説明

開閉ノズル装置

【課題】取鍋からの溶鋼の流出がスラグの流出に切り替るタイミングを適正に検知してノズル孔を閉鎖することのできるスライディングノズル装置を提供する。
【解決手段】取鍋12の底部14に設けた注湯口16の下側の位置で開閉するノズル孔28を有し、ノズル孔28の開状態の下で注湯口16から流出した溶鋼15をタンディッシュに注入するスライディングノズル装置に、取鍋からの溶鋼をノズル孔に流しながら、ノズル孔にガス供給してガスバブリングさせるガス供給管路と、ガス供給管路の背圧の大きさを連続して検知する圧力検知手段とを有し、取鍋からの流れが溶鋼からスラグに切り替ることにより発生する背圧の急激な圧力変化に基づいてスラグ検知するスラグ検知装置を備えておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、連続鋳造設備において取鍋底部の注湯口の下側の位置でノズル孔を開閉し、ノズル孔開状態の下で取鍋底部の注湯口から流出した溶鋼を下方のタンディッシュに注入する開閉ノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、取鍋に受けた溶鋼を一旦タンディッシュへと移し、そしてそのタンディッシュより溶鋼を水冷鋳型に連続的に供給しつつ、水冷鋳型より鋳片を連続的に引き抜いて鋳造を行う連続鋳造が広く実施されている。
【0003】
この連続鋳造を行うための連続鋳造設備では、取鍋の注湯口の下側の位置で開閉するノズル孔を有し、ノズル孔の開状態の下で注湯口から流出した溶鋼をノズル孔を流通させて下方のタンディッシュに注入する開閉ノズル装置が用いられている。
従来、この開閉ノズル装置としてスライディングノズル装置が一般に用いられている。
【0004】
このスライディングノズル装置は、取鍋の注湯口に連通した固定ノズル孔を備え、取鍋の底部の下側に固定された上プレートと、可動ノズル孔を備え、可動ノズル孔を固定ノズル孔に連通させる位置と非連通とする位置との間でスライド可能に設けられたスライディングプレートとを有しており、固定ノズル孔と可動ノズル孔とを含んで構成される上記のノズル孔をスライディングプレートの移動により開閉して、取鍋内部の溶鋼を下方のタンディッシュに向けて注入及び注入停止させる。
【0005】
このスライディングノズル装置では、可動ノズル孔を固定ノズル孔と合致させ、ノズル孔を開状態とすることで、取鍋の注湯口から流出した溶鋼をノズル孔を流通させてタンディッシュへと注入する。
そして取鍋内の溶鋼をタンディッシュへと移したところで、スライディングプレートをスライド移動させて可動ノズル孔を固定ノズル孔と非連通とし、ノズル孔を閉鎖することで取鍋内のスラグがタンディッシュへと入り込むのを防止する。
【0006】
取鍋の内部で溶鋼上に浮いたスラグは、それ以前の精錬の工程で介在物を吸着し終わった、言わば役目を終えたスラグであり、このようなスラグがタンディッシュへの溶鋼注入の度にタンディッシュ内に入り込んでしまうと、タンディッシュ内の溶鋼がスラグで汚染され、このことが鋼の品質を低下させる大きな要因となる。
【0007】
そのため、従来にあっては取鍋内部の溶鋼が流出し終わって、スラグの流出に切り替る直前のタイミングでスライディングプレートを移動させ、ノズル孔を閉じるようにしているが、実際には溶鋼からスラグに流れが切り替る直前の適正なタイミングでスライディングノズル装置を閉動作させることは、取鍋の内部を外側から目視できないこともあって困難であった。
この場合、安全を見て早目にノズル孔を閉じれば、取鍋内のスラグがタンディッシュに入り込むのを防ぐことができるが、その場合には取鍋内に溶鋼が残ってこれが余り湯となり、歩留りを悪化させてしまう。
一方ノズル孔を閉鎖するタイミングが遅過ぎると、取鍋内のスラグがタンディッシュに流入して溶鋼を汚染し、鋼の品質を悪化させてしまう。
【0008】
従来、取鍋からの溶鋼の流出がスラグの流出に切り替るタイミングを知るための手段として、オペレータが取鍋の注湯口近傍に棒を当てて、棒の振動が変化するのを感知することでスラグへの切替りを判断するといったことも行っているが、その振動の変化は微妙であって、振動変化を正しく感知するためには熟練が必要であるとともに、振動変化の感知による判断はオペレータの技能によるものであるためにオペレータによる個人差が避け得ず、ばらつきが発生してしまう。
【0009】
他の手段として、取鍋の注湯口周辺に磁束密度検出センサを設置し、電磁誘導を利用してスラグ検知するといったことも行われている。
例えばこの種のスラグ検知装置を設置してスラグ検知する点が下記特許文献1に開示されている。
しかしながらこの装置はコストが極めて高いといった問題があり、取鍋が多数である場合にこれら全てにこのような装置を設置するといったことはコスト的に実現が困難である。
【0010】
尚、本発明に対する先行技術として、下記特許文献2には「鋳型内溶鋼レベル検知方法」についての発明が示され、そこにおいて連続鋳造設備において、鋳型内の所定レベルに、Arガスを供給する背圧検知用配管をセットし、鋳型内の溶鋼の湯面レベルが配管の先端に到達したときの背圧の急上昇の感知に基づいて、鋳型内の湯面レベルの到達を検知する点が開示されている。
しかしながらこのものは、鋳型内部の湯面レベルを検出するものであって、取鍋からの流出が溶鋼からスラグに切り替るのを検出できるものではなく、この点で本発明とは別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−241077号公報
【特許文献2】特開平3−221251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情を背景とし、取鍋からの溶鋼の流出がスラグの流出に切り替るタイミングを適正に検知し得、これに基づいてノズル孔を閉鎖して取鍋内のスラグがタンディッシュに入り込むのを有効に防止でき、また取鍋内に余り湯が残る問題を安価に解決することのできる開閉ノズル装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して請求項1のものは、取鍋の底部に設けた注湯口の下側の位置で開閉するノズル孔を有し、該ノズル孔の開状態の下で該注湯口から流出した溶鋼を該ノズル孔を流通させて下方のタンディッシュに注入する開閉ノズル装置であって、前記取鍋の注湯口から流出した溶鋼を前記タンディッシュに向けて前記ノズル孔に流しながら、該ノズル孔にガス供給して該ノズル孔内の溶鋼流にガスバブリングさせるガス供給管路と、該ガス供給中の該ガス供給管路の背圧の大きさを連続して検知する圧力検知手段とを有し、前記取鍋からの流れが前記溶鋼からスラグに切り替ることにより発生する前記背圧の急激な減少変化に基づいてスラグ検知するスラグ検知装置を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2のものは、請求項1において、前記開閉ノズル装置が、(a)前記取鍋の注湯口に連通した固定ノズル孔を備え、該取鍋の底部の下側に固定された上プレートと、(b)可動ノズル孔を備え、該可動ノズル孔を前記固定ノズル孔に連通させる位置と非連通とする位置との間でスライド可能に設けられたスライディングプレートと、を有し、前記固定ノズル孔と可動ノズル孔とを含んで構成される前記ノズル孔を、前記スライディングプレートの移動により開閉するスライディングノズル装置として構成してあり、前記ガス供給管路が前記上プレートの固定ノズル孔にガス供給するものとなしてあることを特徴とする。
【0015】
請求項3のものは、請求項2において、前記ガス供給管路が前記上プレートの上流側で第1分岐管路と第2分岐管路とに分岐しており、該第1分岐管路が、前記注湯口を閉栓している詰砂をガスのジェット噴射により前記取鍋内に吹き飛ばし、該注湯口を開栓するのに必要な高圧,大流量でガスを供給する大流量ラインとして、前記第2分岐管路が、前記ガスバブリングに必要な且つ該第1分岐管路よりも低圧,小流量でガス供給する小流量ラインとして構成してあるとともに、前記ガス供給管路には、ガス流れを該第1分岐管路と第2分岐管路との間で切り替える切替手段が設けてあることを特徴とする。
【0016】
請求項4のものは、請求項2,3の何れかにおいて、前記圧力検知手段により検知された前記背圧の、設定時間内の変化量を予め定めてある設定変化量と比較し、該背圧の変化量が該設定変化量を超えたと判定したときに前記背圧の急激な減少変化が生じたものとして、前記スライディングプレートの駆動装置を閉方向に作動させる制御部を更に備え、スラグ検知により自動的に前記ノズル孔を閉鎖するものとなしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0017】
以上のように本発明は、取鍋の注湯口から流出した溶鋼をタンディッシュに向けてノズル孔に流しながらノズル孔にガス供給して、ノズル孔内の溶鋼流にガスバブリングさせるガス供給管路と、ガス供給管路の背圧の大きさを連続して検知する圧力検知手段とを有し、取鍋からの流れが溶鋼からスラグに切り替ることにより発生する背圧の急激な減少変化に基づいてスラグ検知するスラグ検知装置を、ノズル孔の開閉によりタンディッシュに向けての取鍋からの溶湯の注入を制御する開閉ノズル装置に備えたのものである。
【0018】
本発明は次のような原理を利用したものである。
本発明の開閉ノズル装置に備えられたスラグ検知装置において、所定圧力の下でガス供給管路を通じノズル孔に供給されたガスは、溶鋼による圧力に抗してノズル孔内に吹き出され、ノズル孔内の溶湯流に気泡発生させる。即ちガスバブリングさせる。尚ノズル孔内で溶鋼中に生じた気泡は溶鋼流とともに下方に流れて行く。
【0019】
而して取鍋から溶鋼が流出し、ノズル孔を通過して流れ続けている間溶鋼による圧力は漸次減少するもののその変化は連続的且つ滑らかであり、特に取鍋内の溶鋼の残量が少なくなった末期においては溶鋼により加わる圧力、つまりガス供給管路に生ずる背圧の大きさは、取鍋からの注湯開始から終了までにかかる時間に対して数秒〜10秒程度の微少時間内においてはほぼ一定とみなすことができ、急激な変化を生じることもない。
しかしながら取鍋からの流れが溶鋼からスラグに切り替ると、溶鋼に比べて軽量なスラグにより加わる圧力がそこで急激に低下するため、ノズル孔内へのガスの吹出しのための抵抗力が弱くなって、その結果ガス供給管路に生じている背圧の大きさがそこで急激に減少変化する。
【0020】
そこで本発明ではこの現象を利用し、ガス供給管路に発生する背圧の急激な減少変化を検知することでスラグ検知、即ち取鍋からの流れが溶鋼からスラグに切り替ったことを検知するようになしたもので、かかる本発明によれば、取鍋からの流れが溶鋼からスラグに切り替ったそのタイミングで瞬間的にこれを検知することができる。
そしてこれに基づいてノズル孔を閉鎖し、取鍋からタンディッシュに向けての流れを停止させることで、取鍋内のスラグがタンディッシュ内に入り込むのを防ぐことが可能となる。
【0021】
また本発明によればスラグ検知を瞬間的に行い得て、溶鋼からスラグへの流れの切替りのタイミングでその流れを遮断することができるため、タンディッシュにスラグが流れ込むのを防止できる一方で、ノズル孔の閉鎖を早く行い過ぎることによって取鍋内に余り湯を多く生ぜしめてしまうのを防止でき、歩留り率の向上を併せて実現することができる。
【0022】
しかも本発明では、単に取鍋からの溶鋼をタンディッシュに向けてノズル孔に流しながら、ノズル孔にガス供給してガスバブリングさせ、ガス供給管路の背圧の急激な減少変化を検知するだけでスラグ検知できるため、装置を安価に構成することができる。
【0023】
本発明では、開閉ノズル装置を様々な形態で構成することが可能であるが、請求項2に従ってかかる開閉ノズル装置を、固定ノズル孔を備えた固定側の上プレートと、可動ノズル孔を備え、可動ノズル孔を固定ノズル孔に連通させる位置と非連通とする位置との間でスライド可能なスライディングプレートとを有し、固定ノズル孔と可動ノズル孔とを含んで構成される上記のノズル孔をスライディングプレートの移動により開閉するスライディングノズル装置として構成し、そしてガス供給管路を上記上プレートの固定ノズル孔にガス供給するものとなしておくことができる。
【0024】
この場合において、ガス供給管路を上プレートの上流側で第1分岐管路と第2分岐管路とに分岐させ、その第1分岐管路を、注湯口を閉栓している詰砂をガスのジェット噴射により取鍋内に吹き飛ばし、注湯口を開栓するのに必要な高圧,大流量でガス供給する大流量ラインとして、また第2分岐管路を、上記のガスバブリングに必要な且つ第1分岐管路よりも低圧,小流量でガス供給する小流量ラインとしてそれぞれ構成するとともに、ガス供給管路に、ガス流れを第1分岐管路と第2分岐管路との間で切り替える切替手段を設けておくことができる(請求項3)。
【0025】
連続鋳造設備において、取鍋は溶解炉から溶鋼を受けてタンディッシュの上方へと持ち来されるが、このときには取鍋底部の注湯口には詰砂が施されていて、注湯口は閉栓された状態にある。
従ってタンディッシュの上方に持ち来された取鍋から溶鋼をタンディッシュへと注入するためには、先ずその詰砂を除いて注湯口を開栓する必要がある。
【0026】
そしてその開栓の手段として、固定ノズル孔及び可動ノズル孔を含んで構成されるノズル孔閉状態の下でガス供給管路を通じて高圧,大流量でスライディングノズル装置の上プレートの固定ノズル孔から取鍋底部の注湯口に向けて勢い良くガス噴射し、注湯口の詰砂を取鍋内に吹き飛ばすといったことが従来行われている。
即ちそのような装置が従来設置されている。
【0027】
請求項3はこの装置を利用し、高圧,大流量でガス供給する管路に、ガスバブリングするのに必要な低圧,小流量でガス供給する管路を第2分岐管路として設け、即ち高圧,大流量でガス供給する第1分岐管路と低圧,小流量でガス供給する第2分岐管路とをガス供給管路に分岐して設けて、それらの間で切替手段により流路切替えをなすようにし、注湯口を開栓する際には第1分岐管路を通じてガス供給し、そして開栓後にノズル孔を開いて注湯開始した後において流路を第1分岐管路から第2分岐管路に切り替えて、ノズル孔に溶鋼を流しながらガスバブリングさせ、溶鋼からスラグへの流れの切替りを検知するようになしたもので、本発明によれば、従来の設備の一部を利用してスラグ検知装置を構成することが可能となり、装置のための所要コストをより一層安価となすことができる。
尚この場合において第2分岐管路には、元圧力を減圧して一定の低圧力でガス供給するための減圧弁を設けておくことができる。
【0028】
本発明では、圧力検知手段により検知された上記背圧の、設定時間内の変化量を予め定めてある設定変化量と比較し、背圧の変化量が設定変化量を超えたと判定したときに、背圧の急激な減少変化が生じたものとして、スライディングプレートの駆動装置を閉方向に作動させる制御部を備え、スラグ検知により自動的にノズル孔を閉鎖するものとなしておくことができる(請求項4)。
【0029】
このようにすれば、スラグ検知に基づいて作業者が操作し、スライディングプレートを移動させてノズル孔を閉鎖させるのに比べて、速やかにノズル孔を閉鎖させることができるとともにこれを自動化でき、省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態である連続鋳造設備におけるスライディングノズル装置をタンディッシュ及び取鍋とともに示した図である。
【図2】図1のスライディングノズル装置の要部拡大図である。
【図3】同実施形態におけるスラグ検知装置を示した図である。
【図4】第2分岐管路における背圧の圧力変化を示した図である。
【図5】同実施形態の作用説明図である。
【図6】同実施形態の図5とは異なる作用状態の作用説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は連続鋳造設備におけるタンディッシュで、12は取鍋である。
連続鋳造では、溶解炉で溶解した溶鋼を取鍋12で受けて、取鍋12をタンディッシュ10の上方に持ち来し、取鍋12内の溶鋼をタンディッシュ10へと注入する。
そしてタンディッシュ10内の溶鋼を下方の水冷鋳型に連続的に供給し、水冷鋳型によって連続的に凝固させて行く。
そしてその凝固体である鋳片を水冷鋳型から連続的に引き抜いて行く。
【0032】
図2において、取鍋12の底部14には注湯口16が設けられている。
取鍋12内の溶鋼15は、この注湯口16から図1のタンディッシュ10に向けて流出せしめられる。
18は、スライディングノズル装置(開閉ノズル装置)におけるスライディングノズル部で、注湯口16に連通した固定ノズル孔20を備え、取鍋12の底部の下側に固定された耐火材製の上プレート22と可動ノズル孔24を備え、可動ノズル孔24を固定ノズル孔20に連通させる位置と非連通とする位置との間で図中左右方向にスライド可能に設けられた、下プレートとしてのスライディングプレート26とを有している。
【0033】
スライディングプレート26には駆動部としての油圧シリンダ30が連結されており、スライディングプレート26は、この油圧シリンダ30により駆動されて金属製の支持枠32上を図中左右方向にスライド移動せしめられる。
尚、28は上プレート22の固定ノズル孔20と、スライディングプレート26の可動ノズル孔24とで構成されるノズル孔で、このノズル孔28は、スライディングプレート26の移動によって開閉せしめられ、或いはその開度が調節される。
【0034】
このスライディングプレート26にはまた、その下側にロングノズル(浸漬ノズル)34が固設されていて、このロングノズル34が、スライディングプレート26と一体に図中左右方向に移動せしめられる。
このロングノズル34は、図1に示しているようにタンディッシュ10内のスラグ38(このスラグ38は精錬能を有するスラグである)を貫通して、その内部の溶鋼15中に浸漬せしめられる。
従ってロングノズル34内の通路36を下向きに流れる溶鋼は、タンディッシュ10内のスラグ38を溶鋼15に巻き込むことなく内部に流入する。
尚、取鍋12においてもその内部にスラグ40が溶鋼15上に形成されている。但しこのスラグ40は先の精錬工程で介在物を吸着し終った、いわば役目を終えたスラグで、実質精錬能を有しないスラグである。
【0035】
上プレート22には、図3に示すスラグ検知装置46におけるガス供給管路48の一部をなす内部管路48aが、固定ノズル孔20に開口する状態で設けられている。
そしてこの内部管路48aに対し、ガス供給管路48の外部管路をなす配管48bが接続されている。
図3に、これら内部管路48a,配管48bを含むガス供給管路48を備えたスラグ検知装置46の要部が示してある。
【0036】
図3において、ガス供給管路48は、上プレート22の上流側で大流量ラインをなす第1分岐管路48-1と、小流量ラインをなす第2分岐管路48-2とに分岐している。
尚これら第1分岐管路48-1と第2分岐管路48-2とは、ガス供給源の側で互いに繋がっている。
ガス供給源からのガス(ここでは不活性ガスとしてのArガス)は、これら第1分岐管路48-1,第2分岐管路48-2の何れかを流通して上プレート22の固定ノズル孔20に到り、そこから噴出される。
【0037】
第1分岐管路48-1は、取鍋12の注湯口16を閉栓している詰砂をガスのジェット噴射により取鍋12内に吹き飛ばし、注湯口16を開栓するのに必要な高圧,大流量でガスを供給するための管路である。
ここでは0.7MPaの高圧で、また100L(リットル)/minの大流量で2〜3minの短時間ガス供給を行う。
【0038】
一方第2分岐管路48-2は、取鍋12の注湯口16から流出した溶鋼15を、タンディッシュ10に向けて上記のノズル孔28に流しながら固定ノズル孔20にガスを吹き出し、溶鋼中に気泡発生させガスバブリングさせるための管路で、ここでは溶鋼の注入速度の変化に応じ例えば0.04〜0.1MPaの低圧力で且つ5〜10L/minの小流量でガス供給を行う。
この第2分岐管路48-2を通じてのガス供給は、取鍋12内の溶鋼をタンディッシュ10に移し終わるまで継続して行う。
【0039】
ここで第1分岐管路48-1には、上流側から順に圧力計54,流量調節のためのニードルバルブ56,流量計58,開閉バルブ60が設けられており、また第2分岐管路48-2には、上流側から順に開閉バルブ62,減圧弁64,66,流量計68が設けられている。
また減圧弁66と流量計68との間の部位において、ガス供給管路48の圧力(背圧)を連続的に検知して信号出力する圧力発信機(圧力検知手段)70が設けられている。
尚、第1分岐管路48-1における開閉バルブ60と、第2分岐管路48-2における開閉バルブ62とは、ガス流れを第1分岐管路48-1から第2分岐管路48-2に或いはその逆に切り替える切替バルブをなしている。
【0040】
72は、ガス供給管路48に設けられた接続部で、ガス供給管路48はこの接続部72で、上プレート22側の管路と、これより下流側の管路とが、この接続部72で脱着可能に接続される。
上プレート22側の管路には開閉バルブ74が設けられている。上プレート22側の管路は、この開閉バルブ74を閉じた上で下流側の管路から接続解除される。
【0041】
上記第2分岐管路48-2において、減圧弁64,66が2段階に設けられているのは、元圧を2段階に減圧して固定ノズル孔20にガス供給するためであるが、第2分岐管路48-2に減圧弁を1つだけ設けておくことも可能である。
第2分岐管路48-2において、減圧弁66よりも下流側ではガスが低圧且つ一定圧力の下で固定ノズル孔20に供給される。
尚第2分岐管路48-2を通じて低圧で固定ノズル孔20にガス供給するのは、取鍋12からの流れが溶鋼からスラグへと切り替ったときの圧力変化が微妙な圧力変化であるため、これを鋭敏に感知できるようにするためである。
【0042】
上記圧力発信機70からの出力信号は、制御部76に入力される。
制御部76は、この圧力発信機70からの信号を受け、そして設定時間内の変化量を予め定めてある設定変化量と比較し、背圧の変化量が設定変化量を超えたときには、背圧の急激な減少変化が生じたものとして、取鍋12からの流れが溶鋼からスラグの流れに切り替ったものと判断し、油圧シリンダ30に閉信号を出力して、油圧シリンダ30によりスライディングプレート26をスライド移動させ、ノズル孔28を閉鎖せしめる。
即ちここでは制御部76が、圧力発信機70により検知された背圧の、設定時間内の変化量を検知する圧力変化検知手段,検知した圧力の変化量と予め定めてある設定変化量とを比較する比較手段,背圧の変化量が設定変化量を超えたか否かを判定する判定手段、及びその判定結果に基づいて駆動部としての油圧シリンダを進退移動させる進退移動手段を成している。
但し本発明では、圧力発信機70からの信号に基づいて背圧を所定の表示手段にて連続的に表示し、その表示による背圧の変化に基づいて、オペレータが操作を行ってスライディングプレート26を閉方向に移動させるようになすこともできる。
【0043】
次に本実施形態の作用を説明する。
溶解炉からの溶鋼15を受けてタンディッシュ10の上方に持ち来された取鍋12は、その時点で注湯口16が図5(B)に示しているように詰砂にて閉栓された状態にある。
従ってこの状態では取鍋12内の溶鋼15をタンディッシュ10に向けて注入することはできない。
【0044】
そこでここでは、ノズル孔28を閉じた状態の下で、図5(A)に示すように先ず大流量ラインをなす第1分岐管路48-1側に流路を切り替えた状態で、ガス供給管路48を通じ固定ノズル孔20に高圧且つ大流量でガス供給して固定ノズル孔20から噴射させる。
そしてそのガス噴射によって注湯口16の詰砂を取鍋12内に吹き飛ばし、注湯口16を開栓する。
【0045】
その後、スライディングプレート26を移動させて図6(B)に示すようにノズル孔28を開放し、取鍋12内の溶鋼15をノズル孔28を流通させて、ロングノズル34からタンディッシュ10内に流入させる。即ち取鍋12内の溶鋼15をタンディッシュ10に注入する。
尚このときには、図6(A)に示すようにガス供給管路48における流路を第2分岐管路48-2側に切り替え、固定ノズル孔20に低圧且つ小流量でガス供給する。
供給されたガスは固定ノズル孔20から流出して、ノズル孔28を流れる溶鋼流に気泡発生させる。生じた気泡は溶鋼流に乗って下方へと溶鋼15とともに流れて行く。
【0046】
取鍋12からタンディッシュ10に向けて溶鋼流が生じている間の背圧の変化は連続的且つ滑らかな変化であり、特に取鍋12内で溶鋼15の残量が少なくなった末期においては、第2分岐管路48-2に生ずる背圧は数秒〜10秒程度の微少時間内においてはほぼ一定で、変化が生じるとしても緩やか且つ連続した変化であり、急激な圧力変化を生じることはない。
しかるに取鍋12からの流れが溶鋼15からスラグ40に切り替る段階では、第2分岐管路48-2に生ずる背圧は急激な変化を生じる。具体的には背圧が急激に減少変化する。
【0047】
図4は、この第2分岐管路48-2に生ずる背圧の変化、具体的には圧力発信機70にて追跡された第2分岐管路48-2の圧力の変化を、横軸に時間を、また縦軸に圧力を取って示したものである。
尚この図4に示す実測値は、第2分岐管路48-2を通じて初期圧力0.15MPa且つ初期流量5L(/min)でガスを流したときの測定値である。
ここで初期圧力,初期流量は取鍋12からタンディッシュ10に向けて溶鋼を流し始めたときの初期の圧力,流量である。
【0048】
第2分岐管路48-2に生ずる背圧は、取鍋12内の溶鋼の流出に伴って連続的に少しずつ減少して行き、そして取鍋12内で溶鋼15の残量が少なくなった末期においては、その背圧はほぼ一定で、圧力0.062MPaとなっている。そしてあるところで急激に0.060MPaまで低下している。
図中のP点はオペレータが注湯口16周辺に棒を当てて、その棒を介して振動の変化を感知してスラグの流れに変わったと判断したポイントを示している。
【0049】
図4における圧力0.062MPaから0.060MPaへの背圧変化は、スラグへの切替りにより生ずるものであり、従ってこの背圧の圧力変化を検知することでスラグ検知、即ち取鍋12からの流れが溶鋼15からスラグ40に切り替ったことを鋭敏に検知することができる。
尚、背圧の圧力の急激な変化は、設定時間内の圧力の変化量を見ることによって判定することができる。
ここでは2〜3秒の間に0.062MPaから0.060MPaへの圧力の減少変化が生じている。
また圧力の変化量は、溶鋼15のタンディッシュ10への注入末期の0.062MPaに対して3%程度の変化量であり、従ってその変化量として1%以上の変化量を設定しておくことで、溶鋼15からスラグへの切替りを検知することができる。
【0050】
以上のように本実施形態はガス供給管路48、詳しくは第2分岐管路48-2に発生する背圧の急激な減少変化を検知することでスラグ検知、即ち取鍋12からの流れが溶鋼15からスラグ40に切り替ったことを検知するようになしたもので、本実施形態によれば、取鍋12からの流れが溶鋼15からスラグ40に切り替ったそのタイミングで瞬間的にこれを検知することができる。
そしてこれに基づいてノズル孔28を閉鎖し、取鍋12からタンディッシュ10に向けての流れを停止させることで、取鍋12内のスラグ40がタンディッシュ10内に入り込むのを防ぐことが可能となる。
【0051】
また本実施形態によればスラグ検知を瞬間的に行い得て、溶鋼15からスラグ40への流れの切替りのタイミングでその流れを遮断することができるため、タンディッシュ10にスラグ40が流れ込むのを防止できる一方で、ノズル孔28の閉鎖を早く行い過ぎることによって取鍋12内に余り湯が多く生ぜしめてしまうのを防止でき、歩留り率の向上を併せて実現することができる。
【0052】
しかも本実施形態では、単に取鍋12からの溶鋼15をタンディッシュ10に向けてノズル孔28に流しながら、固定ノズル孔20にガス供給してガスバブリングさせ、第2分岐管路48-2の背圧の急激な減少変化を検知するだけでスラグ検知できるため、装置を安価に構成することができる。
【0053】
また本実施形態は注湯口16の詰砂を吹き飛ばしてこれを開栓するために従来備えられている設備の一部を利用してスラグ検知のための装置を構成するものであることから、装置のための所要コストをより一層安価となすことができる。
【0054】
本実施形態では、スラグ検知とこれに基づくノズル孔28の閉鎖を自動的に行うことから、速やかにノズル孔28を閉鎖させることができるとともに、その自動化によって省力化を図ることができる。
【0055】
尚本発明では、図7(A)に示すように制御部76において切替バルブ(開閉バルブ60,62からなる切替バルブ或いはその他の切替バルブ)を切り替え、ガス流れを第1分岐管路48-1と第2分岐管路48-2との間で自動的に切り替えるようになしておくこともできる。
また場合によって、図7(B)に示すように図3における第1分岐管路48-1を除いた形でガス供給管路48を構成し、ガスバブリングによるスラグ検知を行うようになすといったことも可能である。
【0056】
更に、スライディングノズル装置におけるスライディングノズル部18を上,中,下の3枚のプレートで構成して、それぞれに上ノズル孔,中ノズル孔,下ノズル孔を形成し、そして中ノズル孔を可動ノズル孔,中プレートをスライディングプレートとして構成し、そのスライディングプレートの移動によってノズル孔を開閉するようになすことも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 タンディッシュ
12 取鍋
14 底部
15 溶鋼
16 注湯口
18 スライディングノズル部
20 固定ノズル孔
22 上プレート
24 可動ノズル孔
26 スライディングプレート
28 ノズル孔
30 油圧シリンダ
40 スラグ
46 スラグ検知装置
48 ガス供給管路
48-1 第1分岐管路
48-2 第2分岐管路
70 圧力発信機
76 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋の底部に設けた注湯口の下側の位置で開閉するノズル孔を有し、該ノズル孔の開状態の下で該注湯口から流出した溶鋼を該ノズル孔を流通させて下方のタンディッシュに注入する開閉ノズル装置であって、
前記取鍋の注湯口から流出した溶鋼を前記タンディッシュに向けて前記ノズル孔に流しながら、該ノズル孔にガス供給して該ノズル孔内の溶鋼流にガスバブリングさせるガス供給管路と、該ガス供給中の該ガス供給管路の背圧の大きさを連続して検知する圧力検知手段とを有し、前記取鍋からの流れが前記溶鋼からスラグに切り替ることにより発生する前記背圧の急激な減少変化に基づいてスラグ検知するスラグ検知装置を備えたことを特徴とする開閉ノズル装置。
【請求項2】
前記開閉ノズル装置が、(a)前記取鍋の注湯口に連通した固定ノズル孔を備え、該取鍋の底部の下側に固定された上プレートと、(b)可動ノズル孔を備え、該可動ノズル孔を前記固定ノズル孔に連通させる位置と非連通とする位置との間でスライド可能に設けられたスライディングプレートと、を有し、前記固定ノズル孔と可動ノズル孔とを含んで構成される前記ノズル孔を、前記スライディングプレートの移動により開閉するスライディングノズル装置として構成してあり、前記ガス供給管路が前記上プレートの固定ノズル孔にガス供給するものとなしてあることを特徴とする請求項1に記載の開閉ノズル装置。
【請求項3】
前記ガス供給管路が前記上プレートの上流側で第1分岐管路と第2分岐管路とに分岐しており、
該第1分岐管路が、前記注湯口を閉栓している詰砂をガスのジェット噴射により前記取鍋内に吹き飛ばし、該注湯口を開栓するのに必要な高圧,大流量でガスを供給する大流量ラインとして、
前記第2分岐管路が、前記ガスバブリングに必要な且つ該第1分岐管路よりも低圧,小流量でガス供給する小流量ラインとして構成してあるとともに、
前記ガス供給管路には、ガス流れを該第1分岐管路と第2分岐管路との間で切り替える切替手段が設けてあることを特徴とする請求項2に記載の開閉ノズル装置。
【請求項4】
前記圧力検知手段により検知された前記背圧の、設定時間内の変化量を予め定めてある設定変化量と比較し、該背圧の変化量が該設定変化量を超えたと判定したときに前記背圧の急激な減少変化が生じたものとして、前記スライディングプレートの駆動装置を閉方向に作動させる制御部を更に備え、スラグ検知により自動的に前記ノズル孔を閉鎖するものとなしてあることを特徴とする請求項2,3の何れかに記載の開閉ノズル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−16720(P2012−16720A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155090(P2010−155090)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】