説明

防汚処理剤および建築板

【課題】 本発明は、建築材等の表面に永続性のある防汚性を与えることを課題とする。
【解決手段】 基材表面に塗布して超親水性防汚膜を形成する防汚処理剤であって、ヒュームドシリカを水性溶媒に分散したことを特徴とする防汚処理剤を提供する。
ヒュームドシリカの表面には親水性に関与するシングルシラノール基が多く存在し、基材表面に対する定着力が大きく、基材表面に永続性のある防汚性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば木質セメント板、ケイ酸カルシウム板、セメント(コンクリート)板、金属板、ガラス板等の表面の防汚処理のために使用される防汚処理剤および該防汚処理剤によって表面を処理された建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
例えば外壁材等の建築板にあっては、一般に表面に塗料によって塗装が施されているが、施工後表面に付着した汚れを除去するために、セルフクリーニング機能を有する防汚膜を形成する防汚処理剤が塗布される。
この種の防汚処理剤としては処理表面に超親水性を有する防汚膜を形成するものが使用され、該防汚処理剤を基材表面に塗布すると、上記超親水性防汚膜が形成され、基材表面に汚れが付着した場合、水をかけると該超親水性防汚膜に水が吸収され、その結果汚れが浮上って水と共に流れ落とされる(セルフクリーニング効果)。
【0003】
〔従来の技術〕
上記基材表面に超親水性防汚膜を形成するには、従来主としてシリカ微粒子(コロイダルシリカ)の水性分散液が使用されていた。
例えば特許文献1には、防汚性被膜の形成方法として合成樹脂水性エマルジョンの被膜に、平均粒径が100nm以下のコロイド珪酸の水性分散液を塗布して被膜表面にコロイド珪酸被膜を形成することが記載されている。
また特許文献2にはコロイダルシリカとアルミナ/アルミニウムマグネシウム複合酸化物を含む液を塗膜表面の耐水性、耐アルカリ性のために塗布して防汚層形成する方法が記載されている。
上記シリカ微粒子は表面に存在するシラノール基によって基材の処理表面に超親水性を与える。
【0004】
【特許文献1】特開平6−71219号公報
【特許文献2】特開2002−338943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記シリカ微粒子は、表面に存在するシラノール基相互が近接したビシナルシラノール基を多く含んでおり、ビシナルシラノール基は相互水素結合して親水性に関与する遊離のシラノール基(シングルシラノール基)の濃度があまり高くなく、表面活性が低いので、基材表面に対する定着力が不充分となって、雨水等がかゝると流出し易く、持続的な防汚効果が期待出来ないこと、そしてシングルシラノール基の濃度があまり高くないことから親水性の高い防汚膜を得るには、水性分散液中のシリカ微粒子の濃度を高くする必要がある。しかしシリカ微粒子の濃度を高くすると水性分散液が高価になると云う問題点がある。
更にシリカ微粒子はナノレベルの粒子径(100nm以下)を有するから、基材表面に塗装を施し、その上から防汚処理した場合、塗膜の吸排湿、環境温度変化による伸縮に巻き込まれて塗膜内に埋没してしまい、防汚効果が消失するおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、基材表面に塗布して超親水性防汚膜を形成する防汚処理剤であって、ヒュームドシリカを水性溶媒に分散したことを特徴とする防汚処理剤を提供するものである。該水性溶媒は水とアルコールの混合溶媒であることが好ましく、更に該水性溶媒には界面活性剤が添加されていることが好ましい。
本実施例にあっては、更に表面に上記防汚処理剤を塗布し乾燥して超親水性防汚膜を形成した建築板が提供される。該建築板表面には塗料が塗布され、塗膜半乾燥状態において該防汚処理剤が塗布され、加熱乾燥されることが好ましい。上記建築板としては、外壁材等に適する木質セメント板が適する。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
ヒュームドシリカは、例えば四塩化ケイ素を酸素水素炎中で加水分解して製造され、一次粒子の粒径が7〜40nmであるが、水性溶媒中に分散させると、粒子相互が会合して網目構造を形成し、数百nm(約500nm)の二次粒子となる。
上記会合状態においても、ヒュームドシリカ表面には遊離のシラノール基(シングルシラノール基)が高濃度で存在し、活性が大きく、基材表面に高い超親水性を与える。また表面活性が大きくまた会合し網目構造を形成することによって見掛けの分子量が大きくなり、表面活性が大きいことと見掛けのヴァンデルヴァールス力が大きくなることが相俟って、基材表面に対する定着性が大きくなり、基材表面には長期間良好な超親水性、即ち防汚性が維持される。
更に基材として建築板を使用した場合、該建築板表面に塗料を塗布し、塗膜半乾燥状態において上記防汚処理剤を塗布すると、基材表面の塗膜が半硬化状態にあり、粘着性を有する状態で防汚処理剤を塗布するから、ヒュームドシリカが該塗膜に若干めり込む状態となり、形成される防汚層の該塗膜に対する付着力が向上する。該ヒュームドシリカは前記したように粒子相互が会合することによって嵩高になっており、塗膜に若干めり込んでも埋没するまでには至らず、更に塗膜が吸排湿あるいは環境温度変化によって伸縮しても、上記混合したヒュームドシリカは該塗膜に巻き込まれて埋没することがないから防汚性が低下することはない。
該防汚処理剤において、アルコールと、水と、更に好ましくは界面活性剤とを含有する溶媒にヒュームドシリカを分散させたものであると、アルコールと界面活性剤の表面張力低下作用によって塗膜との濡れ性が向上し、更に塗膜との親和性も高くなり、形成される防汚層の該塗膜に対する付着力は更に向上する。また界面活性剤によってヒュームドシリカは沈降することなく均一に分散される。
【0008】
〔効果〕
本発明の防汚処理剤にはシングルシラノール基が表面に多数存在するヒュームドシリカが使用されるので、基材に対する定着性が大きく、永続性のある大きな防汚効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔ヒュームドシリカ〕
本発明に使用するヒュームドシリカは前記したように四塩化ケイ素等の揮発性ケイ素化合物の気相において、例えば酸素水素炎中で燃焼加水分解して製造される。
該ヒュームドシリカの一次粒子の粒径は7〜40nmであるが、水性溶媒中に分散させると、粒子相互が会合して網目構造を形成し、数百nm(約500nm)の二次粒子となる。
上記ヒュームドシリカの比表面積は約500,000〜2,000,000cm2 /gであり、1nm2 あたり2〜3個のシングルシラノール基を有し、したがってヒュームドシリカは表面活性に富み、基材表面に高い超親水性を与える。
【0010】
〔アルコール〕
本発明においては、上記ヒュームドシリカの分散溶媒として水にアルコールを添加することが望ましい。本発明に使用するアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の水溶性のものが望ましい。該アルコールは本発明の防汚処理剤の表面張力を低下せしめ、更に該防汚処理剤と下側の基材または基材上に形成された塗膜との親和性を高めて該処理剤の濡れ性を向上せしめる。
【0011】
〔界面活性剤〕
本発明の防汚処理剤には界面活性剤を添加することが望ましい。上記界面活性剤としては、通常のアニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤のいずれも用いられ、例えばアニオン性界面活性剤としては高級アルコールサルフェート(Na塩またはアミン塩)、アルキルアリルスルフォン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルフォン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルフォン酸塩縮合物、アルキルフォスフェート、ジアルキルスルフォサクシネート、ロジン石鹸、脂肪酸塩(Na塩またはアミン塩)等があり、ノニオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキロールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアマイド、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等があり、カチオン性界面活性剤としてはオクタデシルアミンアセテート、イミダゾリン誘導体アセテート、ポリアルキレンポリアミン誘導体またはその塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルアミノエチルアルキルアミドハロゲニド、アルキルピリジニウム硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムハロゲニド等が例示される。また界面活性剤は二種以上混合使用されてもよい。また上記例示は本発明を限定するものではない。
該界面活性剤はアルコールと共に本発明の防汚処理剤の表面張力を低下せしめ、更にヒュームドシリカを処理剤中に良好に分散せしめ、そして下の塗膜との親和性も高める。
【0012】
本発明の防汚処理剤において、通常該ヒュームドシリカは0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜6質量%、アルコールは2〜10質量%、界面活性剤は0.01〜0.25質量%配合され、残余は水とする。
上記アルコールが2質量%よりも少なく含有されている場合には該処理剤の濡れ性が悪くなり、また10質量%を越えて含有されている場合には、溶媒の揮発性が大きくなり、塗装作業に悪影響がもたらされる。また上記界面活性剤が0.01質量%よりも少なく添加されている場合には界面活性剤による表面張力の低下効果やヒュームドシリカの分散効果が顕著でなくなり、また0.25質量%を越えて添加されている場合には形成される防汚層の強度、耐水性、耐久性等に悪影響がもたらされる。かくして該処理剤の表面張力は25℃で20dyne/cm以下であることが望ましい。
【0013】
本発明の防汚処理剤が塗布される基材は主として外壁材等の建築板であり、該建築板としては、主として木片、木質繊維束、木質パルプ、木毛、木粉等の木質補強材とセメント系水硬性材料とを主体とする混合物を成形硬化した木質セメント板が使用され、その表面にはエンボス加工等によって凹凸模様(2) が付されていてもよい。該板材の表面には塗装が施されている。該塗装はアクリル樹脂塗料、アクリル−シリコン樹脂塗料、アクリル−ウレタン樹脂塗料等の有機塗料、燐酸塩系塗料、酸化金属系塗料等の無機塗料を使用して施されるが、通常下塗り塗装、中塗り塗装、上塗り塗装の三層塗装あるいは下塗り塗装、上塗り塗装の二層塗装が適用される。
【0014】
上記塗装に使用する塗料としてはアクリル樹脂水性エマルジョン塗料のような水性エマルジョン塗料を使用することが望ましい。何となれば該水性エマルジョン塗料による塗膜には界面活性剤等の親水性成分が含まれており、水性の該防汚処理剤との親和性が高い。
【0015】
本発明では上記基材表面に塗料を塗布して形成された塗膜が半乾燥状態、即ち半硬化状態において、上記防汚処理剤を塗布する。二層または三層塗装の場合には上塗り塗装による塗膜が半乾燥状態において、上記防汚処理剤を塗布する。
【0016】
塗膜が半乾燥状態とは、溶剤系塗料あるいは水性エマルジョン塗料による塗膜の場合には溶剤あるいは水が完全に蒸発しない前の状態を云い、無溶剤塗料の場合には、塗料中の樹脂ビヒクル、あるいは無機質ビヒクルが完全に硬化しない半硬化状態を云う。
通常上記半乾燥状態は、塗装して塗膜が形成された後10〜60秒の間に実現される。溶剤系塗料あるいは水性エマルジョン塗料にあっては、この間に固形分濃度が30〜50質量%から60〜80質量%に高くなる。
上記した塗膜の半乾燥状態においては、防汚処理剤中のヒュームドシリカが塗膜に若干めり込む状態となり、形成される防汚層の塗膜に対する付着力が向上し、かつ形成される防汚層と塗膜との間に混合が起らない。
【0017】
上記建築板以外本発明において対象とする基材としては、例えばケイ酸カルシウム板、セメント(コンクリート)板、金属板、ガラス板等がある。
【0018】
基材の表面に上記防汚処理剤を塗布する望ましい方法としては、霧化塗装法がある。該霧化塗装法としては、例えば低圧エアレススプレー法、ベル型塗装機による塗装法、静電塗装法等がある。更に塗装方法としては刷毛塗り、ロールコーター塗装、ナイフコーター塗装等が適用されてもよい。
上記霧化塗装法にあっては、該処理剤がミストとなって建築板の凹凸模様表面に付着するので、該表面に定着され易い。
【0019】
〔実施例1〜11,比較例1〜3〕
表1に示す成分を水に投入して混合し防汚処理剤を調製した。
ヒュームドシリカの分散にはビーズミルを使用した後、超音波にて更に40分間の分散を行なった。50×40mmの木繊維混合ケイ酸カルシウム板の表面に水性スチレン・アクリル系塗料を塗布して、本発明における防汚効果を確認するための基材を調製した。
上記のように調製した基材に、表1に示す配合の防汚処理剤を5g/尺2 になるように塗布し、常温で乾燥させ試験に供した。
【0020】
【表1】

【0021】
〔試験1〕
上記のようにして得られた実施例1〜11,比較例1〜3の試験体を、南向きに30°の傾斜角を持たせた架台に固定し、実際に2ケ月間屋外に曝露して、その防汚効果を確認した。汚染度合いの評価には、ミノルタ色差計CR−300による明度(L値)の差(ΔL)を用いた。結果を表2に示す。
【0022】
〔試験2〕
同様の条件で調製した実施例1〜11,比較例1〜3の試験体を、高圧水で1分間洗浄し、洗浄の前後でその水との接触角の変化を測定して親水化効果を確認した。結果を表2に示す。
【0023】
〔試験3〕
同様の条件で調製した実施例1〜11,比較例1〜3の試験体を、25℃に保った水中に3日間浸漬して、その前後で水との接触角の変化を測定して親水化効果を確認した。結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
〔試験1の結果〕
表2をみると、無処理の比較例1のΔLは6.5と大きく、コロイダルシリカ濃度2質量%の比較例2の防汚処理剤で処理した試験体のΔL(4.1)は、ヒュームドシリカ濃度0.5質量%の実施例9の防汚処理剤で処理した試験体のΔL(4.4)と略同じであり、コロイダルシリカ濃度6質量%の比較例3の防汚処理剤で処理した試験体のΔL(1.8)は、ヒュームドシリカ濃度2質量%の実施例8の防汚処理剤で処理した試験体のΔL(1.8)と同じであり、またヒュームドシリカ濃度2質量%の実施例3の防汚処理剤で処理した試験体のΔL(1.6)は比較例2の試験体のΔL(4.1)よりもはるかに小さく、更にヒュームドシリカ濃度6質量%の実施例5の防汚処理剤で処理した試験体のΔL(1.3)は比較例3の試験体のΔL(1.8)よりも小さく、ヒュームドシリカを使用した防汚処理剤の方が耐久性のある防汚性を有することが認められる。
【0026】
〔試験2,3の結果〕
試験2の接触角θは無処理の比較例1では洗浄前から81°と大きく、洗浄後では72°と若干小さくなる。コロイダルシリカを用いた比較例2,3、ヒュームドシリカを用いた実施例1〜11共に洗浄前はθ=0°であり、良好な親水性を示すが、洗浄後は実施例3のθ=0°に比べて比較例2のθ=45°であり、ヒュームドシリカを使用した防汚処理剤処理表面はコロイダルシリカを使用した防汚処理剤処理表面よりも洗浄後は親水性が小さくなり、更に試験3では無処理の比較例1は浸漬前θ=88°、浸漬後θ=70°と大きな値を示し、比較例2,3、実施例1〜11は共に浸漬前θ=0°であり、良好な親水性を示すが、浸漬後は比較例2のθ=42°、実施例3はθ=0°、比較例3のθ=22°、実施例5はθ=0°で、コロイダルシリカを使用した防汚処理剤処で処理した表面では、水浸漬により親水性が大巾に低下することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の防汚処理剤で処理した表面は耐久性のある防汚性を示し、屋外に曝露される外壁材等の建築材に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に塗布して超親水性防汚膜を形成する防汚処理剤であって、ヒュームドシリカを水性溶媒に分散したことを特徴とする防汚処理剤。
【請求項2】
該水性溶媒は水とアルコールの混合溶媒である請求項1に記載の防汚処理剤。
【請求項3】
該水性溶媒には界面活性剤が添加されている請求項1または2に記載の防汚処理剤。
【請求項4】
表面に請求項1〜3に記載の防汚処理剤を塗布し乾燥して超親水性防汚膜を形成したことを特徴とする建築板。
【請求項5】
該建築板表面には塗料が塗布され、塗膜半乾燥状態において該防汚処理剤が塗布され、加熱乾燥される請求項4に記載の建築板。
【請求項6】
該建築板は木質セメント板である請求項4または5に記載の建築板。

【公開番号】特開2006−96835(P2006−96835A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283249(P2004−283249)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】