説明

集合プラスチックレンズ、走査光学装置および画像形成装置

【課題】複数の光線を共通のレンズに通過させるレンズにて、成形性の向上を図る。
【解決手段】本発明が適用される走査光学装置は、複数の光線をレンズに入射し、被走査体上に走査露光する走査光学装置であって、そのレンズは、イエロー(Y)の光線を通過させるYレンズ領域と、マゼンタ(M)の光線を通過させるMレンズ領域と、シアン(C)の光線を通過させるCレンズ領域と、ブラック(K)の光線を通過させるKレンズ領域とを有し、これらの各レンズ領域の間に肉抜き領域を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合プラスチックレンズ、走査光学装置およびこれらを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンタや複写機、ファクシミリ装置に代表される画像形成装置には、露光器にて光ビームを出力画像信号に応じて点滅させ、点滅させた光ビームによって像保持体(感光体ドラム)を露光する走査光学装置が存在する。このような画像形成装置では、変調され出力された光ビームを回転多面鏡の反射面により偏向し、この偏向反射された光ビームにより、fθ特性を有する走査光学素子(fθレンズ)を介して像保持体を露光走査している。
【0003】
ここで、電子写真方式を用いた画像形成装置では、例えば、イエロー(以下、「Y」と称す。)、マゼンタ(以下、「M」と称す。)、シアン(以下、「C」と称す。)、ブラック(以下、「K」と称す。)の複数の画像形成部を並列配設する、いわゆるタンデム型の画像形成装置が広く用いられている。これらの画像形成装置に用いられる走査光学装置は、YMCK用の出力画像信号に基づき、これらYMCK用に各々設けられた画像形成部の各々の像保持体に対して露光走査を行う。
【0004】
従来技術としては、複数の光源から出射された複数のビームをレンズおよび偏向手段を介して被走査体上に走査露光する走査光学装置において、ビームの数に対応して設けた複数のレンズを重ねて配置したものが存在する(例えば、特許文献1参照)。
また、他の従来技術としては、レンズなどの光学部品を多段に保持し、複数のレーザ光源部からの画像ビームを像担持体に結像させたものが存在する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−164917号公報
【特許文献2】特開平10−3052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、上記のいわゆるタンデム型の画像形成装置ではYMCK用に4本の光線が扱われるが、従来は一本の光線に対して一つのfθレンズ(レンズ)が設けられ、装置として複数個のレンズが備えられていた。しかしながら、この複数個のレンズの数を減らし、複数の光線を一つのレンズに通過できれば、部品点数および光学設計の工数を軽減できる点から好ましい。
【0007】
このとき、上記の従来技術のごとく、複数のレンズを重ね、または貼り合わせたものでは、あくまでもビーム数に応じたレンズ数が必要となり、実質上の部品点数の削減にはならない。また、複数個のレンズを貼り合わせた場合には、この貼り合わせによる累積誤差やゴミを挟んだ場合などの製造上の欠陥等も予想され、好ましいレンズを得ることは困難となる。
【0008】
また、例えば、YMCK用の各光線が副走査方向に一定の間隔を開けて入射する一つのレンズを樹脂の成形で得ることが好ましいが、このような樹脂のレンズでは、主走査方向だけではなく副走査方向にもサイズが大きくなる傾向にある。そのため、そのままの形状では、成形時間が長くなることに加え、成形時の「ヒケ」に起因する寸法形状のばらつきが生じ、好ましい光学特性を得ることが難しかった。
ここで、主走査方向とは、光偏向器が光線を偏向した際の光線の移動方向をいう。また、主走査方向が感光体ドラムの長手方向(軸方向)である場合、副走査方向とは、感光体ドラムの表面の移動方向をいう。これら主走査方向と副走査方向は、互いに直交する関係にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第1発明)
第1発明の集合プラスチックレンズは、1本の光線を通過させるレンズを複数有し、全てのレンズを通過する光線が互いに略平行になるように、全てのレンズを所定の間隔で平行に並べたレンズ群と、このレンズ群を連結する一または複数の連結部材が一体成形され、全てのレンズの肉厚が略均一であることを特徴とするものである。
より具体的には、例えば、イエロー(Y)の光線を通過させるYレンズと、マゼンタ(M)の光線を通過させるMレンズと、シアン(C)の光線を通過させるCレンズと、ブラック(K)の光線を通過させるKレンズとを有し、これらの各レンズの間に肉抜き部を有する。また、例えば、イエロー(Y)とマゼンタ(M)との間、およびシアン(C)とブラック(K)との間には肉抜き領域がなく、マゼンタ(M)との間、およびシアン(C)とブラック(K)との間には肉抜き部がなく、マゼンタ(M)とシアン(C)との間だけ肉抜き部が設けられる場合等、1つの領域で複数の光線が通過するが、特定の領域と他の領域とで肉抜き領域が設けられる態様もある。
【0010】
かかる構成により、集合プラスチックレンズは、個々のレンズの肉厚が略均等な構造(略均等肉厚構造)を有するので、樹脂成形に際して問題となる「ヒケ」の影響を軽減できるという効果を奏する。
また、集合プラスチックレンズは、第1の光線(1番目のレンズを通過する光線)、第2の光線(2番目のレンズを通過する光線)、・・・第Nの光線(N番目のレンズを通過する光線)が各々走査されるN個のレンズからなるレンズ群の主走査方向の両端に連結部材が設けられ、当該連結部材にN個のレンズからなるレンズ群が連結しているので、あるレンズ(M番目のレンズ)を通過した光線の隣接するレンズ(M−1番目のレンズおよびM+1番目のレンズ)への迷光を良好に軽減できる。
更に、前記レンズは光線が通過する光軸方向の途中に連結部材が形成され、レンズ群を構成する複数のレンズが当該連結部材に連結して集合プラスチックレンズ領域が形成されるので、機械的特性の安定した集合プラスチックレンズを提供できる点で優れている。
また、第1発明に係る集合プラスチックレンズは、部品点数および光学設計に要する工数の軽減(削減)を図ることができる。更に、迷光を良好に軽減できる点で好ましい。
【0011】
また本願発明は、第1の光線を通過させる第1のレンズ(1番目のレンズ)と、この第1のレンズと一体成形で形成され第1の光線とは異なる第2の光線を通過させる第2のレンズ(2番目のレンズ)と、第1のレンズと第2のレンズとの間に形成される肉抜き部とを有する集合プラスチックレンズとしても把握できる。
【0012】
ここで、肉抜き部は、第1の光線および第2の光線の少なくとも入射側と出射側にて、第1のレンズと第2のレンズとを分離することを特徴とすることができる。
また、第1の光線および第2の光線が各々走査される主走査方向の両側に支持部材が設けられ、または第1の光線および第2の光線が通過する光軸方向の途中に支持部材が形成され、略均等肉厚構造の集合プラスチックレンズであることを特徴とすれば、樹脂成形に際して問題となる「ヒケ」の影響を軽減でき、更に迷光を良好に軽減できる点で好ましい。
(第2発明)
第2発明に係る走査光学装置は、複数の光源を出射する光源と、この光源から出射された複数の光線を偏向する回転多面鏡を備えた光偏向器と、この光偏向器により偏向された複数の光線を通過させる第1発明の集合プラスチックレンズとを備えたものである。
かかる構成により、あるレンズを通過した光線の隣接するレンズへの迷光を良好に軽減できる走査光学装置を提供できる。
(第3発明)
第3発明の画像形成装置は、像保持体と、この像保持体に静電潜像を形成する第2発明の走査光学装置を備えたものである。
【0013】
つまり、第3発明は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各々の色の画像の形成のために各々設けられ、各色のトナー像を保持する複数の像保持体と、複数の光線を1つの集合プラスチックレンズに入射し、前記複数の像保持体を各々露光する(静電潜像を形成する)走査光学装置とを備え、前記走査光学装置の1つの集合プラスチックレンズは、イエロー(Y)の光線を通過させるYレンズと、このYレンズに対して少なくとも光線の入射側と出射側に肉抜き領域を隔てて形成され、マゼンタ(M)の光線を通過させるMレンズと、このMレンズに対して少なくとも光線の入射側と出射側に肉抜き領域を隔てて形成され、シアン(C)の光線を通過させるCレンズと、このCレンズに対して少なくとも光線の入射側と出射側に肉抜き領域を隔てて形成され、ブラック(K)の光線を通過させるKレンズとを有し、Yレンズ、Mレンズ、Cレンズ、およびKレンズからなるレンズ群と、支持部材が一体成形で形成されることを特徴とする画像形成装置である。
【0014】
ここで、1つの集合プラスチックレンズは、光線が走査される主走査方向の両端に支持部材が設けられ、当該支持部材に連結してYレンズ、Mレンズ、Cレンズ、およびKレンズからなるレンズ群が形成されることを特徴とすれば、均等肉厚構造による良好な成形性と、迷光の抑制を図ることができる点で優れている。
更に、1つの集合プラスチックレンズは、光線が通過する方向の途中に支持部材が形成され、当該支持部材に連結してYレンズ、Mレンズ、Cレンズ、およびKレンズからなるレンズ群が形成されることを特徴とすれば、機械的特性に優れた均等肉厚構造を形成できる点で好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の光線を1つの集合プラスチックレンズに通過させることができ、本構成を有していない場合に比較して、部品点数の削減と光学設計に要する工数の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態が適用される画像形成装置の構成の一例を示した図である。
【図2】本実施の形態が適用される走査光学装置であるレーザ露光器の構成を説明する側断面図である。
【図3】(a)、(b)は、集合プラスチックレンズ(fθレンズ)25の第1の形態例を説明するための図である。
【図4】(a)、(b)は、レンズ部材として樹脂成形部材を採用した場合のヒケの問題を説明するための図である。
【図5】(a)、(b)は、集合プラスチックレンズ(fθレンズ)25の第2の形態例を説明するための図である。
【図6】集合プラスチックレンズを成形する為の成形金型の断面図である。
【図7】図3の集合プラスチックレンズの成形金型の断面図である。
【図8】図5の集合プラスチックレンズの成形金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例について詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
<画像形成装置の全体説明>
図1は、本実施の形態が適用される画像形成装置1の構成の一例を示した図である。図1に示す画像形成装置1は、電子写真方式を用いたいわゆるタンデム型のデジタルカラープリンタであって、各色の画像データに対応して画像形成を行う画像形成プロセス部70、画像形成装置1全体の動作を制御する制御部80、例えばパーソナルコンピュータ(PC)3やスキャナ等の画像読取装置4等から受信した画像データに所定の画像処理を施す画像処理部81を備えている。
【0018】
画像形成プロセス部70は、4つの画像形成ユニット10Y、10M、10C、10K(以下「画像形成ユニット10」と総称することがある)が上下方向(略鉛直方向)に一定の間隔で並列配置されている。画像形成ユニット10は、像保持体としての感光体ドラム11、帯電ロール12、現像器13、ドラムクリーナ14を備えている。この帯電ロール12は、感光体ドラム11の表面を所定電位で一様に帯電する。現像器13は、画像形成ユニット10それぞれにおいて、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色トナーと磁性キャリアとからなる二成分現像剤を保持して、感光体ドラム11上に形成された静電潜像を各色トナーで現像する。ドラムクリーナ14は、例えば板状部材を感光体ドラム11表面に接触させて、感光体ドラム11上に付着したトナーや紙粉等を除去する。
【0019】
また、本実施の形態の画像形成装置1には、各画像形成ユニット10それぞれに配設された感光体ドラム11を露光する走査光学装置の一例としてのレーザ露光器20が設けられている。レーザ露光器20は、各色毎の画像データを画像処理部81から取得し、取得した画像データに基づいて点灯制御されたレーザ光により、各画像形成ユニット10の感光体ドラム11上をそれぞれ走査露光する。
さらに、各画像形成ユニット10の感光体ドラム11と接触しながら移動するように、用紙を搬送する用紙搬送ベルト30が配置されている。用紙搬送ベルト30は、用紙を静電吸着するフィルム状の無端ベルトで形成され、駆動ロール32とアイドルロール33とに掛け渡されて循環移動している。
【0020】
用紙搬送ベルト30の内側であって各感光体ドラム11と対向する位置には、それぞれ転写ロール31が配置され、感光体ドラム11との間に転写電界を形成し、用紙上に、各画像形成ユニット10で形成された各色トナー像を順次転写する。さらに、各転写ロール31の下流側には、転写後の感光体ドラム11を除電する除電ランプ15が設けられている。また、用紙搬送ベルト30の用紙搬送方向の下流側には、用紙上の未定着トナー像に対して熱および圧力による定着処理を施す定着器40が設けられている。
【0021】
さらに、用紙搬送系として、用紙を収容する用紙収容部50、用紙収容部50に収容された用紙を所定のタイミングで取り出して搬送するピックアップロール51、繰り出された用紙を搬送する搬送ロール52、画像形成動作に合わせて用紙を用紙搬送ベルト30に送り出すレジストロール53が設けられている。また、定着器40にて定着処理された用紙を搬送する排紙ロール54、片面プリントの場合には用紙を装置本体上部に設けられた排紙積載部90に向けて排出し、両面プリントの場合には排紙積載部90に向けた回転方向から逆方向に反転することで、定着器40にて片面が定着された用紙を両面搬送路M2に向けて送り出す反転ロール55等が配設されている。
【0022】
本実施の形態の画像形成装置1において、画像形成プロセス部70は、制御部80による制御の下で画像形成動作を行う。すなわち、PC3や画像読取装置4等から入力された画像データは、画像処理部81によって所定の画像処理が施され、レーザ露光器20に供給される。そして、各画像形成ユニットにて、帯電ロール12により所定電位で一様に帯電された感光体ドラム11の表面が、レーザ露光器20により画像処理部81からの画像データに基づいて点灯制御されたレーザ光で走査露光され、感光体ドラム11上に静電潜像が形成される。形成された静電潜像は現像器13により現像され、感光体ドラム11上に各色のトナー像が形成される。各画像形成ユニット10での各色トナー像の形成が開始されると、用紙収容部50から取り出された用紙は、用紙搬送ベルト30により搬送され、転写ロール31により形成される転写電界によって各色トナー像が用紙上に順次転写される。その後、定着器40に搬送され、未定着トナー像が用紙に定着され、排紙積載部90に積載される。
【0023】
<走査光学装置の説明>
次に、本実施の形態で用いられるレーザ露光器20について説明する。
図2は、本実施の形態が適用される走査光学装置であるレーザ露光器20の構成を説明する側断面図である。図2に示したように、レーザ露光器20は、例えば4つの半導体レーザからなる光源21を備えている。さらに、光源21からの各レーザ光に対応して設けられた4つのコリメータレンズ22、シリンダーレンズ23、例えば正六角面体で形成された偏向部材の一例としての回転多面鏡(ポリゴンミラー)24、各レーザ光が共通に通過する集合プラスチックレンズとしてのfθレンズ25、複数の折り返しミラー26を備えている。また、レーザ露光器20は、ハウジング28内に構成され、レーザ光の外部への漏洩や各光学部材への埃等の付着を抑えている。
【0024】
このレーザ露光器20では、光源21から出射された複数の光としての発散性の4本のレーザ光LK、LC、LM、LYが、各コリメータレンズ22によって平行光に変換され、副走査方向にのみ屈折力を持つシリンダーレンズ23により、ポリゴンミラー24の偏向反射面24a近傍にて主走査方向に長い線像として結像される。そして、各レーザ光LK、LC、LM、LYは、高速で定速回転するポリゴンミラー24の偏向反射面24aにより反射され、等角速度的に走査される。
【0025】
ポリゴンミラー24へのビーム入射方式としては、複数ビームを主走査方向に角度を持たせて入射させるタンジェンシャル・オフセット入射方式や、複数ビームを副走査方向にそれぞれ異なる角度で入射させるサジタル・オフセット入射方式等がある。本実施の形態では、ポリゴンミラー24の偏向反射面24aに入射する各レーザ光LK、LC、LM、LYがそれぞれ副走査方向に角度を持ち、サジタル方向に互いにオフセット入射するサジタル・オフセット入射方式を採用している。そして、ポリゴンミラー24に入射する各レーザ光LK、LC、LM、LYは、偏向反射面24aにおける反射位置が副走査方向に一致するように設定される。
【0026】
ポリゴンミラー24で偏向された各レーザ光LK、LC、LM、LYは、fθレンズ25を通過し、複数の折り返しミラー26により感光体ドラム11の表面に向けて方向を変えられて各画像形成ユニット10の感光体ドラム11の表面を走査露光する。ここで、fθレンズを構成するfθレンズ25は、レーザ光の光スポットの走査速度を感光体ドラム11上で等速化する機能を有している。
また、上記した線像は、ポリゴンミラー24の偏向反射面24aの近傍に結像し、fθレンズ25は副走査方向に関して偏向反射面24aを物点として光スポットを感光体ドラム11の表面上に結像させるので、この走査光学系は、偏向反射面24aの面倒れを補正する機能を有している。
【0027】
ところで、本実施の形態では、各レーザ光が共通に通過する共通レンズとしてのfθレンズ25を採用している。通常の走査光学装置であれば、レーザの光線1つに対して、例えばガラス部材からなる1つのレンズが用いられるが、本実施の形態では、樹脂部材を用いて4本の光線に対して1つのfθレンズ25が採用されている。設計によっては、2本の光線に対して1つずつ、計2つのレンズを採用することも可能である。このように、複数の光線をfθレンズ25に入射し、被走査体(図1の感光体ドラム11)に走査露光している。
【実施例1】
【0028】
<fθレンズの第1の実施例>
図3(a)、(b)は、本発明に係る集合プラスチックレンズとしてのfθレンズ25の第1の実施例を説明するための図である。図3(a)は斜視図であり、図3(b)は図3(a)のX方向中央部のIIIB−IIIB断面である。
図3に示すfθレンズ25は、複数の光線のうちY色用の光線であるレーザ光LYを通過させるYレンズ25y、M色用の光線であるレーザ光LMを通過させるMレンズ25m、C色用の光線であるレーザ光LCを通過させるCレンズ25c、K色用の光線であるレーザ光LKを通過させるKレンズ25kを有している。そしてこれらのレンズ群(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)は、その両側(主走査方向(図のX方向)の両端)の支持部材25aに連結し、このその両側の支持部材25aで支えられている。この支持部材25aの肉厚は、レーザ光が通過する各レンズ(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)の肉厚とほぼ同等である。
【0029】
また、図3(b)に示すように、Yレンズ25yとMレンズ25mとの間には肉抜き部25hが設けられている。同様に、Mレンズ25mとCレンズ25c、Cレンズ25cとKレンズ25kとの間には、それぞれ同様な肉抜き部25hが設けられている。これらの肉抜き部25hは、光線の通過する入射側から出射側に向けての光軸方向(図のZ方向に)貫通した肉抜き構造となっている。
【0030】
また、図3(a)にて、図のX方向である集合プラスチックレンズ(fθレンズ25)の長手方向は、回転多面鏡(ポリゴンミラー)24(図2参照)によって走査される主走査方向であり、その主走査の範囲外(主走査を超えた部分)の両側に支持部材25aが形成されている。これによって、実際に光線が通過する部分であるレンズ群(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)に対し、その各レンズの端の実際に光線が通過しない部分に支持部材25aが形成され、各レンズの間であって実際に光線が通過しない部分に肉抜き部25hが形成されていることとなる。そして、YMCK用の各光線が通過する部分にはそれぞれの光学面を形成して、いわゆるマルチドメイン構造(多層領域構造)を形成している。
【0031】
尚、各レンズ(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)は、光線が入射する角度に応じて表面(入射面/出射面)の自由曲面形状が決定される。例えば、fθレンズ25の両端の領域(本実施例ではYレンズ25yとKレンズ25k)には、副走査方向(Y方向)に強い勾配が形成された自由曲面形状の入射面/出射面が形成されている。
【0032】
ここで、fθレンズ25の成形材料としては、好ましくは、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)や三井化学株式会社のアペル(登録商標)などのポリオレフィン樹脂等が用いられる。そして、これらの樹脂を成形してfθレンズ25が形成される。従来は、1本の光線に1個のガラス部材を準備し、例えば4本の光線用に4個のガラス部材を貼り合わせてレンズ体を形成していたが、部品点数の増大に伴うコストアップや積み上げによる寸法誤差などの種々の問題が指摘されていた。本実施の形態では、これらの光学面を一体として成形することで、従来の問題点を解決し、更に光学設計も簡易化させている。しかしながら、樹脂の成形では、成形部材の体積が増してくると「ヒケ」の影響が大きくなる。
【0033】
(レンズの評価)
次に、前記fθレンズの製造方法、および従来のfθレンズの製造方法で成形した、本発明の効果を確認する。
尚、本実施例にて、非球面プラスチックレンズのヒケ、ウネリ等の評価機器は、パナソニック社製3次元測定器Ultra Accurate
3−D Profilometer(以下、「UA3P」と略す。)を用いた。
図4(a)、(b)は、レンズ部材として樹脂成形部材を採用した場合のヒケの問題を説明するための図である。図4(a)は肉厚が均等ではなく厚肉部分を有するレンズ部材を成形した後の測定結果(実験例)を示した図であり、図4(b)はその測定対象となった部材の概略構成を示した図である。図4(a)における横軸は、図4(b)に示すようなレンズ部材の中心OからX方向55mm〜65mmまでのX軸方向位置(単位mm)を示している。一方、図4(a)における縦軸は、図4(b)に示すようなレンズ部材のZ方向位置を示しており、縦軸の中心「0.0」は、例えば端部からZ方向に15mmの位置を示している。そして、縦軸の単位はμmである。そして、成形した後の測定結果として、図4(a)の実線で示すような結果が得られている。
【0034】
この図4(a)の実線では、X軸方向位置が60mmと61mmとの間にて「ヒケ」による段差が生じている。「ヒケ」の影響がない場合を図4(a)の一点鎖線とすると、65mmの場所で約1μmの縮み(ヒケ)が生じているのが確認できる。更に、この「ヒケ」による縮みは、安定したものではなく、場所によって変わる等、制御が非常に難しい。そして、この「ヒケ」により安定した形状が得られない場合には、好ましいレンズ特性が得られない。
【0035】
そこで、本実施例1では、図3(a)、(b)に示すように、肉抜き部25hを設け、実際に光線が通過しない部分の肉抜きを行うことで、fθレンズ25の全体を均等肉厚構造に近づけ、成形性を向上させている。これによって、樹脂レンズの成形に際して生じる収縮(ヒケ)の影響を軽減し、本構成を採用しない場合に比べ、光学特性をより安定させることができる。
更に加えて、図3(a)、(b)に示すfθレンズ25では、各色の光線(レーザ光(LY、LM、LC、LK))が走査される領域範囲において、それぞれが他のレーザ光が走査される領域と重なっていない。即ち、光線が走査される範囲にて、これらの領域に連続性がない。その結果、各色の光線、散乱光が他の光線が通過する領域に迷い込む、いわゆる迷光(stray
light)を軽減する効果が非常に大きい。
【0036】
また、この図3(a)、(b)に示す構造によって作られたレンズの形状寸法としては、例えば、レンズ群(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)および支持部材25aの肉厚が2〜3mm程度、肉抜き部25hとしてその幅が1〜2mm程度の空洞を形成することで、Y方向(副走査方向)の長さが10〜20mm程度とすることができる。また、X方向(主走査方向)の長さは50〜200mm程度、Z方向は10mm〜20mm程度とすることができる。但し、これらの寸法は全くの一例である。
〔集合プラスチックレンズの製造方法〕
次に、本発明に係る集合プラスチックレンズとしてのfθレンズの製造方法を説明する。一般的にfθレンズを製造(成形)する場合、熱可塑性プラスチック等の樹脂材料(ペレット)を溶融させ、fθレンズと同形状のキャビティを有する成形金型を用いる。
(成形用金型)
まず、成形金型について説明する。
図6はfθレンズを製造する為の成形金型を上から見た部分断面図である。尚、図6は、fθレンズをワンショットで2個同時成形する2個取りの成形金型であるが、同一の構成であるため、下方を省略して図示している。
成形金型303は、樹脂注入ノズル308から溶融した樹脂が注入される側の固定側金型304と、固定側金型304に対して接近離反方向(図6上下方向)に、PL面(「パーティング面」、「パーティングライン面」、「パーティングライン」とも呼ぶ。)314にて分離する開閉可能な可動側金型305とから、主として構成されている。
そして、固定側金型304と可動側金型305の間には、成形する製品としてのfθレンズに対応したキャビティ313が形成されている。キャビティ313の大部分は、レンズ面(入射面および出射面)を形成するための転写面を備えた第1の入れ子306と第2の入れ子307により形成されているのが一般的である。
(fθレンズの製造方法)
前記した成形金型303を準備し、成形金型303の可動側金型305を固定側金型304へ移動させて型締めする。尚、型締めした際に成形金型に形成されるキャビティ313は、図7に示す状態となる。図7に示すように、射出成形金型に備える固定側金型304と可動側金型305の間に、成形後のfθレンズ25の肉抜き領域25hを成形できるように対応したキャビティ313(点線部A)が形成される。
そして、図6に示す射出成形装置の樹脂注入ノズル308から溶融樹脂が成形金型303に注入される。成形金型303に注入された溶融樹脂は、固定側金型304に設けられたスプルーブッシュ309、スプルー310、ランナー311およびゲート312を介して、キャビティ313に射出・充填される。キャビティ313に溶融樹脂が充填された後、可動型および固定型に形成された流路(図示せず)に冷却水等を流して可動型および固定型を冷却する。その後、樹脂を硬化(冷却固化)させることで、第1の入れ子(固定側)306の転写面および第2の入れ子(可動側)307の転写面が樹脂に転写されたfθレンズ25を成形することができる。
(レンズの成形材料)
fθレンズ25の成形材料である樹脂材料(ペレット)は、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)や三井化学株式会社のアペル(登録商標)等の非晶性のポリオレフィン樹脂等を用いることができる。
そして、これらの樹脂材料を使用し成形してfθレンズ25が形成される。従来は、1本の光線に1個のガラス部材を準備し、例えば4本の光線用に4個のガラス部材を貼り合わせてレンズ体を形成していたが、部品点数の増大に伴うコストアップや積み上げによる寸法誤差などの種々の問題が指摘されていた。本実施の形態では、これらの光学面を一体として成形することで、従来の問題点を解決し、更に光学設計も簡易化させている。しかしながら、樹脂の成形では、成形部材の体積が増してくると「ヒケ」の影響が大きくなる。
【実施例2】
【0037】
<fθレンズの第2の実施例>
図5(a)、(b)は、fθレンズ25の第2の実施例を説明するための図である。図5(a)は斜視図であり、図5(b)は図5(a)のX方向中央部のVB−VB断面である。
図5に示すfθレンズ25は、複数の光線のうちY色用の光線であるレーザ光LYを通過させるYレンズ25y、M色用の光線であるレーザ光LMを通過させるMレンズ25m、C色用の光線であるレーザ光LCを通過させるCレンズ25c、K色用の光線であるレーザ光LKを通過させるKレンズ25kを有している。そしてこれらのレンズ群(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)は、その中央部の支持部材25pで支えられている。言い換えると、レーザ光LY、レーザ光LM、レーザ光LC、およびレーザ光LKが通過する方向の途中に支持部材25pが形成されている。この支持部材25pの肉厚は、レーザ光が通過する各レンズ(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)の肉厚とほぼ同等である。このような、いわゆるリブ構造によって、図3に示した第1の実施例と同様な均等肉厚構造を形成している。
【0038】
このような均等肉厚構造によって、図5(b)に示すように、Yレンズ25yとMレンズ25mとの間の入射面側には肉抜き部25inhが形成され、出射面側には肉抜き部25outhが形成されている。同様に、Mレンズ25mとCレンズ25c、Cレンズ25cとKレンズ25kとの間にも、それぞれ同様な肉抜き部25inh、25outhが設けられている。そして、実際に光線が通過する部分であるレンズ群(Yレンズ25y、Mレンズ25m、Cレンズ25c、Kレンズ25k)を確保するとともに、実際に光線が通過しない部分に肉抜き部25inh、25outhが形成される。即ち、レーザ光LY、レーザ光LM、レーザ光LC、およびレーザ光LKの、これら光線の少なくとも入射側と出射側とに肉抜き部25inh、25outhが形成されていることになる。
尚、材質、全体形状等は、図3(a)、(b)に示すfθレンズ25と同様である。
【0039】
この図5(a)、(b)に示すような第2の実施例によっても、第1の実施例と同様な、成形時の「ヒケ」による形状の不安定化を改善でき、良好な光学特性を有するレンズが得られる。また、迷光の軽減効果であるが、第1の実施例の方が高いものの、第2の実施例によっても迷光は軽減される。
【0040】
ここで、この第2の実施例の変形として、例えば入射側には肉抜き部がなく出射側だけ肉抜き部がある場合もある。
【0041】
尚、図3(a)、(b)に示す第1の実施例、図5(a)、(b)に示す第2の実施例のレンズ構成において、複数の光線のうちY色用の光線を第1の光線とすると、Yレンズ25yは第1のレンズとなり、M色用の光線は第2の光線、Mレンズ25mは第2のレンズとなる。また、複数の光線のうちM色用の光線を第1の光線とすると、Mレンズ25mは第1のレンズとなり、C色用の光線は第2の光線、Cレンズ25cは第2のレンズとなる。同様に、複数の光線のうちC色用の光線を第1の光線とすると、Cレンズ25cは第1のレンズとなり、K色用の光線は第2の光線、Kレンズ25kは第2のレンズとなる。そして、これらの第1のレンズと第2のレンズとの間に、肉抜き部25h、25inh、25outhが形成されていることとなる。
【0042】
以上、詳述したように、本実施の形態によれば、複数の光線を共通の(単独の)レンズに通過でき、部品点数の軽減と光学設計の軽減が可能となる。そして、この多光線透過用のレンズについて、ほぼ全体を均等肉厚構造(均肉構造)とすることで、樹脂成形に際しての収縮にともなう部分形状のヒケを抑制できる。これにより、寸法形状の安定した、多光線透過用のレンズを提供することができる。また、本実施の形態によれば、迷光の抑制効果が高く、より優れたfθレンズを提供できる。
尚、本実施例2のfθレンズ25は、図8に示すように、fθレンズ25の肉抜き部25hを成形できる成形金型を用いる。
【0043】
上述の実施の形態は、説明のために例示したものであって、本発明はそれに限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
例えば、光線の数は4本ではなく、その装置の構成に応じて適宜、採用できる。例えば、Y、M、C、Kの4本の光線がある場合に、Y、Mの2本の光線で1つのfθレンズ、C、Kで1つのfθレンズを用いる等である。また例えば、画像形成装置1が、コーポレートカラーなどのいわゆる「特色」を一つ加えた5つの画像形成ユニット10を備えている場合には、5本の光線を通過させる1つのfθレンズを設けることが好ましい。このような応用例も可能である。
また、本発明は、請求項1に係る発明を第1発明、請求項2に係る発明を第2発明、請求項3に係る発明を第3発明とすると、以下のように把握できる。
(第4発明)
前記第1発明に記載の集合プラスチックレンズの長手方向の両端には、光軸方向へ位置決めする鍔部を設け、一体成形されたことを特徴とする集合プラスチックレンズ。
かかる構成により、前記した第1発明の効果を奏することができる。
光学素子とは、少なくともレンズを含んだ光学部品群をいう。つまり、レンズのみならず、ミラーを含んでいても良い。レンズとしては、シリンダーレンズ(シリンドリカルレンズ)、コリメータレンズ、fθレンズ等が例示される。また、ミラーとしては、反射ミラー(折り返しミラー)等が例示される。
また、光ビーム(レーザー、レーザー光線)を整形するとは、ミラー等により光ビームの進む向きを所望の向きに変えたり、レンズ等により光ビームの形を所望の形に変えたりすることをいう。
また、静電潜像とは、帯電により感光体の表面(感光層)に形成される像であり、感光層において、レーザー光線が照射された部分の比抵抗が低下し、感光体の表面に帯電した電荷が流れる一方、レーザー光線が照射されなかった部分の電荷が残留することによって形成されるいわゆるネガ潜像をいう。
【符号の説明】
【0044】
1…画像形成装置、10…画像形成ユニット、
20…レーザ露光器、25…集合プラスチックレンズ(fθレンズ)、
70…画像形成プロセス部、
303…成形金型、304…固定側金型、305…可動側金型、
306…第1の入れ子(固定側)、307…第2の入れ子(可動側)、
308…樹脂注入ノズル、309…スプル−ブッシュ、
310…スプルー、311…ランナー、312…ゲート、313…キャビティ、
314…PL面(パーティングライン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の光線を通過させるレンズを複数有し、全ての該レンズを通過する前記光線が互いに略平行になるように、全ての該レンズを所定の間隔で平行に並べたレンズ群と、
該レンズ群を連結する一または複数の連結部材が一体成形され、
全ての前記レンズの肉厚が略均一であることを特徴とする集合プラスチックレンズ
【請求項2】
複数の光源を出射する光源と、
該光源から出射された前記複数の光線を偏向する回転多面鏡を備えた光偏向器と、
該光偏向器により偏向された前記複数の光線を通過させる請求項1に記載の集合プラスチックレンズとを備えた走査光学装置
【請求項3】
像保持体と、
該像保持体に静電潜像を形成する請求項2に記載の走査光学装置を備えた画像形成装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−256843(P2010−256843A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206831(P2009−206831)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(310010793)富士ゼロックスマニュファクチュアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】