錯体(本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位させた希土類金属錯体)は、後述する実施例にて示すように、特許文献2〜6に示されているようなホスフィンオキシド配位子を有する希土類金属錯体と比較して、有機媒体に対して従来にない高い溶解性を示し、高い発光強度を安定して発揮できるため、例えば、白色LED素子の発光層(発光媒体)、蛍光性インキ組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。
【0213】
前記希土類金属錯体をこれらの用途に用いる場合、前記希土類金属錯体を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0214】
また、前記希土類金属錯体を必須成分として含有し、さらに該錯体以外のイオン、化合物等をさらに含有する混合物として用いることもできる。前記混合物には、前記希土類金属錯体が含まれていればよく、本発明の効果を阻害しない範囲内で、希土類金属イオン、前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシドが配位していない希土類金属錯体等をさらに含んでいてもよい。
【0215】
(1)白色LED素子
本発明の白色LED素子は、発光層を構成する発光媒体(蛍光体)中に前記希土類金属錯体を含有させる以外は、公知のLED素子と同様の構成を採用できる。
【0216】
例えば、図1に示すようなLEDチップ2と発光媒体3とからなる発光層1を有するLED素子が挙げられる。
【0217】
LEDチップ2は、電極(図示せず)より電気エネルギーを受けて、発光し光を放射する。LEDチップ2から放射される光を吸収した発光媒体(蛍光体)3は、吸収した光とは異なる波長の光を放射する。この時、LEDチップ2から放射される光と蛍光体から放射される光とが組み合わさることにより、新たな光の色が形成される。本発明では、蛍光体中に前記希土類金属錯体を含有させることにより、白色の光を発することができる。また、前記希土類金属錯体は、有機媒体に好適に溶解し、有機媒体中で析出することが基本的にないため、効率よく(高い光取り出し効率で)、白色光を放射できる。
【0218】
LEDチップ2としては、紫外〜近紫外〜可視〜近赤外領域の光を放出する素子であればよく特に限定されない。例えば、青色LED、近紫外LED等が挙げられる。
【0219】
発光媒体3は、前記希土類金属錯体が有機媒体に溶解してなるものである。本発明では、前記希土類金属錯体中の希土類金属イオン(中心金属イオン)を適宜選択することにより、発光媒体3から放射される光の色を制御できる。例えば、中心金属イオンが全てEu3+である希土類金属錯体を含む発光媒体は、赤色の光を放射できる。また、中心金属イオンが全てTb3+である希土類金属錯体を含む発光媒体は、緑色の光を放射できる。さらに、中心金属イオンがEu3+及びTb3+以外の希土類金属イオン(例えば中心金属イオンが全てTm3+)である希土類錯体を含む発光媒体は、青色の光を放射できる。
【0220】
発光媒体3には、2種類以上の前記希土類金属錯体を含有させてもよい。発光媒体3には、光取り出し効率が低下する等の観点から、公知の蛍光性無機化合物粒子を含有させないほうがよいが、本発明の効果を妨げない範囲であれば、必要に応じて前記粒子を含有させてもよい。
【0221】
前記粒子としては、YAl12(YAG)にCeを付活してなる粒子等の黄色光を放射する無機化合物粒子;Sr10(POClにEuを付活してなる粒子、Ca10(POClにEuを付活してなる粒子、Ba10(POClにEuを付活してなる粒子、BaMgAl1017にEuを付活してなる粒子、BaMgSiにEuを付活してなる粒子等の青色光を放射する無機化合物粒子;SrGaにEuを付活してなる粒子、CaAlにEuを付活してなる粒子、BaAlにEuを付活してなる粒子、SrAlにEuを付活してなる粒子等の緑色光を放射する無機化合物粒子;SrSにEuを付活してなる粒子、CaSにEuを付活してなる粒子、CaAlSiNにEuを付活してなる粒子、BaMgSiにEu、Mnを付活してなる粒子等の赤色光を放射する無機化合物粒子等が挙げられる。これらの粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0222】
例えば、下記LEDチップ2と発光媒体3との組み合わせの場合、好適に白色光を得ることができる。
(1)LEDチップ2:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体3:赤色光を放射する希土類金属錯体+黄色光を放射する無機化合物粒子(例えば、YAl12(YAG)結晶にCeを付活してなる粒子)
(2)LEDチップ2:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体3:赤色光を放射する希土類金属錯体+緑色光を放射する希土類金属錯体
(3)LEDチップ2:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体3:青色光を放射する無機化合物粒子(例えば、Sr10(POClにEuを付活してなる粒子、Ca10(POClにEuを付活してなる粒子、Ba10(POClにEuを付活してなる粒子等)+赤色光を放射する希土類金属錯体+緑色光を放射する希土類金属錯体
(4)LEDチップ2:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体3:赤色光を放射する希土類金属錯体+緑色光を放射する希土類金属錯体+青色光を放射する希土類金属錯体
前記有機媒体としては、例えば、有機溶媒、液状ポリマー等が挙げられる。
【0223】
前記有機溶媒としては、例えばフッ素系溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒は、一種単独で又は二種以上からなる混合溶媒として使用できる。
【0224】
前記液状ポリマーとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。前記フッ素系樹脂、前記シリコーン系樹脂等としては、市販品を好適に用いることができる。フッ素系樹脂の市販品としては、例えば、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭ガラス製)等が挙げられる。シリコーン樹脂の市販品としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等が挙げられる。
【0225】
特に、前記有機媒体としては、液状ポリマーが好ましく、フッ素系樹脂がより好ましい。フッ素系樹脂は、高ガラス転移点、高防湿性、低気体透過性等の特性を有するため、前記有機媒体としてフッ素系樹脂を用いることにより、発光媒体3の発光特性、発光寿命、耐久性等を向上させることができる。
【0226】
発光媒体3中における前記希土類金属錯体の含有量は、特に限定されないが、5〜90重量%程度が好ましい。
【0227】
発光媒体3中における前記蛍光性無機化合物粒子の含有量は、本発明を妨げない範囲である限り特に限定されない。
【0228】
本発明の白色LED素子は、砲弾型LED、表面実装型LED等の種々のLEDに用いることができる。前記LEDの具体的構成は、前記白色LED素子が配置される以外は公知のLEDと同様の構成を採用できる。
【0229】
(2)発光性インキ組成物
本発明の蛍光性インキ組成物は、前記希土類金属錯体を含有する。
【0230】
前記希土類金属錯体は、天然光の下では放射する光の色は実質的に無色である。
【0231】
一方、前記希土類金属錯体に紫外光を照射する場合、該錯体は有色の光を放射するので、その放射光を観察することができる。従って、前記希土類金属錯体を溶解させたインキ組成物を種々の基材上に印刷することにより、ブラックライト等を使用した紫外線照射下でのみ印刷内容の視認が可能になる。例えば、紙幣、文書、書類、カード等の基材に前記インキ組成物を印刷することにより、偽造、不正複写等を防止できるセキュリティー機能を持たせることができる。
【0232】
前記放射光の色は、前記希土類金属錯体の中心金属イオンの種類に応じて異なる。例えば、中心金属イオンがEu3+の場合、前記錯体は強い赤色の光を放射し、中心金属イオンがTb3+の場合、前記錯体は強い緑色の光を放射する。なお、前記希土類金属錯体が中心金属イオンを複数個有する場合、複数の希土類金属イオンは全て同一であることが好ましい。
【0233】
前記インキ組成物中には2種類以上の前記希土類金属錯体組成物を含有させてもよい。
【0234】
例えば、第1の蛍光体に、波長365nm及び254nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射で強い緑色発光を示す中心金属イオンがTb3+からなる本発明の希土類金属錯体組成物を、第2の蛍光体に波長365nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射で強い赤色発光を示し、波長254nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射ではほとんど赤色発光を示さない中心金属イオンがEu3+からなる本発明の希土類金属錯体を混ぜ合わせた、2色混合型のインキを作成することができる。
【0235】
前記インキ組成物は、波長365nmの紫外線を放射するブラックライトランプを照射した場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体が、それぞれ緑と赤の混色である黄色に近い色を発光する。
【0236】
一方、波長254nmの紫外線を放射するブラックライトランプを照射した場合、第2の蛍光体はほとんど発光せず、第1の蛍光体の緑色のみが発光する。
【0237】
この様に、前記2つの波長領域を使用して異なる色相を判別することになるため、真偽判別性をより高めることができる。
【0238】
本発明の蛍光性インキ組成物中における前記希土類金属錯体の含有量は、前記基材の種類等に応じて適宜設定すればよいが、0.001〜30重量%程度が好ましく、0.05〜3重量%程度がより好ましい。
【0239】
本発明の蛍光性インキ組成物には、必要に応じて、溶媒、樹脂(バインダー)、浸透剤、消泡剤、分散剤、着色剤等の添加物を含有させてもよい。
【0240】
特に、本発明のインキ組成物は、前記希土類金属錯体が溶媒中に溶解したものが好ましい。
【0241】
前記溶媒としては、前記希土類金属錯体を溶解することができるものであればよく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は蛍光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。
【0242】
前記樹脂(バインダー)は、前記希土類金属錯体を前記基材上に良好に定着でき、且つ、上記溶媒に良好に溶解するものが好ましい。前記樹脂は、光学的に透明であってもよいし、不透明であってもよい。例えば、ポリビニル系樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は蛍光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0243】
浸透剤は、紙等へのインク組成物の浸透を早め、見かけの乾燥性を早くする目的で加える。前記浸透剤としては、例えば、グリコールエーテル、アルキレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの浸透剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0244】
消泡剤は、インク組成物の移動やインク組成物製造時の泡の発生を防止する目的で添加する。前記消泡剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性及び両イオン性界面活性剤を使用できる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ホスファチジルコリン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0245】
前記分散剤としては、例えば、ステアリン酸石鹸、オレイン酸石鹸、ロジン酸石鹸、Na−ジ−β−ナフチルメタンジサルフェート、Na−ラウリルサルフェート、Na−ジエチルヘキシルスルホサクシネート、Na−ジオクチルスルホサクシネート等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0246】
前記着色剤としては、公知の顔料や染料を使用できる。例えば、アゾ系、アゾメチン系、キナクドリン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、キノリン系、ペリレン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の有機染顔料を使用できる。これらの着色剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0247】
本発明の蛍光性インキ組成物中における上記各種添加剤の含有量は特に限定されず、前記基材の種類、用途等に応じて適宜設定すればよいが、本発明の蛍光性インキ組成物中における前記樹脂(バインダー)の含有量は0.5〜30重量%程度が好ましく、1〜10重量%程度がより好ましい。前記樹脂の含有量が0.5重量%未満の場合、非浸透性の基材に対して前記希土類金属錯体を十分に定着できない。また前記樹脂の含有量が30重量%を超える場合、蛍光性インキ組成物中において前記希土類金属錯体の周囲を前記樹脂(バインダー)が厚く覆うこととなるため前記希土類金属錯体の発光の低下を招く恐れがある。
【0248】
(3)有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
本発明の有機EL素子は、前記希土類金属錯体を含む発光層を有する。
【0249】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、通常、基板、陽極、電荷(正孔)輸送層、前記発光層、電荷(電子)輸送層及び陰極が順に積層された構造を有する。
【0250】
前記発光層中における前記希土類金属錯体の含有量は、5〜100重量%程度が好ましい。
【0251】
前記発光層は本発明の希土類金属錯体単独で形成されていてもよいし、本発明の希土類錯体以外の化合物をさらに含有していてもよい。例えば下記に示す電荷(正孔)輸送層の材料もしくは電荷(電子)輸送層の材料等をホスト化合物として含有していても良い。
【0252】
前記発光層の膜厚は、少なくともピンホールが発生しないような厚みが必要であるが、厚すぎると素子の抵抗が増し、高い駆動電圧が必要となるためあまり好ましくない。従って前記発光層の膜厚は、0.0005〜10μm程度、好ましくは0.001〜1μm程度、より好ましくは、0.005〜0.2μm程度である。
【0253】
前記発光層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、前記希土類金属錯体を正孔輸送層上に蒸着する方法、或いは、上記発光性インキ組成物をスピンコート法、インクジェット法等の印刷方法により塗布する方法が挙げられる。
【0254】
前記基板は、透明のものであればよく、例えば、ガラス、石英、光透過性プラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート(PC)等)等が挙げられる。前記基板の厚みは、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。
【0255】
前記陽極の材料として、例えば、仕事関数の大きな導電性材料であるITO(インジウム錫酸化物)等を用いることができる。前記陽極の厚みは、0.1〜0.3μm程度が好ましい。
【0256】
前記電荷(正孔)輸送層の材料としては、例えば、トリアリールアミン等のアリールアミン系化合物等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0257】
前記電荷(電子)輸送層の材料としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、トリアゾール類、フェナントロリン類、オキサジアゾール類等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0258】
これら電荷輸送層の厚みは、それぞれ通常0.0005μm〜10μm程度であり、好ましくは0.001〜1μm程度である。
【0259】
前記陰極の材料としては、仕事関数が小さな金属であるアルミニウム、マグネシウム、インジウム、アルミ−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が使用される。前記陰極の厚みは、0.01〜0.5μm程度が好ましい。
【0260】
前記陽極、前記正孔輸送層、前記電子輸送層及び前記陰極は、前記各種材料を用いて抵抗加熱蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等の公知の方法に従って形成できる。
【0261】
本発明の有機EL素子は、カラー液晶表示器のバックライト等の照明器、ディスプレイ等に用いることができる。
【実施例】
【0262】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0263】
鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の合成
l、m及びnが3以上の整数である鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を、下記反応式1に従って製造した(実施例A−1〜A−14)。
【0264】
<反応式1>
【0265】
【化9】

【0266】
実施例A−1
(i)第一工程
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた200ml四ツ口フラスコに1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパン(4)4.0g(9.7mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mlを仕込み、攪拌しながら臭化アリル(5)2.0ml(23.2mmol)を加えた。その後、内温を45〜50℃に維持したまま、2.5時間加熱した。得られた反応液を冷却し、トルエン100mlを加え30分間攪拌することにより白色沈殿物を得た。得られた白色沈殿物は吸引濾過で集めた。濾過により得られた白色固体(残渣)を45℃で減圧下約3時間乾燥させた。これにより、ホスホニウム塩(6)を5.4g(収率85%)得た。
【0267】
(ii)第二工程
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた100ml四ツ口フラスコに、上記にて得られたホスホニウム塩(6)5.4g(8.3mmol)、ジフェニルホスフィンオキシド(7)3.7g(18.3mmol)、メタノール20mlを加えた。その後、氷浴下0℃まで冷却した後、トリエチルボラン1Mヘキサン溶液を1.1mlを加え、さらに空気6mlを吹き込んだ。そして、徐々に室温まで昇温させた後、約12時間攪拌した。次に、減圧下、溶媒を留去して得られた濃縮物残渣をクロロホルムに溶解させ、そのクロロホルム溶液を滴下ロートに移した。
【0268】
次に、500mlのナス型フラスコに、トルエン200mlを加え攪拌しながら、上記滴下ロートに移したクロロホルム溶液を15分かけて滴下し、その後1時間攪拌することにより白色沈殿物を得た。得られた白色沈殿物は吸引濾過で集めた。濾過により得られた白色固体(残渣)を60℃、減圧下約6時間乾燥させることにより、ホスホニウム塩(8)を4.37g(収率50%)得ることができた。
【0269】
(iii)第三工程
攪拌機、温度計及び冷却器を備えた100ml四ツ口フラスコに、上記にて得られたホスホニウム塩(8)3.88g(3.66mmol)を加えた。次いで、エタノール、10ml及び水3mlを加えた後、4M水酸化ナトリウム水溶液9.2mlを加えて、6時間加熱還流させた。加熱還流後(反応後)、クロロホルム30mlを用いて3回抽出を行った。得られた有機層を、硫酸マグネシウムで脱水乾燥後、吸引濾過し、さらに減圧濃縮を行った。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル、メタノール)で精製し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)2.5g(収率88%)を得た。結果を表1に示す。
【0270】
実施例A−2〜A−14
実施例A−1の方法に準じて、表1〜3に示す通り鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を製造した。
【0271】
なお、実施例A−13及びA−14では、第二工程においてメタノールの代わりにエタノールを用い、トリエチルボラン1Mヘキサン溶液の代わりにAMVNを用いた。結果を表1、2及び3に示す。
【0272】
また、l及びnが2で、mが2以上の整数である鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を下記反応式2に従って製造した(実施例A−15)。
【0273】
<反応式2>
【0274】
【化10】

【0275】
実施例A−15
(i)第一工程
1,2−ビス(フェニルホスフィノ)エタン(10)はDicksonらの文献 (Ron. S. Dickson, et. al. Organometallics1999, 18, 2912-2914.)に従って下記のようにして合成した。
【0276】
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた500mlのSUS製の反応容器に1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン(9)10g(25.1mmol),THF250ml,リチウムワイヤー1.75g(251mmol)を仕込んだ。次に、超音波洗浄器を用意し、内温を10℃に維持したまま約5時間攪拌させながら超音波を照射することにより反応液を得た。
【0277】
別途、窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた1000ml四ツ口フラスコに、脱気しておいた水60mlを入れ、氷浴下、内温を0℃にした(フラスコ1)。
【0278】
続いて、キャヌラを使用して、過剰量存在するリチウムを残しつつ、上記反応液をフラスコ1の内温が0℃〜10℃の範囲内を保つようにフラスコ1へ滴下していった。
【0279】
さらに、窒素雰囲気下、あらかじめ脱気し、氷冷しておいたジエチルエーテル80mlを先のフラスコ1へ氷浴下、内温を0℃に維持したまま滴下ロートを使用して加えた。氷冷下、約30分間攪拌した後、反応液を静置させると2層に分離した。水層部分については、窒素雰囲気下、10mlピペットを使用して抜き取った。
【0280】
次に、あらかじめ脱気し、氷冷しておいた2M塩酸30mlを先のフラスコ1へ氷浴下、内温を0℃に維持したまま滴下ロートを使用して加えた。氷冷下、約30分間攪拌した後、反応液を静置させると2層に分離した。得られた水層部分については、窒素雰囲気下、10mlピペットを使用して抜き取った。
【0281】
次いで、あらかじめ脱気し、氷冷しておいた水50mlを先のフラスコ1へ氷浴下、内温を0℃に維持したまま滴下ロートを使用して加えた。氷冷下、約30分間攪拌した後、反応液を静置させると2層に分離した。得られた水層部分については、窒素雰囲気下、10mlピペットを使用して抜き取った。この操作をあと2回行った。得られた有機層については窒素雰囲気下、炭酸ナトリウムにて乾燥後、濾過を行い、溶媒を留去した。
【0282】
得られた粗1,2−ビス(フェニルホスフィノ)エタン(10)の精製は、1torrの減圧下、クーゲルロール蒸留装置を用いて行い(沸点161℃)、1,2−ビス(フェニルホスフィノ)エタン(10)を4.33g(収率70%)得た。
【0283】
(ii)第二工程
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた200ml四ツ口フラスコに、THF10ml、ジフェニルホスフィン酸クロライド(11)3.00g(12.7mmol)を仕込み、0℃まで冷却した。続いて、ビニルマグネシウムクロライド(12)1.0MのTHF溶液12.7ml(12.7mmol)を滴下ロートにて15分かけて0℃〜5℃の温度範囲で滴下した。0℃にて30分間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液20mlを加え、次いで、酢酸エチル20mlを使用して3回抽出した。得られた有機層を、硫酸マグネシウムで脱水乾燥後、吸引濾過し、さらに、減圧濃縮を行った。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル、メタノール)で精製し、ジフェニルビニルホスフィンオキシド(13)2.35g(収率81%)を得た。
【0284】
(iii)第三工程
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた100ml四ツ口フラスコに、上記にて得られた1,2−ビス(フェニルホスフィノ)エタン(10)1.21g(4.9mmol)、ジフェニルビニルホスフィンオキシド(13)2.30g(10.2mmol)、トルエン4ml、AIBN0.15g(0.93mmol)を加え80℃にて12時間加熱しながら攪拌した。その後、減圧下で溶媒を留去した後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル、メタノール)で精製し、ホスフィンオキシド(14)2.41g(収率70%)を得た。
【0285】
(iv)第四工程
上記にて得られたホスフィンオキシド(14)2.33g(3.3mmol)を100ml四ツ口フラスコに入れテトラヒドロフラン(THF)10mlに溶解させた。氷冷下、35%過酸化水素水2.0mlを少しずつ滴下した後、室温にて4時間攪拌した。撹拌後(反応後)、30%チオ硫酸水溶液を5ml加え30分攪拌した。得られた混合液についてクロロホルム30mlを使用して3回抽出した。得られた有機層を、硫酸マグネシウムで脱水乾燥後、吸引濾過し、さらに、減圧濃縮を行った。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル、メタノール)で精製し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を1.58g(収率65%)を得た。結果を表4に示す。
【0286】
【表1】

【0287】
【表2】

【0288】
【表3】

【0289】
【表4】

【0290】
鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)配位子が配位してなる希土類金属錯体の合成と該錯体の発光強度
<錯体の合成>
実施例B−1
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた100mlフラスコに実施例A−1で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)1.17g(1.5mmol)とβ−ジケトナト希土類金属錯体としてユーロピウム(III)―トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)(以下、「EuFOD」と略す)3.11g(3mmol)、クロロホルム18mlを仕込み攪拌しながら室温下4時間反応させた。反応後、100mlナス型フラスコに移しそのままエバポレーターで減圧濃縮し、真空ポンプで減圧乾燥した。
【0291】
以上の方法により、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とEuFODがモル比1:2で配位した希土類金属錯体4.23g(収率99%)を得た。
【0292】
得られた希土類金属錯体は、中心金属イオンとしてEu3+を二つ有し、各々のEu3+にホスフィンオキシドの酸素原子が二つ配位し、さらにβ−ジケトナト配位子が三つ配位したものである。赤外吸収スペクトルの結果を表5に示す。
【0293】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がEuFODのEu3+に配位しているか否かの確認>
まず、本実施例で合成した錯体のESI−MSを、質量分析計(JEOL社製)を用いて測定した。その結果、実施例1で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとEuFODの分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとEuFODとで錯体を形成していることを意味する。
【0294】
鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がEuFODのEu3+に配位しているか否かを以下の実験で確認した。
【0295】
まず、実施例B−1で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ赤色の強い発光が認められた。一方、EuFODに前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
【0296】
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表8から、本実施例B−1で合成した希土類金属錯体は、EuFOD単独(参考例1)と比較して、赤色発光強度が5倍以上強いことがわかる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がEuFODのEu3+に配位したことによるものである。
【0297】
これらの測定結果から、実施例B−1で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とEuFODとを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、EuFODの構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属イオンのEu3+に配位していることがわかる。
【0298】
実施例B−2〜B−8
<錯体の合成>
表1〜4に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を用い、実施例B−1の方法に準じて、希土類金属錯体を合成した。得られた希土類金属錯体は、いずれも中心金属イオンとしてEu3+を二つ有し、各々のEu3+にホスフィンオキシドの酸素原子が二つ配位し、さらにβ−ジケトナト配位子が三つ配位したものである。赤外吸収スペクトルの結果を表5に示す。
【0299】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がEuFODのEu3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−1と同様の方法によりESI−MSの測定を行った。その結果、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとEuFODの分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとEuFODとで錯体を形成していることを意味する。
【0300】
次いで、実施例B−2〜B−8で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ赤色の強い発光が認められた。一方、EuFODに前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
【0301】
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表8から、本実施例B−2〜B−8で合成した希土類金属錯体は、EuFOD単独(参考例1)と比較して、赤色発光強度が5倍以上強いことが分かる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がEuFODのEu3+に配位したことによるものである。
【0302】
これらの測定結果から、実施例B−2〜B−8で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とEuFODとを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、EuFODの構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属のEu3+に配位していることがわかる。
【0303】
比較例1〜3
表8に記載のホスフィンオキシド及びβ−ジケトナト希土類金属錯体を表8に記載の割合で用い、実施例B−1の方法に準じて、希土類金属錯体を合成した。比較例1〜2で得られた希土類金属錯体は、いずれも中心金属イオンとしてEu3+を一つ有し、Eu3+にホスフィンオキシドの酸素原子が二つ配位し、さらにβ−ジケトナト配位子が三つ配位したものである。また、比較例3で得られた希土類錯体は、中心金属イオンとしてEu3+を二つ有し、各々のEu3+にホスフィンオキシドの酸素原子が二つ配位し、さらにβ−ジケトナト配位子が三つ配位したものである。なお、比較例2で用いたホスフィンオキシドは、特開2007−308411号公報及び特開2007−308412号公報に記載の方法により得られたものであり、比較例3で用いた大環状テトラホスフィンテトラオキシドは非特許文献2に記載の方法により得られたものである。
【0304】
実施例B−9〜B−13
表1〜4に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を用い、EuFODの代わりに、ユーロピウム(III)―トリス(1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオネート)(以下、「Eu(tfdh)」と略す)を用いた以外は、実施例B−1と同様の方法により希土類金属錯体を合成した。赤外吸収スペクトルの結果を表5に示す。
【0305】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がユーロピウム(III)―トリス(1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオネート)のEu3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−1と同様の方法によりESI−MSの測定を行った。その結果、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとEu(tfdh)の分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとEu(tfdh)とで錯体を形成していることを意味する。
次いで、実施例B−9〜B−13で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ赤色の強い発光が認められた。一方、Eu(tfdh)に前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表9から、本実施例B−9〜B−13で合成した希土類金属錯体は、Eu(tfdh)単独(参考例2)と比較して、赤色発光強度が約10倍以上強いことがわかる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がEu(tfdh)のEu3+に配位したことによるものである。
これらの測定結果から、表1〜4で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とEu(tfdh) とを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、Eu(tfdh)の構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属のEu3+に配位していることがわかる。
【0306】
比較例4
表9に記載のホスフィンオキシド及びβ−ジケトナト希土類金属錯体を表9に記載の割合で用い、実施例B−1の方法に準じて、希土類金属錯体を合成した。
【0307】
実施例B−14〜B−17
表1〜4に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を用い、EuFODの代わりに、ユーロピウム(III)―トリス(4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ヘキサンジオネート)(以下、「Eu(hnhd)」と略す)を用いた以外は、実施例B−1と同様の方法により希土類金属錯体を合成した。赤外吸収スペクトルの結果を表6に示す。
【0308】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がユーロピウム(III)―トリス(4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ヘキサンジオネート)のEu3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−1と同様の方法によりESI−MSの測定を行った。その結果、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとEu(hnhd)の分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとEu(hnhd)とで錯体を形成していることを意味する。
次いで、実施例B−14〜B−17で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ赤色の強い発光が認められた。一方、Eu(hnhd)に前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表10から、本実施例B−14〜B−17で合成した希土類金属錯体は、Eu(hnhd)単独(参考例3)と比較して、赤色発光強度が約2倍以上高いことがわかる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がEu(hnhd)のEu3+に配位したことによるものである。
これらの測定結果から、表1〜4で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とEu(hnhd)とを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、Eu(hnhd)の構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属イオンのEu3+に配位していることがわかる。
【0309】
実施例B−18〜B−20
表1〜4に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を用い、EuFODの代わりに、ユーロピウム(III)―トリス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)(以下、「Eu(hfpd)」と略す)を用いた以外は、実施例B−1と同様の方法により希土類金属錯体を合成した。赤外吸収スペクトルの結果を表6に示す。
【0310】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がユーロピウム(III)―トリス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオネート)のEu3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−18〜B−20で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ赤色の強い発光が認められた。一方、Eu(hfpd)に前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
【0311】
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表11から、本実施例B−18〜B−20で合成した希土類金属錯体は、Eu(hfpd)単独(参考例4)と比較して、赤色発光強度が約5〜6倍以上高いことがわかる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がEu(hfpd)のEu3+に配位したことによるものである。
これらの測定結果から、表1〜4で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とEu(hfpd)とを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、Eu(hfpd)の構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属イオンのEu3+に配位していることがわかる。
【0312】
実施例B−21
<錯体の合成>
EuFODの代わりに、テルビウム(III)−トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)(以下、「TbFOD」と略す)を用いた以外は、実施例B−1と同様の方法により希土類金属錯体を合成した。得られた希土類金属錯体は、中心金属イオンがTb3+である以外は実施例B−1で得られた希土類金属錯体と同じ構造である。赤外吸収スペクトルの結果を表7に示す。
【0313】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がTbFODのTb3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−1と同様の方法によりESI−MSの測定を行った。その結果、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとTbFODの分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとTbFODとで錯体を形成していることを意味する。
【0314】
次いで、実施例B−21で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ緑色の強い発光が認められた。一方、TbFODに前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
【0315】
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表12から、本実施例B−21で合成した希土類金属錯体は、TbFOD単独(参考例5)と比較して、緑色発光強度が18倍以上高いことがわかる。
この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がTbFODのTb3+に配位したことによるものである。
【0316】
これらの測定結果から、実施例B−21で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とTbFODとを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、TbFODの構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属イオンのTb3+に配位していることがわかる。
【0317】
比較例5
表12に記載のホスフィンオキシド及びβ−ジケトナト希土類金属錯体を表12に記載の割合で用い、実施例B−1の方法に準じて、希土類金属錯体を合成した。
【0318】
実施例B−22及びB−23
<錯体の合成>
表1〜4に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を用い、Eu(tfdh) の代わりに、テルビウム(III)―トリス(1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオネート)(以下、「Tb(tfdh)」と略す)を用いた以外は、実施例B−1と同様の方法により希土類金属錯体を合成した。得られた希土類金属錯体は、中心金属イオンがTb3+である以外は実施例B−9又はB−13で得られた希土類金属錯体と同じ構造である。赤外吸収スペクトルの結果を表7に示す。
【0319】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がTb(tfdh)のTb3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−1と同様の方法によりESI−MSの測定を行った。その結果、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとTb(tfdh)の分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとTb(tfdh)とで錯体を形成していることを意味する。
次いで、実施例B−22及びB−23で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ緑色の強い発光が認められた。一方、Tb(tfdh)に前記UVランプを照射しても発光が殆ど認められなかった。
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表13から、本実施例で合成した希土類金属錯体は、Tb(tfdh)単独(参考例6)と比較して、緑色発光強度が10〜17倍以上高いことがわかる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がTb(tfdh)のTb3+に配位したことによるものである。
これらの測定結果から、表1〜4で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とTb(tfdh)とを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、Tb(tfdh)の構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属のTb3+に配位していることがわかる。
【0320】
比較例6
表13に記載のホスフィンオキシド及びβ−ジケトナト希土類金属錯体を表13に記載の割合で用い、実施例B−1の方法に準じて、希土類金属錯体を合成した。
【0321】
実施例B−24〜B−26
表1〜4に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を用い、EuFODの代わりに、テルビウム(III)―トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)(以下、「Tb(tmhd)」と略す)を用いた以外は、実施例B−1と同様の方法により希土類金属錯体を合成した。赤外吸収スペクトルの結果を表7に示す。
【0322】
<鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)の酸素原子がテルビウム(III)―トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)のTb3+に配位しているか否かの確認>
実施例B−1と同様の方法によりESI−MSの測定を行った。その結果、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの分子イオンピークとTb(tmhd)の分子イオンピークを確認できた。これは上記錯体合成反応を行った後も、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドとTb(tmhd)とで錯体を形成していることを意味する。
次いで、実施例B−24〜B−26で合成した希土類金属錯体に簡易型UVランプ(波長365nmの紫外線)を照射したところ緑色の強い発光が認められた。一方、Tb(tmhd)に前記UVランプを照射したが、観察した感じでは発光は上記錯体とほぼ同等であった。
次に下記方法に従い蛍光強度測定試験を行った。表14から、本実施例B−24〜B−26で合成した希土類金属錯体は、Tb(tmhd)単独(参考例7)と比較して、緑色発光強度が約3倍以上高いことがわかる。この結果は鎖状テトラホスフィンテトラオキシドのホスフィンオキシドの酸素原子がTb(tmhd)のTb3+に配位したことによるものである。
これらの測定結果から、表1〜4で合成した鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)とTb(tmhd)とを1:2のモル比で反応させることにより得られた物質(錯体)が、Tb(tmhd)の構造を保持し、鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)のホスフィンオキシド部位が中心金属のTb3+に配位していることがわかる。
【0323】
比較例7
表14に記載のホスフィンオキシド及びβ−ジケトナト希土類金属錯体を表14に記載の割合で用い、実施例B−1の方法に準じて、希土類金属錯体を合成した。
【0324】
<蛍光強度測定試験>
実施例C−1〜C−8
実施例B−1〜B−8及び比較例1〜3で得られた希土類金属錯体を、Eu濃度が2×10−5mol/lとなるように、それぞれフッ素系溶媒(商品名「VertrelXF」、三井デュポンフルオロケミカル社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの各試料の614〜616nm付近の赤色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0325】
なお、前記各試料の発光強度は、EuFODのみ(参考例1)を前記溶媒に溶解させた試料(Eu濃度2×10−5mol/l)の赤色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表8に示す。
【0326】
実施例C−9〜C−13
実施例B−9〜B−13及び比較例4で得られた希土類金属錯体を、Eu濃度が2×10−5mol/lとなるように、それぞれヘキサン(キシダ化学社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの各試料の614〜616nm付近の赤色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0327】
なお、前記各試料の発光強度は、Eu(tfdh)のみ(参考例2)を前記溶媒に溶解させた試料(Eu濃度2×10−5mol/l)の赤色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表9に示す。
【0328】
実施例C−14〜C−17
実施例B−14〜B−17で得られた希土類金属錯体を、Eu濃度が2×10−4mol/lとなるように、トルエン溶媒(キシダ化学社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの前記試料の614〜616nm付近の赤色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0329】
なお、前記各試料の発光強度は、Eu(hnhd)のみ(参考例3)を前記溶媒に溶解させた試料(Eu濃度2×10−4mol/l)の赤色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表10に示す。
【0330】
実施例C−18〜C−20
実施例B−18〜B−20で得られた希土類金属錯体を、Eu濃度が2×10−4mol/lとなるように、トルエン溶媒(キシダ化学社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの前記試料の614〜616nm付近の赤色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0331】
なお、前記各試料の発光強度は、Eu(hfpd)のみ(参考例4)を前記溶媒に溶解させた試料(Eu濃度2×10−4mol/l)の赤色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表11に示す。
【0332】
実施例C−21
実施例B−21及び比較例5で得られた希土類金属錯体を、Tb濃度が2×10−5mol/lとなるように、フッ素系溶媒(商品名「VertrelXF」、三井デュポンフルオロケミカル社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの前記試料の542〜545nm付近の緑色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0333】
なお、前記各試料の発光強度は、TbFODのみ(参考例5)を前記溶媒に溶解させた試料(Tb濃度2×10−5mol/l)の緑色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表12に示す。
【0334】
実施例C−22及びC−23
また、実施例B−22、B−23及び比較例6で得られた希土類金属錯体を、Tb濃度が2×10−5mol/lとなるように、それぞれヘキサン(キシダ化学社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの前記試料の542〜545nm付近の緑色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0335】
なお、前記各試料の発光強度は、Tb(tfdh)のみ(参考例6)を前記溶媒に溶解させた試料(Tb濃度2×10−5mol/l)の緑色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表13に示す。
【0336】
実施例C−24〜C−26
実施例B−24〜B−26及び比較例7で得られた希土類金属錯体を、Tb濃度が2×10−4mol/lとなるように、トルエン溶媒(キシダ化学社製)に溶解させた。波長395nmの光で励起したときの前記試料の542〜545nm付近の緑色発光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0337】
なお、前記各試料の発光強度は、Tb(tmhd)のみ(参考例7)を前記溶媒に溶解させた試料(Tb濃度2×10−4mol/l)の緑色発光強度を100とする相対値で示した。結果を表14に示す。
【0338】
<飽和溶解度測定試験>
実施例C−1〜C−8
VertrelXF(三井デュポンフルオロケミカル社製)を所定量量り取り、実施例B−1〜B−8及び比較例1〜3で得られた希土類金属錯体を大過剰加えた後、室温下2時間攪拌させ、不溶部分を吸引濾過により取り除いた。溶解した部分については、溶媒を減圧留去した後、乾燥させ重量を測定した。溶解した部分から得られた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったVertrelXFの重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表8に示す。
【0339】
実施例C−9〜C−13
デカメチルテトラシロキサン(シリコン系溶媒:米国、Aldrich社製)を所定量量り取り、実施例B−9〜B−13、比較例4の希土類金属錯体を少しずつ加えながら攪拌した。かすみだした時点で加えるのを止めた。かすみだした時点まで加えた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったデカメチルテトラシロキサン溶媒の重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表9に示す。
【0340】
実施例C−14〜C−17
トルエン(キシダ化学社製)を所定量量り取り、実施例B−14〜B−17及び、参考例3の希土類金属錯体を少しずつ加えながら攪拌した、かすみだした時点で加えるのを止めた。かすみだした時点まで加えた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったトルエン溶媒の重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表10に示す。
【0341】
実施例C−18〜C−20
トルエン(キシダ化学社製)を所定量量り取り、実施例B−18〜B−20及び、参考例4の希土類金属錯体を少しずつ加えながら攪拌した、かすみだした時点で加えるのを止めた。かすみだした時点まで加えた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったトルエン溶媒の重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表11に示す。
【0342】
実施例C−21
VertrelXF(三井デュポンフルオロケミカル社製)を所定量量り取り、実施例B−21及び比較例5で得られた希土類金属錯体を大過剰加えた後、室温下2時間攪拌させ、不溶部分を吸引濾過により取り除いた。溶解した部分については、溶媒を減圧留去した後、乾燥させ重量を測定した。溶解した部分から得られた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったVertrelXFの重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表12に示す。
【0343】
実施例C−22及びC−23
デカメチルテトラシロキサン(シリコン系溶媒:米国、Aldrich社製)を所定量量り取り、実施例B−22、B−23及び比較例6の希土類金属錯体を少しずつ加えながら攪拌した。かすみだした時点で加えるのを止めた。かすみだした時点まで加えた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったデカメチルテトラシロキサン溶媒の重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表13に示す。
【0344】
実施例C−24〜C−26
トルエン(キシダ化学社製)を所定量量り取り、実施例B−24〜B−26、比較例7及び、参考例7の希土類金属錯体を少しずつ加えながら攪拌した、かすみだした時点で加えるのを止めた。かすみだした時点まで加えた各希土類金属錯体の重量を、最初に量り取ったトルエン溶媒の重量で割ることにより、溶媒1g当たりの飽和溶解度(mg/溶媒1g)を算出した。結果を表14に示す。
【0345】
<熱安定性試験>
実施例C−1〜C−26
実施例B−1〜B−26、比較例1〜7及び参考例1〜7で得られた希土類金属錯体を5mgずつ量り取り、示差熱熱重量(TG/DTA)同時測定装置(商品名「TG・DTA220」セイコー電子工業製)を用いて該希土類金属錯体の分解温度を測定した。結果は表8〜14に示す。
【0346】
【表5】

【0347】
【表6】

【0348】
【表7】

【0349】
【表8】

【0350】
【表9】

【0351】
【表10】

【0352】
【表11】

【0353】
【表12】

【0354】
【表13】

【0355】
【表14】

【0356】
表8〜14の結果から、本発明の希土類金属錯体(本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位させた希土類金属錯体は、従来の希土類金属錯体に比べ、蛍光強度及び、フッ素系溶媒或いはシリコン系溶媒などの有機溶媒への溶解性が非常に優れていることがわかる。特に、溶解性に関しては、一般式(1)中のl、m及びnが全て奇数(l、m及びnが3又は5)の場合に溶解性が顕著に優れ、従来の希土類金属錯体に比べ、飽和溶解度が2〜30倍以上高いことが分かる。
【0357】
熱安定性についても、本発明の希土類金属錯体は、従来の希土類金属錯体に比べ、分解温度が同等又はそれ以上である。すなわち、本発明の希土類金属錯体は、熱等に対する耐久性に優れていることがわかる。
【0358】
これらの結果から、本発明の希土類金属錯体は、発光強度が高く、有機媒体に対する溶解度が高く、有機媒体中において前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)が希土類金属イオンから解離しにくく、熱等に対する耐久性に優れていることがわかる。
【0359】
従って本発明の希土類金属錯体は、例えば白色LED素子の発光層における発光媒体形成において、フッ素系溶媒、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂などを使用する場合、本発明の希土類金属錯体には好適に作用することができる。
【0360】
例えば特許文献4などの実施例と同様にして、本発明の希土類金属錯体をVertrelXF(フッ素系溶媒:三井デュポンフルオロケミカル社製)などのフッ素系溶媒とフッ素系ポリマーに溶解させた溶液を作成し、LED素子の発光層に収容し、加熱乾燥後発光媒体を作成すれば赤色、白色などの発光が可能なLED素子を製造することができる。
【0361】
蛍光発光インキ組成物
本発明の希土類金属錯体(本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位させた希土類金属錯体)はフッ素系溶媒あるいはシリコン系溶媒に溶解するだけでなくさまざまな溶媒や液状ポリマーに溶解させることができるため蛍光性インキ組成物として利用することができる。その一例を下記に示す。
【0362】
<赤色発光インキ組成物の調製>
実施例D−1
実施例B−1で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して、実施例B−1の希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表15に示す。
【0363】
実施例D−2〜D−8
実施例D−1の方法に従い、実施例B−2〜B−8の赤色発光を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表15に示す。
【0364】
比較例1、2及び参考例1
実施例D−1の方法に従い、比較例1、2及び参考例1の赤色発光を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表15に示す。
【0365】
実施例D−9〜D−13
実施例D−1に従い、実施例B−9〜B−13で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して実施例B−9〜B−13の希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表16に示す。
【0366】
比較例4及び参考例2
実施例D−1の方法に従い、比較例4及び参考例2の赤色発光を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表16に示す。
【0367】
実施例D−14〜D−17
実施例D−1に従い、実施例B−14〜B−17で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して実施例B−14〜B−17の希土類金属錯体:N−メチル2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表17に示す。
【0368】
参考例3
実施例D−1の方法に従い、参考例3の赤色を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表17に示す。
【0369】
実施例D−18〜D−20
実施例D−1に従い、実施例B−18〜B−20で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して実施例B−18〜B−20の希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表18に示す。
【0370】
参考例4
実施例D−1の方法に従い、参考例4の赤色を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表18に示す。
【0371】
<実施例D−1〜D−20、比較例1、2、4及び参考例1〜4のインキ組成物の赤色発光及び視認試験>
得られた作成直後の前記インキ組成物を使用して紙面上にそれぞれ塗布し、1週間室温下にて放置したときのインキの発光の具合について、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射することで調べた。
【0372】
同時に、インキの状態についても、作成直後及び、1週間室温下に放置した後のインキの様子を調べた。
【0373】
さらに実施例D−1〜D−20については、1週間室温下に放置した後のインキを紙面上にそれぞれ塗布し、1週間室温下に放置したときのインキの発光の具合についても調べた。結果を表15、16、17及び18に示す。
【0374】
【表15】

【0375】
【表16】

【0376】
【表17】

【0377】
【表18】

【0378】
なお、発光具合の判定基準は以下の記号で表した。
◎ ・・・非常に強い発光が確認された。
○ ・・・視認するのに十分な発光が確認された。
△ ・・・視認することができるが、発光が弱い。
× ・・・視認することができるが、発光が非常に弱い。
また、インキの状態については以下の記号で表した。
◎ ・・・希土類錯体が沈殿することなく完全に溶解しているため、かすみがない。さらに着色変化もない。
○ ・・・希土類金属錯体の一部が溶解しないためかすみあるいは沈殿が生じる。
× ・・・錯体がほとんど溶解することなくかすみが非常に激しい。
【0379】
(結果)
前記実施例、比較例及び参考例のインキを塗布した紙面は、天然光の下では無色であったが、ブラックライトランプにより紫外光(波長365nmの紫外線)を照射すると塗布した部分に、赤色の発光が確認できた。
【0380】
実施例D−1〜D−20の作成直後におけるインキを塗布した紙面では、1週間室温下に放置した場合でも十分視認できるほどの発光を確認することができると同時に、錯体があからさまに析出することはなかった。
【0381】
さらに前記インキを1週間室温下に放置した後、同様にしてインキを紙面に塗布し状態を観察した。1週間経過した後でも前記同様に十分視認できるほどの発光を確認することができた。また、錯体があからさまに紙面上に析出することもなかった。
【0382】
従って、本発明の希土類金属錯体が析出することは全くなく安定性に優れていることがわかる。
【0383】
インキの状態についても作成直後或いは、1週間室温下に放置した場合でも着色や一部錯体が沈殿するなどの経時変化が全くなく貯蔵安定性に優れていることがわかる。
【0384】
一方、比較例1〜3及び参考例1〜4の希土類金属錯体組成物を塗布した紙面は、天然光の下では無色であったが、ブラックライトランプにより紫外光(波長365nmの紫外線)を照射すると、先と同等に塗布した部分に赤色の発光が認められたものの、実施例D−1〜D−20のインキと比較して初めから発光が弱かったり、或いは徐々に発光が弱まったり、一部希土類金属錯体があからさまに析出するなど安定性に欠けていた。
【0385】
インキの状態については、比較例1〜3、参考例1〜4共に、着色などの経時変化は見られなかったが、希土類金属錯体の一部分或いは、ほとんどが溶解しないなどかすみが生じ、安定性に欠けていることがわかる。
【0386】
従って、表15〜18の結果より、本発明の希土類金属錯体(本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位させた希土類金属錯体)は、従来の希土類金属錯体に比べ、インキ状にした場合でも塗布時の安定性及び貯蔵安定性に優れていることがわかる。
【0387】
<緑色発光インキ組成物の調製>
実施例D−22及びD−23
実施例D−1の方法に従い、実施例B−22、B−23の緑色発光を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表19に示す。
【0388】
比較例6及び参考例6
実施例D−1の方法に従い、比較例6及び参考例6の緑色を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表19に示す。
【0389】
実施例D−24〜D−26
実施例D−1の方法に従い、実施例D−24〜D−26の緑色を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表20に示す。
【0390】
比較例7及び参考例7
実施例D−1の方法に従い、比較例7及び参考例7の緑色を示す希土類金属錯体:N−メチル−2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成した。結果を表20に示す。
【0391】
<実施例D−22〜D−26、比較例6及び7、並びに参考例6及び7のインキ組成物の緑色発光及び視認試験>
得られた作成直後の前記インキ組成物を使用して紙面上にそれぞれ塗布し、1週間室温下にて放置したときのインキの発光具合について、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射することで調べた。
【0392】
同時に、インキの状態についても、作成直後及び、1週間室温下に放置した後のインキの様子を調べた。
【0393】
さらに実施例D−22〜D−26のインキについては、1週間室温下に放置した後のインキを使用して、紙面上にそれぞれ塗布し、1週間室温下に放置したときのインキの発光の具合についても調べた。結果を表19及び20に示す。
【0394】
【表19】

【0395】
【表20】

【0396】
なお、発光具合の判定基準は以下の記号で表した。
◎ ・・・非常に強い発光が確認された。
○ ・・・視認するのに十分な発光が確認された。
△ ・・・視認することができるが、発光が弱い。
× ・・・視認することができるが、発光が非常に弱い。
また、インキの状態については以下の記号で表した。
◎ ・・・希土類錯体が沈殿することなく完全に溶解しているため、かすみがない。さらに着色変化もない。
○ ・・・希土類金属錯体の一部が溶解しないためかすみあるいは沈殿が生じる。
× ・・・錯体がほとんど溶解することなくかすみが非常に激しい。
【0397】
(結果)
前記実施例、比較例及び参考例のインキを塗布した紙面は、天然光の下では無色であったが、ブラックライトランプにより紫外光(波長365nmの紫外線)を照射すると塗布した部分に、緑色の発光が確認できた。
【0398】
実施例D−22〜D−26の作成直後におけるインキを塗布した紙面では、1週間室温下に放置した場合でも十分視認できるほどの発光を確認することができると同時に、錯体が一部紙面上に析出することはなかった。
【0399】
さらに前記インキを1週間室温下に放置した場合についても同様にインキを塗布し状態を観察した。1週間経過した後でも前記同様に十分視認できるほどの緑色の発光を確認することができると同時に、本発明の希土類金属錯体が析出することはなく安定性に優れていることがわかる。
【0400】
インキの状態についても作成直後或いは、1週間室温下に放置した場合でも着色や一部錯体が沈殿するなどの経時変化が全くなく貯蔵安定性に優れていることがわかる。
【0401】
一方、比較例6及び7、並びに参考例6及び7の希土類金属錯体組成物を有するインキ組成物は、一部のインキ組成物でかすかにかすみがかっていたり、紙面上に塗布した場合初めから発光が弱かったり或いは、徐々に発光が弱まったりしていった。
【0402】
従って、表19及び20の結果より、本発明の希土類金属錯体(本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位させた希土類金属錯体)は、従来の希土類金属錯体に比べ、インキ状にした場合でも塗布時の安定性及び貯蔵安定性に優れていることがわかる。
【0403】
さらに、あらかじめ赤色発光インキ或いは緑色発光インキを調製しておき、これらインキを混合することで2色混合型のインキを調製することができる。得られたインキは異なる波長の紫外線照射でそれぞれ異なる色を発光するためセキュリティー性をより高めることができる。下記にその例を示す。
【0404】
<赤色発光インキの調製>
実施例D−27
実施例B−1で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して、実施例B−1の希土類金属錯体:ポリビニルブチラール(米国、Aldrich社製):エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成し紙面上に塗布した。乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると鮮明な赤色発光を示した。
【0405】
実施例D−28
実施例B−13で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して、実施例B−13の希土類金属錯体:ポリビニルブチラール(米国、Aldrich社製):エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成し紙面上に塗布した。乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると鮮明な赤色発光を示した。
【0406】
実施例D−29
実施例B−17で得られた赤色発光を示す希土類金属錯体を使用して、実施例B−17の希土類金属錯体:ポリビニルブチラール(米国、Aldrich社製):エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成し紙面上に塗布した。乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると鮮明な赤色発光を示した。
【0407】
いずれのインキの場合も無色であり、作成直後或いは一週間室温下に放置後でもかすんでいたり、沈殿物が生じるなどの現象は見られなかった。結果を表21に示す。
【0408】
<緑色発光性インキの調製>
実施例D−30
実施例B−22で得られた緑色発光を示す希土類金属錯体を使用して、実施例B−22の希土類金属錯体:ポリビニルブチラール(米国、Aldrich社製):エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成し紙面上に塗布した。乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nm紫外線)を照射すると鮮明な緑色発光を示した。
【0409】
実施例D−31
実施例B−23で得られた緑色発光を示す希土類金属錯体を使用して、実施例B−23の希土類金属錯体:ポリビニルブチラール(米国、Aldrich社製):エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:4:5:90であるインキ組成物を作成し紙面上に塗布した。乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると鮮明な緑色発光を示した。
【0410】
いずれのインキの場合も無色であり、作成直後或いは一週間室温下に放置後でもかすんでいたり、沈殿物が生じるなどの現象は見られなかった。結果を表21に示す。
【0411】
【表21】

【0412】
<2色性混合インキの調製>
実施例D−32
実施例D−27で得られた赤色発光性インキと実施例D−31で得られた緑色発光性インキを重量比率が5:9で混合し2色性インキを調製した。紙面上に塗布し乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、鮮明な黄色に近い色を示した。一方、ブラックライトランプ(波長254nmの紫外線)を照射すると鮮明な緑色発光を示した。
【0413】
実施例D−33
実施例D−28で得られた赤色発光性インキと実施例D−31で得られた緑色発光性インキを重量比率が5:9で混合し2色性インキを調製した。紙面上に塗布し乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、鮮明な黄色に近い色を示した。一方、ブラックライトランプ(波長254nmの紫外線)を照射すると鮮明な緑色発光を示した。
【0414】
実施例D−34
実施例D−29で得られた赤色発光性インキと実施例D−30で得られた緑色発光性インキを重量比率が1:25で混合し2色性インキを調製した。紙面上に塗布し乾燥後、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、鮮明な黄色に近い色を示した。一方、ブラックライトランプ(波長254nmの紫外線)を照射すると鮮明な緑色発光を示した。
【0415】
これら2色混合型インキは無色であり、作成直後或いは一週間室温下に放置後でもかすんでいたり、沈殿物が生じるなどの現象は見られず、貯蔵安定性に優れていることが分かった。
【0416】
実施例の表15〜21の結果が示すように、前記特性を有する本発明の希土類金属錯体を含有する蛍光性インキ組成物は、ブラックライトランプ(波長365nmなどの紫外線)照射により鮮明な赤色、緑色などの色を安定して発光する。さらには経時安定性或いは貯蔵安定性に優れていることがわかる。
【0417】
これら全実施例の結果から、本発明の希土類金属錯体は、発光強度が高く、有機媒体に対する溶解度が高く、有機媒体中において前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)が希土類金属イオンから解離しにくく、熱等に対する耐久性に優れていることがわかる。
【0418】
従って、本発明の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)を配位させた希土類金属錯体は、白色LED用の発光材料、有機EL素子の発光層に供する発光材料或いは、偽造防止などのセキュリティー用途を目的とした蛍光性インキなどに応用、展開することができる。
【符号の説明】
【0419】
1 発光層
2 LEDチップ
3 発光媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

(式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して環を形成していてもよく、l、m及びnはそれぞれ同一または異なって2以上の整数を示す。)
で表される鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項2】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、同一リン原子上のR及びR並びにR及びRが結合して環を形成していてもよく、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す請求項1に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項3】
一般式(1)中、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRが、それぞれ同一又は異なって置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す請求項1又は2に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項4】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す請求項1〜3のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項5】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す請求項1〜4のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項6】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3〜12の整数を示す請求項1〜5のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項7】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基を示し、l、m及びnがそれぞれ同一または異なって3、5、7、9又は11を示す請求項1〜6に記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドを含む希土類金属錯体。
【請求項9】
前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシドの4つの酸素原子のうち、少なくとも1つの酸素原子が希土類金属イオンに配位している請求項8に記載の希土類金属錯体。
【請求項10】
前記希土類金属イオンが、Eu3+、Tb3+、Er3+、Gd3+又はTm3+である請求項9に記載の希土類金属錯体。
【請求項11】
前記希土類金属イオンが、Eu3+又はTb3+である請求項9に記載の希土類金属錯体。
【請求項12】
さらに、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRはそれぞれ同一又は異なって置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。)
で表されるβ−ジケトナト配位子が配位している請求項8〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載の鎖状テトラホスフィンテトラオキシドと、一般式(3)LnLp (3)
(式中、Lnは希土類金属イオンを示し、pは1〜5の整数を示し、Lは前記β−ジケトナト配位子を示し、該pが2以上の整数である場合、該β−ジケトナト配位子同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるβ−ジケトナト希土類金属錯体とを溶媒中で反応させることにより得られる請求項12に記載の希土類金属錯体。
【請求項14】
前記反応における前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)との反応比率((1)/(3))が、モル比で0.3〜0.7である請求項13に記載の希土類金属錯体。
【請求項15】
前記反応における前記鎖状テトラホスフィンテトラオキシド(1)と前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)との反応比率((1)/(3))が、モル比で0.5である請求項13又は14に記載の希土類金属錯体。
【請求項16】
前記β−ジケトナト希土類金属錯体(3)として、一種又は二種以上のβ−ジケトナト希土類金属錯体を反応させる請求項13〜15のいずれかに記載の希土類金属錯体。
【請求項17】
請求項8〜16のいずれかに記載の希土類金属錯体が有機媒体に溶解してなる発光媒体。
【請求項18】
請求項17に記載の発光媒体を有する白色LED素子。
【請求項19】
請求項8〜16のいずれかに記載の希土類金属錯体を含む蛍光性インキ組成物。
【請求項20】
請求項8〜16のいずれかに記載の希土類金属錯体を含む発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−95514(P2010−95514A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205616(P2009−205616)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】