説明

関節軟骨、骨、骨軟骨の欠損及び傷害を治療するための非細胞基質インプラント及びその使用方法

本発明は、関接軟骨、骨若しくは骨軟骨の欠損及び損傷を治療するための非細胞基質インプラント、並びに関接軟骨の病変部位内に埋め込んだ非細胞基質インプラント及び骨軟骨若しくは骨欠損部位内に埋め込んだ骨誘導性組成物を用いることにより、傷害若しくは損傷を受け又は病変若しくは老化した関節軟骨又は骨を治療する方法に関するものである。本発明は更に、2層の生物学的に許容されうるシーラント層の間に非細胞基質インプラントを埋め込むことにより、又は骨軟骨又は骨格骨の欠損部位内に骨誘導性組成物を沈着させることにより、或いはこれらの双方の措置を行うことにより、傷害若しくは損傷を受け又は病変又は老化した軟骨又は骨を完全な機能を有するように修復し回復させる方法に関するものでもある。本発明は、本発明の非細胞基質インプラントの製造方法に関するものでもある。また、骨誘導性組成物の調整方法にも関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、関節軟骨、骨、又は骨軟骨の欠損及び傷害を治療するための非細胞基質インプラント及び組成物、並びにこのような骨軟骨の欠損や、傷害若しくは損傷した又は病変若しくは老化した関節軟骨又は骨或いはこれらの双方を、関節軟骨病変内及び骨軟骨欠損部位内に生体位で埋め込んだ非細胞基質インプラントを用い、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアをさらに骨軟骨又は骨欠損部位内に埋め込んで、治療する方法に関する。本発明の非細胞基質インプラントは、2次元又は3次元の生分解性スキャフォルド構造を有していおり、関節軟骨病変内に、典型的には、生物学的に許容されうる1、2又は複数層のシーラントの下若しくは上、又は2層のシーラントの間に埋め込まれる。このようなインプラント及び方法は特に、若年者における、傷害性又は外傷性の関節軟骨、骨、又は骨軟骨欠損の機能の修復及び回復に有用である。本発明は特に、本発明の非細胞基質インプラントを埋め込むことで、軟骨細胞が活性化して、病変していない周囲の軟骨から軟骨欠損部位内に軟骨細胞が移動すること、及び非細胞基質インプラントと組み合わせて又はインプラントなしで、骨誘導性組成物を骨軟骨性欠損部位内及び骨欠損部位内の双方又はいずれか一方に沈着することにより骨の形成を誘導することの双方又はいずれか一方により、軟骨の自然な治癒を開始させ、治癒する方法に関する。
【0002】
本方法は更に、底部シーラントを被着することにより軟骨病変部位を細胞及び血液の破片から隔離するとともに、頂部シーラントを軟骨病変部位の上に被着することにより、関節軟骨内の病変部位を覆い封止する新たな表層性軟骨層を形成することに関する。このような表層性軟骨層は、底部シーラントを用いて軟骨及び骨病変部位を封止して隔離するとともに、頂部シーラントを用いて表層性軟骨層を形成すれば、骨軟骨、軟骨及び骨病変部位にも用いることができる。
【0003】
関節軟骨の治療方法は、非細胞インプラントを調製するステップと、このインプラントを埋め込む病変部位を準備する準備ステップであって関節軟骨病変を封止しインプラントを血液由来の物質の影響から保護するために底部シーラントを軟骨病変部位の底部に沈着するステップを有する当該準備ステップと、本発明のインプラントをこの病変部位内に埋め込むステップと、このインプラント上に頂部シーラントを沈着するステップとを含む。骨軟骨欠損の治療方法は更に、一般には、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着し、この骨病変部位を底部シーラントによって覆い、これによりこの骨病変部位と軟骨病変部位とを分離させるステップを有する。骨欠損部位を治療する方法は、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位に沈着するステップを有しており、任意であるが、この骨病変部位は底部又は頂部シーラントで裏打ち又は被覆してもよい。
【0004】
本発明は更に、生物学に許容されうる2層以上のシーラント間の軟骨病変部位に、非細胞基質インプラントを埋め込む処理を行い、或いは骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着させ、この骨誘導性組成物組成物又は前記組成物を有するキャリアを底部シーラントで被覆し、軟骨病変部位内に非細胞基質インプラントを埋め込む処理を行い、或いはこれら双方の処理を行い、このインプラントを頂部シーラントで被覆することにより、傷害若しくは損傷された又は病変若しくは老化した軟骨及び骨を完全に機能的な状態に修復又は回復させる方法、及び傷害された軟骨を治療する方法に関する。
【0005】
加えて、本発明は、軟骨病変部位の治療に用いる本発明の非細胞インプラントを製造する方法、並びに骨又は骨軟骨欠損部位の治療に用いる骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを調製する方法に関する。
【0006】
背景技術及び関連出願
活発な人及び老人に起こる関節軟骨への損害は、急性又は反復性の外傷や老化により、極めて頻繁に起こる。このような損傷した軟骨は疼痛を伴い、移動するのに影響を与え、衰弱性の障害を引き起こす。
【0007】
代表的な治療選択肢には、病変や症状の重傷度にもよるが、安静及び他の対症療法や、損傷した軟骨領域の表面を清掃して平滑にする関節鏡的小手術や、微小破壊、穿孔及び剥離のような他の外科手術がある。これらの治療法は全て、症状を緩和することはできるが、特に患者が手術前の活動レベルを維持する場合には、この効果は通常一時的なものでしかない。これらの治療法は全て症状を軽減しうるが、特にその人の傷害前の活動レベルが維持されるとすれば、その効果は通常、一時的なものでしかない。現在、年間約200,000件の膝関節全体の置換手術が行われている。人工関節は一般に、10〜15年しかもたないため、一般的に50歳以下の人には推奨されない。
【0008】
骨軟骨疾患又は傷害は、骨及び軟骨の複合病変であり、治療にはまだ課題が残っており、現在利用可能な手順及び方法ではこのような治療における要求は満たされていない。例えば、文献J. Bone and Joint Surgery(2003);85Aの補遺2第17〜24頁に記載されている、自己軟骨細胞移植による離断性骨軟骨炎の治療では、複数の手術が必要であり、細胞の培養及び成長に少なくとも3週間が必要となる。
【0009】
従って、1回の手術で軟骨又は骨を傷害前の状態に効果的に治療し、回復までにかかる時間も最小限ですむような、このような病変の生位置治療法が利用可能となることは極めて有利であり、このような治療法は特に、より活動的でより回復能力の高い若年者に好適である。
【0010】
関節軟骨の修復手段及び方法を提供する試みは、例えば、米国特許第5,723,331号、第5,786,217号、第6,150,163号、第6,294,202号、及び第6,322,563号明細書、並びに米国特許出願第09/896912号(2001年6月29日出願)明細書に開示されている。
【0011】
米国特許第5,723,331号には、接着性表面を有する生体外のウェルに接種して生体外で増殖させた軟骨由来の細胞を用いた、関節軟骨を修復するための合成軟骨を調製する方法及びその組成物が記載されている。これらの細胞は、再分化して軟骨特異的な細胞外基質を分泌し始め、これにより、無限の合成軟骨を関節欠損部位に手術的に付与する。
【0012】
米国特許第5,786,217号では、多細胞層の合成軟骨パッチを調整する方法が記載されている。この調製方法は、上述した米国特許第5,723,331号のものとほぼ同じであるが、剥離した細胞が分化しない点と、細胞の培養を、細胞が分化して多細胞層の合成軟骨を形成するのに必要な時間だけ行うという点において異なっている。
【0013】
米国特許出願第09/896,912号(2001年6月29日出願)は、軟骨、半月板、靭帯、腱、骨、皮膚、角膜、歯周組織、膿瘍、切除腫瘍及び潰瘍を、組織に接着して組織修復のための細胞増殖を支持するような少なくとも1種類の血液成分と組み合わせて、組織内に温度依存性高分子ゲルを導入することによって修復する方法に関する。本明細書に参考として組み込んだ、本発明者による米国特許出願第10/104,677号、第10/625,822号、第10/625,245号及び、第10/626,459号(2003年7月22日出願)明細書では、傷害を受けた又は損傷した関節軟骨の修復に好適なある特定の条件のアルゴリズムで処理された、軟骨構造体が開示されている。
【0014】
しかし、上述した引用文献はいずれも、複数回の手術の必要とせずに骨又は軟骨を生体位で修復及び再生することはできない。
【0015】
従って、本発明の主な目的は、生物学的に許容されうる少なくとも2層の独立した接着性シーラントを沈着し、これにより傷害を受けた病変部位内に病変腔を形成し、これら2層のシーラント間の病変腔に非細胞インプラントを埋め込み、さらに、骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを用いて、この組成物を骨軟骨欠損部位の骨病変部位内に埋め込み、軟骨欠損部位内に非細胞基質インプラントを埋め込むことにより、傷害又は外傷を受けた軟骨、骨又は軟骨骨欠損部位を治療する方法及び手段を提供することである。本発明による方法により、軟骨細胞の活性化、及び周囲の病変していない軟骨から非細胞インプラント基質への軟骨細胞の移動が誘導され、表層性軟骨層がインプラントの上に成長することにより、病変部位が被覆され、この方法を骨軟骨欠損部位の治療に用いた場合には、骨芽細胞が骨病変部位内に移動し、関節軟骨の欠損だけでなく骨の欠損も治癒される。本願明細書において引用する全ての特許、特許出願及び刊行物は、参考として記載したものである。
【0016】
発明の概要
本発明の態様の一つは、関節軟骨の欠損及び傷害の治療のための非細胞基質インプラントである。
【0017】
本発明の他の態様は、骨軟骨欠損及び傷害の治療のための、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアと組み合わせて用いる非細胞基質インプラントである。
【0018】
本発明の更に別の態様は、骨欠損又は傷害の治療のために骨病変部位内に埋め込む、骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアを有する非細胞骨インプラントである。
【0019】
本発明の更にもう一つの態様は、本発明の非細胞基質インプラントの製造方法である。
【0020】
本発明の更に別の態様は、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、カプロラクトン高分子又は芳香族性有機酸からなる高分子である非細胞基質インプラントの調製方法である。
【0021】
本発明の更に別の態様は、傷害若しくは損傷を受けた、又は病変若しくは老化した軟骨を、非細胞インプラントを用いてこれを生体位で関節軟骨病変部位に埋め込み治療する方法である。
【0022】
本発明の更に別の態様は、本発明の非細胞基質インプラントを埋め込むことにより、軟骨細胞を活性化させ、軟骨欠損部位内に埋め込まれた非細胞基質インプラント内へ周囲の病変していない軟骨から軟骨細胞を移動せしめる方法で用いられる非細胞基質インプラント。
【0023】
本発明の更に別の態様は、非細胞インプラントを埋め込むとともに、骨誘導性組成物若しくはこの組成物を有するキャリアを、生体位で骨軟骨病変部位内へ沈着させることにより、骨軟骨欠損を治療する方法である。
【0024】
本発明の更に別の態様は、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、若しくはこれらの共重合体、又は骨形態形成タンパクといった骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物及びこの組成物を有するキャリアであって、この組成物を骨病変部位内に沈着することにより骨軟骨細胞の移動を生ぜしめ、下方に存在する骨を自然に治癒させる方法に用いられる当該骨誘導性組成物及びこの組成物を有するキャリアである。
【0025】
更にまた、本発明の他の態様は、軟骨病変部位内に非細胞基質インプラントを埋め込むのと組み合わせて、骨軟骨欠損の骨病変部位内に沈着させる骨軟骨欠損の治療に有用な骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアである。
【0026】
更にまた、本発明の他の態様は、骨の傷害又は欠損によって生じた骨病変部位を治療する方法であって、この骨病変部位に骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを沈着させることによって達成される治療方法である。
【0027】
本発明の更に別の態様は、例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸若しくはこれらの共重合体、又は骨形態形成タンパク質、を単独で又は組み合わせて含む骨誘導性組成物又はこの組成物を、基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド、カプロラクトン高分子、芳香族性有機酸高分子といった担体に組み込んだキャリアであって、この組成物を骨病変部位内に沈着させることにより骨芽細胞の移動を生ぜしめ、下方に存在する骨を自然に回復させる方法に用いられるものである。
【0028】
更にまた、本発明の他の態様は、適切な場合には軟骨病変部位内に非細胞基質インプラントを埋め込むのと組み合わせて、骨軟骨欠損の骨病変部位内に沈着させる骨軟骨欠損の治療に有用な骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアである。
【0029】
本発明の更にもう一つの態様は、関節軟骨病変部位内に埋め込んだ非細胞基質インプラントを用いて、傷害若しくは損傷を受け、又は病変若しくは老化した関節軟骨を治療する方法であって、頂部シーラントを病変部位上に被着させて、関節軟骨の病変部位を被覆してこれを封止する新たな表層性軟骨層を形成するとともに、更に底部シーラントを病変部位の底部に被着し、この底部に被着した底部シーラントにより、細胞及び血液中の破片が軟骨下領域から病変部位内に移動するのを防ぐことで病変部位を保護させる処理を有する方法である。
【0030】
本発明の他の態様は、骨誘導性組成物、又は骨誘導性薬剤を有するこの組成物を有したキャリアを骨病変部位内に沈着し、この骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアの上に底部シーラントを沈着し、非細胞基質インプラントを関節病変部位内に埋め込み、非細胞基質インプラントの上に頂部シーラントを沈着することによって、骨軟骨欠損を治療する方法である。
【0031】
本発明の更に別の態様は、軟骨又は骨病変部位の治療に用いる非細胞基質インプラントであって、生物学的に許容されうる頂部及び底部の2層のシーラント間にある関節軟骨病変部位内に埋め込まれる、2次元又は3次元の生分解性スポンジ、ハニカム、ヒドロゲル、スキャフォルド、カプロラクトン高分子又は芳香族性有機酸基質を有する当該非細胞インプラントである。
【0032】
更にまた、本発明の他の態様は、関節軟骨損傷の治療方法であって、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)前記インプラントを埋め込むために軟骨病変部位を準備するステップであって、この病変部位を封止してインプラントを血液由来の物質から保護するために、前記軟骨病変部位の底部にて底部シーラント層を沈着するステップを有する当該準備ステップと、
c)この病変部位内に前記インプラントを埋め込むステップと、
d)この非細胞基質インプラント上に頂部シーラントを沈着するステップと
を有する治療方法である。
【0033】
更にまた、本発明の他の態様は、損傷若しくは障害を受け、又は病変若しくは老化した軟骨を機能的な軟骨に修復及び回復する方法であって、
a)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ハニカム、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、カプロラクトン高分子又は芳香族性有機酸基質の高分子として非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、前記スキャフォルド、前記カプロラクトン高分子、前記芳香族性有機酸の高分子又はTRGHは生分解性であり、時間が経つと分解されて、治癒した病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨に置き換わるようになっており、前記非細胞基質インプラントが、随意的にではあるが、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ、カテプシン及びその他生物学的に活性のある物質のいずれか又はこれらの任意の組み合わせのような基質再構築酵素を含むようにする当該ステップと、
b)前記軟骨病変部位の底部に、生物学的に許容されうる第1の底部シーラントを導入するステップと、
c)前記インプラントを、前記底部シーラントの底部層によって形成された病変腔内に埋め込むステップと、
d)前記インプラントの上に第2の生物学的に許容されうる第2の頂部シーラントを導入するステップであって、この頂部シーラントは、底部の前記底部シーラントと同じものであっても異なるものであってもよく、このインプラントとこの頂部シーラントを組み合わせることにより、前記軟骨病変部位上に表層性軟骨層が形成され成長されるようにする当該ステップと
を有するものである。
【0034】
本発明の更に別の態様は、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)を有する非細胞基質インプラントであって、底部シーラントの上、又は頂部及び底部シーラント間の病変腔内に埋め込まれるものであり、前記TRGHは、コラーゲンスポンジ又はスキャフォルドに組み込まれて、又はゾルとして、前記病変腔内に約5〜約30℃の温度で埋め込まれるものであり、このTRGHは前記病変腔内において、体温で流体のゾルから固体のゲルに変化し、この状態でこのTRGHが存在することにより、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動、及び細胞外基質の形成が構造的に支持されるようになっており、このTRGHは、生分解性であり、経時的に分解し前記病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨により置き換えられるようになっているものである。
【0035】
更にまた、本発明の他の態様は骨軟骨欠損の治療方法であって、
a)骨病変部位内に埋め込むための、1種類又は数種類の骨誘導性薬剤を含む骨誘導生組成物又はこの組成物を含んだキャリアを調製するステップと、
b)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、ハニカム又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質支持体として、軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、前記スキャフォルド又は前記TRGHは生分解性であり、時間が経過すると分解して、病変部位から代謝的に取り除かれ、硝子軟骨に置換されるようになっており、前記非細胞基質は、随意的であるが、基質改変酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを含むようにする当該ステップと、
c)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
d)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを底部シーラントにより被覆するステップと、
e)この底部シーラントの上の前記軟骨病変部位内に前記非細胞基質インプラントを埋め込むステップと、
f)このインプラント上に、頂部シーラント層を導入するステップであって、これら頂部及び底部シーラントは同じものであっても異なるものであってもよく、この非細胞基質インプラントとこの頂部シーラントとを組み合わせることにより、生体位において軟骨病変部位を覆う表層性軟骨層が形成され成長されるようにする当該ステップと
有するものである。
【0036】
本発明の更に別の態様は、骨軟骨欠損を治療するための骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアであって、これは温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)と組み合わせて用いられ、これらは骨又は軟骨病変内に別々に沈着される。この組成物は、骨の再構築及び骨芽細胞の骨病変部位内への移動の手段を提供する。また、この組成物は、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動、及び細胞外基質の形成を構造的に支持する。
【0037】
図1Aは、傷害を受けていない骨を下方に有するホスト軟骨内の軟骨病変部位の線図的拡大図であり、この病変部位の底部に沈着した底部シーラントと、この底部シーラントの上に埋め込まれ、頂部シーラントで被覆された非細胞基質インプラントが示されている。
図1Bは、骨軟骨欠損の線図的拡大図であり、関節病変部位、及び骨病変部位と、この骨病変部位での骨誘導性組成物(骨材料)又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
図1Cは、骨欠損部位の線図的拡大図であり、関節病変部位と、骨軟骨及び骨格骨の複合病変部位と、この骨病変部位又は骨軟骨病変部位内における骨誘導性組成物又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
図1Dは、非細胞基質インプラントの埋め込み部位又は空の対照欠損部位として用いるための、体重支持領域に形成された欠損部位A及びBを示す。
図2Aは、鉗子で把持した非細胞基質インプラントの画像である。スポンジの実寸法は、直径5mm、厚さ1.5mmである。
図2Bは、非細胞基質スポンジのハニカム構造の長手方向線図であり、コラーゲンスポンジと、多孔質コラーゲンゲルとの相対的位置を示しており、細孔の寸法は200〜400μmである。
図3は、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの空の対照欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の顕微鏡画像を示している。
図4は、非細胞インプラントを埋め込だ、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの欠損部位A及びBの顕微鏡画像を示している。欠損は、直径4mm、深さ1〜1.5mmである。インプラントは、直径5mm、厚さ1.5mmである。各インプラントは、吸収性縫合糸を4針、非吸収性縫合を2針使用して縫合されている。欠損部位は、底部シーラントで裏打ちされており、インプラントは頂部シーラントで被覆されている。
図5は、欠損作成後2週間の時点における、空の欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示しており、欠損部位は完全にむき出しで空になっている。
図6は、欠損作成後2週間の時点における、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示している。
埋め込み部位を覆っている表層性軟骨層が、欠損部位上に平滑な表面を形成している。
図7は、修復組織の組織学的等級付けを示すグラフである。
図8Aは、対照部位(A)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図8Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。欠損部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。線維組織(F)が空の欠損部位に形成されているのが図8A及び図8Bの両方の図において見られる。空の欠損部位には線維血管パンヌス(F)が形成されており、このことはS−GAGの蓄積がないことにより示される。
図9Aは、対照部位(B)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図9Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。欠損部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。線維組織(F)が空の欠損部位に形成されている様子が、図9A及び図9Bの両方で見られ、S−GAGは僅かしか蓄積していない。
図10Aは、埋め込み部位(A)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図10Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。埋め込み部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。表層性軟骨層が埋め込み部位を覆っているのが示されている。
図10A及び10Bの両方で埋め込み部位における、通常のS−GAGの蓄積及び硝子状軟骨の形成が観察された。
図11Aは、埋め込み部位(B)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
図11Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。埋め込み部位は、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれる。表層性軟骨層が埋め込み部位を覆っているのが示されている。
図11A及び11Bの両方で、埋め込み部位における通常のS−GAG(*)の蓄積及び硝子状軟骨の形成が観察された。
図12A〜F、非細胞基質埋め込み後3ヶ月の時点での、頂部シーラントの生体内での分解パターンを示している。形成された表層性軟骨層がインプラントを覆っており、シーラントは、埋め込み後3ヶ月の時点で、部分的に分解している。
図12Aは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の表面図を示す。
図12Bは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の側面図を示す。
図12Cは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の底面図を示す。サフラニン−O染色は、赤色調に見え、S−GAGの蓄積を示す。
図13は、ミニブタの大腿顆に作成した、採取後の全層欠損(D)の画像の例を倍率72倍で示す。周囲のホスト軟骨(H)、軟骨下骨領域(SB)及び残留している石灰化軟骨領域も示されている。
【0038】
定義
本願明細書において用いられる用語は以下のように定義されるものである。
【0039】
「非細胞」とは、インプラントが生物学的活性を有するいかなる細胞も含まないことを意味する。
【0040】
「非細胞基質インプラント」又は「非細胞インプラント」とは、生物学的に許容されうるコラーゲンインプラントであって、コラーゲンスポンジ、コラーゲンハニカム、コラーゲンスキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、の形態をとり、生物学的活性を有するいかなる細胞も含まず、軟骨細胞が内部に移動しうる基質(マトリクス)を形成するものを意味する。
【0041】
「関節軟骨」とは、例えば膝関節のような、関節の硝子軟骨を意味する。
【0042】
「軟骨下の」とは、関節軟骨の下にある構造を意味する。
【0043】
「軟骨下骨」とは、特殊な組成を有する骨であり、石灰化軟骨領域の直下にあり、且つ手肢の骨構造の大部分を形成する海綿骨又は骨梁の上にある、一般に非常に高密度であるが薄い骨層を意味する。
【0044】
「骨軟骨の」とは、病変の生じる軟骨及び骨の複合領域を意味する。
【0045】
「骨軟骨欠損」とは、軟骨及びその下の骨からなる複合病変部位を意味する。
【0046】
「骨欠損」又は「骨病変」とは、軟骨下骨領域の下にある欠損、すなわち骨格骨の欠損又は病変となるような欠損を意味する。
【0047】
「骨芽細胞」とは、骨を形成する細胞を意味する。
【0048】
「軟骨細胞」とは、軟骨基質の小腔に入っている非分裂性の軟骨の細胞を意味する。
【0049】
「支持基質」とは、活性化した移動軟骨細胞又は骨細胞を受容するのに適した、生物学的に許容されうるゾル・ゲル又は、コラーゲンスポンジ、スキャフォルド、ハニカム、ヒドロゲル、カプロラクトン高分子又は、芳香族性有機酸の高分子であって、軟骨細胞の成長及び3次元的増殖や、新たな硝子軟骨の形成又は骨軟骨細胞の骨病変部位への移動を構造的に支持するものである。支持基質は、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、アガロース、(プロテオグリカン、グリコサミノグリカン又は糖蛋白質を含む)細胞収縮性コラーゲン、芳香族性有機酸高分子、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、(ポリ乳酸、ポリグリコール、ポリアミノ酸から形成された)合成高分子線維、ポリカプロラクトン、ポリアミノ酸、ポリペプチド・ゲル、これらの共重合体及びこれらの組み合わせ、のような材料から調製する。ゲル溶液基質は高分子温度可逆ゲル化ヒドロゲルであってもよい。支持基質は、好ましくは、生体適合性、生分解性、親水性、非反応性であり、電気的に中性で、所定の構造をとることができるものである。
【0050】
「成熟硝子軟骨」とは、細胞外コラーゲン基質内に散らばった、小腔内に位置する同原軟骨細胞の群からなる軟骨を意味する。
【0051】
「シーラント」とは、生物学的に許容されうる、一般には急速にゲル化する製剤であって、所定範囲の接着性及び凝集性を有するものを意味する。従って、シーラントは、接着性及び粘着性の双方又はいずれか一方を有する生物学的に許容されうるゲル化合成化合物であり、一般には、誘導ポリエチレングリコール(PEG)のようなヒドロゲル、又は米国特許第5,583,114号に記載されているように、誘導ポリエチレングリコール又はコラーゲン化合物と架橋されているのが好ましいアルブミンのようなタンパク質である。本発明のシーラントは、一般に、組織、特にコラーゲンを含有する組織と接触すると、ゲル化及び結合の双方又はいずれか一方が起きる。
【0052】
「改変シーラント」とは、少なくとも2分以上の重合時間を有する、本発明での使用に好適な全てのシーラントを意味する。
【0053】
「骨誘導性組成物」又は「この組成物を有するキャリア」とは、少なくとも1種類の骨誘導性薬剤、好ましくは数種類の薬剤の組み合わせを含む組成物であり、代表的にはキャリアに溶解させるか、又は非細胞基質インプラントと同様の基質に組み込んだもの意味する。
【0054】
「骨誘導性キャリア」、「骨誘導性組成物を含むキャリア」又は「骨非細胞インプラント」とは、骨誘導製薬剤を含みそれ自体で骨形成を促進するか、又は少なくとも1種類の骨誘導性薬剤、好ましくは数種類の薬剤の組み合わせを含んだ前記骨誘導性組成物を沈着するのに好適な全てのキャリアを意味する。一般的に、キャリアは、非細胞生分解性多孔性基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム、スキャフォルド、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、カプロラクトン高分子、又は芳香族性有機酸からなる高分子構造体であり、約50〜約150μmの大きな細孔を有する。このような細孔は、骨芽細胞の移動を促進するとともに、骨形成を支持し促進する約0.1〜約10μmの小さな細孔を相互に接続する。このようなキャリアの表面は、負に荷電させて、骨芽細胞の偽足の付着及びこれに従って起こる骨生成を促進することができる。骨形成を促進する好適なキャリアの1つの例は、制御可能な程度に分解しうる芳香族性有機酸高分子であり、十分な固さを有するがスポンジ状の構造又は吸収性イプシロンカプロラクトン高分子を有するものである。
【0055】
「骨誘導性薬剤」とは、骨の成長及び骨欠損の修復を促し、支持し、又は促進する薬剤を意味する。典型的な骨誘導性薬剤は、特に、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、脱灰した骨粉、ポリL乳酸及びポリグリコール酸、若しくはこれらの共重合体又は特に骨形態形成タンパク質である。
【0056】
「底部シーラント」又は「第1のシーラント」とは、病変部位の底部に沈着させる、生物学的に許容可能な組織シーラント意味する。骨軟骨欠損の場合には、第1のシーラントを、骨病変部位内に沈着された骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアの上に沈着し、これにより骨病変部位を効果的に封止して隔離しこの骨病変部位を軟骨細胞の移動から保護するとともに、軟骨病変部位を骨細胞の移動から保護する。
【0057】
「頂部シーラント」又は「第2のシーラント」とは、病変部位内に埋め込まれた非細胞基質インプラントの上に沈着させる、生物学的に許容されうるシーラントを意味し、これは表層性軟骨層の形成を促進しうるものである。第2の(頂部)シーラントは、第1の(底部)シーラントと同じものでも異なるものであってもよく、またメチルコラーゲンで架橋されたポリエチレングリコールヒドロゲルとするのが好ましい。
【0058】
「新規の」又は「新規形成」とは、例えば分化しうる軟骨細胞、線維芽細胞、線維軟骨細胞、腱細胞、骨細胞及び幹細胞といった細胞が新たに産生されること、或いは、多層システム、スキャフォルド又はコラーゲン基質といった支持構造体内に軟骨結合組織、硝子軟骨、線維軟骨、腱及び骨といった組織が新たに形成されること、或いは表層性軟骨層が形成されることを意味する。
【0059】
「表層性軟骨層」とは、軟骨の最外層であって、第2のシーラント層を被覆して病変部位を被覆する扁平上皮様の平らな表層性領域の軟骨細胞の層を形成するものを意味する。
【0060】
「温度可逆性」とは、温度によって、粘性及び稠性といった物理学的特性が変化し、ゾルからゲルになる化合物又は組成物の性質を意味する。温度可逆性の組成物は一般に、約5〜15℃ではゾル(液体)状態であり、25〜30℃及びそれより高い温度ではゲル(固体)状態となる。中間の温度でのゲル/ゾル状態は、温度に依存しより低い又はより高い粘性を示す。温度が15℃より高いと、ゾルはゲルに変化し始め、30〜37℃付近でゾルは更に硬化してゲルになる。より低い温度、典型的には15℃より低い温度では、ゾルはより液状の稠性を有する。
【0061】
「TRGH」とは、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル材料であって、寒天及びゼラチンとは逆の温度サイクルでゾル・ゲル転移が起きるものを意味する。従って、ゾル段階では粘着性液体相となり、ゲル段階では固体相となる。TRGHは、非常に短時間でゾル・ゲル転移するもので、この転移は、硬化時間を必要とせず、ヒステリシスなく単なる温度の関数として起こる。ゾル・ゲル転移温度は、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)の分子設計に応じて5℃〜70℃の範囲の任意の温度に設定することができ、ヒドロゲル形成にはこのうちの高分子量の高分子を5重量%未満とすれば十分である。
【0062】
「ゾル・ゲル溶液」とは、コロイド懸濁液であって、ある条件下で液体(ゾル)から固体材料(ゲル)に転移するものを意味する。この「ゾル」とは、熱変性によりゲルに転移する水性コラーゲンの懸濁液である。
【0063】
「GAG」とは、グリコサミノグリカンを意味する。
【0064】
「S−GAG」とは、硫酸グリコサミノグリカンを意味する。
【0065】
「アグリカナーゼ」とは、アグリカナーゼ酵素を意味する。
【0066】
「カテプシン」とは、タンパク分解酵素又はペプチド分解酵素を意味する。
【0067】
「MMP」とは、基質メタロプロテイナーゼ、すなわち傷害を受けた又は病変した関節における軟骨の分解に関連した酵素を意味する。
【0068】
「DMB」とは、軟骨細胞の染色に用いるジメチレンブルーを意味する。
【0069】
「表層領域軟骨」とは、軟骨細胞の扁平化した最外層であって、細胞外基質中間領域及び非分裂性細胞が散らばった成熟関節軟骨のより深部の領域を覆うものを意味する。
【0070】
「結合組織」とは、体内器官を保護及び支持する組織を意味し、また体内器官を一緒に保持する組織も意味する。このような組織の例には、間葉性、粘液性、結合性、網状、弾性、コラーゲン性、骨、血液又は軟骨の組織、例えば硝子軟骨、線維軟骨及び弾性軟骨がある。
【0071】
「接着強度」とは、接着剥離強度の測定結果を意味し、これは、2つのプラスチックタブを接着剤で接着することにより得ることができる。これらのタブは、ポリスチレン秤量ボートから1×5cmの細片を切り出すことにより作ることができる。この秤量ボートの表面に、(市販のシアノアクリル酸Superglueを使用して)ソーセージケーシングのシート(コラーゲンシートで肉屋生産財卸売商から入手できる)を結合する。ソーセージケーシングを水又は生理食塩水で20分〜1時間水和し、接着剤をタブの一端の1×1cmの領域に塗布して、この接着剤を硬化させる。次に、タブの自由端を各々湾曲して引張試験装置の上下のグリップにそれぞれ取り付け、10mm/分の歪速度で引っ張り、剥離強度をニュートン単位で記録した。一定の力のトレースを調べることにより、N/m、すなわち細片の巾当たりの力を測定することができる。細片の巾当たりの力は、最小でも10N/mあるのが望ましい。100N/m以上あるのがより望ましい。或いは又、同じタブを、手術中に生きた動物から切り出した又は露出させた組織の1×1cmの領域に接着することができる。タブの自由端を、携帯引張試験装置(オメガDFG51−2デジタルフォースゲージ:コネチカット州スタンフォードにあるオメガエンジニアリング社製)のフックに縫合することにより把持させるか又は取り付け、そして約1cm/秒で上方へ引っ張る。このような測定値において所望の、タブを引きはがすのに必要な最小の力は0.1Nである。0.2〜1Nの力がより望ましい。
【0072】
「凝集力」とは、引張破損に達するのに必要な力を意味し、引張試験装置を用いて測定する。にかわ剤又は接着剤は、「犬用の骨」の形状をした型で硬化することができる。形成された固体接着剤の広い巾の端部は、シアノアクリル酸(Superglue)を用いてプラスチックタブに固定し、試験装置に握持させることができる。延伸方向において破損する力は、少なくとも0.2MPa(2N/cm2 )であり、好ましくは0.8〜1MPa又はそれ以上である。
【0073】
「引張剪断測定」とは、結合強度の試験であって、シーラント製剤を、組織の重なったタブに被着させて硬化させ、次に、これらのタブを引っ張り分離させる力を測定する。この試験には接着結合性及び凝集結合性が反映される。強い接着剤では、重なり領域について0.5から4〜6N/cm2 の値を示す。
【0074】
発明の詳細な説明
本発明は、例えばコラーゲンスポンジ基質、コラーゲンスキャフォルド基質又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲル基質インプラントといった生分解性非細胞基質インプラントを、傷害若しくは外傷を受け又は老化若しくは病変した軟骨に埋め込むか、又は、骨活性化薬剤を含む骨誘導性組成物若しくはこの組成物を有するキャリアと組み合わせて、骨軟骨若しくは骨欠損部位に埋め込むとき、時間が経過すると、この非細胞基質インプラントは、周囲の病変していない軟骨に存在する成熟しているが非分裂性の軟骨細胞を活性化させこれら軟骨細胞を非細胞軟骨欠損部位に移動せしめ、新たな細胞外基質を産生させ、最終的に健常な硝子軟骨を形成するか、或いは骨又は骨軟骨欠損の場合には、このインプラントが周囲の健常な骨又は軟骨下骨から骨芽細胞を移動させるか、或いはこれらの双方が行われる、という知見に基づくものである。このような状況下で、非細胞基質インプラントの上に沈着した第2の頂部シーラントは、インプラントを有する軟骨病変部位の上に表層性軟骨層が形成されるのを促進する。このような表層性軟骨層は、頂部シーラントを骨軟骨欠損部位の上に沈着した場合にも形成される。このような場合には加えて、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着するステップと、この組成物を第1の底部シーラントで被着するステップとを有する。
【0075】
本発明はこのように、最も広い範囲では、関節鏡手術中に、非細胞基質インプラントを埋め込む処理、並びに、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内に埋め込む前に、骨誘導性薬剤又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位に沈着する処理の双方又はいずれか一方により、損傷を受け、傷害され、外傷を受け又は老化した軟骨を修復及び回復する方法及び、骨若しくは軟骨欠損部位を修復する方法、並びに軟骨及び骨の双方又はいずれか一方を機能的に完全に回復させるための方法に関する。本発明は更に、前記非細胞基質インプラントを製作する方法、前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを調整する方法、及び表層性軟骨層を新たに形成する方法を含む。
【0076】
簡単には、本発明は、関節病変部位の治療のために、関節軟骨の病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントであって、コラーゲン温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、カプロラクトン高分子又は芳香族性有機酸の2次元又は3次元の支持基質を有する当該非細胞基質インプラントを調整する処理を有する。この非細胞基質インプラントには、基質リモデリング酵素や、メタロプロテイナーゼ(MMP−9、MMP−2、MMP−3)や、アグリカナーゼや、カテプシンや、成長因子や、ドナーの血清や、アスコルビン酸や、インシュリン−トランスフェリン−セレン(ITS)などの種々のサプリメントを、成長、分化及び表現形の安定を生ぜしめる当該技術分野において既知の濃度で含ませることができる。
【0077】
本発明は、骨軟骨欠損の治療のためには、骨誘導性組成物又は組成物を有するキャリアであってこの組成物が、例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸及びこれらの共重合体をの単独で又は組み合わせて有する骨誘導性薬剤、若しくは骨形態形成タンパク質を有する組成物又はキャリアを調製する処理と、骨病変部位に前記組成物を沈着させる処理と、この骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアを第1の底部シーラントで覆い、軟骨病変部位に前記非細胞基質インプラントを埋め込む処理と、このインプラントを第2の頂部シーラントで覆う処理とを有する。
【0078】
本発明は、骨欠損部位を治療するために、例えば脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、ポリ−L−乳酸及びポリグリコール酸又はこれらの共重合体を、単独で又は組み合わせや、骨形態形成タンパク質といった骨誘導性薬剤を有する骨誘導性組成物又はこの組成物を有したキャリアを、骨病変部位を充填するのに必要な量調製するステップと、この組成物を骨病変部位内に沈着するステップとを有する。この病変部位は、任意で、底部又は頂部シーラントで被着してもよい。一般的に、底部シーラントは骨病変部位の底部に沈着させないが、必要に応じて、沈着させることもできる。
【0079】
非細胞基質インプラントは、少なくとも2層の粘着性シーラントによって形成した軟骨病変部位の腔に埋め込む。しかし、特定の状況ではまた、非細胞基質インプラントは、底部若しくは頂部のシーラントなしで、又は、双方のシーラントなしで、軟骨病変部位に埋め込むこともできる。
【0080】
軟骨修復の方法において、シーラントを使用する場合には、シーラントの第1の(底部)層を軟骨病変の底部に沈着させそこを被覆する。この層の機能は、細胞遊走や、さまざまな血液及び組織の破片並びに代謝産物の影響から前記病変部位の統合性を保護し、非細胞基質インプラントを埋め込むための腔の底部を形成することである。このシーラントの第1層は、軟骨下骨領域又は骨領域内の骨病変部位に配置された骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリア上に沈着する被覆層にもなりうる。
【0081】
ブタの大腿顆に作成した欠損の研究において、生分解性非細胞基質インプラントの埋め込みを、本明細書に開示した埋め込み手順と組み合わせて所定の条件下で行うとことにより、周囲の病変していないホスト軟骨からの軟骨細胞の移動が活性化及び促進され、傷害を受けた部位の病変部位内に再生硝子様軟骨の細胞外基質(ECM)が形成される、ということが確認された。同様に、骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨欠損部位内に沈着することにより、骨芽細胞のこの骨病変部位内への移動を促進することにより骨の自然な治癒が促進され、上述の非細胞基質インプラントと組み合わせることで、骨及び軟骨の両方が治癒し、再生する。
【0082】
硝子軟骨の生成のために非細胞基質インプラントを使用する方法は、軟骨が初期の骨関節炎の状態を生じていない目的の病変部位を有する早期患者、すなわち、代表的には例えばスポーツ損傷後の関節鏡視下手術等において、関節の関節軟骨の掃除又は微小骨折の治療が行われるであろう、患者の局所性病変部位の治療に特に適している。このような患者は、完全に機能する硝子軟骨が復元される可能性が高く、骨軟骨欠損の場合は、完全に機能する軟骨及び骨が復元される可能性が高く、1回又は複数回にわたる再手術の必要がないし、そのような手術による症状悪化もなくなる。
【0083】
上記の方法を使用する利点は、非細胞基インプラントと、骨誘導性組成物若しくはそのような組成物を含有するキャリアとの双方又はいずれか一方が、非免疫原性であること、手術の十分前に予め加工できること、最初の関節鏡検査中に導入しうるものであり、病変部位の診断、清掃及び清拭時において、更なる生検、細胞培養、追加手術又は免疫反応を抑制するための治療を必要としないことである。
【0084】
I. 軟骨、骨及びその特性
軟骨及び骨は、ともに、体内で他の軟部組織の支持体となる結合組織である。
【0085】
骨は、骨格を形成している硬い結合組織であり、石灰化した基質及びコラーゲン線維に封埋された骨芽細胞から成る。コラーゲン線維は、ヒドロキシアパタイトと同様にリン酸カルシウムの形態で、相当量の炭酸塩、クエン酸塩、ナトリウム及びマグネシウムとともに含浸されている。骨は、約75%の無機材及び25%の有機材から成る。骨は、骨膜によって覆われた緻密骨質の密度の高い外側の層と、内側の、ゆるい海綿骨質すなわち骨髄から成る。軟骨のすぐ下に位置する骨は、軟骨下骨と称され、これは特殊な組成及び構造の骨であり、肢の網状骨によって裏打ちされている。
【0086】
軟骨は、関節及び骨を覆う成熟した結合組織であり、代謝は活発に行っているが非分裂性の軟骨細胞からなる。このため、傷害若しくは加齢又は疾患よる損傷後に、軟骨が自ら自然に治癒する能力はほとんど存在しない。
【0087】
軟骨は、血管分布が少なく及び堅固な整合性を有することを特徴としており、成熟した非分裂性の軟骨細胞(細胞)、コラーゲン(線維の間質性基質)及びプロテオグリカン基質(グリコアミノグリカン又はムコ多糖)から成る。このうち、後者の2つはあわせて、細胞外基質として知られる。
【0088】
軟骨には、3種類の軟骨、すなわち、硝子軟骨、弾性軟骨及び線維軟骨、がある。硝子軟骨は、主に関節で見られるもので、プロテオグリカンに覆われた微細なII型コラーゲン線維を含む間質性の物質を有し、すりガラス状の外観を呈する。弾性軟骨は、細胞が、コラーゲン線維及びプロテオグリカンに加えて、嚢状の基質によって囲まれており、この基質が更に弾性線維ネットワークを含む間質性の基質に囲まれている軟骨である。弾性軟骨は、例えば、喉頭蓋の中心部で見られる。線維軟骨は、I型コラーゲン線維を含み、典型的には、腱、靭帯又は骨の間にある移行組織において見られ、また、傷害を受けた硝子軟骨の低質な置換でも見られる。本発明は、非細胞基質インプラントを、周囲の病変していない軟骨中に本来存在している所定の状況と組み合わせ、さらに本発明の方法による特定のステップと組み合わせて利用し、傷害を受けた軟骨を完全に治癒し、傷害した軟骨を健全で機能的な硝子軟骨に置換するものである。
【0089】
A.関節軟骨及び関節軟骨欠損
関節(例えば膝軟骨)の関節軟骨は、約95%(総容積)の細胞外基質に分散させた約5%(総容積)の軟骨細胞から成る硝子軟骨である。細胞外基質は、コラーゲン及びグリコサミノグリカン(GAG)を含む、様々な高分子を有する。硝子軟骨基質の構造によって、かなりのショックを吸収し、剪断力及び圧迫力に耐えることができる。正常な硝子軟骨は、また、関節の表面の摩擦係数が極めて低い。
【0090】
健常な硝子軟骨は、連続的な整合性があり、いかなる病変、裂症、亀裂、破断、穴傷又は寸断された表面もない。しかし、外傷、損傷、疾患(例えば変形性関節症)、老化によって、軟骨の連続的な表面は傷つき、軟骨表面は亀裂、裂症、破断、穴傷、寸断された表面を呈し、結果、軟骨病変部位となる。
【0091】
関節軟骨は、血管、神経、リンパの供給がない唯一の組織である。血管及びリンパの循環の欠如は、関節軟骨の回復する能力が乏しいか若しくはほぼ存在しない理由のひとつである。細胞外基質によって囲まれた小孔にある、代謝は活発であるが非分裂性の軟骨細胞は、高質の硝子軟骨を生成して損傷信号に反応することがない。重度の傷害後は、II型コラーゲン/プロテオグリカン・ネットワークの吸水能力が傷害されるので、関節軟骨の固有の機械的機能は、自然に復元することはなく、また完全に復元されることもない。硝子軟骨に対して通常置換される物質は、硝子軟骨の損傷に応答して自然に生じ、傷害された軟骨を置換するが、硝子軟骨に比べはるかに弱く機能的に劣る線維軟骨である。
【0092】
軟骨の外傷、損傷、病変又は老化により生じた欠損は、裂傷、亀裂、破断、又は穴傷であり、これらは関節軟骨にのみ生じる。本発明の方法に従って、このような欠損を治療する場合、図1Aにて図示するような、インプラントを病変部位内に埋め込む。
【0093】
図1Aは、軟骨欠損部位への非細胞基質インプラントの埋め込みの概略図である。図1Aは、その下に傷害されていない軟骨下骨を有するホスト軟骨に囲まれた、非細胞基質の埋め込まれた病変埋め込み部位を示す。頂部及び底部シーラントもまた示されている。
【0094】
B. 軟骨を修復するための現在利用可能な手法
種々の外科的手法が開発され、損傷された軟骨を修復する試みで用いられてきた。これらの手法は、骨髄細胞が欠損部に浸透し、その治癒を促進することができるようにすることを意図して行われる。通常、これらの手法は、よくても、部分的にうまくいくに過ぎない。たいていの場合、これらの手順によって線維軟骨組織(線維軟骨)が形成される。線維軟骨は、確かに軟骨病変部位を満たし修復するが、I型コラーゲンからなっており質的に異なるため、正常な関節硝子軟骨よりも耐久性が劣り、弾性が少なく、全体的に劣るもので、健常な硝子軟骨よりもショック及び剪断力に対する耐久力が限定されている。全ての可動性関節(特に膝関節)は、常に比較的大きな負荷及び剪断力を受けるので、健常な硝子軟骨を線維軟骨で置換しても完全な組織修復や機能回復には至らない。
【0095】
関節軟骨傷害に対する修復の現在利用可能な方法には、微小骨折(マイクロフラクチャー)法、モザイクプラスティ法及び自己軟骨細胞移植(ACI)法がある。しかし、何らかの点で、全てのこれらの技術には問題がある。例えば、モザイクプラスティ法及びACI法では、非傷害性関節軟骨領域から生検をして、細胞数を増やすために細胞培養を行う必要がある。その結果、これらの技術では少なくとも2回の別々の手術が必要となる。あるシステム、Carticel(登録商標)のシステムでは、加えて、脛骨骨膜の一部を培養するために骨膜の一部を分離するために第2の手術部位が必要となる。微小骨折法は関節軟骨の生検を必要としないが、得られる組織は常に線維軟骨である。
【0096】
本発明による、傷害され、外傷を受け、病変した、老化した軟骨の治療方法は、傷害、外傷、病変した、老化した軟骨を非細胞基質インプラントで治療し、組織の切除、培養のための細胞を必要とせず、従って、いかなる生体物質も必要としないので、上記の問題は解決される。このインプラントは、下記の方法で調製され下記のように清拭手術中に軟骨病変に埋め込まれる。
【0097】
C.骨軟骨領域及び骨軟骨欠損
本明細書において、骨軟骨領域とは、骨及び軟骨が互いに接続する領域であって、傷害後に骨軟骨欠損がしばしば生じる領域を意味する。
【0098】
図1Bは、骨軟骨欠損の非細胞基質インプラントの埋め込みを示す概略図である。図1Bは、ホスト軟骨に囲まれ非細胞基質が埋め込まれた軟骨病変への埋め込み部位を示し、その下には軟骨下骨内の骨病変部位がある。骨誘導性組成物又は前記組成物を有する非細胞インプラントキャリアは、底部のシーラントによって軟骨病部位から隔てられた骨病変部位に沈着される。頂部及び底部シーラントを配置することで、底部シーラントにより、軟骨病変部位からの骨病変部位を分離する。これにより、各々軟骨病変部位及び骨病変部位の各々が、異なる手段、すなわち軟骨病変の治療のための非細胞基質インプラント並びに、骨欠損の治療のための骨誘導性組成物又は前記組成物を有する非細胞キャリアを使用して別々に治療される。
【0099】
ここで、骨軟骨欠損は、軟骨及びその下にある骨との複合欠損である。今まで、骨軟骨欠損をするのに一般に用いられているのは、外科的切除、モザイクプラスティ法、骨軟骨自家移植、同種移植、骨セメンティング及び金属若しくはセラミック固体複合材料、若しくは多孔性生体材料の埋め込みであり、最近では自己由来の軟骨細胞の移植である。残念ながら、これらの手法のいずれも、これら欠損をうまく治療することができるものでなく、また、患者にとって安全で満足のいくものではなかった。代表的には、これらの手法は、二回以上の外科的処置を伴い、移植可能な細胞を培養するのに、少なくとも約2〜3週の長い期間を要するものである。例えば、モザイクプラスティ法では、欠損部位に移植可能な栓子として用いる健常な軟骨下骨及び軟骨の円形小片を摘出することが必要となる。モザイクプラスティ法に関する明らかな問題点のひとつは、外科医が、開放性手術において軟骨下の欠損を修復するために健常な組織を傷つけてしまうことである。複数回の手術を行い、その間にかかる長い期間を空けるため、完全な機能の回復されるまでにかかる時間が必然的に長くなり、また、骨及び軟骨双方の欠損が骨及び硝子軟骨ではなく線維軟骨によって埋められるので、しばしば部分的な機能回復しか得られないことがある。
【0100】
一般的だが治療が非常に困難な骨軟骨性欠損の例のひとつに、離断性骨軟骨症がある。離断性骨軟骨症は、関節表面からの骨軟骨性断片の分離によって特徴づけられる限局性の骨及び軟骨性病変である。この傷害を同種移植によって治療する試みも、上述したように、二回目の手術及び健常組織への侵襲という同じ問題に直面している。従って、二回目の手術の必要をなくし、しかも、軟骨及び骨の修復のための手段を提供できるような方法を利用できるようにすることは、有利である。
【0101】
本発明による方法は、一回目の関節鏡手術中に骨誘導性組成物又は骨誘導性薬剤を含む組成物を骨病変部位に埋め込み、次に、軟骨病変部位に非細胞基質インプラントを埋め込み、一回の手術で骨と軟骨欠損の両方の治療し上述した問題を解決する。
【0102】
D.骨及び骨欠損
本発明による再生方法は加えて、骨格骨病変の修復にも好適である。
【0103】
骨格骨病変部位は、図1Cに示すように軟骨下骨領域の直下に位置している骨の骨格部に、単独で又は少なくとも部分的に位置する病変部位である。
【0104】
図1Cは、骨格骨にまで及んだ、深部の骨軟骨・骨格骨損傷の概略図である。図1Cは、骨軟骨欠損部位内に埋め込まれた非細胞基質インプラント、軟骨下骨及び骨格骨内に沈着された骨誘導性組成物だけでなく、ホスト軟骨、軟骨下骨及び骨格骨の位置も示している。図1Cは、埋め込まれた非細胞基質を有する軟骨病変部位の埋め込み部位を示しており、この部位は、軟骨下骨内の骨病変部位を下方に有するホスト軟骨に囲まれている。骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に沈着する。このためのキャリアは、上述のいかなる基質であってもよいが、好ましくはコラーゲン性のもの、ヒドロゲル、芳香族性有機酸高分子又はカプロラクトンを有する構造物である。図1Cには、頂部及び底部シーラントの設置も示されており、この底部シーラントが、軟骨病変部位から骨欠損部位を隔離していることにより、各々が異なった方法で別個に治療される。
【0105】
或いは又、骨誘導性組成物及びこのような組成物を有する非細胞インプラントキャリアの双方又はいずれか一方を、軟骨インプラントを必要としない、骨格骨単独の欠損、病変又は骨折の治療に用いてもよい。
【0106】
本発明の方法を骨格骨病変の治療に用いる場合には、単独で又はキャリアに組み込んで用いられる骨誘導性組成物を、好ましくはコラーゲン又は他の接着剤に溶解し、骨格骨病変部位内に直接沈着する。骨誘導性薬剤は、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン、脱灰した骨粉、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸又はこれらの共重合体、及び骨形態形成タンパク質からなるグループの中から選択される。
【0107】
好ましい骨誘導性薬剤は、脱灰した骨粉(DMB)である。DMBは、骨から、例えばリン酸カルシウムを酸抽出することによって作られる。この抽出処理の後も、DMBは、骨コラーゲン以外に、元来存在する骨発生因子であるTGF−βスーパーファミリーの構成要素を含め、骨に存在する他の化学物質を保持する。これらの因子はまた、例えば塩酸キニジンのような材料で骨を更に処理することによって抽出してもよい。これらの自然に生じるTGF−βがDMB中に存在する場合には、これ以外の骨誘導性薬剤は存在しなくても良い。この理由は、DMBは骨形成に好適な多孔性ミクロ構造を有するからである。
【0108】
DMB自体は非常に軽い粉末であり、従って、結合能力を有する薬剤中に調整するのが好ましいことを理解されたい。最も好ましい結合材は、コラーゲン又はコラーゲン状薬剤、ヒドロゲル、アルギン酸塩等である。
【0109】
II.軟骨病変部位の治療のための非細胞基質インプラント
本発明は、傷害され、損傷し、病変し又は老化した軟骨の治療のための方法を提供する。
この目的のために、この方法は、傷害を受けた部位又は疾患若しくは老化によって生じた欠損部位における傷害を受け、損傷し、病変し又は老化した軟骨病変部位に、非細胞基質インプラントをただ一回の手術で体内への埋め込む処理を含む。非細胞基質インプラントは、コラーゲン性構造物、ゲル、ゾル・ゲル、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、カプロラクトン高分子又は芳香族有機酸高分子であり、下記の様々な構成要素を有する。
【0110】
A. 非細胞基質インプラントの調製
軟骨病変部位に埋め込む非細胞基質インプラントの調製には、非細胞基質、通常は、コラーゲンのスキャフォルド若しくはスポンジ、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル、カプロラクトン高分子又は芳香族性有機酸高分子の調製を伴い、この基質は軟骨欠損部位に埋め込まれる。
【0111】
例えば図2Aに示すような非細胞基質インプラントは、本発明の方法に従って調製されており、ブタの膝重量軸受領域の人工的に作られた病変部位に埋め込まれる。図2Aは、埋め込みに用いられる実際の非細胞基質スポンジ・インプラントの写真で、ここでは鉗子で把持されている。スポンジは、直径5mm及び厚さ1.5mmであり、約200〜400μmの細孔を有するコラーゲンスポンジ及びコラーゲンゲルからなる組成の混合物を有する(図2B)。このスポンジが病変部位に埋め込まれると、軟骨細胞は活性化されて、スポンジの細孔構造部に移動し、そこで新しく細胞外基質を分泌し始め、最終的には新たな硝子軟骨でコラーゲンスポンジ及びコラーゲンゲルを置換する。このスポンジ及びゲルは、自然に生分解し代謝されて病変部位から除去される。
【0112】
図2Bは、図2Aに示した非細胞基質スポンジのハニカム構造の側方断面図であり、非細胞基質スポンジ内のコラーゲンスポンジ、コラーゲンゲル及び細孔の相対的位置を示している。
【0113】
病変部位に埋め込まれる非細胞基質インプラントの基質は、硝子軟骨の形成に必要な一定期間、このインプラントが機能するのを可能にする生分解性材料を含む。このような生分解性材料は、その後、生分解し代謝されて埋め込み部位から除去され、残るとしても非毒性の残留物しか残らない。更に、このような材料は、インプラントが埋め込まれた病変部位を覆い新たに形成された硝子軟骨を保護する表層性軟骨層の形成を促進することが分かっている。生分解性基質は、加えて、酵素、例えば、メタロプロテイナーゼ、傍分泌性若しくは自己分泌性成長ホルモン、GAG−リアーゼ、その他の酵素、可溶タンパク質メディエータ並びにその他の修飾因子及び補助因子、を含むこともできる。これらの材料を含有させるすなわち追加することで、周囲のホスト軟骨に存在する成熟した活発に代謝するが非分裂性である軟骨細胞の活性を高め、さらに、これらの軟骨細胞が、病変腔を囲んでいる病変していないホスト軟骨から病変部位に置かれた非細胞基質インプラントに移動するのを促進しうる。
【0114】
本発明は、このように、本発明による非細胞基質インプラントを、軟骨欠損部位に下記の条件のもとで埋め込めば、周囲の病変していない軟骨中に存在する古い不活発な軟骨細胞が欠損部へ移動するようになり、そこでこれら軟骨細胞は、停止した非分裂性段階から活動段階に活性化され、この段階で、軟骨細胞が分裂し、増殖し、細胞外基質の成長を促進して、この病変部に新たな硝子軟骨を生成するという知見に関するものである。非細胞基質インプラントの埋め込み後、特に若年者では軟骨細胞の移動と、並びに若年者の組織にもともと多く存在するメタロプロテイナーゼにより支持される細胞外基質の形成とによって、軟骨欠損が急速に修復される。より高齢な患者での病変修復には、この基質の埋め込み前に、GAG−リアーゼ、メタロプロテイナーゼ、成長因子及びその他成分を基質に加えるか又は組み込むか、あるいは、この基質の表面を簡便に被覆して、傷害を受けた細胞の分解を促進させるのに用いてもよい。
【0115】
軟骨細胞を活性化させるための処理には、一定の期間を必要とし、その期間は一般的には約1時間〜約3週間であり、好ましくは約6時間〜3日しかかからないことを確かめた。治療を受けた人が、例えば、歩行、ランニング若しくは自転車に乗ることによって前記の新しくできた軟骨に間欠的な静水圧が加わり、通常通り身体的に活発になる場合には、通常は1週間〜数ヶ月で、インプラント基質が硝子軟骨に完全に置換される。
【0116】
B. 軟骨細胞移動の誘導
周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動の誘導は、もともと軟骨、軟骨周囲組織、血液若しくは血漿の中にある、又は手術前、手術中若しくは手術後に加えられた、さまざまな薬剤の生物学的作用を伴い、周囲の病変していないホスト軟骨からの軟骨細胞の放出、解放、活性化、インプラントへの移動を促進されるものである。
【0117】
軟骨細胞を活性化するステップの1つは、関節軟骨病変部位の頂部及び底部にシーラントを使用することである。このステップにより、非細胞基質インプラントを埋め込むための腔ができる。非細胞コラーゲン基質インプラントが容器様多孔質特性を有することにより、周囲の健常なホスト軟骨に元来存在する可溶タンパクメディエータ、酵素、成長因子又はその他因子が流入し、濃縮される。
【0118】
非細胞基質インプラントを挿入する前及び後で、欠損部位の頂部及び底部を封止することにより、隣接した細胞外基質内の軟骨細胞により放出される自己分泌性及び傍分泌性の成長因子が蓄積し、これらの因子がインプラント内への細胞移動を誘導するようになる。適切な成長因子には、特に、特定の形質転換成長因子、血小板由来成長因子、線維芽細胞成長因子及びインスリン様成長因子Iがある。加えて、これらの及び他のサプリメント、例えばGAG−リアーゼ(基質を再構築する酵素)を、インプラントを病変部位へ挿入する前に、このインプラントの表面を覆うために、又は病変部位自体を覆うために使用することができる。
【0119】
しかし、頂部及び底部シーラントによって病変腔内に隔離された非細胞基質インプラントは、隣接した軟骨と流動性に連絡するように維持される。この構成により、基質を再構築する酵素の阻害物質、例えばメタロプロテイナーゼ−1(TIMP−1)、メタロプロテイナーゼ−2(TIMP−2)及びメタロプロテイナーゼ−3(TIMP−3)の細胞阻害物質のレベルが欠損部で減少するような条件が得られる。結果として、基質メタロプロテイナーゼ(MMP−1、MMP−2、MMP−3)は、酵素活性を受けうるようになり、隣接する細胞外基質を分解し、それによって、そこに存在する軟骨細胞が解放され、周囲のホスト軟骨から非細胞基質インプラントに軟骨細胞が移動する又は、病変部位自体の壁が糖リアーゼにより覆われるようになる。
【0120】
病変部位に封入された非細胞基質インプラントは、通常の身体活動(例えば歩行、ランニング又は自転車に乗る)を行う場合の関節への負荷及び間接が受ける静水圧に応じて、底部のシーラント層を通過する外因性成長因子の貯留部ともなる。従って、静水圧負荷に応答してこれらの因子は欠損部位内でより濃縮されるようになり、周囲の細胞外基質である隣接した領域から解放された軟骨細胞が病変部位へと移動し、病変部位内で増殖し新たな細胞外基質の合成が開始される。
【0121】
さらに、インプラントの非細胞基質は、通常の関節軟骨と比較して剛性が低く、且つ隣接した病変していない軟骨基質端の変形を許容する材料で欠損を充填するため、剪断力のレベルが増加し、さらに、基質の再構築及び非細胞基質インプラント内への軟骨細胞の移動を表す可溶性メディエータの放出が増大する。
【0122】
すなわち、隣接した軟骨の境界に封入される非細胞基質インプラントが存在することにより、基質を再構築する酵素、つまり基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンが欠損部で濃縮し、隣接する細胞外基質の酵素的開放を起こし、それにより軟骨細胞が、非細胞基質インプラント内に移動し、その基質内に埋め込まれ、分裂及び増殖を開始し、新たな細胞外基質を分泌し、最終的に正常で健常な硝子軟骨を形成するような条件が生じる。
【0123】
C. 非細胞基質インプラントの種類
非細胞基質インプラントは、軟骨細胞が移動し、成長し、その場で2次元又は3次元の増殖を行うための、構造支持体を提供する。通常、非細胞基質は、生物学的に生体適合性であり、生分解性で、親水性であり、好ましくは電気的に中性である。
【0124】
一般的に、インプラントは2次元又は3次元の構造組成物又はこのような構造物に変換しうる組成物であり、空間を流体的に接続された格子状ネットワークに分離する多数の細孔を含んでいる。ある実施例において、インプラントは、スポンジ状の構造体、ハニカム状格子体、ゾル・ゲル又は温度可逆性ゲル化ヒドロゲルである。
【0125】
一般的に、インプラントは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、アガロース、ヒアルロニン、プロテオグリカン、有機芳香族酸高分子、血管収縮コラーゲン含有プロテオグリカン、グリコサミノグリカン若しくは糖蛋白質、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、ポリ乳酸などの重合酸からなる合成高分子線維、多糖酸若しくはポリアミノ酸、ポリカプロラクトン、ポリペプチドゲル類又はこれらの共重合体あるいはこれら物質の任意の組合せを含むコラーゲンゲル又はゲル溶液から調製される。インプラント基質はゲル、ゾル・ゲル、カプロラクトン高分子、芳香族性有機酸のポリマー又は高分子温度可逆性ヒドロゲル(TRGH)とすることが好ましい。インプラント基質は、水性のI型コラーゲンを含むのが、もっとも好ましい。
【0126】
非細胞基質インプラントは、スポンジ状、スキャフォルド又はハニカムスポンジにすることもできるし、或いは、スキャフォルド又はハニカム状格子にすることもできるし、或いは、ゲル、ゾル・ゲル又は温度可逆性ゲル組成物にすることもできるし、或いは、カプロラクトン高分子又は芳香族性有機酸高分子にすることもできる。
【0127】
非細胞基質インプラントは、インプラントを埋め込む病変部位のおおよその大きさを有する2次元又は3次元体として形成することができる。インプラントの大きさ及び形状は、欠損の大きさ及び形状により決定される。
【0128】
a. 非細胞スポンジ又はスポンジ状インプラント
一般に、いかなる高分子材料も、組織に生体適合性で、必要な形状を備えていれば、支持基質として作用しうる。高分子は、天然のものであれ合成されたものであれ、線維又はコアセルベートが形成されるように誘導でき、水性分散体として冷凍乾燥させてスポンジを形成することができる。
【0129】
コラーゲンに加えて、多様な高分子がスポンジの製造に適する可能性があり、アガロース、ヒアルロン酸、アルギン酸、デキストラン、ポリHEMA(ポリ−(2−ヒドロキシエチルメタクリン酸塩))及びポリビニルアルコールを、単独で又は組み合わせて用いることができる
【0130】
一般的に、このようなスポンジは、架橋結合、例えば電離放射によって安定化される必要がある。実際の例には、ポリヒドロキシエチルメタクリラート(ポリHEMA)の凍結乾燥スポンジであって、随意的にゼラチンのような好ましくは内部に取り込んだ追加分子を含むスポンジを調製するものがある。アガロース、ヒアルロン酸又はその他生物活性を持った高分子を利用して、細胞反応を調整することができる。全てのこの種のスポンジは、本発明のためのインプラント基質として有利に機能する。
【0131】
スポンジ又はスポンジ状のインプラントの調製のために使用するゲル又はゲル溶液は、通常は水によって洗浄し、その後凍結乾燥して、基質内で移動する軟骨細胞を組み込みうるスポンジ状基質が得られる。本発明の非細胞基質インプラントは、移動する軟骨細胞が浸透する際に、多孔性のスポンジのような作用をし、これら細胞がスポンジの細孔内でに広がり、軟骨細胞がそこに移動定着するためのメッシュ状支持体を提供し、軟骨細胞は分裂及び増殖を開始し、新たな細胞外基質を作り、最終的には既存の健常な周囲の軟骨に連続する硝子軟骨を形成するための材料を分泌するようになる。
【0132】
スポンジインプラントの重要な性状のひとつは、スポンジ基質の細孔径である。スポンジの細孔径を異ならせることにより、スポンジ内への軟骨細胞浸透をより速く又はより遅くし、細胞の成長及び増殖をより速く又はより遅くし、究極的には、インプラント内の細胞密度をより高く又はより低くすることができる。このような細孔径は、インプラントの製作中に、ゲル溶液のpH、コラーゲン濃度、凍結乾燥法の条件等を変化させることによって調整することができる。一般的に、スポンジの細孔径は、約50〜約500μmであるが、100〜300μmが好ましく、約200μmが最も望ましい。
【0133】
非細胞基質インプラントの細孔径は、レシピエントに応じて選択する。メタロプロテイナーゼがもともとあってしかも活発な若年のレシピエントでは、活性化した軟骨細胞が細孔を通じて急速に増殖して、細胞外基質を分泌するので、細孔径はより小さなものにする。より高齢のレシピエントでは、軟骨細胞の移動が緩慢で、細孔に定着して増殖するのにより多くの時間を必要とするため、細孔はより大きなものにする。
【0134】
コラーゲンから形成した典型的な非細胞基質インプラントを図2に示す。図2Aは、直径4mmで厚さ1.5mmの非細胞コラーゲン基質インプラントの実施例の写真である。このインプラントの播種密度は体積25μlあたり300,000〜375,000の軟骨細胞であり、これは約1200万〜1500万細胞/mlに相当する。非細胞基質インプラントの埋め込み後の細胞密度は、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動速度と、これらの分裂能力及び分裂の速度に依存することはもちろんであるが、インプラントのコラーゲン基質は移動細胞のこのようなばらつきに対応しうるものである。本非細胞スポンジは、実施例1に記載されている手順に従って、又は他の任意の手順、例えば米国特許第6,022,744号、同第5,206,028号、同第5,656,492号、同第4,522,753号、同第6,080,94号明細書又は本願明細書に参照として組み込んだ同時係属出願である米国特許出願第10/625,822号、同第10/625,245号及び同第10/626,459号明細書に記載の方法に従って調製することができる。
【0135】
b. 非細胞スキャフォルド又はハニカムインプラント
本発明のインプラントの一種類に、非細胞のスキャフォルド、ハニカム状スキャフォルド、ハニカム状スポンジ又はハニカム状格子がある。これらのインプラントは、すべてハニカム状格子の基質を有し、この基質が移動及び分裂する軟骨細胞の支持構造体になる。ハニカム状基質は、上記のスポンジ基質と類似しているが、典型的なハニカムのパターンを有する。そのようなハニカム基質は、移動軟骨細胞の成長基盤となり、移動して分裂した軟骨細胞の3次元的増殖を可能とし、それによって、新たな硝子軟骨を形成するための支持構造体を提供する。
【0136】
図2Bは、非細胞基質のハニカム構造の側面図であり、コラーゲンスポンジと各列の細孔(*)径が約200〜400μmであるコラーゲンゲルを示している。
【0137】
このハニカム状基質は、スポンジについて上述したように、望ましい性質を有するコラーゲン、ゼラチン、I型コラーゲン、II型コラーゲン又はその他高分子といった高分子から製造される。望ましい具体例では、ハニカム状非細胞基質インプラントは、I型コラーゲンを有する溶液から調製する。
【0138】
ハニカム状インプラントの細孔は、ハニカム基質内に均一に分布しており、移動した軟骨細胞を取り込み均一に分布させうる構造を形成する。
【0139】
望ましい種類の非細胞基質インプラントのひとつに、ハニカム格子に形成したI型コラーゲン支持基質があり、これは、日本国東京都に所在するKoken社から、「Honeycomb Sponge」という商標名で、市販されている。
【0140】
すなわち、本発明の非細胞基質インプラントは、好ましくはコラーゲンを含む任意の好適な生分解性構造体、ゲル又は溶液にすることができる。このようなインプラントは、埋め込みを簡便に行うため、一般にゲル、望ましくはゾル・ゲル転移溶液であり、室温より高い温度で、液体ゾルから固体ゲルに溶液状態が変化するものとする。このような溶液は、下記のように、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル又は温度可逆性高分子ゲル、がもっとも望ましい。
【0141】
c. ゾル・ゲル非細胞基質インプラント
他の種類の非細胞基質インプラントは、ゾル・ゲル材料から製造されるインプラント基質であり、このゾル・ゲル材料は、温度変化によりゾルからゲルへ及びその逆に変わりうるものである。これらの材料における、ゾル・ゲルの転移は、寒天及びゼラチンゲルの逆の温度サイクルでおきる。したがって、これらの材料では、ゾルは高温で固形ゲルに移行する。
【0142】
ゾル・ゲル材料とは、15℃未満では粘稠なゾルであり、37℃周辺又はそれ以上では固体のゲルとなる材料である。一般に、これらの材料は、約15℃〜37℃の温度において転移によってゾルからゲルへ形態を変化するもので、15℃〜37℃の温度では転移状態にある。しかし、ヒドロゲル組成物を変えることによって、ゾル・ゲルの転移温度を予め上記の温度より高く又は低く設定できる。最も好ましい材料は、ゲルを含有するI型コラーゲン、及び急速なゲル化点を有する温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)である。
【0143】
ある実施例において、ゾル・ゲル材料は、実質的に I型コラーゲンから成るもので、0.012規定の塩酸溶液中に溶解した純度99.9%のペプシン可溶化ウシ皮膚コラーゲンの形態で、カルフォルニア州パロアルトにあるCohesion社からVITROGEN(登録商標)の商標名で市販されている。このゾル・ゲルの1つの重要な特徴は、転移により固体ゲル形態に硬化しうることで、固体ゲル形態では、混合若しくは注入又はその他の阻害を受けなくなり、これにより、随意的に軟骨細胞の活性化及び移動を支持する他の組成物を含む固体構造が形成される。更に、組織培養用の無菌コラーゲンは、たとえば、マサチューセッツ州ベッドフォードのCollaborative Biomedical社、サウスオーストラリア州のGattefosse社、及びフランス国のSt. Priest社などから入手可能である。
【0144】
I型コラーゲンのゾル・ゲルが、通常、非細胞ゾル・ゲル・インプラントの製造に適切で望ましい材料である。
【0145】
d.温度可逆性ゲル化ヒドロゲル・インプラント
更に、非細胞基質インプラントは、ゾル・ゲルに類似の温度可逆性材料であって、ヒステリシスなしにゾルからゲルへ又はその逆へ転移するのがより速い材料から調製しうる。
【0146】
非細胞基質インプラントを病変腔に埋め込むのに熱可逆的特性が重要になる。その理由は、非細胞基質インプラントは、ゾル状態で病変腔に埋め込み、この腔をゾルで満たし、そこにおいてゾルは、それ自体で腔の正確な形状に追随し、空隙を残さない、すなわち、大き過ぎたり小さ過ぎたりしないようにするためであり、このことは、予め製造したスポンジ又はハニカム格子の場合にも同様である。関節病変腔に設置されたゾルは、自然な体温まで暖められた後、すぐに転移して固体ゲルとなり、周囲の病変していない軟骨からの移動軟骨細胞に対する支持構造体となる。
【0147】
ゾル・ゲルの1つの特徴は、液体から固体の状態へ硬化又は転移しうること、及びその逆が可能であることである。この特性は、非細胞基質インプラントの輸送、貯蔵、保存のためだけでなく、軟骨病変部位において液体ゲルの非細胞基質インプラントを硬化させることや、固体ゲルの非細胞基質インプラントを液化させるのに有利に使用しうる。加えて、これらのゾル・ゲルの特性により、病変部位の温度を増減し或いはゾル・ゲルを、さまざまな化学物質若しくは物理的条件の下に又は紫外線照射にさらすことでゾル・ゲル転移を変化させて、ゾル・ゲルを支持基質として使用することもできる。
【0148】
ある実施例においては、非細胞基質インプラントを、5℃〜15℃の間の温度で貯蔵され埋め込まれてた温度可逆性ゲル化ヒドロゲル又はゲル高分子とする。その温度では、ヒドロゲルは液体ゾルの状態であり、ゾルの状態で容易に病変部位に設置することができる。このゾルが病変部位内に設置されると、ゾルは自然に又は人工的に約30℃から37℃のより高い温度にさらされ、この温度で液体ゾルが固体ゲルに固化する。ゲル化時間は、約数分から数時間であり、一般的には約1時間である。このような例では、固化したゲルをそれ自体でインプラントとなるようにして利用することもできる、又はこのゾルを、例えばスポンジ又はスキャフォルドハニカムインプラントのような、他の支持基質に装填することもできる。
【0149】
温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)の主要な特徴は、体内で分解されるときに生物学的に有害な物質を残さず、また、ゲル化温度では水を吸収しない、ということである。TRGHは、非常に短時間でゾル・ゲル転換するもので、この転移は、硬化時間を必要とせず、ヒステリシスなく単なる温度の関数として起こる。ゾル・ゲル転移温度は、温度可逆性ゲル化高分子(TRGH)の分子設計に応じて5℃〜70℃の範囲の任意の温度に設定することができ、このうち高分子重合体は5重量%未満であればヒドロゲル形成には十分である。
【0150】
温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)は、一般に37℃未満の関節の滑膜包の温度である37℃〜32℃では安定で圧縮に強くなければならないが、30〜31℃未満では容易に可溶化して病変腔内で容易にゾルへ変化しうるものでなければならない。TRGHの圧縮への強さは、関節の通常の活動における圧迫に耐えうるものとする必要がある。
【0151】
典型的なTRGHは、通常、親水性ポリマー・ブロックによって架橋された多数の疎水性ドメインを含む高分子量ポリマーのブロックから形成される。TRGHは、低い浸透圧を有し、温度をゾル・ゲル転移温度より高く維持すれば水に溶解しないため非常に安定している。ヒドロゲル内の親水性ポリマー・ブロックは、ゲル化の間におけるヒドロゲルからの水の分離及び巨視的相分離を防止する。これらの特性は、安全に貯蔵し、品質保持期限を長くするのに特に適している。
【0152】
この点に関して、温度可逆性ヒドロゲルは、温度可逆性ゲル化高分子(TGP)の水溶液であり、加熱するとヒドロゲルに変わり、冷却すると液化する。TGPは、たとえばポリ−N−イソプロピル・アクリルアミド又はポリプロピレンオキシドのような温度反応性ポリマー(TRP)やポリエチレンオキシドのような親水性ポリマーブロックから構成されるブロック共重合体である。
【0153】
ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドの共重合体からなる温度可逆性ヒドロゲルは、例えば、Pluronicsの商標名で、BASF Wyandotte Chemical社から入手可能である。
【0154】
一般に、温度可逆性は、たとえば、コラーゲンやポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドの共重合体のように、同じポリマー鎖上に疎水基及び親水基が存在することにより得られる。ポリマー溶液を加熱すると、疎水的相互作用によって鎖会合及びゲル化が生じる。
ポリマー溶液を冷却すると、疎水的相互作用が失われ、ポリマー鎖は解離してゲルが溶解する。このような特性を有する好適な生体適合性ポリマーであればいかなるものでも、天然であろうと合成であろうと、同様の可逆性ゲル化挙動を呈する。
【0155】
e.非細胞ゲルインプラント
或いは又、本発明の非細胞基質インプラントは、市販されているさまざまなゲル材料、例えば懸濁ゲルから調製でき、必ずしも温度可逆性である必要はない。これらのゲルは生分解性でありさえすれば非細胞基質インプラントとして好適に使用することができる。
【0156】
このようなゲルの実例のひとつに、ポリエチレングリコール(PEG)及びその誘導体であって、一方のPEG鎖がビニルスルホン又はアクリレート末端基を有し、他方のPEG鎖が、共有結合によりチオエーテルに結合した自由チオール基を有するものがある。一方又は両方のPEG分子が、分枝の(3つ又は4つの腕を有する)場合、結合によりてゲルネットワークが得られる。インプラント調製に使用されるPEG鎖の分子量が、任意の線形鎖セグメントに沿って500〜10,000ダルトンである場合、ネットワークは開放されており、移動する軟骨細胞を受容するのに適しており、間隙水によって膨張可能であり、また生きた軟骨細胞に適合性がある。
【0157】
PEGの共役反応は、例えば、水性バッファー溶液又は細胞培養液溶液中に各PEGの5〜20%(w/v)溶液を別個に調製することによって起こすことができる。埋め込みの直前に、チオールと、PEGと、アクリレート若しくはビニルスルホンPEGとを混合して、病変部位に注入する。ゲル化は、1〜5分以内に自然に開始される。ゲル化率は、PEG試薬の濃度及びpHによりいくらか調整できる。共役する速度は、pH6.9よりもpH7.8の方が速い。したがって、PEG含有混合物のpHを調節することによって、外科医が望むとおりにゲル化処理をより速く又はより遅く制御することができる。しかし、このようなゲルは、付加的なエステル結合や不安定な結合が鎖に組み込まれていないと、一般的に体内で分解可能ではない。PEG試薬は、米国アラバマ州ハンツヒルにあるShearwater Polymers社又は韓国にあるSunBio社から購入できる。
【0158】
第2の選択肢として、ゲル化材料はアルギン酸塩であってもよい。アルギン酸塩溶液は、カルシウムイオン存在下でゲル化可能である。この反応は、細胞をゲル又はマイクロカプセルに懸濁するのに、長年使用されてきた。カルシウム又は他の二価のイオンを含まない培養液に溶解したアルギン酸塩溶液(1〜2%:w/v)を、アルギン酸塩をゲル化させる塩化カルシウムを含んだ溶液中で混合させる。類似した反応は、例えばヒアルロン酸のような、負に荷電したカルボキシル基を持つ他のポリマーによっても起こりうる。ヒアルロン酸の粘稠溶液は、第2鉄イオンの拡散によってゲル化することができる。
【0159】
f. 芳香族性有機酸基質のポリマー
非細胞インプラントは、また、芳香族性有機酸のポリマーから簡便に製造することもできる。この種類のポリマーは、一般的に負の電荷を有しているため、骨誘導組成物キャリアとしての使用するのに好適である。しかしながら、こういった種類の化合物も、軟骨非細胞インプラントとして使うことができ、また軟骨非細胞インプランの用途に適したものである。
【0160】
g. 吸収性カプロラクトンポリマー
非細胞インプラントは、また、吸収性カプロラクトン高分子から簡便に形成することもできる。これらのポリマーは、例えば、本願明細書に参考として組み込んだ米国特許第6,197,320号、同第5,529,736号、同第6,485,749号、同第6,703,035号及び同第6,413,539号明細書に記載されるように、一般には、結晶性で低融点のイプシロンカプロラクトン高分子である。
【0161】
カプロラクトン高分子は、加えて、アミノ鎖又はエステル鎖にイオン結合又は共有結合によって結合した、例えばグリコリド、グリコール酸又はラクトンといった共単量体と組み合わせてもよい。
【0162】
G.生分解性インプラント
全体として、上で記載されている軟骨欠損のための非細胞基質インプラントはいずれも、任意の寸法及び形状の軟骨病変部位への埋め込みに適しており、周囲の健康なホスト軟骨から軟骨細胞が移動してくることによる構造再構築のための一時的な支持体となる。
【0163】
従って、本発明のインプラントは、完全に生分解性でなければならない。インプラントがスポンジ、ハニカム格子、ゾル・ゲル、又はTRGHのいずれであるかにかかわらず、埋め込まれたインプラントは、分解されるか、又は既存の軟骨に組み込まれ、その後、TRGHは望ましくない残骸を残さずに分解される。
【0164】
全体として、上で記載されている軟骨欠損のための非細胞基質インプラントはいずれも、任意の寸法及び形状の軟骨病変部位への埋め込みに適しており、周囲の健康なホスト軟骨から軟骨細胞が移動してくることによる構造再構築のための支持体となる。本発明のインプラントの埋め込みによって、正常で健常な硝子軟骨が生成し、軟骨欠損が完全に治癒する。
【0165】
III. 骨軟骨欠損及びその治療
関節軟骨の病変はしばしば、その下にある骨の病変を伴うことがある。すなわち、このような欠損は軟骨とその下にある骨とが組み合わさったものである。これらの欠損は、本願明細書において、骨軟骨欠損と称す。
【0166】
A. 骨軟骨欠損の治療方法
骨軟骨欠損は、軟骨及び骨の損傷によって生じる。上記の通り、軟骨及び骨は、組織学的に2つの異なる結合組織である。そのため、同じ方法及び手段によって両者を効果的に治療することは不可能である。また、このために、このような治療は、軟骨病変単独又は骨欠損のみの治療より複雑であり、難しい。さらにまた、骨の発達が、軟骨発達の重要な段階における軟骨の更なる発達に対する障害として作用して軟骨の発達に影響を及ぼすおそれがある。
【0167】
これらの複合的な傷害を治療するの試みの1つとして、モザイクプラスティ法が開発された。前述のように、モザイクプラスティ法は、健常な組織から移植片を切除し、このような移植片を骨及び軟骨病変部位の双方に移植する処理を有する。この技術の明らかな欠点は、傷害部位の治療のために、開放性手術中に、外科医が他の部位から健常な組織を切除しなければならず、よれによりこの過程で健常な組織を傷つけてしまうことである。
【0168】
しかし、本発明の方法をこれらの複合した骨軟骨性傷害の治療に用いれば、健常な組織を切除して傷つけてしまうことや、例えば、同種移植及びその他の手術のために必要な複数の手術を行うことや、又はこれらの双方を必要とせずに、骨及び軟骨病変部位を同じ手術中に治療することができる。
【0169】
本発明によれば、非細胞基質インプラントと、骨誘導性薬剤を含有する骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアとを、望ましくは生物学的に許容されうるシーラントと組み合わせて埋め込むことにより、このような2つの治療を同時に行うことができる。
【0170】
実際には、同じ手術の間に、外科医は、最初に両方の病変部位を創傷清拭し、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位に沈着させ、この骨病変部位を、1又は数層の生物学的に許容されうるシーラント、好ましくは、下記のセクションVIに記載したシーラントから選択したもので被覆する。このシーラントを重合させたあと、一般的には数分以内、好ましくは0.5〜10分の間に、最も好ましくは3〜5分の間に非細胞基質インプラントを軟骨病変部位に埋め込み、このインプラントを本願明細書において頂部シーラントと称するさらに他のシーラント層により被覆する。このようにすると、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアは、骨病変部位内に隔離され、骨形成性薬剤(例えば、脱灰した骨粉、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン若しくはポリアクリレート又はこれら任意の組み合わせ)と、骨形態形成タンパク質と、他の既知の骨誘導性薬剤(例えば成長因子又はTGF)とのいずれか或いはこれらの任意の組み合わせが、非細胞基質インプラントからの干渉なしに周囲の骨からの骨芽細胞の移動を引き起こすように作用する。骨及び軟骨病変部位がこのように分離されるため、硝子軟骨が骨病変部位内へ浸潤することもないし、骨病変部位に線維軟骨が形成されることもない。
【0171】
逆に、非細胞インプラントが、骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアから隔てられていれば、骨誘導性薬剤は、軟骨細胞の移動、細胞外基質の形成や、硝子軟骨の生成に何ら寄与しない。骨及び軟骨は各々、別々に治療されるのであるが、一回の関節鏡視下手術の間に同時に処置される。
【0172】
シーラントは、好ましくはそのまま、すなわち追加の薬剤を加えずに沈着することができるし、所望の場合には、シーラントを骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアに加えることができる。
【0173】
骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアは、骨欠損内に沈着されシーラントで覆われて、骨の再構成及び成長のために病変部位に残される。この組成物及びシーラントの双方が、骨の自然治癒を補助する。
【0174】
シーラントの層によって骨病変部位から隔てられており、且つ頂部シーラントで覆われた、軟骨欠損内に埋め込まれた非細胞基質インプラントは、軟骨細胞の移動及び細胞外基質の形成を達成するために、インプラントが硝子軟骨に置換されて生分解されるまで軟骨病変部位に残される。骨軟骨性欠損修復の一般的な処理は、骨軟骨性欠損を清掃及び清拭し、骨誘導性薬剤を含んでいる骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを、軟骨下骨における病変部位の上限まで埋め込み、この組成物の上にシーラントの層を被着させ、このシーラントを重合させる。シーラントが約0.5〜約10分、好ましくは約3〜5分で重合した後、手術を続け、上述の通りに、非細胞インプラントを軟骨病変部位内に埋め込む。その後インプラントの埋め込まれた軟骨病変部位を、シーラントの層(頂部シーラント)で被覆して病変部位を密閉し外部から保護する。
【0175】
上記の手順は、異なった条件下の二つの治療を同じ手術中に行うことができるので、特に骨軟骨性傷害の治療に適している。
【0176】
骨軟骨性欠損における具体的な症例は、離断性骨軟骨症であり、この症例では、骨及び軟骨の問題となる病変部位は、不安定な又は完全に分離した骨軟骨性断片になる。現在可能な唯一の治療は、骨膜をとる生検(第1の手術)と、細胞の培養と、不安定な断片の切除(第2の手術)と、培養細胞の病変への導入及び骨移植(3回目の手術)とを含む3つの独立の手術を必要とする。
【0177】
上述した本発明による方法は又断片を除去するステップを含むように変形した方法によれば、離断性骨軟骨炎の修復のために必要な全てのステップが単一の手術中に同時に行われるので、2回又は3回目の手術が不必要になる。
【0178】
B.骨誘導性薬剤
骨誘導性薬剤は、骨の形成を促進する確実な能力を有する化合物又は蛋白質である。
【0179】
骨形成薬剤で最も適切なものは、脱灰した骨粉(DMP)、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、酸化チタン及び成長因子(すなわち、骨形態形成蛋白質(BMP)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDFG)、上皮成長因子(EGF)、神経膠腫由来因子(GDF)及び、形態転換成長因子(TGFβ―1)、として知られる一群の組換え又は非組換え成長因子)である。これらの成長因子は、個別に用いてもよいし、互いに又は他の骨誘導性因子と組み合わせて用いてもよい。
【0180】
脱灰した骨粉は、骨誘導性組成物として又は骨誘導性キャリアとして用いるのに特に適しており、脱灰した骨粉が骨の微孔性構造を模するので、骨誘導性薬剤又は支持構造体として作用させるための他のいかなる化合物も必要としない。簡便には、骨又は軟骨下骨病変部位にDMBを沈着させる前に、病変部位にDMBが沈着するようにするがそれ自身は骨誘導機能を有さないコラーゲン又はその他の粘性流体又はヒドロゲルにDBPを溶解させることもできる。DMBの使用量は、DMBが濃縮された高粘稠ペーストとなるようにする。DMBの使用量は、DMBの構造と細かさに応じたものとする。
【0181】
骨形態形成タンパク質は、一般的にBMPの略語によって認識されており、さらに、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8及びBMP−14のような番号により区別されている。それらの中には、さらに、一般名で認識されるものがあり、たとえば、BMP−3はオステオゲニンと呼ばれ、BMP−3BはGDF−10、と呼ばれるなどする。骨形態形成蛋白質は一般に、約0.01〜約5mg/cm3 の(キャリアの体積又は重量あたりの)濃度に調整するが、この濃度は、好ましくは約0.1〜約1.5mg/cm3 、又は約0.01mg/g〜約5mg/gであり、より好ましくは約0.1mg〜約2.5mg/gとする。
【0182】
C.骨誘導性組成物
本発明の骨誘導性組成物又はこの組成有したキャリアは、1種又は複数種の上述した骨誘導性薬剤を開示された濃度で含む。骨誘導性組成物は、所定の濃度で混合した粉末、溶液、ゲル、ゾル・ゲル又はTRGHとして用いてもよいし、或いは非細胞インプラントに類似した構造体に組み込んで予調整して、骨病変部位又は骨折部位に埋め込んでもよい。例えば、TRGHとして調製される組成物は、ゾル溶液の形態で調製して、そのままで用いる。このゾルはその後、ゲルへと状態を変え、骨病変部位全体を満たす。骨誘導性薬剤はまた、PEG、コラーゲン、アルギン酸塩等に溶解して、その状態で沈着することもできる。骨誘導性薬剤はまた、上述した非細胞基質スポンジのような、第2のスポンジシステムに吸収させることもできる。
【0183】
骨軟骨又は骨病変部位に骨誘導性薬剤を沈着するのに好適な態様は、希釈コラーゲンのようなゲルや、アルギン酸塩のようなゲルに薬剤を溶解させるものである。
【0184】
D.骨誘導性キャリア
骨誘導性キャリア又は骨誘導性組成物を含有するキャリアは、少なくとも1つの骨誘導性薬剤、若しくは、好ましくは複数の薬剤の組み合わせを含んでいる骨誘導性組成物の埋め込みに適したキャリア化合物である。一般的に、キャリアは、骨芽細胞の移動を促進する約50〜約150μmの大きな孔を有する生分解性多孔性基質、ヒドロゲル、スポンジ、ハニカム又はスキャフォルドである。キャリアは、大きな孔をつなぐ約0.1〜約10μmの相互に連続する小さい孔を有しており、この小さな孔により、骨芽細胞がキャリアの中に定着すること可能となり、栄養及びその他の因子を供給することにより骨形成を可能にするための接続微小構造体及び支持基質が提供される。このようなキャリアの表面は負に荷電させて、骨芽細胞の偽足接着及び骨芽細胞のキャリアへの移動を促進しそれにより骨が形成されるようにすることもできる。
【0185】
IV. 生物学的に許容されうるシーラント
通常、インプラントは、生物的に許容されうる少なくとも2層の粘着性の頂部及び底部シーラント層の間になるように軟骨又は骨病変部位に埋め込む。
【0186】
実際には、第1(底部)のシーラント層は、病変部位内に導入してその病変底部に埋め込まれる。第1のシーラントの機能は、例えば血液由来物質、細胞及び細胞片などの外来要素の軟骨下細胞及び滑膜細胞の移動を阻止し、これらが侵入するのを防止することである。インプラントが埋め込まれる前には、このような破片が非細胞基質インプラントの組込みに干渉するおそれがある。第1のシーラントの第2の機能は、酵素、ホルモン及びその他の成分であって、病変部位にもともと存在しており軟骨細胞の活性化、移動、その他の物質の分泌及び新しく形成された細胞外基質及び硝子軟骨の増殖に必要な成分を含有しておくことである。次に、この第1のシーラント上に非細胞基質インプラントを埋め込む。この非細胞基質インプラント上に、第2の(頂部)シーラント層を設置する。非細胞基質インプラントと組み合わせた双方の高分子バリアがあることにより、軟骨細胞が良好に活性化され、軟骨細胞が移動して、インプラント基質と一体化し、最終的に新たな関節硝子軟骨が形成される。
【0187】
A.第1の底部シーラント
軟骨病変の治療方法において、第1の(底部)シーラントは、導入されたインプラントと、病変化していない組織(例えば軟骨下骨又は軟骨)との間の界面を形成する。病変部位の底部に沈着された第1のシーラントは、病変部位内に移動してきた軟骨細胞を有することができ、望ましくない物質がインプラントへ流入するのを防止することができ、且つ軟骨下腔に軟骨細胞が移動するのを防ぐことができるものでなければならない。加えて、第1のシーラントはインプラントに血管及び望ましくない細胞及び細胞片が浸潤するのを防止し、また線維軟骨の形成も防止する。
【0188】
骨軟骨欠損の治療方法において、この第1(底部)のシーラントは、軟骨病変部位及び骨病変部位の間にバリアを形成する。これら2種類の欠損は2つの質的に異なる組織に生じた欠損であるため、異った治療が必要となる。上述の通り、骨病変は、骨誘導性組成物又はこの組成物を含むキャリアによって治療し、軟骨病変は非細胞基質インプラントによって治療する。軟骨病変部位に存在して軟骨細胞の移動を活性化させる酵素が、骨病変部位の再生に必要な骨誘導性薬剤及び成長因子を混合するのは望ましくない。組織が互いに分離していない場合には、例えば線維軟骨が骨領域内に成長してしまうおそれが高く、このような場合、骨は骨によって置換されずより劣った線維軟骨によって置換されてしまう。従って、骨軟骨欠損の治療のためには、底部シーラントを、骨誘導性組成物又はこの組成物を含有するキャリアで充填した骨病変部位の上に沈着し、非細胞インプラントが埋め込まれた軟骨病変部位から骨病変部位を分離する。これによって非細胞インプラント及び骨誘導性組成物は互いに独立に機能しうるようになり、互いに干渉しないようになる。
【0189】
B.第2の頂部シーラント
第2(頂部)のシーラントは、表面における非細胞基質インプラント又は病変腔の保護部として作用するもので、典型的には、インプラントの埋め込みの後に病変部位の上に沈着され、これにより細胞浸潤又は分解性薬剤などの外部環境のいかなる望ましくない影響からも病変腔の統合性を保護し、沈着された後の非細胞基質インプラントゲルを所定位置に密封する。
【0190】
この第2のシーラントは、2つのシーラントの間に形成された空所に埋め込まれた非細胞インプラントの保護部としても作用する。このように、第2のシーラントは、第1のシーラント上にインプラントを埋め込んだ後に沈着して、インプラントを腔内に封止することもできるし、又はインプラントを埋め込む前に空間保持ゲル上に沈着させることもできる。
【0191】
この第2のシーラントの第3の機能は、表層性軟骨層を形成するための基礎としての機能である。
【0192】
後述する研究により、第2のシーラントを軟骨病変の上に沈着させれば、病変していない表層性軟骨層の延長部分として表層性軟骨層が成長することが確認されている。このような表層性軟骨層が特によく発達するのは、病変腔を温度可逆性ゲル又はゾル・ゲルで満たされた場合である。従って、このようなゲルがこのような表層性軟骨層の形成のための基礎となる、という結論が導かれる。
【0193】
C.頂部及び底部シーラントの特性
本発明の実施例において使用する、第1の底部シーラントの又は第2の頂部シーラントは、生物学的に許容されうるものであり、取り扱いが容易で、且つ所要の接着性及び凝集性を有しなければならない。
【0194】
これらのシーラントは、生物学的に組織適合性で、非毒性でなくてはならず、過度に膨張してはならず、シーラントが摩耗したり組織部位から突出したりするおそれがあるので、過度に固い又は硬性のあるものであってはならない。また、シーラントは、新たな軟骨の形成に干渉してはならず、骨、又は血管といった干渉性の又は不所望の組織の形成を促進してはならず、生吸収性で、いかなる受け入れ可能な代謝経路によっても生分解性であるか、新たに形成された硝子軟骨組織に組み込まれるものでなければならない。
【0195】
このシーラントは、2〜10分以内、好ましくは3〜5分以内に、流動性の液体又はペーストから耐荷重性ゲルに速やかにゲル化するものでなければならない。しかし、シーラントのゲル化又は重合は速すぎてはならない。その理由は、病変部位への均一な分散に関して問題を生じるおそれがあるためである。2分以内にゲル化するものは望ましくない。10分以上のゲル化時間は、外科手術の時間的制約に適応性がない。加えて、全体的な使用方法は比較的単純なものでなければならない。その理由は、複雑な及び長い手順では外科医に受け入れられないためである。
【0196】
このシーラントを組織に取り付けて、このような組織を密封及び支持するのには、接着結合が必要となる。本発明のシーラントの最小剥離強度は、少なくとも3N/m、好ましくは10〜30N/mにする必要がある。加えて、シーラント自体も、内部で破損又は断裂することがないような十分な強度がなければならない、すなわち十分な凝集強度を有する必要がある。凝集強度は0.2MPa、好ましくは0.8〜1.0MPa範囲の抗張力として測定される。或いは又、シーラント製剤の結合力を定義する引張剪断測定において、少なくとも0.5N/cm2、好ましくは1〜6N/cm2 でなければならない。
【0197】
所要の特性を有するシーラントは一般に高分子である。未硬化又は液体の状態では、このようなシーラント材料は、互いに架橋していない自由に流動可能な高分子鎖からなる材料であるが、液体に近い状態であるか、又は生理学的に適合性のある水性バッファに溶解されている。高分子鎖はまた、適切な引き金となるステップがあれば互いに反応して高分子鎖同士を共役又は架橋する側鎖又は有効基を持っている。高分子鎖が枝分かれしている、すなわち、少なくとも一方のパートナーが3又は4腕を有するならば、共役反応により例えばゲルのような分子量が無限大のネットワークが形成される。
【0198】
形成されたゲルは、鎖間連結の数、連結間の鎖の分子量として表される長さ、ゲルの溶媒含有率、強化剤の有無、及びその他の要素に応じた凝集力を有する。一般に、分岐点(架橋結合)間の鎖セグメントの分子量が100〜500ダルトンのネットワークは、丈夫で強く、あまり膨張しない。鎖セグメントが500〜2500ダルトンのネットワークは、水性溶媒中で急速に膨張し、機械的に脆弱である。場合によっては、後者のゲルを特定の補強分子により強化することもできる。例えば、メチル化コラーゲンにより、4腕を有する10000ダルトンのPEG(鎖セグメントあたり2500ダルトン)からなるゲルを強化する。
【0199】
ゲルが接着強度を有することにより、静電気結合、疎水結合又は共有結合を含めた、1つ以上のメカニズムにより、隣接した生物組織への接着が可能となる。接着は機械的な連結によっても生じうるもので、この場合、硬化していない液体が組織の不規則部分及び裂け目に流れ込み、その後ゲルが硬化して、組織表面に機械的に付着する。
【0200】
使用時点には、ある種の引き金となる作用が必要となる。例えば、この作用は、2種の反応性パートナの混合でもよく、pHを上げる薬剤の追加でもよく、又は熱若しくは光エネルギーを加えることでも良い。
【0201】
シーラントを所定の場所に設置したら、シーラントは隣接した組織に非毒性でなくてはならず、組織に組み込まれて永久に保持されてその場所で分解されるか、或いは自然に、通常は加水分解又は酵素分解により除去されるものでなければならない。分解は、高分子鎖内において内部的に、又は鎖架橋部の分解によって起こりうるもので、続いて、高分子断片が生理学的な流体に溶解して拡散し取り除かれる。
【0202】
シーラントの他の特性は、組織環境中で起こる膨張の程度である。過度の膨張は望ましくないが、この理由は、過度の膨張により圧力及び応力が局所的に生じてしまうとともに、この場合には生理学的な流体である水を吸収した溶媒の可塑化効果により、膨張したシーラントゲルの抗張力が失われてしまうためである。ゲルの膨張は、高分子鎖の疎水性により調節される。場合によっては、シーラントの基盤高分子の親水性を低下させるように誘導化するのが望ましいこともある。例えば、シーラントを含むメチル化コラーゲンの機能の一つはおそらく、ゲルの膨張を制御することにあると考えられる。他の例では、ペンタエリトリトールテトラチオール及びポリエチレングリコールジアクリレートを改変して、ポリプロピレングリコールジアクリレートを含むようにし、ポリエチレングリコールよりも、親水性を低下させることができる。更に他の例では、ゼラチン及びデンプンを含むシーラントを、ゼラチン及びデンプン上でメチル化させて同様に親水性を低下させることができる。
【0203】
D.好適なシーラント
本発明の目的に好適なシーラントには、ゼラチン及びジアルデヒドスターチから調製されるシーラントであって、自然に反応しゲル化するゼラチン及びジアルデヒドデンプンの水性溶液を混合することにより反応が引き起こされるものがある。
【0204】
一般に、本出願の目的に有用なシーラントは、少なくとも10N/m、好ましくは100N/mの接着強度又は剥離強度を有している。また、このようなシーラントは、0.2MPa〜3MPa、好ましくは0.8〜1.0MPaの範囲の抗張力を有する必要がある。いわゆる「引張剪断」結合試験において、0.5から4〜6N/cm2 の抗張力を有することが強力な生物接着剤の特徴となる。
【0205】
このような特性は、天然及び合成の様々な材料により得られる。好適なシーラントの例には、国際公用パンフレットWO97/29715の明細書に記載されたゼラチン及びジアルデヒドデンプンや、国際公用パンフレットWO00/44808の明細書に記載された4腕を有するペンタエリスリトールテトラチオール及びポリエチレングリコールジアクリレートや、米国特許第5,410,016号明細書に記載された光重合化ポリエチレングリコール共重合(a−ヒドロキシ酸)ジアクリレートマクロマーや、米国特許第5,618,551号明細書に記載された過ヨウ素酸酸化ゼラチンや、国際公用パンフレットWO96/03159の明細書に記載されたマレイミジル、サクシニミジル、フタリミジル及び関連した活性基で誘導体化した2官能基性ポリエチレングリコール及び血清アルブミンがある。
【0206】
他の許容されうるシーラントは、ポリエチレングリコール、及びポリ乳酸の共重合体、ポリグリコシド、ポリヒドロキシブチラート、ポリカプロラクトン又は芳香族性有機アミノ酸であって場合によっては更にアクリレート側鎖を有するものの重合体から形成され、何らかの活性化分子存在下において光によりゲル化するものである。
【0207】
過ヨウ素酸酸化ゼラチンから製造された許容されうるシーラントは、酸性のpHで液体のままである。この理由は、ゼラチン上の遊離アルデヒド基及び遊離アミノ基が反応することができないからである。ゲル化を引き起こすには、この酸化ゼラチンを、溶液がゲル化するpHまでpHを上昇させるバッファと混合する。
【0208】
4つの腕を有するペンタエリスリトールチオール及びポリエチレングリコールジアクリレートから製造される更に他のシーラントは、これら2種の原液(水性バッファに溶解できない)を混合することで形成される。
【0209】
他の種類の好適なシーラントに、サクシニミジルエステル及びチオールにより誘導体化され、メチル化コラーゲンを加えた4つの腕を有するポリエチレングリコールがあり、これは、急速に基質を形成する2部分の高分子組成物であり、これら2部分のうち少なくとも1つは、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアルキレンオキサイド、又はポリエチレングリコールといった高分子であり、これら2部分は共有結合により結合されており、例えば、米国特許第6,312,725号、同第6,624,245号明細書に記載されているように、メチルコラーゲンにより架橋したポリエチレングリコールヒドロゲルのような、メチルコラーゲンにより架橋したPEGとなっている。本明細書に記載された種類の生物接着剤の1つの欠点は、組織、特にコラーゲンを有する組織と接触してから、この接着剤が極めて速くゲル化及び結合の双方又はいずれか一方を生じるということである。従って、この種の生物接着剤は、血管又は組織傷害の際に急速にゲル化又は結合するように設計されているので、一般には、ゲル化時間及び結合時間の双方又はいずれか一方を延長して、本発明のシーラントとして使用するのに適するように改変する必要がある。
【0210】
あるグループの好適なシーラントはアルブミンを有する。アルブミン含有シーラントは一般に、架橋薬剤と共役したヒト又はウシ血清アルブミンを少なくとも含む。共役薬剤は、グルタールアルデヒド、アミノ酸、ポリペプチド、及びタンパク質からなるグループから選択することができる。例えばコラーゲンのような線維タンパク質、又はゲル組成物と組み合わせることにより更に改変を加えてもよいが、このようなシーラントは、発明では一般に、本発明の支持基質により得られるようになっている。好適なシーラントのカテゴリに含まれるシーラント及び生物接着剤又はこの部分は、本明細書に参考として組み込んだ、RE38,158号として再発行されている米国特許第5,583,114号、同第6,310,036号、同第6,217,894号、同第6,685,726号明細書に開示されている。
【0211】
シーラントの機械的強度や分解パターンを決めるのが、ゼラチンやポリエチレングリコールといった、特定のタンパク質又は高分子鎖の有無ではないということは注目に値する。
機械的強度及び分解パターンは、最終的な硬化ゲルの架橋密度や、存在する分解可能な結合の種類や、ゲルの膨張及び内部の結合に影響を与えうる、修飾体の種類及び強化分子の有無により制御される。
【0212】
第1のシーラントと、第2のシーラント、すなわち骨病変部位及び軟骨病変部位を分離するために用いるシーラントとは、生物学的に許容されうるもので、接着性、結合性及び粘着性のいずれか、又は任意の組み合わせを有するゲル化及び重合可能な合成化合物でなくてはならない。例えば、コラーゲン化合物、典型的にはアルキル化コラーゲンにより架橋されたものであるのが好ましい誘導ポリエチレングリコール(PEG)のようなヒドロゲルである。骨病変部位及び軟骨病変部位を分離するために用いるシーラントは、重合が不十分になることなく、またいかなる遅れもなく外科医が手術を行いうるよう、2〜10分以内、好ましくは3〜5分以内に重合する必要がある。本発明の目的のために、シーラントは少なくとも0.3MPaの抗張力を有する必要がある。
【0213】
加えて、シーラントは、急速に基質を形成する2種以上の高分子組成物であって、少なくとも1種類の化合物が、例えば、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアルキレンオキサイド、ポリエチレングリコールといった高分子であり、2つの部分が共有結合により架橋されておりコラーゲンにより架橋されたPEGである高分子組成物とすることができる。本発明のシーラントは一般に、組織、特にコラーゲンを有する組織と接触してから、約0.5〜約5分以内にゲル化及び重合する。
【0214】
第2のシーラント、すなわち、骨病変部位と軟骨病変部位とを分離するのに用いるシーラントは、第1のシーラントと同じものであっても、異なるものであってもよい。第1及び第2のシーラントは、骨病変部位と軟骨病変部位の間のバリアとして使用することができるが、異なるシーラントを使用することもできる。本発明で使用するために、シーラントは、病変部位の底部、又は骨誘導性組成物と非細胞インプラントとの間に沈着させてから、ゆっくり重合させる。このようにゆっくり重合させるのは、シーラントが病変部位の底部に不均一に分布するのを避けるためであり、また、表面のある部分にシーラントが不規則で不均一に蓄積し、底部の表面のうち他の部分が被着されずに残ってしまうのを避けるのに必要なことである。シーラントの主な機能は、前述したように、移動してくる細胞、組織の破片、及び血液若しくは血清中に存在する様々な因子による不所望な影響から非細胞インプラントを保護することである。従って、病変部位の底部又は骨誘導性組成物の上にシーラントを均一に分布させることは、非常に重要である。このような均一な分布を達成するには、シーラントが病変部位の底部に到達し、これを被覆し重合し、さらに、外科医の時間的制約を満たすのに、シーラントの重合時間が遅すぎても、速すぎてもならない。関節鏡手術及び非細胞インプラントの埋め込みのために、インプラント底部でのシーラントの重合が、2〜10分で、好ましくは2秒〜5分で起きる必要がある。
【0215】
I.非細胞基質インプラント上に表層性軟骨層を形成するための方法
本発明の付随的な態様は、上述した手順に従って製造された非細胞基質インプラントを軟骨病変腔内に埋め込み生体適合性の接着性頂部シーラントによって被覆するとき、これらの組み合わせにより、軟骨病変部位を完全に覆う表層性軟骨層が形成されることである。
【0216】
実際には、表層軟骨層の形成のための方法は複数のステップを有する。まず、重合可能な溶液の形態で沈着された第1の底部シーラントで病変底部を被覆する。シーラントが重合した後、非細胞基質インプラントをこの病変部位に埋め込み、このインプラント上に第2の頂部シーラントを沈着させる。実施例において、インプラントは体温で容易にゾルからゲルに変化する温度可逆性ゲルとすることができ、それによりインプラントを体外で調製し病変部位内へ埋め込み得るようにする。その後は、このゲルを、軟骨病変部位上での表層性軟骨層の形成を促進する頂部シーラントにより被覆して、これにより病変部位内にインプラントを隔離してこれを外部環境から保護する。
【0217】
この表層性軟骨層は、インプラントを軟骨病変部位内に埋め込んでこれを頂部シーラント層で被覆した直後から形成され始める。図6に示すように、非細胞基質を埋め込んでから2週後には、表層性軟骨層が非細胞基質の埋め込み部位上に観察された。図6が示しているのは、大腿顆に欠損を生じてから2週間後の関節鏡検査による評価の様子であり、図5に示す同時期に生じた治療を行っておらず何も埋め込んでいない欠損部位と比べると、図6においては、表層性軟骨層が存在していることが明らかにわかる。
【0218】
頂部シーラントは、表層性軟骨層を支持するとともにその形成を促進し、ある場合には、基質のゲル成分によって支援される。インプラント基質が完全に分解されて新たな硝子軟骨が欠損部位に形成された時点で、表層性軟骨層は、元々存在する滑膜が関節を覆うのと同様に、新たに形成された軟骨を完全に被覆して隔離する。第2の頂部シーラントも、最終的には生分解されて病変部位から除去されるが、表層性軟骨層、すなわち滑膜状の膜が形成されるまでは生分解されない。
【0219】
VI.非細胞基質インプラントの使用方法
傷害を受け、損傷し、病変し又は老化した軟骨を修復及び回復して機能的な軟骨にする方法は、非細胞基質インプラントを軟骨病変部位内へ埋め込むことに基づく。
【0220】
これらの治療における非細胞基質インプラントの使用方法は以下のステップを有する。
【0221】
a)非細胞基質インプラントの調製
第1のステップは、軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントの調製を伴う。
非細胞基質インプラントの調製は、II.A節に詳述してある。
【0222】
b)第1及び第2のシーラントの選択及び軟骨病変部位内への埋め込み
第2のステップは、任意であるが、底部及び頂部の双方又はいずれか一方のシーラント層の選択及び軟骨病変部位内への埋め込みを伴う。
【0223】
具体的には、第1のシーラントの軟骨病変底部への沈着と、第2のシーラントの非細胞基質インプラント上への沈着とを伴う。第1及び第2のシーラントは同じものでも異なるものでもよいが、両者ともその機能を発揮するためにある一定の特性を有しなければならない。
【0224】
底部シーラントは、非細胞基質インプラントを導入する前に病変部位に沈着させるもので、病変腔の統合性を保護するよう作用する。この底部シーラントは、例えば血液や組織の破片といった外来の物質によって病変腔が汚染されるのを防ぐ。このシーラントは、細胞外基質を形成したり、軟骨細胞を活性化したり、病変部位内に埋め込まれた非細胞基質インプラント内に周囲のホスト軟骨から軟骨細胞が移動するようにするのに必要な関係する元々存在する酵素及びその他メディエイタの完全性を保護する。また、このシーラントは、病変腔に線維軟骨が形成されるのも防ぐ。
【0225】
頂部シーラントは、インプラント上に沈着され、病変部位を外部環境から効果的に封止するもので、病変腔を保護する役割を果たし、2層のシーラント間に形成された病変腔内に埋め込まれたインプラントを保護する役割も果たし、表層性軟骨層の形成を開始させる役割も果たす。
【0226】
c)非細胞基質インプラントの埋め込み
本発明の方法における次のステップは、2層のシーラント間に形成される病変腔内に非細胞基質インプラントを埋め込む処理を有する。
【0227】
このインプラントは、底部シーラントを沈着した後に病変腔に埋め込み、その後このインプラント上に頂部シーラントを沈着するのが好ましいが、底部シーラントを沈着させずに病変腔内に埋め込んでその後、頂部シーラントで被覆してもよい。
【0228】
d)表層性軟骨の形成
頂部シーラントを非細胞基質インプラント上に沈着させることにより、表層性軟骨層が病変腔上に成長しこれを封止するようになる。
【0229】
代表的には、生物学的に許容されうるシーラントを病変腔内に埋め込まれた非細胞基質インプラント上に沈着する。第2の保護生分解性高分子バリアは、表層性軟骨層の形成を開始させる作用を示し、表層性軟骨性はやがて病変部位を完全に覆うように成長し、健常な滑膜に極めてよく類似したものになる。表層性軟骨層は、数週間又は数ヶ月、通常は約2週間で完全に病変部位を被覆し、インプラントと、移動及び分裂及び増殖した軟骨細胞と、新たに分泌された細胞外基質とを保護する。外部環境からインプラントを保護することで、線維軟骨がほとんど形成されずに、新たに形成された軟骨組織を病変していない周囲の軟骨に統合しうるようになる。
【0230】
従って、表層性軟骨層の形成は、軟骨の治癒並びにその修復及び回復に非常に重要な観点となる
【0231】
VII.軟骨病変の治療方法
本発明による、損傷を受け、傷害を受け、病変し又は老化した軟骨の治療方法は、健常な硝子軟骨が再生されこの硝子軟骨が周囲の病変していない軟骨へ統合されるような条件を発生させることにより、急性損傷による軟骨病変を治癒するのに好適である。
【0232】
この方法は、全体として、いくつかの新しい特徴、すなわち生物学的に許容されうる生分解性の非細胞基質インプラントを製造する特徴と、頂部及び底部の接着性シーラントを選択し病変部位へ沈着させる特徴と、これら2層のシーラントによって形成された病変腔内への非細胞基質インプラントを埋め込む特徴と、病変部位を被覆しその中に埋め込まれた非細胞基質インプラントの統合性を保護する表層性軟骨層を形成する特徴と、軟骨細胞を活性化させ、これらを移動及び分裂及び増殖させ細胞外基質を分泌させ、最終的に新たな硝子軟骨を形成させこれを病変していない軟骨に統合させるための条件を発生させる特徴とを含む。
【0233】
この方法は一般に、
a)上述した手順に従って非細胞基質インプラントを製造するステップと、
b)手術中に関節軟骨病変部位を清拭するステップと、
c)この清拭ステップ中に、この病変腔を周囲の組織から隔離するための底部シーラントを病変底部に沈着させることにより、非細胞基質インプラントを埋め込むための病変部位を下処理するステップと、
d)非細胞基質インプラントを、重合したこの底部シーラントにより形成される病変腔内に埋め込み、活性化して移動してきた軟骨細胞がインプラント内で増殖しうるようにするステップと、
e)頂部シーラントを病変部位上に沈着させ、これによって2層のシーラント層間に形成された病変腔内にインプラントを封止するステップと、
f)任意であるが、酵素、ホルモン、成長因子、タンパク質、ペプチド及びその他メディエータを非細胞基質内に組み込むか又はこの基質に被着させることにより、これら物質を封止された病変腔内に導入するか、これら物質を個別に導入するか、又はこれら物質が底部シーラントを通じて移動又は輸送される条件を発生させるステップと、
g)手術後、病変修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、健常な硝子軟骨の形成及び周囲の病変していない軟骨へのこの硝子軟骨の統合を促進するものであることが確かめられている間欠的静水圧を自然に発生させるようにするステップと
を有する。
【0234】
本発明によるこの方法にはいくつかの利点がある。この方法の主な利点は、非細胞基質インプラントが予め調製されており、ただ1回の最初の手術中の洗浄及び清拭措置の直後にこの非細胞基質インプラントが埋め込まれることである。
【0235】
第2に、非細胞インプラントは、完全に合成物で非細胞で外来組織又は細胞を含まないため免疫反応が避けられることである。
【0236】
非細胞基質インプラントを用いるこの方法によって、軟骨細胞及び細胞外基質が3次元的に発達することが可能となる。
【0237】
頂部シーラント層を沈着することにより、表層性軟骨層が形成され、この表層性軟骨層は代替物となって健常な関節軟骨の外表面を提供し、インプラント及び活性化して病変部位内に移動してきた軟骨細胞を保護するのに役立つ重要な代謝因子を、発生し収容し保護する。この表層性軟骨層はまた、図10A、図10B、図11A及び図11Bに示されるように、パンヌスが侵食するのを防ぐものでもあり、図8A、図8B、図9A及び図9Bに比べると、これらの場合には病変部位を侵食しているパンヌスが存在することが明らかにわかる。ある例では、温度可逆性ゲルの選択が重要となる場合がある。その理由は、特定のTRGHは頂部シーラントを被着させる必要なく、表層性軟骨層の成長を促進するよう作用しうるためである。
【0238】
底部シーラント層を沈着することによって、手術における洗浄後の病変部位の統合性を保護し、軟骨下の滑膜細胞及び細胞産物の移動を防ぎ、これによって、活性化して非細胞基質インプラント内に移動してきた軟骨細胞から健常な硝子軟骨が形成され、線維軟骨の形成が防止される環境を作り出す。
【0239】
この方法では更に、非細胞基質インプラントを、ヒアルロン酸又は上述した他の成分若しくはメディエイタを一般には約5〜約50%、好ましくは約20%(v/v)で加えることにより、強化することができる。この場合において、このようなヒアルロン酸又は他の成分は、ゲルの基質形成特性の増強因子として作用するとともに、一般には滑膜空間内、特には病変腔内での水分補給因子としても作用する。
【0240】
更に、この方法は非常に用途が広く、いかなる種類のインプラントの変型物も所定の軟骨、骨軟骨又は骨の傷害、損害、老化又は病変の治療に有利に用いることができる。
【0241】
軟骨の治療では、本発明に従って、調製した非細胞基質インプラントを病変部位内に埋め込むことによって患者を治療し、インプラントは、頂部シーラントで被覆された病変部位に必要な期間だけ残留する。通常、手術及びインプラント埋め込み後の2〜3ヵ月の間に、新たな硝子軟骨が形成され、病変していない周囲のホスト軟骨に統合される。一般にはさらなる手術や介入は全く必要ない。というのは、この2〜3ヶ月の間に、歩いたり、走ったり、自転車に乗ったりといった通常の身体活動によって、十分な静水圧が病変部位に加わり、病変していない軟骨に完全に統合される硝子軟骨の形成が開始され促進されるからである。その後、このような軟骨は、表層性軟骨層で被覆された完全に機能する軟骨となり、この表層性軟骨層は、最終的に、病変していない関節の滑膜と同じ種類の表面に成長するか、又はこのような表面を生じさせる。
【0242】
最後に、この方法によって、老化により摩耗した又は病変した変形性関節症の軟骨を、本発明に従って治療されたときに再生する硝子軟骨状の軟骨により置換することもできる。
【0243】
この埋め込みの手順は、本発明の範囲内で上述した又は可能ないかなる変形例もとりうるものである。従って、治療手順、インプラントの種類、1層又は2層のシーラントの使用、埋め込み処理、添加するメディエイタの選択、さらには患者の通常の身体活動に至るまでいかなる変更も本発明の範囲内のものとして意図されたものである。
【0244】
VII.骨又は骨軟骨欠損の治療方法
骨軟骨欠損の治療方法は、一般に軟骨の治療と併せて行われる。骨欠損及び骨病変の治療方法は、骨軟骨欠損と併せて実施することもできるし、又は非細胞インプラントの軟骨への埋め込みに関するステップを行うことなく別々に実施することもできる。
【0245】
VIII.骨軟骨欠損
軟骨下骨が傷害を受けた軟骨の直下にあり、且つ傷害が軟骨及び軟骨下骨若しくは軟骨下骨格骨双方に対する傷害となる解剖学的構成のために、この骨軟骨欠損の治療方法は、VII節に説明した軟骨病変の治療方法を拡張するものであり、相違するのは、前述した方法のステップc)において、外科医は、清拭措置を行った後に、軟骨下病変部位に、代表的には上述した1種以上の骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を含有するキャリアを沈着させ、次にこの組成物を底部シーラント層で被覆し、シーラント若しくはこの組成物又はこれら両方を重合させた後に前述したステップa〜gを行う点である。この種の欠損の性質として、軟骨下骨層が薄いために、下に存在する海綿骨にまで病変が及んでいるおそれが高いことがある。このような例では、骨誘導性組成物又は骨非細胞インプラントを骨格骨内に、軟骨下骨と流動可能に連続するように埋め込み、その後これを底部保護生分解性高分子バリア層により被覆し、前述したようにして非細胞インプラントを埋め込む。
【0246】
IX.骨欠損
本来の骨の欠損、病変又は骨折は、骨格骨内の独立した傷害である。このような種類の傷害は、本発明に従って、骨誘導性組成物又はこの骨誘導性組成物を有するキャリアによっても簡便に治療することもできる。
【0247】
このような場合、キャリアは骨の治療に用いる非細胞インプラントに対応する。この骨非細胞インプラントは骨誘導性薬剤を有する。
【0248】
骨格骨の傷害の治療は、手術中に骨誘導性組成物を病変又は骨折部位に沈着する処理を有する。一般に、骨誘導性組成物は、病変又は骨折部位内に、例えば接着剤や重合可能な溶液のような粉末又は溶液として直接投与するか、或いは上述したように、この組成物を骨誘導性キャリア又は多孔性基質に組み込んでおく。骨病変部位は、病変部位内に組成物を保持するために、頂部シーラント又はその他の任意の表面で被着してもよいし、しなくてもよい。
【0249】
好適な実施例において、脱灰した骨粉は粉末として使用するか、この粉末をコラーゲン、ヒドロゲル又は骨形成作用を有しない他の接着剤溶液に溶解した溶液の状態で使用する。
骨誘導性組成物は病変又は骨折部位を完全に充填する量だけ加える。
【0250】
X.人間の変形性関節症軟骨の治療
関節軟骨は、血管、神経又はリンパの供給がない、ただ1つの組織である。血管及びリンパの循環がないことは、線維性組織又は線維軟骨性組織の形成以外の方法で、関節軟骨が治癒する内在的能力に乏しい理由の1つである。関節軟骨が持つ固有の機械的機能は、大きな傷害、老化による摩耗若しくは変形性関節症(OA)といった病変後、自然に再構築されることはない。
【0251】
現在、高齢患者における、高度の変形性膝関節症に対する唯一利用可能な治療は、膝関節を完全に置き換えることである。
【0252】
しかし、若年及び中年の患者ではこの治療法は最適の治療法ではない。本発明は、元々十分なレベルの細胞外基質構築酵素、成長因子及びその他のメディエイタを有する若年者の傷害に対する治療により実際的なものであるが、この方法は、高齢者に対する治療法となるようにも改変することができ有利である。
【0253】
高齢患者の治療又は大きな病変の治療では、埋め込み前に非細胞基質インプラントに、1種以上のメタロプロテイナーゼ、メディエイタ、酵素及びタンパク質を組み入れるか、又はこれらの因子及びメディエイタの内因的な生成を刺激するような薬剤を組み入れるか、或いはこれらの双方を行う。これらの因子は、上述の通り、軟骨細胞の活性化、移動及び細胞外基質の分泌を刺激し促進する。従って、本発明の方法は高齢者における軟骨欠損の治療にも好適である。但し、このような治療では、より長い治療期間が必要になることが予想される。
【0254】
変形性関節症において、又は老化して摩耗した軟骨においては、各基質タンパク質の分解によって基質の構造的統合性が乱されることにより、機械的特性が減少し機能が損なわれることになる。従って、本発明は、病変した変形性関節症軟骨又は摩耗した軟骨を新たな健常な硝子軟骨で再生する手段を提供することによって、この過程を逆転させるものである。
【0255】
XI.ブタの生体での膝体重支持領域の研究
本発明による方法を、ブタの生体内での研究により試験し確認した。
【0256】
本研究は、後述するように、軟骨細胞の活性化及び周囲軟骨に対する軟骨細胞の移動の誘導、病変部位内に新たに合成される硝子軟骨の生成、並びに表層性軟骨層の形成を検出することによって、ブタにおける非細胞基質インプラントの実現可能性を評価するものとした。
【0257】
本研究は、膝関節の大腿内側顆における体重支持領域での欠損作成、この欠損部位内への非細胞基質の埋め込み、底部及び頂部シーラントの沈着、欠損作成後2週間後における表層性軟骨層の成長の検出、軟骨細胞の形態の検出、パンヌス侵食及び線維軟骨の存在の検出、S−GAG分泌の有無の検出、シーラントの有無の組織化学的評価、を含む。
【0258】
0日目に空の欠損を作成し非細胞基質を埋め込んだ部位の肉眼での解剖学的構造を図3及び図4に示す。欠損作成後7ヶ月の時点における、非細胞基質インプラントにより治療した欠損部位における健常な硝子軟骨の形成状態及び表層性軟骨層の形成状態、並びに対照群の欠損部位における線維軟骨パンヌスの侵食状態を図5〜12に示す。
【0259】
図3は欠損形成時(時間0)における2つ空の欠損部位A及びBを示す。図4は時間0で作成した2つの欠損部位A及びBに非細胞基質インプラントを埋め込んだ状態を示している。
【0260】
図5及び6は、対照群(図5)及び非細胞基質を埋め込んだ実験群(図6)における欠損作成後2週間における関節鏡検査による評価を示している。組織学的等級付けを図7に示す。対照動物についての組織学的評価を図8及び図9に、非細胞インプラントで治療した実験群についの組織学的評価を図10及び図11に、それぞれ2つの倍率で示す。底部及び頂部シーラントが病変部位から分解していく様子を図12A〜図12Cに示す。ミニブタの大腿顆における全層欠損の1例を図13に示す。
【0261】
大腿骨関節面、欠損作成、及びこの欠損部位内のインプラント埋め込み部位の概略図を図1Dに示す。図1Dは大腿骨関節面の内側にある大腿骨内側顆に作成した2つの欠損部位A及びBを示す。これら欠損部位の大きさは直径4mm、深さ1〜1.5mmである。これら欠損部位は体重支持領域に作成された。
【0262】
表1は図1Dに概略を図示した研究デザインの条件を表にしたものである。
【0263】
【表1】

【0264】
表1は軟骨病変の治療のための非細胞基質インプラントの実現可能性を調べるための7ヵ月間の研究に関する研究デザインを示している。本研究は、2つの群のそれぞれにおいて、生後9〜12ヶ月の去勢された雄のユカタン・マイクロ・ブタを8匹ずつ対象としている。
2つの欠損(A及びB)を時間0において各動物の膝に作成し、合計で16箇所の欠損部位を作成した。実験群には、欠損作成時に非細胞基質インプラントを埋め込んだ。対照群においては、欠損は、いかなる治療もせずに空のままにしておき、視覚的、顕微鏡的、組織学的、及び組織化学的な比較のために使用した。関節鏡検査は、埋め込み及び欠損作成から2週間後に施行した。剖検は、埋め込み及び欠損作成から7ヶ月後に行った。
【0265】
非細胞基質インプラントは、カルフォルニア州にあるCohesion社から入手したコラーゲン溶液VITROGEN(登録商標)(35μL)から調製した。コラーゲンゲル溶液は、日本国にあるKohken社から入手したコラーゲンハニカムスポンジ(直径5mm、厚さ1.5mm)内に吸収させた。図2Aに示した複合コラーゲンゲル/スポンジ構造物は、37℃で1時間予め暖めてコラーゲンをゲル化した後、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する培地において5%二酸化炭素中で37℃の温度で培養した。重合から約24時間後、埋め込み処理のために、予め暖めた培地(37℃)をいれた組織培養容器に生分解性スキャフォルドを移した。
【0266】
吸入麻酔下で関節を切開した。膝関節包を開いた後、各動物の大腿骨内側顆の体重支持部位の大腿骨の関節軟骨に2つの空の全層欠損(直径4mm、深さ約1.5mm)を作成した。欠損を作成した後、この欠損部位の底部に組織シーラントを設置した。この後、軟骨病変内に設置したこの底部シーラント上に、予め調製した非細胞生分解性基質を配置した。この非細胞基質を、通常4〜6針の吸収性縫合、及び2針の非吸収性縫合で固定した。
非吸収性縫合は、関節鏡検査による評価の際のマーカーとして使用したもので、図6に見られるものである。その後、埋め込み処理を行った欠損部位を、頂部シーラントにて封止した。対照群では、2つの空の全層欠損を作成して何もしないままにしておいた。すなわち、これらの欠損部位の中には何も入れておらず、インプラントも埋め込んでないし、底部又は頂部シーラントも沈着していない。
【0267】
図3は、大腿骨内側顆の体重支持部位にある関節軟骨に作成した2つの空の全層欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の写真を示している。空の欠損部位は、全研究期間にわたって何もしないままとし、実験群に対する対照群として用いた。
【0268】
図4は、図3に示す空の欠損部位と同様に作成した2つの全層欠損部位の写真である。これら2つの欠損を本発明の方法に従って治療し、病変底部上に底部シーラントを沈着させた。この底部保護生分解性高分子バリア上の病変腔内に非細胞基質インプラントを埋め込み、埋め込まれた非細胞基質インプラント上に頂部シーラントを沈着させた。インプラントは、直径5mm、厚さ1.5mmのコラーゲンスポンジ(図2A)とした。インプラントは欠損部位A及びBの双方に埋め込んだ。各インプラントは、吸収性縫合と、以降の関節鏡検査評価時にマーカーとして使用する2針の非吸収性縫合とにより固定した。
【0269】
欠損を作成し非細胞基質を埋め込んで2週間後に、空の欠損部位及び埋め込み部位を関節鏡検査にて評価した。2週間後の関節鏡検査の評価を図5及び6に示す。
【0270】
図5は、欠損形成の2週間後における空の欠損部位の関節鏡顕微鏡写真である。関節鏡検査による評価によって、対照群では、無処置のままにした場合、病変部位に滑膜パンヌスが侵食し、線維軟骨で満たされてしまうことが示された。この関節鏡検査による評価は、欠損部位が陥凹していることを明示しており、このことは、欠損部位が完全にむき出しで、空になっているが、滑膜の侵食がすでに起きていることを示している。このような滑膜の侵食は、線維軟骨が形成される最初の段階となる。線維軟骨は質的にも機能的にも硝子軟骨に劣るため、硝子軟骨に変わり線維軟骨が形成されて硝子軟骨を置換するのは望ましくない。
【0271】
埋め込み部位の関節鏡検査による評価によって、2週時間の時点ですでに、欠損部位が表層性軟骨層で被覆されていることが示された。図6は、欠損作成から2週間の時点での、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位の関節鏡顕微鏡写真である。図6は、表層性軟骨層が埋め込み部位を被覆し、平滑な表面を形成していることを示している。この埋め込み部位の境界は、空の欠損部位の境界が明確で目に見えるものであるのに比べ、もはやはっきりわからないものとなっている。このような埋め込み部位は、軟骨細胞がインプラント内へ移動し、細胞外基質が分泌されホスト軟骨と合流し始めており、この埋め込み部位全体が表層性軟骨層により被覆されていることを示している。図6に示す関節鏡検査による評価は、非細胞基質を埋め込んだ病変部位がむき出しなっておらず、この埋め込み部位を覆う表層性軟骨層により完全に被覆されていることを明らかにしており、この埋め込み部位は、図5に示す対照群における完全にむき出しで空の欠損部位と比べると平滑な表面に見えている。
【0272】
欠損を作成し非細胞インプラントを埋め込んでから7ヶ月の時点で、動物を安楽死させた。大腿関節顆の埋め込み部位及び欠損部位を組織学的評価のために採取した。採取した組織は、4%ホルムアルデヒド/PBSにより4℃で固定した。これら組織を10%のギ酸により脱灰し、処理して、パラフィンに封埋した。薄切片(5μm)をサフラニン−O(Saf−O)及びヘマトキシリンエオジン(H−E)にて染色し、組織学的評価を行った。
【0273】
染色した薄切片は、文献J. Bone Joint Surg. Am.(1997年)の第1452〜62頁により改変した図7に示す組織学的等級付けスケールにより盲検法にて評価した。欠損部位中央から採取した薄切片のみについて等級付けを行った。その理由は、確実に偏りのない解析を行い、異なった時点において調べた標本間での比較が可能となるようにするためである。欠損部位中央の領域のみを選択したのは、治癒能力を最も厳密に試験するためでもあり、また、欠損部位中央から採取した標本には確実に最小量の軟骨の治癒が確認されるためでもある。
【0274】
軟骨修復を評価するために使用した組織学的等級付けシステムを表2に示す。
【0275】
【表2−1】

【0276】
【表2−2】

【0277】
修復した軟骨の組織学的等級付けを行った累積結果を表3に示す。
【0278】
【表3】

【0279】
表3に示すように、欠損作成及び非細胞基質インプラントによる治療の7ヶ月後の時点での組織学的等級付けの平均合計得点は、非細胞インプラントの埋め込みを行った群において欠損部位を空にした群よりはるかに高く、埋め込みを行った群の得点は全項目において欠損部位を空にした群より高かった。
【0280】
修復組織の組織学的等級付けを図7に示しており、これは表5に示した結果を図示したものである。組織学的等級付けスケールに基づく平均合計得点は、治療を行っていない欠損に比べ、非細胞基質インプラントで治療した欠損において有意に良好であった(p≦0.001)。欠損作成後7ヵ月の時点で、動物を殺して関節を採取し、サフラニン−O染色にて評価した。これらの結果を図8〜11に示す。
【0281】
欠損作成後7ヵ月の時点での、インプラントを埋め込まなかった空の欠損部位A及びBを図8A、8B、9A及び9Bに示す。
【0282】
図8Aは、欠損作成後7ヵ月の時点における、対照群の欠損部位Aにおけるインプラントを埋め込んでいない空の欠損部位(D)をサフラニン−O染色した顕微鏡写真(倍率29倍)である。強拡大図(図8B)には、軟骨下骨(SB)領域を下方に有するホスト軟骨(H)に囲まれた欠損部位(図8A)が線維軟骨(F)により満たされている様子が明らかに示されている。この欠損部位は、赤色によって示されるS―GAGの蓄積が極めて少量であるか全く存在しないことが観察された。S−GAGの蓄積が極めて少量であるか全く存在しないことは細胞外基質が形成されていることを証拠づけるものである。S−GAGが少量しか存在しないか、又は全く存在しないならば、細胞外基質は形成されておらず、このことは軟骨細胞の移動がないこと、及び硝子軟骨の形成がないことを示している。このことは、病変部位内に線維軟骨が存在し形成されていることも示している。図8Bは、欠損部位を倍率72倍で示したもので、線維性細胞である線維芽細胞が存在していることを確実にするもので、滑膜から血管結合組織パンヌス(F)が侵食していることを示している。
軟骨細胞の形態は、ほぼ紡錘形(線維性)の細胞が存在することを示している。
【0283】
図9Aは、欠損作成後7ヶ月の時点での対照群の欠損部位Bにおけるインプラントを埋め込んでいない空の欠損部位(D)をサフラニン−O染色した顕微鏡写真(倍率29倍)であり、軟骨下骨(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)に囲まれた、欠損部位を満たす線維組織(F)が形成されていることがわかる。病変部位の表面が極めて不揃いであることが観察された。この欠損部位においては、赤色によって示されるS−GAGの集積が極めて少量しかないことが観察された。S−GAGの蓄積は細胞外基質の形成を証拠づける。
【0284】
図9Bは欠損部位の倍率72倍の顕微鏡写真であり、線維芽細胞が存在することが示されており、このことは、滑膜からの血管結合組織パンヌス(F)の侵食を表している。この部位で観察された細胞の形態により、大部分が紡錘形の線維細胞であることが示されている。
【0285】
図8A、8B、9A及び9Bは、本発明の非細胞インプラントにより治療しなかったインプラントを埋め込んでいない対照群の欠損部位が、S−GAGの蓄積として表れる健常な硝子軟骨の形成を表示しないことを明示している。このS−GAGの蓄積はこれはサフラニン−O染色を施した顕微鏡写真では赤色として認められる。これらの顕微鏡写真では、むしろ、空の欠損部位に蓄積された紡錘形の線維細胞を有する欠損部位へ、血管結合組織パンヌス滑膜が侵食していることが示されている。
【0286】
病変部位を治療しない場合には、欠損部位は線維軟骨によって満たされてしまったが、非細胞基質インプラントを欠損部位に埋め込んだ場合、軟骨細胞の活性化及び周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動が引き起こされ、埋め込み部位内に軟骨細胞外基質が大量に形成され(細胞外基質の蓄積)、血管結合組織パンヌスの侵食が最小限になる。細胞外基質の蓄積は、実験動物の埋め込み部位において強赤色として検出された。これらの結果を図10A、10B、11A及び11Bに示す。
【0287】
図10Aは、欠損作成及び非細胞基質インプラントの埋め込み後7ヶ月の時点での、欠損部位A内に埋め込まれた非細胞基質インプラント(I)のサフラニン−O染色による組織学的評価を示す顕微鏡写真である。図10Aは、周囲の病変していないホスト軟骨(H)から、病変部位内に埋め込まれたインプラント(I)内へ細胞の移動が引き起こされている様子をはっきりと示している。埋め込みから7ヶ月後、硝子軟骨状の軟骨が非細胞基質インプラントの埋め込み部位で観察された。硝子軟骨の存在は、正常なS−GAGの蓄積によって示され、このことは欠損部位Aに存在する顕著な赤色として表される。表層性軟骨層が病変部位上に形成されているのがわかる。埋め込み部位における血管結合組織パンヌスは極めて小さいものであった。インプラントは、軟骨下骨領域(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。
【0288】
図10Bは、埋め込み領域の強拡大(72×)図であり、S−GAGの集積を示す赤色の部分が存在しており、軟骨細胞の形態により、治療を行っていない対象群の欠損部位に観察された紡錘形の線維細胞と比べ、正常でほぼ円形の細胞が主として存在していることが示されている。
【0289】
図11Aは、埋め込み後7ヵ月の時点での、欠損部位B内に埋め込まれた非細胞基質インプラント(I)のサフラニン−O染色による組織学的評価を示す顕微鏡写真(倍率29倍)である。図11Aにより図10Aに示した結果が確認される。図11Aは、周囲の病変していないホスト軟骨(H)から病変部位内に埋め込まれたインプラント(I)内への細胞の移動が引き起こされている様子をはっきりと示している。埋め込み後の7ヵ月の時点において、硝子軟骨状の軟骨が非細胞インプラント部位において観察された。硝子軟骨の存在は、正常なS−GAGの蓄積によって示され、このことは欠損部位Bに存在する顕著な赤色により表される。病変部位上に形成された表層性軟骨層及び非吸収性縫合の跡も見られる。埋め込み部位において、血管結合組織パンヌスによる滑膜の侵食は全く観察されなかった。インプラントは、軟骨下骨層領域(SB)を下方に有するホスト軟骨(H)によって囲まれている。非吸収性縫合糸はホスト軟骨とインプラントとの間の元々の境界を示しているが、この時点ではほぼ完全にわからなくなっている。
【0290】
図11Bは、多量に蓄積されたS−GAGの存在を表す赤色の部分を有する埋め込み領域の強拡大(72×)図を示す。この場合も軟骨細胞の形態により、正常でほぼ円形の細胞が存在していることが示されており、このことは前述した病変部位Aにおいて観察された結果を確実なものとしている。図10A及び図10B、図11A及び図11Bに示すように、生分解性非細胞基質とホスト軟骨とが統合している様子がはっきりと見える。このような統合は、欠損部位が健常な硝子軟骨により囲まれている図8A及び図9Aでは観察されていない。これらの図は、欠損部位での細胞の形態が、図10A及び図10Bに示す埋め込み部位の細胞のものと異なっていることを示している。空の欠損部位での細胞の形態は、周囲の硝子軟骨の細胞と異なる紡錘形の線維細胞が存在することを示している。これに対し、埋め込み部位での細胞の形態は、周囲の健常な硝子軟骨でも観察されるような正常な(円形の)細胞が存在することを示している。このように7ヶ月後の埋め込み部位は、過去に傷害を受けていない軟骨と、インプラントの埋め込み後に病変部位内に形成された軟骨との間に違いがないことを示している。
【0291】
加えて、病変部位に埋め込まれたインプラント上に沈着した頂部シーラントを使用することにより、表層性軟骨層が形成され、埋め込み部位における滑膜組織の侵食が最小限になる。
【0292】
非細胞インプラントを埋め込んだ軟骨病変部位上に頂部保護生分解性高分子バリアを沈着すると、この軟骨病変部位上に表層性軟骨層が形成される。図6に示すように、埋め込み後2週間で表層性軟骨層がすでに存在することが観察された。この表層性軟骨層を形成せしめる頂部シーラントは、生分解性であり所定の時間内に生分解される。保護シーラントを沈着してから3ヵ月の時点では、表面領域に、表層性軟骨層と共に、残留している保護生分解性高分子バリアが依然として観察された。埋め込み後7ヶ月の時点で、この頂部シーラントは完全に生分解され、図10A及び11Aに示されるようにその場所に表層性軟骨層が形成された。
【0293】
生体内における頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの分解を測定するために、スキャフォルド基質を用いて自己由来の軟骨細胞構造物を埋め込んだ関節軟骨の標本を、サフラニン−O(図12A〜図12C)で染色した。図面におけるサフラニン−O染色で赤色調の部分は、S−GAGの蓄積を示している。紫色の部分は、組織接着剤が不定形の構造で残留していることを示している。
【0294】
図12は、非細胞基質の埋め込み後3ヶ月の時点での頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの分解パターンを示している。この時点で、表層性軟骨層がインプラント上に形成され、頂部保護シーラントが一部分解されていた。底部シーラントは、病変部位底部に沈着後3ヶ月の時点において、完全に分解され病変部位から取り除かれていた。
【0295】
図12Aは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の表面図を示しており、表層性軟骨層がはっきりと見え、少量の頂部シーラントがこの表層性軟骨層の下に残留している。図12Bは、サフラニン−O染色を施した埋め込み部位の側面図を示している。図12Cは、時間0において底部シーラントを沈着した埋め込み部位にサフラニン−O染色を施した状態を示す下面図である。
【0296】
この試験において、残留している頂部シーラントは、再生した硝子軟骨状軟骨領域の頂部と表層性軟骨層との間の表面にしか観察されなかった(図12A)。側面図では、埋め込み部位と周囲のホスト軟骨との界面にいかなる頂部又は底部シーラントも残留していないことが示された(図12B)。底部シーラントは、これを時間0において沈着した、軟骨下骨領域と界面を成している病変部位底部に残留していなかった(図12C)。
【0297】
これらの結果は、底部シーラントは、埋め込みから約3ヵ月後に完全に生分解され、病変部位から取り除かれることを示している。この時点では、頂部シーラントがまだ病変部位表面に残留しているのが見えるが、この保護シーラントは、この場所で滑膜のいかなる移動又は侵食からも非細胞インプラントを保護するとともに、表層性軟骨層の形成を支持している。時間が経過すれば、頂部シーラントのこのような残留物も、生分解され治癒部位から取り除かれる。このことは、いかなる頂部又は底部シーラントも欠損部位に残っていないことによって裏付けられている。
【0298】
本例において頂部シーラントが3ヵ月の時点でまだ残留している理由は、細胞の統合及び硝子軟骨の形成に重要な細胞の移動が、非細胞インプラントの埋め込み部よりも、側面及び底面の領域においてより活発だからである。これらの側面及び底面の領域では、保護シーラントは3ヵ月以内に完全に分解される。このような現象は、生体内への細胞及び非細胞基質インプラントの埋め込みでの両方で起こることが観察された。細胞インプラントは、同時係属の米国特許出願第10/625,245号(2003年7月22日出願)明細書に記載されている。
【0299】
対照群及び実験動物群において軟骨欠損の作成に用いた外科手術が、軟骨下骨領域を貫通する微小骨折法とは異なっていることを確認するために、ミニブタの大腿顆に全層欠損を作成し、この画像を図13に倍率72倍で示した。図13は、作成したこの全層欠損をパラフィンに包埋し、サフラニン−O染色を施した参照組織である。ホスト軟骨に囲まれ、下方に軟骨下骨領域を有する大腿顆から未治療の関節軟骨及び骨の欠損部位を作成した。軟骨下骨の上方の領域に、石灰化した残留軟骨領域が見られる。この組織は、組織学的評価のための参照組織として全ての研究において利用した。
【0300】
上述の結果は、本発明による軟骨病変部位内への生分解性非細胞基質インプラントの埋め込み措置により、周囲の病変していない軟骨からの軟骨細胞の移動及び細胞外基質の形成が引き起こされ、これにより新たな硝子軟骨が合成されるが、インプラントの埋め込み部位における血管結合組織パンヌスの骨膜侵食は最小限になる、ということを示している。
【0301】
新たな硝子軟骨の合成は、S−GAGの蓄積として表される細胞外基質の蓄積により測定した。また、生分解性非細胞インプラントとホスト軟骨との間の細胞統合も観察した。底部及び頂部シーラント、並びに縫合糸は、主に病変部位内にインプラントを固定するために使用するものであるが、これらは埋め込み部位における滑膜組織の侵食を最小にするという副次的な効果も持ちうることが示唆されている。その一方で、上述の及び図によって示される結果は明らかに、無治療で処置をしていない対照群の欠損部位では血管結合組織パンヌスを伴って滑膜が侵食する、ということを示している。
【0302】
本発明を実施するのに最も好適な非細胞基質インプラントは、シーラントの底部及び頂部層間にはさまれた、I型コラーゲンの温度可逆性ヒドロゲルを充填したI型アテロコラーゲンからなる多孔性ハニカムスポンジを有するものである。多孔質ハニカムのI型コラーゲンからなる隔壁は、コラーゲン−PEGの化学的相互作用に加わることにより、コンクリートに対する金属補強筋の作用と同じようにして、保護生分解性高分子バリアの封止能力を更に強くする。
【0303】
非細胞インプラント自体は、時間が経てば完全に生分解することができる。その間に、性的に成熟しているが完全には骨端線が癒合していないミニブタにおいて、以下のような状況が観察された。頂部シーラントにより被覆した2mmの大腿顆病変部位において、表層性軟骨層が、非細胞インプラントの周囲にある健常な軟骨領域の端部から広がり、病変部位及びシーラント層を覆うようになるのが観察される。加えて、非細胞インプラント内への軟骨細胞の移動や、最終的にインプラントを満たしこれを置換することになる新たな硝子軟骨基質の生成も観察される。このような新たな軟骨基質は、硫化グリコアミノグリカン含有量及び組織学的所見による評価から分かるように、硝子軟骨であるか又はこれに極めて類似したものである。これらの移動性の軟骨細胞の生成源は、非細胞インプラントの周囲にある健常な軟骨の周辺深部層と、インプラントを覆う表層性軟骨層との双方であると考えられる。その理由は、これらの層が、硝子軟骨を産生しうる分化した軟骨細胞の生成源であることが示されているからである。最終的に、硝子状軟骨がインプラントを充填し、これと同時に埋め込まれた非細胞基質が徐々に生分解されるのが確かめられている。
【0304】
本発明の方法では、頂部及び底部シーラントは、軟骨下腔からの破片がインプラントに入るのを防ぎ(底部シーラント)、インプラントを病変腔内に隔離する(頂部シーラント)ように意図されている。病変部位内に隔離した非細胞基質インプラントにより、周囲の健常な軟骨から軟骨細胞が移動して、基質に入りうるようになる。関節の通常の身体活動の間に自然に加わる静水圧により、軟骨形成が促進され、真の硝子軟骨が形成され、病変部位が治癒する。
【0305】
上記の研究結果から、傷害を受け、損傷を受け、病変した又は老化した軟骨を、本発明に従って調製された非細胞インプラントを用いることにより治療することができること、及び本発明の非細胞基質インプラントは、周囲の健常なホスト軟骨からの細胞の移動を引き起こすもので、このインプラントの埋め込みにより周囲の健常組織から表層性軟骨膜を内方に成長させるということが確認された。この膜、すなわち表層性軟骨層は、いかなる滑膜の侵食からも病変部位内のインプラントを保護する。一度インプラントを病変部位内に適切に埋め込んでおけば、間欠的な静水圧、低い酸素張力及び成長因子といった自然な物理化学的因子により軟骨の回復がもたらされる。
【0306】
本発明の非細胞基質インプラントシステムには多くの利点がある。生検及び細胞採取の必要がなくなり、病変部位上の骨膜を被覆する必要がなくなり、健常組織に傷害を与えることもなく、2回目及び3回目の手術も必要なくなくなるため、回復が速くなり、次の手術までの待機期間もなくなる。
【0307】
上述の利点は、軟骨下及び骨病変の治療にも同様に付随するものである。
【0308】
実施例1 非細胞コラーゲンインプラントの調製
この実施例は非細胞基質インプラントの調製法を説明している。
【0309】
pH3.0に保持した1%水性アテロコラーゲン溶液(VITROGEN(登録商標))300グラムを10×20cmのトレイに注ぐ。次に、このトレイを5リットルの容器内に設置する。次に、3%アンモニア水溶液30mlをいれた50mlのふたの開いた容器を、上述した1%水性アテロコラーゲン溶液300グラムが入った5リットル容器内に設置する。そして、アンモニア及びアテロコラーゲンの入ったふたの開いたトレイをいれたこの5リットルの容器を密封して、室温で12時間そのままにしておく。この間に、アンモニア水をいれたふたの開いた容器からアンモニアガスが放出され、このガスは密封した5リットルの容器に閉じこめられた水性アテロコラーゲンと反応して水性アテロコラーゲン溶液をゲル化する。
【0310】
コラーゲンゲルを水で一晩洗浄し、次に凍結乾燥してスポンジ状基質を作る。この凍結乾燥した基質はその後、正方形に裁断して、殺菌して、無菌ラップ下に保存する。
【0311】
或いは又、支持基質を以下のように調製することもできる。
【0312】
約4mm〜10mmの厚みを有する多孔性コラーゲン基質を、湿度を調整したチャンバを用いて、相対湿度80%、温度25℃で60分間水和する。コラーゲン材料を、2枚のテフロン(登録商標)シート間で0.2mm未満の厚さに圧縮する。この圧縮したコラーゲン材料を次に、0.5%ホルムアルデヒド、1%炭酸水素ナトリウム溶液中で、pH8で60分間架橋させる。この架橋させた膜を完全に水ですすぎ、約48時間凍結乾燥する。高密度のコラーゲンバリアは、絡み合って多層構造体となっている高密度充填線維の内側埋め込体を有する。
【0313】
他の例では、統合化層を、乾燥するとシート状になるコラーゲンを主成分とする分散体又は溶液から調製する。乾燥を約4〜40℃の温度で、約7〜48時間行う。
【0314】
コラーゲンインプラントの組織学的評価のために、4%パラホルムアルデヒドで固定したパラフィン切片をサフラニン−O(Saf−O)及びII型コラーゲン抗体にて染色した。
【0315】
インプラントの生化学的な分析のために、接種したスポンジをパパインで60℃で18時間消化させ、DNA含有量をヘキスト(Hoechst)33258色素法を用いて測定した。硫酸グリコサミノグリカン(S−GAG)の蓄積を改変ジメチルメチレンブルー(DMB)マイクロアッセイを用いて測定した。
【0316】
実施例2 生化学及び組織学的分析
この実施例は生化学的及び組織学的研究に用いた分析法について記載する。
【0317】
生化学的(DMB)分析のために、埋め込みから一定期間後に動物から採取したインプラントを、マイクロ遠心管へ移し、300μlのパパイン(0.1Mリン酸ナトリウム、5mMの二ナトリウムEDTA及び5mMのL−システイン−HCl中に125μg/ml)中で18時間60℃にて消化した。インプラントにおけるS−GAGの産生は、文献Connective Tissue Research(1982年)9:第247〜248頁の記載に従い、サメのコンドロイチン硫酸を対照として、改変ジメチルメチレンブルー(DMB)マイクロアッセイを用いて測定した。
【0318】
DNA含有量を、文献Anal. Biochem.(1998年)174:第168〜176頁の記載に従って、ヘキスト3325染色法にて測定した。
【0319】
組織学的な分析のために、各群における残留インプラントを4%パラホルムアルデヒドにて固定した。インプラントを、処理してパラフィンに包埋した。厚さ10μmの薄切片をミクロトーム上に切り出し、サフラニン−O(Saf−O)にて染色した。
【0320】
免疫組織化学のために、サンプルをジアミノベンジジン(DAB)に接触させた。DABは、反応が陽性であれば茶色を呈する色素である。
【0321】
実施例3 ブタモデルでの非細胞基質インプラントの統合性の評価
この実施例は、ブタモデルにおけるブタでのインプラントの統合性を評価するために行った研究の手順及び結果を記載する。
【0322】
全ての動物について右膝の関節を切開し、軟骨の生検を行った。
【0323】
ブタの右膝の大腿骨内側顆に欠損を作成した。対照群におけるこの欠損部位は、非細胞基質を埋め込まず、何もしないままにした。手術後、関節を外固定インプラントにて2週間固定した。右膝の関節を切開してから2週間後に、左膝の関節を切開し、左膝の大腿骨内側顆に欠損を作成した。左膝の欠損部位には非細胞基質インプラントを埋め込み、右膝のときと同様に固定した。手術部位は、埋め込み措置又は欠損作成後2週間の時点で関節鏡検査にて観察し、その後は1月ごとに観察した。
【0324】
非細胞インプラントの埋め込み措置から約7ヶ月の時点で、動物を安楽死させ関節を採取し、組織学的検査のために調製した。埋め込み部位を調製して、組織学的検査を行った。
【図面の簡単な説明】
【0325】
【図1A】図1Aは、傷害を受けていない骨を下方に有するホスト軟骨内の軟骨病変部位の線図的拡大図であり、この病変部位の底部に沈着した底部シーラントと、この底部シーラントの上に埋め込まれ、頂部シーラントで被覆された非細胞基質インプラントが示されている。
【図1B】図1Bは、骨軟骨欠損の線図的拡大図であり、関節病変部位、及び骨病変部位と、この骨病変部位での骨誘導性組成物(骨材料)又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
【図1C】図1Cは、骨欠損部位の線図的拡大図であり、関節病変部位と、骨軟骨及び骨格骨の複合病変部位と、この骨病変部位又は骨軟骨病変部位内における骨誘導性組成物又はこの組成物を含んだキャリアの配置位置と、頂部及び底部保護生分解性高分子バリアの配置位置と、非細胞基質インプラントの配置位置とを示している。
【図1D】図1Dは、非細胞基質インプラントの埋め込み部位又は空の対照欠損部位として用いるための、体重支持領域に形成された欠損部位A及びBを示す。
【図2A】図2Aは、鉗子で把持した非細胞基質インプラントの画像である。
【図2B】図2Bは、非細胞基質スポンジのハニカム構造の長手方向線図であり、コラーゲンスポンジと、多孔質コラーゲンゲルとの相対的位置を示しており、細孔の寸法は200〜400μmである。
【図3】図3は、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの空の対照欠損部位A及びB(直径4mm、深さ1〜1.5mm)の顕微鏡画像を示している。
【図4】図4は、非細胞インプラントを埋め込だ、ブタの大腿骨内側顆の体重支持部位に作成した2つの欠損部位A及びBの顕微鏡画像を示している。
【図5】図5は、欠損作成後2週間の時点における、空の欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示しており、欠損部位は完全にむき出しで空になっている。
【図6】図6は、欠損作成後2週間の時点における、非細胞基質インプラントで治療した欠損部位を拡大しての関節鏡検査による評価を示している。
【図7】図7は、修復組織の組織学的等級付けを示すグラフである。
【図8A】図8Aは、対照部位(A)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図8B】図8Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図9A】図9Aは、対照部位(B)における空の欠損部位(D)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図9B】図9Bは、欠損部位(D)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図10A】図10Aは、埋め込み部位(A)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図10B】図10Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図11A】図11Aは、埋め込み部位(B)における非細胞インプラント(I)の組織学的評価(倍率29倍)を示す。
【図11B】図11Bは、埋め込み部位(I)の強拡大図(倍率72倍)を示す。
【図12】図12A〜12Cは、非細胞基質埋め込み後3ヶ月の時点での、頂部シーラントの生体内での分解パターンを示している。
【図13】図13は、ミニブタの大腿顆に作成した、採取後の全層欠損(D)の画像の例を倍率72倍で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軟骨の傷害を治療し、損傷若しくは傷害された又は病変若しくは老化した軟骨を機能的な硝子軟骨に修復及び回復させる方法であって、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)前記インプラントを関節軟骨病変部位内に埋め込むステップと
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントが、スポンジ、多孔性若しくはハニカムのスキャフォルド、ゾル・ゲル、ゲル、芳香族性有機酸の高分子、カプロラクトン高分子又は温度可逆ゲル化ヒドロゲルである方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、さらに前記病変部位内に埋め込まれた前記インプラントの上に生物学的に許容されうる頂部シーラントの層を沈着するステップを有する方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記病変部位の底部に生物学的に許容されうる底部シーラントの層を沈着するステップを有する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記頂部シーラントと前記底部シーラントは、同じものであるか、又は異なるものである方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記インプラントと前記頂部シーラントを組み合わせることにより、表層性軟骨層を形成及び成長させ、軟骨病変部位を封止する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、加えて、関節軟骨病変部位を清拭する清拭ステップと、この清拭ステップ中に前記病変部位の底部に底部シーラントを沈着して病変腔を周囲の組織から隔離することにより、非細胞基質インプラントを埋め込むために病変部位を準備するステップとを有する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、任意であるが、酵素、ホルモン、成長因子、タンパク質、ペプチド及びメディエイタ、又はこれらの因子又はメディエイタの内因的な産生を誘導する薬剤を、封止された前記病変腔に導入するか、或いはこれらの物質が底部シーラントを通じて移動又は輸送される条件を発生させるステップを有する方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、前記病変部位の修復のための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、これにより機能的な硝子軟骨の形成及び周囲の病変していない軟骨へのこの硝子軟骨の統合を促進する間欠的静水圧を自然に発生させるようにするステップを有する方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントは、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、プロテオグリカンを有する細胞収縮性コラーゲン、グリコサミノグリカンを有する細胞収縮性コラーゲン、糖タンパク質を有する細胞収縮性コラーゲン、ゼラチン、アガロース、ヒアルロニン、フィブロネクチン、ラミニン、生理活性ペプチド成長因子、サイトカイン、エラスチン、フィブリン、カプロラクトン高分子、芳香族性有機酸の高分子若しくはこれらの共重合体、ポリ乳酸から合成される合成高分子線維、ポリグリコール酸から合成される合成高分子線維、ポリアミノ酸、ポリペプチドゲル、高分子温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)、これらの共重合体及びこれらの組み合わせからなるグループから選択された材料より調製される方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、非細胞基質インプラントを調製するための前記材料は温度可逆性ゲル化ヒドロゲルである方法。
【請求項12】
関節軟骨の傷害を治療するのに好適な請求項11に記載の方法であって、
a)非細胞基質インプラントを調製するステップと、
b)手術中に前記病変部位を清拭するステップと、
c)前記インプラントの埋め込みのために軟骨病変部位を下処理するステップであって、前記病変部位を封止し血液由来の物質からインプラントを保護するために軟骨病変部位の底部に底部シーラントを沈着するステップを有する当該ステップと、
d)前記インプラントを病変部位内に埋め込むステップと、
e)前記非細胞基質インプラントの上の頂部シーラントを沈着させるステップと、
f)手術後に、前記病変部位を修復するための手術を受けた患者に通常の身体活動を行わせ、これにより間欠的静水圧を自然に発生させるステップと
を有する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、非細胞基質インプラントは、生分解し得るコラーゲンスポンジ、ハニカムスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、カプロラクトン高分子、芳香族性有機酸の高分子、温度可逆性ゲル化ヒドロゲル(TRGH)基質である方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記基質は加えて、基質再構築酵素、基質メタロプロテイナーゼ、アグリカナーゼ及びカテプシンを含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記非細胞基質インプラントは、底部シーラント層の上に形成された病変腔内に埋め込まれた、又は頂部及び底部シーラントの間に形成された病変腔内に埋め込まれた温度可逆性ヒドロゲル(TRGH)であって、このTRGHは、コラーゲンスポンジ又はスキャフォルドに組み込まれるか、又は約5〜約30℃の温度でゾルとして、前記病変腔内に沈着され、この病変腔内で体温により前記TRGHは流動性のゾルから固体ゲルに変化する方法。
【請求項16】
骨軟骨欠損を治療するための方法において、
a)骨病変部位内に埋め込むための、1種類又は数種類の骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを調製するステップと、
b)コラーゲンスポンジ、コラーゲン多孔性スキャフォルド、カプロラクトン高分子、芳香族性有機酸の高分子又は温度可逆性ヒドロゲル(TRGH)の基質支持体として、軟骨病変部位に埋め込むための非細胞基質インプラントを調製するステップであって、前記スポンジ、スキャフォルド、高分子又はTRGHは生分解性で、経時間的に分解され取り除かれて硝子軟骨により置換される当該ステップと、
c)前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
d)底部シーラントにより前記骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを被覆するステップと、
e)前記非細胞基質インプラントを前記底部シーラントの上の前記軟骨部位内に埋め込むステップと、
f)頂部シーラント層を前記インプラントの上に導入するステップであって、前記頂部シーラントと前記底部シーラントは同じものであっても異なるものであってもよい当該ステップと
を有する方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は、脱灰した骨粉、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、リン酸カルシウム、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、これらの共重合体、及び骨形態形成タンパク質からなるグループから選択される方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤はヒドロキシアパタイトである方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は脱灰した骨粉である方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記脱灰した骨粉はコラーゲンに溶解している方法。
【請求項21】
請求項16に記載の方法において、骨誘導性薬剤を有する前記キャリアが芳香族性有機酸の高分子又はカプロラクトン高分子方法。
【請求項22】
骨欠損及び骨折を治療する方法であって、
a)骨病変部位内に埋め込むための、1種類又は数種類の骨誘導性薬剤を含む骨誘導性組成物又はこの組成物を有するキャリアを調製するステップと、
b)前記骨誘導性組成物又は前記組成物を有する前記キャリアを骨病変部位内に導入するステップと、
c)前記骨誘導性組成物又は前記組成物を有する前記キャリアをシーラント層で被覆するステップと
を有する方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤は、脱灰した骨粉、ヒドロキシアパタイト、有機アパタイト、リン酸カルシウム、酸化チタン、ポリ−L−乳酸、ポリグリコール酸、これらの共重合体、及び骨形態形成タンパク質からなるグループから選択される方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記骨誘導性組成物は脱灰した骨粉である方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記脱灰した骨粉はコラーゲンと混合して安定ペーストとする方法。
【請求項26】
請求項23に記載の方法において、前記骨誘導性薬剤を有する前記キャリアは、有機芳香族酸の高分子又はカプロラクトン高分子である方法。
【請求項27】
請求項23に記載の方法において、前記骨誘導性組成物はヒドロキシアパタイトである方法。
【請求項28】
請求項23に記載の方法において、前記骨誘導性組成物は骨形態形成タンパク質である方法。
【請求項29】
請求項23に記載の方法において、前記骨誘導性組成物は酸化チタンである方法。
【請求項30】
軟骨病変部位内に埋め込む非細胞基質インプラントであって、このインプラントは、スポンジ又は多孔性若しくはハニカムのスキャフォルドとして製造される、コラーゲン材料、ゾル・ゲル材料、芳香族性有機酸の高分子材料、カプロラクトン高分子材料又は温度可逆性ヒドロゲル材料を有する非細胞基質インプラント。
【請求項31】
請求項30に記載のインプラントにおいて、前記コラーゲン材料は更に、メディエイタ、成長因子、酵素、タンパク質及びペプチド、並びにこれらのメディエイタ、成長因子、酵素、タンパク質若しくはペプチドの内因性の産生を増進させる薬剤からなるグループの中から選択された化合物を有する非細胞基質インプラント。
【請求項32】
頂部又は底部の軟骨病変部位又は骨病変部位を封止するシーラントであって、このシーラントは軟骨又は骨組織に生体適合性であり、非毒性及び生分解性であるシーラント。
【請求項33】
請求項32に記載の方法において、前記シーラントは、30秒〜10分以内に流動可能な液体又はペーストから耐荷重性ゲルになるような重合時間を有するゲル化高分子であるシーラント。
【請求項34】
請求項33のシーラントにおいて、少なくとも約3N/m〜約30N/mの最小剥離強度を有するか、抗張力として測定した場合に約0.2MPa〜約1.0MPaの凝集力を有するか、又は少なくとも0.5N/cm2 〜約6N/cm2 の結合強度を有するシーラント。
【請求項35】
請求項34に記載の方法において、前記シーラントは鎖間架橋の数に依存した凝集力を有するゲルであるシーラント。
【請求項36】
請求項35に記載のシーラントにおいて、接着強度又は剥離強度は少なくとも10N/mであって、引張強度は少なくとも0.3MPaであるシーラント。
【請求項37】
請求項35に記載のシーラントにおいて、接着強度又は剥離強度は100N/cmであって、引張強度は0.8〜1.0MPaの範囲であるシーラント。
【請求項38】
請求項33に記載のシーラントにおいてい、前記シーラントは、2〜10分の重合時間を有するシーラント。
【請求項39】
請求項38に記載のシーラントにおいて、前記シーラントは、3〜5分の重合時間を有するシーラント。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−503852(P2007−503852A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524015(P2006−524015)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026824
【国際公開番号】WO2005/018491
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506058875)ヒストジェニックス コーポレイション (7)
【Fターム(参考)】