説明

防風フェンス

【課題】ビル風が強くなる市街地などにおいて、「ビル風対策」としての風速低減と、「風通しの確保」とを果たすことができる、動力等を要しない防風フェンスを提供する。
【解決手段】
断面形が翼型をなす防風パネル11を、枠体1内に上下方向に所定の間隔をあけて多段配置してなる防風フェンス10であって、防風パネル11は、パネル後縁近傍に形成された回転軸棒13で枠体1に回動可能に支持され、パネル断面形が所定の迎え角となるように、パネル11の前縁が枠体1の一部に設けられた支持棒12上に載置され、パネルの前縁側から吹く風で防風パネル11を回転軸棒13回りに回動させ、無風〜軽風時には開放し、強風時には閉じるように、その風力に応じて防風パネル11間の通風経路を制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防風フェンスに係り、特にフェンスに作用する風力を利用して、防風パネル間に形成された開口部(通風経路)の開閉状態の制御を、動力を用いずに行えるようにした防風フェンスに関する。
【背景技術】
【0002】
都市中心部では、高層建築物の建設に伴い、種々の問題が生じている。たとえば、高層建物の周辺では、いわゆるビル風等の強風の影響によって、近隣民家の屋根瓦や、固定が不十分な看板が飛ばされたり、歩行者の歩行が困難になったり、突風によって転倒したりする被害が伝えられている。通常、このようなビル風が強くなる場所、区画での防風対策として、防風植栽や防風フェンスなどがよく用いられており、これらの施設の適切な配置によって強風を弱風に軽減したり、風みちを変えたりして、ビル風対策としている。
【0003】
その一方、都市部等では、ヒートアイランド問題などに関連して、弱風時の風通しの重要性が再確認されるようになってきている。人間の快適性評価には、気温、湿度以外に風通し(指標として風速がある。)も重要な要素となることが知られている。
【0004】
この場合、いかにしてその場所、区画における風通しを確保することができるかという課題解決が、市街地における快適性向上につながる。このため、建物配置や隣棟間隔と通風量の関係や弱風の評価方法の研究などが行われている。
【0005】
しかし、上述のような「ビル風対策」としての風速低減と、「風通しの確保」とは相反するものであるため、ビル風対策として防風フェンスを設置した場合には、弱風時の風通しはほとんど期待できなくなってしまう。特に、ビル風が強くなる市街地などでは、複数箇所において防風フェンスの設置が必要となるため、弱風時には風がほとんど止められてしまい、風通しによる快適性が損なわれることが問題となっている。
【0006】
このような問題を解決するために、特許文献1に開示された防風フェンス等が開発されている。特許文献1に開示された防風フェンスは、最上段のパネルの昇降によって、連れ上がりする複数段のパネルを上下方向に連結し、さらにそれらを長手方向に複数列配置し、各最上段パネルを連結するように滑車を利用してワイヤロープを掛け渡し、ワイヤロープの端部がモータに連結され、モータの回転により、ワイヤロープの巻き取り、巻き解きを行うことで、多段、多列に配置された各パネルを広範囲にわたり、開閉させるようになっている。
【0007】
この特許文献1に開示された防風フェンスは、モータ駆動によりワイヤロープの巻回動作等を行うため、防風フェンスの設置規模によっては、複数台数のモータによるパネルの開閉動作を行わなくてはならない。これに対して、動力源を用いずに、風力に応じて、開口部を塞ぐパネルの回転角を変化させて開口部の開閉を行えるようにした防風フェンスも提案されている(特許文献2)。この防風フェンスは、支柱間に設けられた水平回転軸を点対称の中心点として概ね同一の翼型をそれぞれの後縁で一体接合され、全体が側面して緩いS字形形状をなすようにした曲面パネル状の回転体からなる。この翼型をなす曲面パネルは無風時は、所定の迎え角をなすようにバランスさせるための振り子状錘を、曲面パネルとほぼ直交させて回転軸に取り付けるようになっている。
【0008】
また、翼型として一般的に知られている「ジューコフスキー翼」を防雪柵に用いた製品も開発されている(非特許文献1参照)。この防雪柵は、所定間隔をあけて複数段の翼形状の風向調整板を設け、その翼間を通る風によって、風下側の路面において高い吹き払い効果を発揮させて、路面積雪を防止するとともに、広範囲にわたり視程障害を確保することを特徴としている。
【特許文献1】特開2002−327407公報参照。
【特許文献2】特開2000−234313公報参照。
【非特許文献1】三協マテリアル株式会社製品紹介ホームページ,「防雪板にジューコフスキー翼を採用した高性能翼型防雪柵「スノーブレイド」」,[online],平成19年6月1日HP開設,平成20年6月2日検索,インターネット<URL:http://www.sankyo-material.co.jp/p_03_06.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に開示された発明では、翼型をなす曲面パネルの回転を振り子状錘で規制しているため、風速が細かく変化するような状況では、曲面パネルが初期設定された迎え角を挟んで正逆の揺動を繰り返すこともある。このような状態が続くと、振り子錘が共振状態となり、吹いている風と振り子錘の加力とが複合的に曲面パネルに作用して、曲面パネルに不規則な揺動が生じるおそれがある。このため、曲面パネルにねじれが生じ、ねじれが大きくなるとパネルの破損につながる可能性もある。また、振り子錘はアームの先端に錘本体が取り付けられた構造となっているため、曲面パネルを支持する回転軸に常に捻れモーメントが生じるため、回転軸は十分な捻り剛性を備える必要がある。さらに強風時に曲面パネルが起立した際に、振り子錘は風上に向かって風に抗して曲面パネルを倒す転倒力として作用し、また回転軸より下側の曲面パネルに当たる風は曲面パネルを起立させるのに抵抗するモーメントを発生させる。そのため、このように、特許文献2に開示された発明では、特に強風時においての防風効果が十分得られないおそれがある。
【0010】
また、非特許文献1は、支柱に所定間隔をあけて固定翼を設置し、その翼間に風を通し、風下側の路面を吹き払うことで路面への積雪を防止することを目的としている。このため、風を通す機能と風を遮断する機能とを併せ持つ構造物ではない。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、フェンスに作用する風によって生じた揚力と抗力とにより、防風パネル間に形成された開口部の開閉状態の制御を、動力を用いずに容易に行えるようにした防風フェンスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は断面形が翼型をなす防風パネルを、枠体内に上下方向に所定の間隔をあけて多段配置してなる防風フェンスであって、前記防風パネルは、パネル後縁近傍に形成された回転軸で前記枠体に回動可能に支持されるとともに、パネル断面形が所定の迎え角となるように、パネル前縁が前記枠体の一部に載置され、前縁側から吹く風で前記防風パネルを前記回転軸回りに回動させ、風の強さに応じて前記防風パネル間の通風経路を制御するようにしたことを特徴とする。
【0012】
前記防風パネルは、前記風力により発生する揚力が前記回転軸回りにおける転倒モーメント以下の場合には回動せず、前記通風経路が開放されたままで通風させるようにすることが好ましい。
【0013】
前記防風パネルは、前記風力により起立状態に近くまで回動した際に、回動規制手段で作用する風とバランスして位置保持して、前記通風経路を遮断することが好ましい。
【0014】
前記防風パネルは、長手方向において翼型保形部と風透過部とが区画して設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上に述べたように、本発明によれば、防風フェンスに作用する風によって生じた揚力と抗力とにより、防風パネル間に形成された通風経路の開閉状態の制御を、動力を用いずに容易に行えるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の防風フェンスの実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0017】
本実施例による防風フェンスの構成について、図1,図2の概略斜視図、図3の概略断面図を参照して説明する。図1は、無風〜弱風時における防風フェンス10の防風パネルの状態を示している。この防風パネル11は、防風フェンス10の枠体1を構成する前部フレーム1A(図中、仮想線で表示)内に所定の高さ間隔をあけて、その間が通風経路2となるように複数段が配設されている。防風パネル11は各図に示したように、略流線型の上側にわずかにキャンバー(反り)を持った翼型形状からなり、図3(a)に示したように、パネル前縁11aは、前部フレーム1Aの幅方向にわたって架設された支持棒12上に載置され、防風パネル後縁近傍には、支持棒12と平行をなす回転軸棒13がパネル側面に取り付けられている。回転軸棒13は、防風パネル11のパネル後縁11b側に構築された後部フレーム1B(図中、仮想線で表示)に設けられた軸受部14に回動自在に軸支されている。1枚の防風パネル11の大きさは、本実施例では、1.5m×0.2mに設定され、段数は10段に設定され、前部フレーム1A、後部フレームを所定の繋ぎ材1Cで連結し、全体の枠体1が構成されている(図1,図2,図3各図では、図の簡単化のため、配列された防風パネル11を、一部省略して図示している)。枠体1内に組み込まれる防風パネル11の段数は、防風フェンスとしての仕様上求められている防風面積を確保できるように設定すればよい。また、幅方向に関しては、1枚の防風パネル11の剛性を確保するために、幅が限定されるため、防風フェンス10の枠体1を、必要に応じて複数基設置することが好ましい。
【0018】
防風パネル11は、パネルの長手方向に関して、図1、図2に示したように、両側に位置する、中空の翼型断面形状の翼型保形パネル部と、翼型保形パネル部15に挟まれた風透過パネル部とで一体的に構成されている。翼型保形パネル部15は、軽量鋼板を図示しない内装リブ(図示せず)で補強してなる中空の翼型断面形状をなし、両側の側端面にはそれぞれ回転軸棒13が取り付けられている。本実施例では、回転軸棒13はパネル側面から後部フレーム1Bに設けられた軸受部14までの短い軸部材で構成されているが、防風パネル11の回転軸棒13の取付位置に相当する部分にパネル長手方向に貫通孔を設け、その貫通孔に回転軸を挿通し、その回転軸の両端部を枠体1の後部フレーム1Bに固定するようにしても良い。その際、防風パネル11側に軸受部を設け、防風パネル11がこの回転軸に対して揺動自在となるようにすることが好ましい。また、スラスト方向ストッパを設け、防風パネル11が回転軸方向に移動しないようにすることが好ましい。
【0019】
風透過パネル部16は、両側の翼型パネル部を挟んで、パネル中央部分を構成し、両側の翼型保形パネル部15の外周形状と同形をなす。風透過パネル部16は、本実施例では、翼型保形パネル部15と同一の外周形状となるように、パンチングメタル等の有孔薄鋼板を曲げ加工して製造されている。この風透過パネル部16は、表面が平滑に仕上げられ、軽風時に各防風パネル11間の通風経路2を風が通過する際に、パネル表面に渦流等が発生せず、効率的に揚力が生じるようになっている。また、風透過パネル部16の孔の配置、配列は、図2に示したように、防風パネル11が起立した状態において、風向き面に対して前後の面(パネルが水平の場合は上下の面)を重ね合わせた状態で、風がある程度透過するように開孔率が設定されている。これにより、防風パネル11が起立した状態では、パネル16に当たる風が透過時に乱されて風速が低下するようになっている。
【0020】
この風透過パネル部16としては、有孔鋼板の他、透過率を適宜に設定可能な各種金網、延伸成形樹脂メッシュ、樹脂帯片を編んだメッシュ、粗目織物等を使用することができる。これらの材質のうち、パネル形状を保形する必要がある場合には、樹脂あるいは金属製の骨組フレームを組み立て、その外面に各種材料を展開し、所定のパネル断面形状とすることが好ましい。また、風透過パネル部16と翼型保形パネル部15との比率を適宜設定してパネル重量を決定することで、風が吹いた際に、防風パネル11に生じる揚力を制御することができる。これにより、防風フェンス10として、風力に応じた風透過、風遮断の機能を設定することができる。
【0021】
ここで、防風フェンス10の各防風パネル11の開閉動作について、図1〜図4を参照して説明する。防風フェンス10の各防風パネル11は、無風〜軽風時は、後縁11bの回転軸棒13を介して後部フレーム1Bの軸受部14に支持され、風上に向かって所定の迎え角をなすように、前縁11a近傍の下面が支持棒12上に載置されている(図1,図3(a),図4(a))。この状態から風速が上がると、防風パネル11は、図4(b)に示したように、迎え角αが翼型のストール角に達するまでの間、パネル上下面を通過する風の差圧によってパネル上面に揚力が発生し、回転軸棒13を中心としてパネル前縁11aが支持棒12上から持ち上がり、通風経路2の通風面積を減少させていく。そのとき、パネル下面と支持棒12との間は回動規制手段としての所定長さの規制ワイヤ20で繋がれている。そのワイヤ20を張るようにして防風パネル11が起立方向に回動する。さらに風速が上がると、防風パネル11は、図3(b)に示したように、ストール角を大きく超えて回動する。このときにはパネル間を通過する風による揚力が防風パネル11に作用するのではなく、防風パネル11の下面(起立時に風上前面となる面)に当たる風によって生じる抗力が防風パネル11を起立させる力となる(図4(b)〜図4(c))。そして、防風パネル11は、最終的には図2,図3(b)に示したように、防風パネル11の上下部分が重なるようにして起立した位置まで回動し、風力が作用し、規制ワイヤ20が張った状態(図4(d))で位置保持され、通風経路2は閉塞される。このときパネルの起立角度は、風力と規制ワイヤ20が張った状態でバランスする位置に位置保持される。なお、図4各図に付加的に示した一方向ダンパ21によりその角度を規制することも好ましい。この一方向ダンパ21は、風が強くなり、防風パネル11が起立する方向に対してはフリーに伸長し、一方、風が弱くなり、防風パネル11が支持棒12側に倒れる状態になったときにダンパ機能が効いて防風パネル11が急に倒れることを防止することができる。
【0022】
上述した防風パネル11の翼型は、図5(a)に示したような一般的なジューコフスキー翼とすることで、その効果を奏することができるが、翼後縁11bの厚みが薄くなり、回転軸を保持する剛性が得られなくなるようであれば、同図(b)に示したように、所定のキャンバーを持った流線型状(雨滴状)とすることもできる。また、小型の防風パネル11であれば、同図(c)に示したように、所定のキャンバーを持った金属板パネル11の下面に長手方向に沿って所定間隔で取り付けた縦リブ11eで補剛した軽量構造とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例としての防風フェンス(無風〜軽風時)を示した模式斜視図。
【図2】本発明の一実施例としての防風フェンス(強風時)を示した模式斜視図。
【図3】風の状態と防風パネルの開閉状態との関係を模式的に示した状態説明図。
【図4】1枚の防風パネルの開閉状態を模式的に示した状態説明図。
【図5】防風パネルの翼型の例を示した側面図。
【符号の説明】
【0024】
1 枠体
10 防風フェンス
11 防風パネル
12 支持棒
13 回転軸棒
14 通風経路
15 翼型保形パネル部
16 風透過パネル部
20 規制ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形が翼型をなす防風パネルを、枠体内に上下方向に所定の間隔をあけて多段配置してなる防風フェンスであって、前記防風パネルは、パネル後縁近傍に形成された回転軸で前記枠体に回動可能に支持されるとともに、パネル断面形が所定の迎え角となるように、パネル前縁が前記枠体の一部に載置され、前縁側から吹く風で前記防風パネルを前記回転軸回りに回動させ、風の強さに応じて前記防風パネル間の通風経路を制御するようにしたことを特徴とする防風フェンス。
【請求項2】
前記防風パネルは、前記風力により発生する揚力が前記回転軸回りにおける転倒モーメント以下の場合には回動せず、前記通風経路が開放されたままで通風させることを特徴とする請求項1に記載の防風フェンス。
【請求項3】
前記防風パネルは、前記風力により起立状態に近くまで回動した際に、回動規制手段で作用する風とバランスして位置保持され、前記通風経路が遮断されることを特徴とする請求項1に記載の防風フェンス。
【請求項4】
前記防風パネルは、長手方向において翼型保形部と風透過部とが区画して設けられたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の防風フェンス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−18954(P2010−18954A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177799(P2008−177799)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】