説明

長尺被覆物押出成形用ダイス並びにそれを用いた長尺被覆物の製造方法及び長尺被覆物

【課題】風圧低減効果が安定した長尺被覆物を押出成形できるダイスを提供する。
【解決手段】断面外形が多角形の長尺被覆物を押出成形するダイスであって、断面多角形の穴1の、隣り合う頂点2、2間を結ぶ辺3が内側に凹んでおり、頂点2と凹みの底7とを結ぶ線の頂点2に近い部分が直線になっていて、凹みの底7に近い部分が前記直線に滑らかに連なる円弧状の曲線になっているもの。長尺被覆物の角部が、尖りすぎず、且つダレることなく、目標とする角度に形成されるので、風圧低減効果の安定した長尺被覆物を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空布設される被覆電線、ケーブル又はそれらを保護するための筒状プロテクタ等の長尺被覆物を押出成形するダイスと、それを用いた長尺被覆物の製造方法及び長尺被覆物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空布設される被覆電線等の風圧荷重を低減するものとして、最近、被覆の断面外形を多角形にした被覆電線が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような断面多角形の被覆を押出成形する場合には、押出後の冷却過程において樹脂が不均一な収縮をすることから、収縮を考慮したダイス設計が必要となる。例えば、穴形状を単純に多角形にしたダイスを用いて被覆の押出成形を行うと、押出後に、多角形の辺が膨らむ方向へ変形し、頂点が丸くなって突き出しが無くなる方向へ変形するので、風圧低減効果が損なわれる結果となる。
【0004】
この問題を解決するため本発明者等は先に、押出成形された被覆が冷却収縮した後に断面多角形となるように、図6に示すようなダイスを発明した。このダイスは、多角形の押出穴1の、隣り合う頂点2、2間を結ぶ辺3を、内側に湾曲した円弧形状にしたものである(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−56652号公報
【特許文献2】特開2005−230842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図6のダイスを用いて被覆を押出成形すると、ダイスの多角形の頂点を形成する角度が鋭角になっているために、被覆の頂点が尖ってしまい、この頂点の尖りが風圧低減効果に悪影響を及ぼすことが判明した。これは、図7に示すように、被覆4の頂点5の尖りによって、空気の流れαが被覆4の表面から剥離しやすくなるからと考えられる。
【0007】
そこで本発明者等は、図8に示すように、穴1の頂点部に丸み6を持たせたダイスを新たに製作し、これを用いて被覆電線の試作を行った。ところが、試作した電線を風洞実験に供したところ、抗力係数が安定しないこと、すなわち風圧荷重の回転角度によるバラツキが大きく風圧低減効果が不安定であることが判明した。これは、被覆の角部がダレてしまうことによるものと考えられる。
【0008】
本発明の目的は、風圧低減効果が安定した長尺被覆物を押出成形できるダイスと、そのダイスを用いた長尺被覆物の製造方法及びそのダイスを用いて製造された長尺被覆物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る長尺被覆物押出成形用ダイスは、断面外形が多角形の長尺被覆物を押出成形するものであって、断面多角形の穴の、隣り合う頂点間を結ぶ辺が内側に凹んでいて、頂点と凹みの底とを結ぶ線の少なくとも頂点に近い部分が直線になっていることを特徴とするものである(請求項1)。
【0010】
本発明に係るダイスは、隣り合う頂点間の距離をW、頂点間を結ぶ直線から凹みの底までの深さをTとしたとき、0.100≦T/W≦0.228とすることが好ましい(請求項2)。この点は、特許文献2に開示されたダイスと同じである。
【0011】
本発明に係るダイスは、凹みの底に近い部分が、頂点から延びる直線に滑らかに連なる曲線になっていることが好ましい(請求項3)。
【0012】
本発明に係る長尺被覆物の製造方法は、上記のいずれかのダイスを用いて樹脂を押出成形して長尺被覆物を製造することを特徴とするものである(請求項4)。
【0013】
本発明に係る長尺被覆物は、上記のいずれかにダイスを用いて樹脂を押出成形することにより製造したことを特徴とするものである(請求項5)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明のダイスを使用すると、長尺被覆物の角部が、尖りすぎず、且つダレることなく、目標とする角度に形成されるので、風圧低減効果の安定した長尺被覆物を形成することができる。
【0015】
請求項2の発明のダイスを使用すると、押出後の樹脂の収縮による、長尺被覆物の角部のダレを適切に管理でき、角部をより確実に目標とする角度に形成できる。
【0016】
請求項3の発明のダイスを使用すると、長尺被覆物の多角形の辺に相当する部分にラインが入るのを防止でき、長尺被覆物の外観がよくなる。
【0017】
請求項4の発明によれば、風圧低減効果の安定した長尺被覆物を製造することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、風圧低減効果の安定した長尺被覆物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〔実施形態1〕 図1は本発明に係る長尺被覆物押出成形用ダイスの一実施形態を示す。このダイスは、断面多角形の穴1の、隣り合う頂点2、2間を結ぶ辺3が内側に凹んでいて、頂点2と凹みの底7とを結ぶ線が直線になっているものである。
【0020】
なお、隣り合う頂点間の距離をW、頂点間を結ぶ直線から凹みの底までの深さをTとしたとき、T/Wは0.100〜0.228の範囲にすることが好ましい。この点は特許文献2記載のダイスと同じである。
【0021】
図2は図1のダイスを用いて、撚線導体8の外周に樹脂被覆4を押出成形することにより製造された被覆電線を示す。図1のダイスで被覆4を押出成形すると、被覆4の隣り合う頂点5、5間の辺9の中央部にラインが入るが、このようなラインが入っても風圧低減効果に影響はない。
【0022】
〔実施形態2〕 図3は本発明に係る長尺被覆物押出成形用ダイスの他の実施形態を示す。このダイスは、断面多角形の穴1の、隣り合う頂点2、2間を結ぶ辺3が内側に凹んでいて、頂点2と凹みの底7とを結ぶ線の頂点に近い部分が直線になっており、凹みの底7に近い部分が前記直線に滑らかに連なる円弧状の曲線になっているものである。
【0023】
図3のように凹みが直線と曲線で構成されるダイスの場合は、頂点2から凹みの底7までの距離の40%以上は直線にすることが、抗力係数を安定させる上で望ましい。
【0024】
このダイスの場合も、隣り合う頂点間の距離をW、頂点間を結ぶ直線から凹みの底までの深さをTとしたとき、T/Wは0.100〜0.228の範囲にすることが好ましい。
【0025】
図3のダイスを使用すれば、図2のような被覆電線で、被覆4の辺9の中央部にラインの入らない被覆電線を製造することができる。
【0026】
〔実施例〕 次に図3の穴形状を有する2種類のダイス(本発明の実施例1、2)と、図8の穴形状を有する3種類のダイス(従来例1〜3)を用いて被覆電線を製造し、製造された被覆電線について風洞試験を行った結果を説明する。
【0027】
被覆の目標寸法及びダイスの穴寸法は表1のとおりである。ダイス穴寸法の、頂点角度、隣り合う頂点間の距離W、凹みの深さT、頂点の丸みの半径r、凹みの底の円弧の半径Rは、図3及び図8のとおりである。頂点角度は、円弧Rの接線で且つ頂点rとの交点を通る直線の角度である。なお、従来例1〜3のダイス穴形状で、頂点の丸みがないと仮定したときのWの値は3.26mm、T/Wの値は0.1427である。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の穴寸法を有するダイスで製造した被覆電線について、風洞試験を行い、Cd値(抗力係数)を測定した結果は表2及び図4、図5のとおりである。
【0030】
【表2】

【0031】
これらの結果から明らかなように、本発明の実施例1、2は、従来例1〜3に比べ、抗力係数Cdの平均値Ave.、バラツキσ(標準偏差値)、バラツキを考慮した最大値Ave.+3σが明らかに小さくなっており、風圧荷重が小さく、しかも安定した風圧低減効果が得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るダイスの一実施形態を示す(A)は正面図、(B)は(A)の要部の拡大断面図。
【図2】図1のダイスを用いて製造した被覆電線の断面図。
【図3】本発明に係るダイスの他の実施形態を示す(A)は正面図、(B)は(A)の要部の拡大断面図。
【図4】図3のダイス(実施例1、2)を用いて製造した被覆電線のCd値の測定結果を示すグラフ
【図5】図8のダイス(従来例1〜3)を用いて製造した被覆電線のCd値の測定結果を示すグラフ
【図6】従来のダイスを示す(A)は正面図、(B)は(A)の要部の拡大断面図。
【図7】図6のダイスを用いて製造した被覆電線の問題点を示す説明図。
【図8】図6のダイスの問題点を改良したダイスを示す要部の拡大図。
【符号の説明】
【0033】
1:ダイスの穴
2:穴の頂部
3:穴の辺
4:被覆
5:被覆の頂部
6:丸み
7:穴の凹みの底
8:導体
9:被覆の辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面外形が多角形の長尺被覆物を押出成形するダイスであって、断面多角形の穴の、隣り合う頂点間を結ぶ辺が内側に凹んでいて、頂点と凹みの底とを結ぶ線の少なくとも頂点に近い部分が直線になっていることを特徴とする長尺被覆物押出成形用ダイス。
【請求項2】
隣り合う頂点間の距離をW、頂点間を結ぶ直線から凹みの底までの深さをTとしたとき、0.100≦T/W≦0.228であることを特徴とする請求項1記載の長尺被覆物押出成形用ダイス。
【請求項3】
凹みの底に近い部分が、頂点から延びる直線に滑らかに連なる曲線になっていることを特徴とする請求項1又は2記載の長尺被覆物押出成形用ダイス。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のダイスを用いて樹脂を押出成形して長尺被覆物を製造することを特徴とする長尺被覆物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載のダイスを用いて樹脂を押出成形することにより製造したことを特徴とする長尺被覆物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−245681(P2007−245681A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75837(P2006−75837)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】