説明

防水型圧着端子とその圧着方法

【課題】一対の芯線圧着片の相互の接合面から内側の芯線部に水が入ることを防ぐ。
【解決手段】基板部4の両側に一対の芯線圧着片2,3を形成して電線圧着時に環状の芯線圧着部5を構成し、一方の芯線圧着片2の先端側を外向きに折り返して、外向きの反発力を有する折り返し部16を形成し、折り返し部の外側に他方の芯線圧着片3の先端側の覆い部17を配置して、覆い部の内面に折り返し部の外面を反発力で密着させた防水型圧着端子1を採用する。アンビル21に対向するクリンパ22に押圧用の一対の湾曲面24,25を段差面26を介して連続形成し、一方の湾曲面24の仮想延長面よりも他方の湾曲面25を外側に配置し、一方の湾曲面に沿って一方の芯線圧着片2を配置し、他方の湾曲面に沿って他方の芯線圧着片3を配置し、覆い部16の先端を段差面26に当接させつつ芯線圧着部をアンビルとクリンパとで圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着端子の芯線圧着部の密着性を高めて芯線部内への水の浸入を防ぐことで芯線圧着部への防食樹脂材の塗布量を減少させた防水型圧着端子とその圧着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、異種金属である銅合金製の端子とアルミニウム製の芯線部を有する絶縁被覆電線との圧着接続において、芯線部と端子との圧着部分に水が付着した際のガルバニック腐食(異種金属接触腐食)を防止するために、種々の防水手段が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、図5(a)(b)に示す如く、端子51の左右一対の芯線圧着片52の前後に露出する芯線部分にUV硬化樹脂53を塗布して、芯線部への水の浸入・付着を防止したことが記載されている。
【0004】
図5で、符号54は銅合金製の端子51の絶縁被覆圧着片、55は同じく雌型の電気接触部、56はアルミニウム電線の絶縁被覆部をそれぞれ示している。特許文献1には、芯線圧着片52の前後のみならず、芯線圧着片52の全体と被覆圧着片54の全体を樹脂層53で覆った形態も記載されている。
【0005】
特許文献2には、防水のためではなく、電線の芯線部の熱膨張に伴う芯線圧着部の拡開を防止するために、一例として、一方の芯線圧着片(ワイヤバレル)を他方の芯線圧着片(ワイヤバレル)よりも長く形成し、一方の芯線圧着片の先端部を外向きに折り返して内側に段部を形成し、両芯線圧着片をオーバラップさせて、段部に他方(内側)の芯線圧着片の上向きに屈曲させた先端部を係合させることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、他の例として、外側の長い芯線圧着片の先端部を外向きに折り返して、内向きに突出した凸面を内側に形成し、内側の短い芯線圧着片を内向きに湾曲させて外側の凹面を形成し、凹面に凸面を係合させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−108829号公報(図1〜図4)
【特許文献2】特開平7−73950号公報(図5,図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の特許文献1に記載された図5の圧着端子の防水構造にあっては、一対の芯線圧着片52相互の接合面56に隙間が生じた場合に、隙間から芯線圧着片52の内側の芯線部に水が浸入してしまうという懸念があり、それを解消するために、一対の芯線圧着片52全体を樹脂材53で覆わなければならず、樹脂材53を硬化させるための時間が多く必要になるという懸念があった。
【0009】
また、上記従来の特許文献2に記載された圧着端子にあっては、外側の長い芯線圧着片の先端部を内向きに折り返したり、あるいは内側の短い芯線圧着片を内向きに湾曲させたりすることで、内側の芯線収容面積が減少して、芯線部が過大な圧縮変形を受けたりするという懸念があった。
【0010】
本発明は、上記した点に鑑み、一対の芯線圧着片の相互の接合面から内側の芯線部に水が浸入することを防止することができ、それに加えて、芯線部の過大な圧縮変形を防ぐことのできる防水型圧着端子とその圧着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る防水型圧着端子は、基板部の両側に一対の芯線圧着片を形成して電線圧着時に環状の芯線圧着部を構成した圧着端子において、一方の芯線圧着片の先端側を外向きに折り返して、外向きの反発力を有する折り返し部を形成し、該折り返し部の外側に他方の芯線圧着片の先端側の覆い部を配置して、該覆い部の内面に該折り返し部の外面を該反発力で密着させたことを特徴とする。
【0012】
上記構成により、芯線圧着部内に電線の芯線部を圧着接続した状態で、一方の湾曲状の芯線圧着片の先端側の折り返し部が、折り返し基端を支点に外向きに復元しようとする反発力(弾性力)で他方の湾曲状の芯線圧着片の先端側の覆い部に隙間なく強く密着し、覆い部と折り返し部との間から内側(芯線部側)に水が浸入することが確実に防止される。これにより、芯線圧着部の全長に渡って防食樹脂材を塗布することが不要となる。防食樹脂材は、芯線圧着部の前後に突出した芯線露出部分の二箇所のみに塗布すれば済む。
【0013】
例えば、他方の芯線圧着片の先端側を内向きに折り返して折り返し部を形成した場合は、内向きの折り返し部の内向きの反発力で折り返し部と一体の他方の芯線圧着片が外向きに付勢され(折り返し部の内側に位置した一方の芯線圧着片は内側の芯線部に強く当接しているので)、反発力が外側に逃げて一方の芯線圧着片との密着性が低下してしまう。一方の芯線圧着片に外向きの折り返し部を形成し、折り返し部の外側に折り返し部とは別体の(不連続な)他方の芯線圧着片の覆い部を配置することで、折り返し部の反発力が外側に逃げることがなく、折り返し部が別体の覆い部に強く密着する。
【0014】
請求項2に係る防水型圧着端子は、請求項1記載の防水型圧着端子において、前記覆い部の先端側部分が折り返し部の先端よりも長く延長されたことを特徴とする。
【0015】
上記構成により、長く延長された覆い部が延長されない場合よりも大きな内向きの圧着力で折り返し部に密着し、覆い部の内面と折り返し部の外面との密着性(防水性)が高まる。
【0016】
請求項3に係る防水型圧着端子の圧着方法は、請求項1又は2記載の防水型圧着端子の圧着方法であって、アンビルに対向するクリンパに押圧用の一対の湾曲面を段差面を介して連続形成し、一方の湾曲面の仮想延長面よりも他方の湾曲面を外側に配置し、該一方の湾曲面に沿って前記一方の芯線圧着片を配置し、該他方の湾曲面に沿って前記他方の芯線圧着片を配置し、前記覆い部の先端を該段差面に当接させつつ前記芯線圧着部を該アンビルとクリンパとで圧着することを特徴とする。
【0017】
上記構成により、他方の芯線圧着片の先端すなわち覆い部の先端がクリンパの段差面に当接し、覆い部が一方の湾曲面の仮想延長線と他方の湾曲面との間のスペース(段差面の成すスペース)に収容され、一方の芯線圧着片の先端外側の折り返し部が一方の湾曲面から覆い部の内面に沿ってスライドしつつ両芯線圧着片が湾曲状にスムーズに縮径(圧着)される。段差面の成すスペースに覆い部が係合することで、覆い部による折り返し部の内向きの不要な圧縮変形が防止され、芯線部の収容スペースが確保されて、芯線部の過大な圧縮変形が防止される。
【0018】
請求項4に係る防水型圧着端子の圧着方法は、請求項3記載の防水型圧着端子の圧着方法において、電線圧着前において前記折り返し部を前記一方の芯線圧着片から外向きに離間させたことを特徴とする。
【0019】
上記構成により、圧着前(端子形成時)の状態で折り返し部が屈曲部を支点にある程度の(鋭角的な)開角度をもって外向きに折り返され、それにより折り返し部に外向きの反発力が付与される。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の発明によれば、一方の芯線圧着片の一対の外向きの折り返し部を外側の他方の芯線圧着片の覆い部に弾性的に密着させ、折り返し部の反発力を逃がすことなく密着力に変えたことで、折り返し部と覆い部との間から芯線部への水の浸入を確実に防止することができ、それにより、芯線圧着部の全長に渡って防食樹脂材の塗布を不要とし、芯線圧着部の前後の芯線露出部分のみに防食樹脂材を塗布すれば済み、それにより、防食樹脂材の硬化時間を短縮し、且つ防食樹脂材の使用量(コスト)を減少させて、電線付き圧着端子の製造工数とコストを低減させることができる。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、延長された覆いを内向きの大きな圧着力で内側の折り返し部に強く密着させて、芯線圧着部の防水性を高めることができる。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、内側の一方の湾曲面と、段差面に続く外側の他方の湾曲面とをクリンパに形成し、外側の湾曲面の内側空間に覆い部を収容し、覆い部の内面に沿って折り返し部をスライドさせて、両芯線圧着片の圧着を無理な変形なくスムーズ且つ確実に行わせることができ、これにより、覆い部と折り返し部とをスムーズ且つ確実に密着させて防水性を高めると共に、芯線部の無理な圧縮変形やそれに伴う素線切れ等を防ぐことができる。
【0023】
請求項4記載の発明によれば、圧着端子の自由状態で折り返し部に外向きの反発力を付与したことで、電線圧着時に折り返し部をその反発力で外側の覆い部に弾性的に密着させて、折り返し部と覆い部との間の防水性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る防水型圧着端子の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】圧着端子の芯線圧着部の一例を示す図1のA−A断面図である。
【図3】芯線圧着部の圧着前の形状の一例を示す断面図である。
【図4】(a)〜(c)は電線の芯線部をアンビルとクリンパで芯線圧着部に圧着させる方法を順に示す縦断面図である。
【図5】従来の防水用の圧着端子の一形態を示す、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係る防水型圧着端子の一実施形態、図2は、同じく防水型圧着端子の芯線圧着部構造(電線の図示は省略)、図3〜図4(a)〜(c)は、同じく防水型圧着端子の圧着方法の一実施形態を示すものである。
【0026】
図1の如く、この防水型圧着端子1は、左右一対のオーバラップした芯線圧着片2,3を有する環状の芯線圧着部4と、その後方の左右一対の絶縁被覆圧着片6,7を有する環状の絶縁被覆圧着部8と、芯線圧着部5の前方に水平方向の基板部(底板部)4と垂直な左右の側壁9とを介して続く箱状の雌型の電気接触部10とを備えたものである。
【0027】
絶縁被覆電線11の先端側の絶縁被覆12は皮剥きされて、複数本の素線13aで成る芯線部13が露出され、芯線部13の外面が一方(右側)の芯線圧着片2の内面と、一方の芯線圧着片2の外側にラップした(重なった)他方(左側)の芯線圧着片3の内面とに密着し、一対の芯線圧着片2,3の接合面14は径方向に強く密着して、接合面14から内側への水の浸入が防止されている。
【0028】
これにより、芯線圧着部5における(芯線圧着片2,3の後端5aから前端5bまでの範囲で)防食樹脂材15の塗布が不要となっている。従って、防食樹脂材15(鎖線で示す)は、絶縁被覆圧着部8の周囲(上側)と、芯線圧着部5の前端5bから短く突出した芯線先端部分の周囲との計二箇所に塗布するだけで済み、絶縁被覆圧着部8に較べて長形な芯線圧着部5に防食樹脂材15を塗布した場合における防食樹脂材15の硬化時間が削減されて、二箇所の短く小さな防食樹脂材15の硬化が短時間で行われる。
【0029】
芯線圧着部5は、一対の芯線圧着片2,3とその下側に芯線圧着片2,3の前後方向長さの範囲で一体に続く基板部4とで構成される。同様に、絶縁被覆圧着部8は、一対の絶縁被覆圧着片6,7とその下側に絶縁被覆圧着片6,7の長さの範囲で一体に続く基板部4とで構成される。基板部4は底板部とも呼称され、絶縁被覆圧着部8の後端から雌型の電気接触部10の前端まで端子長手方向に一体に続いている。
【0030】
図2の如く、電線加締め後の環状の芯線圧着部5は、下側の円弧状の基板部4と、基板部4の一側部分(本例で右側部分)4aに続いて径方向内向きに湾曲し(湾曲部を符号2aで示す)、湾曲部2aの先端側で上向きに且つ径方向外向きに折り返された(折り返し部を符号16で示す)一方の芯線圧着片2と、基板部4の他側部分(本例で左側部分)4bに続いて径方向内向きに湾曲し(湾曲部を符号3aで示す)、湾曲部3aの先端側において折り返し部16の上側にラップして(重なって)密着した覆い部17を有する他方の芯線圧着片3とで構成されている。
【0031】
図2の例の一方(右側)の湾曲部2aの先端側(上部側)部分は少し左下がりに傾斜し(傾斜部を符号2bで示す)、傾斜部2bの先端2b’は芯線圧着部5の上下方向の仮想中心線よりも他方(左)側に位置し、傾斜部2bの上側に少し右上がりに傾斜した折り返し部16が位置し、折り返し部16の先端16aが概ね上下方向の仮想中心線上に位置している。
【0032】
傾斜部2bの先端に円弧状(半円状)の屈曲部18を介して折り返し部16の基端が一体に続き、屈曲部18すなわち傾斜部2bと折り返し部16との交差部分を支点に折り返し部16が傾斜部2bに対して矢印Fの如く径方向外向きの弾性力(反発力)を有し、折り返し部16の湾曲状の外面16bが折り返し部16の弾性力で外側の覆い部17の湾曲状の内面17bに強く密着している。
【0033】
図2の例で覆い部17は折り返し部16の先端16aよりも時計回りに長く延長され、覆い部17の先端内面17aは傾斜部2bの基部側部分2b”の外面に接している。覆い部17は径方向内向きの弾性力を有している。折り返し部16の外面16bが折り返し部16の外向きの弾性力で覆い部17の内面17bに密着し、同時に、長く延長された覆い部17の内面17bが覆い部17の内向きの弾性力で折り返し部16の外面16bに密着する。これにより、折り返し部16と覆い部17との間(接合面14)からの内側の芯線部13(図1)への水の浸入が確実に防止され、図1において芯線圧着部5の全長(前端5bから後端5aまで)に渡って防食樹脂材15の塗布が不要となる。
【0034】
なお、図2において、覆い部17が延長されずに折り返し部16と同程度の長さに形成された場合でも、覆い部17は延長された場合程ではないにせよ内向きの弾性力を有し、折り返し部16は変わらぬ外向きの弾性力を有しているので、覆い部17と折り返し部16とが隙間なく確実に密着して、接合面14からの芯線部13への水の浸入が防止され、芯線圧着部5の全長に渡る防食樹脂材15の塗布が不要となる。
【0035】
図3は、図2の芯線圧着部5の圧着前の自由状態を示すものであり、一方(右側)の芯線圧着片2は、右上がり(外向き)に傾斜した長い傾斜部2cと、傾斜部2cの先端から右下がり(外向き)に短く傾斜した折り返し部16とで成り、折り返し部16の基端(上端)は傾斜部2cの先端(上端)に小径な円弧状の屈曲部18を介して一体に続いている。傾斜部2cと折り返し部16とのなす開角度θは一例として概ね35°程度であり(鋭角であることが好ましい)、本例の一方(右側)の芯線圧着片2と他方(左側)の芯線圧着片3とのなす開角度よりも少し小さい。折り返し部16は傾斜部2cに対して屈曲部18を支点に板厚方向(内外方向)の弾性力を有している。
【0036】
他方(左側)の芯線圧着片3は、一方の芯線圧着片2の上端である屈曲部18とほぼ同じ高さまで左上がり(外向き)に傾斜して延びている。他方の芯線圧着片3の先端(上端)を符号17aで示す。左右の各芯線圧着片2,3の幅(図1の前後方向長さ)と板厚はそれぞれ同じである。図3の各芯線圧着片2,3は円弧状に屈曲した基板部4からそれぞれ斜め外向きに突出している(立ち上げられている)。基板部4と各芯線圧着片2,3とで芯線圧着部5が構成される。図3の芯線圧着部5は図4(a)〜(b)の圧着工程によって図2のように圧着変形される。
【0037】
すなわち、図4(a)の如く、金属製の下型であるアンビル21の上に図3の芯線圧着部5がセットされ、芯線圧着部5の上方に金属製の上型であるクリンパ22が位置する。本例の芯線圧着部5を含む圧着端子1(図1)はばね性の良い銅合金で形成されている。
【0038】
アンビル21は受け用の円弧状の湾曲面23と、湾曲面23の左右両側の側壁21bとを有する。クリンパ22はアンビル21の湾曲面23と略同程度の内径の左右一対の押圧用の円弧状の湾曲面24,25を有し、右側(一方)の湾曲面24は左上がりに傾斜した垂直に近い傾斜状の段差面26を介して左側(他方)の湾曲面25に続き、右側の湾曲面24の不図示の仮想延長面の径方向外側に左側の湾曲面25が配置されている。
【0039】
右側の湾曲面24の頂点24aが段差面26の下端に続き、段差面26の上端が左側の湾曲面25の頂点25aに続き、左側の湾曲面25の頂点25aが右側の湾曲面24の頂点24aよりも上方に位置し、左右の湾曲面24,25の下端24b,25bは略同一高さに位置している。左右の湾曲面24,25の下端24b,25bは外向きに少し傾斜した垂直に近いテーパ状の各傾斜面27に続き、各傾斜面27はアンビル21の左右上端21aに近接している。図4(a)で符号Wは型C/W(クリンパワイド)すなわちクリンパ22の左右の湾曲面24,25の下端24b,25bの間の幅寸法を示している。
【0040】
図4(a)において、芯線圧着部5の基板部(底板部)4がアンビル21の湾曲面23の幅方向中央部に接し、芯線圧着部5の内側に電線11(図1)の複数本の素線13aで成る芯線部13がセットされ、右側の芯線圧着片2の先端側の折り返し部16の先端(下端)側の外面がクリンパ22の傾斜面27の上端側に当接しつつ、折り返し部16が上側の屈曲部18を支点に内向きに少し押圧されて撓み、左側の芯線圧着片3の先端(上端)17aの外端が左側の湾曲面25の下端側に当接している。
【0041】
図4(a)の状態からクリンパ22が不図示の油圧シリンダ等のラムで一体に下降し、下降途中で図4(b)の如く、折り返し部16の外面がクリンパ22の右側の湾曲面24に接しつつ、折り返し部16が電線径方向内向きに押圧されて屈曲部18を支点に板厚方向に撓み、同時に芯線圧着片2が湾曲して(湾曲部を符号2aで示す)、折り返し部16の内面が湾曲部2aの外面に接する、ないし近接する。左側の芯線圧着片3の先端側部分3bはクリンパ22の左側の湾曲面25に沿って屈曲する。基板部4はアンビル21の湾曲面23に沿って円弧状に湾曲する。
【0042】
図4(b)の状態からさらにクリンパ22が下降することで、図4(c)の如く、右側の芯線圧着片2が内向きに湾曲して縮径されつつ、折り返し部16がクリンパ22の中央の段差面26を通過し、折り返し部16の先端16aが段差面26のほぼ下側に位置する。左側の芯線圧着片3の先端17aは段差面26に当接しつつ、芯線圧着片3の先端側部分が内向きに湾曲して覆い部17となり、覆い部17の内面に沿って折り返し部16が左向きに案内されてスムーズに覆い部17の内側に入り込み、左側の湾曲面25で覆い部17が下側の折り返し部16に押し付けられて密着する。
【0043】
折り返し部16は覆い部17で内向きに押圧されて湾曲部2aの先端側の左下がりの傾斜部2bを芯線部13に内向きに食い込ませる。芯線部13は左右の芯線圧着片2,3の湾曲部2a,3aと右側の傾斜部2bと湾曲状の基板部4とで囲まれつつ径方向に圧縮されて各部分2a,3a,2b,4の内面に密着接続される。
【0044】
図4(c)の状態で圧着が完了し、クリンパ22がラムと共に上昇し、環状の芯線圧着部5がクリンパ22とアンビル21の押圧力から解放される。折り返し部16は自らの外向きの復元力と、傾斜部2bに作用する芯線部13の外向きの反発力とで覆い部17に押し付けられて密着する。これにより、覆い部17と折り返し部16との間からの芯線部13への水の浸入が確実に防止される。例えば銅合金製の端子1とアルミニウム製の芯線部13というように、異種金属の端子と芯線部との防錆対策に上記折り返し部16と覆い部17の密着作用は特に有効である。
【0045】
図4(c)の例では、覆い部17の先端17aと折り返し部16の先端16aとを上下方向のほぼ同じ仮想垂直面上に位置させたが、例えば図4(a)において段差面26を中央から右側に偏心させ、左側の湾曲面25を右側の湾曲面24よりも長く設定した場合に(図3において左側の芯線圧着片3を右側の芯線圧着片2よりも長く設定することが好ましい)、図2の延長された覆い部17の形態を得る。
【0046】
図4(c)の如く、段差面26とそれに続く左側の湾曲面25の内側の空間28(図4(b))に左側の芯線圧着片3の先端側部分である覆い部17を収容することで、覆い部17が下側の折り返し部16や傾斜部2bを芯線部13の内側に無理に食い込ませることがなく、芯線圧着部5内の芯線部13の収容スペースが略円形に確保され、芯線部13に無理な圧縮力が作用せず、芯線部13の過大な圧縮変形が防止される。
【0047】
なお、上記図1の実施形態においては、端子として、箱状の電気接触部(内部に弾性接触片を有する)10を有する雌側の圧着端子1を用いたが、タブ状やピン状といった雄型の電気接触部(図示せず)を基板部4に続けて形成した雄型の圧着端子を用いることも可能である。また、電気接触部10を形成せずに芯線圧着部5に複数本の電線11の芯線部13をジョイント圧着させるジョイント用圧着端子を用いることも可能である。
【0048】
また、上記実施形態においては、右側の芯線圧着片2に折り返し部16を形成し、左側の芯線圧着片3に覆い部17を形成したが、これとは左右対称に、右側の芯線圧着片2に覆い部17を形成し、左側の芯線圧着片3に折り返し部16を形成することも可能である(上記実施形態と同様に折り返し部16は覆い部17の内側に配置される)。
【0049】
また、本発明は、防水型圧着端子とその圧着方法として以外に、圧着端子の芯線圧着部構造や芯線圧着部の形成方法等としても有効なものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る防水型圧着端子とその圧着方法は、圧着端子の芯線圧着部への防食樹脂材の塗布量を減らして、防食樹脂材の硬化時間を短縮させ、且つ防食樹脂材の消費コストを抑えて、例えば電線付き圧着端子の製造から、ワイヤハーネスのコネクタを成す絶縁樹脂製のコネクタハウジング内に電線付きの圧着端子を挿入するまでのサイクルタイムを短縮させるために利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 防水型圧着端子
2,3 芯線圧着片
4 基板部
5 芯線圧着部
16 折り返し部
17 覆い部
21 アンビル
22 クリンパ
24,25 湾曲面
26 段差面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板部の両側に一対の芯線圧着片を形成して電線圧着時に環状の芯線圧着部を構成した圧着端子において、一方の芯線圧着片の先端側を外向きに折り返して、外向きの反発力を有する折り返し部を形成し、該折り返し部の外側に他方の芯線圧着片の先端側の覆い部を配置して、該覆い部の内面に該折り返し部の外面を該反発力で密着させたことを特徴とする防水型圧着端子。
【請求項2】
前記覆い部の先端側部分が折り返し部の先端よりも長く延長されたことを特徴とする請求項1記載の防水型圧着端子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防水型圧着端子の圧着方法であって、アンビルに対向するクリンパに押圧用の一対の湾曲面を段差面を介して連続形成し、一方の湾曲面の仮想延長面よりも他方の湾曲面を外側に配置し、該一方の湾曲面に沿って前記一方の芯線圧着片を配置し、該他方の湾曲面に沿って前記他方の芯線圧着片を配置し、前記覆い部の先端を該段差面に当接させつつ前記芯線圧着部を該アンビルとクリンパとで圧着することを特徴とする防水型圧着端子の圧着方法。
【請求項4】
電線圧着前において前記折り返し部を前記一方の芯線圧着片から外向きに離間させたことを特徴とする請求項3記載の防水型圧着端子の圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−84472(P2012−84472A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231394(P2010−231394)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】