説明

防曇防汚性材料及びその製造方法

【課題】 防曇効果及び防汚効果の寿命が長く、また表面の汚れに対して容易に清浄化を行なうことができ、さらに表面硬度を高く形成することができる防曇防汚性材料を提供する。
【解決手段】 陽イオン基と陰イオン基の両方の界面活性部分を分子内に有する両性界面活性剤を少なくとも含む界面活性剤を、金属酸化物に担持させて防曇防汚性材料を形成する。両性界面活性剤の陽イオン基が金属酸化物との間で電気的結合を形成して溶出し難くなると共に、両性界面活性剤の陰イオン基によって親水性を付与することができる。また金属酸化物で表面硬度を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡やレンズなどの基材の表面に被膜として形成される防曇防汚性材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鏡やガラス、レンズなど基材の表面に防曇性を付与する手段として、基材の表面に親水性ポリマーをコーティングする方法と、基材の表面に親水性を付与する方法がある。
【0003】
しかし、基材の表面に親水性ポリマーをコーティングする方法では、親水性ポリマーは吸水すると非常に柔らかくなって傷が付き易く、また毛染め剤などが付着すると色を含んだ水が吸水されて着色し、水で洗っても落ちない等の問題がある。
【0004】
一方、基材の表面に親水性を付与する方法としては、光触媒を基材の表面にコーティングすることによって親水化する方法がある。しかし現状の光触媒は紫外線反応型であるため、光触媒機能を活性化させるためには紫外線を照射する必要があるが、屋内で使用する照明ランプや蛍光灯では紫外線の量が十分ではなく、また光触媒表面への汚れの付着による触媒活性の低下を避けるために常に光触媒表面を清浄にしておく必要があり、屋内での使用に関しては十分な防曇性を得ることができないという問題がある。
【0005】
そこで、界面活性剤を基材の表面に塗布することによって、基材の表面に親水性を付与する方法も提供されている。この方法では紫外線照射の必要がないので、屋内においても十分な防曇性を得ることができるものである。しかし、この方法では、基材の表面に塗布された界面活性剤が消失してしまえば、防曇効果も消失するものであり、防曇効果の寿命の上で問題を有する。そこで、基材表面に細孔や微細な凹凸を形成し、基材表面に塗布した界面活性剤を凹部に充填させることによって、界面活性剤が短時間で消失することを防いで防曇効果を維持する試みがなされている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−127302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1のものでは、界面活性剤は基材の凹凸表面に塗布されているだけであるので、例えば結露した水が基材の表面を流れ落ちる際に界面活性剤も流されてしまうおそれがある。従って特許文献1のものにあっても、基材の表面から界面活性剤が容易に消失するおそれがあり、長期間に亘って防曇効果の寿命を維持することは困難なものであった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、防曇効果及び防汚効果の寿命が長く、また表面の汚れに対して容易に清浄化を行なうことができ、さらに表面硬度を高く形成することができる防曇防汚性材料及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る防曇防汚性材料は、陽イオン基と陰イオン基の両方の界面活性部分を分子内に有する両性界面活性剤を少なくとも含む界面活性剤を、金属酸化物に担持させて成ることを特徴とするものである。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、界面活性剤は、両性界面活性剤の他に非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とするものである。
【0010】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、金属酸化物は表面に開孔する多数の細孔を有するものであり、細孔内に界面活性剤が担持されていることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、防曇防汚性材料中の界面活性剤の体積比率が、5vol%以上、80vol%以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また請求項5の発明は、請求項3又は4において、細孔を覆う金属酸化物の薄膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項6に係る防曇防汚性材料の製造方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載の防曇防汚性材料を製造するにあたって、陽イオン基と陰イオン基の両方の界面活性部分を分子内に有する界面活性剤と、架橋性の金属含有物質と、金属含有物質の架橋を促進させる触媒を、水、あるいは水と水溶性有機溶剤の混合溶液に分散させ、この分散混合液をコーティングして乾燥させることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項7の発明は、請求項6において、混合溶液が酸性もしくは中性であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
界面活性剤として両性界面活性剤を用いることによって、両性界面活性剤の陽イオン基が金属酸化物との間で電気的結合を形成し、界面活性剤が流水下でも溶出し難くなると共に、また両性界面活性剤の陰イオン基によって親水性を付与して防曇性や防汚性を得ることができるものであり、さらに金属酸化物で表面硬度を確保することができるものである。この結果、防曇効果及び防汚効果の寿命が長く、また表面の汚れに対して容易に清浄化を行なうことができ、さらに表面硬度を高く形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、基材1の表面に本発明に係る防曇防汚性材料Aからなる膜が形成してある。防曇防汚性材料Aは膜構成骨格を形成する金属酸化物2に界面活性剤3を担持させて形成されるものであり、防曇防汚性材料Aからなる膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.1〜10μm程度が好ましい。また基材1としては何ら限定されるものではなく、鏡やガラス、レンズなど任意のものを用いることができる。
【0018】
そして本発明ではこの界面活性剤3として、陽イオン基と陰イオン基の両方の界面活性部分を分子内に含む両性界面活性剤を用いるものである。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキサイド型などを用いることができる。
【0019】
界面活性剤3としてこのように両性界面活性剤を用いることによって、防曇防汚性と長寿命の両立が可能になるものである。すなわち、下記の(化1)は代表的な両性界面活性剤であるアルキルベタイン型の構造式を示すものであり、分子内に陽イオン基と陰イオン基を有する。そして後述のように架橋性金属含有物質の架橋で金属酸化物2の膜構成骨格を形成する際に、この陽イオン基が、架橋性金属含有物質の架橋によって生じた水酸基(OH)から生じる酸素イオン(O)との間で下記の(化2)のように電気的結合を形成し、界面活性剤3を金属酸化物2に結合させることができる。また、陰イオン基のほうは界面活性剤3に親水性を付与する。従って、界面活性剤3は、分子中の一方の陰イオン基で親水性を発揮して、防曇防汚性を発現させることができると共に、他方の陽イオン基で金属酸化物2と結合し、流水下においても膜構成骨格の金属酸化物2から溶出し難くなり、防曇防汚性と長寿命が両立した防曇防汚性材料Aを得ることができるものである。
【0020】
【化1】

【0021】
ちなみに、一般の洗浄剤として広く用いられている非イオン性界面活性剤の場合は、分子内にイオン基を持たないために金属酸化物との間で電気的結合が形成されない。このため、流水下などでは比較的容易に流出してしまい、防曇防汚性材料としての寿命は短いものになるものである。
【0022】
ここで、本発明は界面活性剤3として両性界面活性剤を用いることに骨子があるが、界面活性剤3には両性界面活性剤以外のものを含んでいてもよい。例えば界面活性剤3として両性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを併用することによって、防曇防汚性をさらに向上することができる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル型、ソルビタン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレンアルカノールアミド型、グリセリン脂肪酸エステル型などを用いることができる。両性界面活性剤は上記のように溶出し難く長寿化に効果的であり、非イオン性界面活性剤は溶出し易いが防曇防汚性に優れており、長寿命化を維持しつつ防曇防汚性をさらに向上した防曇防汚性材料Aを得ることができるのである。界面活性剤3中の両性界面活性剤の比率は、界面活性剤3の全体のうち10質量%以上に設定するのが好ましい。両性界面活性剤の比率が10質量%未満であると、両面界面活性剤による上記の効果を十分に得ることができない。また非イオン性界面活性剤を併用する場合、防曇防汚性をさらに向上する効果を十分に得るためには、界面活性剤3の全体のうち10質量%以上(90質量%以下)に設定するのが好ましい。
【0023】
本発明において金属酸化物2としては、ケイ素の酸化物、すなわちシリカ、シリコーンを用いることができる。これらのケイ素酸化物はコーティング材料として広く使用されており、防曇防汚性材料Aを膜として形成する場合に、安価でかつ簡単なプロセスで形成することができるものである。また屈折率も低いので干渉色が付き難く、透明な膜の形成にも適している。有機系材料で膜を形成する場合、一般に膜の硬度が低く、傷が付き易いという欠点や耐摩耗性が低いなどの欠点があるが、金属酸化物2による膜は硬度が高く、傷が付き難いと共に耐摩耗性が高いという点で優れている。
【0024】
また金属酸化物2として、上記のケイ素酸化物にチタン、ジルコニウム、アルミニウム、スズから選ばれる金属の酸化物を添加したものを用いることによって、金属酸化物2の耐水性や耐アルカリ性を向上させることができるものである。この金属酸化物の添加量は、金属酸化物2を構成するケイ素酸化物に対して1〜50mol%の範囲が好ましい。1mol%未満であると、耐水性や耐アルカリ性の向上効果が不十分になり、50mol%を超えると防曇防汚性材料Aの膜の硬度が低くなり、好ましくない。
【0025】
ここで、防曇防汚性材料Aの膜構成骨格を形成する金属酸化物2には表面に開孔する多数の細孔4が形成してあり、この細孔4内に充填された状態で界面活性剤3が担持されている。このように金属酸化物2の細孔4内に界面活性剤3を担持させることによって、防曇防汚性材料Aの膜の表面に存在する界面活性剤3と金属酸化物2が水などに溶出しても、細孔4内の界面活性剤3が膜内から除放されるため、防曇防汚性の機能をより長寿命化することが可能になるものである。細孔4の孔径は、特に限定されるものではないが、1〜30nm程度が好ましい。
【0026】
そして防曇防汚性材料A中の界面活性剤3の体積比率が、5vol%以上、80vol%以下になるように、界面活性剤3を金属酸化物2に担持させるのが好ましい。界面活性剤3の体積比率が5vol%未満であると、防曇防汚性の効果を十分に得ることができない。また界面活性剤3の体積比率が80vol%を超えると、防曇防汚性材料Aの膜の硬度が実用に適さない程低くなると共に、金属酸化物2の膜構成骨格を細孔4を有する多孔質に形成することができなくなり、界面活性剤3を細孔4に十分に担持することができなくなって、長寿命化の効果が小さくなる。
【0027】
また、防曇防汚性材料Aの膜は表面に、細孔4の開孔を覆うように金属酸化物からなる薄膜5を形成したものであることが好ましい。細孔4に担持した界面活性剤3はこの薄膜5を透過して防曇防汚性材料Aの膜は表面に徐放される必要があるので、薄膜5は後述のように微細な孔を有しているものである。このように細孔4の開孔を覆うように金属酸化物からなる薄膜5を形成することによって、細孔4内に担持された界面活性剤3の溶出を抑制することができるものであり、より長寿命化することができるものである。薄膜5の膜厚は、特に限定されるものではないが、50〜100nm程度が好ましい。この薄膜5を形成する金属酸化物としては、特に限定されるものではないが、防曇防汚性材料Aの膜構成骨格を形成する上記の金属酸化物2と同じものを用いることができる。
【0028】
次に、上記のような防曇防汚性材料Aの膜を基材1の表面に形成する方法について説明する。まず、界面活性剤と、架橋性の金属含有物質と、金属含有物質の架橋を促進させる触媒を、水、あるいは水と水溶性有機溶剤の混合溶液に分散させ、分散混合液を調製する。界面活性剤としては上記したものを用いることができる。
【0029】
また架橋性の金属含有物質としては、架橋性のケイ素含有物質、架橋性のチタン含有物質、架橋性のアルミニウム含有物質、架橋性のスズ含有物質などを用いることができる。
【0030】
架橋性のケイ素含有物質としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどに代表されるオルガノアルコキシシラン、またはこれらの部分加水分解・縮合反応によって形成される、メチルシリケートなどのシロキサン骨格を有するオリゴマー、あるいはケイ酸ナトリウム(水ガラス)などを挙げることができる。
【0031】
架橋性のチタン含有物質としては、例えばチタンテトラブトキシド、チタンイソプロコキシド、チタンキレートなどを挙げることができ、また四塩化チタンなどの塩化物を用いることもできる。
【0032】
架橋性のジルコニウム含有物質としては、例えばジルコニウムブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート等のジルコニウムキレートなどを挙げることができる。また塩化酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどの塩化物を用いることもできる。
【0033】
架橋性のアルミニウム含有物質としては、例えばアルミニウムブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムアセチルアセトネート等のアルミニウムキレートなどを挙げることができる。また塩化アルミニウムなどの塩化物、硝酸アルミニウムなどの硝酸塩を用いることもできる。
【0034】
架橋性のスズ含有物質としては、例えばスズブトキシド、スズエトキシド、スズアセチルアセトネート等のスズキレートなどを挙げることができる。また塩化スズなどの塩化物や、酢酸スズなどの酢酸塩を用いることもできる。
【0035】
また、上記の金属含有物質の架橋を促進させる触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸などの酸を用いることができる。
【0036】
さらに水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどを用いることができる。
【0037】
そして、水、あるいは水と水溶性有機溶剤の混合溶液に、上記の界面活性剤と上記の架橋性の金属含有物質と触媒を分散させることによって、分散混合液を調製することができる。架橋性の金属含有物質に対する触媒の比率は、架橋性の金属含有物質100質量部に対して触媒を0.01〜5質量部の範囲に設定するのが望ましい。
【0038】
このようにして調製した分散混合液をコーティング液として基材1の表面にコーティングし、乾燥することによって、防曇防汚性材料Aの膜を形成することができるものである。コーティング法としては、ディップ法、スプレー法、印刷法、ロールコート法など任意の方法を使用することができる。コーティング後の乾燥については、膜中の界面活性剤3が熱によって揮発しない温度で乾燥することが必要であるが、架橋性の金属含有物質の架橋を十分に進行させて金属酸化物2からなる膜構成骨格を形成しなければ実用上十分な硬度を持った膜を得ることができない。このような条件を満たすためには、乾燥温度は50℃以上、150℃以下の範囲が望ましい。
【0039】
このように防曇防汚性材料Aの膜を形成するにあたって、防曇防汚性材料Aは界面活性剤3と金属酸化物2より形成されており、また防曇防汚性材料Aの膜構成骨格は金属酸化物2により形成されていると共に、この金属酸化物2よりなる膜構成骨格の中に界面活性剤3が分散した状態になっている。そしてこの防曇防汚性材料Aを形成するためのコーティング液には水が含まれているため、コーティング液を基材1に塗布、乾燥する過程において、界面活性剤3はその疎水基を内側に、親水基を外側に向けたミセルと呼ばれる分子の集合体を形成する。従って防曇防汚性材料Aは金属酸化物2よりなる膜構成骨格中に、界面活性剤3の分子のミセルと呼ばれる集合体が分散した状態となっており、金属酸化物2よりなる膜構成骨格から見ると、このミセルの部分は孔(細孔4)とみなすことができる。すなわち、界面活性剤3と金属酸化物2を混合して金属酸化物2を架橋させると、界面活性剤3の集合体の部分には金属酸化物2の膜構成骨格に架橋構造が形成されないため、そこが細孔4となり、細孔4内に界面活性剤3が充填して担持された防曇防汚性材料Aの膜を形成することができるものである。
【0040】
ここで、両性界面活性剤は同一分子中に陽イオン基と陰イオン基を含んでいるので、その水溶液が酸性の領域では陽イオン性、アルカリ性の領域では陰イオン性、中性の領域では陽イオン性と陰イオン性の両方の性質を示す。本発明においては既述のように、陽イオン基が架橋性金属含有物質の架橋によって生じた水酸基(OH)との間で電気的結合を形成することによって、金属酸化物2からなる膜構成骨格から溶出し難くすると同時に、陰イオン基で親水性を付与するということを特徴としている。すなわち1つの分子において一方の陽イオン基で金属酸化物2と結合し、他方の陰イオン基で親水性を発揮し、この親水性により防曇防汚性が発揮されるのである。従って、両性界面活性剤が架橋性の金属含有物質と混合される時には、両性界面活性剤は陽イオン性の性質を示す必要があり、両者の分散混合液は酸性もしくは中性である必要がある。このために、架橋性の金属含有物質の架橋を促進させる触媒として、塩酸、硝酸、酢酸などの酸を用い、分散混合液を酸性もしくは中性に調整するのが好ましい。
【0041】
また、上記のように膜構成骨格を形成する金属酸化物2の表面に薄膜5を形成するにあたっては、例えば、架橋性の金属含有物質とその触媒を分散させ、界面活性剤は含有しない分散混合液を上記と同様にして調製し、上記のように防曇防汚性材料Aの膜を形成した後、この分散混合液を防曇防汚性材料Aの膜の表面にコーティングすることによって、行なうことができるものである。
【0042】
このように金属酸化物の薄膜5を形成するにあたって、金属酸化物の薄膜5は防曇防汚性材料Aの表面に形成されるのであるが、防曇防汚性材料Aの表面には界面活性剤3を担持した細孔4が存在する。そして薄膜5は架橋性の金属酸化物により形成されるが、防曇防汚性材料Aの表面の金属酸化物2の膜構成骨格の部分では架橋し易いが、界面活性剤3を担持した細孔4の部分では架橋しにくい。従って細孔4の部分は金属酸化物の薄膜5で覆われ難くく、孔の一部がそのまま微細孔として残った薄膜5が形成されるものである。また金属酸化物の薄膜5の望ましい膜厚を50〜100nmと、防曇防汚性材料Aの膜に比べて薄く形成しているのも、金属酸化物の薄膜5中に微細孔を残すためである。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0044】
(実施例1)
架橋性の金属含有物質としてテトラエトキシオルソシリケート(TEOS、別名テトラエトキシシラン、東京化成工業(株)製)を用い、両性界面活性剤としてアルキルベタイン型(「アンヒトール20BS」花王(株)製)を用い、触媒として塩酸を用いた。そしてTEOS:エタノール:水:塩酸=1:8:5:0.003(モル比)となるように混合し、3時間攪拌することによって、架橋性金属含有物質の分散液を得た。次いで両性界面活性剤をこの分散液に、乾燥後材料の50vo1%体積率となるように混合し、1時間攪拌することによって、コーティング溶液を得た。ここで体積率は乾燥後材料を形成するシリカの密度と両性界面活性剤の密度をそれぞれ2.2g/cm、1.0g/cmとして計算した。このコーティング溶液のpHは10であった。
【0045】
続いて、このコーティング溶液にガラス基板をディップし、毎秒約1mmの速度で引き上げた後、80℃にて3時間乾燥させ、TEOSから形成されるSiOで金属酸化物2の膜構成骨格が形成され、細孔4内に界面活性剤3が担持された図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0046】
(実施例2)
両性界面活性剤の体積率が5vol%となるようにした他は、実施例1と同様にして、ガラス基板の表面に図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を形成した。
【0047】
(実施例3)
両性界面活性剤の体積率が80vol%となるようにした他は、実施例1と同様にして、ガラス基板の表面に図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を形成した。
【0048】
(実施例4)
TEOS:エタノール:水:塩酸=1:50:5:0.003(モル比)となるように混合し、3時間攪拌することによって、架橋性金属含有物質の分散液を得た。そして実施例1で得た防曇防汚性材料がコーティングされたガラス基板をディップし、毎秒約1mmの速度で引き上げた後、80℃にて3時間乾燥させることによって、図1に示すような表面に金属酸化物の薄膜5を設けた防曇防汚性材料Aの膜を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0049】
(実施例5)
両性界面活性剤としてアルキルベタイン型(「アンヒトール20BS」花王(株)製)を用い、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル型(「エマルゲンLS−110」花王(株)製)を用い、両性界面活性剤が60wt%、非イオン性界面活性剤が40wt%となるように混合した。次に実施例1と同様に調製した架橋性金属含有物質の分散液中に、乾燥後材料の50vo1%体積率となるようにこの界面活性剤(両性界面活性剤+非イオン性界面活性剤)を混合し、1時間攪拌することによってコーティング溶液を得た。体積率は乾燥後材料を形成するシリカの密度と両性界面活性剤と非イオン性界面活性剤の密度をそれぞれ2.2g/cm、1.0g/cm、1.0g/cmとして計算した。このコーティング溶液のpHは10であった。
【0050】
続いてこのコーティング溶液にガラス基板をディップし、毎秒約1mmの速度で引き上げた後、80℃にて3時間乾燥させ、SiOで金属酸化物2の膜構成骨格が形成され、細孔4内に両性界面活性剤と非イオン性界面活性剤からなる界面活性剤3が担持された図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0051】
(実施例6)
実施例1と同様にして調製したコーティング溶液に、チタンテトラブトキシド(和光純薬工業(株)製)を添加した。チタンテトラブトキシドの添加量は、金属酸化物全体(TEOSから形成されるSiOとチタンテトラブトキシドから形成されるTiOの合計量)に占めるTiOのモル比が10mol%となるようにした。後は実施例1と同様にして、TiOを含有するSiOからなる金属酸化物2の膜構成骨格の細孔4内に界面活性剤3が担持された図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0052】
(実施例7)
実施例1と同様にして調製したコーティング溶液に、ジルコニウムブトキシド(和光純薬工業(株)製)を添加した。ジルコニウムブトキシドの添加量は、金属酸化物全体(TEOSから形成されるSiOとジルコニウムブトキシドから形成されるZrOの合計量)に占めるZrOのモル比が10mol%となるようにした。後は実施例1と同様にして、ZrOを含有するSiOからなる金属酸化物2の膜構成骨格の細孔4内に界面活性剤3が担持された図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0053】
(実施例8)
実施例1と同様にして調製したコーティング溶液に、アルミニウムイソプロポキシド(和光純薬工業(株)製)を添加した。アルミニウムイソプロポキシドの添加量は、金属酸化物全体(TEOSから形成されるSiOとアルミニウムイソプロポキシドから形成されるAlの合計量)に占めるAlのモル比が10mol%となるようにした。後は実施例1と同様にして、Alを含有するSiOからなる金属酸化物2の膜構成骨格の細孔4内に界面活性剤3が担持された図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0054】
(実施例9)
実施例1と同様にして調製したコーティング溶液に、塩化スズ(和光純薬工業(株)製)を添加した。塩化スズの添加量は、金属酸化物全体(TEOSから形成されるSiOと塩化スズから形成されるSnOの合計量)に占めるSnOのモル比が10mol%となるようにした。後は実施例1と同様にして、SnOを含有するSiOからなる金属酸化物2の膜構成骨格の細孔4内に界面活性剤3が担持された図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0055】
尚、上記各実施例において、配合量計算に必要な密度は次の数値を用いた。SiO:2.2g/cm、TiO:4.2g/cm、ZrO:5.7g/cm、Al:4.0g/cm、SnO:7.0g/cm、「アンヒトール20BS」:1g/cm、「エマルゲンLS−110」:1g/cm
【0056】
(比較例1)
実施例5において、界面活性剤として両性界面活性剤を用いず、非イオン性界面活性剤のみを100%用いるようにした。その他は実施例5と同様にして、図1に示すような防曇防汚性材料Aの膜(金属酸化物の薄膜5は形成していない)を、ガラス基板(基材1)の表面に形成した。
【0057】
(比較例2)
ガラス基板の表面を酸化セリウム粉末と水を混合したもので研磨し、水洗した。次に、アニオン性のドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ水溶液(「ルノックスS−100」(東邦化学工業(株)製))を用い、「ルノックスS−100」:純水=1:10(質量比)となるよう混合して調製した溶液にガラス基板を浸漬し、大気圧下で溶液を1時間沸騰・還流した後、ガラス基板を引き上げ、乾いた布でガラス基板の表面の過剰な界面活性剤溶液を拭き取った。
【0058】
上記の実施例1〜9及び比較例1〜2について、表面硬度、親水性、防曇性、防汚性、寿命の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0059】
ここで表面硬度は、JISK5400の8.4「鉛筆ひっかき値」に準拠して測定し、親水性は、JISR3257の6「静置法」に準拠して接触角を測定することによって評価した。
【0060】
また防曇性の測定は次のようにして行なった。まずウォーターバスで水を沸騰させ、各実施例や比較例で処理したガラス基板をこのウォーターバス上で垂直にぶら下げ、ガラス基板が常に水蒸気に曝されるようにした。この状態で15分間保持し、ガラス基板の曇りを観察した。曇りが生じなければ、次いでガラス基板を乾燥させ、再度ウォーターバス上にぶら下げ、水蒸気に曝してこの観察を行い、曇りが見られるまでこれを繰り返した。そして例えば5回目に水蒸気に曝した際に曇りが観察されれば、防曇性は4回とした。
【0061】
また防汚性の測定は次のようにして行なった。まず各実施例や比較例で処理したガラス基板の表面に褐色化した食用油を滴下し、24時間保持した後、流水にて1分間ガラス基板を洗浄し、ガラス基板を乾燥させた。これを2回繰り返した後、ガラス基板の変色を目視観察した。
【0062】
また寿命を測定する試験は次のようにして行なった。まず各実施例や比較例で処理したガラス基板のコーティング面を水平面に対して45°の角度となるように配置し、水平面に対して垂直方向、すなわちコーティング面に対して45°の方向から1リットル/分の速度でコーティング面に均一に当たるように水を流した。これを24時間続けた後、上記の接触角と防汚性の測定を行なった。
【0063】
【表1】

【0064】
表1にみられるように、各実施例の初期値は、表面硬度が高く、また接触角が小さく表面の親水性が高いものであり、さらに防曇性や防汚性に優れるものであった。また流水24時間後においても、防曇性や防汚性は低下することがなく、長寿命であることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 基材
2 金属酸化物
3 界面活性剤
4 細孔
5 金属酸化物の薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン基と陰イオン基の両方の界面活性部分を分子内に有する両性界面活性剤を少なくとも含む界面活性剤を、金属酸化物に担持させて成ることを特徴とする防曇防汚性材料。
【請求項2】
界面活性剤は、両性界面活性剤の他に非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の防曇防汚性材料。
【請求項3】
金属酸化物は表面に開孔する多数の細孔を有するものであり、細孔内に界面活性剤が担持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防曇防汚性材料。
【請求項4】
防曇防汚性材料中の界面活性剤の体積比率が、5vol%以上、80vol%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防曇防汚性材料。
【請求項5】
細孔を覆う金属酸化物の薄膜が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の防曇防汚性材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の防曇防汚性材料を製造するにあたって、陽イオン基と陰イオン基の両方の界面活性部分を分子内に有する界面活性剤と、架橋性の金属含有物質と、金属含有物質の架橋を促進させる触媒を、水、あるいは水と水溶性有機溶剤の混合溶液に分散させ、この分散混合液を造膜して乾燥させることを特徴とする防曇防汚性材料の製造方法。
【請求項7】
混合分散液が酸性もしくは中性であることを特徴とする請求項6に記載の防曇防汚性材料の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−257244(P2006−257244A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76001(P2005−76001)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】