説明

離型フィルム及びその製造方法

【課題】 耐熱性、離型性、非汚染性及び機械特性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易な離型フィルム、特にプリント配線基板作製用に好適な離型フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物からなる離型フィルム(I)。樹脂フィルムの少なくとも片面に上記の離型フィルム(I)が積層された積層体からなる離型フィルム(II)。200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物を、溶融押出成形法又は熱プレス成形法によって、成膜することからなる離型フィルム(I)又は(II)の製造方法。無置換トリシクロデセン炭化水素化合物が、100/0〜90/10又は0/100〜10/90の範囲内にあるエンド異性体/エキソ異性体比率を有する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、離型性及び非汚染性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易な離型フィルム、特にプリント配線基板作製用に好適な離型フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線基板等の作製工程において、プリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレスする際に離型フィルムが使用されている。また、フレキシブルプリント配線基板の作製工程において、電気回路を形成したフレキシブルプリント配線基板本体に、熱硬化型接着剤を用いて、カバーレイフィルムを熱プレス接着する際に、カバーレイフィルムとプレス熱板とが接着するのを防止するために、離型フィルムを用いる方法が広く行われている。
【0003】
これらの離型フィルムに対しては、熱プレス成形に耐える耐熱性、プリント配線基板や熱プレス板に対する離型性といった機能が要求される。
これに加えて、近年、環境問題や安全性に対する社会的要請の高まりから、廃棄処理の容易性が求められるようになってきた。更に、熱プレス成形時の製品歩留まり向上のため、銅回路に対する非汚染性も重要となってきている。
【0004】
これらの用途に用いられる離型フィルムとしては、従来、特許文献1や特許文献2に開示されているような、フッ素系フィルム、シリコーン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が用いられてきた。
【0005】
しかしながら、フッ素系フィルムは耐熱性、離型性及び非汚染性には優れているが、高価である上、使用後の廃棄焼却処理において燃焼しにくく、かつ、有毒ガスを発生するという問題点があった。また、シリコーン塗布ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリメチルペンテンフィルムは、シリコーンや構成成分である低分子量体の移行によってプリント配線基板、とりわけ銅回路の汚染を引き起こし、品質を損なう恐れがあった。また、ポリプロピレンフィルムは耐熱性に劣り、離型性が不充分であった。
【0006】
そこで、これらのフィルムに替わって、脂環式オレフィン系樹脂フィルムを離型フィルムとして使用することが検討されている。
即ち、特許文献3では、160℃以上且つ200℃未満の荷重たわみ温度を有する脂環式オレフィン系樹脂、具体的には、ノルボルネンやテトラシクロドデセンの開環重合体からなる離型フィルムが開示されている。
また、特許文献4には、130℃以上のガラス転移温度を有し、特定のメルトインデックス及び特定の熱収縮率を有するノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体の水素添加物からなる離型フィルムを用いると、プリント配線基板作製時のパターンずれが少なく、プリント配線基板への打痕や傷を少なくすることができることが開示されている。
しかしながら、いずれの文献に記載された離型フィルムも、プリント配線基板作製時の温度条件によっては、熱変形し、流動してしまうという問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開平2−175247号公報
【特許文献2】特開平5−283862号公報
【特許文献3】特開2001−233968号公報
【特許文献4】特開2004−122433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、上記現状に鑑み、耐熱性、離型性、非汚染性及び機械特性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易な離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、(1)耐熱性が高いので、熱プレス成形時に熱変形することがないこと、(2)低分子量体がないので、プリント配線基板が汚染されないこと、(3)フィルムの強靭性が高く、離型フィルムとしての使用に十分な強度を有すること、及び(4)廃棄焼却処理時の問題がないことを見出し、この知見に基づいて更に研究を進めて本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物からなる離型フィルム(I)が提供される。
上記離型フィルムにおいて、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物は、100/0〜90/10又は0/100〜10/90の範囲内にあるエンド異性体/エキソ異性体比率を有する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物であることが好ましい。
本発明によれば、また、樹脂フィルムの少なくとも片面に上記離型フィルム(I)が積層された積層体からなる離型フィルム(II)が提供される。
【0011】
本発明の離型フィルム(I)及び離型フィルム(II)は、プリント配線基板作製用に好適に使用することができる。
上記本発明の離型フィルム(I)及び離型フィルム(II)は、200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物を、溶融押出成形法又は熱プレス成形法によって、成膜することによって製造される。
また、上記離型フィルムの製造方法において、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物は、100/0〜90/10又は0/100〜10/90の範囲内にあるエンド異性体/エキソ異性体比率を有する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の離型フィルム(I)及び離型フィルム(II)は、耐熱性及び非汚染性に優れ、かつ、使用後の廃棄が容易であり、特に、離型性に優れているので、特にプリント配線基板作製用に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の離型フィルム(I)は、融点が200℃以上である、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物からなる。
本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、融点が高く耐熱性が良好であり、熱劣化による低分子量体の生成や熱変形・流動等を起こさないため、離型フィルム用重合体として適している。また、本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、その主鎖骨格が炭化水素から構成されているので、これからなる離型フィルム(I)は、プリント配線基板からの離型性に優れている。
【0014】
本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(1)中、Rは、水素原子であるか、又はR又はRと互いに結合して環を形成する。このとき、環は、単環でも複合環でもよく、飽和環でも芳香族不飽和環でもよい。R及びRは、Rと結合しないとき、それぞれ、水素原子であるか、又は互いに結合して環を形成する。このとき、環は、単環でも複合環でもよく、飽和環でも芳香族不飽和環でもよい。一般式(1)で表される無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、炭素環骨格以外には、炭素原子を有さない。
【0017】
一般式(1)で表される無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、一般式(2)で表される無置換トリシクロデセン炭化水素化合物を開環重合し、環内に脂環性不飽和結合が残存している場合には、これを水素添加することによって得られる。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(2)中、Rは、水素原子であるかR又はRと互いに結合して二重結合を形成するか、又は環を形成する。このとき、環は、単環でも複合環でもよく、飽和環でも不飽和環でもよい。R及びRは、Rと結合しないとき、それぞれ、水素原子であるか、又は互いに結合して飽和又は不飽和の単環又は複合環を形成する。一般式(2)で表される無置換トリシクロデセン化合物は、炭素環骨格以外には、炭素原子を有さない。
本発明においては、開環重合体を得るための単量体として炭素環骨格以外には、炭素原子を有さない炭化水素化合物を使用することが重要である。炭素環骨格上に、置換基を有するものを使用したときには、所望の融点や結晶性を有する重合体を得ることができない恐れがある。
【0020】
一般式(2)で表される無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロ[4.3.12,5.0]ドデカ−3−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.07,10]ドデカ−3−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.07,10]ドデカ−3,8−ジエン、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]テトラデカ−3,8,10,12−テトラエン(「1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン」ともいう。)、テトラシクロ[6.6.12,5.01,6.08,13]ペンタデカ−3,8,10,12−テトラエン(「1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a,10a−テトラヒドロアントラセン」ともいう。)、ペンタシクロ[6.5.1.02,7.13,6.09,13]ペンタデカ‐4−エン、ペンタシクロ[6.5.1.02,7.13,6.09,13]ペンタデカ‐4、10−ジエン、ヘプタシクロヘプタデセン等を挙げることができる。
これらの無置換トリシクロデセン炭化水素化合物は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよいが、一種類を単独で使用することが好ましい。
【0021】
本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の開環重合体水素化物は、結晶性であり、200℃以上、好ましくは250〜350℃の融点を有する。
本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の開環重合体水素化物は、結晶性で一般の溶剤には溶解しがたいので、分子量測定は困難であるが、水素化前の開環重合体は一般溶剤に溶解する場合がある。その場合の開環重合体の分子量はポリスチレン換算で、5,000〜500,000、好ましくは10,000〜300,000、より好ましくは、15,000〜200,000の重量平均分子量(Mw)を有する。重量平均分子量が上記範囲内にあるときに、その粘度が適切な範囲となり、フィルムの成形が容易で、機械的強度に優れ、離型性が良好なフィルムを得ることができる。
本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物の分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量との比=Mw/Mn)は、開環重合体の分子量分布で1.2〜5.0、好ましくは、1.5〜4.0である。分子量分布がこの範囲内にあるときに、離型性が良好なフィルムを得ることができる。
【0022】
本発明で用いる無置換トリシクロデセン炭化水素化合物には、エンド体とエキソ体の異性体が存在する。
本発明においては、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物が、100/0〜90/10又は0/100〜10/90の範囲内にあるエンド異性体/エキソ異性体比率を有する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物であることが好ましい。
無置換トリシクロデセン炭化水素化合物のエンド異性体/エキソ異性体比率が上記範囲内にあるときに、この無置換トリシクロデセン炭化水素化合物から得られる離型フィルムは、特に優れた離型性を示す。
【0023】
無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の開環重合体水素化物の製造方法は、例えば、WO2001/14446、特開2002−128875、特開2002−249553、特開2005−89744に記載されている方法を用いることができる。上記の方法で製造した無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物は、低分子量体をほとんど含まないので、離型性に優れている。
【0024】
エンド異性体/エキソ異性体の混合物中のエンド異性体比率又はエキソ異性体比率が90モル%以上になるようにするには、公知の方法を用いればよいが、例えば、以下の方法を挙げることができる。
エンド異性体比率を90%以上になるようにするには、(1)シクロペンタジエンとオレフィンとをできるだけ低い温度でディールズ・アルダー反応させて、目的の無置換トリシクロデセン炭化水素化合物を合成する方法、(2)精密蒸留により、エンド異性体を分取する方法等が挙げられる。
エキソ異性体を90%以上になるようにするには、(1)SYNTHESIS,p105−106(1975年)、特開平3−169828号公報、特開平5−97719号公報記載の方法により、エキソ異性体を合成する方法、(2)精密蒸留により、エキソ異性体を分取する方法等が挙げられる。
【0025】
〔離型フィルム(I)〕
無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物から本発明の離型フィルム(I)を成形する方法としては、この重合体が一般溶剤に溶け難いので、溶融押出成形法または熱プレス成形法が好ましい。
【0026】
上記溶融押出成形法としては、空冷又は水冷インフレーション押出法、Tダイ押出法等を用いることができる。
また、熱プレス成形法としては、一般的な熱プレス機を用いて加熱しながらプレス成形する方法を挙げることができる。
【0027】
本発明の離型フィルム(I)の厚さは、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。厚さがこの範囲にあるとき、強度に優れ、熱プレス成形時の熱伝導率が良好なものとなる。
【0028】
本発明の離型フィルム(I)の引張強度は、30MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることが特に好ましい。引張強度が低すぎると、プリント配線基板作製時に離型フィルム(I)が破断することがあるので、好ましくない。
【0029】
無置換トリシクロデセン化合物の結晶性開環重合体水素化物から離型フィルム(I)を製造するに際し、必要に応じて、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物に、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填材、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、抗菌剤や、その他の樹脂、熱可塑性エラストマー等の、通常、離型フィルムの製造に用いられる添加剤を、添加することができる。
【0030】
〔離型フィルム(II)〕
本発明の離型フィルム(II)は、樹脂フィルムの少なくとも片面に離型フィルム(I)が積層された積層体からなる。
樹脂フィルムとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(4−メチルペンテン−1)樹脂等を使用することができる。
離型フィルム(I)と樹脂フィルムとを積層することにより、プレス圧を均等に掛けるためのクッション性や強度を付与することができる。
【0031】
離型フィルム(I)と樹脂フィルムとを積層する際に、両フィルム間に接着層を設けてもよい。接着層に用いられる接着剤としては、離型フィルム(I)と樹脂フィルムとを接着できるものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、熱可塑性環状オレフィン樹脂、ニトリルゴム、スチレン−ジエンゴム、天然ゴム、ブチルゴム等を挙げることができる。
【0032】
離型フィルム(I)と樹脂フィルムとの積層は、共押出ラミネート工法、押出ラミネート工法、ドライラミネート工法、熱プレス成形法等によって行なうことができる。
熱プレス成形法においては、樹脂フィルムと離型フィルム(I)とを重ね合わせて熱プレス成形する。熱プレス成形の前に、共押出、貼り合せ等の方法で、離型フィルム(I)上に樹脂フィルム層を予め設けておいてもよい。
【0033】
本発明の離型フィルム(II)の厚さは、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。厚さがこの範囲にあるとき、強度に優れ、熱プレス成形時の熱伝導率が良好なものとなる。
【0034】
本発明の離型フィルム(I)及び(II)は、耐熱性及び離型性に優れ、安全かつ容易に廃棄処理できることから、プリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線基板等の各種プリント配線基板の作製工程においてプリプレグ又は耐熱フィルムを介して銅張積層板又は銅箔を熱プレスする際に、プレス熱板とプリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線基板等の各種プリント配線基板との接着を防ぐ離型フィルムとして好適に用いられる。
また、本発明の離型フィルム(I)及び(II)は、フレキシブルプリント配線基板の作製工程において、熱プレスによりカバーレイフィルムを熱硬化性接着剤で接着する際に、カバーレイフィルムと熱プレス板、又は、カバーレイフィルム同士の接着を防ぐ離型フィルムとしても好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
以下に、参考例及び実施例を示して、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行なう。
(1)重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
テトラヒドロフラン又はクロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定する。
(2)重合体の共重合比
H−NMR測定により求める。
(3)ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)
示差走査熱量計(DSC)を用い、10℃/分で昇温して測定する。
【0036】
(4)エンド異性体/エキソ異性体比率
無置換トリシクロデセン炭化水素化合物のガスクロマトグラフィーを測定する。
(5)引張り強度
温度23℃において、ASTM−D882に従って厚さ50μmのフィルムについて測定する。
(6)離型性
離型フィルムを用いて作製したフレキシブルプリント配線基板の全面を、三次元測定器(ミツトヨ社製、商品名「LEGEX707」)を用いて観察し、フィルム残存物があるかどうかを判定する。
【0037】
(7)プリント配線基板の作製
プリント配線基板の作製に使用する銅張り積層板は、25μm厚のポリイミドフィルム(デュポン社製、商品名「カプトン」)をベースフィルムとし、ベースフィルム上に厚さ35μm、幅50μmの銅箔を20μm厚のエポキシ系接着剤で接着することによって得る。
プリント配線基板の作製に使用するカバーレイフィルムは、25μm厚のポリイミドフィルム(デュポン社製、商品名「カプトン」)上に、流動開始温度80℃のエポキシ系接着剤を20μm厚で塗布することによって得る。
【0038】
〔参考例1〕
(無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物の合成。ジシクロペンタジエン開環重合体水素化物の例)
窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルを0.060部及びシクロヘキサン1.0部を添加した。更に、ジエチルアルミニウムエトキシド0.047部をヘキサン0.50部に溶解した溶液を添加して、室温で30分反応させた。得られた混合物に、ジシクロペンタジエン(DCP)7.5部、シクロヘキサン27.0部及び1−オクテン0.2部を添加し、50℃において3時間開環重合反応を行った。なお、ジシクロペンタジエンのエンド異性体比率は99.8モル%であった。重合溶液の一部をサンプリングして分子量を測定したところ、Mn=15,700、Mw=42,200、Mw/Mn=2.69であった。
次いで、このジシクロペンタジエン開環重合体(1)の溶液に、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.047部及びエチルビニルエーテル1.1部をシクロヘキサン35.0部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧1.0MPa、160℃の条件下で20時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いでポリマ−を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥し、7.5部のジシクロペンタジエンの結晶性開環重合体水素化物(1)を得た。この開環重合体水素化物(1)は室温では、テトラヒドロフランにもクロロホルムにも溶解しないため、GPCの測定は行なえなかった。H−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。また、DSC測定では、融点(Tm)は254℃、融解熱(ΔH)は51J/gであった。
【0039】
〔実施例1〕
(離型フィルム(I)の作製)
参考例1で合成した無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物(1)(ジシクロペンタジエンの結晶性開環重合体水素化物(1))を、熱プレス機を用いて、280℃、プレス圧20MPaの条件下で1分間プレスした後、180℃、プレス圧15MPaの条件下で5分間プレスして、厚さ50μmの離型フィルム(I−1)を作製した。その引張り強度を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
〔実施例2〕
(プリント配線基板の作製)
実施例1で作製した離型フィルム(I−1)、銅張り積層板、カバーレイフィルム及び離型フィルム(I−1)の順に重ね合わせて、熱プレスに載置して、プレス温度180℃、プレス圧30MPa、プレス時間30分間の条件で熱プレス成形した後、プレス圧を開放し、離型フィルム(I−1)を引き剥がして、フレキシブルプリント配線基板を得た。フレキシブルプリント配線基板にフィルム残存物があるかどうかを観察したところ、フィルム残存物は観察されなかった。
【0042】
〔実施例3〕
(離型フィルム(II)の作製)
2台の押出機のそれぞれに、離型フィルム(I)原料として参考例1で合成した結晶性開環重合体水素化物(1)、樹脂フィルム原料としてポリメチルペンテンとα−オレフィンとの共重合体(三井化学社製、商品名「TPX」、品番「MX004」)を供給することにより二層ダイスで共押出し、厚さ100μmの離型フィルム(II−1)を得た。
【0043】
〔実施例4〕
(プリント配線基板の作製)
離型フィルム(I−1)に代えて離型フィルム(II−1)を使用した以外は、実施例2と同様にして、フレキシブルプリント配線基板を作製した。フレキシブルプリント配線基板にフィルム残存物があるかどうかを観察したところ、フィルム残存物は観察されなかった。
【0044】
〔参考例2〕
(無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物の合成。テトラシクロドデセン開環重合体水素化物の例)
窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、タングステン(2,6−ジイソプロピルフェニルイミド)テトラクロリド・エチルエーテル0.060部とシクロヘキサン1.0部とを添加した。更にジエチルアルミニウムエトキシド0.047部をヘキサン0.50部に溶解した溶液を添加して、室温で30分反応させた。得られた混合物に、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(TCD)7.5部、シクロヘキサン27.0部及び1−オクテン0.2部を添加し、50℃において3時間開環重合反応を行った。なお、TCDのエンド異性体比率は95モル%であった。重合溶液の一部をサンプリングして分子量を測定したところ、Mn=16,800、Mw=41,000、Mw/Mn=2.44であった。
【0045】
次いで、このTCD開環重合体(2)の溶液に、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.047部及びエチルビニルエーテル1.1部をシクロヘキサン35.0部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧1.0MPa、160℃で20時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いでポリマ−を完全に析出させ、濾別洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、7.5部のTCDの結晶性開環重合体水素化物(2)を得た。この開環重合体水素化物(2)は室温では、テトラヒドロフランにもクロロホルムにも溶解しないため、GPCの測定は行なえなかった。H−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。DSC測定では、融点(Tm)は295℃、融解熱(ΔH)は13J/gであった。
【0046】
〔実施例5〕
(離型フィルム(I)の作製)
参考例2で合成した無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物(2)(TCDの結晶性開環重合体水素化物(2))を、熱プレス機を用いて、300℃、プレス圧20MPaの条件下で1分間プレスした後、200℃、プレス圧15MPaの条件下で5分間プレスして、厚さ50μmの離型フィルム(I−2)を作製した。その引張り強度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例6〕
(プリント配線基板の作製)
実施例5で作製した離型フィルム(I−2)、銅張り積層板、カバーレイフィルム及び離型フィルム(I−2)の順に重ね合わせて、熱プレスに載置して、プレス温度180℃、プレス圧30MPa、プレス時間30分間の条件で熱プレス成形した後、プレス圧を開放し、離型フィルム(I−2)を引き剥がして、フレキシブルプリント配線基板を得た。フレキシブルプリント配線基板にフィルム残存物があるかどうかを観察したところ、フィルム残存物は観察されなかった。
【0048】
〔実施例7〕
(離型フィルム(II)の作製)
2台の押出機のそれぞれに、離型フィルム(I)原料として、参考例2で合成した結晶性開環重合体水素化物、樹脂フィルム原料としてポリメチルペンテンとα−オレフィンとの共重合体(三井化学社製、商品名「TPX」、品番「MX004」)を供給することにより二層ダイスで共押出し、厚さ100μmの離型フィルム(II−2)を得た。
【0049】
〔実施例8〕
(プリント配線基板の作製)
離型フィルム(I−2)に代えて離型フィルム(II−2)を使用した以外は、実施例6と同様にして、フレキシブルプリント配線基板を作製した。フレキシブルプリント配線基板にフィルム残存物があるかどうかを観察したところ、フィルム残存物は観察されなかった。
【0050】
〔参考例3〕
(トリシクロデセン化合物の非結晶性開環重合体水素化物の合成)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部及びトリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、8−エチルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン(以下、「ETCD」と略す。)120部と、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン(以下、「TCD」と略す。)80部と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)80部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部とを加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
【0051】
次いで、得られた開環重合体(C1)を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン35部を加え、更に水素添加触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学社製)5部を加え、水素により5MPaに加圧して撹拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、ETCD/TCD開環共重合体水素添加物(C1)を20%含有する反応溶液を得た。濾過により水素化触媒を除去した後、濾液を多量のイソプロパノールに注いでポリマーを完全に析出させて濾別後、50℃で18時間減圧乾燥して重合体198部を得た。このトリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物(C1)のMn=16,000、Mw=35,000、Mw/Mn=2.20で、水素化率は99%以上、Tgは148℃であった。融点は観察されなかった。
【0052】
〔比較例1〕
(離型フィルム(I)の作製)
参考例3で合成したETCD/TCD開環共重合体水素添加物(C1)をシクロヘキサンに溶解し、重合体濃度10%のトルエン溶液を作製した。この重合体溶液をキャストすることによって得られたフィルムを80℃で12時間真空乾燥して、厚さ50μmのフィルム(I−C)を作製し、引張り強度を測定した。
【0053】
〔比較例2〕
(プリント配線基板の作製)
実施例2と同様にして、プリント配線基板を作製しようと試みたが、プリント基板作製中に、離型フィルム(I−C)が溶融融着を起こし、基板から離型フィルム(I−C)を引き剥がすのが極めて困難であった。
【0054】
〔比較例3、4〕
(離型フィルム(II)の作製)
実施例3と同様にして、離型フィルム(II)を作製し、実施例4と同様にプリント基板を作製しようと試みたが、プリント基板作製中に、離型フィルムが溶融融着を起こし、基板から離型フィルムを引き剥がすのが極めて困難であった。
【0055】
表1に示すように、本発明の規定を満足する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物からなる離型フィルムは、強度に優れ、プリント基板作製時の離型性も良好で、離型フィルムとして好適であるが、本発明の規定を満たさない(即ち、置換基を有する)トリシクロデセン炭化水素化合物の開環重合体水素化物からは、離型フィルムが得られないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物からなる離型フィルム(I)。
【請求項2】
無置換トリシクロデセン炭化水素化合物が、100/0〜90/10又は0/100〜10/90の範囲内にあるエンド異性体/エキソ異性体比率を有する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物である請求項1に記載の離型フィルム(I)。
【請求項3】
樹脂フィルムの少なくとも片面に請求項1又は2に記載の離型フィルム(I)が積層された積層体からなる離型フィルム(II)。
【請求項4】
プリント配線基板作製用である請求項1〜3のいずれかに記載の離型フィルム。
【請求項5】
200℃以上の融点を有する、無置換トリシクロデセン炭化水素化合物の結晶性開環重合体水素化物を、溶融押出成形法又は熱プレス成形法によって、成膜することからなる請求項1〜4のいずれかに記載の離型フィルムの製造方法。
【請求項6】
無置換トリシクロデセン炭化水素化合物が、100/0〜90/10又は0/100〜10/90の範囲内にあるエンド異性体/エキソ異性体比率を有する無置換トリシクロデセン炭化水素化合物である請求項5に記載の離型フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−137981(P2007−137981A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332249(P2005−332249)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】