説明

鏡筒、露光装置及び光学素子の検出方法並びにデバイスの製造方法

【課題】 光学性能の変化した光学素子を容易に特定可能な鏡筒及び光学素子の検出方法、光学系の光学特性をスループットの低下させずに補正可能な露光装置、高集積度のデバイスを歩留まりよく製造可能なデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】 照明光学系の瞳面に配置される固定レチクルブラインド28Bの近傍に、カバーレンズ32を、光軸を中心に回転可能に配置する。そのカバーレンズ32に曇り部分及び硝材の劣化部分等の透過率が低下した部分が、露光光の露光領域外となるように、回転させる。これにより、カバーレンズ32の光学性能の変化が、照明光学系の光学特性に与える影響を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数の光学素子を収容する鏡筒に関するものである。また、例えば半導体素子、液晶表示素子、薄膜磁気ヘッド等のデバイスや、そのデバイスを製造するためのマスクの製造工程におけるリソグラフィ工程で使用される露光装置に関するものである。さらに、光学系を構成する複数の光学素子のうちで、光学性能の変化した光学素子を検出する光学素子の検出方法に関するものである。加えて、リソグラフィ工程をデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の露光装置は、所定の露光光で、パターンが形成された、レチクル、フォトマスク等のマスクを照明する照明光学系と、そのマスクのパターンをウエハ、ガラスプレート等の基板上に転写する投影光学系とを有している。これらの照明光学系及び投影光学系は、複数のレンズ、ミラー等の光学素子で構成されており、筒状の複数の鏡筒ユニットを連結した鏡筒内に収容されている。
【0003】
この露光装置としては、マスク上のパターンを、ほぼ正方形状の露光光で照明して、感光性材料の塗布された基板上の各ショット領域に転写するステップ・アンド・リピート方式の一括露光型の露光装置が多用されている。また、近年では、マスク上のパターンを長方形状、円弧状等のスリット状の露光光で照明しつつ、マスクと基板とを投影光学系に対して同期走査して、マスク上のパターンを基板上に逐次露光するステップ・アンド・スキャン方式の走査露光型の露光装置も多用されるようになってきた。
【0004】
この走査露光型の露光装置では、一括露光型の露光装置に比べて、同等の開口数の投影光学系でもってより大きなパターンの転写を行うことができる。この一方で、この走査露光型の露光装置では、露光光がその光軸に対して回転非対称性を有した状態でレンズ等に照射されることになる。このため、照射エネルギーの吸収熱によりレンズの温度分布が不均一となり、レンズが回転非対称に熱変形したり、硝材の屈折率分布が回転非対称に変動したりすることがある。これにより、投影光学系の収差が徐々に変化することになるが、極めて高解像力でかつ高精度な露光が要求されるような条件下では、この投影光学系の収差変動が許容できなくなるおそれがある。
【0005】
このため、走査露光型の露光装置において、投影光学系を収容する鏡筒を、上部鏡筒と下部鏡筒とに分割し、上部鏡筒を、軸受を介して下部鏡筒上に露光光の光軸を中心にして回転自在に載置した構成も開発されてきている。この露光装置では、投影光学系の一部を構成し上部鏡筒に保持される第1レンズが、投影光学系の他の一部を構成し下部鏡筒に保持される他のレンズ群に対して、光軸を中心に相対回転されるようになっている。そして、第1レンズを、必要に応じて回転させることにより、第1レンズを通過する露光光の照射エネルギー分布を時間平均で光軸周りに回転対称な状態として、投影光学系に発生する収差変動を小さくするようになっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−213611号公報(第4−5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、露光装置は、クリーンルームに、チャンバ内に収容された状態で設置される。しかし、クリーンルームといえども、そのクリーンルームの雰囲気中には、極微量のアンモニウム塩、硫酸塩、硝酸塩が気体状態で存在している。これらの塩類が、チャンバ内、さらに鏡筒内に侵入すると、レンズ等の光学素子の表面に付着して、その光学素子の表面にわずかな曇りを生じさせることがある。
【0007】
また、露光装置の露光光としては、紫外線、遠紫外線等の高エネルギーの光線が使用される。このような高エネルギーの光線がレンズ等に対して、長期間にわたって、連続的にまたは断続的に照射されると、レンズ等の硝材が部分的にわずかながら劣化することがある。
【0008】
このように、光学素子の表面に曇りが生じたり、硝材に劣化が生じたりすると、その光学素子の透過率や反射率といった光学性能が変化することになる。特に、半導体素子では、近年、回路パターンの微細化が著しく、光学素子における光学性能のわずかな変化であっても露光精度への影響が無視できないものとなりつつある。
【0009】
また、露光装置の光学系は、いずれも多数の光学素子で構成されており、しかも前述の曇りや硝材の劣化は非常にゆっくりと進行していく。ここで、光学系における光学性能の変化が許容の範囲を超えた時に、どの光学素子がどのようにその光学性能が変化したのかを特定することは困難な作業となる。すなわち、例えば、多数の光学素子について、1枚あるいは複数枚を交換して、交換の都度、実際にテストパターン等を焼き付るなどして、露光状態の変化を観察して、光学性能の変化した光学素子を検出している。このような検出方法では、その光学素子の交換の度に露光装置を停止せざるを得ず、露光装置のスループットが大きく低下することになる。
【0010】
そこで、このような光学系の光学性能の変化に対しては、その光学性能の変化を打ち消すようなフィルタを作成して、そのフィルタを光学系に装着することによって対処しているのが現状である。しかも、光学性能の変化が複雑になるほど、このフィルタの作成も容易なものではなく多大な時間がかかる。
【0011】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的としては、光学性能の変化した光学素子を容易に特定することのできる鏡筒及び光学素子の検出方法を提供することにある。また、その他の目的として、光学系における光学特性の補正を、スループットの低下を抑制しつつ、容易に行うことができる露光装置を提供することにある。さらに、その他の目的として、高集積度のデバイスを歩留まりよく製造することのできるデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、複数の光学素子を収容する鏡筒において、前記複数の光学素子のうちで、光学性能が変化した光学素子を特定するために、前記複数の光学素子のうち、少なくとも1つの光学素子を回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させる変位機構を有することを特徴とするものである。
【0013】
この請求項1に記載の発明では、鏡筒内に収容される複数の光学素子の少なくとも1つの光学素子を回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させることができるようになっている。このとき、所定の光学素子に曇りや硝材の劣化が生じていれば、その光学素子を任意の量だけ回転または移動させると、その光学素子を含む複数の光学素子からなる光学系に露光光を照射したときに、その光学系の光学特性に変化が生じることになる。
【0014】
このように、所定の光学素子を回転または移動させて、通常の露光光を照射することにより、容易に光学性能の変化した光学素子を検出することができるとともに、その光学素子における光学性能の変化状態を検出することが可能となる。このため、光学系の光学特性を補正するにあたって、その光学素子を交換あるいは清浄するにしても、迅速に行うことができ、鏡筒を搭載した露光装置におけるスループットの低下を抑制することができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記変位機構は、前記複数の光学素子で構成される光学系の瞳面の近傍に配置された光学素子を回転または移動させるものであることを特徴とするものである。
【0016】
複数の光学素子で構成される光学系では、その瞳面の近傍に配置される光学素子に光学性能の変化が生じたときに、光学系全体の光学特性の変化に与える影響が大きくなる。この請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明の作用に加えて、光学系における光学特性の変化を効率的に検出することができるとともに、その変化を補正することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記変位機構は、光学性能が変化した前記光学素子を、前記複数の光学素子で構成される光学系の光学特性に及ぼす影響を低減すべく回転または移動ことを特徴とするものである。
【0018】
この請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の発明の作用に加えて、光学性能の変化した光学素子を回転または移動させて、光学系の光学特性に対する光学素子における光学性能の変化の影響を許容範囲内となるようにすることができる。これにより、鏡筒を搭載する露光装置を、ほとんど停止することなく、光学系における光学特性の変化を許容範囲内となるように補正することができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の発明において、内部を所定の雰囲気に調整する雰囲気調整機構を有することを特徴とするものである。
【0020】
雰囲気調整機構を有する鏡筒においては、鏡筒を分解するなどして、鏡筒内の雰囲気を変化させると、再び鏡筒内の雰囲気を安定化させるに非常に時間がかかることがある。この請求項4に記載の発明では、場合によっては、鏡筒を分解することなく、光学系の光学特性を補正することができるため、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の発明の作用を特に効率よく発揮させることができる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明は、露光光で、パターンが形成されたマスクを照明する照明光学系と、マスクのパターンを基板上に転写する投影光学系とを有する露光装置において、前記照明光学系及び前記投影光学系の少なくとも一方を構成する複数の光学素子を、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の鏡筒に収容したことを特徴とするものである。
【0022】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記変位機構は、前記複数の光学素子のうち、前記露光光が照射される領域の透過率または反射率が低下した光学素子を回転または前記光軸と交差する面内で移動させることを特徴とするものである。
【0023】
この請求項5及び6に記載の発明では、光学系における光学特性の補正を、スループットの低下を抑制しつつ、容易に行うことが可能となる。
また、請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の発明において、前記変位機構は、前記照明光学系の瞳面またはその近傍、あるいは前記投影光学系の瞳面またはその近傍における前記露光光の強度分布に基づいて、透過率または反射率が低下した光学素子を回転または移動させることを特徴とするものである。
【0024】
この請求項7に記載の発明では、請求項5または6に記載の発明の作用に加えて、露光領域内の照度分布を調整することができ、光学系の光学特性の補正を迅速に行うことができる。
【0025】
また、請求項8に記載の発明は、請求項5または6に記載の発明において、記変位機構は、前記基板上に照射される露光領域内の照度分布に基づいて、透過率または反射率の低下した光学素子を回転または移動させることを特徴とするものである。
【0026】
この請求項8に記載の発明では、請求項5または6に記載の発明の作用に加えて、透過率または反射率の低下した所定の光学素子を回転または移動させることにより、他の透過率または反射率の低下した光学素子の影響を相殺して、基板上に照射される露光領域内の照度分布を所定の状態に調整することが可能となる。これにより、透過率または反射率の低下した所定の光学素子自身を、光学系の光学特性の補正フィルタとして使用することができる。
【0027】
また、請求項9に記載の発明は、光学系を構成する複数の光学素子のうち、光学性能の変化した光学素子を検出する光学素子の検出方法において、前記複数の光学素子のうち、少なくとも1つの光学素子を回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させ、所定の位置に配置された受光器で、前記回転または移動の前後における前記光学素子を介した光の受光結果に基づいて前記光学性能の変化した光学素子を検出することを特徴とするものである。
【0028】
この請求項9に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用と同様の作用が奏される。
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、前記少なくとも1つの光学素子を、回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させつつ、前記光を前記光学素子に照射し、前記光学素子を介した前記光を前記受光器で受光することを特徴とするものである。
【0029】
この請求項10に記載の発明によれば、前記請求項9に記載の発明の作用に加えて、露光光を照射しながら、所定の光学素子を回転または移動させて、その光学素子を通過する露光光を連続的に受光することにより、光学性能の変化した光学素子とその状態をさらに迅速に検出することができる。
【0030】
また、請求項11に記載の発明は、リソグラフィ工程を含むデバイスの製造方法において、前記リソグラフィ工程は、請求項5〜8のうちいずれか一項に記載の露光装置を用いることを特徴とするものである。
【0031】
この請求項11に記載の発明によれば、高集積度のデバイスを歩留まりよく製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上詳述したように、本発明によれば、光学性能の変化した光学素子を容易に特定可能な鏡筒及び光学素子の検出方法を提供することができる。また、スループットの低下を抑制しつつ、光学系における光学特性を容易に補正可能な露光装置を提供することができる。さらに、高集積度のデバイスを歩留まりよく製造可能なデバイスの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1には、本発明の鏡筒に収容された照明光学系を具備する露光装置の一実施形態に係る露光装置10の全体構成が概略的に示されている。
【0034】
この露光装置10は、マスクとしてのレチクルRと基板としてのウエハWとを一次元方向に同期移動しつつ、レチクルRに形成された回路パターンを、投影光学系PLを介してウエハW上の各ショット領域に転写する、ステップ・アンド・スキャン方式の走査型露光装置、いわゆるスキャニング・ステッパである。なお、ここでは、図1における紙面内左右方向であるY軸方向とする。
【0035】
露光装置10は、光源12、この光源12からの露光光によりレチクルRを照明する照明光学系IOP、露光装置本体10Aとからなっている。この露光装置本体10Aは、レチクルRを保持するレチクルステージRST、レチクルRから射出される露光光(パルス紫外光)をウエハW上に投射する投影光学系PL、ウエハWを保持するウエハステージWSTを備えている。さらに、露光装置本体10Aは、照明光学系IOPの一部、レチクルステージRST、投影光学系PL、及びウエハステージWST等を保持する本体コラム14、本体コラム14の振動を抑制あるいは除去する防振ユニット、及びこれらの制御系等を備えている。
【0036】
光源12としては、ここでは波長192〜194nmの間で酸素の吸収帯を避けるように狭帯化されたパルス紫外光を出力するArFエキシマレーザ光源が用いられている。この光源12の本体は、半導体製造工場のクリーンルーム内の床面FD上に設置されている。光源12には、図示しない光源制御装置が併設されており、この光源制御装置では、射出される露光光の発振中心波長及びスペクトル半値幅の制御、パルス発振のトリガ制御、レーザチャンバ内におけるガスの状態の制御等を行うようになっている。
【0037】
なお、光源12として、波長248nmのパルス紫外光を出力するKrFエキシマレーザ光源あるいは波長157nmのパルス紫外光を出力するFレーザ光源等用いてもよい。また、光源12をクリーンルームよりクリーン度が低い別の部屋(サービスルーム)、あるいはクリーンルームの床下に設けられるユーティリティスペースに設置しても構わない。
【0038】
光源12は、図1では作図の都合上その図示が省略されているが、実際には遮光性のベローズ及びパイプを介してビームマッチングユニットBMUの一端(入射端)に接続されている。このビームマッチングユニットBMUの他端(出射端)は、内部にリレー光学系を内蔵したパイプ16を介して照明光学系IOPの後述する第1部分照明光学系IOP1に接続されている。
【0039】
照明光学系IOPは、第1部分照明光学系IOP1と、第2部分照明光学系IOP2との2部分から構成されている。第1部分照明光学系IOP1は、床面FDに載置され、第2部分照明光学系IOP2は本体コラム14の一部を構成する第2の支持コラム52によって支持されている。
【0040】
第1部分照明光学系IOP1は、第1照明系ハウジング26A内に収容され、可変減光器、ビーム整形光学系、オプティカルインテグレータとしての第1フライアイレンズ系、振動ミラー、オプティカルインテグレータとしての第2フライアイレンズ系、照明系開口絞り板及び可動レチクルブラインド28A等を備えている。
【0041】
また、第2部分照明光学系IOP2は、第2照明系ハウジング26B内に所定の位置関係で収納され、固定レチクルブラインド28B、複数のレンズまたはミラー及びメインコンデンサレンズ等を備えている。
【0042】
可変減光器は、パルス紫外光のパルス毎の平均エネルギを調整するためのもので、ここでは、減光率が異なる複数のNDフィルタを回転可能な円盤上に所定角度間隔で配置したもの(ターレット)が用いられ、円盤の回転角度を調整することにより、減光率を段階的に変更できるようになっている。
【0043】
ビーム整形光学系は、可変減光器によって所定のピーク強度に調整されたパルス紫外光の断面形状を、そのパルス紫外光の光路後方に設けられたダブルフライアイレンズ系の入射端を構成する第1フライアイレンズ系の入射端の全体形状と相似になるように整形して、その第1フライアイレンズ系に効率よく入射させるものである。
【0044】
第1フライアイレンズ系としては、ここではターレット、すなわち回転可能な円盤上にフライアイレンズが取り付けられたものが用いられている。従って、円盤を回転させることにより、フライアイレンズをパルス紫外光の光路上に正確に位置させることができるようになっている。振動ミラーは、被照射面(レチクル面又はウエハ面)に生じる干渉縞や微弱なスペックルを平滑化するためのものである。
【0045】
第1、第2フライアイレンズ系は、露光光の強度分布を一様化するためのものである。そして、前記第2フライアイレンズ系の射出面の近傍に、円板状部材から成る照明系開口絞り板が配置されている。この照明系開口絞り板には、ほぼ等角度間隔で、例えば通常の円形開口より成る開口絞り、小さな円形開口より成りコヒーレンスファクタであるσ値を小さくするための開口絞り、輪帯照明用の輪帯状の開口絞り、及び変形光源法用に例えば4つの開口を偏心させて配置して成る変形開口絞り等が配置されている。そして、いずれかの開口絞りが、第2フライアイレンズ系の射出面に位置させられるようになっている。照明系開口絞り板の後方の露光光の光路上に、後述する可動レチクルブラインド28Aが配置されている。
【0046】
第2照明系ハウジング26B内に収納された複数のレンズまたはミラー、コンデンサレンズの少なくとも1つが、非露光動作中に、その光軸が他のレンズまたはミラーの光軸に対して可動に構成されている。
【0047】
以上の構成において、第1フライアイレンズ系の入射面、第2フライアイレンズ系の入射面、可動レチクルブラインド28Aの可動ブレードの配置面、レチクルRのパターン面は、光学的に互いに共役に設定されている。そして、第1フライアイレンズ系の射出面側に形成される光源面、第2フライアイレンズ系の射出面側に形成される光源面、投影光学系PLのフーリエ変換面(射出瞳面)は、光学的に互いに共役に設定され、ケーラー照明系となっている。
【0048】
図1に戻り、前記本体コラム14は、ベースプレートBP上に設けられた複数本(ここでは4本)の支持部材40A〜40D(但し、紙面奥側の支柱40C、40Dは図示省略)及びこれらの支持部材40A〜40Dの上部にそれぞれ固定された防振ユニット42A〜42D(但し、図1においては紙面奥側の防振ユニット42C、42Dは図示省略)を介してほぼ水平に支持された鏡筒定盤44と、鏡筒定盤44上に設けられた第1及び第2の支持コラム48、52とを備えている。
【0049】
鏡筒定盤44は鋳物等で構成されており、その中央部に平面視円形の開口が形成され、その内部に投影光学系PLがその光軸方向をZ軸方向として上方から挿入されている。投影光学系PLの鏡筒部の外周部には、その鏡筒部に一体化されたフランジFLGが設けられている。また、このフランジFLGは、投影光学系PLを鏡筒定盤44に対して点と面とV溝とを介して3点で支持するいわゆるキネマティック支持マウントを構成している。
【0050】
第1の支持コラム48は、鏡筒定盤44の上面に投影光学系PLを取り囲んで植設された4本の脚58(紙面奥側の脚は図示省略)と、これら4本の脚58によってほぼ水平に支持されたレチクルベース定盤60とを備えている。同様に、第2の支持コラム52は、鏡筒定盤44の上面に、第1の支持コラム48を取り囲む状態で植設された4本の支柱62(紙面奥側の支柱は図示省略)と、これら4本の支柱62によってほぼ水平に支持された天板64とによって構成されている。この第2の支持コラム52の天板64によって、第2部分照明光学系IOP2が支持されている。
【0051】
前記レチクルステージRSTは、本体コラム14を構成する第1の支持コラム48を構成するレチクルベース定盤60上に配置されている。レチクルステージRSTは、例えば磁気浮上型の2次元リニアアクチュエータ等から成るレチクルステージ駆動系によって駆動され、レチクルRをレチクルベース定盤60上でY軸方向に大きなストロークで直線駆動するとともに、X軸方向とθz方向(Z軸回りの回転方向)に関しても微小駆動が可能な構成となっている。
【0052】
レチクルステージRSTの一部には、その位置や移動量を計測するための位置検出装置であるレチクルレーザ干渉計70からの測長ビームを反射する移動鏡72が取り付けられている。レチクルレーザ干渉計70は、レチクルベース定盤60に固定され、投影光学系PLの上端部側面に固定された固定鏡Mrを基準として、レチクルステージRSTのXY面内の位置(θz回転を含む)を例えば、0.5〜1nm程度の分解能で検出するようになっている。
【0053】
レチクルレーザ干渉計70によって計測されるレチクルステージRST(すなわちレチクルR)の位置情報(または速度情報)に基づいて、レチクルステージRSTを制御する。
【0054】
投影光学系PLとしては、ここでは、物体面(レチクルR)側と像面(ウエハW)側の両方がテレセントリックで円形の投影視野を有し、石英や螢石を光学硝材とした屈折光学素子(レンズ素子)のみから成る1/4、1/5、または1/6縮小倍率の屈折光学系が使用されている。このため、レチクルRに露光光が照射されると、レチクルR上の回路パターン領域のうちの露光光によって照明された部分からの結像光束が投影光学系PLに入射し、その回路パターンの部分倒立像がパルス紫外光の各パルス照射の度に、投影光学系PLの像面側の円形視野の中央にスリット状または矩形状(多角形)に制限されて結像される。これにより、投影された回路パターンの部分倒立像は、投影光学系PLの結像面に配置されたウエハW上の複数のショット領域のうちの1つのショット領域表面のレジスト層に縮小転写される。
【0055】
一方、前記ウエハステージWSTは、ウエハベース定盤54上に配置され、例えば磁気浮上型の2次元リニアアクチュエータ等から成るウエハステージ駆動系によってXY面内で自在に駆動されるようになっている。そして、このウエハステージWSTの上面に、ウエハWがウエハホルダ76を介して真空吸着等により固定されている。
【0056】
前記ウエハステージWSTのXY位置及び回転量(ヨーイング量、ローリング量、ピッチング量)は、投影光学系PLの鏡筒下端に固定された参照鏡Mwを基準として、ウエハステージWSTの一部に固定された移動鏡78の位置変化を計測するウエハレーザ干渉計80によって、所定の分解能、例えば0.5〜1nm程度の分解能でリアルタイムに計測される。
【0057】
本実施形態の露光装置10では、以上で説明した本体コラム14及びこれに支持されるレチクルステージRST、ウエハステージWST、及び投影光学系PL等によって、露光装置本体10Aが構成されている。
【0058】
次に、照明光学系IOPを構成する第1、第2部分照明光学系IOP1、IOP2の接合構造について、図2を参照して詳細に説明する。
図2には、第2部分照明光学系IOP2及び第1部分照明光学系IOP1の一部が断面図にて示されている。この図2に示すように、第1部分照明光学系IOP1は、2枚のL字状の可動ブレードBLa及びこれを保持する筐体82Aを有する光学ユニットを備えている。
【0059】
筐体82Aには、可動ブレードBLaが保持されており、この可動ブレードBLaは、筐体82Aとの間に配置されたアクチュエータ86によって駆動されるようになっている。この場合、2枚の可動ブレードBLaとアクチュエータ86とによって、前述の可動レチクルブラインド28Aが構成されている。
【0060】
2枚の可動ブレードBLaは、レチクルRの走査方向に対応する方向及び走査方向に直交する非走査方向に対応する方向の位置が可変となっている。この可動レチクルブラインド28Aは、不要な部分の露光を抑制するため、固定レチクルブラインド28Bによって規定されるレチクルR上の露光領域をさらに制限するために用いられる。
【0061】
ここで、アクチュエータ86としては、例えばエアベアリング等により、ガイド面に対して非接触で支持された可動子を有するリニアモータが用いられる。
また、筐体82Aの外部には、アクチュエータ86による可動ブレードBLaの駆動量を検出するセンサ90が設けられている。走査露光時にセンサ90の出力に基づいてアクチュエータ86を制御することにより、可動ブレードBLaをレチクルRと同期移動して、不要部分の露光を抑制する。
【0062】
一方、第2部分照明光学系IOP2は、光源側リレーレンズ系30と固定レチクルブラインド28Bの固定ブレードBLs、及びこれらを保持する鏡筒としての筐体82Bを有する光学ユニットを備える。
【0063】
固定レチクルブラインド28Bは、第2照明系ハウジング26Bの入射端近傍のレチクルRのパターン面に対する共役面からわずかにデフォーカスした面に配置されている。この固定レチクルブラインド28Bには、レチクルR上の露光領域を規定する所定形状の開口部が、2枚の真鍮等の金属製の固定ブレードにより形成されている。図4に示すように、この固定レチクルブラインド28Bの開口部150は、投影光学系PLの円形視野内の中央で、走査露光時のレチクルRの移動方向(Y軸方向)と直交したX軸方向に直線的に伸びたスリット状または矩形状に形成されている。
【0064】
そして、この筐体82Bの入射端には、光源側リレーレンズ系30に対する外気の接触を遮断するため、平行平板状をなす光学素子としてのカバーレンズ32が取り付けられている。
【0065】
さらに、前記第2部分照明光学系IOP2における筐体82Bと、第1部分照明光学系IOP1における筐体82Aとの間は、その内部を外気に対して気密状態にすることが可能な伸縮自在の蛇腹状部材34を介して、両者間の振動の伝達が制限された状態で接続されている。
【0066】
なお、本実施形態における露光装置10では、光源12からウエハWの間の露光光の光路を含む空間は、低吸収性ガス(例えば空気(酸素)の含有濃度が1ppm未満のクリーンな乾燥窒素ガスあるいはヘリウムガス)が、雰囲気調整機構としてのパージガス供給装置36から供給されている。したがって、第1部分照明光学系IOP1の内部、第2部分照明光学系IOP2の内部及び第1部分照明光学系IOP1と第2部分照明光学系IOP2との間の空間、すなわち、蛇腹状部材34の内部空間には、低吸収性ガスを供給するためのガス供給用配管36a及び空間内のガスを排出するための排出用配管36bが接続されている。
【0067】
次に、光源側リレーレンズ系30及び固定レチクルブラインド28Bを有する筐体82Bと、その周辺構成について説明する。
図3は、光源側リレーレンズ系30を、その光軸を含み、図2において紙面と直交する平面で切ったときの断面図である。図3に示すように、筐体82Bは、上部筐体102と下部筐体104とからなっている。そして、上部筐体102は、円筒状をなす外側上部鏡筒106と、その外側上部鏡筒よりわずかに小径の円筒状をなし、その外側上部鏡筒106内に収容される内側上部鏡筒108とからなっている。
【0068】
内側上部鏡筒108の内周面上には、光源側リレーレンズ系30を構成する複数(本実施形態では4枚)のレンズ30A〜30Dが図示しない締付リングを介して保持されている。これらのレンズ30A〜30Dは、重力方向に沿って配列されている。
【0069】
外側上部鏡筒106は、その上端のフランジ112において、第2部分照明光学系IOP2を収容する第2照明系ハウジング26Bが載置される天板64に対して固定ねじ114により固定されている。その外側上部鏡筒106の内周面上方には係合面116が形成されており、この係合面116には内側上部鏡筒108の外周面上方に形成された摺接面118がライナ120を介して摺接されている。そして、外側上部鏡筒106の係合面116の下方において、内側上部鏡筒108が螺合されている。さらに、外側上部鏡筒106における内周面の下端の受け座122と、内側上部鏡筒108における下端の段部124との間には、支持機構126が介装されている。
【0070】
内側上部鏡筒108の外側には、下部筐体104がその内側上部鏡筒108の光源側端部を覆うように配設されている。この下部筐体104は、上部プレート132と内側下部鏡筒134と外側下部鏡筒136とからなっている。
【0071】
上部プレート132は、円環状をなしており、ガイド機構138を介して外側上部鏡筒106に保持されている。この上部プレート132の上面と外側上部鏡筒106の下端面との間は、隙間Sを介して所定距離だけ離間するように配置されている。この隙間Sは、筐体82B内において、外側下部鏡筒136と、内側上部鏡筒108との対向面間にも設けられている。
【0072】
上部プレート132の下面には、内側下部鏡筒134のフランジ142が不図示のビスにより取り付けられている。内側下部鏡筒134の下方の外周面上には、係合凹部144が設けられておりその係合凹部144に係合突部146が係合する形で、外側下部鏡筒136が取着されている。この外側下部鏡筒136は有底円筒状に形成されており、その外側下部鏡筒136の下端面148の中央には可動レチクルブラインド28Aから出射される露光光の通過を許容する開口部150が形成されている。また、この外側下部鏡筒136の下端面148には、その開口部150の開口面積を制限するとともに、可動レチクルブラインド28Aの各可動ブレードBLaに対応するように固定レチクルブラインド28Bの固定ブレードBLsが不図示のビスにより取り付けられている。
【0073】
また、図2に示すように、内側上部鏡筒108の下端面には、カバーレンズ32が、変位機構としての回転機構158により、そのカバーレンズ32の光軸を中心として内側上部鏡筒108に対して相対回転可能に取り付けられている。この内側上部鏡筒108の下端面は、前述のように照明光学系IOPのほぼ瞳面に位置する固定レチクルブラインド28Bのごく近傍に配置されるようになっている。
【0074】
回転機構158は、軸受部160と、環状ラック162と、回転軸164とで構成されている。軸受部160は、カバーレンズ32を内側上部鏡筒108に対して回転可能に保持する。環状ラック162は、カバーレンズ32の一方の光学面の周縁に環状をなすように形成されている。環状ラック162は、カバーレンズ32を収容するレンズ枠体の表面に形成してもよい。
【0075】
この環状ラック162には、回転軸164の先端のピニオン166が咬合している。この回転軸164は、外側下部鏡筒136に形成された透孔168及び蛇腹状部材34に形成された挿通孔170を介して、第1及び第2照明系ハウジング26A,26Bの外部に設けられた図示しない回転軸駆動装置に接続されている。そして、蛇腹状部材34の挿通孔170の周縁と回転軸164との間には、第1及び第2照明系ハウジング26A,26Bの内部を気密に保つためのパッキン172が介装されている。
【0076】
次に、以上のように構成された照明光学系IOPを搭載する露光装置10において、照明光学系IOPの光学特性に変化が生じてきた場合に、カバーレンズ32の光学性能の変化が、照明光学系IOPの光学特性の変化にどの程度影響しているかを検出する方法について説明する。
【0077】
まず、レチクルステージRSTに、所定のパターンを有するテストレチクルを載置する。このテストレチクルに、露光光を照明光学系IOPを通して照射し、テストレチクル上のパターンを、投影光学系PLを介してウエハW上に転写する。次に、カバーレンズ32を、その光軸周りに所定角度だけ回転させて、再度テストレチクルのパターンをウエハW上に転写する。このように、カバーレンズ32を所定角度ずつ回転させて、ウエハW上へテストレチクルのパターンの転写を繰り返す。
【0078】
そして、現像されたパターンに変化があれば、カバーレンズ32の光学性能の変化が、照明光学系IOPの光学特性に影響を及ぼしているとすることができる。また、その現像されたパターンの変化の状況から、カバーレンズ32の光学性能の状態を検出することができる。
【0079】
次に、例えば図5に示すように、カバーレンズ32に曇り部分と硝材の劣化部分182が生じているような場合において、その曇り部分180及び劣化部分182の照明光学系IOPの光学特性に及ぼす影響を低減する方法について、説明する。
【0080】
この露光装置10では、露光光の露光領域IAが破線で示すように、矩形状に整形されている。このため、曇り部分180及び劣化部分182が、この矩形状の露光領域IAの範囲外となるように、カバーレンズ32をその光軸を中心に約45°回転させればよい。これにより、露光光の露光領域IA内には、曇り部分180や劣化部分182が存在しなくなり、照明光学系IOPの光学特性を容易に補正することができる。
【0081】
ここで、図6に示すように、カバーレンズ32において、露光領域IAの長手方向(X方向)に複雑な透過率分布を有する形状に曇り部分180が生じているような場合を考える。この場合には、そのまま補正フィルタを用いて、曇り部分180に伴う透過率の低下を補正しようとすれば、図中のグラフにおいて破線で示すように複雑な透過率分布を有する補正フィルタを用意する必要がある。
【0082】
これに対して、同様の曇り部分180を生じているカバーレンズ32においても、カバーレンズ32を、その光軸周りに90°回転することにより、図中のグラフに示すように、そのX方向における透過率分布を単純な形状とすることができる。このように、X方向に単純な透過率分布であれば、補正フィルタの作成を容易に行うことができる。
【0083】
従って、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(ア) この露光装置10では、照明光学系IOPにおけるカバーレンズ32での光学性能の変化を特定するために、そのカバーレンズ32を回転させる回転機構158が設けられている。
【0084】
このため、カバーレンズ32に曇り部分180や硝材の劣化部分182が生じていれば、そのカバーレンズ32を任意の量だけ回転させると、照明光学系IOPに露光光を照射したときに、その照明光学系IOPの光学特性に変化が生じることになる。そして、カバーレンズ32を回転させて、通常の露光光を照射することにより、容易にカバーレンズ32で光学性能の変化が生じているのか否かを検出することができる。また、そのカバーレンズ32における光学性能の変化状態を、容易に検出することができる。従って、照明光学系IOPの光学特性を補正するにあたって、補正フィルタを作成するにしても、そのカバーレンズ32を交換するにしても、迅速に行うことができ、露光装置10におけるスループットの低下を抑制することができる。
【0085】
(イ) 複数のレンズ等で構成される照明光学系IOPでは、その瞳面の近傍に配置される光学素子に光学性能の変化が生じたときに、照明光学系IOP全体の光学特性の変化に与える影響が大きくなる。
【0086】
これに対して、この露光装置10では、回転機構158が、照明光学系IOPの瞳面の近傍に配置されたカバーレンズ32を回転させるようになっている。このため、照明光学系IOPにおける光学特性の変化の要因を効率的に検出することができるとともに、その変化を容易に補正することができる。
【0087】
(ウ) この露光装置10では、回転機構158は、曇り部分180や硝材の劣化部分182の生じたカバーレンズ32を、照明光学系IOPの光学特性に及ぼす影響を低減すべく回転させることを特徴とするものである。
【0088】
このため、曇り部分180や硝材の劣化部分182の生じたカバーレンズ32を回転させるといった簡単な操作で、照明光学系IOPの光学特性に対するカバーレンズ32における光学性能の変化の影響を許容範囲内となるようにすることができる。これにより、露光装置10を、ほとんど停止することなく、照明光学系IOPにおける光学特性の変化を許容範囲内となるように補正することができる。
【0089】
(エ) 低吸収性ガスで所定の雰囲気に調整するパージガス供給装置36が接続される鏡筒においては、鏡筒を分解するなどして、鏡筒内の低吸収性ガスでのガス置換を解いて雰囲気を変化させると、再び鏡筒内の雰囲気を安定化させるに非常に時間がかかることがある。
【0090】
この露光装置10では、第1及び第2照明系ハウジング26A,26Bの内部を低吸収性ガスで所定の雰囲気に調整するパージガス供給装置36が接続されている。この上で、この露光装置10の照明光学系IOPには、カバーレンズ32を回転させる回転機構158が装備されている。
【0091】
このため、場合によっては、第1及び第2照明系ハウジング26A,26Bを分解することなく、照明光学系IOPの光学特性を補正することができるため、前記(ア)〜(ウ)に記載の作用及び効果を特に効率よく発揮させることができる。
【0092】
(オ) この露光装置10は、回転機構158が、照明光学系IOPの瞳面の近傍における露光光の強度分布に基づいて、透過率の低下したカバーレンズ32を回転させることも可能となっている。
【0093】
このため、予め準備されている補正フィルタとカバーレンズ32の透過率分布とを利用して、露光領域IA内の照度分布を調整することで、照明光学系IOPの光学特性の補正を迅速に行うことができる。
【0094】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態について、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0095】
この第2実施形態の露光装置10においては、図7に示すように、投影光学系PLを構成する複数の光学素子としてのレンズ190に前記第1実施形態と同様構成の回転機構158を設け、その投影光学系PL内において、各レンズ190の光学性能の変化を検出するようにしたものである。また、この露光装置10では、各レンズ190の光学性能の変化を、ウエハステージWSTに取着された受光器としての光量センサ192を用いて行うようにしたものである。
【0096】
また、この第2実施形態の露光装置10では、投影光学系PLの光学特性が変化した場合に、光学性能の変化したレンズ190を、例えば以下のようにして検出する。
まず、レチクルステージRSTに所定のパターンを有するテストレチクルを載置し、光源12から露光光を照射した状態で、各レンズ190を順に回転させながら、投影光学系PLを通過した露光光の光量を光量センサ192で受光する。各レンズ190毎に、ウエハW上に照射される露光光の光量を光量センサ192で検出する。そして、各レンズ190毎に、露光光の光量の連続的な変化に基づいて、透過率の低下したレンズ190を特定する。
【0097】
そして、投影光学系PLにおける光学特性の変化を補正する際には、光量センサ192での空間像の検出結果から特定された透過率の低下したレンズ190を、そのレンズ190の光軸周りに回転させる。そして、その透過率の低下したレンズ190を、その透過率の低下が投影光学系PLの光学特性に及ぼす影響を低下させるように回転させる。
【0098】
従って、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(カ) この露光装置10では、回転機構158が、投影光学系を構成するレンズ190を回転させるようになっている。
【0099】
このため、透過率が低下したレンズ190を特定することができる。さらに、透過率の低下したレンズ190を回転させることにより、他の透過率または反射率の低下したレンズやミラーの影響を相殺して、ウエハW上に照射される露光領域IA内の照度分布を所定の状態に調整することもできる。これにより、透過率の低下したレンズ190自身を、投影光学系PLの光学特性の補正フィルタとして使用することができる。なお、透過率の低下したレンズ190自身を照明光学系IOPの光学特性の補正フィルタとしても使うことができる。
【0100】
(キ) この露光装置10では、レンズ190を回転させつつ、露光光を投影光学系PLに照射し、レンズ190を介した露光光の光量を光量センサ192で受光するようになっている。
【0101】
このため、露光光を照射しながら、投影光学系PLの各レンズ190を回転させて、そのレンズ190を通過する露光光を連続的に光量センサ192で受光することにより、透過率の低下したレンズ190とその状態をさらに迅速に検出することができる。
【0102】
(変形例)
なお、本発明の実施形態は、以下のように変形してもよい。
・ 前記各実施形態では、回転機構158によりカバーレンズ32またはレンズ190を回転させる構成とした。これに対して、検出対象の光学素子が平行平板状のものであれば、その平行平板状の光学素子を露光光の光軸と交差する面内において、光学素子を移動させるようにしてもよい。
【0103】
・ 第1実施形態において、照明光学系IOPの他の瞳面またはその近傍に配置されるレンズ、平行平板レンズ、ミラーを回転及び/または光軸と交差する面内で移動させ、それらレンズの透過率、ミラーの反射率の変化を検出するようにしてもよい。
【0104】
・ 第2実施形態において、投影光学系PLの瞳面またはその近傍に配置されるレンズ、ミラーを回転させ、それらレンズの透過率、ミラーの反射率の変化を検出するようにしてもよい。
【0105】
・ 前記各実施形態において、照明光学系IOPの照明系開口絞り板として、例えば複数の開口が偏心して配置されてなる変形開口絞りが配置されているなど、露光光が変形照明とされているような場合には、その露光領域の形状に応じてカバーレンズ32、レンズ190を回転またはその光軸に交差する面内で移動させてもよい。これにより、曇り部分180及び硝材の劣化部分182が、露光光の露光領域から外れるようにしてもよい。
【0106】
・ この発明の光学素子保持装置は、前記各実施形態の照明光学系IOPの光学素子の保持構成にも具体化することができる。
・ この発明の光学素子保持装置は、前記各実施形態の露光装置10の投影光学系PLにおける横置きタイプの光学素子の保持構成に限定されることなく、例えば縦置きタイプの鏡筒に具体化してもよい。さらに、他の光学機械、例えば顕微鏡、干渉計等の光学系における鏡筒に具体化してもよい。
【0107】
・ また、露光装置として、投影光学系PLを用いることなく、マスクと基板とを密接させてマスクのパターンを露光するコンタクト露光装置、マスクと基板とを近接させてマスクのパターンを露光するプロキシミティ露光装置の光学系にも適用することができる。また、投影光学系PLとしては、全屈折タイプに限らず、反射屈折タイプ、全反射タイプであってもよい。
【0108】
・ また、露光装置として、投影光学系PLの像面に最も近い光学素子と、基板との間に液体を満たした状態で露光を行う液浸型露光装置を採用してもよい。
さらに、本発明の露光装置は、縮小露光型の露光装置に限定されるものではなく、例えば等倍露光型、拡大露光型の露光装置であってもよい。
【0109】
また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるレチクルまたはマスクを製造するために、マザーレチクルからガラス基板やシリコンウエハなどへ回路パターンを転写する露光装置にも本発明を適用できる。ここで、DUV(深紫外)やVUV(真空紫外)光などを用いる露光装置では一般に透過型レチクルが用いられ、レチクル基板としては、石英ガラス、フッ素がドープされた石英ガラス、蛍石、フッ化マグネシウム、または水晶などが用いられる。
【0110】
もちろん、半導体素子の製造に用いられる露光装置だけでなく、液晶表示素子(LCD)などを含むディスプレイの製造に用いられてデバイスパターンをガラスプレート上へ転写する露光装置にも、本発明を適用することができる。また、薄膜磁気ヘッド等の製造に用いられて、デバイスパターンをセラミックウエハ等へ転写する露光装置、及びCCD等の撮像素子の製造に用いられる露光装置などにも本発明を適用することができる。
【0111】
さらに、本発明は、マスクと基板とが静止した状態でマスクのパターンを基板へ転写し、基板を順次ステップ移動させるステップ・アンド・リピート方式のステッパにも適用することができる。
【0112】
・ また、露光装置の光源としては、前記実施形態に記載のArFエキシマレーザの他、例えばg線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザ(248nm)、Krレーザ(146nm)、Fレーザ(157nm)、Arレーザ(126nm)等を用いてもよい。また、DFB半導体レーザまたはファイバレーザから発振される赤外域、または可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(またはエルビウムとイッテルビウムの双方)がドープされたファイバアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いてもよい。
【0113】
なお、前記各実施形態の露光装置10は、例えば次のように製造される。
すなわち、まず、照明光学系IOP、投影光学系PLを構成する複数のレンズ、カバーレンズ、ミラー等の光学素子の少なくとも一部を前記各実施形態または前記各変形例の鏡筒に収容し、この照明光学系IOP及び投影光学系PLを露光装置10の本体に組み込み、光学調整を行う。次いで、多数の機械部品からなるウエハステージWST(スキャンタイプの露光装置の場合は、レチクルステージRSTも含む)を露光装置10の本体に取り付けて配線を接続する。そして、露光装置10を真空チャンバ内に収容した上で、さらに総合調整(電気調整、動作確認など)を行う。
【0114】
ここで、光学素子保持装置を構成する各部品は、超音波洗浄などにより、加工油や、金属物質などの不純物を落としたうえで、組み上げられる。なお、露光装置10の製造は、温度、湿度や気圧が制御され、かつクリーン度が調整されたクリーンルーム内で行うことが望ましい。
【0115】
次に、上述した露光装置10をリソグラフィ工程で使用したデバイスの製造方法の実施形態について説明する。
図8は、デバイス(ICやLSI等の半導体素子、液晶表示素子、撮像素子(CCD等)、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造例のフローチャートを示す図である。図8に示すように、まず、ステップS201(設計ステップ)において、デバイス(マイクロデバイス)の機能・性能設計(例えば、半導体デバイスの回路設計等)を行い、その機能を実現するためのパターン設計を行う。引き続き、ステップS202(マスク製作ステップ)において、設計した回路パターンを形成したマスク(レクチルR等)を製作する。一方、ステップS203(基板製造ステップ)において、シリコン、ガラスプレート等の材料を用いて基板(シリコン材料を用いた場合にはウエハWとなる。)を製造する。
【0116】
次に、ステップS204(基板処理ステップ)において、ステップS201〜S203で用意したマスクと基板を使用して、後述するように、リソグラフィ技術等によって基板上に実際の回路等を形成する。次いで、ステップS205(デバイス組立ステップ)において、ステップS204で処理された基板を用いてデバイス組立を行う。このステップS205には、ダイシング工程、ボンディング工程、及びパッケージング工程(チップ封入等)等の工程が必要に応じて含まれる。
【0117】
最後に、ステップS206(検査ステップ)において、ステップS205で作製されたデバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経た後にデバイスが完成し、これが出荷される。
【0118】
図9は、半導体デバイスの場合における、図8のステップS204の詳細なフローの一例を示す図である。図9において、ステップS211(酸化ステップ)では、ウエハWの表面を酸化させる。ステップS212(CVDステップ)では、ウエハW表面に絶縁膜を形成する。ステップS213(電極形成ステップ)では、ウエハW上に電極を蒸着によって形成する。ステップS214(イオン打込みステップ)では、ウエハWにイオンを打ち込む。以上のステップS211〜S214のそれぞれは、ウエハ処理の各段階の前処理工程を構成しており、各段階において必要な処理に応じて選択されて実行される。
【0119】
ウエハプロセスの各段階において、上述の前処理工程が終了すると、以下のようにして後処理工程が実行される。この後処理工程では、まず、ステップS215(レジスト形成ステップ)において、ウエハWに感光剤を塗布する。引き続き、ステップS216(露光ステップ)において、先に説明したリソグラフィシステム(露光装置10)によってマスク(レチクルR)の回路パターンをウエハW上に転写する。次に、ステップS217(現像ステップ)では露光されたウエハWを現像し、ステップS218(エッチングステップ)において、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去る。そして、ステップS219(レジスト除去ステップ)において、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。
【0120】
これらの前処理工程と後処理工程とを繰り返し行うことによって、ウエハW上に多重に回路パターンが形成される。
以上説明した本実施形態のデバイス製造方法を用いれば、露光工程(ステップS216)において上記の露光装置10が用いられ、真空紫外域の露光光により解像力の向上が可能となり、しかも露光量制御を高精度に行うことができる。従って、結果的に最小線幅が0.1μm程度の高集積度のデバイスを歩留まりよく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】第1実施形態の露光装置の全体構成を示す概略構成図。
【図2】両レチクルブラインド周辺の詳細構成を示す断面図。
【図3】図2の光源側リレーレンズ系周辺の詳細構成を示す断面図。
【図4】図2の外側下部鏡筒の底面図。
【図5】図2のカバーレンズの回転の一例に関する説明図。
【図6】図2のカバーレンズの回転の他の一例に関する説明図。
【図7】第2実施形態の露光装置の全体構成を示す概略構成図。
【図8】デバイスの製造例のフローチャート。
【図9】半導体デバイスの場合における図8の基板処理に関する詳細なフローチャート。
【符号の説明】
【0122】
10…露光装置、32…光学素子としてのカバーレンズ、36…雰囲気調整機構としてのパージガス供給装置、82B…鏡筒としての筐体、158…変位機構としての回転機構、190…光学素子としてのレンズ、192…受光器としての光量センサ、IA…露光領域、IOP…光学系として照明光学系、PL…光学系として投影光学系、R…マスクとしてのレチクル、W…基板としてのウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光学素子を収容する鏡筒において、
前記複数の光学素子のうちで、光学性能が変化した光学素子を特定するために、前記複数の光学素子のうち、少なくとも1つの光学素子を回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させる変位機構を有することを特徴とする鏡筒。
【請求項2】
前記変位機構は、前記複数の光学素子で構成される光学系の瞳面の近傍に配置された光学素子を回転または移動させるものであることを特徴とする請求項1に記載の鏡筒。
【請求項3】
前記変位機構は、光学性能が変化した前記光学素子を、前記複数の光学素子で構成される光学系の光学特性に及ぼす影響を低減すべく回転または移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の鏡筒。
【請求項4】
内部を所定の雰囲気に調整する雰囲気調整機構を有することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の鏡筒。
【請求項5】
露光光で、パターンが形成されたマスクを照明する照明光学系と、マスクのパターンを基板上に転写する投影光学系とを有する露光装置において、
前記照明光学系及び前記投影光学系の少なくとも一方を構成する複数の光学素子を、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の鏡筒に収容したことを特徴とする露光装置。
【請求項6】
前記変位機構は、前記複数の光学素子のうち、前記露光光が照射される領域の透過率または反射率が低下した光学素子を回転または前記光軸と交差する面内で移動させることを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記変位機構は、前記照明光学系の瞳面またはその近傍、あるいは前記投影光学系の瞳面またはその近傍における前記露光光の強度分布に基づいて、透過率または反射率が低下した光学素子を回転または移動させることを特徴とする請求項5または6に記載の露光装置。
【請求項8】
前記変位機構は、前記基板上に照射される露光領域内の照度分布に基づいて、透過率または反射率の低下した光学素子を回転または移動させることを特徴とする請求項5または6に記載の露光装置。
【請求項9】
光学系を構成する複数の光学素子のうち、光学性能の変化した光学素子を検出する光学素子の検出方法において、
前記複数の光学素子のうち、少なくとも1つの光学素子を回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させ、所定の位置に配置された受光器で、前記回転または移動の前後における前記光学素子を介した光の受光結果に基づいて前記光学性能の変化した光学素子を検出することを特徴とする光学素子の検出方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの光学素子を、回転または前記光学素子の光軸と交差する面内で移動させつつ、前記光を前記光学素子に照射し、前記光学素子を介した前記光を前記受光器で受光することを特徴とする請求項9に記載の光学素子の検出方法。
【請求項11】
リソグラフィ工程を含むデバイスの製造方法において、
前記リソグラフィ工程は、請求項5〜8のうちいずれか一項に記載の露光装置を用いることを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−332197(P2006−332197A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151358(P2005−151358)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】