説明

防汚性及び吸水拡散性に優れた織編物、及び繊維製品

【課題】天然セルロース繊維そのものが潜在的に有している優れた防汚性、吸水拡散性を発揮する織物を提供する。
【解決手段】織物又は編物において、オレイン酸を1滴滴下後1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)洗濯、乾燥後のグレースケール判定が4級以上となるように、天然セルロース繊維から夾雑物を除くとともに、セルロースの吸水性を阻害するような処理剤を使用しないで、セルロース本来の吸水性が発現した織物又は編物を作製し、仕上げる。そのような織物は、0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が30秒以下であり、1分後の吸水拡散面積が20cm以上であるような高い吸水拡散性を示し、また、編物は、0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が5秒以下であり、1分後の吸水拡散面積が10cm以上であるような高い吸水拡散性を示し、高い防汚性とともに、優れた吸汗速乾性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性及び吸水拡散性に優れた織編物、及び繊維製品に関し、詳しくは、肌触り等の風合いをコントロールしつつ、優れた防汚性及び吸水拡散性を付与した織編物、及びそれらを素材とした繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維又は繊維製品の防汚性向上に関して様々な提案が行われてきた。近年には、例えば、綿素材に対して、モノマーをグラフト重合させ肌着の黄変を抑制する綿素材の加工法が知られている(特許文献1)。又、繊維又は繊維製品に親水化処理を施すことにより、洗剤を用いずに洗濯を行った場合であっても、洗剤を用いた場合とほぼ同等の洗浄効果が得られるという機能を付与することができる無洗剤洗濯機能を付与する方法、及び洗剤を用いずに洗濯できる繊維製品が知られている(特許文献2)。
【0003】
一方、布帛等の繊維材料は、通常必要に応じて、糊抜、精練、および漂白等の処理に付され、さらにシルケットおよび染色等の処理に付されることが多い。未加工の綿繊維等の天然セルロース繊維は、二次細胞膜、およびこの膜をワインディング層を介して覆う一次細胞膜から構成される。一次細胞膜はワックス、ペクチン及びタンパク質を主成分とするクチクル層と網状層とからなる。二次細胞膜はセルロース層で構成されている。一次細胞膜がセルロースが本来有する吸水性を阻害するために、未加工の天然セルロース繊維の吸水性はそれほど高くない。
【0004】
そこで、精練工程では、主として吸水性及び染色性を向上させることを目的として、一次細胞膜および他の夾雑物を除去する処理が行われる。この精練工程の前に糊抜を、精練工程の後に脱色を目的とする漂白等の処理を、個別に又は同時に行うこともある。天然セルロース繊維布帛の精練工程では、水酸化ナトリウムなどの化学薬品及び界面活性剤を用いて精練用の溶液を調製してこの溶液に布帛を浸漬し、さらに高温下で脱脂処理する等の処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−3872号公報
【特許文献2】WO2005/005711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
木綿等の天然セルロース繊維は、例えば、ポリエステル繊維等の合成繊維と比較して、高い吸水性を有するとされている。これは、精練工程で、一次細胞膜を取り除くことによって、吸水性が向上することによる。しかし、前述のとおり、従来、繊維又は繊維製品にモノマーをグラフト重合させる、あるいは親水化処理を施すことによって、防汚性に優れた布帛を提供しようとする試みがなされていた。このことは、精練工程後またはその後の全ての各種処理後(例えば染色後)の天然セルロース繊維の吸水性(または親水性)が、防汚性という観点から、なお不十分であったことを意味する。
【0007】
一方、近年、自然志向および環境保護意識の高まりから、一般消費者は、天然素材から成る製品を、その変化ができるだけ少ない状態で(即ち、より自然に近い状態で)入手することを求めることがある。前述のグラフト重合及び親水化処理は、素材の一部の改変または改質を伴うため、この要求には、必ずしも合致していない。そこで、本発明者らは、グラフト重合、またはコーティングのような、親水基または親水性分子の導入を伴う親水化処理によらず、防汚性を向上させた木綿等の天然セルロース繊維から成る織物および編物を提供することを検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述のとおり、木綿等の天然セルロース繊維は、それ自体、吸水性を有している。しかし、その吸水性は、実際の製品において、必ずしも十分に発揮されていない可能性があると、本発明者らは考えた。実際、天然セルロース繊維から成る製品の表面を分析し、あるいは原綿、原糸、製織(編)、加工の全工程で使用する処理剤の成分等を考慮すると、繊維のセルロースが、精練加工で除去されなかった夾雑物、及び/又は他の物質で覆われて、セルロースと水との接触が阻害され、それにより吸水性が低下している可能性があった。そこで、本発明者らは、天然セルロース繊維そのものが潜在的に有している特徴を高めることによって、防汚性に優れた布帛を提供するべく、鋭意研究した。なお、これまでに、そのような提案は具体的になされていない。
【0009】
本発明者らは、セルロース繊維織物又は編物の吸水性を、織成または編成後の精練工程等において極度に向上させ、かつその状態を全ての加工工程にて維持することにより、優れた防汚性、吸水拡散性を発揮する織物又は編物が得られることを見出し、さらに織物又は編物のカバーファクターを所定値以下とすることによって、より高度な防汚性を発揮する織物又は編物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、第1の要旨において、セルロース繊維を含む織物であって、オレイン酸を1滴滴下後1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)洗濯、乾燥後のグレースケール判定(JIS L0805:2005)が4級以上である、及び/又は0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が30秒以下で、1分後の吸水拡散面積が20cm以上であるような吸水性を有し、かつ親水基または親水性分子をセルロース分子に導入する親水化処理が施されていない防汚性に優れた織物を提供する。
【0011】
本発明は、第2の要旨において、セルロース繊維を含む編物であって、オレイン酸を1滴滴下後1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)洗濯、乾燥後のグレースケール判定(JIS L0805:2005)が4級以上である、及び/又は0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が5秒以下で、1分後の吸水拡散面積が10cm以上であるような吸水性を有し、かつ親水基または親水性分子をセルロース分子に導入する親水化処理が施されていない防汚性に優れた編物を提供する。
【0012】
本発明は、第3の要旨において、天然セルロース繊維を含む織物であって、樹脂分を0.55質量%以下、ペントサンを0.40質量%以下含む、防汚性に優れた織物を提供する。
【0013】
本発明は、第4の要旨において、天然セルロース繊維を含む編物であって、樹脂分を0.55質量%以下、ペントサンを0.40質量%以下含む、防汚性に優れた編物を提供する。
【0014】
第3の要旨の織物は、0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が30秒以下で、1分後の吸水拡散面積が20cm以上であるような吸水性を有することが好ましい。また、第4の要旨の編物も、0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が5秒以下で、1分後の吸水拡散面積が10cm以上であるような吸水性を有することが好ましい。
【0015】
第1および第3の要旨の織物において、カバーファクター(織)は、42以下であることが好ましい。また、第2および第4の要旨の織物において、カバーファクター(編)は2.2以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、前記第1〜第4の要旨に係る織物または編物から形成される繊維製品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の織物又は編物は、オレイン酸等の油性汚れに対して優れた防汚効果を発揮するとともに、良好な吸水拡散性に由来して、優れた吸汗速乾性をも示す。又、本発明の繊維製品は、防汚性に優れた織物又は編物から形成されることにより、少ない洗剤で、繊維製品の黄ばみや黒ずみの原因となる皮脂汚れを追い出す効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明について項目毎に具体的に説明する。
【0019】
本発明の第1の要旨および第2の要旨において用いるセルロース繊維には、綿および麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、テンセル、およびリヨセル等の再生セルロース繊維等が含まれる。本発明の第3の要旨および第4の要旨において用いるセルロース繊維は、天然セルロース繊維である。いずれの要旨においても、セルロース(または天然セルロース繊維)のみで、織物又は編物を構成しても良いし、これらを二種以上組み合わせた混紡繊維を、用途に応じて適宜、選択することもできる。あるいは、セルロース繊維と他の繊維(例えば合成繊維)とを組み合わせて使用してよい。本発明のいずれの要旨においても、織物および編物は、(天然)セルロース繊維として綿(木綿、コットン)を含むことが好ましく、綿のみで構成されることがより好ましい。
【0020】
本発明の織物および編物のいずれにおいても、それらが後述の防汚性および/または吸水性を有し、あるいは所定量以下の樹脂分およびペントサンを有する限りにおいて、用いる糸の種類、番手、および織組織または編組織は特に限定されない。
【0021】
本発明の第1および第2の要旨において、防汚試験液として、人体分泌物の代用として使われているオレイン酸を用いたときの防汚性を特定している。試験に際しては、判定が容易なように、オレイン酸を着色している。即ち、オレイン酸を、油溶性色素で、赤や黄色等に着色したものを試験液として用いている。具体的には、オレイン酸にオイルレッドを0.005質量%含有させたものを用いている。防汚試験は、上記防汚試験液を織物又は編物に1滴滴下後1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)洗濯、乾燥させ、JIS L0805:2005に従って、グレースケール判定にて評価する。
【0022】
本発明の織物および編物はいずれも、4級以上と判定される防汚性を有する。この評価方法については、後述する。よって、本発明の織物および編物に付着した汚れは、少ない量の洗剤で取り除く(即ち、織物又は織物から追い出す又は放つ)ことができる(本明細書において、汚れの取り除きやすさは、「汚れリリース(release)性」とも称する)。例えば、取り除く汚れがオレイン酸であると、洗剤なしの場合でも、本発明の織物および編物は、標準指定の量を使用して洗濯した場合と同様の汚れリリース性を示し得、もって優れた防汚性を奏し得る。また、オレイン酸以外にも、ソース、マヨネーズ、ラー油等の防汚試験液を油性汚れに対する防汚性を評価するために用いることができ、醤油、コーヒー、紅茶等の防汚試験液を水性汚れに対する防汚性を評価するために用いることができる。
【0023】
本発明のいずれの要旨においても、セルロース繊維本来の吸水性を利用して、防汚性を向上させている。よって、本発明の織物および編物を構成するセルロース繊維は、セルロース分子の一部の変性、またはセルロース分子へのモノマーのグラフト重合等の、親水性基または親水性分子を導入する親水化処理に付されていない。そのことは、例えば、紡糸前の原綿、または織成もしくは編成前の糸、または未加工の織物もしくは編物(生機とも呼ばれる)のカルボキシメチル化度(モル%)と、本発明の織物もしくは編物のそれとを比較することによって、確認され得る。両者においてカルボキシメチル化度の差が実質的に無ければ(具体的には、差が0.1モル%未満である場合)、その織物は、少なくともカルボキシメチル基を導入する親水化処理に付されていないといえる。同様に、親水性を付与するために導入される他の基および分子の量(または割合、重合率等)について、原綿、糸、または生機と、本発明品とを比較することによって、そのような親水化処理の有無を確認することができる。
【0024】
一般に、セルロース繊維は、繊維を構成するセルロース分子中にカルボキシメチル基(塩を含む)、アミノ基、スルホン基およびカルボキシル基(塩を含む)のような親水性の極性基を有しておらず、あるいは僅かな極性基を有している。これらの基は、セルロースのOH基が反応することによって、セルロース分子中に導入される。よって、製品を構成するセルロース繊維において、OH基が全く置換されていないと仮定したときのOH基の数に対する、これらの基の数の比を算出すれば、親水化処理の有無をおおよそ判別できる。例えば、前述のカルボキシメチル化度は、特許文献2に記載の手順、具体的には、下記の手順に従って求めることができる。求めたカルボキシメチル化度が0.3モル%未満であれば、その試料は、カルボキシメチル基を導入する親水化処理に付されたものではないといえる。
【0025】
<カルボキシメチル化度(カルボキシル基を含む)の求め方>
試料を、0.3Nの塩酸に、浴比1:50、液温20℃の条件で1時間浸漬して全COO基をCOOH基とし、脱水し、乾燥して残留HClを除去し、約4gをサンプリングして絶乾重量(W(g))を秤量する。次いで、絶乾重量を秤量した試料を、精秤した0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液50mL(B(mL))に浸漬して液温20℃で1晩放置することにより、全COOH基をCOONaに置換する。更に、置換に使用されたNaを定量するため、0.1N塩酸を使用して液を滴定し、滴定値をX(mL)とする。指示薬としてはフェノールフタレインを使用することができる。カルボキシメチル化度は、セルロース系繊維等の絶乾重量(W(g))、水酸化ナトリウム水溶液の体積(B(mL))、滴定に要した塩酸の体積(X(mL))から、下記式に従って算出する。
カルボキシメチル化度(モル%)=162.14×(B−X)÷[10000W−59.04×(B−X)]÷3×100
【0026】
あるいは、セルロース本来の吸水性を利用することは、天然セルロース繊維に付着している夾雑物をできるだけ少なくすることによって、達成されるともいえる。天然セルロース繊維に付着している夾雑物は、リグニン等の樹脂成分、およびペントサン(ヘミセルロース)等である。本発明の織物および編物は、繊維性能を著しく低下させないことを条件として、これらの夾雑物を、原綿の状態において、又は糸の段階において、又は織物、編物を作製した後で、精練(具体的には、アルカリおよび/または過酸化水素による処理)等によって可能な限り少なくした天然セルロース繊維で構成されている。そのことは、本発明の第3および第4の要旨において、「樹脂分を0.55質量%以下、ペントサンを0.40質量%以下含む」という事項によって特定されている。
【0027】
セルロース繊維中の樹脂分の割合は、溶解パルプ試験方法の樹脂分(JIS P8011 5.11:1976)に準じて測定することができる。セルロース繊維中のペントサンの割合は、溶解パルプ試験方法のペントサン(JIS P8011 5.11:1976)に準じて測定することができる。これらの試験方法による具体的な測定手順は下記のとおりである。これらの試験方法により樹脂分およびペントサンの割合を求めるときは、本発明の織物、編物またはこれらから成る製品を、JIS L1030−2:2005に規定する前処理に付して、精練処理後の加工で使用した薬剤がそれらの測定結果に与える影響を無くす、又は少なくする。
【0028】
<樹脂分試験方法>
1)抽出準備をする。
ドラフト室の湯煎器温度を約90℃に加熱し、抽出装置、抽出液を準備する。
2)供試液を採取する。
1×1に裁断した風乾試料約11gを精ひょうして、ソックスレー抽出器に入れる(試料採取量Sg)。
別に供試料約3gについて水分を測定して、絶乾比を求め、試料の絶乾量を算出する(絶乾比=P)。
3)樹脂分を抽出する。
i)抽出フラスコに抽出液(アルコール・ベンゼン混合溶剤)を150−170ml入れる。
ii)上記i)で準備した抽出装置に取り付けて抽出を始める。
iii)6時間抽出する。
抽出速度は、抽出液が10分間に1回還流する程度とする。
4)抽出を終了する。
i)抽出管を取り外し、管内に残留している抽出液をビーカー(2L)に回収する。
ii)再び抽出管と抽出フラスコを取り付けて加温し、フラスコの抽出液が抽出管に約半分残る程度まで蒸発させる。
iii)抽出管を取り外し、管内の残留抽出液をi)のビーカー(2L)に回収する。(新鮮抽出液として再使用する。)
5)抽出液を揮発させる。
抽出管を取り外したまま抽出フラスコを湯煎器で加温し、抽出液が約10mlになるまで揮発させる。
6)抽出液を秤量管に移す。
i)抽出フラスコの残液をガラスフィルター(26−2)でろ過しながら、重量既知の秤量管に移し入れる。
ii)駒込めピペット(10ml)で新しい抽出液を抽出フラスコに注加し、フラスコ内壁を濯いで秤量管の液に合わせる。
iii)ii)をもう一度繰り返す。
7)秤量管の液を揮発させる。
秤量管を湯煎器で加温し、抽出液を完全に揮発させる。
8)乾燥し、秤量する。
110℃で約1時間乾燥し、デシケータで放冷後、秤量する。(抽出量=Wg)
9)下式に従って計算し、小数点2桁まで報告する。
樹脂分(質量%)=(W×100)÷(S×P)
【0029】
<ペントサン試験方法>
1)絶乾量として約1gの風乾試料を精ひょうし、蒸留フラスコに移す。
2)12%塩酸100mlを加える。
3)フラスコの液面から首の部分までアスベストを巻き付けたのち、フラスコヒーターにのせ、塩酸滴下漏斗、冷却管、受器などと連絡する。
4)蒸留する。10分間に30mlで留出液が得られるように加熱を調節し、またフラスコ内の液量を一定に保つように上部漏斗から塩酸を連続滴下させる。100分後蒸留液300mlを得たならば蒸留を中止する。
5)留出液300mlからピペットで所定量(Aml)をとり、あらかじめ蒸留水20mlを入れた全量フラスコ100mlに移す。
6)フェノールフタレイン溶液を1滴加え、全量フラスコを冷却しながら水酸化ナトリウム溶液で中和する。
7)安定剤溶液20mlを加えて振り混ぜたのち酢酸アニリン溶液25mlを加え、直ちに蒸留水を加えて100mlとし、よく混ぜる。
8)この溶液を暗かっ色の三角フラスコ100mlに移し、25.0±0.5℃の恒温槽中で酢酸アニリン溶液を加えてから、正確に50分間放置する。
9)50分後に、その溶液の吸光度を光電比色計を用いて測定する。
10)別に求めた検量線(フラフール標準液による)を用いてフラフール濃度を求める。
11)ペントサン(質量%)Pを下式によって算出する。
P=[(C×46.9)/(S×R×A)]×100
A:留出液の所定量、C:フラフール濃度(mg/ml)、S:供試料(g)、R:絶乾比
【0030】
本発明の織物および編物は、繊維それ自体の吸水性が高く、良好な吸水拡散性能をも有し、したがって良好な吸汗速乾性をも有する。ここで、吸水拡散性能は、0.2mlの純水を滴下した時の吸水性を、吸水時間および吸水拡散面積にて評価している。即ち、本発明の織物は、0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が30秒以下で、1分後の吸水拡散面積が20cm以上であるような吸水性を有し得る。又、本発明の編物は、0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が5秒以下で、1分後の吸水拡散面積が10cm以上であるような吸水性を有し得る。本発明の第2および第4の要旨における編物は、好ましくは吸水時間が3秒以下であり、1分後の吸水拡散面積が20cm以上である、吸水性を有する。吸水時間および吸水拡散面積の測定方法は後述する。
【0031】
本発明の防汚性に優れた織物又は編物は、原綿、原糸、製織(編)、加工の全工程で使用する処理剤の成分等を考慮し、織物又は編物を作成した後、染色加工における前処理(例えば精練処理)の処理時間、処理剤の種類および濃度、処理時間、ならびに浴比等を考慮して、精練効果を1.5〜3倍以上にアップさせ、加工するセルロース繊維の種類や混率に応じて、上記の吸水時間、吸水拡散面積になるまで行うことにより得られる。あるいは、本発明の防汚性に優れた織物又は編物は、原綿または糸の段階で、織物又は編物とした後に、上記の吸水時間および吸水拡散面積が達成されるように、夾雑物を排除する処理を行うことにより得られる。例えば、液流染色機による二段精練漂白処理を行う場合、一段目、二段目とも、NaOHをその対象織物に対して通常用いられる濃度と同等以上の濃度で、各々90℃以上で、40分間以上処理することによって得られる。また、常法の精練漂白処理を3回以上行ってもよい。そのような処理を行うことにより、織編物中に含まれる夾雑物の排除がより徹底されて、セルロース繊維そのものが潜在的に(または本来的に)有している吸水機能が発現して、防汚性が向上するとともに、優れた吸汗速乾性が得られると考えられる。尚、セルロース本来の吸水性・防汚性を維持発現させるためには、防汚性を維持発揮させるためには、前処理で排除した夾雑物を残留させないようにすることが重要である。
【0032】
さらに、前処理後の織物および編物の状態(即ち、夾雑物が除去された状態)は、その後の全工程においても維持する必要がある。したがって、夾雑物に類似する、防汚性を阻害する挙動を示す処理剤または成分が、織物および編物において残留するのを避けることが好ましい。通常、織物および編物の仕上工程でよく使用されるカチオン系成分は、織物および編物において残留し、セルロース繊維の吸水性を阻害することから、その使用は好ましくない。ここで、カチオン系成分としては、例えばアミノシリコーンソフナーが挙げられる。本発明の織物および編物は、所望の風合いが得られると共に、セルロース繊維の吸水性を阻害しない薬剤を選択して、仕上げ処理に付することが好ましい。それにより、セルロース繊維本来の吸水性がもたらす吸水拡散性能、ひいては防汚性が維持される。具体的には、例えば、仕上げ剤としては、特殊な脂肪酸系、ポリエステル系等を含む吸水性・防汚性を阻害しないノニオンおよびアニオン系のものが好ましく用いられる。
【0033】
本発明の織物および編物の優れた防汚性は、前述のとおり、セルロース繊維が本来有する吸水性を活かすように、夾雑物を排除する手法および夾雑物を排除した状態を維持することによって得られる。よって、本発明の織物および編物は、洗濯を繰り返しても、その優れた防汚性が低下しない。洗濯を繰り返すことにより、吸水性を阻害すると推測される夾雑物がさらに排除されることとなるからである。よって、洗剤(洗濯処理後に柔軟処理剤を使用する場合には、さらに当該処理剤)が吸水性を阻害する成分を織物および編物に付着させない又はさせにくいことを条件として、本発明の織物および編物は、洗濯耐久性に優れた防汚効果を発揮する。
【0034】
本発明の織物および編物は、汚れが付着した場合でも、繊維それ自体の優れた吸水性に起因して、優れた防汚性を示す。この防汚性は、織物又は編物のカバーファクターを所定の値以下とすることによって、より高度なものとなる。具体的には、本発明の第1および第3の要旨に係る織物において、カバーファクター(織)は、42以下であることが好ましく、本発明の第2および第4の要旨に係る編物において、カバーファクター(編)は、2.2以下であることが好ましい。織物と編物では算出式が異なることから、区別するため、各々カバーファクター(織)、カバーファクター(編)と表記している。
【0035】
カバーファクター(織)とは、織物の面積をどれだけの糸で被覆しているかを示すファクターであり、下記の式により算出される。
カバーファクター(織)=n1/(N1)1/2+n2/(N2)1/2
式中、各記号の意味は次の通りである。
n1:2.54cm当り経糸密度、
n2:2.54cm当り緯糸密度、
N1:経糸番手(英式綿番手)、
N2:緯糸番手(英式綿番手)
なお、本明細書において、カバーファクター(織)(編)はいずれも、特に断りの無い限り、全ての仕上げ処理(精練、漂白、染色、柔軟仕上げを含む)を終えた後の織物および編物について、測定した値を表す。
【0036】
カバーファクター(織)が42を超えると、織物において、より高度な防汚効果を得ることが難しくなる。これは、カバーファクター(織)が42を超えると、付着した汚れが水と置換されにくくなり、静置水による汚れ成分の追い出しが困難になることによるものと推測することができる。好ましいカバーファクター(織)は、平織物の場合、32以下で7以上である。なお、多重織物の場合は、構成する織物のうち、一番数値の大きなカバーファクター(織)が42以下であればよい。
【0037】
カバーファクター(編)とは、1ループの占める面積に対して糸の表面が覆っている面積の比率を表すために用いられる数値で下記の式により算出される。
カバーファクター(編)=1/(l×S1/2)、
式中、各記号の意味は次のとおりである。
l:ループ長(inch)、
S:梳毛式番手
【0038】
カバーファクター(編)が2.2を超えると、編物において、より高度な防汚効果を得ることが難しくなる。これは、カバーファクター(編)が2.2を超えると、付着した汚れが水と置換されにくくなり、静置水による汚れ成分の追い出しが困難になることによるものと推測することができる。好ましいカバーファクター(編)は、天竺の場合、1.2以下で0.8以上である。なお、多重編物の場合は、構成する編物のうち、一番数値の大きな編物のカバーファクター(編)が2.2以下であればよい。
【0039】
本発明の織物および編物がそれぞれ、上記所定の値以下のカバーファクターを有する場合には、織物および編物を水に浸すだけで、比較的短時間のうちに防汚試験液のリリースが開始すること(即ち、付着した汚れが水と置換されて、水中に放出されること)が可能となる。よって、本発明の織物又は編物をカバーファクター値が小さくなるように構成すると、それらに付着した汚れは、より少ない量の洗剤で、あるいは洗剤を用いずに追い出すことができる。例えば、上記所定値以下のカバーファクターを有する織物又は編物を、洗剤使用量を標準指定の1/2に減量して洗濯した場合でも、それらの織物および編物は洗剤使用量を標準指定として洗濯した場合と同様の汚れリリース性を示し、もって優れた防汚効果を奏する。それらを素材とした繊維製品においても同様である。
【0040】
本発明の織物および編物は、通常の織物および編物と同様、繊維製品の素材として用いられて、繊維製品を与える。具体的には、例えば、下着、肌着、パジャマ、シャツ、セーター、およびベスト等の衣類、シーツ、カバー、テーブルクロス、ハンカチ、タオル等、様々な繊維製品が提供される。また、本発明を応用して、防汚性に優れた不織布およびそれを用いた繊維製品を得ることもできる。防汚性に優れた不織布は、原綿段階にて、又は不織布作製後に、夾雑物を排除する処理を行うことにより得られる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
実施例において採用した、防汚性(グレースケール)、吸水性(吸水時間、吸水拡散面積)の評価方法を以下に説明する。
【0042】
1.グレースケール判定、評価
染色堅牢度試験用グレースケールにて級判定を行った。
具体的には、オレイン酸をスポイドで織物又は編物上に1滴(0.03ml)滴下し、1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)にて水洗濯を行い、乾燥後、JIS L0805:2005に従って、染色堅牢度試験用グレースケールにて級判定を行った。判定は五段階を細分化して9段階で行い、5級は汚染残留が全くなく良好であることを示し、1級は著しい汚染残留があったことを示している。出願人は、等級4級以上を合格(実用に十分耐え得るレベル)と判定している。
【0043】
2.吸水時間
吸水時間としては、織物又は編物表面に純水0.2mlを滴下したとき、完全に浸透するまでの時間を測定した。出願人は、織物では30秒以下、編物では5秒以下を各々合格(実用に十分耐え得るレベル)と判定している。
【0044】
3.吸水拡散面積
吸水拡散面積は、織物又は編物表面に被検液0.2mlを滴下した後、1分後のぬれ広がり面積(タテ×ヨコ)を測定した。出願人は、織物では20cm以上、編物では10cm以上を各々合格(実用に十分耐え得るレベル)と判定している。
【0045】
4.汚れのリリース性
汚れを付着させたサンプルを水中に置いたときの、汚れの放出性を測定した(水中静置(垂直)法)。具体的には、オレイン酸を1滴(0.03ml)滴下し、浸透後(編物:30秒、織物:60秒)に垂直に水中へ入れ、水中のサンプルを5分間観察し、汚れの放出性(汚れの浮かび上がりの度合い)を判定した。判定基準は下記のとおりである。
1 汚れが大部分浮き上がらない。
2 汚れが1/4程度浮き上がる
3 汚れが1/2程度浮き上がる
4 汚れが3/4程度浮き上がる
5 汚れが大部分浮き上がる
出願人は、汚れリリース性を防汚性の高低を判断する簡易評価として採用し、3以上のものを、高度な防汚性を有するレベルと判定している。
【0046】
(実施例1)
経糸、緯糸番手30S、経、緯合計密度160本/2.54cmの平織物(綿100%)を準備した。これを毛焼後に、30%NaOH 30cc/Lを含む浴液にて(浴比1:30)100℃で40分処理した後、さらに、30%NaOH 10cc/Lを含む浴液にて(浴比1:30)100℃、60分間処理を実施した。その後、淡色反応染色を行い、柔軟仕上げ剤として、DS−357(特殊脂肪酸系ソフナー TSケミカル社製)を3%の濃度で使用して、柔軟仕上げ処理を実施した。仕上げ処理後の織物において、カバーファクター(織)は、29.2であった。
【0047】
(比較例1)
実施例1で使用した織物と同じ織物を用い、毛焼後、通常用いられる条件で、糊抜した後、精練漂白を1回実施した。その後、淡色反応染色を行い、通常の柔軟仕上げを行った。仕上げ処理後のカバーファクター(織)は、29.2であった。
【0048】
(実施例2)
経糸、緯糸番手60S、経、緯合計密度330本/2.54cmの朱子織物(綿100%)を準備した。これに実施例1の条件と同様の条件で加工を行った。仕上げ処理後のカバーファクター(織)は42.6であった。
【0049】
得られた織物の吸水時間及び吸水拡散面積、ならびにリリース性の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
得られた織物の防汚性の評価結果を表2示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の結果によれば、実施例1の織物は、すべての試験液に対して、水洗濯後のグレースケールが4級以上であり、防汚性は合格であった。比較例1の織物は、すべての試験液に対して、水洗濯後のグレースケールが合格レベルになかった。
【0054】
実施例1の織物は、比較例1の織物に比して、洗濯前の防汚性においても優れている。これは、実施例1の吸水時間および吸水拡散面積からわかるように、実施例1の織物が吸水拡散性能においても良好であることによる。実施例2の織物は、すべての試験液に対して、水洗濯後のグレースケールが4級以上であり、防汚性は合格であった。しかし、汚れリリース性が実施例1のそれと比較して低かった。これは、実施例2の織物のカバーファクター(織)が実施例1のそれよりも高いことによると考えられる。
実施例1で得られた織物を、男性用下着に縫製し、30〜40歳台の男性5名に24時間着用してもらい、その後、洗濯してもらったところ、優れた防汚性を有しているとの感想を得た。
【0055】
(実施例3)
40天竺編物(綿100%)を準備し、これを常法で採用されている条件を用いて精練漂白を3回施した(浴比1:15)。その後、反応染色を行い、DS−357(特殊脂肪酸系ソフナー、TSケミカル社製)を3%の濃度で使用して、柔軟仕上げ処理を実施した。仕上げ処理後の編物において、カバーファクター(編)は1.40であった。また、実施例3のカルボキシメチル化度は0.14モル%であり、樹脂分は0.48質量%、ペントサンは0.31質量%であった。また、精練漂白前の編物(生機)において、樹脂分は1.2質量%、ペントサンは0.56質量%であった。カルボキシメチル化度、ならびに樹脂分およびペントサンの割合を求める方法は、前述したとおりである。
【0056】
(比較例2)
実施例3で使用した編物と同じ編物を用い、精練漂白を1回実施した。その後、淡色反応染色を行い、通常の柔軟仕上げを行った。仕上げ処理後のカバーファクター(編)は、1.40であった。比較例2において、カルボキシメチル化度は0.17モル%、樹脂分は0.73質量%、ペントサンは0.54質量%であった。
【0057】
(実施例4)
40スムース(綿100%)を準備し、実施例2と同様の条件で精練漂白、反応染色および柔軟仕上げ処理を施した。仕上げ処理後の編物において、カバーファクター(編)は、2.25であった。
【0058】
得られた編物の吸水時間及び吸水拡散面積、ならびにリリース性の評価結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
得られた編物のオレイン酸の防汚性の評価結果を表4に示す。なお、洗剤使用量をゼロにした場合の評価結果も併せて示す。
【0061】
【表4】

【0062】
表4から明らかなように、実施例3および4の編物は、オレイン酸について水洗濯後の防汚性は合格レベルにあった。比較例2の編物は、吸水性が小さく、その防汚性も合格レベルに達しなかった。これは、精練漂白の回数が少なかったために、夾雑物の除去量が少なかったためであると考えられる。実施例4の編物は、汚れリリース性が、実施例3のそれと比較して低かった。これは、実施例4の編物のカバーファクター(編)が実施例3のそれよりも大きかったためであると考えられる。実施例3の編物を男性用肌着に縫製し、30〜40歳台の男性5名に24時間着用してもらい、その後洗濯してもらったところ、優れた防汚性を有しているとの感想を得た。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の織物および編物は、皮脂汚れおよびその他の油汚れを洗濯によって容易に落とすことを可能にし、また、吸収した水を広い面積に拡散させるものであって、吸汗速乾性に優れているから、衣類、日用雑貨、寝具カバー等の繊維製品を構成するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む織物であって、オレイン酸を1滴滴下後1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)洗濯、乾燥後のグレースケール判定(JIS L0805:2005)が4級以上である、及び/又は0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が30秒以下で、1分後の吸水拡散面積が20cm以上であるような吸水性を有し、
かつ親水基または親水性分子をセルロース分子に導入する親水化処理が施されていない防汚性に優れた織物。
【請求項2】
セルロース繊維を含む編物であって、オレイン酸を1滴滴下後1時間放置し、103法(JIS L 0217:1995)洗濯、乾燥後のグレースケール判定(JIS L0805:2005)が4級以上である、及び/又は0.2mlの純水を滴下した時に、吸水時間が5秒以下で、1分後の吸水拡散面積が10cm以上であるような吸水性を有し、
かつ親水基または親水性分子をセルロース分子に導入する親水化処理が施されていない防汚性に優れた編物。
【請求項3】
天然セルロース繊維を含む織物であって、樹脂分を0.55質量%以下、ペントサンを0.40質量%以下含む、防汚性に優れた織物。
【請求項4】
天然セルロース繊維を含む編物であって、樹脂分を0.55質量%以下、ペントサンを0.40質量%以下含む、防汚性に優れた編物。
【請求項5】
0.2mlの純水を滴下した時の吸水性が、吸水時間30秒以下で、1分後の吸水拡散面積が20cm以上である請求項3に記載の防汚性に優れた織物。
【請求項6】
0.2mlの純水を滴下した時の吸水性が、吸水時間5秒以下で、1分後の吸水拡散面積が10cm以上である請求項4に記載の防汚性に優れた編物。
【請求項7】
カバーファクター(織)が42以下である、請求項1、3、または5のいずれかに記載の防汚性に優れた織物。
【請求項8】
カバーファクター(編)が2.2以下である、請求項2、4、または6のいずれかに記載の防汚性に優れた編物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の防汚性に優れた織物又は編物から形成された繊維製品。

【公開番号】特開2009−228199(P2009−228199A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46458(P2009−46458)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(306024078)ダイワボウノイ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】