説明

防風カバー

【課題】走行時に鉄道車両の集電装置と、これを支持する支持碍子を取り囲む防風カバーのキャビティから発生する騒音の低減化を目的とする。
【解決手段】集電装置と支持碍子とを収容する防風カバーは、キャビティの前後部分それぞれに上り勾配となる緩斜面が設けられ、キャビティ部分において高さが最大となる。最大高さ寸法を支持碍子の高さ寸法よりも50〜100mm高く設定することにより、支持碍子及び集電装置に衝突する空気流の量が減少し騒音レベルが低下する。キャビティ開口部における前後各上縁部を曲率半径50〜200mmの湾曲面に形成すると、前側の湾曲面は、スロープ部に沿って上ってきた空気流が剥離するのを抑止する。後側の湾曲面は、空気流が後側上縁部と衝突する際に空気流を滑らかに掻き分ける。これらの作用の結果、騒音レベルが低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の屋根上に支持碍子によって支持される集電装置の周囲を取り囲む防風カバーに関し、車両走行時に集電装置及び支持碍子を収容した防風カバーのキャビティから発生する騒音の低減化を目的とするものであって、特に、時速300km前後の高速走行車両へ適用する場合を想定する。
【0002】
[定義事項]
なお本願において「前・後・左・右」とは、特に断りのない限り、それぞれ車両の進行方向に対する前・後・左・右を指すものとする。
【背景技術】
【0003】
図5(A)〜(C)は、高速車両に適用される従来の集電装置用防風カバー20を示すものである。この防風カバー20は、集電装置30を車両屋根に設置するための支持碍子40から発生する空力音を低減化することを主たる目的とするものであって、平面視するとほぼ長方形であり、中央領域に集電装置30及び支持碍子40を収容するためのキャビティ21が設けられ、キャビティ21の前後には勾配の緩やかな斜面から成るスロープ部24が設けられている。防風カバー20の高さはキャビティ21部分、すなわちキャビティ21を挟む左右の側壁部22で最大となるように設定され、且つ、側面視すると当該側壁部22の上面はほぼ水平に形成されている。また当該側壁部22には、集電装置30の折り畳み時にホーン部31との絶縁離隔を確保するため、切欠23が設けられる。防風カバー20のかかる形態は、支持碍子40から発生する空力音を抑制できると同時に、集電装置30に当たる風の流れを安定化し、防風カバー20自体を起因とする空力音及び圧力変動を緩和するのに有効であると考えられている。
【0004】
特許文献1に、前記の如き高速車両用の防風カバー20において、キャビティ21から発生する騒音(キャビティ音)を低減化するため、キャビティ21の寸法を、絶縁離隔を侵さない範囲で出来るだけ小さくすることが提案されている。また防風カバー20の最大高さについては、図4(C)に示すように、集電装置20を支持する支持碍子40とほぼ等しい高さとすることが記載されている。
【特許文献1】特許3630419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両走行時に防風カバー20のキャビティ21から発生するキャビティ音を抑制するには、内部に収容した集電装置30及び支持碍子40からの影響を考慮する必要があるが、特許文献1では、この点について考慮されていない。またキャビティ21の開口寸法を特定することは記載されているが、開口部の形状に関し検討されていない。従って防風カバー20の形態に関し、上記の点でなお改良の余地が有ると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、防風カバーから発生する騒音レベルを低減化するための新たな手段の提供を目的とする。本発明が採用する第1の手段の特徴とするところは、請求項1に記載する如く、鉄道車両の屋根上に取り付けた支持碍子により支持される集電装置の周囲を囲む防風カバーであって、集電装置及び支持碍子を収容するキャビティを有し、車両進行方向に沿った前後部分それぞれにキャビティへ向かって上り勾配となる緩斜面が設けられたものにおいて、最大高さ寸法を、支持碍子の高さ寸法よりも50〜100mm高く設定したところにある。
【0007】
また、本発明が採用する第2の手段の特徴とするところは、防風カバーのキャビティ開口部における前後各上縁部を曲率半径50〜200mmの湾曲面に形成したことである。なお、集電装置の形態や支持碍子の固定位置などの条件によって、キャビティの前側と後側とで、湾曲面の曲率半径を同一とすることも、異ならせることも可能である。
【0008】
なお、前記第1,第2の手段は、防風カバーに対しそれぞれ独立に適用しても所期の効果を挙げることが可能であるが、両者を同時に採用すればより優れた効果を発揮する。すなわち、本発明の最適な実施形態は、防風カバーの最大高さ寸法を支持碍子の高さ寸法よりも50〜100mm高く設定すると共に、キャビティ開口部における前後各上縁部に形成する湾曲面の曲率半径を50〜200mmとすることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の第1の手段によれば、車両走行時に空気流がキャビティ内へ入り込もうとするが、防風カバーの高さを支持碍子より高く設定したことにより、支持碍子に衝突する空気流の量が減少するため、騒音レベルが低下すると考えられる。なお、防風カバーを支持碍子より高くする寸法が50mm未満では上記効果が十分に発揮されない。また、100mmを超えると、防風カバーが大型化して重量が増大するため、車両に積載するのが困難になると共に、防風カバー自体に由来する空力音の悪化や、断面積の増大による微気圧波の上昇が懸念される。
【0010】
請求項2に記載の第2の手段によれば、車両走行時に、キャビティ開口部の上縁部のうち車両進行方向に対し前側に設けた湾曲面は、スロープ部に沿って上ってきた空気流が前側上縁部で剥離するのを抑止する効果がある。また車両進行方向に対し後側の湾曲面は、空気流が後側上縁部と衝突するときに、空気流を滑らかに掻き分けるので、その結果、騒音レベルが低下すると考えられる。なお、曲率半径が50mm未満では上記効果が十分に発揮されない。反対に曲率半径が200mmを超えると、前側の上縁部に形成した湾曲面に沿ってキャビティ内へ入り込む空気流の量が増大するため、かえって騒音レベルを上昇させるおそれが有る。
【0011】
なお防風カバーに関し請求項3に記載した形態を採用すれば、より一層優れた騒音レベルの低減化効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2に本発明を適用した集電装置用の防風カバー10の一実施形態を示す。当該防風カバー10は、時速300km前後で走行する高速車両への適用を想定している。基本形態は従来のものとほぼ共通である。すなわち平面視するとほぼ長方形であり、高さ寸法Hを支持碍子40と等しくH=650mmとする場合は、前後方向の長さ寸法LX=9238mm、左右方向の幅寸法W=1350mmである。防風カバー10の中央領域には、集電装置30及び支持碍子40を収容するためのキャビティ11が設けられ、平面視したときの開口部寸法は、長さL=3200mm、幅Q=1250mmである。またキャビティ11内には、集電装置30で取り込んだ電気を車体内へ引き入れるためのケーブルヘッド碍子50が設置され、支持碍子40とケーブルヘッド碍子50とは導体バー51で電気的に接続されている。キャビティ11の前後には、緩やかな斜面から成るスロープ部14が設けられ、その勾配θは10〜20度(本例ではθ=14度)である。キャビティ11の左右を挟む側壁部12の上面12aはほぼ水平であり、側壁部11の部分で防風カバー10の高さが最大Hとなるように設定される。側壁部上面12aとスロープ部14とは曲率半径α=3000mmの湾曲面16で接続されている。なお本例では、側壁部13の厚みは50mmである。防風カバー10のかかる形態は、騒音の低減化、集電装置に対する空気流の安定化、圧力変動の抑制に関し有効である。
【0013】
本発明に基づき、防風カバー10の最大高さ寸法Hを従来の防風カバー20よりも高く設定する場合であっても、スロープ部14の勾配は原則として従来と同一にする。そのため、高さ寸法Hを支持碍子40より高く設定するときは、それに応じて長さ寸法LXを増加させる。具体的には、スロープ部14の勾配θ=14度とする場合において、従来の防風カバー20は、最大高さ寸法Hが支持碍子40に等しい650mmであり、長さ寸法LX=9238mmであった。これに対し、高さ寸法H=700mmとするときは、長さ寸法LX=10038mmとし、さらに高さ寸法H=750mmとするときは、長さ寸法LX=10438mmとする。なお高さ寸法H以外の寸法、つまり防風カバー10の幅寸法W、及び、キャビティ11の開口部寸法L,Qは原則として従来と共通である。
【0014】
キャビティ11内において集電装置30は、基台部32の前後4ヶ所を、車両屋根に立設した支持碍子40により車両屋根と接触しないよう支持される。支持碍子40の取付位置は、車種や集電装置30の種類に応じて適宜変更することができる。本例では、集電装置30として、図2(A)に示すようなシングルアーム形パンタグラフを用い、前後の支持碍子40,40と集電時の舟体位置との水平距離T1,T2をそれぞれT1=1308mm・T2=543mmとし、なびき方向前側に位置する支持碍子40とキャビティ内面11aとの距離G=320mmとする設定が採用される。
【0015】
キャビティ11の側壁部12には、集電装置30の折り畳み時にホーン部31との絶縁離隔を確保するため、切欠13が設けられる。切欠13の形成位置及び寸法は、集電装置30の形式及び取付位置に応じ、絶縁離隔を確保できるよう適宜設定される。具体的には図1(B)に示す如く、前記寸法の防風カバー10(H=650mm)及びシングルアーム形パンタグラフに対し、キャビティ11の前後方向の内面11a,11bと切欠13の中心位置との距離Y1,Y2をY1=1738mm・Y2=1462mmとし、切欠13の側壁部上面12aからの深さZ=385mmとする。なお防風カバー10の高さ寸法Hを700又は750mmに増大させた場合は、上記切欠13の深さ寸法Zもこれに合わせてZ=435,485mmに増加させる。なお上記数値は一例であって、各部の寸法は実施の状況に応じ最適なものが適宜選択される。
【0016】
防風カバー10の材質には、強度・耐久性を考慮すると、アルミニウム、ジュラルミン等のアルミ合金、チタン合金その他の軽合金、ステンレス鋼、FRP,GRP,プラスチック等が挙げられるが、軽量性及び価格の点から見て、アルミニウム又はアルミ合金が適していると考えられる。防風カバー1は、全体を単一の部材で製作してもよく、あるいは複数の部品を車両屋根上で組み合わせて構成するものであってもよい。
【0017】
本発明に係る防風カバー10の特色は次の2点である。その1つは、図2(B)に示す如く、最大高さ寸法Hを、支持碍子40の高さ寸法h=650mmよりD=50〜100mmだけ高く設定したことである。もう1つは、キャビティ11の開口部における前後各上縁部15,15を、曲率半径R=50〜200mmの湾曲面に形成したことである。かかる構成を採用することにより、従来の防風カバー20と比較して、走行中の騒音レベルを低下させる効果が発揮される。
【0018】
本発明に係る防風カバーの騒音低減化効果を、風洞試験により確認した。試験内容は、以下の如くである。
[試験1]
1/10模型を用いた風洞試験により、防風カバーの最大高さH、及び、キャビティ開口部の前後各上縁部に設けた湾曲面の曲率半径Rと、騒音レベルとの関係を調べた。試験方法、及び、試験に供した防風カバー模型の寸法・形状は次のとおりである。
【0019】
(試験方法)
図3に示すように、防風カバーの10分の1模型Kを用意し、これを設置台G上に固定し、風洞Fのノズル前に設置する。風洞Fのノズルは縦(垂直方向)400mm×横(水平方向)485mmの長方形の開口を持ち、ノズル開口の下端が設置台Gの上面位置となるように設定される。防風カバー模型Kのキャビティ内には、実車と実質的に同等となる位置に、図4に示す如きシングルアーム形パンタグラフから成る集電装置及び支持碍子の10分の1模型S、及び、ケーブルヘッド碍子の10分の1模型(図示せず)を配置し、支持碍子模型とケーブルヘッド碍子模型とは10分の1寸法の導体バーで接続する。上記集電装置模型Sは、前後の支持碍子それぞれの中心間距離が185.1mm、基台部の長さ寸法が125.1mm、幅寸法が60.6mm、設置台Gから舟体上面までの高さ寸法が135mm、前後の支持碍子それぞれの中心位置から舟体中心位置までの水平距離が、前側が130.8mm後側が54.3mmである。騒音の測定方法は、風洞Fから模型に対し時速300kmの風を送り、集電装置模型Sの上面中央から側方約1500mmの位置に設置した側方マイクM1(図3(A)参照)、及び、集電装置模型Sの上面中央から上方1000mmの位置に設置した上方マイクM2(図3(B)参照)で集音する。シングルアーム形パンタグラフは進行方向に対し非対称であるから、なびき方向と反なびき方向とで空力音特性が異なるので、必要に応じ、両方向の測定を行う。
【0020】
(防風カバー模型)
防風カバー模型として、最大高さHの異なる以下の3種類K1〜K3を用意する。
K1
・全長LX =923.8mm
・幅寸法W =135mm
・最大高さH= 65mm
・キャビティ開口寸法=長さL320mm×幅Q125mm
・スロープ部勾配θ=14度
・スロープ部上端の湾曲面の曲率半径α=300mm
・側壁部の切欠深さZ=38.5mm
K2
・全長LX =1003.8mm
・幅寸法W =135mm
・最大高さH= 70mm
・側壁部の切欠深さZ=43.5mm
幅寸法W、キャビティ開口寸法L×Q、スロープ部勾配θ、スロープ部上端の湾曲面の曲率半径αはK1に同じ。
K3
・全長LX =1043.8mm
・最大高さH= 75mm
・側壁部の切欠深さZ=48.5mm
幅寸法W、キャビティ開口寸法L×Q、スロープ部勾配θ、スロープ部上端の湾曲面の曲率半径αはK1に同じ。
【0021】
なお本試験例では、防風カバー模型K1の底部に装着できる嵩上げ部材(嵩上げ高さ5mm又は10mm用)を用いることにより、最大高さHの異なる模型K2,K3を構成した。また模型の側壁部を切欠深さZの異なるものに交換可能とした。さらに上記防風カバー模型K1,K2,K3それぞれについて、キャビティ開口部における前後各上縁部に、湾曲面を有するアタッチメントを着脱可能に装着できる装着部を形成し、湾曲面の曲率半径Rが異なるアタッチメントに交換することにより、開口部上縁に付与する曲率半径を変更できるように構成した。用いたアタッチメントの曲率半径はR=0,5,10,20,30mmである。
【0022】
試験結果をグラフA〜C(図6〜8)に示す。グラフA〜Cは、側方マイクM1による全周波数帯域(OA)の騒音レベル測定値であり、1/10模型の風洞試験による測定値を実車換算したのち、マイク感度補正とA特性とを加えて聴感補正を施した結果を表示している。なお各グラフの縦軸には騒音レベルdB[A]を、横軸にはキャビティ開口部の湾曲面に設ける曲率半径R(mm)を「キャビティ端部面取りR」として表示した。
【0023】
グラフから以下のことが分かる。
a)防風カバーの最大高さHを支持碍子よりも高くすると原則として騒音レベルが低減化する。そして、最大高さH=50mmよりもH=100mmのときの方が騒音低減化効果は大きい。
b)キャビティ開口部に湾曲面を形成すると原則として騒音レベルが低下する。但し、曲率半径R=50,100,200mmのときに比べると、R=300mmのときの騒音低減化効果は若干劣る傾向にある。これは、曲率半径が大きくなったことで、キャビティ内へ流れ込む空気量が増えたためと推測される。
c)集電装置を設置しない場合(グラフC参照)、防風カバーの最大高さを大きくしても騒音の大きさにあまり差異は生じず、またその騒音レベルは集電装置の設置時より低い。従って、防風カバーと集電装置との相互作用により、格別の騒音が発生していると考えられる。キャビティ開口部に湾曲面を形成することにより、騒音レベルが低下するのは共通する。
d)なびき方向と反なびき方向とでは、空力音特性が異なる。反なびき方向では、キャビティ開口部に湾曲面を設けないとき(R=0)、防風カバー高さを増大させると騒音レベルが若干増大する(グラフB参照)。
e)反なびき方向では、防風カバー最大高さHが支持碍子と同じ(H=650mm)ときで。且つ、キャビティ開口部に設ける湾曲面の曲率半径R=300mmに設定したとき、騒音レベルが最大になる。(グラフB参照)。
【0024】
以上を総合すると、防風カバーの最大高さHを支持碍子より高くすること、及び、キャビティ開口部に湾曲面を形成することはいずれも、原則として、騒音レベルの低減化に有効である。最適には、防風カバーの最大高さHを支持碍子より50mm又は100mm高くすると同時に、キャビティ開口部に形成する湾曲面の曲率半径Rを50〜200mmの範囲内に設定することであり、かかる設定により、なびき方向・反なびき方向のいずれに対しても、騒音レベルを確実に低減化することが可能である。
【0025】
[試験2]
前記防風カバー模型K1(最大高さH=65mm)について、キャビティにおける前後方向の長さと、キャビティ開口部に設ける湾曲面の曲率半径Rとが、騒音レベルとどのように相関するかについて調べた。キャビティの前後方向寸法の変更は、前後部に内部寸法変更用のアタッチメント装着部を設け、当該装着部に装着するアタッチメントの厚みを変更することにより、あるいは当該装着部からアタッチメントを取り外すことにより行った(キャビティ長さL=280,320,360mmを選択)。測定条件及びグラフの作成方法は前記試験1と同様である。すなわち、1/10模型を用い、側方マイクM1により測定した全周波数帯域(OA)の騒音レベルを実車換算したのち、マイク感度補正及びA特性を加えて聴感補正を施した。結果をグラフD〜F(図9〜11)に示す。
【0026】
グラフから以下のことが分かる。
f)キャビティ開口部の前後方向寸法Lを変えても、試験した数値範囲では、騒音レベルにそれほど大きな影響は与えない。
g)キャビティ開口部に曲率半径R=50〜200mmの湾曲面を設けると騒音レベルが低下する効果は共通している(グラフD,E参照)。
h)キャビティ開口部の前後方向寸法が大きい(L=3600mm)とき、湾曲面の曲率半径の違いによる騒音レベルの変動が大きくなっている。これは、防風カバー自体から発生する騒音レベルが、湾曲面の曲率半径の違いにより大きく変動することが要因と考えられる(グラフF参照)。
【0027】
以上より、防風カバーにおけるキャビティの前後方向寸法Lが変わっても、開口部に湾曲面を設けるのは、騒音レベルの低減化に有効であることが分かる。但し、前後方向寸法Lが大きいときと小さいときとでは、騒音低減化に有効となる湾曲面の曲率半径Rの範囲が異なる可能性がある。
【0028】
参考までに、試験1,2において、上方マイクM2により測定した騒音レベルを、グラフG〜L(図12、13)に示す。いずれのグラフにおいても、側方マイクM1により測定したときと、ほぼ同傾向の結果が得られている。
【0029】
グラフM,N,P(図14〜16)は、試験1中、湾曲面曲率半径R=200mmに設定した最大高さHの異なる防風カバーについて、側方マイクM1により測定した騒音レベルの周波数特性を表したものであり、それぞれ、なびき方向、反なびき方向、防風カバー単独時の測定結果である。縦軸に騒音レベル(単位dB[A])、横軸に1/3オクターブバンド周波数(Hz)を示すと共に、全周波数帯域の騒音レベルをOAとして示す。グラフPより、防風カバーの最大高さHが変わっても、防風カバー自体から発生する空力音にはほとんど差異がないが、集電装置を設置したときには、防風カバーを高くすることにより騒音レベルが低下し、特に250Hz以上の比較的高周波帯域の空力音低減化に効果を発揮することが分かる。
【0030】
グラフQ〜V(図17〜22)は、キャビティ開口部の湾曲面曲率半径Rを変更した防風カバーについて、側方マイクM1により測定した騒音レベルの周波数特性を示すものであり、最大高さH=650・700・750mmに設定したそれぞれについて、なびき方向・反なびき方向の両方を測定した結果である。これらのグラフから、125Hz以下の低周波域については、キャビティ開口部に湾曲面を形成することにより騒音レベルが低減化し、曲率半径Rを大きくするほど騒音レベルが小さくなる傾向にあることが分かる。他方、250Hz以上の高周波域については、曲率半径R=50〜200mmに設定したときに騒音の低減化が見られる。但し、騒音低減化に最適な曲率半径Rの値は、防風カバーの最大高さHによって異なると思われる。
【0031】
グラフW(図26)は、キャビティ開口部に設ける湾曲面の曲率半径Rを、前後で異ならせた場合について、側方マイクM1により測定した騒音レベルの周波数特性を示すものである。試験を行った防風カバーは最大高さH=750mmに設定したものであり、付与する曲率半径R=200mmとした。なお本試験は、集電装置の反なびき方向を測定した結果である。このグラフから、125Hz以下の低周波域については、キャビティ開口部の前側に設けた湾曲面が騒音レベルの低減化に寄与し、125Hz以上の高周波域については、後側に設けた湾曲面が騒音レベルの低減化に寄与していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る防風カバーの一実施形態を示すものであって、図(A)は平面図、図(B)は側面図、図(C)は図(B)のX−X線における断面図である。
【図2】本発明に係る防風カバーの一実施形態を示すものであって、図(A)は側面断面図、図(B)はキャビティの前側内面付近を拡大して示す側面断面図である。
【図3】本発明に係る防風カバーの10分の1模型を用いた風洞試験の実施要領を説明するためのものであって、図(A)は模型を設置した状況の平面図、図(B)は模型を設置した状況の側面図である。
【図4】本発明に係る防風カバーの風洞試験に用いる集電装置の10分の1模型を示すものであって、図(A)は平面図、図(B)は側面図である。
【図5】従来の防風カバーを示すものであって、図(A)は平面図、図(B)は側面断面図、図(C)はキャビティの前側内面付近を拡大して示す側面断面図である。
【図6】風洞試験の測定結果に基づき、防風カバーの最大高さ及びキャビティ湾曲面の曲率半径と、騒音レベルとの関係(側方・なびき方向)を表示するグラフである。
【図7】風洞試験の測定結果に基づき、防風カバーの最大高さ及びキャビティ湾曲面の曲率半径と、騒音レベルとの関係(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【図8】風洞試験の測定結果に基づき、防風カバーの最大高さ及びキャビティ湾曲面の曲率半径と、騒音レベルとの関係(側方・防風カバー単独)を表示するグラフである。
【図9】風洞試験の測定結果に基づき、防風カバーのキャビティ前後方向寸法及びキャビティ湾曲面の曲率半径と、騒音レベルとの関係(側方・なびき方向)を表示するグラフである。
【図10】風洞試験の測定結果に基づき、防風カバーのキャビティ前後方向寸法及びキャビティ湾曲面の曲率半径と、騒音レベルとの関係(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【図11】風洞試験の測定結果に基づき、防風カバーのキャビティ前後方向寸法及びキャビティ湾曲面の曲率半径と、騒音レベルとの関係(側方・防風カバー単独)を表示するグラフである。
【図12】風洞試験における上方マイクによる測定結果を示すグラフであって、図6〜8のグラフA〜Cに対応するものである。
【図13】風洞試験における上方マイクによる測定結果を示すグラフであって、図9〜11のグラフD〜Fに対応するものである。
【図14】風洞試験により、キャビティ湾曲面の曲率半径R=200mmとしたときに、最大高さの異なる防風カバーについて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・なびき方向)を表示するグラフである。
【図15】風洞試験により、キャビティ湾曲面の曲率半径R=200mmとしたときに、最大高さの異なる防風カバーについて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【図16】風洞試験により、キャビティ湾曲面の曲率半径R=200mmとしたときに、最大高さの異なる防風カバーについて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・防風カバー単独)を表示するグラフである。
【図17】風洞試験により、最大高さH=650mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを変えて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・なびき方向)を表示するグラフである。
【図18】風洞試験により、最大高さH=650mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを変えて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【図19】風洞試験により、最大高さH=700mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを変えて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・なびき方向)を表示するグラフである。
【図20】風洞試験により、最大高さH=700mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを変えて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【図21】風洞試験により、最大高さH=750mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを変えて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・なびき方向)を表示するグラフである。
【図22】風洞試験により、最大高さH=750mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを変えて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【図23】風洞試験により、最大高さH=750mmの防風カバーについてキャビティ湾曲面の曲率半径Rを前後で異ならせて測定した騒音レベルの周波数特性(側方・反なびき方向)を表示するグラフである。
【符号の説明】
【0033】
10…防風カバー 11…キャビティ 11a,11b…キャビティ前後の内面 12…側壁部 13…切欠 14…スロープ部 15…キャビティ開口部の上縁部 16…湾曲面 30…集電装置 40…支持碍子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の屋根上に取り付けた支持碍子により支持される集電装置の周囲を囲む防風カバーであって、集電装置及び支持碍子を収容するキャビティを有し、車両進行方向に沿った前後部分それぞれにキャビティへ向かって上り勾配となる緩斜面が設けられ、最大高さ寸法が支持碍子の高さ寸法よりも50〜100mm高く設定されていることを特徴とする防風カバー。
【請求項2】
鉄道車両の屋根上に取り付けた支持碍子により支持される集電装置の周囲を囲む防風カバーであって、集電装置及び支持碍子を収容するキャビティを有し、車両進行方向に沿った前後部分それぞれにキャビティへ向かって上り勾配となる緩斜面が設けられ、キャビティ開口部における前後各上縁部が、曲率半径50〜200mmの湾曲面に形成されていることを特徴とする防風カバー。
【請求項3】
鉄道車両の屋根上に取り付けた支持碍子により支持される集電装置の周囲を囲む防風カバーであって、集電装置及び支持碍子を収容するキャビティを有し、車両進行方向に沿った前後部分それぞれにキャビティへ向かって上り勾配となる緩斜面が設けられ、最大高さ寸法が支持碍子の高さ寸法よりも50〜100mm高く設定されると共に、キャビティ開口部における前後各上縁部が曲率半径50〜200mmの湾曲面に形成されていることを特徴とする防風カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−54373(P2008−54373A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225416(P2006−225416)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【Fターム(参考)】