説明

長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置

【課題】ロッドの軌道を直線的に安定して進行させ、また、ロッドの揺動を抑えるとともに、ロッドの水分(冷媒)過多によるロッドを構成している樹脂の劣化を抑えることで、ロッドの毛羽発生や切断などを防止できる繊維強化成形材料の製造装置を提供すること。
【解決手段】冷却装置(2)の下流に回転ロール(4)を有し、該回転ロール(4)はロッド(6)と接触する溝(5)を有し、該溝(5)とロッドとが接触する溝底部の幅(b)が、前記ロッド(6)の直径(a)と略同一であることを特徴とする繊維強化成形材料の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下「繊維強化成形材料」という)の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維強化成形材料を引抜法で製造する際、高温に加熱されている含浸槽から引き抜かれる、高温の樹脂が含浸されたガラスなどの樹脂含浸強化繊維束(以下「ロッド」という)を引取可能とするためには、引き抜かれたロッドが、ロッドの引取装置の位置において十分に冷却固化されていることが必要である。そのために、高温のロッドに、例えば、冷却空気を吹付けたり、水などの冷媒をスプレーやシャワーで吹付ける方法が行なわれている。
【0003】
また、上記方法に代えて、水などの冷媒を溜めた冷媒槽(冷却槽)内に、高温のロッドを連続的に引き入れて、当該高温のロッドを冷却する方法が知られており、例えば、特許文献1には、中空の冷却ロールに冷媒を注入することによりロッドを冷却することが記載されている。
【特許文献1】特開平7−251437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、含浸槽から引抜法で製造されるロッドの径が太い場合やロッドの強化繊維含有量が多い場合には、ロッドの引取に必要な張力がロッドに常時かかるために、ロッドは、その軌跡の自由な曲線をとりにくいといった問題を有している。そのうえ、ロッドの軌道が直線的に進行しないことがあり、そのためにロッドに毛羽が発生したり、ロッドの切断が生じる場合があった。
【0005】
また、水などの冷媒をスプレーやシャワーで高温のロッドに吹付ける方法や、ロッドを冷却装置中に通過させて冷却する方法では、冷却されたロッドに付着した冷媒を、冷却した後のロッドを引取装置に導入する前に十分に除去しておかないと、引取装置でロッドがスリップしたりして、ロッドの生産性に劣るばかりでなく、樹脂種によっては得られるロッドの樹脂が劣化するといった問題を有していた。
【0006】
このため、ロッドに付着している冷媒を除去するために、エア噴射装置などにより冷媒を除去することも考えられるが、エア噴射装置を設置すると、該装置の設置のためのスペースが必要となり、また、エア噴射装置のみで十分な冷媒の除去は困難であるといった場合があった。
【0007】
従って、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ロッドの軌道を直線的に安定して進行させ、また、ロッドの揺動を抑えるとともに、ロッドの水分(冷媒)過多によるロッドを構成している樹脂の劣化を抑え、ロッドの毛羽発生や切断などを防止できる繊維強化成形材料の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させて賦形する含浸槽(1)と、該槽(1)より引き出されたロッド(6)を冷却する冷却装置(2)と、冷却されたロッド(6)を引き取る引取装置(3)とを有する繊維強化成形材料の製造装置において、前記冷却装置(2)の下流に回転ロール(4)を有し、該回転ロール(4)は前記ロッド(6)と接触する溝(5)を有し、該溝(5)と前記ロッドとが接触する溝底部の幅(b)が、前記ロッド(6)の直径(a)と略同一であることを特徴とする繊維強化成形材料の製造装置を提供する。
【0009】
上記本発明においては、前記回転ロール(4)が、ナイロン樹脂から構成されていること;前記溝(5)が、複数個設けられていること;前記回転ロール(4)の溝(5)の壁面と、該回転ロール軸方向との角度(α)が、90〜80度であること;前記回転ロール(4)の溝(5)の底部の幅(b)が、1〜4mmであること;前記回転ロール(4)の溝部(5)の底外径(D1)と回転ロール(4)の円盤部(7)の外径(D2)との差が、30mm以上であること;前記回転ロール(4)の溝(5)のピッチ(c)が、含浸槽のノズルのピッチ(c’)と実質的に等ピッチであること;および前記回転ロール(4)の下方に、冷媒受けパン(8)を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明によれば、冷却されたロッドを回転ロールの溝で受けながら、該ロッドとの接触摩擦力により回転するロールによって、前記ロッドの揺動を抑制することが可能となり、また、ロッドに接触しながら回転するロールによって冷媒が除去されるため、冷媒除去のために大掛かりなエア噴射装置などの冷媒除去装置を設けることが不要である。また、回転ロール自体が冷媒除去作用を兼ねることから、この回転ロールは冷却装置のロッド出口近傍に設置することが可能であり、省スペースでロッドから効率的に冷媒を除去することができる。
【0011】
また、回転ロールのロッド接触部(通常、溝の底部)の近傍に、ロッド接触部の直径より大きな径を持つ円盤部を設けることにより、ロッドから溝底部に移行した冷媒が、回転するロールの遠心力により溝の壁面を伝って円盤部の外径へと流れていくため、冷媒の存在によるロッドのロッド接触部での滑りを抑制することができ、その結果、ロッドとの接触により何らの駆動源を設けることなくロールを確実に回転させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の繊維強化成形材料の製造装置は、図1に示すように、強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させて賦形する含浸槽1と、該槽1より引き抜かれたロッドを冷却する冷却装置2と、冷却されたロッドを引き取る引取装置3とを有する繊維強化成形材料の製造装置において、前記冷却装置2の後方(すなわち、冷却装置と引取装置との間)に、冷媒除去(水切り)回転ロール4を設けた構成であり、該回転ロールの構成に特徴を有している。
【0013】
上記回転ロール4の構成材料は、金属、木材、プラスチックなどの何れの材料でもよいが、慴動性が良く軽量であることなどの理由からナイロン樹脂が好ましい。上記回転ロールにはロッド6と接触し、ロッドに付着している冷媒(水)を除去し、ロッドとの摩擦力でロール4を回転させるための溝5が形成されているが、該溝の個数は通常複数であり、含浸槽1に設けられているロッド引き抜きノズルと同数か、それよりも多い個数とすることが好ましい。上記溝5は上記引き抜きノズルの数と同様な数であることが好ましい。
【0014】
回転ロール4の円盤部7の外径(D2)(図3)は特に限定されないが、通常は40〜150mm程度である。また、この回転ロール4はロッド6との接触により回転するのでロール4の回転のための駆動源は不要である。
【0015】
上記回転ロール4のより好ましい構成を、回転ロール4とロッド6との関係を示す斜視図である図2、および回転ロール4の一部切り欠き側面図である図3を参照して説明する。前記回転ロール4に設けられた溝5は、底部から外周部に向かって扇型に広がっている形状であって、溝5の両側には円盤部7が形成されている。溝5の内壁面と、回転ロール軸方向との角度αを、90〜80度の角度とすることが好ましい。このような角度を採用することでロッド位置を安定させることができるなどの利点があり、これに対して内壁面が直立に近くなる程ロッド径と溝底幅が等しい場合に、ロッドの噛み込みに不都合が生じる場合があり、また、壁面の角度が緩やか過ぎるとロッドの揺動が大きくなり、ロッドの位置が安定しないなどの不都合が生じる場合がある。
【0016】
また、図3に示すように、上記溝5の底部の幅bは、ロッド6の太さ(直径)aによって変化し、ロッドは通常直径aが、1〜4mmであることから、溝5の底部の幅bもロッド6の直径aと同程度の幅、すなわち1〜4mmであることが好ましい。幅bが直径aより著しく大きいとロッド位置を安定させることができないなどの不都合が生じる場合があり、一方、幅bが直径aより小さいとロッドの溝中への噛み込みに不都合が生じる場合がある。
【0017】
また、図3に示すように、前記回転ロール4の溝部5の底外径D1は、通常、約10〜50mmであり、かつ回転ロール4の円盤部7の外径D2は約40〜150mmであることが好ましく、D1とD2との差(D2−D1)が、30mm以上100mm以下であることが好ましい。D1とD2との差(D2−D1)が30mm未満ではロッドが溝から外れるなどの不都合が生じる場合があり、D1とD2との差(D2−D1)が100mmを超えても特別の利益はない。
【0018】
また、前記回転ロール4の溝5のピッチcが、含浸槽1のノズルのピッチc’(図1)と実質的に等ピッチであることが好ましく、実質的に等ピッチでないといずれかのロッド6がノズルに対して垂直方向に引き取ることができず、ロッド6に無理な力がかかってノズル部でロッド6が切れ易くなるなどの問題が生じる場合がある。
【0019】
以上本発明を主として特徴づける回転ロール4の構成について説明したが、その他の構成、すなわち、含浸槽1、冷却装置2および引取装置3の構成などは従来公知の含浸槽、冷却装置および引取装置と同様の構成でよく、特に限定されないが、冷却装置2を冷媒によって冷却する冷媒槽とする場合について以下に述べる構成とすることができる。
【0020】
好ましい冷媒槽2の1例は、図4に示すように、相対する二枚の側板9,9’と相対する二枚の仕切り板10,10’とで形成された冷媒槽2であって、仕切り板10,10’の両方に、不図示のノズル(図5)と略同一水平線上より幾分下方まで、それぞれ切り欠きスリット11が設けられ、これらの切り欠きスリット11内にノズルから引き出された高温のロッド6が通過できるようになっており、冷媒槽2内には水などの冷媒12が満たされていて、高温のロッド6が該冷媒中を通過することによってロッド6が適当な温度に冷却される。図4に示す例では、冷媒槽2が矩形に描かれているが、冷媒槽2は矩形に限定されるものではなく、他の如何なる形状であってもよい。
【0021】
上記本発明の繊維強化成形材料の製造装置の使用方法を図5を参照して以下に説明する。従来技術と同様にしてポリプロピレンやポリアミドなどの熱可塑性樹脂が溶融されている含浸槽1を通して、ガラスなどの強化繊維束に溶融樹脂を含浸させ、得られたロッド6をノズルから直線状に引き抜き、引き抜いたロッドを冷却装置2中に通して冷却後、回転ロール4によりロッドに付着している冷媒(水)を除去し、次いで引取装置で引き取る。その後ペレタイザーで任意の長さに切断してペレット化して繊維強化成形材料が得られる。
【0022】
上記において、回転ロール4の溝の底部が、ロッド6の走行ラインと同一の高さ若しくは走行ラインより幾分高い位置に設置することにより、ロッド6の走行により回転ロール4が確実に回転させられるとともに、ロッド6に付着している冷媒が効率的に除去されるとともに、ロッド6の揺動が防止される。このときロッド6から溝5の底部に移行した冷媒が、回転するロールの遠心力により溝の壁面を伝って円盤部外径方向へと流れていくため、冷媒の存在によるロッドのロール接触部での滑りを抑制することができ、その結果、ロッドとの接触により何らの駆動源を設けることなくロールを確実に回転させ、水切り効果を十分に発揮させることができる。
【0023】
上記のようにロッド6から分離された冷媒の多くは、回転ロール4の下方に滴下するので、回転ロール4の下方には冷媒受パン8を設けておくことが好ましい。また、冷却装置2が図4に示す形態の冷媒槽である場合には、冷媒槽2のスリット11から溢流してくる冷媒を同時に収集できるように、冷媒受パン8を 冷媒槽2の下方まで延長させておくことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、ロッドの軌道を直線的に安定して進行させ、また、ロッドの揺動を抑えるとともに、ロッドの水分(冷媒)過多によるロッドを構成している樹脂の劣化を抑えることで、ロッドの毛羽発生や切断などを防止できる繊維強化成形材料の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の繊維強化成形材料の製造装置の全体を説明する図。
【図2】ロッドと回転ロールとの関係を説明する図。
【図3】回転ロールの構成を説明する図。
【図4】冷却装置の1例の構成を説明する一部切り欠き図。
【図5】本発明の製造装置を用いる繊維強化成形材料の製造を説明する図。
【符号の説明】
【0026】
1:含浸槽
2:冷却装置(冷媒槽)
3:引取装置
4:回転ロール
5:溝
6:ロッド
7:円盤部
8:冷媒受パン
9,9’:側板
10,10’:仕切り板
11:スリット
12:冷媒
13:ペレタイザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させて賦形する含浸槽(1)と、該槽(1)より引き出された樹脂含浸強化繊維束(6)を冷却する冷却装置(2)と、冷却された樹脂含浸強化繊維束(6)を引き取る引取装置(3)とを有する長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置において、前記冷却装置(2)の下流に回転ロール(4)を有し、該回転ロール(4)は前記樹脂含浸強化繊維束(6)と接触する溝(5)を有し、該溝(5)と前記樹脂含浸強化繊維束とが接触する溝底部の幅(b)が、前記樹脂含浸強化繊維束(6)の直径(a)と略同一であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項2】
前記回転ロール(4)が、ナイロン樹脂から構成されている請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記溝(5)が、複数個設けられている請求項1に記載の製造装置。
【請求項4】
前記回転ロール(4)の溝(5)の壁面と、該回転ロール軸方向との角度(α)が、90〜80度である請求項1に記載の製造装置。
【請求項5】
前記回転ロール(4)の溝(5)の底部の幅(b)が、1〜4mmである請求項1に記載の製造装置。
【請求項6】
前記回転ロール(4)の溝部(5)の底外径(D1)と回転ロール(4)の円盤部(7)の外径(D2)との差が、30mm以上である請求項1に記載の製造装置。
【請求項7】
前記回転ロール(4)の溝(5)のピッチ(c)が、含浸槽のノズルのピッチ(c’)と実質的に等ピッチである請求項1に記載の製造装置。
【請求項8】
前記回転ロール(4)の下方に、冷媒受けパン(8)を有する請求項1に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70381(P2007−70381A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255659(P2005−255659)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(306014725)オーウェンスコーニング製造株式会社 (20)
【Fターム(参考)】