説明

防火ガラス

【課題】珪酸ソーダの封止対策を簡易にあるいは不要にすることができるとともに、フロートガラスを用いて安価で、遮炎性に優れた防火ガラスを提供する。
【解決手段】第1フロートガラス5と、この第1フロートガラス5よりも小さな厚さH2で形成され、第1フロートガラス5の少なくとも一方の面5a側に間隔をあけて平行に積層された第2フロートガラス6、7と、第1フロートガラス5と第2フロートガラス6、7の間に介装されたゼリー状の珪酸ソーダ層8とを備えて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば一般住宅やオフィスビルなどの建物のガラス窓、ガラス扉、ガラス壁等には、フロートガラスが多用されている。しかしながら、このフロートガラスは、安価であるという大きな利点を有する反面、火災発生時に高温で加熱されると割れて脱落しやすく、火炎や煙を遮断して火災の拡大を抑制する効果が期待できないという欠点があった。
【0003】
これに対し、建物のガラス窓、ガラス扉、ガラス壁等に、例えば網目状のワイヤをガラスの内部に埋設して形成し、火災時にひび割れが生じてもガラスがワイヤで保持されて脱落しないようにした網入りガラスや、例えば純粋な無水珪酸のみを成分として形成することで優れた耐熱性を備える耐熱強化ガラスを用いることが多くなっている。しかしながら、網入りガラスや耐熱強化ガラスにおいては、ガラスの脱落などを防止して火災の拡大を抑制することが可能である反面、フロートガラスに比べて非常に高価であり、さらに、火災時に放射熱がガラスを透過し火災側から非火災側に伝搬して、延焼を発生させるおそれがあった。また、網入りガラスにおいては、通常使用時に、ガラスに埋設した網目状のワイヤが見えるため、空間の開放感や空間同士の連続感などの本来この種のガラスに期待される効果が損なわれるという問題があった。
【0004】
一方、例えば図3及び図4に示すように、間隔をあけて厚さが等しい複数のガラス1を積層するとともに隣り合うガラス1の間に液状の珪酸ソーダ(水ガラス)2を封入し、複層ガラス化して構成した防火ガラスAがある(例えば、特許文献1参照)。この防火ガラスAにおいては、火災時に高温で加熱されると、封入した珪酸ソーダ2が発泡して遮炎性を発揮するため、特に非火災側のガラス1が割れることを防止でき、火災の拡大を抑制することが可能になる。また、封入時に透明である珪酸ソーダ2は、発泡するとともに不透明(白色)に変化するため、火災側から非火災側に放射熱が伝搬することを防止でき、非火災側の延焼を防止でき、確実に火災の拡大を防止することが可能になる。
【特許文献1】特開平3−286058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の防火ガラスAにおいては、隣り合うガラス1の間に液状の珪酸ソーダ2を封入して構成されているため、防火ガラスAの周囲に珪酸ソーダ2の漏出を防止するための堅牢な封止対策(封止部材)4を施す必要があった。
【0006】
また、同一の厚さの各ガラス1にフローガラスを用いた場合には、例えば防火ガラスAの厚さHが二十数ミリと大きくなり、数ミリのオーダーの厚さHが要求されることが多い建築設計では、使用場所が極めて限定されてしまうという問題があった。このとき、積層数を減らしてあえて数ミリのオーダーの厚さHの要求に応えるようにすることも考えられるが、この場合には、1枚のフロートガラス1自体は薄く熱容量が小さいために、火災時にフロートガラス1が溶融し、脱落する危険性が高まってしまう。このため、積層数を減らしてこの種の防火ガラスAに求められる例えば20分程度の遮炎性の確保が困難になるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、珪酸ソーダの封止対策を簡易にあるいは不要にすることができるとともに、フロートガラスを用いて安価で、遮炎性に優れた防火ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の防火ガラスは、第1フロートガラスと、該第1フロートガラスよりも小さな厚さで形成され、前記第1フロートガラスの少なくとも一方の面側に間隔をあけて平行に積層された第2フロートガラスと、前記第1フロートガラスと前記第2フロートガラスの間に介装されたゼリー状の珪酸ソーダ層とを備えて形成されていることを特徴とする。
【0010】
この発明においては、重量比で、珪酸ソーダ100に対し、従来は水が150前後であったのに対し、水を50前後に下げることにより珪酸ソーダ層をゼリー状にすることで、防火ガラスの外部に珪酸ソーダが漏出することがなく、従来の液状の珪酸ソーダを隣り合うガラスの間に封入した場合と比較し、防火ガラスの周囲に設ける封止対策を簡易にでき、あるいは封止対策を不要にできる。また、このように珪酸ソーダ層をゼリー状にすることで、第1フロートガラスと第2フロートガラスを貼り合わせる接着層として機能させることが可能になる。これにより、防火ガラスのコストの低減を図ることが可能になるとともに、長期にわたって珪酸ソーダが漏出することのない信頼性の高い防火ガラスにすることが可能になる。
【0011】
そして、この防火ガラスにおいては、火災時に第2フロートガラスを通じて珪酸ソーダ層が加熱され発泡することで、遮炎性(断熱性)を発揮し、第1フロートガラスが火災の熱によって損傷することを抑制できる。また、例えば800℃近い高温で長時間継続的に加熱された場合には、発泡した珪酸ソーダ層が溶融し、第1フロートガラスにひび割れが生じるおそれがあるが、このように第1フロートガラスにひび割れが生じた場合においても、この第1フロートガラスに珪酸ソーダ層が癒着し、且つ珪酸ソーダ層が発泡によってひび割れに入り込むことで、確実に第1フロートガラスが脱落することを防止できる。これにより、火炎や煙を確実に防火ガラスで遮断でき、非火災側に火災が拡大することを防止できる。さらに、このような珪酸ソーダ層は、平常時に透明で、火災によって発泡するとともに不透明(白色)に変化するため、火災時の放射熱を遮断することが可能になり、非火災側に延焼が生じることをも防止できる。
【0012】
また、この防火ガラスにおいては、第2フロートガラスが珪酸ソーダ層を保護するとともにその含水率を保持するためのものであるため、第1フロートガラスよりも小さな厚さで極めて薄くすることが可能である。このため、防火ガラスの厚さを小さくすることが可能になり、使用場所の制限を少なくすることが可能になる。
【0013】
さらに、安価な第1及び第2フロートガラスと、安価な珪酸ソーダ(珪酸ソーダ層)とを組み合わせて構成することによって、防火ガラスのコストを低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防火ガラスによれば、珪酸ソーダ層をゼリー状にすることで珪酸ソーダの封止対策を簡易にあるいは不要にすることができるとともに、フロートガラスと珪酸ソーダ層を組み合わせて構成することで、安価で、遮炎性に優れた防火ガラスを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係る防火ガラスについて説明する。本実施形態は、例えば一般住宅やオフィスビルなどの建物のガラス窓、ガラス扉、ガラス壁等に多用されるフロートガラスを積層して複層ガラス化した防火ガラスに関するものである。
【0016】
本実施形態の防火ガラスBは、図1及び図2に示すように、内部フロートガラス(第1フロートガラス)5と、この内部フロートガラス5の一方の面5a及び他方の面5b側にそれぞれ間隔をあけて平行に積層された一対の表面フロートガラス(第2フロートガラス)6、7と、内部フロートガラス5と各表面フロートガラス6、7の間に介装された珪酸ソーダ層8とを備えて方形状に形成されている。
【0017】
内部フロートガラス5は、透明のフロートガラスであり、例えば6mm程度の厚さH1で形成されている。一対の表面フロートガラス6、7は、透明のフロートガラスであり、それぞれ例えば2mm以下の厚さH2で内部フロートガラス5よりも薄く形成されている。また、これら表面フロートガラス6、7は、珪酸ソーダ層8を保護するとともに、珪酸ソーダ層8の好適な保水状態、すなわち珪酸ソーダ層8の乾燥を防ぎその含水率を所定の状態で保持するために設けられている。
【0018】
一方、珪酸ソーダ層8は、透明の珪酸ソーダからなり、1mm程度の厚さH3で形成されている。また、本実施形態の珪酸ソーダ層8は、従来のように液状ではなく、重量比で珪酸ソーダ100に対し水を50前後にすることで、ゼリー状になっている。そして、このようにゼリー状の珪酸ソーダからなる珪酸ソーダ層8は、内部フロートガラス5と表面フロートガラス6、7とを一体に貼り合わせる接着層として機能する。また、ゼリー状であることによって、防火ガラスBの外部に珪酸ソーダが漏出しにくくなるため、従来の液状の珪酸ソーダを隣り合うガラス1の間に封入する場合と比較し、防火ガラスBの周囲に設ける封止対策を簡易にしたり、あるいは封止対策が不要になる。
【0019】
上記のように構成した防火ガラスBは、通常のフロートガラス5、6、7に、フロートガラス5、6、7の数分の一と安価な珪酸ソーダ(珪酸ソーダ層8)を組み合わせて構成することで、低コスト化が図られている。また、表面フロートガラス6、7が珪酸ソーダ層8を保護し、珪酸ソーダ層8の保水状態を確保する機能のみを期待するものであるため、これら表面フロートガラス6、7を例えば2mm以下の厚さH2で極めて薄く形成することにより、防火ガラスBが数ミリのオーダーの厚さHで形成可能になる。これにより、本実施形態の防火ガラスBは、使用場所の制限が少なく、確実に建物のガラス窓、ガラス扉、ガラス壁などに使用できる。また、本実施形態の防火ガラスBにおいては、内部フロートガラス5、表面フロートガラス6、7、珪酸ソーダ層8がそれぞれ透明であるため、通常使用時に空間の開放感や空間同士の連続感などの効果が損なわれることもない。
【0020】
そして、建物に火災が発生した場合には、火災側の表面フロートガラス6(7)が加熱され、極めて薄く形成されている表面フロートガラス6(7)は、100℃前後の温度に達するとともにひび割れる。これとともに100℃前後の加熱によって珪酸ソーダ層8が発泡しその厚さH3を増大させて遮炎性(断熱性、防火性能)を発揮しはじめる。このとき、珪酸ソーダ層8が発泡しはじめる100℃前後の温度の加熱によって表面フロートガラス6(7)がひび割れているため、珪酸ソーダ層8の発泡に表面フロートガラス6(7)が支障をきたすことはなく、確実に珪酸ソーダ層8の発泡によって遮炎性が発揮される。
【0021】
また、火災側から800℃近い高温で加熱された場合においても、発泡した珪酸ソーダ層8により熱(火炎)が遮断され、火災に伴って内部フロートガラス5に破損が生じることが抑制される。この一方で、800℃近い高温で長時間継続的に加熱された場合には、発泡した珪酸ソーダ層8が多少溶融したり、内部フロートガラス5にひび割れが生じるおそれがあるが、珪酸ソーダ層8は、その発泡によって遮炎性を発揮するとともに内部フロートガラス5に癒着する癒着性を発揮する。このため、内部フロートガラス5は、珪酸ソーダ層8が癒着し、且つ発泡によって珪酸ソーダ層8がひび割れに入り込むことによって、脱落が確実に防止される。これにより、火炎や煙が確実に遮断され、非火災側に火災が拡大することが抑制される。また、このとき、珪酸ソーダ層8が発泡とともに透明から不透明(白色)に変化することによって放射熱が遮断され、非火災側に延焼が生じることも防止される。
【0022】
したがって、本実施形態の防火ガラスBにおいては、珪酸ソーダ層8をゼリー状にすることによって、防火ガラスBの外部に珪酸ソーダが漏出することがなく、従来の液状の珪酸ソーダ2を隣り合うガラス1の間に封入した防火ガラスAと比較し、防火ガラスBの周囲に設ける封止対策を簡易にでき、あるいは封止対策を不要にできる。また、このように珪酸ソーダ層8をゼリー状にすることで、内部フロートガラス5と表面フロートガラス6、7(第1フロートガラスと第2フロートガラス)を貼り合わせる接着層として機能させることが可能になる。これにより、防火ガラスBのコストの低減を図ることが可能になるとともに、長期にわたって珪酸ソーダが漏出することのない信頼性の高い防火ガラスBにすることが可能になる。
【0023】
また、火災時に珪酸ソーダ層8が加熱され発泡することで、遮炎性を発揮し、内部フロートガラス5が火災の熱によって損傷することを抑制でき、例えば800℃近い高温で長時間継続的に加熱されて内部フロートガラス5にひび割れが生じた場合においても、この内部フロートガラス5に珪酸ソーダ層8が癒着し、且つ珪酸ソーダ層8が発泡によってひび割れに入り込むことで、確実に内部フロートガラス5が脱落することを防止できる。これにより、火炎や煙を確実に防火ガラスBで遮断でき、非火災側に火災が拡大することを防止できる。さらに、珪酸ソーダ層8が火災によって透明から不透明(白色)に変化することで、火災時の放射熱を遮断し、非火災側に延焼が生じることをも防止できる。
【0024】
また、表面フロートガラス6、7が珪酸ソーダ層8を保護するとともにその含水率を保持するためのものであるため、内部フロートガラス5よりも小さな厚さH2で極めて薄くすることが可能になる。このため、防火ガラスBの厚さHを小さくすることが可能になり、使用場所の制限を少なくすることが可能になる。
【0025】
さらに、安価なフロートガラス5、6、7と珪酸ソーダ(珪酸ソーダ層8)とを組み合わせて構成することによって、防火ガラスBのコストを低減することが可能になる。
【0026】
以上、本発明に係る防火ガラスの実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、防火ガラスBが、内部フロートガラス(第1フロートガラス)5の一方の面5a及び他方の面5b側にそれぞれ間隔をあけて一対の表面フロートガラス(一対の第2フロートガラス6、7)を積層し、内部フロートガラス5と各表面フロートガラス6、7の間に珪酸ソーダ層8を介装して構成されているものとしたが、防火ガラスBを挟んで一方の側が火災側になることが特定されている場合には、内部フロートガラス5の火災側にのみ表面フロートガラス6(7)を設け、この表面フロートガラス6(7)と内部フロートガラス5の間に珪酸ソーダ層8を介装して防火ガラスBを構成するようにしてもよい。
【0027】
また、内部フロートガラス5を例えば強化ガラスとしたり、表面フロートガラス6、7をすりガラスにして防火ガラスBを構成してもよい。さらに、本実施形態では、厚さH1が6mm程度の内部フロートガラス5、厚さH2が2mm以下の表面フロートガラス6、7を用い、珪酸ソーダ層8の厚さH3を1mm程度として、防火ガラスBを構成するようにしているが、必ずしも内部フロートガラス5、表面フロートガラス6、7、珪酸ソーダ層8の各厚さH1、H2、H3を限定しなくてもよい。特に珪酸ソーダ層8の厚さH3は、所望の遮炎性を発揮できる範囲で適宜決められればよい。すなわち、本発明の防火ガラスは、珪酸ソーダ層8の厚さH3を調節することによって、必要に応じた遮炎時間の確保が可能であり、安全レベルのニーズに対して柔軟に対応することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る防火ガラスを示す正面図である。
【図2】図1のX1−X1線矢視図である。
【図3】従来の防火ガラスを示す正面図である。
【図4】図3のX1−X1線矢視図である。
【符号の説明】
【0029】
4 封止部材(封止対策)
5 内部フロートガラス(第1フロートガラス)
5a 一方の面
5b 他方の面
6 表面フロートガラス(第2フロートガラス)
7 表面フロートガラス(第2フロートガラス)
8 珪酸ソーダ層
A 従来の防火ガラス
B 防火ガラス
H 防火ガラスの厚さ
H1 内部フロートガラスの厚さ
H2 表面フロートガラスの厚さ
H3 珪酸ソーダ層の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フロートガラスと、該第1フロートガラスよりも小さな厚さで形成され、前記第1フロートガラスの少なくとも一方の面側に間隔をあけて平行に積層された第2フロートガラスと、前記第1フロートガラスと前記第2フロートガラスの間に介装されたゼリー状の珪酸ソーダ層とを備えて形成されていることを特徴とする防火ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−209014(P2009−209014A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54848(P2008−54848)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】