防食皮膜及びマグネシウム部材
【課題】金属基材の耐蝕性を確実に向上させることができる防食皮膜を提供する。
【解決手段】本発明の防食皮膜1は、金属基材Mの表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜11と、第一膜11上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜12と、第二膜12上に形成され、亜鉛を含有する第三膜13と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】本発明の防食皮膜1は、金属基材Mの表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜11と、第一膜11上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜12と、第二膜12上に形成され、亜鉛を含有する第三膜13と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の腐食を防止する防食皮膜、及び、その防食皮膜を備えるマグネシウム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金は、その特性を利用して種々の用途で用いられている。合金の表面は、大気に触れると酸化し腐食する虞がある。そこで、合金に、種々のめっきを施し、耐蝕性を向上させることが行われている。例えば、ニッケルめっきは、無電解めっき(無電解ニッケルめっき)が可能であるため、合金の種類や形状によらず、一様な皮膜を形成できる。
【0003】
防食皮膜としては、例えば、特開2001−89881号公報(特許文献1)に記載されている。この防食皮膜では、マグネシウム合金に対しニッケルめっきを施して、当該ニッケルめっきの上に亜鉛めっきを施しており、ニッケル膜と亜鉛膜との間で犠牲防食能を発揮させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−89881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記防食皮膜では、必ずしも耐蝕性が向上するとは限らない。ニッケル膜と亜鉛膜の間で一度犠牲防食が発生した部位では、亜鉛膜が消失し犠牲防食能がなくなる。そのため、剥き出しになったニッケル膜が損傷した場合その部位でマグネシウム合金が露出し、それによりマグネシウム合金とニッケル膜の間で電蝕が発生することで、マグネシウム合金が激しく腐食する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、金属基材の耐蝕性を確実に向上させることができる防食皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防食皮膜は、金属基材の表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜と、前記第一膜上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜と、前記第二膜上に形成され、亜鉛を含有する第三膜と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これによれば、鉄又はクロムがニッケルより卑な金属(イオン化傾向が高い)であるため、第一膜(ニッケル)と第二膜(鉄又はクロム)との間で犠牲防食能が発揮される。さらに、亜鉛が鉄又はクロムより卑な金属であるため、第二膜(鉄又はクロム)と第三膜(亜鉛)との間で犠牲防食能が発揮される。これにより、防食皮膜の犠牲防食能が向上し、金属基材の耐蝕性は確実に向上する。なお、金属基材は、合金からなる基材、又は、純金属からなる基材である。
【0009】
また、ニッケル(第一膜)は、無電解めっきにより金属基材表面に容易に形成することができ、且つ、別の膜をその上に形成することができるため、第一膜として有効である。したがって、例えば、マグネシウム合金など、自身のイオン化傾向が高く、表面に自身より卑な金属膜を形成し難い合金に対しても、ニッケルは、第一膜として容易に形成することができる。
【0010】
したがって、金属基材は、マグネシウム系金属からなるものでもよい。マグネシウム系金属とは、マグネシウム合金、又は、純粋なマグネシウムを意味する。上記のとおり、ニッケルはマグネシウム系金属上にも形成しやすく、マグネシウム系金属からなる金属基材の表面にニッケルを含有する第一膜を形成することで、当該金属基材の防食皮膜形成におけるめっきの自由度が向上する。一方で、当該マグネシウム系金属の耐蝕性は、ニッケルを皮膜することで、裸材よりも低下する虞がある。しかし、本発明によれば、第一膜(ニッケル)と第三膜(亜鉛)との間に、第一膜よりイオン化傾向が高く且つ第三膜よりイオン化傾向が低い鉄又はクロムを含有する第二膜が形成されている。これにより、犠牲防食能は、ニッケルと鉄(又はクロム)との間、及び、鉄(又はクロム)と亜鉛との間の双方で発揮され、マグネシウム系金属に対してニッケルを用いることによる耐蝕性低下が防止され、金属基材(マグネシウム系金属)の耐蝕性は向上する。上記防食皮膜を備えたマグネシウム部材は、耐蝕性に優れている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防食皮膜によれば、金属基材の耐蝕性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の防食皮膜を示す模式断面図である。
【図2】皮膜表面を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0014】
本実施形態の防食皮膜1は、図1に示すように、第一膜11と、第二膜12と、第三膜13と、を備えている。なお、図1は模式図であり、説明のために縦横の比は変更されている。
【0015】
第一膜11は、金属基材Mの表面に形成されたニッケル(Ni)めっきである。第一膜11は、公知の無電解めっき(無電解ニッケルめっき)により金属基材M表面に形成される。
【0016】
第二膜12は、第一膜11上に形成された鉄(Fe)めっきであり、公知の電解めっき(電気めっき)により形成される。第三膜13は、第二膜12上に形成された亜鉛(Zn)めっきであり、公知の電解めっきにより形成される。
【0017】
(実施例)
金属基材Mとしてマグネシウム合金(AZ31)を用い、当該マグネシウム合金(AZ31)表面に防食皮膜1を形成した。第一膜11は、無電解ニッケルめっきにより形成したニッケルめっきであり、膜厚は30μmとした。第二膜12は、公知の電解めっきにより形成した鉄めっきであり、膜厚は20μmとした。第三膜13は、公知の電解めっきにより形成した亜鉛めっきであり、膜厚は10μmとした。なお、マグネシウム合金はAZ31に限らず、マグネシウムを主成分とした合金であればよい。
【0018】
(比較例)
比較例1として、マグネシウム合金(AZ31)の裸材(皮膜なし)を準備した。また、比較例2として、実施例と同じ方法により、マグネシウム合金(AZ31)表面にニッケルめっき(膜厚30μm)を施し、ニッケルめっき上に亜鉛めっき(膜厚10μm)を施したものを準備した。
【0019】
(塩水噴霧試験)
腐食試験として、実施例及び比較例1、2に対し、塩水噴霧試験(JIS Z2371)150時間を実施した。試験前後の重量減少率は、以下のとおりとなった。なお、重量減少率は、その値が小さいほど、耐蝕性が優れていることを意味する。
【0020】
実施例の重量減少率は、0.04%であった。比較例1の重量減少率は、4.3%であった。比較例2の重量減少率は、42.14%であった。実施例の防食皮膜1を形成したマグネシウム合金の重量減少率は、比較例1、2よりも小さく、最も小さい値となった。つまり、防食皮膜1を形成することにより、マグネシウム合金の耐蝕性は向上する。特に、比較例2の皮膜を形成したものに対して著しく耐蝕性が向上している。
【0021】
比較例2では、ニッケル−亜鉛の間で、一度犠牲防食が発生した部位では、亜鉛膜が消失し犠牲防食能がなくなる。そのため、剥き出しになったニッケル膜が損傷した場合その部位でマグネシウム合金が露出し、それによりマグネシウム−ニッケル間で電蝕が発生することで、マグネシウム合金が激しく腐食する。したがって、比較例2では実施例に比べて重量減少率が大きくなったと考えられる。
【0022】
また、試験前における各皮膜の表面については、図2に示すとおりである。図2の上段は、第一膜11(Ni膜)の表面である。図2の中段は、第二膜12の表面(Ni膜−Fe膜のうちFe膜の表面)であり、粒が集合したアスファルト状となっていた。図3の下段は、比較例2の表面(Ni膜−Zn膜のうちZn膜の表面)であり、網状の皮膜に黒色の破れ部分が多く見られた。なお、図2において、左列は250倍、中列は800倍、右列はおよそ14000倍で拡大した写真であり、中列最下段は、亜鉛表面の破れ部分(黒色部)の8000倍拡大写真である。
【0023】
図2に示すように、亜鉛膜(図2下段)は、緻密な網状の皮膜であり、網状であるが故に、網の破れ部分(黒色部)が存在する。したがって、比較例2の場合、破れ部分においてニッケルめっきが直接露出し、その分、犠牲防食能が低下し、耐蝕性が低下したものと考えられる。
【0024】
一方、実施例では、ニッケルめっきと亜鉛めっきとの間に鉄めっきが形成されているため、ニッケル−鉄、鉄−亜鉛、と二重の犠牲防食能が発揮される。さらに、図2に示すように、鉄めっき表面が粒の集合したアスファルト状に緻密に成膜されているため、亜鉛めっき表面のような破れ部分がほぼない。したがって、ニッケルめっきが直接大気に露出することがなく酸化から保護され、且つ、ニッケル−鉄にて犠牲防食能が確実に発揮される。
【0025】
このように、本実施形態の防食皮膜1によれば、金属基材Mの耐蝕性を確実に向上させることができる。
【0026】
ここで、マグネシウム合金(AZ31)にニッケルめっき(膜厚30μm)のみを施したものについて、上記と同試験を行った結果、当該重量減少率は65.58%と著しく悪化した。つまり、金属基材がマグネシウム系金属の場合、そもそも防食皮膜を形成し難く、形成しやすくするためにニッケルめっきを施すと、逆に耐蝕性が悪化するという問題がある。
【0027】
しかし、防食皮膜1によれば、上記のとおり、当該マグネシウム合金であっても耐蝕性を向上させることができる。防食皮膜1は、マグネシウム合金に対して特に有効である。当然、金属基材M(マグネシウム系金属)と防食皮膜1とを備えるマグネシウム部材は、耐蝕性に優れたものとなる。
【0028】
なお、金属基材は、マグネシウム合金に限られず、鉄合金やアルミニウム合金であってもよい。ニッケルは、無電解めっきが可能であり、第一膜として合金表面に形成しやすく、他の合金(又は純金属)にも適用できる。防食皮膜1は、他の合金に対しても、上記同様の犠牲防食能を発揮できる。また、ニッケルは、比較的イオン化傾向が小さいためニッケルよりイオン化傾向が大きい金属が多く存在することになる。このため、ニッケル上に形成する金属膜(ニッケルよりイオン化傾向の大きい金属膜)の選択肢が増え、そこに犠牲防食能を発揮させやすく、第一膜として有効である。
【0029】
また、第二膜12は、クロム(Cr)を含有するものであってもよい。クロムも鉄同様、ニッケルよりイオン化傾向が大きく亜鉛よりイオン化傾向が小さいため、クロムとニッケル及び亜鉛の間(二重)で犠牲防食能が発揮される。したがって、この場合でも、金属基材の耐蝕性は向上する。クロムめっきは、公知の方法で形成可能である。ただし、図2に示す表面形状から、第二膜12は、鉄のほうがより好適である。
【符号の説明】
【0030】
1:防食皮膜、
11:第一膜、12:第二膜、13:第三膜、
M:金属基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の腐食を防止する防食皮膜、及び、その防食皮膜を備えるマグネシウム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金は、その特性を利用して種々の用途で用いられている。合金の表面は、大気に触れると酸化し腐食する虞がある。そこで、合金に、種々のめっきを施し、耐蝕性を向上させることが行われている。例えば、ニッケルめっきは、無電解めっき(無電解ニッケルめっき)が可能であるため、合金の種類や形状によらず、一様な皮膜を形成できる。
【0003】
防食皮膜としては、例えば、特開2001−89881号公報(特許文献1)に記載されている。この防食皮膜では、マグネシウム合金に対しニッケルめっきを施して、当該ニッケルめっきの上に亜鉛めっきを施しており、ニッケル膜と亜鉛膜との間で犠牲防食能を発揮させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−89881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記防食皮膜では、必ずしも耐蝕性が向上するとは限らない。ニッケル膜と亜鉛膜の間で一度犠牲防食が発生した部位では、亜鉛膜が消失し犠牲防食能がなくなる。そのため、剥き出しになったニッケル膜が損傷した場合その部位でマグネシウム合金が露出し、それによりマグネシウム合金とニッケル膜の間で電蝕が発生することで、マグネシウム合金が激しく腐食する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、金属基材の耐蝕性を確実に向上させることができる防食皮膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防食皮膜は、金属基材の表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜と、前記第一膜上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜と、前記第二膜上に形成され、亜鉛を含有する第三膜と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これによれば、鉄又はクロムがニッケルより卑な金属(イオン化傾向が高い)であるため、第一膜(ニッケル)と第二膜(鉄又はクロム)との間で犠牲防食能が発揮される。さらに、亜鉛が鉄又はクロムより卑な金属であるため、第二膜(鉄又はクロム)と第三膜(亜鉛)との間で犠牲防食能が発揮される。これにより、防食皮膜の犠牲防食能が向上し、金属基材の耐蝕性は確実に向上する。なお、金属基材は、合金からなる基材、又は、純金属からなる基材である。
【0009】
また、ニッケル(第一膜)は、無電解めっきにより金属基材表面に容易に形成することができ、且つ、別の膜をその上に形成することができるため、第一膜として有効である。したがって、例えば、マグネシウム合金など、自身のイオン化傾向が高く、表面に自身より卑な金属膜を形成し難い合金に対しても、ニッケルは、第一膜として容易に形成することができる。
【0010】
したがって、金属基材は、マグネシウム系金属からなるものでもよい。マグネシウム系金属とは、マグネシウム合金、又は、純粋なマグネシウムを意味する。上記のとおり、ニッケルはマグネシウム系金属上にも形成しやすく、マグネシウム系金属からなる金属基材の表面にニッケルを含有する第一膜を形成することで、当該金属基材の防食皮膜形成におけるめっきの自由度が向上する。一方で、当該マグネシウム系金属の耐蝕性は、ニッケルを皮膜することで、裸材よりも低下する虞がある。しかし、本発明によれば、第一膜(ニッケル)と第三膜(亜鉛)との間に、第一膜よりイオン化傾向が高く且つ第三膜よりイオン化傾向が低い鉄又はクロムを含有する第二膜が形成されている。これにより、犠牲防食能は、ニッケルと鉄(又はクロム)との間、及び、鉄(又はクロム)と亜鉛との間の双方で発揮され、マグネシウム系金属に対してニッケルを用いることによる耐蝕性低下が防止され、金属基材(マグネシウム系金属)の耐蝕性は向上する。上記防食皮膜を備えたマグネシウム部材は、耐蝕性に優れている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防食皮膜によれば、金属基材の耐蝕性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の防食皮膜を示す模式断面図である。
【図2】皮膜表面を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0014】
本実施形態の防食皮膜1は、図1に示すように、第一膜11と、第二膜12と、第三膜13と、を備えている。なお、図1は模式図であり、説明のために縦横の比は変更されている。
【0015】
第一膜11は、金属基材Mの表面に形成されたニッケル(Ni)めっきである。第一膜11は、公知の無電解めっき(無電解ニッケルめっき)により金属基材M表面に形成される。
【0016】
第二膜12は、第一膜11上に形成された鉄(Fe)めっきであり、公知の電解めっき(電気めっき)により形成される。第三膜13は、第二膜12上に形成された亜鉛(Zn)めっきであり、公知の電解めっきにより形成される。
【0017】
(実施例)
金属基材Mとしてマグネシウム合金(AZ31)を用い、当該マグネシウム合金(AZ31)表面に防食皮膜1を形成した。第一膜11は、無電解ニッケルめっきにより形成したニッケルめっきであり、膜厚は30μmとした。第二膜12は、公知の電解めっきにより形成した鉄めっきであり、膜厚は20μmとした。第三膜13は、公知の電解めっきにより形成した亜鉛めっきであり、膜厚は10μmとした。なお、マグネシウム合金はAZ31に限らず、マグネシウムを主成分とした合金であればよい。
【0018】
(比較例)
比較例1として、マグネシウム合金(AZ31)の裸材(皮膜なし)を準備した。また、比較例2として、実施例と同じ方法により、マグネシウム合金(AZ31)表面にニッケルめっき(膜厚30μm)を施し、ニッケルめっき上に亜鉛めっき(膜厚10μm)を施したものを準備した。
【0019】
(塩水噴霧試験)
腐食試験として、実施例及び比較例1、2に対し、塩水噴霧試験(JIS Z2371)150時間を実施した。試験前後の重量減少率は、以下のとおりとなった。なお、重量減少率は、その値が小さいほど、耐蝕性が優れていることを意味する。
【0020】
実施例の重量減少率は、0.04%であった。比較例1の重量減少率は、4.3%であった。比較例2の重量減少率は、42.14%であった。実施例の防食皮膜1を形成したマグネシウム合金の重量減少率は、比較例1、2よりも小さく、最も小さい値となった。つまり、防食皮膜1を形成することにより、マグネシウム合金の耐蝕性は向上する。特に、比較例2の皮膜を形成したものに対して著しく耐蝕性が向上している。
【0021】
比較例2では、ニッケル−亜鉛の間で、一度犠牲防食が発生した部位では、亜鉛膜が消失し犠牲防食能がなくなる。そのため、剥き出しになったニッケル膜が損傷した場合その部位でマグネシウム合金が露出し、それによりマグネシウム−ニッケル間で電蝕が発生することで、マグネシウム合金が激しく腐食する。したがって、比較例2では実施例に比べて重量減少率が大きくなったと考えられる。
【0022】
また、試験前における各皮膜の表面については、図2に示すとおりである。図2の上段は、第一膜11(Ni膜)の表面である。図2の中段は、第二膜12の表面(Ni膜−Fe膜のうちFe膜の表面)であり、粒が集合したアスファルト状となっていた。図3の下段は、比較例2の表面(Ni膜−Zn膜のうちZn膜の表面)であり、網状の皮膜に黒色の破れ部分が多く見られた。なお、図2において、左列は250倍、中列は800倍、右列はおよそ14000倍で拡大した写真であり、中列最下段は、亜鉛表面の破れ部分(黒色部)の8000倍拡大写真である。
【0023】
図2に示すように、亜鉛膜(図2下段)は、緻密な網状の皮膜であり、網状であるが故に、網の破れ部分(黒色部)が存在する。したがって、比較例2の場合、破れ部分においてニッケルめっきが直接露出し、その分、犠牲防食能が低下し、耐蝕性が低下したものと考えられる。
【0024】
一方、実施例では、ニッケルめっきと亜鉛めっきとの間に鉄めっきが形成されているため、ニッケル−鉄、鉄−亜鉛、と二重の犠牲防食能が発揮される。さらに、図2に示すように、鉄めっき表面が粒の集合したアスファルト状に緻密に成膜されているため、亜鉛めっき表面のような破れ部分がほぼない。したがって、ニッケルめっきが直接大気に露出することがなく酸化から保護され、且つ、ニッケル−鉄にて犠牲防食能が確実に発揮される。
【0025】
このように、本実施形態の防食皮膜1によれば、金属基材Mの耐蝕性を確実に向上させることができる。
【0026】
ここで、マグネシウム合金(AZ31)にニッケルめっき(膜厚30μm)のみを施したものについて、上記と同試験を行った結果、当該重量減少率は65.58%と著しく悪化した。つまり、金属基材がマグネシウム系金属の場合、そもそも防食皮膜を形成し難く、形成しやすくするためにニッケルめっきを施すと、逆に耐蝕性が悪化するという問題がある。
【0027】
しかし、防食皮膜1によれば、上記のとおり、当該マグネシウム合金であっても耐蝕性を向上させることができる。防食皮膜1は、マグネシウム合金に対して特に有効である。当然、金属基材M(マグネシウム系金属)と防食皮膜1とを備えるマグネシウム部材は、耐蝕性に優れたものとなる。
【0028】
なお、金属基材は、マグネシウム合金に限られず、鉄合金やアルミニウム合金であってもよい。ニッケルは、無電解めっきが可能であり、第一膜として合金表面に形成しやすく、他の合金(又は純金属)にも適用できる。防食皮膜1は、他の合金に対しても、上記同様の犠牲防食能を発揮できる。また、ニッケルは、比較的イオン化傾向が小さいためニッケルよりイオン化傾向が大きい金属が多く存在することになる。このため、ニッケル上に形成する金属膜(ニッケルよりイオン化傾向の大きい金属膜)の選択肢が増え、そこに犠牲防食能を発揮させやすく、第一膜として有効である。
【0029】
また、第二膜12は、クロム(Cr)を含有するものであってもよい。クロムも鉄同様、ニッケルよりイオン化傾向が大きく亜鉛よりイオン化傾向が小さいため、クロムとニッケル及び亜鉛の間(二重)で犠牲防食能が発揮される。したがって、この場合でも、金属基材の耐蝕性は向上する。クロムめっきは、公知の方法で形成可能である。ただし、図2に示す表面形状から、第二膜12は、鉄のほうがより好適である。
【符号の説明】
【0030】
1:防食皮膜、
11:第一膜、12:第二膜、13:第三膜、
M:金属基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜と、
前記第一膜上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜と、
前記第二膜上に形成され、亜鉛を含有する第三膜と、
を備えることを特徴とする防食皮膜。
【請求項2】
前記金属基材は、マグネシウム系金属からなる請求項1に記載の防食皮膜。
【請求項3】
マグネシウム系金属からなる金属基材と、
前記金属基材の表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜と、
前記第一膜上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜と、
前記第二膜上に形成され、亜鉛を含有する第三膜と、
を備えることを特徴とするマグネシウム部材。
【請求項1】
金属基材の表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜と、
前記第一膜上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜と、
前記第二膜上に形成され、亜鉛を含有する第三膜と、
を備えることを特徴とする防食皮膜。
【請求項2】
前記金属基材は、マグネシウム系金属からなる請求項1に記載の防食皮膜。
【請求項3】
マグネシウム系金属からなる金属基材と、
前記金属基材の表面に形成され、ニッケルを含有する第一膜と、
前記第一膜上に形成され、鉄又はクロムを含有する第二膜と、
前記第二膜上に形成され、亜鉛を含有する第三膜と、
を備えることを特徴とするマグネシウム部材。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2011−225947(P2011−225947A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97679(P2010−97679)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
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