説明

防眩性偏光フィルム積層体及びそれを用いた液晶表示装置

【課題】 ヘイズ値を高めることなく、高度の防眩性が付与され、視野角特性も改善された防眩性偏光フィルム積層体を提供し、それを用いて、防眩性と表示特性に優れた液晶表示装置とする。
【解決手段】 防眩層15と直線偏光子30と光学異方性層40とがこの順に積層され、防眩性偏光フィルム積層体10が構成される。防眩層15は、表面に多数の微細な球面が形成された防眩面を有し、その防眩面を上から観察したときの各球面ドメインのうち、高さが0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下である。また光学異方性層40は、光学的に負又は正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜したものである。この積層体10をTN型液晶セル50の表示面側に配置して、液晶表示装置とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などに好適に用いられる偏光フィルム積層体及びそれを用いた液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、軽量、薄型、低消費電力などの特徴から、携帯用テレビ、ノート型パーソナルコンピュータなどに利用が進んでおり、今日では、大型テレビ等の映像観賞用機器への応用も進んでいる。テレビ受像機等、映像を表示する目的で用いられる液晶表示装置では、視認性、特に正面から観察したときのコントラスト比と、斜め方向から観察したときのコントラスト比、すなわち視野角特性が重要視される。
【0003】
従来のツイステッドネマチック(以下、TNと略称する)型液晶表示装置では、セル内の液晶物質のプレチルトに起因する位相差の異方性により、視野角特性が十分なものではなかった。そこで、特開平 6-214116 号公報(特許文献1)には、負の一軸性を示し、その光学軸がフィルム面に対して斜め方向となるように配置された光学異方性層を、TN型液晶表示装置における液晶セルと偏光板の間に配置することが開示されている。また、特開平 10-186356号公報(特許文献2)には、正の一軸性を示す液晶性高分子が液晶状態において形成したネマチックハイブリッド配向を固定化してなる光学補償フィルムが開示されており、この光学補償フィルムをTN型液晶表示装置に適用して、視野角の拡大を図ることも開示されている。このような、光軸がフィルム面に対して斜め方向にある光学異方性層を光学補償フィルムとして用いることにより、TN型液晶表示装置における視野角の改良がなされている。
【0004】
一方で、液晶表示装置をはじめとする画像表示装置は、その画像表示面に外光が映り込むと、視認性が著しく損なわれるため、画質や視認性を重視するテレビやパーソナルコンピュータなどの用途では、これらの映り込みを防止する処理が表示装置表面になされるのが通例である。映り込み防止処理としては、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかすいわゆる防眩処理が、比較的安価に実現できるため、大型のパーソナルコンピュータやモニター、テレビなどの用途に好適に用いられている。このような防眩性を付与するフィルムとして、例えば、特開 2002-365410号公報(特許文献3)には、表面に微細な凹凸が形成された光学フィルムであって、そのフィルムの表面に、法線に対して−10°方向から光線を入射し、表面からの反射光のみを観測したときの反射光のプロファイルが特定の関係を満たす防眩性光学フィルムが開示されている。
【0005】
また、防眩性光学フィルムに直接関係するものではないが、ガラスの表面をフッ化水素酸によりエッチングする技術も公知である。例えば、特開 2002-90732 号公報(特許文献4)には、ガラスの表面に、フッ化水素酸を用いた2段階のエッチングにより平均直径が6μm 前後の凹部を形成させ、こうして凹凸が形成されたガラスを液晶表示パネル用の反射板とすることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−214116号公報
【特許文献2】特開平10−186356号公報
【特許文献3】特開2002−365410号公報
【特許文献4】特開2002−90732号公報(特許請求の範囲、段落0049〜0055、実施例1〜2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、従来一般に、外光の映り込みを防ぎ、十分な視認性を確保するためには、20%以上の高いヘイズ値を示す防眩フィルムを用いることが必要といわれており、このようなヘイズ値の高い防眩フィルムが、ノート型パーソナルコンピュータやテレビなどに多く用いられてきた。しかしながら、20%以上の高いヘイズ値を示す防眩フィルムは、その広い反射散乱特性のため、明室内で測定されるコントラストが低下するという問題点があった。また、液晶表示装置が本来有するところの、暗室内で測定されるコントラストをも低下させることが問題であった。
【0008】
本発明者は、かかる問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、直線偏光子の片面に、特定の表面形状を有する防眩層を配置し、防眩層と反対側の面には、フィルム法線方向から傾斜した光学軸を有する光学異方性層を配置することにより、液晶表示装置における上記の如き問題点が解決できることを見出し、さらに種々の検討を加え、本発明を完成するに至った。
【0009】
そこで本発明の目的は、ヘイズ値を高めることなく、高度の防眩性が付与され、視野角特性も改善された防眩性偏光フィルム積層体を提供することにある。本発明のもう一つの目的は、この防眩性偏光フィルム積層体を用いて、十分な防眩性を有し、表示特性も良好な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明による防眩性偏光フィルム積層体は、防眩層と直線偏光子と光学異方性層とがこの順に積層されてなり、前記の防眩層は、表面に多数の微細な球面が形成された防眩面を有し、その防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下であり、そして前記の光学異方性層は、光学的に負又は正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜したものである。
【0011】
この防眩性偏光フィルム積層体において、前記の防眩層は、フッ化水素を含む水溶液でエッチングすることにより表面に微細な凹凸が形成されたガラスを鋳型とし、その形状を透明樹脂フィルム上に写し取ることにより、透明樹脂フィルム上に微細球面を形成したものであるのが有利である。ここで、透明樹脂フィルムは、紫外線硬化樹脂又は熱可塑性樹脂であることができる。防眩層は、そのヘイズ値が10%以下となるようにすることができる。また、前記の光学異方性層は特に、光学的に負の一軸性であるのが有利である。
【0012】
さらに本発明によれば、2枚の電極基板間にTN型液晶を挟持してなる液晶セルの両面に偏光板が配置された液晶表示装置であって、表示面側に位置する偏光板は、上記いずれかの防眩性偏光フィルム積層体であり、その光学異方性層側が液晶セルに面するように配置されている液晶表示装置も提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防眩性偏光フィルム積層体は、表面に微細な凹凸が形成されて防眩性を有するにもかかわらず、ヘイズ値を低くすることができ、それを液晶表示装置、特にTN型液晶の配向状態を制御して表示を行う液晶表示装置に適用したときに、高いコントラストを得ることができる。また本発明の液晶表示装置は、高い防眩性能を有するとともにコントラストも高くできるので、明るくて視認性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付の図面も適宜参照しながら、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係る偏光フィルム積層体の例を示す断面模式図であり、図2は、ボロノイ分割を説明するためのボロノイ図の例であり、図3は、防眩層を得るための好ましい形態を工程毎に示す断面模式図であり、図4は、エッチングの進行状況を模式的に示す断面図であり、図5は、本発明に係る液晶表示装置の一例を示す断面模式図であり、図6は、本発明に係る液晶表示装置のもう一つの例を示す断面模式図である。
【0015】
図1を参照して、本発明の防眩性偏光フィルム積層体10は、防眩層15と直線偏光子30と光学異方性層40とがこの順に積層されたものである。そして防眩層15は、表面に多数の微細な球面が形成された防眩面を有し、その防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下であるもので構成する。また光学異方性層40は、光学的に負又は正の一軸性であり、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜したもので構成する。
【0016】
ここで、防眩層15の防眩面を上から見ると、いわゆるボロノイ分割と同様に観察される。ボロノイ分割について、ボロノイ(Voronoi )図の例を示す図2に基づき説明する。この図に示すように、平面上にいくつかの点(母点という)が配置されているとき、その平面内の任意の点がどの母点に最も近いかによりその平面を分割してできる図を、ボロノイ図といい、その分割のことをボロノイ分割という。分割によって得られる一つの母点を含む個々の区画をボロノイ領域(又はドメイン)と呼ぶ。図2では、一つのボロノイ領域に対してだけ、斜線を付している。この図に示す例では、母点の数が10であり、ボロノイ領域は10個に分かれている。一般にボロノイ図では、母点の数とボロノイ領域の数は一致する。ボロノイ領域の境界の線はボロノイ境界と呼ばれ、また、ボロノイ境界の交点はボロノイ点と呼ばれる。
【0017】
そして、本発明による防眩面を上から顕微鏡などで見ると、図2に示したようなボロノイ分割された状態と同様に、多角形のドメインに分割された状態で観察される。ただし、母点を定めてボロノイ分割するわけではない。各ドメインが球面を形成しており、ボロノイ境界に相当する図4で直線となっている部分は、上から見たときは直線で観察されるのであるが、その直線に沿う縦断面で見ると、凸又は凹の曲線となる。
【0018】
この防眩面は、ほぼ全表面が微細な球面状の凸又は凹で覆い尽くされた形状である。すなわち、その防眩面を構成する微細球面からなる各ドメインのうち、高さが 0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2の範囲にあるドメインが、全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下となるようにする。なお、上の説明からわかるように、ここでいうドメインの面積は、球面の表面積ではなく、フィルム面への投影面積ないしは、上から見て平面的に観察される状態の多角形の面積である。また、ドメインの面積が25〜2,500μm2 ということは、その平方根を仮にドメインの径とすると、当該径が5〜50μm であることに相当する。
【0019】
上記のような表面形状を有する防眩面は、いくつかの手法で作製することができるが、例えば、フッ化水素を含む水溶液でエッチングすることにより表面に微細な凹凸が形成されたガラスをエンボス鋳型として用い、その凹凸形状を透明樹脂フィルム上に写し取る方法が、有利に採用される。
【0020】
エンボス鋳型の原版としては、SiO2 を主成分とする一般的なガラスを用いることができる。ガラスは、青ガラスと呼ばれるソーダ石灰ガラス、白ガラスと呼ばれるホウ珪酸ガラス、また石英ガラスなどであることができる。フッ化水素を含む水溶液によりエッチング可能なガラスであって、この水溶液により等方的に溶解する材料であれば、特に制限なく使用可能であるが、エッチングにより表面に発生した微細凹凸形状を透明樹脂フィルムに転写する工程で、熱プレス又は、電離放射線硬化型樹脂が塗布された透明基材を凹凸表面に密着させた状態で電離放射線の照射を受けるなどの工程にさらされるため、これらの処理に耐える材料であることが望まれる。そこで、ガラスの材質としては、熱や電離放射線に対する耐性が高いこと、機械的な強度が高いことなどが望まれ、そのためには、ホウ珪酸ガラス又は石英ガラスが好ましく用いられる。
【0021】
また、エンボス鋳型が円筒状であれば、連続した長尺フィルム上にエンボス加工を連続的に行うことができるため、ガラスは円筒形状を有することが好ましく、円筒状又は管状のものの入手が比較的容易であるという点からも、ガラスの材質は、ホウ珪酸ガラス又は石英ガラスであることが好ましい。ホウ珪酸ガラスは、例えば、コーニング(Corning )社(日本では旭テクノグラス株式会社)やショット(Schott)社などから、“パイレックス(Pyrex )”や“テンパックス(Tempax)”などの商品名で販売されており、これらを用いることができる。
【0022】
ガラスは、フッ化水素を含む水溶液との接触により、エッチングされる。このエッチングにより、表面にほぼ球面からなる凹形状が実質的に隙間なく配置された微細な凹凸形状を形成させる。そのためには、ガラスの表面に予め微細な傷を発生させておくのが好ましい。
【0023】
背景技術の項でも述べた如く、一般にガラス表面に凹凸形状を発生させる手法として、フッ化水素酸を用いたエッチングが知られており、前記した特許文献4には、かかる方法によって凹凸が形成されたガラスを液晶表示パネル用の反射板とすることが開示されている。具体的には、フッ化水素とフッ化アンモニウムを含有する第一エッチング液で1次エッチングを行い、ガラスの主成分であるSiO2 との反応で生じる不溶性の塩によりガラスの表面に不均質な保護膜を形成させ、これによりフッ化水素酸によるエッチングを不均質に進行させ、表面に微細な凹部を形成させた後、アンモニウム化合物を含まない事実上フッ化水素酸のみからなる第二エッチング液で2次エッチングを行い、上記の凹部をエッチング起点として半球状の凹曲面が形成されることが記載されている。ガラスとして最も一般的なのは、ソーダ石灰ガラスである。このような2段エッチングによってガラス表面に凹凸を形成し、これを防眩層用の鋳型として用いることもできる。
【0024】
しかしながら、ロール形状の実現が容易なホウ珪酸ガラスや石英ガラスなどでは、ガラス自体のエッチング速度が遅いため、不溶性塩の析出条件とこれによる表面凹凸形成条件のバランスがとれず、フッ化アンモニウムを用いた凹凸形成の安定性があまり高いとはいえない。かかる不具合を避けるためには、エッチング前にガラスの表面に微細な傷(クラック)を発生させておき、この状態でフッ化水素を含む水溶液によりエッチングするのが有効である。ガラスの表面に微細な傷を発生させる方法として、例えば、ブラスト処理を挙げることができる。
【0025】
そこで、好ましい形態では、表面に微細な傷を形成させた後、フッ化水素を含む水溶液と接触させることにより表面に微細な凹凸形状を形成させたガラスを鋳型として用い、その表面の凹凸形状を透明樹脂フィルムの表面に転写する。この方法について、各工程を模式的な断面図で示す図3に基づいて説明する。
【0026】
図3の(A)は、ガラス20の表面に傷(クラック)21を発生させる手段としてブラスト処理を採用した場合の例を示すものである。ガラス20の表面に適当な圧力でブラスト剤28を衝突させると、微細な傷21,21が形成される。
【0027】
次に同図(B)に示すエッチング工程では、フッ化水素を含む水溶液(エッチング液)にこのガラス20を接触させ、エッチングを施す。この際、エッチング液は、ガラス20の表面に接触するとともに、傷21,21の内部に浸透してその先端まで到達し、接触している面を順次溶かしていく。そうすると、傷21,21の先端を中心に、凹部が順次、同心円状に広がっていく。図1の(B)では、当初のガラス面22から出発して、エッチング途中のガラス面23,24へと順次ガラスが溶解していく様子を破線で示している。エッチング終了時には、ほぼ球面からなる多数の凹形状25が実質的に隙間なく配置された微細な凹凸形状が形成されて、ガラス鋳型26となる。
【0028】
こうして得られるガラス鋳型26を用いて、同図(C)に示すように、その凹凸面25をフィルム16に転写する。フィルム16は、熱可塑性の透明樹脂1枚で構成することができ、この場合は、熱可塑性樹脂フィルム16を加熱状態で鋳型26の凹凸面25に押し当てて、熱プレスにより賦型すればよい。また、フィルム16は、図3の(C)に例示するような、透明な基材フィルム17の表面に電離放射線硬化型樹脂層18を形成したもので構成することもでき、この場合は、その電離放射線硬化型樹脂層18を鋳型26の凹凸面25と接触させ、電離放射線を照射してその樹脂層18を硬化させることにより、鋳型26の凹凸形状が電離放射線硬化型樹脂層18に転写される。これらのフィルムについては、後で詳しく説明する。
【0029】
鋳型26の凹凸形状を転写した後は、同図(D)に示すように、鋳型26からフィルム16を剥離して、防眩フィルム(防眩層)15が得られる。
【0030】
図3の(B)に示したエッチングの進行状況について、一つの傷21にだけ着目し、その部分の拡大図である図4を参照しながら、さらに詳しく説明する。この図でも、当初のガラス面は符号22で表されており、エッチングの進行につれてガラス面23,24へと順次ガラスが溶解していき、エッチング終了時には凹凸面25が形成されるように表示されている。
【0031】
傷21が図4のように形成されているとする。この状態でガラス20をエッチング液に接触させると、エッチング液はガラス表面に接触するとともに、傷21の内部に浸透してその先端21aまで到達する。そしてエッチング液は、接触している部分のガラスを順次溶解していく。すなわち、当初のガラス面22からは平面的に徐々に溶解(エッチング)が進行していくとともに、傷21からは横方向にガラスを溶解していき、その先端21aからは、半球状にガラスを溶解していくことになる。今、当初のガラス面22から傷21の深さとほぼ等しい深さh1 (ガラス面23)までエッチングが進んだとすると、傷21の先端21aから始まったエッチング面は、半径がほぼh1 でほぼ半球状の凹面となる。
【0032】
さらにエッチングが進むと、この凹面は先の半球と同心円状に広がっていくが、ガラス面も同時に符号23の位置から符号24の位置へと削られていくため、局率半径が大きくてガラス表面に対する傾きの小さい部分球面として残ることになる。図4では、傷21の深さに対して約2倍の深さh2 までエッチングを進行させた状態が、ガラス面24としてやはり破線で示されている。最終的には、球面のごく一部である凹面25が残ることになる。当初のガラス面22からエッチング終了時に残っているガラス面までの高さh3 をエッチング深さとする。
【0033】
なお図4では、作図の都合上、傷21の深さに対して約3倍の深さまでエッチングが進んだところで終了したように表示しているが、実際にはさらに深いところまでエッチングを進行させるのが好ましい。逆にいうと、傷21の深さは、エッチング深さに比べてごく小さいことが好ましい。また、エッチング終了時にも平坦部が残るような表示になっているが、これは一つの傷21にだけ着目して描画したためであって、実際には、隣接する位置にある傷からも別の凹面が広がってくるので、エッチング終了時には平坦部が事実上残らないようになる。
【0034】
このように、エッチングでガラスの表面をある程度溶解させ、また好ましい形態では、エッチングに先立ってガラスの表面に微細な傷を形成させることから、用いるガラスはある程度の厚さを有する必要があり、その厚さは1mm以上、とりわけ2mm以上であるのが好ましい。
【0035】
図3に戻って、ブラスト処理等で微細な傷21を発生させたガラス20の表面を等方的に溶解させるエッチング液で処理することにより、実質的に球面である凹面25がガラス20の表面に多数形成される。エッチングにより形成される凹部のサイズは、ブラスト処理により発生した傷21の深さ及びエッチング深さに依存するため、ブラスト処理は可能な限り均質に行うことが望まれる。エッチングにより形成される多球面の各ドメインは、図2を参照して先に説明したボロノイ分割のボロノイ領域と同様に観察される。各ドメインのサイズは、各ドメインの面積で表わされる。
【0036】
ブラスト処理により発生させる微細な傷21の深さは、10μm 以下であるのが好ましく、さらには2μm 以下であるのがより好ましい。防眩層が発現するヘイズは、エッチング深さが浅いほど、またエッチング前に形成される微細な傷21の平均深さが深いほど、高くなる傾向にあるため、微細な傷21の深さが10μm を超えると、防眩層のヘイズが高くなりすぎる。各ドメインの面積は、エッチング深さが深いほど、またエッチング前に形成される微細な傷21の平均深さが深いほど、大きくなる傾向にある。
【0037】
エッチングにより形成されるガラスの凹凸面を透明樹脂フィルムに転写して得られる防眩層が、25〜2,500μm2 の範囲のドメイン面積を有し、10%以下のヘイズ値を示すようにするためには、エッチング前にブラスト処理によりガラス表面に発生させる微細な傷21の平均的な深さを5μm以下、さらには2μm以下とするのが好ましい。エッチング深さは、ブラスト処理により発生させた微細な傷21の平均深さの10倍以上となるようにするのが好ましく、さらには20倍以上、とりわけ50倍以上となるようにするのが一層好ましく、また300μm以下、さらには100〜200μmとなるようにするのが好ましい。エッチング深さが300μm を超えた場合、ドメインの面積が大きくなりすぎ、その凹凸を透明樹脂フィルムに転写して得られる防眩層において、25〜2,500μm2 の面積範囲にあるドメインの占める面積が全表面の90%を下回る可能性があるため、好ましくない。
【0038】
ガラスの種類、エッチング液の濃度、エッチング条件などにより、要するエッチング時間は変化するが、いずれのガラス、いずれの条件を採用しても、エッチング深さが一定であれば、ほぼ同様な結果を得ることができる。
【0039】
エッチングにより形成される多球面形状は、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占めるようにする。このため、ブラスト処理は可能な限り均質に行うことが望まれる。ドメイン面積の均質性を高めるためには、ブラスト処理に用いられるブラスト剤の粒径分布はできるだけ単分散に近いことが好ましい。ブラスト剤の粒径分布が広い場合、微細な傷21の深さ分布が広くなり、エッチングにより形成される球面形状の各ドメインに分布を生じ、面積が25〜2,500μm2 であるドメインの占める割合が全表面の90%を下回る可能性があるため、好ましくない。
【0040】
また、ブラスト剤28の粒子形状は、球形に近いほど好ましい。ブラスト剤が球状であれば、ブラスト処理時のガラスとの衝突形態が単一となるため、微細な傷の深さの均質性を高めるために有効である。
【0041】
ブラスト剤28の平均粒径は、ブラスト条件により適宜選択することが可能であるが、180μm 以下であるのが好ましく、より好ましくは100μm 以下である。ブラスト粒子の粒径が180μm を超えると、微細な傷21の深さを2μm 以下にしようとした場合に、ブラスト圧力が極端に低くなり、ブラスト操作自体が難しくなる。その結果、ブラスト処理後のガラスをエッチングして得られる凹凸面に存在する平坦部が全表面の10%を超えてしまう可能性があり、これを鋳型として形状を転写することにより得られる防眩面は、防眩性が弱く、映り込みを十分に低減させることが難しくなるため、好ましくない。
【0042】
この目的に使用できる市販のブラスト剤としては、例えば、東ソー株式会社から販売されているジルコニアビーズ“TZ-B53”(平均粒径53μm )、同じく“TZ-B90”(平均粒径90μm )など、またマテリアルサイエンス株式会社から販売されているマイクロジルコンビーズ“MB-20”(平均粒径20μm )、同じく“MB-40”(平均粒径34μm )などが挙げられる。
【0043】
ブラスト処理で形成される微細な傷21の深さを2μm 以下とするためには、ブラスト圧力を0.01〜0.05MPa(ゲージ圧、以下同じ) の範囲から、ブラスト剤の粒径などに応じて選択するのが好ましい。すなわち、その後のエッチングによりガラス表面にほぼ球面の凹形状が実質的に隙間なく形成されるような傷が形成される条件が採用される。ブラスト圧力が大きくなると、エッチングの結果として得られる微細凹部のサイズが大きくなりすぎ、柄目が粗くなってしまう。一方、ブラスト圧力が小さすぎると、ブラスト粒子がガラス表面で弾性衝突を起こし、有効な微細クラックの密度が激減する。その結果、ブラスト処理後のガラスをエッチングして得られる凹凸面に存在する平坦部が全表面の10%を超えてしまう可能性があり、これを鋳型として形状を転写することにより得られる防眩面は、防眩性が弱く、映り込みを十分に低減させることが難しくなるため、好ましくない。ブラスト圧力が小さい場合に有効な微細クラックの密度が減る傾向は、ブラスト粒子が50μm を下回るほど小さいときに顕著に現れる。また、ブラスト圧力が0.01MPaを下回ると、ブラスト操作自体の安定性が低下してしまうことからも、好ましくない。ブラスト剤の粒径にもよるが、ブラスト圧力が 0.01〜0.05MPaの範囲内で、ブラスト剤の粒径と適切に組み合わせれば、深さ2μm 以下の微細な傷をガラス表面に高密度に効率よく発生させることができる。
【0044】
得られる防眩層に十分な防眩性を付与するためには、ブラスト剤はガラス面積4cm2 あたり10g以上使用するべきであり、好ましくは100g以上である。ガラス面積4cm2 あたりのブラスト剤の使用量が10gを下回る場合、有効な微細クラック密度が不足するため、エッチング後に発生する凹部がまばらになりすぎる。この結果、エッチング後に得られる凹凸面に存在する平坦部が全表面の10%を超えてしまう可能性があり、これを鋳型として形状を転写することにより得られる防眩面は、防眩性が弱く、映り込みを十分に低減させることができなくなる可能性があるため、好ましくない。
【0045】
エッチング液は、フッ化水素を含み、ガラスの主成分であるSiO2 を溶解する能力を有すればよい。このような観点からすれば、フッ化水素(HF)の濃度は、1〜50重量%程度の範囲から適宜選択される。フッ化水素の濃度があまり小さくなると、SiO2 を溶解する能力ないしはエッチング速度が極端に低下し、一方でその濃度があまり高くなると、フッ化水素自体が揮発しやすくなる。エッチング液中のフッ化水素の濃度は、好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上であり、また好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下である。エッチング液には、エッチングの安定性やエッチング速度を上げるために、フッ化アンモニウムなどのアンモニウム塩や、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などのプロトン酸を添加することもできる。
【0046】
エッチング温度は、必要なエッチング速度を得るために適宜設定されるべきであるが、10〜60℃の範囲が好ましく、とりわけ20℃以上、また50℃以下がより好ましい。10℃以下では実用的なエッチング速度が得られないことに加え、SiO2 とフッ化水素の反応生成物の結晶化が起こり、ガラス表面に析出するため、得られる微細凹凸表面が粗くなり、また多球面形状以外の表面ができ、その結果、防眩面が白ちゃけやすくなる傾向にある。一方でエッチング温度が60℃を超えた場合、フッ化水素の蒸発によりエッチング中に液組成の変化が起こるため、好ましくない。
【0047】
エッチングが終了した後、ガラスは直ちに、水、好ましくは純水で十分に洗浄し、次いで乾燥して、エンボス加工の鋳型とされる。
【0048】
かくして得られる表面に凹凸形状が形成されたガラスは、図3(C)を参照して先に説明したとおり、フィルム16の表面にその形状を転写するための鋳型26として用いられる。この際、任意の方法でフィルム表面に鋳型の形状を転写することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムの表面に、凹凸形状を有するガラス鋳型26を熱プレスし、熱可塑性樹脂フィルムの表面にガラス鋳型26の凹凸形状を転写する方法や、電離放射線硬化型樹脂を透明樹脂フィルムの表面に塗布し、未硬化状態でその電離放射線硬化型樹脂塗布層をガラス鋳型26の凹凸面に密着させ、フィルム越し又はガラス鋳型越しに電離放射線を照射して硬化させ、ガラス鋳型26の凹凸形状を転写する方法などが採用できる。転写後は、図3の(D)に示すように、鋳型からフィルム16を剥離して、防眩層15が得られる。表面の傷つき防止など、機械的強度の観点からは、電離放射線硬化型樹脂を用いる方法が好ましく採用される。
【0049】
このときに用いられる透明樹脂は、実質的に光学的な透明性を有するフィルムであればよい。具体的には、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートの如きセルロース系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリ塩化ビニルなどが例示される。シクロオレフィン系ポリマーは、ノルボルネンやジメタノオクタヒドロナフタレンのような環状オレフィンをモノマーとする樹脂であり、市販品としては、JSR株式会社から販売されている“アートン”、日本ゼオン株式会社から販売されている“ゼオノア”や“ゼオネックス”(いずれも商品名)などがある。
【0050】
これらの中で、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィン系ポリマーなどからなる熱可塑性を有する透明樹脂フィルムは、凹凸形状を有するガラス鋳型に、適当な温度でプレス又は圧着した後、剥離することにより、ガラス鋳型表面の凹凸形状をフィルム表面に転写するのに用いることができる。また、透明フィルムとして偏光板を用い、直接偏光板表面にガラスの凹凸形状を転写することもできる。
【0051】
一方、電離放射線硬化型樹脂を使用して形状を転写する場合の電離放射線硬化型樹脂としては、分子内に1個以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましく用いられるが、防眩面の機械的強度を向上させるために、3官能以上のアクリレート、すなわち、分子内に3個以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物が、より好ましく用いられる。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが例示される。また、防眩面に可撓性を付与して割れにくくするために、分子内にウレタン結合を有するアクリレート化合物も好ましく用いられる。具体的には、トリメチロールプロパンジアクリレートやペンタエリスリトールトリアクリレートの如き、分子内にアクリロイルオキシ基とともに少なくとも1個の水酸基を有する化合物2分子と、ヘキサメチレンジイソシアネートやトリレンジイソシアネートの如きジイソシアネート化合物との付加体等のウレタンアクリレートが例示される。この他、エーテルアクリレート系、エステルアクリレート系等、電離放射線によりラジカル重合を開始し、硬化するその他のアクリル系樹脂も用いることができる。
【0052】
また、エポキシ系やオキセタン系等、カチオン重合性の電離放射線硬化型樹脂も、硬化後に凹凸が賦型される樹脂として用いることができる。この場合は例えば、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼンやビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルの如きカチオン重合性多官能オキセタン化合物と、(4−メチルフェニル)〔4−(2−メチルプロピル)フェニル〕ヨードニウム ヘキサフルオロフォスフェートの如き光カチオン開始剤との混合物が用いられる。
【0053】
アクリル系の電離放射線硬化型樹脂を紫外線の照射により硬化させる場合は、紫外線の照射を受けたときにラジカルを発生し、重合・硬化反応を開始させるために、紫外線ラジカル開始剤が添加されて用いられる。紫外線の照射は、ガラス鋳型面側から、又は透明樹脂フィルム面側からなされるが、透明樹脂フィルム面側から紫外線照射を行う場合には、フィルムを透過することが可能な紫外線波長領域でラジカル反応を開始するために、可視域から紫外線域でラジカル反応を開始する開始剤が用いられる。
【0054】
紫外線照射によりラジカル反応を開始する紫外線ラジカル開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどのほか、特に紫外線吸収剤を含有する透明樹脂フィルム越しに紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる場合には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等、可視領域に吸収を持つリン系の光ラジカル開始剤が好適に用いられる。
【0055】
エッチングにより表面に微細な凹凸が形成されたガラス鋳型が平板状である場合には、鋳型面と、未硬化の電離放射線硬化型樹脂が塗布された透明樹脂フィルムとを、鋳型面が塗布面と接するように密着させた状態で、透明樹脂フィルム面側から、又はガラス鋳型面側から電離放射線を照射し、電離放射線硬化型樹脂を硬化させた後、ガラス鋳型から基材フィルムごと剥離され、鋳型の形状が透明フィルム表面に転写される。
【0056】
ガラス鋳型がロール状であり、かつ電離放射線硬化型樹脂を用いて鋳型の凹凸形状を転写する場合、透明樹脂フィルムは、未硬化の電離放射線硬化型樹脂が塗工された面をガラスロールに密着させた状態で電離放射線が照射され、硬化の後にロール鋳型から基材フィルムごと剥離することにより、連続的にその形状を透明フィルム表面に転写できる。
【0057】
電離放射線は、紫外線や電子線でありうるが、取扱いの容易さや安全性の観点から、紫外線が好ましく用いられる。紫外線の光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどが好ましく用いられるが、紫外線吸収剤を含む透明基材越しに照射される場合は特に、可視光成分を多く含むメタルハライドランプなどが好適に用いられる。また、フュージョン社製の“V−バルブ”や“D−バルブ”(いずれも商品名)なども、好ましく用いられる。照射線量は、紫外線硬化型樹脂が鋳型から離型できるまで固化するために十分な線量であればよいが、表面硬度をさらに向上させるために、離型後、塗工面側から再度照射を行ってもよい。
【0058】
以上のような方法によれば、得られる防眩層(防眩フィルム)は、そのヘイズ値を一般に20%以下とすることができるが、前述したように、そのヘイズ値を10%以下とするのが特に好ましい。ヘイズ値は、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される値である。
【0059】
こうして、表面にほぼ球面からなる多数の凹形状が形成されたガラスを鋳型とし、その形状を透明樹脂フィルム上に転写した場合には、得られる透明樹脂フィルムの防眩面はほぼ球面からなる多数の凸形状を有するものとなる。一方、防眩面を、ほぼ球面からなる多数の凹形状を有するものとしたい場合には、例えば、表面にほぼ球面からなる多数の凹形状が形成されたガラスの表面形状を、一旦樹脂表面に写し取った後、その樹脂を鋳型として、上の説明に準じて、別の透明樹脂フィルムの表面に上記樹脂鋳型の表面形状を賦型すればよい。
【0060】
本発明では、こうして形成される防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが0.1〜10μm の範囲にあり、面積が25〜2,500μm2の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下となるようにするのであるが、このときの高さは、ドメインが凸形状であれば、その一番高いところと、そのドメインを画定するボロノイ境界に相当する部分のうちの一番低いところとの標高差で表される。一方、ドメインが凹形状であれば、このときの高さは、その一番低いところと、そのドメインを画定するボロノイ境界に相当する部分のうち一番高いところとの標高差で表される。
【0061】
防眩面の表面形状の観察・測定には、非接触三次元表面形状・粗さ測定機が有利に用いられる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm 以下、好ましくは2μm 以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm 以下、好ましくは0.01μm 以下である。この観察・測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、米国 Zygo Corporation の製品で、日本ではザイゴ株式会社から入手できる“New View 5000 ”シリーズ等を挙げることができる。測定面積は広いほうが好ましく、少なくとも100μm ×100μm 以上、好ましくは500μm ×500μm 以上である。
【0062】
本発明では、図1を参照して先に説明した如く、以上のようにして得られる防眩層15を直線偏光子30の一方の面に配置し、直線偏光子30の他方の面には光学異方性層40を配置して、防眩性偏光フィルム積層体10とする。直線偏光子30は、フィルム面内で直交する一方の向きに振動する直線偏光を透過し、他方の向きに振動する直線偏光を吸収するタイプの、一般に偏光フィルム又は偏光板として知られるものでよい。具体的には、ポリビニルアルコールフィルムに一軸延伸と高二色性色素による染色を施し、さらにホウ酸架橋を施したものを用いることができる。高二色性色素としてヨウ素を用いたヨウ素系偏光子や、高二色性色素として二色性有機染料を用いた染料系偏光子があるが、いずれも用いることができる。また、このようなポリビニルアルコール系の直線偏光子そのものであってもよいし、ポリビニルアルコール系直線偏光子の片面又は両面に、トリアセチルセルロースなどの透明高分子からなる保護フィルムが積層された偏光板であってもよい。
【0063】
直線偏光子30の一方の面に配置される光学異方性層40は、光学的に負又は正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50°傾斜したものである。
【0064】
まず、光学的に負の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層について説明する。光学的に負の一軸性とは、光軸方向の屈折率がこれに垂直な平面内の平均屈折率よりも小さい負の屈折率異方性を発現するものである。このような負の屈折率異方性を発現し、その光軸の方位角度が基板法線方向から5〜50゜傾斜しているものを、光学異方性層40として用いることができる。このような光学異方性層としては、例えば、前記特許文献1に記載されているような、有機化合物、中でも液晶性を示し、円盤状の分子構造を有する化合物や、液晶性を示さないが、電界又は磁界により負の屈折率異方性を発現する化合物が、トリアセチルセルロースなどからなる透明樹脂フィルム上に塗布された後、光学軸がフィルム法線方向から5〜50°の間で傾斜するように配向せしめられたフィルムなどが好ましく用いられる。配向は、一方向のみならず、例えば、フィルムの片面から他面に向かって順次傾きが大きくなる、いわゆるハイブリッド配向であってもよい。
【0065】
液晶性を示す円盤状の分子構造を有する有機化合物としては、低分子又は高分子のディスコティック液晶、例えば、トリフェニレン、トルクセン、ベンゼンなどの平面構造を有する母核に、アルキル基、アルコキシ基、アルキル置換ベンゾイルオキシ基、アルコキシ置換ベンゾイルオキシ基などの直鎖状の置換基が放射状に結合したものが例示される。中でも、可視光領域に吸収を示さないものが好ましい。
【0066】
これらの円盤状の分子構造を有する有機化合物は、1種類を単独で用いるのみならず、本発明に必要な配向を得るために、必要に応じて何種類かを混合して用いたり、あるいは高分子マトリクスなど、他の有機化合物と混合して用いたりすることができる。上記の混合して用いる有機化合物としては、円盤状の分子構造を有する有機化合物と相溶性を有するか、円盤状の分子構造を有する有機化合物を、光を散乱しない程度の粒径に分散できるものであれば特に限定されない。セルロース系樹脂からなる透明基材フィルムに、かかる液晶性化合物からなる層が設けられ、光軸がフィルム法線に対して傾斜しているフィルムは、例えば、富士写真フィルム株式会社から“WVフィルム”の商品名で販売されているので、これを使用することができる
【0067】
次に、光学的に正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層について説明する。光学的に正の一軸性とは、光軸方向の屈折率がこれに垂直な平面内の平均屈折率よりも大きい正の屈折率異方性を発現するものである。このような正の屈折率異方性を発現し、その光軸の方位角度が基板法線方向から5〜50゜傾斜しているものを、光学異方性層40として用いることもできる。このような光学異方性層としては、例えば、前記特許文献2に記載されているような、細長い棒状構造を有する有機化合物、中でもネマチック液晶性を示し、正の光学異方性を与える分子構造を有する化合物や、液晶性を示さないが、電界又は磁界により正の屈折率異方性を発現する化合物が、透明基材フィルム上に製膜され、光学軸がフィルム法線方向から5〜50°の間で傾斜するように配向させて得られるフィルムが挙げられる。配向は、一方向のみならず、例えば、フィルムの片面から他面に向かって順次傾きが大きくなる、いわゆるハイブリッド配向であってもよい。透明基材フィルムにネマチック液晶化合物からなる層が設けられ、光軸がフィルム法線に対して傾斜しているフィルムは、例えば、新日本石油株式会社から“NHフィルム”の商品名で販売されているので、これを使用することができる。
【0068】
また、真空蒸着により薄膜の形成が可能で、蒸着を行ったときに正の屈折率異方性を発現する誘電体を、透明基材フィルム上に、その法線に対して傾斜した方向から蒸着することにより、光学的に正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層を得ることもできる。このために用いられる誘電体は、無機化合物からなる誘電体、有機化合物からなる誘電体のいずれであってもよいが、真空蒸着時に作用する熱に対する安定性の点で、無機誘電体が好ましく用いられる。無機誘電体としては、酸化タンタル(Ta25)、酸化タングステン(WO3 )、二酸化ケイ素(SiO2 )、一酸化ケイ素(SiO)、酸化ビスマス(Bi25)、酸化ネオジム(Nd23)などの金属酸化物が、透明性に優れるなどの点で好ましく用いられる。金属酸化物の中でも、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスなど、屈折率異方性が発現しやすく、かつ膜質の硬いものが、より好ましく用いられる。
【0069】
上で説明したような直線偏光子30の片側に、賦型処理が施された防眩層15を貼り合わせ、直線偏光子30の反対側の面には、光学的に負又は正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5゜〜50゜傾斜している光学異方性層40を積層して、防眩性偏光フィルム積層体10とされる(図1)。この際、防眩層15は、その賦型処理が施された面(凹凸面)が外側、すなわち直線偏光子30に面しない側となるように積層される。また、光学異方性層40が、透明基材フィルム上に屈折率異方性を発現する物質の層を設けたものである場合は、その透明基材フィルム側が、直線偏光子30側となるように積層される。積層には、アクリル系粘着剤など、透明性に優れる接着剤が有利に用いられる。
【0070】
光学的に負の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜の間で傾斜している光学異方性層が、直線偏光子の片面に貼合された偏光板、すなわち、図1において直線偏光子30/光学異方性層40の構成からなる積層体も、市販されている。例えば、住友化学工業株式会社から販売されている“スミカラン SR-F862”は、このタイプのものである。このような、光学的に負の一軸性でその光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層が直線偏光子に貼合された積層偏光板の光学異方性層とは反対側に、上で説明した防眩層15を貼合して、防眩性偏光フィルム積層体10とすることができる。
【0071】
図1に示すような防眩性偏光フィルム積層体10は、2枚の基板間にTN型液晶を挟持してなる液晶セルと組み合わせて、液晶表示装置とすることができる。この場合の例を、図5及び図6に示す。これらの例において、液晶セル50は、それぞれ向かい合う片面に電極54,55が形成された2枚のセル基板51,52の間に、TN型液晶57が挟持されたものである。
【0072】
このようなTN型液晶セル50は通常、その両面に偏光板が配置されるが、本発明ではその一方の偏光板、特に表示面、すなわち視認側に位置する偏光板を、図1に示したような、防眩層15/直線偏光子30/光学異方性層40からなる防眩性偏光フィルム積層体10で構成する。この際、光学異方性層40側が、液晶セル50に面するように配置される。防眩性偏光フィルム積層体10の光学異方性層40と液晶セル50とは、粘着剤60を介して貼着されている。また、液晶セル50の背面側には、バックライト70が配置され、液晶セル50のための光源となっている。
【0073】
防眩性偏光フィルム積層体10、液晶セル50及びバックライト70の構成は、図5と図6で共通しているが、液晶セル50とバックライト70の間の構造が相違している。すなわち、図5に示す例では、液晶セル50の背面側に、粘着剤60を介して偏光板35が配置されている。一方、図6に示す例では、液晶セル50の背面側に、粘着剤60を介して、光学異方性層45及び偏光板35がこの順に配置されている。
【0074】
背面側の偏光板35は、フィルム面内で直交する一方の向きに振動する直線偏光を透過し、他方の向きに振動する直線偏光を吸収するタイプの、一般の偏光板でよい。具体的には、ポリビニルアルコールフィルムに一軸延伸と高二色性色素による染色を施し、さらにホウ酸架橋を施したものを用いることができ、通常はその片面又は両面に透明高分子からなる保護フィルムが積層された状態で用いられる。図6に示す例における背面側の光学異方性層45は、防眩性偏光フィルム積層体10に用いた光学異方性層40と同様、光学的に負又は正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50°傾斜したものであることができる。
【0075】
視野角特性と表示特性を良好ならしめるためには、図6のように、背面側にも光学異方性層45を配置するのが好ましい。この場合、先に説明したような、光学的に負の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜の間で傾斜している光学異方性層が、直線偏光子の片面に貼合された偏光板を、図6における光学異方性層45/偏光板35の積層品として用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。
【0077】
実施例1
旭テクノグラス(株)製のホウ珪酸ガラス板(商品名“Pyrex ”、5cm□、4mm厚み)を、東ソー(株)製のジルコニアビーズ(商品名“TZ-B53”、平均粒径53μm )を用いてブラスト処理した。使用したブラスト剤(ジルコニアビーズ)の量は100ml、ブラスト圧力は0.03MPa、ブラストノズルからガラス板までの距離は40cmとし、ブラストガンは固定とした。ブラスト処理は約5分で終了した。ブラスト処理後のガラス板はほぼ透明なままであったが、キーエンス社製の反射型顕微鏡で観察したところ、表面には約1〜1.5μmの深さで微細なクラックが多数発生していることが確認された。
【0078】
ブラスト処理後のガラスを、フッ化水素/フッ化アンモニウム/硫酸/水が重量比で5/1/1/10のエッチング液に40℃の温度で1時間浸漬してエッチングし、その後、純水で洗浄し、ガラス鋳型を作製した。エッチング深さは100μm であった。
【0079】
別途、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの50%酢酸エチル溶液に、光重合開始剤である“ルシリン TPO”(化学名は2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製)を、樹脂成分であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100部あたり5部添加して、紫外線硬化型樹脂溶液を調製した。この紫外線硬化型樹脂溶液を、富士写真フィルム(株)製のトリアセチルセルロースフィルムに#20バーコーターを用いて塗布し、80℃で5分間乾燥した。この塗布フィルムを、先のエッチングにより表面に凹凸を形成したガラス鋳型に、紫外線硬化型樹脂の塗布面がガラス鋳型のエッチング面側となるよう、ハンドローラーを用いて密着させ、高圧水銀ランプを用いて1分間紫外線照射を行った。その後、トリアセチルセルロースフィルム上に硬化型樹脂が硬化した状態のものをガラス板から剥離し、防眩フィルムを得た。
【0080】
Zygo Corporation 製の非接触三次元表面形状・粗さ測定機“New View 5010”により、この防眩フィルムの表面形状を観察し、画像処理したところ、全面が微細な球面状の凸部で覆われた形状を有し、平坦部は存在していないことが確認された。また、この画像処理の結果から、各ドメインの面積分布を求めたところ、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあり、0.1〜10μmの高さを有する球面のドメインが全領域の100%を占めていることが確認された。この防眩フィルムにつき、スガ試験機(株)製のヘイズコンピュータ“HGM-2DP”型を用いてヘイズ値を測定したところ、3.4%であった。
【0081】
別途、光学的に負の一軸性であるディスコティック液晶分子が基板上に塗布固定され、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50°の間で順次傾斜したハイブリッド配向しており、全体としての見かけの光軸が法線から約18°の方向にある光学異方性層(商品名“WVフィルム”、富士写真フィルム(株)製)が、ポリビニルアルコール−ヨウ素系直線偏光子の片面に貼着され、偏光子のもう一方の面にはトリアセチルセルロースフィルムが貼着された直線偏光子/光学異方性層積層品(商品名“スミカラン SR-F862A ”、住友化学工業(株)製)を用意した。
【0082】
次に、市販のTN型TFT液晶表示素子が搭載されたパーソナルコンピュータ用モニターの表示面側及び背面側の偏光板を剥離し、それらオリジナルの偏光板の代わりに、上の直線偏光子/光学異方性層積層品“スミカラン SR-F862A ”を、その吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と一致し、かつ光学異方性層が液晶セル側となるように、液晶セルの両面に粘着剤を介して貼合した。さらに表示面側の偏光板に、粘着剤を介して、上で得た防眩フィルムをその平坦面側で貼合して、防眩層付き液晶表示装置を作製した。
【0083】
暗室内でパーソナルコンピュータを起動し、(株)トプコン製の輝度計“BM7 ”型を用いて、黒表示状態及び白表示状態における液晶表示装置の輝度を測定し、コントラストを算出した。ここでコントラストは、黒表示状態の輝度に対する白表示状態の輝度の比で表される。その結果、液晶表示装置の暗室内で測定したコントラストは300であった。一方、同評価系を明室内に移し、黒表示状態として、映り込み状態を目視観察した。その結果、映り込みがほとんど観察されず、この液晶表示装置は防眩性を有していることが確認された。
【0084】
実施例2
ブラスト粒子を東ソー(株)製のジルコニアビーズ“TZ-SX17 ”(平均粒径35μm )に変更し、ブラスト圧力を0.04MPaとした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。この防眩フィルムのヘイズ値は 1.0%であった。この防眩フィルムを実施例1と同様の手法で、直線偏光子/光学異方性層積層品“スミカラン SR-F862A ”とともに液晶表示素子に貼合し、評価したところ、暗室内でのコントラストは330と高く、かつ十分な防眩性を併せ持ち、良好な表示特性を有していることが確認された。
【0085】
実施例3
ブラスト粒子を東ソー(株)製のジルコニアビーズ“TZ-SX17 ”(平均粒径35μm )に変更し、ブラスト圧力を0.05MPaとした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。この防眩フィルムのヘイズ値は 5.5%であった。この防眩フィルムを実施例1と同様の手法で、直線偏光子/光学異方性層積層品“スミカラン SR-F862A ”とともに液晶表示素子に貼合し、評価したところ、暗室内でのコントラストは297と高く、かつ十分な防眩性を併せ持ち、良好な表示特性を有していることが確認された。
【0086】
実施例4
ブラスト粒子を東ソー(株)製のジルコニアビーズ“TZ-B90”(平均粒径90μm )に変更し、ブラスト圧力を0.05MPaとした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。この防眩フィルムのヘイズ値は 7.0%であった。この防眩フィルムを実施例1と同様の手法で、直線偏光子/光学異方性層積層品“スミカラン SR-F862A ”とともに液晶表示素子に貼合し、評価したところ、暗室内で測定したコントラストは282と高く、かつ十分な防眩性を併せ持ち、良好な表示特性を有していることが確認された。
【0087】
以上の実施例1〜4において、ガラスを管状のものに変えて、ほぼ同様の条件で表面にブラスト処理及びエッチングを施したものを鋳型とすれば、防眩フィルムを連続したロール状で得ることができる。管状のホウ珪酸ガラスは、やはり“Pyrex ”の商品名で、旭テクノグラス(株)から入手することができる。
【0088】
比較例1
ブラスト圧力を0.1MPaとした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。なお、この例におけるブラスト処理後のガラス板を反射型顕微鏡で観察したところ、表面に発生したクラックは、深さが約10〜30μm の間でばらついていた。また、得られた防眩フィルムの表面形状を実施例1と同じ非接触式三次元表面形状・粗さ測定機“New View 5010 ”で観察し、画像処理したところ、全面が球面状の凸部で覆われた形状を有していたが、ドメインは2,500μm2 を超える面積のものが大半であった。この防眩フィルムのヘイズ値は55%であった。この防眩フィルムを実施例1と同様の手法で、直線偏光子/光学異方性層積層品“スミカラン SR-F862A ”とともに液晶表示素子に貼合し、評価したところ、防眩性は十分であったものの、暗室内でのコントラストは151と低く、表示特性は十分でないことが確認された。
【0089】
比較例2
ブラスト粒子を東ソー(株)製のジルコニアビーズ“TZ-SX17”(平均粒径35μm)に変更し、ブラスト圧力を0.01MPaとした以外は、実施例1と同様に操作して、ガラス鋳型を作製し、さらに防眩フィルムを作製した。得られた防眩フィルムの表面形状を反射型顕微鏡で観察し、画像処理したところ、平坦部の占める面積が全表面の18%であった。この防眩フィルムのヘイズ値は 5.4%であった。この防眩フィルムを実施例1と同様の手法で、直線偏光子/光学異方性層積層品“スミカラン SR-F862A ”とともに液晶表示素子に貼合し、評価したところ、暗室内でのコントラストは280と高かったものの、防眩性能が極めて不十分であり、視認性に劣ることが確認された。
【0090】
比較例3
実施例1で用いたのと同じTN型TFT液晶表示素子を搭載したパーソナルコンピュータ用モニターの表示面側及び背面側の偏光板を剥離し、表示面側には、実施例1で用いたのと同じ直線偏光子/光学異方性層積層品のさらに偏光板側に防眩層が設けられている住友化学工業(株)製の防眩層付き偏光板積層体“スミカラン SR-F862A-AG6 ”(ヘイズ値24%)を、偏光板の吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と一致するように、その光学異方性層側で粘着剤を介して貼合した。なお、ここで用いた防眩層付き偏光板積層体“スミカラン SRF862A-AG6”の防眩面は、凹凸面ではあるが、多球面にはなっていない。また液晶表示素子の背面には、住友化学工業(株)製のポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光板“スミカラン SR-1862A ”を、その吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と一致するように粘着剤を介して貼合した。この液晶表示装置につき、実施例1と同様の手法で評価したところ、防眩性は十分であったものの、暗室内でのコントラスト値は218と低く、表示特性は十分でないことが確認された。
【0091】
以上の実施例及び比較例の結果を表1にまとめた。
【0092】
[表1]
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実 施 例 比 較 例
1 2 3 4 1 2 3
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防眩面の形状 多球面 多球面 多球面 多球面 多球面 多球面 非多球
形状 形状 形状 形状 形状 形状 面形状
────────────────────────────────────────
面積25〜2,500μm2
高さ0.1〜10μmである
凸の面積の割合 100 % 100 % 95 % 100 % 10 % 50 % −
平坦部の面積の割合 0 % 0 % 0 % 0 % 0 % 18 % −
ヘイズ 3.4 % 1.0 % 5.5 % 7.0 % 55 % 5.4 % 24 %
────────────────────────────────────────
コントラスト 300 330 297 282 151 280 218
防眩性 * ○ ○ ○ ○ ○ × ○
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* 防眩性 ○:十分な防眩性を有する。 ×:映り込みが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る偏光フィルム積層体の例を示す断面模式図である。
【図2】ボロノイ分割を説明するためのボロノイ図の例である。
【図3】防眩層を得るための好ましい形態を工程毎に示す断面模式図である。
【図4】エッチングの進行状況を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る液晶表示装置の一例を示す断面模式図である。
【図6】本発明に係る液晶表示装置のもう一つの例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0094】
10……防眩性偏光フィルム積層体、
15……防眩層、
16……転写用のフィルム、
17……透明基材フィルム、
18……電離放射線硬化型樹脂又はその硬化物、
20……ガラス、
21……ブラスト処理によりガラス表面に形成される傷、
21a……傷の先端、
22……当初のガラス面、
23,24……エッチング途中のガラス面、
25……ガラスに形成された凹形状(凹凸面)、
26……ガラス鋳型、
28……ブラスト剤、
30……直線偏光子、
35……背面側偏光板、
40……光学異方性層、
45……背面側光学異方性層、
50……液晶セル、
51,52……セル基板、
54,55……電極、
57……TN型液晶、
60……粘着剤、
70……バックライト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防眩層と直線偏光子と光学異方性層とがこの順に積層されてなり、
前記防眩層は、表面に多数の微細な球面が形成された防眩面を有し、該防眩面を上から観察したときに分割されて観察される各球面のドメインのうち、高さが0.1〜10μmの範囲にあり、面積が25〜2,500μm2 の範囲にあるドメインが全表面の90%以上を占め、かつ平坦部の占める面積が全表面の10%以下であり、
前記光学異方性層は、光学的に負又は正の一軸性で、その光軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜したものであることを特徴とする、防眩性偏光フィルム積層体。
【請求項2】
防眩層は、フッ化水素を含む水溶液でエッチングすることにより表面に微細な凹凸が形成されたガラスを鋳型とし、その形状を透明樹脂フィルム上に写し取ることにより得られる微細球面を有する、請求項1に記載の防眩性偏光フィルム積層体。
【請求項3】
透明樹脂フィルムは、紫外線硬化樹脂又は熱可塑性樹脂である、請求項2に記載の防眩性偏光フィルム積層体。
【請求項4】
防眩層は、そのヘイズ値が10%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の防眩性偏光フィルム積層体。
【請求項5】
光学異方性層は、光学的に負の一軸性である、請求項1〜4のいずれかに記載の防眩性偏光フィルム積層体。
【請求項6】
2枚の電極基板間にツイステッドネマチック型液晶を挟持してなる液晶セルの両面に偏光板が配置された液晶表示装置であって、表示面側に位置する偏光板は、請求項1〜5のいずれかに記載の防眩性偏光フィルム積層体であり、その光学異方性層側が液晶セルに面するように配置されていることを特徴とする、液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−53511(P2006−53511A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307962(P2004−307962)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】