説明

防火安全ガラス、その製造方法及び防火安全ガラス窓の施工方法

【課題】火災時に樹脂層が融けても施工枠内に漏れず、非加熱側に火炎が発生することがなく、かつ樹脂層からのガス抜け不全による爆裂を起こさない防火安全ガラスと、その製造方法及び防火安全ガラス窓の施工方法を提供する。
【解決手段】本発明の防火安全ガラス10は、耐熱板ガラス11、12が樹脂層13を介して互いに接着された合わせガラス10aの下端面10bから両側のコーナー部10c、10dを含む両側の端面10e、10fの全高の1/6以上で1/2未満に到る領域10gが、耐熱性封止材17で封止されてなる。また本発明の製造方法は、合わせガラス10aの端面を全高の1/6以上で1/2未満の領域10gに亘って耐熱性封止材17により連続的に封止する。さらに本発明の施工方法は、防火安全ガラス10の端面が耐熱性封止材17で封止された領域10gの端部を施工枠の下方に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時に防火戸として機能し、また平常時には安全ガラスとして機能する防火安全ガラスと、その製造方法、及びこの防火安全ガラスを用いた防火安全ガラス窓の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、事務所ビル、デパート等の大型建築物が増加するにつれて、火災時に火炎や煙を遮断して延焼を最大限に食い止める防火戸の機能と、平常時に破損しても破片が飛散せず、貫通孔を生じない安全ガラスの機能とを兼ね備える防火安全ガラスに対する需要が増大してきている。この種の防火安全ガラスには、国土交通省から特定防火設備として認定され、市販されているものがある。
【0003】
この特定防火設備とは、建築基準法施行令第112条第1項に規定されており、通常の火災による火炎に曝された場合に、加熱開始後1時間、加熱面以外の面に火炎を出さない性能を有するものであり、国土交通省から指定された評価試験機関による試験に合格した防火設備である。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、複数枚の防火性ガラス板の片面あるいは両面に、鎖状の分子構造のみからなるフッ素樹脂フィルムが接着されてなる防火安全ガラスが開示されている。また特許文献3には、特許文献2に記載の防火安全ガラスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−224938号公報
【特許文献2】特開平8−132560号公報
【特許文献3】特開平9−2847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の防火安全ガラスは、火災時の初期段階で合わせガラスの板ガラス間にある樹脂フィルムが融け、ガラス下辺から施工枠の下枠内に溜まり、非加熱側に火炎が出やすく、加熱条件によっては本来の防火設備の火災遮断性能が発揮できない場合がある。また、防火安全ガラスのサイズが1000mm×2000mmより大きい寸法になると、火災等の加熱時に樹脂フィルムから発生するガスの総量が多くなり、合わせ板ガラスの間からガスが抜けない場合、板ガラスが爆裂を起こして破損する確率が高くなるなどの課題がある。
【0007】
本発明は、火災時の初期段階で合わせガラスの板ガラス間にある樹脂層が融けた場合に施工枠の下枠内に溜まることがなく、非加熱側に火炎が発生せず、かつ樹脂層のガス抜け不全による板ガラスの爆裂を起こすことのない高い火災遮断性能を備える防火安全ガラスと、その製造方法、及びこの防火安全ガラスを用いた防火安全ガラス窓の施工方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明の防火安全ガラスは、複数枚の耐熱板ガラスが樹脂層を介して互いに接着された合わせガラスからなり、該合わせガラスの端面が、全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明において、合わせガラスの端面が、全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止されてなるとは、例えば、矩形状の合わせガラスでは、合わせガラスの透光面の四辺に位置して耐熱板ガラスと樹脂層より成る積層構造を呈する端面が、透光面を略垂直に保持する場合に、下方に配置される一辺を含む端面から両側のコーナー部を含んで連なる両側端面の下側から高さが1/6以上で1/2未満の領域が、耐熱性封止材で連続的に封止されてなるものであり、かつ耐熱板ガラスの他の部位の積層構造を呈する端面は開放されていることを意味している。また、円形の透光面を有する合わせガラスの場合には、円の直径が全高になるので、合わせガラスの一端から直径の1/6以上で1/2未満の位置に到る領域の端面が、耐熱性封止材により連続的に封止されてなるものである。また、本発明において合わせガラスの端面を封止するとは、全高の下側1/6以上で1/2未満の領域における積層構造を呈する端面の全面を封止するものに限らず、火災時に樹脂層からの融液が漏れないように、少なくとも耐熱板ガラス間の樹脂層の端部が封止されていれば本願発明に属するものである。
【0010】
また、本発明の防火安全ガラスは、全高の1/6以上の領域の端面が耐熱性封止材により連続的に封止されてなることで、火災時に合わせガラスの耐熱板ガラス間にある樹脂層が融けた場合に、施工枠の下枠内に樹脂層からの融液が漏れることがなくなる。さらに、より長時間の加熱に対して融液漏れを防止するためには、全高の1/4以上の領域が耐熱性封止材で封止されていることが好ましい。また、合わせガラス端部の温度が最も早く上昇する両側端面の高さ方向の中央部を封止してしまうと樹脂層から発生したガスが抜けず、耐熱板ガラスが爆裂する可能性が高くなるので、経験上、耐熱性封止材により封止する領域は全高の1/2未満にすべきである。
【0011】
本発明において防火安全ガラスとは、JIS R 3205 「合わせガラス」による外力の作用によって破損してもガラスの破片の大部分が飛び散らない安全性と、建築基準法施行令第112条第1項で規定されている特定防火設備の基準を満たす防火性能を合わせ持つ板ガラス又はISO834の標準加熱曲線に基づく加熱試験により、割れや、脱落が生じず、合格したものを意味している。耐熱板ガラスとしては、例えば、(社)カーテンウォール・防火開口部協会、板硝子協会、ガラスブロック工業会の《耐熱板ガラス品質規格》、制定 平成7年9月1日、改定 平成19年4月1日に記載されているように、特殊な物理強化処理を施したソーダ石灰ガラスからなる耐熱強化ガラス、物理強化した硼珪酸ガラスからなる低膨張防火ガラス、又はリチウムアルミナ珪酸系組成からなる低膨張の耐熱結晶化ガラスが使用可能である。
【0012】
また、本発明の防火安全ガラスは、使用する耐熱板ガラスのうち、少なくとも室内側が、30〜750℃の温度範囲において−10×10−7/K以上で10×10−7/K以下の線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスであると、火災時の800℃に達する高温環境下においても、ほぼゼロに近い線膨張係数を有しているので、火炎による急激な加熱やスプリンクラー等からの放水による急激な冷却時の熱衝撃によって破損することがない。一方、耐熱板ガラスの線膨張係数が−10〜10×10−7/Kの範囲から外れて温度変化による膨張収縮が大きくなると、800℃の高温下における板ガラスの変形が無視できなくなり、また加熱状況や熱衝撃の程度にもよるが破損する確率も上昇する。さらに、線膨張係数がゼロに近い−5〜5×10−7/Kの範囲であることが好ましい。また、この耐熱結晶化ガラスは、主結晶としてβ−石英固溶体を析出しており、通常の窓板ガラスが軟化変形する800℃の高温下でも軟化変形しないものであるため、火災時に変形やそれに伴う破損を起こすことがなく、火炎や煙を遮る機能に優れている。このような性能を有する耐熱結晶化ガラスを使用することは、建築基準法施行令第112条第1項で規定されている特定防火設備の遮炎性能の基準を満たす上で有効である。さらに、2枚の透明耐熱板ガラスが、耐熱結晶化ガラスよりなるものであることが、高い耐火性を実現する上で好ましい。例えば、日本電気硝子株式会社が特定防火設備の認定を取得しているものには、認定番号:EA−0245、認定を取得した構造方法等の名称:耐熱合わせガラス入鋼製はめ殺し窓(欄間付)がある。
【0013】
本発明の防火安全ガラスは、樹脂層が、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル、紫外線硬化性樹脂よりなるものであるか、又は鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂よりなるものであり、該樹脂層の厚みが0.2mm以上で2mm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の防火安全ガラスにおいて、樹脂層に使用する樹脂が、PVB、EVA、PET、PC、アクリル、紫外線硬化性樹脂等のフッ素樹脂に比べて燃焼しやすいものであっても、合わせガラスの少なくとも下方に配置される端面から、その両側のコーナー部を含む側面の下側部分に到る耐熱板ガラスの合わせ面開口部が耐熱性シール材で封止されていれば、非加熱側に火炎が貫通する可能性が小さくなる。
【0015】
さらに、本発明の防火安全ガラスにおいて、樹脂層に使用する樹脂が、鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂からなるものであるとは、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびビニリデンフルオライドのモノマー等の共重合体から形成されてなるものであり、樹脂フィルムを構成するモノマーとしては、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ビニリデンフルオライド(VDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ビニルフルオライド(VF)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)等が使用可能であるが、特にテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライドのモノマーの共重合体からなるフッ素樹脂が、融点が低いため好適である。このような鎖状の分子構造のみからなるフッ素樹脂は、炭素−フッ素間の強固な原子間結合と、フッ素原子が炭素骨格を取り囲むことによるバリアー効果によって難燃性であり、空気中では燃えないという特性を有している。またこのフッ素樹脂は、重合度が高く、他の分子構造のフッ素樹脂に比べて複雑に絡み合った構造を有するため、伸びと引っ張り強度が大きく、これをガラス板に接着すると、衝撃吸収性に富み、耐貫通性、飛散防止性に優れた材料が得られる。また、鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂が、鎖状の分子構造のみからなるフッ素樹脂であることが、防火安全ガラスに高い難燃性及び強度を発揮させる上で好ましい。
【0016】
また、本発明の防火安全ガラスにおいて、樹脂層の厚みが0.2mm以上で2mm以下であるとは、樹脂層の厚みが0.2mm未満では所望の耐衝撃性を得ることが困難である。他方、樹脂層の厚みが2mmを超えると、窓としての高い透明性を確保することが困難になる上、火災時に樹脂が溶融する時に煙が多く発生しやすくなるため防火上好ましくない。さらに、樹脂層の厚みが2mmを超えると、防火安全ガラスを製造する際の経済性及び組み立て時の作業性も共に損なわれる。
【0017】
また、本発明の防火安全ガラスは、樹脂層が、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムであることが好ましい。また、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムが着色及び/又は模様を施されてなるものであると、多様な意匠表現を可能にするうえで好ましい。
【0018】
本発明において、樹脂層が、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムであるとは、樹脂層が、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル、紫外線硬化性樹脂よりなる半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムであるか、又は鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂よりなる厚みが0.2mm〜2mmの半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムであることを意味している。また、これらの樹脂の重合度や、添加剤等を調整することにより、半透明又は透明なフィルムにされたものである。また、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムが着色及び/又は模様を施されてなるものであるとは、使用場所に応じた透光性の着色フィルムや、建物の使用目的に応じたデザインの模様着き樹脂フィルム、プライバシー保護性能を発揮するような半透光性の模様着きの樹脂フィルム等を用いることを意味している。例えば、着色フィルムとして紫外線の遮蔽性能に加えて中赤外線を大幅に遮蔽し、日射熱を低減する機能を持つ樹脂フィルムの使用や、模様着きの樹脂フィルムとして服飾関係ビル内等で求められる意匠性を高める装飾が施された樹脂フィルムを使用することも可能であり、商品のバリエーションを増やすことができる。
【0019】
また、本発明の防火安全ガラスは、耐熱性封止材が耐熱テープであるとは、合わせガラスの耐熱板ガラスと樹脂より成る積層構造を呈する端面を、下方に配置される端部から全高の1/6以上で1/2未満に相当する一般的に曲面形状又は折れ曲がった形状の領域に亘って一体の帯状耐熱材により連続的に封止した構造になっていることを意味している。耐熱テープとしては、例えば、耐熱性及び強度を付与した複合材からなる耐熱アルミガラスクロステープ等が使用可能である。
【0020】
本発明に係る防火安全ガラスの製造方法は、複数枚の耐熱板ガラスを、樹脂層を介して互いに接着して合わせガラスを形成し、該合わせガラスの端面を全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止することを特徴とする。
【0021】
本発明の製造方法では、複数枚の耐熱板ガラスを使用してその間に樹脂層を介在させて合わせガラスを形成した後に、その合わせガラスの端面を、全高の1/6以上で1/2未満となる領域に亘って耐熱テープや耐熱性シーリング剤等の耐熱性封止材により連続的に封止することにより、上記本発明の防火安全ガラスを製造するものである。
【0022】
また、本発明の防火安全ガラスの製造方法は、第一の耐熱板ガラス表面の全面に亘って熱可塑性樹脂を配置し、該樹脂上に第二の耐熱板ガラスを配置して積層体を形成し、該積層体の周囲に真空用パッキンを装着し、オートクレーブ装置を使用して積層体内を減圧に維持しつつ加熱・加圧し、第一及び第二の耐熱板ガラスを熱圧着することにより合わせガラスを形成することを特徴とする。
【0023】
本発明の防火安全ガラスの製造方法で、使用する熱可塑性樹脂としては、PVB、EVA、PET、PC、アクリルや、鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂からなるもの等が使用可能である。また、熱可塑性樹脂を配置する方法としては、樹脂フイルムを載置する方法、重合前の流動性を有する樹脂液を塗布する方法や、溶媒に溶いた樹脂を塗布する方法等が使用可能である。
【0024】
本発明の製造方法で、積層体の全周の端面に装着する真空用パッキンとしては、材質がシリコーン、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等が使用可能であり、形状は板状、溝状等が使用可能である。この真空用パッキンには、積層体の内部を減圧するための排気用接続パイプが設けられており、オートクレーブ等の装置内に設けた排気口に接続して真空ポンプ等を用いた排気装置により減圧するようになっている。また、本発明の製造方法で積層体を処理するオートクレーブ装置等の加熱・加圧条件としては、180℃以下、15kgf/cm以下の適切な条件を組み合わせることができる。
【0025】
また、本発明の防火安全ガラスの製造方法は、第一の耐熱板ガラス表面の全面に亘って紫外線硬化性樹脂を塗布し、該紫外線硬化性樹脂上に第二の耐熱板ガラスを配置して積層体を形成し、次いで紫外線照射装置を使用して積層体内の紫外線硬化性樹脂を硬化させて合わせガラスを形成することを特徴とする。
【0026】
本発明の防火安全ガラスの製造方法で、使用する紫外線硬化性樹脂としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂等があり、建材用として実績のあるエポキシアクリレートを主成分とする紫外線硬化性樹脂が好ましい。このような紫外線硬化性樹脂を使用する場合には、室温条件で紫外線照射により硬化を行うことが可能であり、熱膨張係数の異なる耐熱板ガラスを合せても、耐熱板ガラスの反りや破損が無いため合せのバリエーションが増え好ましい。
【0027】
本発明に係る防火安全ガラス窓の施工方法は、上記本発明の防火安全ガラスの耐熱性封止材により封止された領域の端部を、施工枠の下方に設置することを特徴とする。
【0028】
本発明の防火安全ガラス窓の施工方法において、防火安全ガラスの耐熱性封止材により封止された領域の端部を、施工枠の下方に設置するとは、合わせガラスの耐熱板ガラスと樹脂層より成る積層構造を呈する端面が、全高の1/6以上で1/2未満に亘って耐熱性封止材により連続的に封止された領域の端部、例えば、矩形状の合わせガラスでは、耐熱性封止材で連続的に封止された合わせガラスの一辺の端面から両側のコーナー部を含んで連なる両側端面の下側1/6以上で1/2未満の領域の一辺を下方に向けて施工枠の下辺に設置することを意味している。また、円形の合わせガラスの場合には、耐熱性封止材により連続的に封止された直径の1/6以上で1/2未満の領域の中央部を施工枠の下方に設置するものである。本発明において使用する枠体としては、特定防火設備の遮炎性能の基準を満たすスチール製やステンレス製の板材を曲げ加工したものが使用可能であり、火災時の変形が小さいものが好ましい。本発明の施工方法によれば、火災時に合わせガラスの耐熱板ガラス間にある樹脂層が融けた場合に、施工枠の下枠内に樹脂層からの樹脂融液が漏れることがなく、かつ耐熱板ガラスが爆裂することがない防火安全ガラス窓を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の防火安全ガラスは、複数枚の耐熱板ガラスが樹脂層を介して互いに接着された合わせガラスからなり、該合わせガラスの端面が、全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止されてなるので、火災時の初期段階で耐熱板ガラス間にある樹脂層が融けた場合、樹脂層からの樹脂融液が合わせガラスの下方端面から流出せず、樹脂融液の漏出による非加熱側火炎の発生を防止することができ、本来の特定防火設備の高い火災遮断性能を発揮することができる。このとき、合わせガラスの両側端面の全高の1/6以上で1/2未満の下方領域以外は封止していないため、耐熱板ガラス間に発生するガスを容易に放出し得るので、耐熱板ガラスが爆裂する可能性を低減することができる。また、封止した部分は、枠内に隠れるために意匠上問題になることは無く、施工も特別の作業を有することはない。
【0030】
また、本発明の防火安全ガラスは、耐熱板ガラスとして、30〜750℃の温度範囲において−10×10−7/K以上で10×10−7/K以下の線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスを使用すると、火災により耐熱板ガラスの一方の透光面の温度が急速に上昇した場合でも、耐熱板ガラスが殆ど膨張しないため、火炎の加熱で生じる表裏面の温度差による変形を起こさず、放水による急冷等の熱衝撃による破壊を起こすことがなく、高い耐火性を実現することができる。また、耐熱結晶化ガラスは、他の物理強化された耐熱板ガラスのように施工現場での切断ができないものでなく、物理強化を施していないものであるので、通常の板ガラスと同様に施工現場での切断加工による調整が可能である。
【0031】
また、本発明の防火安全ガラスは、樹脂層が、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル、紫外線硬化性樹脂よりなるものであるか、又は、鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂よりなるものであると、厚みが0.2mm以上で2mm以下であるので、特にフッ素樹脂層が火災時には難燃性で空気中では燃え難く、高い防火性能を発揮することができる。また、使用する樹脂層の厚みが0.2mm〜2mmであるので、十分な透明性を確保した上で、防火安全ガラスを製造する際の経済性及び作業性を損うことなく平常時の破損に対してガラスの飛散防止や耐貫通性に効果を発揮する。
【0032】
また、本発明の防火安全ガラスは、樹脂層が、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムであると、防火安全ガラスを容易に製造することができる。また、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムが着色及び/又は模様を施されてなるものであると、耐熱板ガラスの間で奥行きのある多様な意匠表現が可能となり、防火安全ガラスの意匠設計の自由度を大きく広げることができ、商業施設等への施工に好適なものとなる。
【0033】
また、本発明の防火安全ガラスは、合わせガラスの端面を封止する耐熱性封止材が、耐熱テープであると、合わせガラスの全高の1/6以上で1/2未満となる端面の領域を短時間で簡単に封止することができ、多様な寸法・形状の要求に対しても高い防火性能及び安全性を発揮する上記本発明の防火安全ガラスを、短い製造期間で経済的に提供することが可能となる。
【0034】
本発明の防火安全ガラスの製造方法は、複数枚の耐熱板ガラスを、樹脂層を介して互いに接着して合わせガラスを形成し、該合わせガラスの端面を全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止するので、高い防火性能を及び安全性を発揮する上記本発明の防火安全ガラスを効率よく、かつ容易に製造することが可能となる。
【0035】
本発明に係る防火安全ガラス窓の施工方法は、上記本発明の防火安全ガラスの耐熱性封止材により封止された領域の端部を施工枠の下方に設置するので、火災時の初期段階で耐熱板ガラス間にある樹脂層が融けた場合に、施工枠の下枠内に溜まることがなく、非加熱側に火炎が発生せず、かつ樹脂層からのガス抜け不全による耐熱板ガラスの爆裂を起こすことのない高い防火性能を及び安全性を発揮する防火安全ガラス窓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の防火安全ガラスの要部説明図であって、(A)はテープ状の耐熱性シール材を使用した断面図、(B)は耐熱性接着剤を使用した断面図。
【図2】本発明のテープ状の耐熱性シール材を使用した防火安全ガラスのコーナー部の写真。
【図3】本発明の防火安全ガラスの製造方法の説明図であって、(A)は一方の透明板ガラスの上に素樹脂フィルムを配置する説明図(B)は樹脂フィルム付透明板ガラス上に、他方の透明板ガラスを配置する説明図、(C)は2枚の透明板ガラスの積層体の周囲に真空用パッキンを装着し、オートクレーブ装置で熱圧着処理を行う説明図、(D)は合わせガラスの断面図。
【図4】本発明の防火安全ガラスを使用した防火安全ガラス窓の一部破断説明図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の防火安全ガラス、その製造方法及び防火安全ガラス窓の施工方法の実施形態について、図を参照して説明する。
【実施例1】
【0038】
本実施例1の図1(A)、(B)に示す防火安全ガラス10は、透明で30〜750℃の温度範囲における線膨張係数が−2×10−7/Kの耐熱性結晶化ガラス(日本電気硝子株式会社製 名称:ファイアライト)からなる1200×2400×4mmの寸法を有する第一の耐熱板ガラス11と、耐熱性結晶化ガラスからなる同寸法を有する第二の耐熱板ガラス12とが、テトラフルオロエチレン(TFE)40重量%、ヘキサフルオロプロピレン(HEP)20重量%、ビニリデンフルオライド(VDF)40重量%の共重合体からなり、厚さ0.5mmの鎖状の分子構造のみからなるフッ素樹脂フィルム13を介して互いに接着された合わせガラス10aからなる。この合わせガラス10aの下方に配置される一辺の耐熱板ガラス11、12と樹脂フィルム13より成る積層構造を呈する端面10bから両側のコーナー部10c、10dを含む両側の端面10e、10fの高さ800mmで全高の約1/3に到る領域10gがアルミとガラスクロスとの複合テープ(株式会社ニトムズ製 名称:耐熱アルミガラスクロステープ テープ厚0.21mm)からなる耐熱性封止材17で封止されてなる。また、図1(C)に示すように、端面10b等の領域10gを耐熱性シーリング材(信越シリコーン社製 名称:シーラント74)からなる耐熱性封止材18で封止されてなるものでもよい。
【0039】
上記防火安全ガラス10を作製する場合には、まず、上記の耐熱性結晶化ガラスからなる第一の耐熱板ガラス11と、同寸法を有する第二の耐熱板ガラス12と、テトラフルオロエチレン(TFE)40重量%、ヘキサフルオロプロピレン(HEP)20重量%、ビニリデンフルオライド(VDF)40重量%の共重合体からなり、厚さ0.5mmの鎖状の分子構造のみからなるフッ素樹脂フィルム13を準備した。
【0040】
次に、図3(A)に示すように、1200×2400×4mmの第一の耐熱板ガラス11の全面に亘ってフッ素樹脂フィルム13を配置した後に、図3(B)に示すように、同寸法を有する第二の耐熱板ガラス12を揃えて載置して覆うことで図3(C)に示すような積層体14とした。この積層体14の周囲に真空用パッキン15を装着して積層体14の端面を真空用パッキン15の溝部に嵌め込む。この真空用パッキン15付きの積層体14をオートクレーブ装置16に入れ、真空用パッキン15の図示しない接続パイプを減圧ポンプにつながれたオートクレーブ装置16内の図示しない接続部に接続し、減圧して耐熱板ガラス11、12の端部に発生する気泡を取り除きつつ、140℃、12kgf/cmの環境下で15分保持して熱圧着処理を行った。その後、オートクレーブ装置16から積層体14を取り出して真空用パッキン15を取り除き、図3(D)に示すような合わせガラス10aを形成して、図1(A)、(B)に示す合わせガラス10aの下枠に施工される1200mmの短辺の端面10bから、その両側のコーナー部10c、10dを含み両側端面10e、10fの下辺から高さ800mmのところまでの端面の領域10gに上記の耐熱アルミガラスクロステープからなる耐熱性封止材17を貼り付けることにより封止して防火安全ガラス10を得た。
【0041】
次に、本実施例の防火安全ガラスを用いた防火安全ガラス窓について説明する。
【0042】
次に、図4に示すように、上記寸法の防火安全ガラス10の評価試験を実施するためにスチール製で厚み1.6mmの試験用窓枠40に、防火安全ガラス10をセットして防火安全ガラス窓50とした。窓枠40の見付寸法は、幅1184mm、高さ2380mm(のみ込み寸法が、左右8mm、上下10mm)である。
【0043】
この防火安全ガラス窓50を用いて特定防火設備の評価試験と同様の加熱試験を実施した。加熱試験の加熱条件は、加熱温度T(平均炉内温度)が以下に示す数1に従う。本加熱試験では加熱時間t(試験の経過時間)は60分とした。
【0044】
【数1】

【0045】
試験状況は、加熱開始7分15秒でガラス中央部の樹脂フィルム13が融け始め、次第に全面に広がると供に、融けたフィルムが重力に伴い下の方に移動していく。この時合わせガラス10aの下部に樹脂フィルム13が融けた融液が溜まり沸騰状態となるが、下枠40aへの融液の漏出は見られなかった。その後、加熱開始11分20秒で合わせガラス10aの両側端面10e、10fの耐熱性封止材17で封止されていない高さ方向のほぼ中央部から、加熱側で炎と煙が発生し、第一及び第二の耐熱板ガラス11、12の間に樹脂フィルム13のガスが溜まることなく予期した通りにガス抜きが完了した。その後、加熱開始20分で耐熱板ガラス11、12の間に留まった樹脂フィルム13が黒く変色し、その状態で加熱60分まで経過した。その結果、第一及び第二の耐熱板ガラス11、12に有害な変形などは発生せず、破損を起こすことなく火炎の貫通を防止することができ、試験判定は合格となった。
【実施例2】
【0046】
図1に示す防火安全ガラス10と同様な構成で、透明な耐熱板ガラスの間に、薄い白色の和紙模様が施された模様付きフッ素樹脂フィルムを配置して防火安全ガラスを作製した。この防火安全ガラスを使用して図4に示す防火安全ガラス窓50と同様な構成で施工した防火安全ガラス窓は、過去にはなかった奥行き感のある薄い白色の和紙模様の外観を呈するものとなった。
【実施例3】
【0047】
実施例3の防火安全ガラス(図示省略)は、透明で熱膨張係数が−2×10−7/Kの耐熱性結晶化ガラス(日本電気硝子株式会社製 名称:ファイアライト)からなり、先の図1に示す防火安全ガラス10と同様の1200×2400×4mmの寸法を有する第一の耐熱板ガラスと、同寸法を有し透明で熱膨張係数が88×10−7/Kの耐熱強化ガラス(日本板硝子株式会社製 名称:パイロクリア)とが、エポキシアクリレートを主成分とする紫外線硬化性樹脂からなる樹脂層を介して互いに接着された合わせガラスからなるものである。この合わせガラスの下枠に施工される1200mmの短辺の端面から、その両側のコーナー部を含む側面の下辺から高さ800mmに到る耐熱板ガラスの合わせ面開口部が上記の耐熱アルミガラスクロステープからなる耐熱性シール材で封止されている。実施例3の防火安全ガラスは、耐熱強化ガラスを使用することで、両面に耐熱結晶化ガラスを使用したものに比べて安価であり、かつ面内強度が強いという特徴があり、従来の製品に比べ価格及び強度性能に優れた防火安全ガラスを提供することができる。
【0048】
実施例3の防火安全ガラスを製造する場合、まず、第一の耐熱板ガラス表面の全面に亘ってエポキシアクリレートを主成分とする紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線硬化性樹脂上に第二の耐熱強化ガラスを配置して積層体を形成する。次いで、紫外線照射装置を使用して常温下で紫外線を照射することにより、積層体内の紫外線硬化性樹脂を硬化させて合わせガラスを形成する。この合わせガラスの下方に配置される1200mmの短辺の端面から、その両側のコーナー部を含む側面の下辺から高さ800mmに到る耐熱板ガラスの合わせ面開口部を、上記の耐熱アルミガラスクロステープからなる耐熱性シール材で封止する。
【0049】
なお、上記実施の形態では、耐熱性結晶化ガラス同士の合わせガラス、及び耐熱性結晶化ガラスと耐熱強化ガラスの合わせガラスを使用した例を示したが、硼珪酸ガラスからなる低膨張防火ガラスとの合わせガラスでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、合わせガラスの板ガラス間の樹脂層が融けた場合に、樹脂の融液が合わせガラス下方の端面から施工枠の下枠内に流れ出すことがない合わせガラス窓を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 防火安全ガラス
10a 合わせガラス
10b 下端面
10c、10d コーナー部
10e、10f 両側端面
10g 封止される端面の領域
11、12 耐熱板ガラス
13 樹脂フィルム(樹脂層)
14 積層体
15 真空用パッキン
16 オートクレーブ装置
17、18 耐熱性封止材
40 窓枠
40a 下枠
50 防火安全ガラス窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の耐熱板ガラスが樹脂層を介して互いに接着された合わせガラスからなり、該合わせガラスの端面が、全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止されてなることを特徴とする防火安全ガラス。
【請求項2】
耐熱板ガラスが、−10×10−7/K以上で10×10−7/K以下の線膨張係数を有する耐熱結晶化ガラスからなることを特徴とする請求項1に記載の防火安全ガラス。
【請求項3】
樹脂層が、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル、紫外線硬化性樹脂よりなるものであるか、又は鎖状の分子構造を有するフッ素樹脂よりなるものであり、該樹脂層の厚みが0.2mm以上で2mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防火安全ガラス。
【請求項4】
樹脂層が、半透明樹脂フィルム又は透明樹脂フィルムであることを特徴とする請求項3に記載の防火安全ガラス。
【請求項5】
耐熱性封止材が、耐熱テープであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の防火安全ガラス。
【請求項6】
複数枚の耐熱板ガラスを、樹脂層を介して互いに接着して合わせガラスを形成し、該合わせガラスの端面を全高の1/6以上で1/2未満に相当する領域に亘って耐熱性封止材により連続的に封止することを特徴とする防火安全ガラスの製造方法。
【請求項7】
第一の耐熱板ガラス表面の全面に亘って熱可塑性樹脂を配置し、該樹脂上に第二の耐熱板ガラスを配置して積層体を形成し、該積層体の周囲に真空用パッキンを装着し、オートクレーブ装置を使用して積層体内を減圧に維持しつつ加熱・加圧し、第一及び第二の耐熱板ガラスを熱圧着することにより合わせガラスを形成することを特徴とする請求項6に記載の防火安全ガラスの製造方法。
【請求項8】
第一の耐熱板ガラス表面の全面に亘って紫外線硬化性樹脂を塗布し、該紫外線硬化性樹脂上に第二の耐熱板ガラスを配置して積層体を形成し、次いで紫外線照射装置を使用して積層体内の紫外線硬化性樹脂を硬化させて合わせガラスを形成することを特徴とする請求項6に記載の防火安全ガラスの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項5の何れかに記載の防火安全ガラスの耐熱性封止材により封止された領域の端部を、施工枠の下方に設置することを特徴とする防火安全ガラス窓の施工方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−13338(P2010−13338A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25522(P2009−25522)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】