説明

鎖錠装置の係止構造

【課題】キャビネット製造工程から係止金具溶接工程を無くし、係止部の溶接部位に生じる塗装剥離や塗装剥離に由来する錆の問題を解消した鎖錠装置の係止構造を提供すること。
【解決手段】防水防塵キャビネット本体1の開口部1aの周縁部よりキャビネット扉2に対して垂直方向に立ち上げた立上辺5aと、立上辺5aの端部をキャビネット扉と平行方向に折り返した折返辺5bとからなる水切り部5を備えたキャビネットであって、該折返辺5bの一部を外側に延出し扉内側に設けた鎖錠装置4の鎖錠部3を係止する係止部6を形成した。
【選択図】図1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器を収納するキャビネット扉に用いられる鎖錠装置の係止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気機器を収納するキャビネットでは、キャビネット扉に設けられた鎖錠装置や、前記鎖錠装置の鎖錠部を係止する為にキャビネット本体の開口部に設けられた係止部により、キャビネット本体の開口部が狭められ、キャビネット本体の機器収納スペースが圧迫される問題があった。これに対し、本件出願人は、キャビネット本体の開口部に周設した水切り部に係止部を設け、扉に設けた鎖錠装置の鎖錠部を該係止部に係止することにより前記問題解決を図る技術を開示している(特許文献1)。
【0003】
従来の係止部は、図13及び図14に示すように、コ字状に折り曲げた係止金具8をキャビネット本体1の開口部に周設した水切り部5に溶接して形成されていたが、部品点数が多い分組付作業性に劣るという問題があった。また、溶接時に皮膜が生じるため、当該部分では溶接後に行われる塗装の付着性が悪くなり塗装が剥がれ易く、塗装が剥がれた部分から錆が発生する問題があった。更に、鎖錠装置の鎖錠部が係止部に係止される際に生じる金属の擦れ音の防止及び、金属同士が擦れることによる塗装剥離の防止が求められていていた。
【特許文献1】特開2003−328604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記課題解決を目的として、キャビネット製造工程から係止金具溶接工程を無くし、係止部の溶接部位に生じる塗装剥離や塗装剥離に由来する錆の問題を解消した鎖錠装置の係止構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明の鎖錠装置の係止構造は、キャビネット本体の開口部の周縁部よりキャビネット扉に対して垂直方向に立ち上げた立上辺と、立上辺の端部をキャビネット扉と平行方向に折り返した折返辺とからなる水切り部を備えたキャビネットであって、該折返辺の一部を外側に延出し、扉内側に設けた鎖錠装置の鎖錠部を係止する係止部を形成したことを特徴とするものである。
なお、請求項2に記載のように前記鎖錠装置はクランプ錠またはロッド棒であることが好ましい。
【0006】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の鎖錠装置の係止構造において、前記係止部を樹脂部材で被覆し、係止部には樹脂部材を係止可能とする孔部を形成し、樹脂部材の内部には前期孔部に係止される突起を形成したことを特徴とするものである。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項3記載の鎖錠装置の係止構造において前記樹脂部材は袋状に形成され、該樹脂部材を係止部の延出方向から水平に係止部に被覆したことを特徴とするものである。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項5記載の鎖錠装置の係止構造において前記樹脂部材の扉側に位置する面に溝部を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る鎖錠装置の係止構造では、キャビネット本体の開口部に周設した水切り部を構成する折返辺の一部を延出して水切り部と係止部とを一体形成構造としたことにより、溶接工程が不要となり、更に、係止部の溶接部位に生じる塗装剥離や塗装剥離に由来する錆の問題が解消可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2記載の鎖錠装置の係止構造において、前記係止部を樹脂部材で被覆したことにより、鎖錠装置の鎖錠部が係止部に係止される際に生じる金属の擦れ音を防止することができる。また、係止部には樹脂部材を係止可能とする孔部を形成し、樹脂部材の内部には前記孔部に係止される突起を形成したことにより、係止部を被覆した樹脂部材を該位置に係止可能とした。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、樹脂部材を袋状に形成し、該樹脂部材を係止部の延出方向から水平に、即ち鎖錠装置の鎖錠部の摺動方向と垂直に、樹脂部材に被覆することにより、鎖錠部の摺動に引き摺られて樹脂部材が外れてしまう問題を防止できる。
【0012】
なお、硬質樹脂は弾性変形に乏しいため係止部の被覆部材として作業性に欠ける欠点があるが、請求項5に記載のように、硬質樹脂部材に溝部を形成したことにより硬質樹脂が撓み易くなり、係止部の被覆部材として採用可能となった。また、鎖錠部が摺動した時に溝部に引っ掛かることがないので、樹脂部材が係止部より外れることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明に係る「鎖錠装置の係止構造」を備えたキャビネットの一実施形態である防水防塵キャビネットの全体図を示している。図2は解錠状態における本発明の鎖錠装置の係止構造の説明図を示し、図3には図2の側面図を示している。なお、図2及び図3では、説明の便宜のために扉を省略して図示している。
【0014】
1は防水防塵キャビネット本体であり、1aは防水防塵キャビネット本体の開口部である。開口部1aの周縁部には、閉じた状態のキャビネット扉2と垂直方向に立ち上げた立上辺5aと立上辺5aの端部を閉じた状態のキャビネット扉2と平行方向に折り返した折返辺5bとからなる水切り部5が周設され、折返辺5bの一部が外側に延出した係止部6が形成されている。2は防水防塵キャビネット本体1の開口部1aを開閉するキャビネット扉であり、扉2内側には鎖錠部3を有する鎖錠装置4が設けられている。
【0015】
鎖錠装置4はハンドル4aを操作することによりロッド棒4bを上下動させて施錠・解錠を行うものである。すなわち、図2及び図3に示すように、解錠状態では鎖錠部3が係止部6の下からハンドル4a側へ移動して係止状態が解かれ、図4に示すように施錠状態では鎖錠部3が係止部6の下に入り込むことにより係止される。なお、図1〜3には、鎖錠装置4がロッド棒であって、ロッド棒の先端に形成された鎖錠部3が係止部6の下に入り込んで係止する係止構造の説明図を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図5に示すような鎖錠装置4がロッド棒4bを有さないクランプ錠であって、クランプ片4cにより係止部6に係止される構造としても良い。この場合、係止部6は鎖錠装置4の扉の取り付け位置に対応する水切り部5に設けておくものとする。
【0016】
係止部6を詳細に説明するために、図6に本発明を構成する係止部を有する防水防塵キャビネット本体の全体図を示し、図7に図6の係止部拡大図を示している。
【0017】
図6及び図7に示すように、本発明の係止部6は、水切り部5の折返辺5bの一部を延出して折返辺5bと一体形成されている。当該係止部6は、折返辺5bから垂直よりも緩やかな角度6aを持たせて延出させ、その後折返辺5bに対して90度の角度を有するように形成されている。当該構造とすることにより、扉を開閉操作する際の不意の外力に起因する応力集中による係止部6の変形を防止することができる。
【0018】
図8に示すように、本発明では、鎖錠部3と係止部6との係止時に生じる金属の擦れ音の発生防止を目的として、係止部6を樹脂部材7で被覆することが好ましい。このため、図6及び図7に示すように、係止部6には四角状の孔部6bを2個形成し、樹脂部材7を係止可能な構造としている。なお、孔部6bは樹脂部材7を係止可能な構造であればよく、四角状の孔部6bを2個に限定されるものではない。
【0019】
図9〜図12には前記の樹脂部材7を詳細に説明する図を示している。図9及び図10に示すように、樹脂部材7は、前記係止部6に被覆可能な袋状に形成されている。図11及び図12に示すように、樹脂部材7内部には前記の係止部孔部6bに係止される突起7bが形成されている。当該樹脂部材7は、係止部6の延出方向と水平な方向、即ち鎖錠装置4の鎖錠部3の摺動方向と垂直な方向から、樹脂部材7を被覆する構造を有している。これらの構造によって、樹脂部材7内部の突起7bが係止部6の孔部6bに係止され、樹脂部材7を該位置に係止可能となり、更に、鎖錠部3の摺動により樹脂部材7が外れてしまう問題も防止される。また、図11に示すように、樹脂部材7の端部7eを傾斜させて鎖錠装置4がロッド棒の場合に鎖錠部3を誘い込み易い構造としている。なお、係止部6の孔部6bが切り起こされた突起等であり、樹脂部材7の内部の凹部と対応するものとしてもよい。
【0020】
樹脂部材7はポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等硬質樹脂から形成されたものとすることが好ましい。硬質樹脂を用いることにより、耐候性や難燃性の向上を図ることが可能となる。なお、硬質樹脂には弾性変形に乏しいという欠点があるが、本発明では、図9に示すように、樹脂部材7を係止部6に被覆する際の挿入口7cの反対側に貫通孔7dを設け、更に、挿入口7cの挿入方向側に沿って溝部7aを2個設けることにより、硬質樹脂を撓み易くしている。なお、該溝部7aは樹脂部材7を係止部に被覆した時に、扉側に位置する面に形成するものとする。これにより、鎖錠部3が摺動した時に溝部7aに引っ掛かることがないので、樹脂部材7が係止部6より外れることがない。
【0021】
なお、電気機器を収納する防水防塵キャビネットでは、扉2内面において、キャビネット本体1の水切り部5の折返辺5bに対応する位置に、図15に示すように防水防塵ガスケット9のキャビネット開口部1a内側に導電布10を被せた、防水防塵・電磁シールド手段を設けることが一般的であるが、電磁シールド効果を更に高めるためには、図16に示すように、電磁シールドガスケット11と防水防塵ガスケット9から構成される防水防塵・電磁シールド手段であって、電磁シールドガスケット11が防水防塵ガスケット9よりも高硬度の素材からなるものとし、電磁シールドガスケット11が防水防塵ガスケット9よりも厚みのある構造とすることが好ましい。電磁シールドガスケット11は、締め付け荷重が大きいほど電磁シールド性能を発揮する性質を有し、防水防塵ガスケット9は小さな締め付け荷重で高いシール性が得られるため、シール性と締め付け操作性の観点から前記2段構造とすることが好ましい。なお、図16に示すように、扉2には電磁シールドガスケット11がキャビネット開口部1a内側に配置され、防水防塵ガスケットをキャビネット開口部1a外側に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の鎖錠装置の係止構造を有する防水防塵キャビネットの全体図である。
【図2】解錠状態における本発明の鎖錠装置の係止構造の説明図である。
【図3】図2の側面図である。
【図4】施錠状態における本発明の鎖錠装置の係止構造の説明図である。
【図5】ロッド棒を有しない鎖錠装置の例を示す側面図である。
【図6】本発明を構成する係止部を有する防水防塵キャビネット本体の全体図である。
【図7】図4の係止部拡大図である。
【図8】図5の係止部に樹脂部材を被覆した状態図である。
【図9】樹脂部材の全体図である。
【図10】樹脂部材の全体図である。
【図11】樹脂部材の前面図である。
【図12】図9のA−A断面図である。
【図13】従来の係止部を有する防水防塵キャビネット本体の全体図である。
【図14】図11の係止部拡大図である。
【図15】従来の防水防塵・電磁シールド構造の説明図である。
【図16】本発明で好ましい防水防塵・電磁シールド構造の説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 防水防塵キャビネット本体
1a 開口部
2 扉
3 鎖錠部
4 鎖錠装置
5 水切り部
5a 立上辺
5b 折返辺
6 係止部
6a 係止部の立ち上がり角
7 樹脂部材
8 コ字状に折り曲げた係止金具
9 防水防塵ガスケット
10 導電布
11 電磁シールドガスケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネット本体の開口部の周縁部よりキャビネット扉に対して垂直方向に立ち上げた立上辺と、立上辺の端部をキャビネット扉と平行方向に折り返した折返辺とからなる水切り部を備えたキャビネットであって、該折返辺の一部を外側に延出し、扉内側に設けた鎖錠装置の鎖錠部を係止する係止部を形成したことを特徴とするキャビネットの鎖錠装置の係止構造。
【請求項2】
前記鎖錠装置が、クランプ錠またはロッド棒であることを特徴とする請求項1記載の鎖錠装置の係止構造。
【請求項3】
前記係止部を樹脂部材で被覆し、係止部には樹脂部材を係止可能とする孔部を形成し、樹脂部材の内部には前記孔部に係止される突起を形成したことを特徴とする請求項1または2記載の鎖錠装置の係止構造。
【請求項4】
前記樹脂部材は袋状に形成され、該樹脂部材を係止部の延出方向から水平に係止部に被覆したことを特徴とする請求項3記載の鎖錠装置の係止構造。
【請求項5】
前記樹脂部材の扉側に位置する面に溝部を形成したことを特徴とする請求項5記載の鎖錠装置の係止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−287245(P2009−287245A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139475(P2008−139475)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000227401)日東工業株式会社 (374)
【Fターム(参考)】