説明

防水ケースの作製方法、防水ケース及び車載電子機器

【課題】防水性能を向上させた防水ケースの作製方法を提供する。
【解決手段】開口部1aを有するケース本体1とケース本体1の開口部1aを塞ぐ蓋体2とを備えた防水ケースの作製方法であって、開口部1aの周縁にスペーサ4を配置し、スペーサ4より内周側の開口部1aの周縁の全周に、スペーサ4の厚さより厚く接着剤5を塗布し、接着剤5及びスペーサ4に蓋体2を被せ、接着剤5を硬化して開口部1aの周縁と蓋体2とを接着し、開口部1aの周縁と蓋体2との隙間が狭くなるようにケース本体1と蓋体2とを締結する。接着剤5はケース本体1の開口部1aの周縁に周方向に沿うように設けた溝部1cと、開口部1aの周縁の一部に周方向と交差するように設けた溝状の凹部に嵌着した弾性スリーブ3の部分に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース本体と蓋体とを備えた防水ケースの作製方法、該作製方法により作製された防水ケース、及び、該防水ケースを備えた車載電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に電子回路等が収容される防水ケースの技術分野では、ケース本体の開口部の周縁に液状シール剤(液体パッキン)を塗布した後、導線が挿通された弾性スリーブを開口部の周縁の一部に形成した凹部に嵌着し、次に蓋体を開口部の周縁及び弾性スリーブに当接させてネジ止め固定する構造の防水ケースが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−369346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の防水ケースでは、密着固定するケース本体と蓋体との間の気密性を確保するために液状シール剤(液体パッキン)は用いているが、水圧が高い場合にシール性が低下し、防水性能が不十分になるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、防水性能を向上させることが可能な防水ケースの作製方法を提供し、また、該作製方法により作製された防水ケース、及び、該防水ケースを備えた車載電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る防水ケースの作製方法は、開口部を有するケース本体と該ケース本体の開口部を塞ぐ蓋体とを備えた防水ケースの作製方法であって、前記開口部の周縁にスペーサを配置し、前記スペーサより内周側の前記開口部の周縁の全周に、前記スペーサの厚さより厚く接着剤を塗布し、前記接着剤及びスペーサに前記蓋体を被せ、前記接着剤を硬化して前記開口部の周縁と蓋体とを接着し、前記開口部の周縁と蓋体との隙間が狭くなるように前記ケース本体と蓋体とを締結することを特徴とする。
【0007】
本発明にあっては、ケース本体の開口部の周縁にスペーサを配置し、該スペーサより内周側のケース本体の開口部の周縁の全周に、前記スペーサの厚さより厚く接着剤を塗布し、接着剤及びスペーサにケース本体の開口部を塞ぐ蓋体を被せ、接着剤を硬化してケース本体の開口部の周縁と蓋体とを接着し、最後に、ケース本体の開口部の周縁と蓋体との隙間が狭くなるようにケース本体と蓋体とを締結し、防水ケースが作製される。ケース本体と蓋体とを締結して、ケース本体の開口部の周縁と蓋体との隙間がスペーサの厚さと略等しくなる寸法になるまで、接着剤が均一に圧縮されるので、接着剤によるシール性を確保して防水性能を向上させることができる。
【0008】
本発明に係る防水ケースの作製方法は、前記ケース本体と蓋体とを締結する前に、前記スペーサを除去することを特徴とする。
本発明にあっては、ケース本体の開口部の周縁と蓋体との隙間からスペーサが除去された状態でケース本体と蓋体とを締結するので、ケース本体の開口部の周縁と蓋体との隙間をスペーサの厚さよりも狭くして接着剤の圧縮量を大きくし、接着剤によるシール性を高めて防水性能を向上させることができる。
【0009】
本発明に係る防水ケースの作製方法は、前記ケース本体の開口部の周縁に周方向に沿う溝部を設け、該溝部に前記接着剤を塗布することを特徴とする。
本発明にあっては、ケース本体の開口部の周縁に周方向に沿うように設けた溝部の外周側にスペーサを配置し、前記接着剤を該溝部内に入り込む状態で開口部の周縁の全周に塗布する。その結果、溝部への接着剤の塗布作業が安定し、塗布量、塗布位置等の均一性が確保される。
【0010】
本発明に係る防水ケースの作製方法は、前記ケース本体は、前記開口部の周縁の一部に周方向と交差する溝状の凹部を有し、導線が挿通された弾性スリーブを前記凹部に嵌着し、前記接着剤を前記弾性スリーブの部分に塗布することを特徴とする。
本発明にあっては、ケース本体が有する開口部の周縁の一部に周方向と交差するように形成した溝状の凹部に、導線が挿通された弾性スリーブを嵌着させた後、該凹部を形成していない開口部の周縁にスペーサを配置し、前記接着剤を弾性スリーブの部分及び弾性スリーブが存在していない開口部の周縁に塗布する。その結果、ケース本体の開口部の周縁に形成した溝状の凹部に、ケース内外を繋ぐ導線が挿通された弾性スリーブの嵌着させた場合も、接着剤による高いシール性が確保される。
【0011】
本発明に係る防水ケースの作製方法は、前記ケース本体及び蓋体は樹脂製であることを特徴とする。
本発明にあっては、一般的に樹脂材料からなる接着剤と樹脂製であるケース本体及び蓋体との接着性が良好であるので、接着剤による高いシール性が確保し易い。
【0012】
本発明に係る防水ケースは、前記防水ケースの作製方法によって作製されたことを特徴とする。
本発明にあっては、開口部を有するケース本体と該ケース本体の開口部を塞ぐ蓋体とを備えた防水ケースにおいて、ケース本体の開口部の周縁と蓋体との隙間に介在する接着剤が均一に圧縮され、接着剤によるシール性が確保される。
【0013】
本発明に係る車載電子機器は、前記防水ケースを備え、該防水ケース内に電子回路を収容していることを特徴とする。
本発明にあっては、電子回路を内部に収容した前記防水ケースが車体に設置される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケース本体と蓋体とを締結したときにケース本体の開口部の周縁と蓋体との隙間に介在して開口部の周縁と蓋体とを接着する接着剤が均一に圧縮され、圧縮後の厚さが一定に維持される。その結果、接着剤によって高いシール性を確保し、防水性能を向上させることが可能な防水ケースの作製方法が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、前記防水ケースの作製方法により作製され、防水性能を向上させた防水ケースが提供される。
【0016】
また、本発明によれば、防水性能の高い防水ケース内に電子回路が収容されるので、信頼性の高い車載電子機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る防水ケースを構成するケース本体の平面図である。
【図2】図1に示すケース本体の側面図である。
【図3】図1のIII−III線における断面図である。
【図4】本発明に係る防水ケースを構成する蓋体の平面図である。
【図5】図4に示す蓋体の側面図である。
【図6】図4のVI−VI線における断面図である。
【図7】本発明に係る防水ケースを構成する弾性スリーブの正面図である。
【図8】図7に示す弾性スリーブの平面図である。
【図9】図7のIX−IX線における断面図である。
【図10】本発明に係る防水ケースの作製方法を説明する断面図である。
【図11】本発明に係る防水ケースの作製方法を説明する断面図である。
【図12】本発明に係る防水ケースの作製方法を説明する断面図である。
【図13】本発明に係る防水ケースの作製方法を説明する断面図である。
【図14】本発明に係る防水ケースの作製方法にて作製された防水ケースの平面図である。
【図15】図14に示す防水ケースの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る防水ケースの実施の形態について図面に基づいて詳述する。
図1は本発明に係る防水ケースを構成するケース本体1の平面図、図2は図1に示すケース本体1の側面図、図3は図1のIII−III線における断面図である。
【0019】
ケース本体1は、略直方体の箱状をなし、一面に開口部1aを形成している。開口部1aの周縁に位置する側壁1bの上端部には、周方向と交差する溝状の凹部1b1,1b2が2つ形成されている。側壁1bの上端面には、凹部1b1,1b2を除く部分に、周方向に沿う溝部1cが設けてある。側壁1bの角部及び角部間の中間位置の9箇所に、側壁1bの壁面方向に沿った貫通孔を有し、側壁1bの上端面と同一高さの上面を有する取付部1dが外側に連設されている。ケース本体1の底部には、電子回路が搭載されたプリント基板を固定するためのネジ孔を有する複数のボス部1fが設けてある。
【0020】
図4は本発明に係る防水ケースを構成する蓋体2の平面図、図5は図4に示す蓋体2の側面図、図6は図4のVI−VI線における断面図である。尚、図4は蓋体2を内面側から見たときの図である。
【0021】
蓋体2は平面視でケース本体1の側壁1bの外形と同一寸法の外形を有する板材である。蓋体2の周縁の角部及び角部間の中間位置の9箇所に、前記ケース本体1の取付部1dと対応させて、貫通孔を有する取付部2cが設けてある。
【0022】
ケース本体1及び蓋体2の材質は耐熱性の合成樹脂であり、ケース本体1及び蓋体2は夫々一体成形にて作製される。耐熱性の合成樹脂は、具体的には、ガラス繊維(GF)30%含有のポリブチレンテレフタレート(PBT)である。尚、耐熱性の合成樹脂は、PBTの外に、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)等でもよい。
【0023】
図7は本発明に係る防水ケースを構成する弾性スリーブ3の正面図、図8は図7に示す弾性スリーブ3の平面図、図9は図7のIX−IX線における断面図である。
【0024】
弾性スリーブ3は、凹部1b1,1b2の内形寸法と略同一寸法で、側壁1bの厚さより厚い直方体状の盤状部3aを有している。盤状部3aは、正面視で長方形の隣り合う2角部が丸められ、他の2角部が直角に形成してある。盤状部3aの直角である2角部を結ぶ辺以外の他の3辺に対応する周面には、外れ防止用の突部3bが厚さ方向の両端側に設けてある。両側の突部3bの内面間の距離が前記側壁1bの厚さと同一である。盤状部3aの周面の全範囲には、突条3a1が周設されている。突条3a1の数は図では2であるが、他の数でもよく、少なくとも2以上であることが好ましい。導線を挿通させる複数の挿通孔3cが盤状部3aを貫通して設けてある。各挿通孔3cの内周面には、突部3c1が周設されている。突部3c1の数は図では3であるが、他の数でもよい。弾性スリーブ3は側壁1bの凹部1b1,1b2に嵌着される。図7〜図9には凹部1b2に嵌着される弾性スリーブ3を示すが、凹部1b1に嵌着される弾性スリーブ3の構成についても同様である。
【0025】
弾性スリーブ3の材質はゴムである。具体的には、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴムなどである。また、弾性スリーブ3のゴム硬度は40度〜60度の範囲が好ましい。
【0026】
次に、本発明に係る防水ケースの作製について説明する。図10〜図13は本発明に係る防水ケースの作製方法を説明する断面図である。
【0027】
先ず、電子回路が実装されたプリント基板Pをケース本体1の底部の各ボス部1fにネジ止めして固定し、複数の導線Sが挿通された2つの弾性スリーブ3を前記側壁1bの各凹部1b1,1b2に嵌着させる。プリント基板Pに実装する電子回路は車載用の電子回路である。複数の導線Sは外部機器からの給電線や信号線であり、各導線Sの先端はプリント基板Pの接続箇所に金具にてネジ止め等で固定されている。
【0028】
次に、ケース本体1の開口部1aの周縁に設けた9箇所の取付部1dのうち、側壁1bの各角部、又は、角部間の中間位置にある4つの取付部1dに一定厚さのスペーサ4を配置する(図10)。スペーサ4の材質はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又は表面にPTFEをコートした他の樹脂シートを使用する。スペーサ4の厚さは0.5mm〜1mmの範囲が好ましい。
【0029】
次に、スペーサ4より内周側の開口部1aの周縁の溝1c内、及び、弾性スリーブ3の上面部分に、スペーサ4の厚さより厚く接着剤5を塗布する(図11)。接着剤5は、例えば、シリコン系のRTCゴム(信越化学工業(株)製)である。硬化前のRTCゴムは粘性の高い液体である。接着剤5は溝1cに沿うように塗布されるので、塗布位置及び塗布量が安定する。
【0030】
次に、スペーサ4及び接着剤5の上から蓋体2を被せ、接着剤5を硬化処理する(図12)。硬化温度は100℃で、硬化時間は1時間程度である。この硬化処理中に、接着剤5の厚さが薄くなる。硬化後のRTCゴムは広い温度範囲(−40〜180℃)でゴム弾性を有し、優れた防水性、シール性を発揮する。硬化した接着剤5によって、ケース本体1の開口部1aの周縁と蓋体2とが接着され、また、蓋体2と弾性スリーブ3とが接着される。尚、スペーサ4は材質がPTFEであり、接着剤5は接着しない。
【0031】
次に、接着剤5が硬化した後、スペーサ4を除去し、ネジ6を蓋体2の周囲9箇所の取付部2cに挿通して側壁1bの取付部1dにネジ込み、ケース本体1の開口部1aの周縁と蓋体2との隙間が狭くなるように接着剤5を更に所定量押しつぶし、ケース本体1と蓋体2とを締結する(図13)。
【0032】
図14は本発明に係る防水ケースの作製方法にて作製された防水ケースの平面図、図15は図14に示す防水ケースの側面図である。
作製した防水ケースは、図示しない取り付け部材によって、車両の筺体にネジ止め固定される。
【0033】
本発明に係る防水ケース10により、前記開口部1aの周縁において、開口部1aの周縁と蓋体2の内面とを接着する接着剤5が硬化した後、均一に圧縮されるので、ケース本体1と蓋体2との間、及び蓋体2と弾性スリーブ3との間のシール性が確保される。
【0034】
上記の実施の形態では、ケース本体1と蓋体2とを締結する前にスペーサ4を除去したが、スペーサ4を残した状態でケース本体1と蓋体2とを締結してもよい。この場合、ケース本体1の開口部1aの周縁に設けた取付部1dにスペーサ4を配置するとネジ止めができないので、取付部1dの他に、側壁1bの上端面と同一高さの上面を有するスペーサ受け部を外側に連設する必要がある。また、接着剤5を硬化処理した後、接着剤5の層の上面がスペーサ4の上面より高くなるように、接着剤5の塗布量を多くする必要がある。
【0035】
上記の実施の形態では、ケース本体1の開口部1aの周縁(側壁1bの上端部)に溝部1cを設けたが、溝部1cを設けず、開口部1aの周縁の全周が平坦であってもよい。
【0036】
上記の実施の形態では、ケース本体1の開口部1aの周縁の一部に周方向と交差する溝状の凹部1b1,1b2を設け、導線が挿通された弾性スリーブ3を凹部1b1,1b2に嵌着したが、凹部1b1,1b2を設け、開口部1aの周縁が平坦であってもよい。この場合、側壁1bに設けた貫通孔に導線が挿通された弾性ブッシュを通す。
【0037】
上記の実施の形態では、本発明に係る防水ケースを車載電子機器に適用したが、車載電子機器以外の各種の電子機器等に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ケース本体
1a 開口部
1b1 凹部
1b2 凹部
1c 溝部
2 蓋体
3 弾性スリーブ
4 スペーサ
5 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するケース本体と該ケース本体の開口部を塞ぐ蓋体とを備えた防水ケースの作製方法であって、
前記開口部の周縁にスペーサを配置し、
前記スペーサより内周側の前記開口部の周縁の全周に、前記スペーサの厚さより厚く接着剤を塗布し、
前記接着剤及びスペーサに前記蓋体を被せ、
前記接着剤を硬化して前記開口部の周縁と蓋体とを接着し、
前記開口部の周縁と蓋体との隙間が狭くなるように前記ケース本体と蓋体とを締結することを特徴とする防水ケースの作製方法。
【請求項2】
前記ケース本体と蓋体とを締結する前に、前記スペーサを除去することを特徴とする請求項1に記載の防水ケースの作製方法。
【請求項3】
前記ケース本体の開口部の周縁に周方向に沿う溝部を設け、該溝部に前記接着剤を塗布することを特徴とする請求項1又は2に記載の防水ケースの作製方法。
【請求項4】
前記ケース本体は、前記開口部の周縁の一部に周方向と交差する溝状の凹部を有し、
導線が挿通された弾性スリーブを前記凹部に嵌着し、
前記接着剤を前記弾性スリーブの部分に塗布することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防水ケースの作製方法。
【請求項5】
前記ケース本体及び蓋体は樹脂製であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の防水ケースの作製方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の防水ケースの作製方法によって作製されたことを特徴とする防水ケース。
【請求項7】
請求項6に記載の防水ケースを備え、該防水ケース内に電子回路を収容していることを特徴とする車載電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−200061(P2012−200061A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61477(P2011−61477)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】