説明

防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、及び該塗膜を形成する防汚処理方法

【課題】本発明は、海水中において、長期間、防汚性能を有効に発揮でき、しかも、塗膜溶解量の温度依存性が低い、環境安全性の高い防汚塗膜を形成するための組成物を提供する。
【解決手段】(A)(a)一般式(1)で表わされるメタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体と、(b)メタクリル酸メトキシアルキルエステル単量体との混合物から得られるトリオルガノシリルエステル含有共重合体であって、


該混合物中における該単量体(a)の含有量が45〜65重量%であり、且つ、該混合物中における該単量体(a)と該単量体(b)との合計含有量が80重量%以上であるトリオルガノシリルエステル含有共重合体、並びに(B)ロジン銅塩及びロジン誘導体の銅塩から選ばれる少なくとも1種の銅塩を含有することを特徴とする防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、及び該塗膜を形成する防汚処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)や漁網類、漁網付属具等の漁業具や発電所導水管等の水中構造物に付着することにより、それら船舶等の機能が害される、外観が損なわれる等の問題がある。
【0003】
従来、有機錫含有共重合体を含む防汚塗料を船舶、漁業具及び水中構造物の表面に塗布することにより、水棲汚損生物の付着の防止を図っている。例えば、トリブチル錫基を有する重合体を含む防汚塗料を塗布して形成された塗膜は、該重合体成分が海水中に除々に溶出し、塗膜表面が常に更新されることにより、塗膜に対する水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、溶解後、塗膜を上塗りすることにより、継続的に防汚性能を発揮することができる。しかし、前記防汚塗料の使用は、海洋汚染の問題から中止されている。
【0004】
近年、有機錫含有共重合体に替わる加水分解性共重合体として、有機スズ基に比べて毒性が低く環境への負荷が少ないトリオルガノシリル基を有するトリオルガノシリルエステル含有共重合体が開発され使用されてきた(特許文献1〜12)。しかし、トリオルガノシリルエステル含有共重合体を含む塗膜は、初期の段階では、海水中で一定の速度で溶解するものの、塗膜の溶解速度が徐々に大きくなり長期間経過すると、塗膜の溶解速度が大きくなりすぎてしまい、塗料設計が困難であるという問題がある。そのため、前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体を、ロジン(又はロジン誘導体)と併用して用いることにより(特許文献1〜3)、塗膜溶解速度を調整する試みがされてきた。
【0005】
しかし、ロジン(又はロジン誘導体)を使用する場合、その一部は塗料製造時に塗料組成物中に含まれる金属化合物と反応して金属塩となるものの、その反応性は十分ではないため遊離のカルボン酸を持つロジン(又はロジン誘導体)が塗料組成物に残る。前記ロジン(又はロジン誘導体)は、親水性が高いため、塗膜の耐水性を低下させる原因となりやすい。塗膜の耐水性が低い場合、塗膜にブリスターやクラック等の異常が生じる傾向がある。
【0006】
そこで、過剰の金属化合物とロジンとをプレミックスすることで未反応の遊離のカルボン酸を持つロジンを排除する方法も提案されている(特許文献11)。しかし、かかる方法では、金属化合物を過剰に使用しても、前記金属化合物とロジンとが十分に反応しないため、遊離のカルボン酸を持つロジン(又はロジン誘導体)を完全に排除することは困難である。
【0007】
一方、前記トリオルガノシリル共重合体として、メタクリル酸トリn-ブチルシリルのようなアルキル基が直鎖のシリル単量体を共重合してなる共重合体を用いる場合、塗膜の加水分解速度が非常に早い(耐水性が悪い)ため、塗膜溶解速度のコントロールが難しい。そのため、メタクリル酸トリイソプロピルシリルのような全てのアルキル基が分岐したシリル単量体を共重合してなる共重合体が広く使用されるようになった(特許文献4〜12)。しかしながら、前記共重合体を用いた場合、塗膜が脆く、クラック、ハガレ等が生じるおそれがある。
【0008】
また、前記のメタクリル酸トリイソプロピルシリル含有共重合体やロジン又はロジン誘導体の銅以外の金属塩を用いた場合、25℃以下の低い海水温度では、塗膜は安定した溶解性を示すものの、海水温度が高くなると塗膜の溶解性が著しく大きくなるため予想以上に塗膜溶解量が大きくなるという問題がある。そのため、熱帯海域を航行する船舶に防汚塗料組成物を塗工する際、塗膜の膜厚の設計が難しいという問題があった。
【特許文献1】特開平10-30071公報
【特許文献2】特開平11-116857公報
【特許文献3】特開平11-116858公報
【特許文献4】特開2000-248029公報
【特許文献5】特開2000-24828公報
【特許文献6】特開2000-265107公報
【特許文献7】特開2000-81147公報
【特許文献8】特開2002-53796公報
【特許文献9】特開2002-53797公報
【特許文献10】特開2002-97406公報
【特許文献11】特開2003-261816公報
【特許文献12】特開2005-082725公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、海水中において、長期間、防汚性能を有効に発揮でき、しかも、塗膜溶解量の温度依存性が低い、環境安全性の高い防汚塗膜を形成するための組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の成分を含む組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、及び該塗膜を形成する防汚処理方法に係る。

1. (A)(a)一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数3〜6のα位が分岐したアルキル基若しくはフェニル基を示す)で表わされるメタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体と、
(b)下記一般式(2):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す)で表わされるメタクリル酸メトキシアルキルエステル単量体との混合物から得られるトリオルガノシリルエステル含有共重合体であって、
該混合物中における該単量体(a)の含有量が45〜65重量%であり、且つ、該混合物中における該単量体(a)と該単量体(b)との合計含有量が80重量%以上であるトリオルガノシリルエステル含有共重合体、並びに
(B)ロジン銅塩及びロジン誘導体の銅塩から選ばれる少なくとも1種の銅塩
を含有することを特徴とする防汚塗料組成物。2. 前記防汚塗料組成物が、25℃の海水中における塗膜溶解量が1ヶ月当たり2μm以上で、且つ、塗膜溶解量の温度依存係数(35℃の海水中における塗膜溶解量/25℃の海水中における塗膜溶解量)が1.3以下である防汚塗膜を形成する上記項1に記載の防汚塗料組成物。

3. 前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)の重量平均分子量が、20,000〜70,000である上記項1又は2に記載の防汚塗料組成物。4. 前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)と前記銅塩(B)との含有割合が、重量比(前記共重合体(A)/前記銅塩(B))で80/20〜20/80である上記項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
5. 前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)と前記銅塩(B)との含有割合が、重量比(前記共重合体(A)/前記銅塩(B))で60/40〜40/60である上記項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
6. 上記項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
7. 上記項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
8. 上記項7に記載の防汚塗膜を表面に有する塗装物。

<防汚塗料組成物>
本発明の防汚塗料組成物は、

(A)(a)一般式(1):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数3〜6のα位が分岐したアルキル基若しくはフェニル基を示す)で表わされるメタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体と、
(b)下記一般式(2):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す)で表わされるメタクリル酸メトキシアルキルエステル単量体との混合物から得られるトリオルガノシリルエステル含有共重合体であって、
該混合物中における該単量体(a)の含有量が45〜65重量%であり、且つ、該混合物中における該単量体(a)と該単量体(b)との合計含有量が80重量%以上であるトリオルガノシリルエステル含有共重合体、並びに
(B)ロジン銅塩及びロジン誘導体の銅塩から選ばれる少なくとも1種の銅塩
を含有することを特徴とする。
本発明の防汚塗料組成物は、水棲汚損生物の付着を抑制又は防止できる(防汚性能を有効に発揮する)防汚塗膜を形成できる。
【0020】
特に、本発明の防汚塗料組成物は、前記共重合体(A)と前記銅塩(B)とを必須成分として含有することにより、温度依存性の低い防汚塗膜を形成できる。本発明の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜は、高い海水温度(35℃程度)での塗膜溶解量が、通常の海水温度(25℃程度)での塗膜溶解量とほぼ同じである。
【0021】
具体的に、本発明の防汚塗料組成物は、25℃程度の海水中での塗膜溶解量が1ヶ月当たり2μm程度以上、好ましくは2〜10μm程度、更に好ましくは3〜5μm程度である防汚塗膜を形成できる。前記塗膜溶解量が1ヶ月当たり2μm程度以上である場合、海水中で長期間(例えば2年以上)防汚効果を好適に発揮できる。なお、前記1ヶ月当たりの塗膜溶解量(μm)は、下記試験例6の方法により求めた値である。
また、本発明の防汚塗料組成物は、塗膜溶解量の温度依存係数(35℃程度の海水中における塗膜溶解量/25℃程度の海水中における塗膜溶解量)が1.3程度以下である防汚塗膜を形成できる。前記温度依存係数が1.3程度以下である場合、高温海域を航行する船舶の船底に形成する塗膜の厚みを容易に設計できる。なお、前記温度依存係数は、下記試験例7の方法により求めた値である。
【0022】
また、本発明の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜は、高温海水中でブリスター、クラック等の塗膜異常を起こしにくい。
【0023】
このように、本発明の防汚塗料組成物は、温度依存性が低く、且つ、高温海水中で塗膜異常を起こしにくい防汚塗膜を形成できることから、例えば、船底塗料として好適に用いることができる。
従来の加水分解型防汚塗料は、通常の海水温度(25℃程度)では安定した塗膜溶解が得られるものの、35℃程度での塗膜溶解量が25℃程度での塗膜溶解量に対して非常に大きくなるため、高温海域を航行する船舶の船底の塗膜の厚みの設計が困難であった。また、従来の加水分解型防汚塗料を用いて形成された塗膜は、高温海域中でブリスター、クラック等の塗膜異常を起こし易い問題もあった。 加えて、本発明の防汚塗料組成物は、貯蔵安定性に優れており、長期間保存しても、ゲル化・固化することがほとんどない。
【0024】
《トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)》

本発明の防汚塗料組成物は、(a)一般式(1):
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数3〜6のα位が分岐したアルキル基若しくはフェニル基を示す)で表わされるメタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体と、
(b)下記一般式(2):
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す)で表わされるメタクリル酸メトキシアルキルエステル単量体との混合物から得られるトリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)を含有する。
【0029】
前記共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、30〜80℃程度が好ましく、40〜70℃程度がより好ましい。Tgが30〜80℃程度の場合、塗膜硬度が水温や気温に影響されることがほとんどなく、長期間、適度な硬度と強靭性を保持することができるため、コールドフロー、クラックやハガレ等の塗膜異常が生じにくい。
【0030】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、20,000〜70,000程度であり、好ましくは30,000〜60,000程度である。Mwが20,000〜70,000程度の場合、塗膜物性(塗膜の硬度・強靱性)が良好であるため(クラックやハガレが生じにくいため)、長期間、防汚効果を好適に発揮できる。
【0031】
Mwの測定方法としては、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)が挙げられる。GPCによってMwを測定する場合、Mwは、ポリスチレンを標準物質として検量線を作成して測定することにより求めた値(ポリスチレン換算値)として表示される。
【0032】
前記共重合体(A)は、前記単量体(a)、前記単量体(b)(及び下記単量体(c))が共重合してなるものである。これら単量体の共重合比率は、通常、下記「トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)の合成」の項目で説明する混合物中における各単量体の含有量の比率に比例する。
【0033】
前記共重合体(A)は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、又はブロック共重合体のいずれの共重合体であってもよい。
【0034】
以下、前記単量体(a)、前記単量体(b)、前記共重合体(A)の合成方法等について具体的に説明する。
【0035】
メタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体(a)
炭素数3〜6のα位が分岐したアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、1-メチルペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、テキシル基等が挙げられる。
【0036】
特に、本発明では、R、R及びRとして特定の基を選択することにより、塗膜異常を起こしにくく、且つ、耐水性に優れた防汚塗膜を形成できる。このような観点から、R、R及びRとしては、それぞれ同一又は異なって、イソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基及びフェニル基であることが好ましく、イソプロピル基、t−ブチル基及びフェニル基であることがより好ましい。
【0037】
前記単量体(a)としては、例えば、メタクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸トリs−ブチルシリル、メタクリル酸トリフェニルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルs-ブチルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルt-ブチルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルテキシルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルフェニルシリル、メタクリル酸イソプロピルジs-ブチルシリル、メタクリル酸イソプロピルジフェニルシリル、メタクリル酸ジフェニルテキシルシリル、メタクリル酸t -ブチルジフェニルシリル等が挙げられる。特に、塗膜異常を起こしにくく、且つ、耐水性に優れた防汚塗膜を形成できる点で、メタクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸トリs−ブチルシリル及びメタクリル酸t -ブチルジフェニルシリルが好ましく、メタクリル酸トリイソプロピルシリル及びメタクリル酸t -ブチルジフェニルシリルがより好ましい。これらのメタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用される。
【0038】
メタクリル酸メトキシアルキルエステル単量体(b)
炭素数2〜4のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、1-メチルエチレン基、プロプレン基、ブチレン基等が挙げられる。Rとして特に好ましいのは、エチレン基である。
【0039】
前記単量体(b)としては、例えば、メタクリル酸2−メトキシエチル、2−メタクリル酸メトキシプロピル及びメタクリル酸4−メトキシブチル等が挙げられる。特に好ましくは、メタクリル酸2−メトキシエチルである。これらのメタクリル酸メトキシアルキルエステルは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用される。
【0040】
その他の単量体
前記混合物には、前記単量体(a)及び前記単量体(b)と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(c)をさらに含有させてもよい。
【0041】
前記単量体(c)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−メトキシプロピル、アクリル酸4−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールモノメチル、(メタ)アクリル酸プロピレングリコールモノメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、及び(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸エステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン等のビニル化合物;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族化合物等が挙げられる。この中でも特に、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)クリル酸メチル、 (メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル及びアクリル酸2−メトキシエチルがより好ましい。前記例示の単量体(c)は、前記共重合体(A)のモノマー成分として単独又は二種以上で使用できる。
【0042】
トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)の合成
前記共重合体(A)は、前記単量体(a)、前記単量体(b)(及び前記単量体(c))との混合物から得られる。
【0043】
前記混合物中における前記単量体(a)の含有量は45〜65重量%程度が好ましく、50〜60重量%程度がより好ましい。前記単量体(a)の含有量が45〜65重量%程度の場合、得られる防汚塗料組成物を用いて形成した塗膜が、安定した塗膜溶解性を示し、長期間、防汚性能を維持できる。
【0044】
前記混合物中における前記単量体(b)の含有量は、30〜50重量%程度が好ましく、30〜40重量%程度がより好ましい。前記単量体(b)の含有量が30〜50重量%程度の場合、得られる防汚塗料組成物を用いて形成した塗膜が、安定した塗膜溶解性を示し、長期間、防汚性能を維持できる。
【0045】
前記混合物中における前記単量体(a)と前記単量体(b)との合計含有量は、80重量%程度以上が好ましく、80〜90重量%程度がより好ましい。前記合計含有量が80重量%程度以上の場合、得られる防汚塗料組成物を用いて形成した塗膜が、温度依存性が低く、且つ、優れた塗膜物性を有する。
【0046】
前記共重合体(A)は、前記混合物中の前記単量体(a)、前記単量体(b)、必要に応じて前記単量体(c)を重合させることにより得られる。前記重合は、例えば、重合開始剤の存在下で行われる。
【0047】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物等が挙げられる。これら重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。前記重合開始剤としては、 特に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートが好ましい。
【0048】
前記重合開始剤の使用量を適宜設定することにより、前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体の分子量を調整することができる。
【0049】
重合方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。この中でも特に、簡便に、且つ、精度良く、前記共重合体(A)を合成できる点で、溶液重合が好ましい。
【0050】
前記重合反応においては、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。この中でも特に、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、キシレンがより好ましい。これら溶媒については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0051】
重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常70〜140℃程度、好ましくは80〜120℃程度である。重合反応における反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよく、通常4〜8時間程度である。
【0052】
重合反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0053】
《銅塩(B)》
本発明の防汚塗料組成物は、ロジン銅塩及びロジン誘導体の銅塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銅塩(B)を含有する。
【0054】
前記銅塩(B)は、前記共重合体(A)との相溶性が高いため、塗膜中において安定して存在することができる。そのため、本発明の組成物は、長期貯蔵性に優れる。
【0055】
また、前記銅塩(B)は親水性が低く、海水中の他の金属イオンとのイオン交換が少ないため、長期間、良好な耐水性及び安定した塗膜溶解性を示し、且つ、高温海域(35℃程度)でも塗膜異常をほとんど起こさない防汚塗膜が得られる。
【0056】
ロジン銅塩及びロジン誘導体の銅塩の代わりに、ロジン(又はロジン誘導体)のナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いる場合、これらの金属塩の親水性が高すぎるため塗膜の耐水性が低下する。また、ロジン(又はロジン誘導体)の亜鉛塩は、前記の金属塩ほどではないが親水性であるため、塗膜溶解性を高める働きがある。特に、ロジン(又はロジン誘導体)の亜鉛塩を単独使用した防汚塗料は、比較的低い温度(25℃以下)の海域では使用上問題ないが、高温海域(35℃程度)では塗膜溶解性が非常に高くなり、クラックやブリスター等の塗膜異常も起こす傾向がある。
【0057】
前記ロジン銅塩としては、例えば、ガムロジン銅塩、ウッドロジン銅塩、トール油ロジン銅塩等が挙げられる。前記ロジン誘導体の銅塩としては、例えば、水添ロジン銅塩、不均化ロジン銅塩、マレイン化ロジン銅塩、フォルミル化ロジン銅塩、重合ロジン銅塩等が挙げられる。本発明の防汚塗料組成物は、これらの銅塩(B)を1種又は2種以上で用いることができる。
【0058】
特に、前記銅塩(B)としては、ガムロジン銅塩、ウッドロジン銅塩、トール油ロジン銅塩、水添ロジン銅塩及び不均化ロジン銅塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銅塩が好ましい。
【0059】
前記銅塩(B)としては、市販品を用いることができる。また、前記銅塩(B)は公知の方法により製造することもできる。例えば、遊離のカルボキシル基(COO基)を有するロジン又はロジン誘導体を溶液中で加熱しながら水酸化銅と反応させることにより合成できる。
【0060】
なお、本発明の防汚塗料組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で前記銅塩(B)以外のロジン(又はロジン誘導体)の金属塩(例えば、前記亜鉛塩等)をさらに含有してもよい。
【0061】
本発明の防汚塗料組成物中における前記共重合体(A)と前記銅塩(B)との含有割合は、重量比(前記共重合体(A)/前記銅塩(B))で80/20〜20/80程度が好ましく、60/40〜40/60程度がより好ましい。前記共重合体(A)と前記銅塩(B)との含有割合が重量比で80/20〜20/80程度の場合、海水の温度による影響を受けにくく、海水温度が高い場合でも安定した塗膜溶解速度を示す防汚塗膜を好適に形成できる。同時に、適度な塗膜硬度を有し、優れた強靱性及び耐水性を有する防汚塗膜を好適に形成できる。
【0062】
本発明の組成物は、遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まないことが好ましい。具体的に、本発明の組成物中の前記ロジン及びロジン誘導体の含有量は、1重量%程度以下が好ましく、0〜0.1重量%程度がより好ましい。遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体は、親水性が高い。そのため、前記塗膜が前記遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を含む場合、塗膜の耐水性が低下し、塗膜にブリスターやクラック等の異常が生じるおそれがある。
【0063】
《亜酸化銅》
本発明の塗料組成物は、さらに亜酸化銅を含有することが好ましい。亜酸化銅を含有することにより、形成される塗膜は防汚性能をより効果的に発揮できる。前記亜酸化銅は、防汚薬剤としての役割を果たすことができる。亜酸化銅の形状については、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。例えば、亜酸化銅として、粒子状のものを使用できる。
【0064】
亜酸化銅の平均粒径は、平均粒径が3〜30μm程度が好ましい。平均粒径が3〜30μm程度の亜酸化銅を含有する場合、塗膜溶解速度を好適に抑制でき、長期間防汚効果を十分に発揮できる。
【0065】
前記亜酸化銅としては、周囲をコーティング剤によってコーティングしたものが好ましい。例えば前記亜酸化銅として粒子状のものを使用する場合、粒子一つ一つの表面をコーティング剤によってコーティングすることが好ましい。コーティング剤によってコーティングすることにより、前記亜酸化銅の酸化を好適に防止できる。
【0066】
前記コーティング剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、グリセリン、ショ糖、レシチン等が挙げられる。これらコーティング剤については、一種単独又は二種以上を混合して使用できる。
【0067】
本発明の組成物は、前記亜酸化銅を、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)の合計量100重量部に対して100〜450重量部程度含むことが好ましく、200〜400重量部程度含むことがより好ましい。前記亜酸化銅を前記合計量100重量部に対して100〜400重量部程度含む場合、前記塗膜は、防汚効果を好適に発揮できる。
【0068】
本発明の組成物は、防汚効果の発揮を阻害しない範囲であれば、前記亜酸化銅以外の他の無機系防汚薬剤を更に含有してもよい。前記無機系防汚薬剤としては、例えば、チオシアン酸銅(一般名:ロダン銅)、キュプロニッケル、銅粉等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上で使用できる。
【0069】
《有機系防汚薬剤》
本発明の塗料組成物は、更に、有機系防汚薬剤を含むことが好ましい。前記有機系防汚薬剤としては、海棲汚損生物に対して殺傷又は忌避作用を有する物質であればよく、特に限定されない。例えば、2−メルカプトピリジン−N−オキシド銅(一般名:カッパーピリチオン)等の有機銅化合物、2−メルカプトピリジン−N−オキシド亜鉛(一般名:ジンクピリチオン)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート(一般名:ジネブ)、ビス(ジメチルジチオカルバミン酸)亜鉛(一般名:ジラム)、ビス(ジメチルジチオカルバメート)エチレンビス(ジチオカーバメート)二亜鉛(一般名:ポリカーバメート)等の有機亜鉛化合物;ピリジン・トリフェニルボラン、4−イソプロピルピリジル−ジフェニルメチルボラン、4−フェニルピリジル−ジフェニルボラン、トリフェニルボロン−n−オクタデシルアミン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン等の有機ボロン化合物;2,4,6−トリクロロマレイミド、N−(2,6ジエチルフェニル)2,3−ジクロロマレイミド等のマレイミド系化合物;その他、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3−イソチアゾロン(一般名:シーナイン211)、3,4−ジクロロフェニル−N−N−ジメチルウレア(一般名:ジウロン)、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン(一般名:イルガロール1051)、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル(一般名:クロロタロニル)、Nージクロロフルオロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N―p−トリルスルファミド(一般名:トリフルアニド)、Nージクロロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N−フェニルスルファミド(一般名:ジクロフルアニド)、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾ−ル(一般名:チアベンダゾール)、3−(ベンゾ〔b〕チエン−2−イル)−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン−4−オキシド(一般名:ベトキサジン)、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノー4−ブロモー5−トリフルオロメチル ピロール(一般名:Econea28)等が挙げられる。この中でも、カッパーピリチオン、ジンクピリチオン、ジネブ、シーナイン211及びイルガロール1051が好ましく、カッパーピリチオン及びシーナイン211がさらに好ましい。これらの有機系防汚薬剤は、前記亜酸化銅と併用して使用することにより更に防汚効果を高めるため、汚損生物の活性な海域においても、少量の使用で防汚効果を保つ事ができる。これらの有機系防汚薬剤は単独で又は2種以上を併用して使用できる。
【0070】
本発明の塗料組成物中における前記有機系防汚薬剤の含有量は、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)の合計量100重量部に対して、1〜50重量部程度が好ましく、10〜30重量部程度がより好ましい。1重量部未満の場合、前記有機系防汚薬剤による防汚効果を十分に発揮できない。50重量部を超える場合、前記有機系防汚薬剤の含有量を増加させることによる防汚効果の向上がみられず、経済的にムダである。
【0071】
《その他の添加剤等》
本発明の塗料組成物は、可塑剤、除水剤、分散剤、公知の顔料等の公知の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0072】
可塑剤を含有させることにより、前記塗料組成物の可塑性を向上させることができ、結果、強靱な塗膜を好適に形成できる。前記可塑剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート等の燐酸エステル類;ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステル類;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸エステル類;ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート等のセバシン酸エステル類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化油脂類;メチルビニルエーテル重合体、エチルビニルエーテル重合体等のアルキルビニルエーテル重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;その他、t-ノニルペンタスルフィド、ワセリン、ポリブテン、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、シリコーンオイル、流動パラフィン、塩素化パラフィン、エチレン性不飽和カルボン酸エステル重合体からなる高分子可塑剤等が挙げられる。この中でも好ましくは、トリクレジルフォスフェート、エポキシ化大豆油及びエポキシ化アマニ油である。特に好ましくは、エポキシ化大豆油及びエポキシ化アマニ油である。これらの可塑剤は、使用することにより塗膜物性を改良するだけで無く、耐水性を高め塗膜内への海水の浸透を防ぐため、高温海域でもクラックやブリスター等の塗膜異常を防ぐことが出来る。これらの可塑剤は単独又は2種以上で使用できる。
【0073】
本発明の組成物中における前記可塑剤の含有量は、前記銅塩(B)の含有量によるが、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部程度が好ましく、5〜30重量部程度がより好ましい。1重量部未満の場合、塗膜物性(強靱性、接着性)改良の効果が現れず、50重量部を超える場合、塗膜が軟弱となり実用に耐えなくなる。
【0074】
本発明の塗料組成物は、更に、除水剤を含むことが好ましい。前記除水剤は、前記塗料組成物中の水を除去するための薬剤である。除水剤としては、水結合剤及び脱水剤が挙げられる。水結合剤及び脱水剤については、それぞれ単独で使用してもよいし、両者を併用して使用してもよい。
【0075】
前記水結合剤とは、水と反応することにより塗料組成物中の水を除く性質を持つ化合物である。例えば、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル等のオルト蟻酸アルキルエステル類;テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラキス(2−エトキシブトキシ)シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のアルコキシシラン類;無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0076】
前記脱水剤とは、水を結晶水として取り込むことにより前記組成物中の水を除く性質を持つ化合物である。例えば、無水石膏、モレキュラーシーブ、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0077】
本発明の組成物中における前記除水剤の含有量は、特に限定されないが、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)の合計量100重量部に対して、1〜50重量部程度が好ましく、2〜30重量部程度がより好ましい。前記除水剤の含有量が、前記合計量100重量部に対して、1〜50重量部程度の場合、本発明の塗料組成物の貯蔵安定性がさらに向上する。
【0078】
本発明の防汚塗料組成物は、更に、分散剤(沈降防止剤)を含有することが好ましい。分散剤を含有させることにより、本発明の組成物の貯蔵中に、該組成物中の成分(例えば、前記亜酸化銅、下記顔料等)が沈降しハードケーキ(固い沈殿物)となるのを防止又は抑制できる。また、本発明の組成物を用いて被塗膜形成物の表面に塗膜を形成する際、前記組成物(塗料)が垂れるという問題を有効に解決できる。
【0079】
前記分散剤としては、例えば、酸化ポリエチレン系分散剤、脂肪酸アマイド系分散剤、脂肪酸エステル系分散剤、水添ひまし油系分散剤、植物重合油系分散剤、ポリエーテル・エステル型界面活性剤、硫酸エステル型アニオン系界面活性剤、ポリカルボン酸アミン塩系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、高分子ポリエーテル系分散剤、アクリル重合物系分散剤、特殊シリコン系分散剤、タルク系分散剤、ベントナイト系分散剤、カオリナイト系分散剤、シリカゲル系分散剤等が挙げられる。これら分散剤については単独で又は二種以上を併用して使用できる。本発明の塗料組成物は、前記分散剤として、脂肪酸アマイド系分散剤を含むことが好ましい。本発明の塗料組成物は、例えば、前記共重合体(A)等を含む混合液を調製した後、該混合液を混合分散する工程を経て製造される。前記混合液が前記脂肪酸アマイド系分散剤を含有する場合、該混合液の保存安定性を向上させることができ、より簡便且つ確実に本発明の組成物を得ることができる。
【0080】
前記分散剤には、市販のものを使用できる。例えば、脂肪酸アマイド系分散剤としては、例えば、ディスパロンA603−10X(又は20X)、ディスパロンA630−10X(又は20X)、ディスパロン6900−10X(又は20X)、ディスパロン6810−10X(又は20X)(いずれも楠本化成株式会社製)、ターレン7500−20、フローノンSP−1000(いずれも共栄社化学株式会社製)等を使用できる。中でも好ましくは、ディスパロンA603−10X(又は20X)である。これらの分散剤は、メタノールやエタノール等の親水性溶剤を含まないため、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を更に良好に保つことができる。
【0081】
前記分散剤は、キシレン等の疎水性有機溶剤に分散させて使用することもできる。
【0082】
本発明の塗料組成物中における前記分散剤の含有量は、特に制限されないが、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部程度が好ましく、2〜30重量部程度がより好ましい。前記分散剤の含有量が、前記合計量100重量部に対して1〜50重量部程度の場合、分散剤使用による効果(すなわち、ハードケーキ生成を抑制する効果)が好適に発揮され、本発明の塗料組成物の貯蔵安定性がさらに向上する。
【0083】
本発明の塗料組成物は、更に、公知の顔料を含むことが好ましい。顔料としては、例えば、酸化亜鉛、ベンガラ、タルク、酸化チタン、シリカ、ベントナイト、ドロマイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機顔料や赤色、青色等を呈する有機顔料が挙げられる。これら顔料は、1種又は2種以上で使用できる。
【0084】
本発明の塗料組成物中における前記顔料の含有量は、特に制限されない。例えば、前記酸化亜鉛の含有量は、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部程度が好ましく、10〜20重量部程度がより好ましい。前記酸化亜鉛の含有量が、前記合計量100重量部に対して1〜50重量部程度の場合、塗膜の溶解を促進し塗膜の更新性を高める効果がある一方、塗膜への海水の浸透が大きくなることによる高温海域での溶解コントロールが困難になるという弊害が生じない。
【0085】
その他、本発明の防汚塗料組成物には、必要に応じて、染料、色別れ防止剤、消泡剤等の塗料の添加剤として一般的に用いられているものをさらに含有させてもよい。
【0086】
本発明の塗料組成物は、通常、有機溶剤に溶解乃至分散させておく。これにより、塗料として好適に用いることができる。有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ミネラルスピリット、MIBK、酢酸ブチル等が挙げられる。この中でも特に、キシレン又はMIBKが好ましい。これら有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0087】
<防汚塗料組成物の製造方法>
本発明の防汚塗料組成物は、例えば、前記共重合体(A)、前記銅塩(B)、必要に応じて前記亜酸化銅や前記可塑剤等の公知の添加剤を溶剤中で混合することにより製造できる。
【0088】
前記共重合体(A)、前記銅塩(B)等の使用量は、それぞれ前記防汚塗料組成物中の前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)、前記銅塩(B)等の含有量となるように適宜調整すればよい。
【0089】
前記溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ミネラルスピリット、MIBK、酢酸ブチル等が挙げられる。この中でも特にキシレンが好ましい。これら溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0090】
混合する際、予め、前記共重合体(A)等の各種材料を溶剤に溶解乃至分散させておいてもよい。させることが好ましい。例えば、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)については、それぞれ溶剤に溶解乃至分散させた状態で他の材料(上記有機防汚薬剤等)とともに混合してもよい。溶剤としては、例えば、前記溶剤を用いればよい。
【0091】
混合には、例えば、公知の分散機を用いることができる。前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、ミルやディゾルバーが挙げられる。前記ミルとしては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、パールミル、ダイノーミル、カウレスミル、バスケットミル、アトライター等の一般的に塗料の混合分散用として用いられるミルを使用できる。前記ディゾルバーは、回転羽根式のグラインダーを備えた分散機であり、該グラインダーを回転させることにより前記混合液を混合分散できる。なお、前記ディゾルバーは、ディスパーと呼ばれることもある。
【0092】
亜酸化銅を含有させる場合、使用する亜酸化銅の平均粒径に応じて、亜酸化銅の添加順序や混合条件を変えることが望ましい。
【0093】
具体的に、亜酸化銅として、平均粒径3〜10μm程度、好ましくは3〜8μm程度の亜酸化銅を用いる場合、前記共重合体(A)、前記銅塩(B)、前記亜酸化銅、必要に応じて公知の添加剤を混合後、前記分散機により混合分散することが好ましい。
【0094】
平均粒径が3〜10μm程度の亜酸化銅は、二次凝集を起こしやすい。そのため、亜酸化銅を含む各材料を混合するだけでは、得られた組成物中にダマが生じ、結果、形成した塗膜にクラック等が生じるおそれがある。平均粒径が3〜10μm程度の亜酸化銅を含有する混合液を分散機を用いて混合し、該混合液中の亜酸化銅等を分散させることにより、二次凝集した亜酸化銅を破壊しつつ、前記亜酸化銅が好適に分散した防汚塗料組成物を得ることができる。
【0095】
前記分散機としてディゾルバーを使用する際、前記ディゾルバーのグラインダーを高速回転させることが好ましい。前記グラインダーを高速回転させることにより、二次凝集した亜酸化銅を好適に破壊することができる。
【0096】
一方、亜酸化銅として、平均粒径が10〜20μm程度、好ましくは13〜20μm程度の亜酸化銅を用いる場合、前記共重合体(A)、前記銅塩(B)、必要に応じて公知の添加剤を前記分散機により混合分散後、前記亜酸化銅を添加し混合することが好ましい。
【0097】
平均粒径が10〜20μm程度の亜酸化銅は、比較的二次凝集しにくい。そのため、前記共重合体(A)及び前記銅塩(B)を含有する混合液を分散機を用いて混合分散した後、得られた混合分散液に前記亜酸化銅を添加し、亜酸化銅粒子を出来る限り粉砕しないように、混合装置を用いて混合することが望ましい。この方法によれば、前記亜酸化銅をほとんど粉砕することがないので、得られる組成物中の前記亜酸化銅の表面積を比較的小さい範囲にとどめることができる。例えば、前記亜酸化銅の比表面積を1.3×10−3mm程度以下、好ましくは、3.0×10−4〜1.3×10−3mm程度にとどめることができる。前記亜酸化銅の表面積が小さいと、海水の温度が高い場合であっても、塗膜の溶解速度を効果的に抑えることができる。また、かかる方法によれば、前記分散機による処理時間を短縮でき、本発明の組成物の製造コストを抑えることができる。
【0098】
なお、前記分散機としてディゾルバーを使用する際、前記グラインダーを中速又は低速回転させることが好ましい。中速又は低速回転させることにより、前記亜酸化銅の粉砕を効果的に防止できる。
【0099】
<防汚処理方法、防汚塗膜、及び塗装物>
本発明の防汚処理方法は、前記防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成することを特徴とする。本発明の防汚処理方法によれば、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、塗膜を溶解させた後、上記組成物を上塗りすることにより、継続的に防汚効果を発揮することができる。
【0100】
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用又は定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。特に、本発明の防汚処理方法は、前記防汚塗料組成物の温度依存性が低いことから、様々な海域を航行する船舶の船底に対する防汚処理に適用される。
【0101】
本発明の防汚塗膜は、上記防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。
【0102】
塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。
【0103】
塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、塗膜の厚み等に応じて適宜設定すればよい。
【0104】
前記防汚塗膜の厚みは、被塗膜形成物の種類、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が船舶の船底の場合、防汚塗膜の厚みは通常50〜500μm、好ましくは100〜400μmである。
【0105】
本発明の防汚塗膜は、1)耐水性に優れているため、海水と長期間接触しても、クラック、ハガレ等が生じにくい、2)適度な硬さを有するため、コールドフロー等の塗膜異常を起こしにくい、3)被塗膜形成物に対する接着性が高い、且つ、4)海水温度が高い場合であっても、塗膜溶解量が安定しているため、海水温度の高い海域(例えば、30〜35℃の海域)を航行する場合であっても、長期間、防汚性能を維持できるという利点を有する。
【0106】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【0107】
本発明の塗装物は、上記1)〜4)の利点を有する防汚塗膜を備えているため、上記船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等として好適に使用できる。
【0108】
例えば、船舶の船底表面に上記防汚塗膜を形成した場合、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
【0109】
しかも、前記防汚塗膜は、海水中における加水分解速度が好適に抑制されている。そのため、該船舶は、防汚性能を長期間維持でき、例えば、停泊中、艤装期間中等の静止状態においても、水棲汚損生物の付着・蓄積がほとんどなく、長期間、防汚効果を発揮できる。
【0110】
また、長時間経過後においても、表面の防汚塗膜には、基本的にクラックやハガレが生じない。そのため、塗膜を完全に除去した後あらためて塗膜を形成する等の作業を行う必要がない。よって、上記防汚塗膜組成物を直接上塗りすることにより好適に防汚塗膜を形成できる。これにより、簡便にかつ低コストでの継続的な防汚性能の維持が可能になる。
【発明の効果】
【0111】

本発明の防汚塗料組成物は、防汚性能を有効に発揮することにより、水棲汚損生物の付着を抑制又は防止できる防汚塗膜を形成できる。 本発明の防汚塗料組成物によれば、海水温度が高い場合であっても、塗膜の加水分解速度を好適に抑制できる。そのため、前記組成物により形成された塗膜は、海水温度の高い海域を航行する場合であっても、長期間、安定した防汚性能を維持することができる。特に、本発明の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜は、高い海水温度(35℃程度)での塗膜溶解量が、通常の海水温度(25℃程度)での塗膜溶解量とほぼ同じである。すなわち、前記防汚塗膜は、温度依存性が低い。従って、本発明の組成物によれば、塗膜設計を容易に行うことができる。
【0112】
また、本発明の組成物は、長期保存性に優れている。すなわち、本発明の組成物は、長期間保存しても、増粘したり、ゲル化・固化することがほとんどない。さらに、本発明の防汚塗料組成物は、環境安全性が高く、海水中に溶解しても、海洋汚染の問題がほとんどない。
【0113】
本発明の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜は、1)耐水性に優れているため、海水と長期間接触しても、クラック、ハガレ等が生じにくい、2)適度な硬さを有するため、コールドフロー等の塗膜異常を起こしにくい、3)被塗膜形成物に対する接着性が高い、且つ、4)海水温度が高い場合であっても、塗膜溶解量が安定しているため、海水温度の高い海域を航行する場合であっても、長期間、防汚性能を維持できるという利点を有する。
【0114】
本発明の塗装物は、上記船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等として好適に使用できる。例えば、船舶の船底表面に上記防汚塗膜を形成した場合、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
【0115】
しかも、前記防汚塗膜は、適度な溶解性を有する。そのため、該船舶は、防汚性能を長期間維持できる。特に、該船舶は、水温の高い海域を航行する場合であっても、塗膜溶解速度が安定しているため、長期間、防汚効果を発揮できる。また、該船舶は、停泊中、艤装期間中等の静止状態においても、水棲汚損生物の付着・蓄積がほとんどなく、長期間、防汚効果を発揮できる。これにより、船舶の摩擦抵抗が減少し、航行時における燃料の節約が期待できる。
【0116】
また、表面の防汚塗膜には、長時間経過後においても、基本的に塗膜欠陥が発生しない。そのため、前記塗装物を一定期間使用後、上記防汚塗膜組成物を直接上塗りすることにより好適に防汚塗膜を形成できる。これにより、簡便にかつ低コストでの継続的な防汚性能の維持が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0117】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
【0118】
各製造例、比較製造例、実施例及び比較例中の%は重量%を示す。粘度は、25℃での測定値であり、B形粘度計により求めた値である。数平均分子量(Mw)は、GPCにより求めた値(ポリスチレン換算値)である。GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・ 東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム・・・ TSKgel SuperHZM-M 2本
流量・・・ 0.35 mL/min
検出器・・・ RI
カラム恒温槽温度・・・ 40℃
遊離液・・・ THF
加熱残分は、110℃で3時間加熱して求めた値である。
【0119】
また、表1中の各成分の配合量の単位はgである。
【0120】
製造例1(共重合体溶液(A)、S−1の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機及び滴下ロートを備えた1000mlのフラスコに、キシレン230gを仕込んだ後、窒素雰囲気下、100±2℃で攪拌しながら、メタクリル酸トリイソプロピルシリル230g、メタクリル酸メトキシエチル210g、メタクリル酸メチル30g、 アクリル酸エチル30g、及びt-ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4g(初期添加)の混合液を1時間かけて滴下した。滴下後、100±2℃で2時間重合反応を行った。次いで、反応液を100±2℃にて攪拌しながら、t-ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1g(後添加)を2時間毎に3回添加して重合反応を行った後、キシレン270gを添加し溶解させることにより、トリオルガノシリルエステル含有共重合体溶液S−1を得た。S−1の粘度、加熱残分、Mw及びTgを表1に示す。
【0121】
製造例2〜6、比較製造例1〜4(共重合体溶液S−2〜6及び比較共重合体溶液H−1〜4の製造)
表1に示す有機溶剤、単量体及び重合開始剤を用いて、製造例1と同様の操作で重合反応を行うことにより、トリオルガノシリルエステル含有共重合体溶液S−2〜6及び比較共重合体溶液H−1〜4を得た。得られた各共重合体溶液の粘度、加熱残分、Mw及びTgを表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
製造例7(ガムロジン銅塩の製造)
温度計、還流冷却器及び撹拌機を備えた1000mlのフラスコに、中国ガムロジン(WWロジン、酸価172)のキシレン溶液(固形分50%)400g、亜酸化銅200g及びメタノール100gにガラスビーズ(直径2.5〜3.5mm)を加え、70〜80℃で8時間撹拌した後、50℃で2日間保温した。次いで、得られた混合溶液を室温(25℃)まで冷却し濾過した後、減圧濃縮を行うことによりメタノール分を留去した。そして、得られた濃縮液にキシレンを加えることにより、ガムロジン銅塩のキシレン溶液(濃青色透明溶液、固形分約50%)を得た。得られたガムロジン銅塩のキシレン溶液の加熱残分は50.8%であった。
【0124】
製造例8(水添ロジン銅塩の製造)
温度計、還流冷却器及び撹拌機を備えた1000mlのフラスコに、水添ロジン(商品名「ハイペールCH」荒川化学工業製、酸価163 mgKOH/g)のキシレン溶液(固形分50%)400g、亜酸化銅200g、メタノール100g及びガラスビーズ(直径2.5〜3.5mm)を加え、70〜80℃で8時間撹拌した後、50℃で2日間保温した。次いで、得られた混合溶液を室温(25℃)まで冷却し濾過した後、減圧濃縮を行うことによりメタノール分を留去した。そして、得られた濃縮液にキシレンを加えることにより、水添ロジン銅塩のキシレン溶液(濃青色透明溶液、固形分約50%)を得た。得られた水添ロジン銅塩のキシレン溶液の加熱残分は50.3%であった。
【0125】
製造例9(不均化ロジン銅塩の製造)
温度計、還流冷却器及び撹拌機を備えた1000mlのフラスコに、不均化ロジン(商品名「ロンヂスR」荒川化学工業製、酸価157 mgKOH/g)のキシレン溶液(固形分50%)400g、亜酸化銅200g、メタノール100g及びガラスビーズ(直径2.5〜3.5mm)を加え、70〜80℃で8時間撹拌した後、50℃で2日間保温した。次いで、得られた混合溶液を室温(25℃)まで冷却し濾過した後、減圧濃縮を行うことによりメタノール分を留去した。そして、得られた濃縮液にキシレンを加えることにより、不均化ロジン銅塩のキシレン溶液(濃青色透明溶液、固形分約50%)を得た。得られた不均化ロジン銅塩のキシレン溶液の加熱残分は50.2%であった。
【0126】
実施例1、4、7、8及び比較例1〜4(塗料組成物の製造)
共重合体として、製造例1〜6で得た共重合体溶液S−1、S−2、S−4又は比較製造例1〜4で得た比較共重合体溶液H−1〜4を、ロジン銅塩類として、製造例7〜9で得たガムロジン銅塩、水添ロジン銅塩又は不均化ロジン銅塩のキシレン溶液(固形分約50%)を、亜酸化銅として、平均粒径3μm又は6μmの亜酸化銅を、更に、表2に記載の有機系防汚薬剤、顔料、添加物、溶剤を、表2に示す割合(重量部)で配合し、直径1.5〜2.5mmのガラスビーズと混合分散することにより塗料組成物を製造した。
【0127】
実施例2,3、5、6(塗料組成物の製造)
共重合体として、製造例2、3、5、6で得た共重合体溶液S−2、S−3、S−5、S−6を、ロジン類として、製造例8で得られた水添ロジン銅塩のキシレン溶液(固形分約50%)又は製造例9で得られた不均化ロジン銅塩のキシレン溶液(固形分約50%)を、更に、表2に記載の防汚薬剤、顔料、添加物、溶剤を、表2に示す割合(重量%)で配合し、直径1.5〜2.5mmのガラスビーズと混合分散し、得られた混合物に平均粒径13μm又は19μmの亜酸化銅を添加し攪拌羽にてゆっくりと攪拌することにより塗料組成物を調製した。
【0128】
【表2】

【0129】
試験例1(塗料の安定性試験)
実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、100mlの広口ブリキ缶に入れ密封し、40℃の恒温器に1ヶ月間保存した後、該塗料組成物の粘度をB形粘度計で測定した。
【0130】
評価は以下の方法で行った。
【0131】
◎:塗料の粘度変化が500mPa・s/25℃未満のもの(塗料状態が殆ど変化しなかったもの)
○:塗料の粘度変化が500〜5000mPa・s/25℃のものを(わずかに増粘したもの)
△:塗料の粘度変化が5000mPa・s/25℃超〜100000mPa・s/25℃のもの(大きく増粘したもの)
×:塗料粘度が測定不能まで変化したもの(ゲル状になったもの又は固化したもの)
結果を表3に示す。
【0132】
表3から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗料は、保存安定性が良好であることが分かる。
【0133】
試験例2(塗膜硬度)
実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう透明ガラス板(75×150×1mm)上に塗布し、40℃で1日間乾燥させた。得られた乾燥塗膜の塗膜硬度を、25℃下、振り子式硬度計(ペンジュラム硬度計)を用いて測定した。結果(カウント数)を表3に示す。カウント数20〜50が実用上好ましい。
【0134】
表3から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、適度な
硬さを有することがわかる。
【0135】
試験例3(塗膜の付着性試験)
JIS K−5600-5-6の規定に従って、塗膜の付着性試験を行った。具体的には、実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、それぞれブラスト仕上げをしたブリキ板(75×150×2mm)上に、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう塗布し40℃で1日乾燥させた後、付着性試験を行った。
【0136】
評価は以下の方法で行った。
(1)テープ処理前の評価
乾燥後の塗膜にカッターで、下地(ブリキ板)に達する縦横各11本の傷をごばん目状に入れて2mm角のマス目を100個作製した。このごばん目部における塗膜の付着状態を目視で調べた。
【0137】
◎:剥離しなかったごばん目の数が70〜100個の場合
○:剥離しなかったごばん目の数が40〜69個の場合
△:剥離しなかったごばん目の数が20〜39個の場合
×:剥離しなかったごばん目の数が0〜19個の場合
(2)テープ処理後の評価
前記(1)の評価後、前記100個のマス目にセロハンテープ(ニチバン(株)製 テープ幅24mm)を気泡の入らないように張りつけ、このテープの一端を手に持って急速にはがして、塗膜の付着状態を目視で調べた。
【0138】
◎:剥離しなかったごばん目の数が70〜100個の場合
○:剥離しなかったごばん目の数が40〜69個の場合
△:剥離しなかったごばん目の数が20〜39個の場合
×:剥離しなかったごばん目の数が0〜19個の場合
結果を表3に示す。
【0139】
表3から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、ブリキ板に対して強固に接着することがわかる。
【0140】
試験例4(塗膜の屈曲性試験)
実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、ブラスト仕上げをしたブリキ板(75×150×2mm)に、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう塗布し40℃で1日間乾燥させた後、90度に折り曲げ塗膜の状態を肉眼観察により確認した。
【0141】
評価は以下の方法で行った。
【0142】
◎:殆どクラックが生じなかったものを、
○:微細なクラックが生じたもの
△:大きなクラックが生じたもの
×:塗膜の一部が容易に剥離したもの
結果を表3に示す。
【0143】
表3から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、耐屈曲性に優れていることがわかる。
【0144】
試験例5(塗膜の耐水性試験)
すりガラス板(75×150×1mm)上に、防錆塗料(ビニル系A/C)を乾燥後の厚みが約50μmとなるよう塗布し、乾燥させることにより防錆塗膜を形成した。その後、実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、前記防錆塗膜の上に、乾燥塗膜としての膜厚が約100μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を40℃で1日間乾燥させることにより厚みが約100μmの乾燥塗膜を有する試験片を作製した。試験片を35℃の天然海水中に3ヶ月間、浸漬した後、塗膜の状態を肉眼観察により確認した。
【0145】
評価は以下の方法で行った。
【0146】
◎:塗膜に変化がないもの
○:わずかに変色したもの
△:わずかにブリスターが生じたもの
×:クラック、膨潤、剥離等の異常が確認できるもの
結果を表3に示す。
【0147】
表3から、本発明の塗膜組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、耐水性に優れていることがわかる。
【0148】
【表3】

【0149】
試験例6(塗膜の溶解性試験:ロータリー試験)
水槽の中央に直径515mm及び高さ440mmの回転ドラムを取付け、これをモーターで回転できるようにした。また、海水の温度を一定に保つための冷却装置、及び海水のpHを一定に保つためのpH自動コントローラーを取付けた。
【0150】
試験板を下記の方法に従って2つ作製した。
【0151】
まず、硬質塩ビ板(75×150×1mm)上に、防錆塗料(ビニル系A/C)を乾燥後の厚みが約50μmとなるよう塗布し乾燥させることにより防錆塗膜を形成した。その後、実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、それぞれ前記防錆塗膜の上に、乾燥後の厚みが約300μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を40℃で3日間乾燥させることにより、厚みが約300μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。
【0152】
作製した試験板のうちの一枚を上記装置の回転装置の回転ドラムに海水と接触するように固定して、20ノットの速度で回転ドラムを回転させた。その間、海水の温度を25℃、pHを8.0〜8.2に保ち、一週間毎に海水を入れ換えた。
【0153】
各試験板の初期と試験開始後3ケ月毎の残存膜厚をレーザーフォーカス変位計で測定し、その差から溶解した塗膜厚を計算することにより1ヶ月あたりの塗膜溶解量(μm/月)を得た。なお、前記測定は24ヶ月間行われ、前記塗膜溶解量を12ヶ月経過ごとに算出した。
【0154】
結果を表4に示す。
【0155】
表4から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、海水中での溶解量が、1ヶ月当たり2〜5μm程度(年平均)であることがわかる。更に、本発明の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、塗膜溶解速度がある程度抑制されているため、長期間安定して溶解していることがわかる。
【0156】
一方、比較例1、3の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、海水中での塗膜の溶解速度が高く、塗膜溶解量が安定していない。
【0157】
また、比較例2の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、海水中での塗膜の溶解速度が低いため、防汚性能を十分に発揮できない。
【0158】
さらに、比較例4の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、海水中での塗膜への水の浸透が大きく、その結果、クラックやハガレが生じたため、塗膜溶解量の測定ができなかった。
【0159】
【表4】

【0160】
試験例7(塗膜溶解量の温度依存係数)
直径75mm×高さ150mmの円筒(ポリカーポネート製)の外部表面に、実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、それぞれ乾燥塗膜として約200μmの厚さになるように塗布し、40℃で24時間真空乾燥することにより、試験用円筒を作製し、その重量を測定した。
【0161】
得られた試験用円筒をスリーワンモーターに垂直に取付け、水槽内で回転できるようにセットし、さらに、試験用円筒全体が漬かるように、水槽内に人口海水(アクアマリン:八洲)薬品株式会社製人口海水)を入れることにより、試験装置を作製した。前記試験装置は2セット用意し、一方は水温を25℃に、他方は水温を35℃に維持した。本試験では、前記試験用円筒を200rpmの速さで回転させた。人口海水は2週間ごとに交換した。
【0162】
12ヶ月経過後、試験円筒を取り出し、40℃で24時間真空乾燥後、試験円筒の重量を測定し、12ヶ月間の塗膜の減少量(重量)から35℃での塗膜溶解量と25℃での塗膜溶解量を求め、以下の式により各防汚塗膜の温度依存係数を算出した。
【0163】
35℃の海水中における塗膜溶解量(重量)
温度依存係数= ――――――――――――――――――――――――
25℃の海水中における塗膜溶解量(重量)
結果を表5に示す。
【0164】
表5から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、温度依存係数が1.3以下であり、溶解量が基本的に温度に依存しないことがわかる。
【0165】
一方、比較例1、3の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、温度依存係数が1.5を超え、溶解量が温度に依存することがわかる。
【0166】
また、比較例2の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、海水中での溶解量が少ないため、防汚性能を十分に発揮できない。
【0167】
さらに、比較例4の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、海水中での塗膜への水の浸透が大きく、その結果、クラックやハガレが生じたため、塗膜溶解量の測定ができなかった。
【0168】
【表5】

【0169】
試験例8(防汚試験)
実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた塗料組成物を、硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を室温(25℃)で3日間乾燥させることにより、厚みが約200μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。この試験板を三重県尾鷲市の海面下1.5mに浸漬して付着物による試験板の汚損を24ケ月観察した。
【0170】
結果を表6に示す。
【0171】
なお、表中の数字は汚損生物の付着面積(%)を表す。
【0172】
表6から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜には、ほとんど水棲汚損生物が付着していないことがわかる。これは、本発明の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、加水分解速度がある程度抑制されており、一定の速度で長期間安定して溶解するためである。
【0173】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)一般式(1):
【化1】

(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、炭素数3〜6のα位が分岐したアルキル基若しくはフェニル基を示す)で表わされるメタクリル酸トリオルガノシリルエステル単量体と、
(b)下記一般式(2):
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す)で表わされるメタクリル酸メトキシアルキルエステル単量体との混合物から得られるトリオルガノシリルエステル含有共重合体であって、
該混合物中における該単量体(a)の含有量が45〜65重量%であり、且つ、該混合物中における該単量体(a)と該単量体(b)との合計含有量が80重量%以上であるトリオルガノシリルエステル含有共重合体、並びに
(B)ロジン銅塩及びロジン誘導体の銅塩から選ばれる少なくとも1種の銅塩
を含有することを特徴とする防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記防汚塗料組成物が、25℃の海水中における塗膜溶解量が1ヶ月当たり2μm以上で、且つ、塗膜溶解量の温度依存係数(35℃の海水中における塗膜溶解量/25℃の海水中における塗膜溶解量)が1.3以下である防汚塗膜を形成する請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)の重量平均分子量が、20,000〜70,000である請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)と前記銅塩(B)との含有割合が、重量比(前記共重合体(A)/前記銅塩(B))で80/20〜20/80である請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記トリオルガノシリルエステル含有共重合体(A)と前記銅塩(B)との含有割合が、重量比(前記共重合体(A)/前記銅塩(B))で60/40〜40/60である請求項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
【請求項8】
請求項7に記載の防汚塗膜を表面に有する塗装物。

【公開番号】特開2010−144106(P2010−144106A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324751(P2008−324751)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】