説明

防曇性樹脂組成物

【課題】無機粉末の分散性に優れ、高い防曇性及び耐水性を実現することが可能な防曇性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】水溶性ポリビニルアセタール樹脂及び水を含有する防曇性樹脂組成物であって、前記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が100〜800の水溶性ポリビニルアセタール樹脂と、平均重合度が1500〜3500の水溶性ポリビニルアセタール樹脂との混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂であり、水酸基量が65〜80モル%及びアセタール化度が5〜20モル%であり、かつ、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が90%以上である防曇性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い防曇性を発揮することができ、かつ、優れた塗工性、耐水性及び接着性を実現することが可能な防曇性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
作物栽培用のハウスやトンネルには、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の農業用被覆フィルム、各種ガラス、鏡等の部材が使用されているが、これらの部材では、水蒸気が表面に凝縮付着して曇ることによって、光線の透過を妨げるという問題が生じていた。また、自動車のフロントガラスやリアガラス等においても、同様に曇りが生じることで視認性が低下する等の問題が生じていた。
自動車の窓ガラス等の防曇技術としては、ガラスの表面温度を高くする方法が最も一般的に用いられている。すなわち、フロントガラスであればガラス表面に温風を吹きかけ、リアガラスであればガラス内部に埋め込んだヒーターでガラスを加熱している。一方、気温と湿度の高い夏期には、車内を冷房して空気中の湿度を下げ、露点を下げる方法がとられている。
しかし、車両の室内は、乗降のためのドアの開閉や窓の開閉、外気の取り入れ等により車内の温度や湿度を常に制御しておくことは難しい。特に、外気温が低いときや、湿度が高いときに放置してあった車両を、充分暖機しないで走行開始すると、運転開始時に大量の曇りが発生しやすいという問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1には、発熱性パターン層上にシリコーン系ハードコート層が形成された防曇性被覆合成樹脂窓材が開示されている。このような技術では、光学物品の表面温度を高くし、空気中の水分が表面で凝結しないようにすることで防曇性を付与しているが、ヒーター部、エネルギー源が不可欠であり、装置が煩雑になりすぎてしまうという問題があった。
【0004】
そこで、近年では、車両の窓ガラスの表面に種々の防曇膜を形成する試みがなされている。防曇膜としては、例えば、親水性の防曇膜が挙げられる。親水性の防曇膜を形成することで、ガラス表面付近に発生した水分は、まずその親水性被膜上に速やかに広がり、水滴となることを防ぐ。このような親水タイプの防曇膜としては、界面活性剤やポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の有機系の親水性被膜が使用されているが、これらは水溶性であったり、耐摩耗性がなかったりして、恒久的な対策とはなり得なかった。
【0005】
これに対して、吸水タイプの防曇剤も開発されている。吸水タイプの防曇剤としては、例えば、特許文献2には、シリカ微粒子系の多孔質膜、吸水性樹脂の使用が開示されている。
しかしながら、これら吸水性の膜の吸水能力は充分でなく、吸水性による防曇性の発現には、さらなる改良が必要であった。また、膜中に水分を蓄えることにより曇りの発生を抑えているため、耐水性の面では劣っており、長期の使用によって、膜が膨張したり、溶解したりしてしまうという問題があった。更に、形成した膜の耐水性の低下によって、膜の強度(硬度)が低いものとなり、その結果、防曇効果が低下させてしまうという問題もあった。
【0006】
更に、特許文献3には、変性ポリビニルアルコールに無機粒子を添加した防曇性組成物が開示されている。特許文献3では、無機粒子を添加することで、塗膜硬度を向上させたることが可能であるとしている。
しかしながら、実際には、無機粒子の分散性が悪いと、優れた塗膜表面硬度が得られないといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3844255号公報
【特許文献2】特開2000−239045号公報
【特許文献3】特開昭59−179684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、無機粉末の分散性に優れ、高い防曇性及び耐水性を実現することが可能な防曇性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水溶性ポリビニルアセタール樹脂及び水を含有する防曇性樹脂組成物であって、前記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が100〜800の水溶性ポリビニルアセタール樹脂と、平均重合度が1500〜3500の水溶性ポリビニルアセタール樹脂との混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂であり、水酸基量が65〜80モル%及びアセタール化度が5〜20モル%であり、かつ、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が90%以上である防曇性樹脂組成物である。
以下、本発明を詳述する。
【0010】
本発明者は、防曇性樹脂組成物の構成樹脂として所定の平均重合度を有する混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、その水酸基量、アセタール化度、芳香族アルデヒドによるアセタール化比率を所定の範囲内とすることにより、無機粉末の分散性に優れ、高い防曇性及び耐水性を実現することが可能な防曇性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の防曇性樹脂組成物は、平均重合度が100〜800の水溶性ポリビニルアセタール樹脂と、平均重合度が1500〜3500の水溶性ポリビニルアセタール樹脂との混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂を含有する。上記平均重合度が異なる水溶性ポリビニルアセタール樹脂を混合することで、無機粉末に対する樹脂の被覆が良くなり、分散性が向上する。分散性が向上することで、本発明の防曇性樹脂組成物は、耐水性が向上する。
以下、平均重合度が100〜800の水溶性ポリビニルアセタール樹脂を「水溶性ポリビニルアセタール樹脂A」、平均重合度が1500〜3500の水溶性ポリビニルアセタール樹脂を「水溶性ポリビニルアセタール樹脂B」ともいう。また、「水溶性ポリビニルアセタール樹脂A」と「水溶性ポリビニルアセタール樹脂B」とを特に区別する必要がない場合は、単に「水溶性ポリビニルアセタール樹脂」という。
【0012】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aは、平均重合度の下限が100、上限が800である。上記平均重合度が100未満であると、アセタール化反応が困難となる。上記平均重合度が800を超えると、分散性が悪化する。
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度の好ましい下限は100、好ましい上限は650である。
なお、本明細書において、水溶性ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、原料であるポリビニルアルコールの平均重合度から求めることができる。
【0013】
本発明の水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bは、平均重合度の下限が1500、上限が3500である。上記平均重合度が1500未満であると、塗膜表面硬度が悪化する。
上記平均重合度が3500を超えると、アセタール化が困難となる。
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bの平均重合度の好ましい下限は1500、好ましい上限は3300である。
【0014】
上記混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂における水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aと水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bとの比率は、(水溶性ポリビニルアセタール樹脂A):(水溶性ポリビニルアセタール樹脂B)が0.2:9.8〜6:4である。0.2:9.8よりも、水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aが少ないと、分散性が向上しなくなり、6:4よりも、水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aが多いと、塗膜表面硬度が悪化する。好ましくは、0.5:9.5〜5:5である。
【0015】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aと水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bとを混合した混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度(以下、混合後の平均重合度ともいう)は、平均重合度の好ましい下限が1300、好ましい上限が3300である。上記平均重合度が1300未満であると、防曇性樹脂組成物の耐水性が低下して、塗膜の膨潤や溶解が生じる。上記平均重合度が3300を超えると、分散性が悪化する。本発明の水溶性ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度の好ましい下限は1500、好ましい上限は3000である。
なお、上記混合後の重合度は、上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aの平均重合度、及び、水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bの平均重合度と、その混合比率とから算出することができる。
【0016】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が65〜80モル%及びアセタール化度が5〜20モル%であり、かつ、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が90%以上である。
なお、本発明では、上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂A及び水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bの両方が上記水酸基量、アセタール化度及び芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合を満たす必要がある。
【0017】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量の下限が65モル%、上限が80モル%である。上記水酸基量が65モル%未満であると、水溶性ポリビニルアセタール樹脂の吸水性が低下したり、防曇性樹脂組成物の粘度安定性が低下したりする。上記水酸基量が80モル%を超えると、水溶性ポリビニルアセタール樹脂の吸水性が高くなって安定性が低下する。上記水酸基量の好ましい下限は70モル%、好ましい上限は80モル%である。
【0018】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の下限が5モル%、上限が20モル%である。上記アセタール化度が5モル%未満であると、吸水性は良いが、耐水性が悪く、充分な防曇性を得ることが出来ない。20モル%を超えると、防曇性樹脂組成物のガラス等の基材への密着性が低下する。
上記アセタール化度の好ましい下限は5モル%、好ましい上限は15モル%である。
【0019】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化された全構成単位(全アセタール化度)のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が90%以上である。これにより、低アセタール化度とした場合でも、吸水性、耐水性、透明性の良好な防曇性樹脂組成物が得られる。
上記芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が90%未満であると、耐水性が悪くなり、充分な防曇性を得ることができなくなる
上記芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合の好ましい下限は90%、好ましい上限は100%である。
【0020】
上記芳香族アルデヒドとしては、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル置換ベンズアルデヒド、クロルベンズアルデヒド、その他のハロゲン置換ベンズアルデヒド等が挙げられる。
また、芳香族環にヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等の置換基を持った芳香族系アルデヒドを用いてもよい。なかでも、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒドが好ましい。
【0021】
上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、芳香族アルデヒドを含有するアルデヒドにより、ポリビニルアルコールを水中でアセタール化することによって得ることができる。
【0022】
上述した芳香族アルデヒド以外のアルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドを単独で用いるか、又は、アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドを併用することが好ましい。
【0023】
本発明の防曇性樹脂組成物における上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は3重量%、好ましい上限は20重量%である。上記範囲内とすることで、塗工時のムラがなく、防曇機能を発揮できる。
【0024】
本発明の防曇性樹脂組成物は、上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂に加えて水を含有する。
上記水としては特に限定されないが純水等を用いることができる。
【0025】
本発明の防曇性樹脂組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、公知の各種添加剤を配合してもよい。上記添加剤としては、吸水性能を改善するためのグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、その他各種の界面活性剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、レベリング剤、チキソ付与剤、皮張り防止剤、可塑剤、増粘剤、希釈剤、反応性希釈剤、架橋剤、フィラー、色素(顔料、染料)、防腐、防かび剤等が挙げられる。
【0026】
上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれのものを使用してもよい。上記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、芳香族アミン系、硫黄系、リン系等が挙げられる。上記老化防止剤としては、例えば、アミン類、フェノール類等が挙げられる。
【0027】
本発明の防曇性樹脂組成物を製造する方法として特に限定されず、例えば、上記水溶性ポリビニルアセタール樹脂A、水溶性ポリビニルアセタール樹脂B及び水を所定の混合手段で混合する方法等を用いることができる。
【0028】
本発明の防曇性樹脂組成物は、構成樹脂として所定の平均重合度を有する混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂を用い、かつ、その水酸基量、アセタール化度、芳香族アルデヒドによるアセタール化比率を所定の範囲内とすることにより、無機粉末の分散性に優れ、高い防曇性及び耐水性を実現することができる。
本発明の防曇性樹脂組成物の用途は特に限定されないが、例えば、自動車のリアガラス、サイドガラス、フロントガラス、サンルーフ、ルームミラー等の各種ガラス、ペットボトル、そのラベル等に使用される防曇剤等が挙げられる。また、本発明の防曇性樹脂組成物は、各種ガラスの防曇性被覆材にも使用することができる。
【0029】
本発明の防曇性樹脂組成物をガラスの防曇性被覆材として使用する場合、用いられるガラスとしては特に限定されず、一般に使用されている透明ガラスを使用することができる。具体的には例えば、フロートガラス、磨きガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入りガラス、着色されたガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。
本発明の防曇性樹脂組成物を塗工することにより防曇性被覆層を形成する場合、形成される防曇性被覆層の厚みは特に限定されないが、防曇性能を効果的に発現させるため、3〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、無機粉末の分散性に優れ、高い防曇性及び耐水性を実現することが可能な防曇性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0032】
(実施例1)
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aの製造]
ポリビニルアルコール(平均重合度200、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド41g及びブチルアルデヒド1gからなるアルデヒド計42gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度10%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が78モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が8モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が98%であった。
【0033】
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bの製造]
ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド39gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度9%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が79モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が7モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が100%であった。
【0034】
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液の製造]
水溶性ポリビニルアセタール樹脂A1水溶液と水溶性ポリビニルアセタール樹脂B1水溶液との重量比が20:80になるように両者を添加した後、一般的な撹拌装置を用いて混合することにより、水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液を得た。
【0035】
(実施例2)
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aの製造]
ポリビニルアルコール(平均重合度650、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド40g及びブチルアルデヒド2gからなるアルデヒド計42gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度9%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が78モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が8モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が95%であった。
【0036】
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bの製造]
ポリビニルアルコール(平均重合度2200、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gと2−メチルベンズアルデヒド40g及びブチルアルデヒド2gからなるアルデヒド計42gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度9%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が78モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が8モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が95%であった。
【0037】
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液の製造]
水溶性ポリビニルアセタール樹脂A2水溶液と水溶性ポリビニルアセタール樹脂B2水溶液との重量比が15:85になるように両者を添加した後、一般的な撹拌装置を用いて混合することにより、水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液を得た。
【0038】
(実施例3)
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂Aの製造]
ポリビニルアルコール(平均重合度400、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド42gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度8%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が77モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が8モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が100%であった。
【0039】
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂Bの製造]
ポリビニルアルコール(平均重合度3300、ケン化度87モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド45gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度7%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が76モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が9モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が100%であった。
【0040】
[水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液の製造]
水溶性ポリビニルアセタール樹脂A3水溶液と水溶性ポリビニルアセタール樹脂B3水溶液とをとの重量比が10:90になるように両者を添加した後、一般的な撹拌装置を用いて混合することにより、水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液を得た。
【0041】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(平均重合度800、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gと4−メチルベンズアルデヒド31g及びブチルアルデヒド4gからなるアルデヒド計35gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度7%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が80モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が6モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が88%であった。
【0042】
(比較例2)
ポリビニルアルコール(平均重合度2200、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド40g及びブチルアルデヒド2gからなるアルデヒド計42gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度7%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が78モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が8モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が95%であった。
【0043】
(比較例3)
ポリビニルアルコール(平均重合度3300、ケン化度87モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gとベンズアルデヒド44g及びブチルアルデヒド1gからなるアルデヒド計45gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度9%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が77モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が9モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が98%であった。
【0044】
(比較例4)
ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度88モル%)350gを含有する水溶液3000gに35重量%の塩酸170gと2−メチルベンズアルデヒド42gを添加し、液温を10℃に保持しながら5時間アセタール化反応を行い、スポンジ状の反応沈殿物スラリーを得た。このスラリーを水洗中和して塩酸触媒及び未反応アルデヒドを除去した後、乾燥して樹脂沈殿物を得た。この樹脂を水/イソプロピルアルコール(アルコール系溶剤)が、60/40の混合溶剤に溶解して濃度10%の水溶性アセタール樹脂溶液を得た。
得られた溶液中の水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が77モル%、アセタール化度(全アセタール化度)が8モル%、及び、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が100%であった。
【0045】
<評価>
実施例及び比較例で得られた水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0046】
(1)吸湿性
(1−1)無機粉末含有樹脂シート
得られた水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液10重量部、無機粉末(コロイダルシリカ、平均粒子径500μm)100重量部、及び水90重量部を混合した後、ビーズミル(アイメックス社製、レディーミル)を用いて180分間撹拌することにより、無機粉末分散液を作製した。
得られた無機粉末分散液を、コーターを用いて乾燥後の厚みが20μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、3時間乾燥することにより、無機粉末含有樹脂シートを得た。
得られた無機粉末含有樹脂シートをPETフィルムから剥離し、剥離したシートを5×10cmにカットした試料を水1Lに5分間浸漬した後の状態を目視にて観察し、以下の基準で判定した。
【0047】
(1−2)無機粉末含有樹脂層形成ガラス
得られた水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液10重量部、無機粉末(コロイダルシリカ、平均粒子径500μm)100重量部、及び水90重量部を混合した後、ビーズミル(アイメックス社製、レディーミル)を用いて180分間撹拌することにより、無機粉末分散液を作製した。
得られた無機粉末分散液を、コーターを用いて乾燥後の厚みが5μmとなるように透明なフロートガラス(JIS R 3202、厚み2.5mm、15cm×15cm)上に塗工した後、3時間乾燥することにより、無機粉末含有樹脂層が形成された無機粉末含有樹脂層形成ガラスを得た。
得られた無機粉末含有樹脂層形成ガラスを水1Lに5分間浸漬した後の状態を目視にて観察し、以下の基準で判定した。
また、無機粉末含有樹脂層の厚みを20μmとした無機粉末含有樹脂層形成ガラス、及び、無機粉末含有樹脂層の厚みを30μmとした無機粉末含有樹脂層形成ガラスについても同様に評価した。
【0048】
◎ 変化がなかった。
〇 膨潤していた。
△ 一部溶解していた(シート形状維持困難)。
× 溶解していた。
【0049】
(2)分散性
得られた水溶性ポリビニルアセタール樹脂水溶液10重量部、無機粉末(コロイダルシリカ、平均粒子径500μm)100重量部、及び水90重量部を混合した後、ビーズミル(アイメックス社製、レディーミル)を用いて180分間撹拌することにより、無機粉末分散液を作製した。
得られた無機粉末分散液について、レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製、LA−910)を用いて粒度分布測定を行い、平均分散径を測定した。なお、測定された平均分散径が500μmに近いほど、分散性に優れていることを示す。
【0050】
(3)表面強度
「(1)吸湿性」で得られた無機粉末含有樹脂シート及び3種の無機粉末含有樹脂層形成ガラスについて、JIS K 5600−6−4の鉛筆硬度試験に基づいて表面強度を測定した。なお、「〇」は傷なし、「×」は傷ありを示す。
【0051】
(4)防曇性
開口部を有する容器(500cc)に30℃の水450g投入した後、「(1)吸湿性」で得られた無機粉末含有樹脂シートが内側となるように開口部に被せて密封し、常温(20℃)に設定した室内に放置した後、低温(0℃)に設定し5秒間放置した。そして、無機粉末含有樹脂シートの曇り状態を目視により、以下の基準で評価した。
また、「(1)吸湿性」で得られた無機粉末含有樹脂シートに代えて、「(1)吸湿性」で得られた3種の無機粉末含有樹脂層形成ガラスを用いた場合についても同様の評価を行った。
【0052】
◎ 曇り及び水滴が見られなかった。
〇 大粒の水滴が僅かに見られた。
△ 小さな水滴が多く見られた。
× 全面が白濁したものが見られた。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、無機粉末の分散性に優れ、高い防曇性及び耐水性を実現することが可能な防曇性樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリビニルアセタール樹脂及び水を含有する防曇性樹脂組成物であって、
前記水溶性ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度が100〜800の水溶性ポリビニルアセタール樹脂と、平均重合度が1500〜3500の水溶性ポリビニルアセタール樹脂との混合水溶性ポリビニルアセタール樹脂であり、
水酸基量が65〜80モル%及びアセタール化度が5〜20モル%であり、かつ、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が90%以上である
ことを特徴とする防曇性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の防曇性樹脂組成物を用いてなることを特徴とする防曇被塗物。

【公開番号】特開2013−82860(P2013−82860A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252973(P2011−252973)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】