説明

離型剤

【課題】炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を有効成分とする離型剤と同等の離型性能を有し、生体蓄積性が低いといわれる炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルホスホン酸エステルを有効成分とする離型剤を提供する。
【解決手段】一般式 CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OH)2 (n1〜6の整数、a1〜4の整数、b1〜3の整数、c1〜3の整数)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸またはその塩および一般式 CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕d(OH)2-d (RO炭素数2〜6の直鎖状または分岐状オキシアルキレン基であり、R′水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアラルキル基、n1〜6の整数、a1〜4の整数、b1〜3の整数、c1〜3の整数、m1〜100の整数、d1または2)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸オキシアルキレンエステルを有効成分とする離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤に関する。さらに詳しくは、すぐれた造膜性を有し、かつ金型離型性にすぐれた離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック材料やゴム材料などの高分子材料を、金型を用いて成形する際に、シリコーン油、ワックス、タルク、マイカ、テトラフルオロエチレン樹脂などの離型剤が用いられている。しかしながら、シリコーン油、ワックスなどは良好な離型性を示すものの、離型剤が成形品に移行するため、均一塗装性、二次加工性などを損なわせ、また持続性の点で欠けるものがある。また、テトラフルオロエチレン樹脂では、離型効果の持続性や二次加工性の点では満足いくのものではあるものの、離型処理時に金型の型面に膜状の焼付処理をしなければならず、再処理時にも同様の処理が必要となるため、操作工程が多くなってしまう。
【0003】
かかる欠点を解消させるために、炭素数4〜20のポリフルオロアルキル基含有リン酸エステルを有効成分の一つとする離型剤が提案されている(特許文献1〜3参照)。これらの離型剤は、良好な離型性を示し、また従来のものと比べて離型寿命が長いとされてはいるものの、昨今の成形品形状の複雑化に伴い、離型剤としてなお一層の性能の向上が求められている。
【0004】
一方、ポリフルオロアルキルホスホン酸エステルについても、離型剤の合成原料として広く用いられている。離型剤としたときの離型性能は、パーフルオロアルキル基の炭素数が8〜12である化合物において最も発現し易く、特にパーフルオロオクチル基を有するホスホン酸エステル化合物である
CF3(CF2)7CH2CH2P(O)(OC2H5)2
が、この種の用途に好んで使用されている(特許文献4〜7参照)。
【0005】
ところで、炭素数8〜12のパーフルオロアルキル基を有するリン酸エステルまたはホスホン酸エステル化合物は、環境中で生物分解されて、生体蓄積性、環境濃縮性が比較的高い化合物に変化することが報告されており、処理工程での暴露、廃棄物、処理基材等からの環境への放出、拡散などが懸念されている。また、パーフルオロアルキル基の炭素数が14以上の化合物では、それの物理的、化学的性状からそれの取扱いが非常に困難であり、実際には殆ど使用されていない。
【0006】
さらに、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するリン酸エステルまたはホスホン酸エステル化合物は、その製造プロセスにおいて、生体蓄積性の高いパーフルオロオクタン酸類の発生や混入が避けられない。そのため、このようなリン酸エステルまたはホスホン酸エステル化合物の製造各社は、それの製造からの撤退や炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物への代替などを進めている。
【0007】
しかしながら、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下の化合物では、処理基材表面での配向性が著しく低下し、また融点、ガラス転移点Tgなどが炭素数8の化合物に比べて著しく低いため、温度、湿度、応力、有機溶剤の接触などの使用環境条件に大きな影響を受けることとなる。そのため、求められる十分な性能が得られず、また耐久性などにも影響がみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭53−23270号公報
【特許文献2】特公昭53−23271号公報
【特許文献3】特公昭57−48035号公報
【特許文献4】特公平2−45572号公報
【特許文献5】特公平3−78244号公報
【特許文献6】特公平4−4923号公報
【特許文献7】特公平4−11366号公報
【特許文献8】WO 2007/105633 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を有効成分とする離型剤と同等の離型性能を有し、生体蓄積性が低いといわれる炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルホスホン酸エステルを有効成分とする離型剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OH)2
(ここで、nは1〜6の整数、aは1〜4の整数、bは1〜3の整数、cは1〜3の整数である)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸またはその塩および一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕d(OH)2-d
(ここで、ROは炭素数2〜6の直鎖状または分岐状オキシアルキレン基であり、R′は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアラルキル基であり、nは1〜6の整数、aは1〜4の整数、bは1〜3の整数、cは1〜3の整数、mは1〜100の整数、dは1または2である)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸エステルを有効成分とする離型剤によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る離型剤の有効成分であるポリフルオロアルキルホスホン酸(塩)およびそのエステルは、環境中へ放出されたとき、分子中の-CH2CF2-結合部分で脱HF化されて二重結合が形成され、それがオゾン分解などされて、環境濃縮性、生体蓄積性などの低い化合物へ分解され易い構造を有するようになり、またその製造過程で炭素数8以上のパーフルオロアルキルカルボン酸等の環境負荷物質を生成させない。
【0012】
かかるポリフルオロアルキルホスホン酸(塩)およびそのエステルを有効成分とする離型剤は、例えば約1.0重量%以下の濃度で水性または有機溶剤性離型剤として調製した場合にも、離型対象物、例えば成形用金型にこれを塗布したときに有効な離型性能を発揮するといったすぐれた効果を奏する。これは、ポリフルオロアルキルホスホン酸(塩)およびそのエステルが、極めて良好な溶媒溶解性を示すことによるものであり、これを有効成分とすることによって、すぐれた離型性を示す離型剤を得ることができる。
【0013】
また、この離型剤は、ポリフルオロアルキルホスホン酸(塩)およびそのエステルを併用することにより、相乗効果的に金型離型性および離型寿命を改善させ、またすぐれた離型性、持続性を発揮するため、離型剤による型汚れの低減、成形品の寸法精度の向上などが達成される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
離型剤の一方の有効成分となるポリフルオロアルキルホスホン酸は、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OH)2
で表わされ、他方の有効成分である一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕d(OH)2-d
で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸エステルは、このポリフルオロアルキルホスホンと一般式
HO(RO)mR′
で表わされるポリアルキレングリコールまたはそのモノエーテルとを縮合反応させることにより製造される。
【0015】
ポリフルオロアルキルホスホン酸
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OH)2 〔I〕
は、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OR)2 〔II〕
(ここで、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、nは1〜6の整数、aは1〜4の整数、bは1〜3の整数、cは1〜3の整数である)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステルを加水分解反応させることによって製造される。
【0016】
この反応の原料物質として用いられるポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステル〔II〕は、ポリフルオロアルキルアイオダイド〔III〕
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cI 〔III〕
とトリアルキルホスファイトP(OR)3を反応させることにより得られる。ポリフルオロアルキルアイオダイド〔III〕は、公知の化合物であり、特許文献8に記載されている。
【0017】
ポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステル〔II〕合成の出発原料となるポリフルオロアルキルアイオダイド〔III〕は、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)bI 〔IV〕
で表わされる末端ヨウ素化化合物にエチレンを付加反応させることにより製造される。エチレンの付加反応は、上記化合物〔IV〕に過酸化物開始剤の存在下で加圧エチレンを付加反応させることにより行われ、その付加数は反応条件にもよるが、1〜3、好ましくは1である。なお、反応温度は用いられる開始剤の分解温度にも関係するが、反応は一般に約80〜120℃で行われ、低温で分解する過酸化物開始剤を用いた場合には80℃以下での反応が可能である。
【0018】
過酸化物開始剤としては、第3ブチルパーオキサイド、ジ(第3ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ第2ブチルパーオキシジカーボネート等が、反応の進歩性および制御性の点から、上記化合物〔IV〕に対して約1〜5モル%の割合で用いられる。
【0019】
なお、前記末端ヨウ素化化合物〔IV〕は、次のような一連の工程を経て合成される。
(1)一般式
CnF2n+1I (n:1〜6)
で表わされるパーフルオロアルキルアイオダイドを、上記の如き過酸化物開始剤(原料化合物に対し約0.1〜0.5モル%の使用量)の存在下でフッ化ビニリデンと反応させ、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)aI 〔V〕
で表わされる化合物を得る。
(2)上記一般式〔V〕で表わされる化合物に、過酸化物開始剤の存在下でテトラフルオロエチレンを反応させることにより、前記一般式〔IV〕で表わされる末端ヨウ素化化合物が得られる。この一般式〔IV〕において、bは1〜3、好ましくは1〜2の整数である。この反応に用いられる過酸化物開始剤としては、前記の如き有機過酸化物開始剤が(1)と同様の割合で用いられる。
【0020】
フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレン付加反応の反応温度は、用いられる開始剤の分解温度にも依存するが、低温で分解する過酸化物開始剤を用いることにより、低圧条件下でも80℃以下での反応が可能である。反応は、CnF2n+1Iまたは前記化合物〔V〕をオートクレーブ内に入れ、その内温を昇温させて約10〜60℃、例えば50℃としたら、そこにCnF2n+1Iまたは化合物〔V〕に溶解した過酸化物系開始剤を加え、内温が例えば55℃になったら、フッ化ビニリデンまたはテトラフルオロエチレンを約0.1〜0.6MPaの圧力を保ちながら分添し、所望量を分添した後、例えば約55〜80℃の間の温度で約1時間程度エージングすることにより行われる。その添加量によって、反応によって付加したフッ化ビニリデンまたはテトラフルオロエチレン骨格の数aまたはbが左右される。一般には、種々のa値およびb値の混合物として形成される。
【0021】
これらの反応が、低温で反応を行えるということは、エネルギーの使用量を減少させることが可能となるばかりではなく、設備内でのフッ酸等による腐食を抑制し、設備の更新頻度を減らすことができる。さらに、より廉価な材料の使用が可能となることから、更新頻度の減少と併せて、設備投資費用を廉価に抑えることができる。
【0022】
エチレンが付加される具体的な化合物〔IV〕としては、次のような化合物が例示される。これらの化合物は、種々のa値およびb値を有するオリゴマーの混合物であり、特定のa値およびb値を有するオリゴマーは混合物を蒸留することにより単離することができる。なお、所定のa値およびb値を有しないオリゴマーは、それを単離してまたは混合物のまま、再度フッ化ビニリデンまたはテトラフルオロエチレンとのオリゴマー数増加反応に用いることができる。
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)I
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2I
C2F5(CH2CF2)2(CF2CF2)I
C2F5(CH2CF2)2(CF2CF2)2I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)I
C4F9(CH2CF2)2(CF2CF2)I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)2I
C4F9(CH2CF2)2(CF2CF2)2I
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)3I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)3I
【0023】
上記例示された如き化合物〔IV〕に、エチレンを付加反応させたポリフルオロアルキルアイオダイド〔III〕には、トリアルキルホスファイト、例えばトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト等の炭素数1〜4のアルキル基を有するトリアルキルホスファイトP(OR)3を反応させ、脱RI化反応させることにより、原料物質たるポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステル〔II〕を得ることができる。なお、化合物〔IV〕にエチレンを付加反応させないと、トリアルキルホスファイトとの脱RI化反応が進行しない。
【0024】
ポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステル〔II〕の加水分解反応は、濃塩酸によって代表される無機酸等の酸性触媒の存在下で約90〜100℃で攪拌することにより容易に行われる。反応混合物は、減圧ロ過された後、水洗・ロ過、アセトン洗浄・ロ過する方法などにより、一方の反応原料となるポリフルオロアルキルホスホン酸〔I〕を90%台の好収率で得ることができる。
【0025】
得られたポリフルオロアルキルホスホン酸は、これを中和して塩の形で用いることもできる。塩の形成は、一般的にはpHで等量点を確認しながら、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、トリエチルアミン、モルホリン、トリエタノールアミン、トリス(2-ヒドロキシエチル)等の塩形成用反応剤で滴定し、酸性の1〜3価金属塩、アミン塩またはアンモニウム塩とすることにより行われる。得られるポリフルオロアルキルホスホン酸塩としては、例えばポリフルオロアルキルホスホン酸のナトリウム、カリウム、リチウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの金属塩、アンモニウム塩、モノエチル、モノイソプロピル、ジエチル、ジシクロヘキシル、トリエチルなどのアルキル基またはシクロアルキル基で置換されたアンモニウム塩、モノエタノール、ジエタノール、トリエタノール、ジイソプロパノールなどのヒドロキシアルキル基で置換されたアンモニウム塩などが挙げられる。
【0026】
他方の反応原料となる、一般式
HO(RO)mR′ 〔X〕
で表わされるポリアルキレングリコールまたはそのモノエーテルとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリヘキシレングリコールまたはこれらのモノアルキルエーテルまたはモノアラルキルエーテル、好ましくはモノメチルエーテル、モノエチルエーテル等であって、mが1〜100のもの、好ましくは数平均分子量Mnが約200〜4000のものが用いられる。
【0027】
ポリフルオロアルキルホスホン酸〔I〕とポリアルキレングリコールまたはそのモノエーテル〔X〕との間の縮合反応は、濃硫酸、濃塩酸等の脱水触媒を用い、約80〜180℃の温度に加熱することによって行われる。反応に際しては、窒素バブリング等を継続して行い、生成した水を反応系外に追い出すことによって、脱水縮合反応を進行させる。
【0028】
反応混合物は、約50重量%程度の未反応ポリアルキレングリコール(モノエーテル)および約50重量%程度の反応生成物よりなり、反応生成物は、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕(OH)
で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸モノエステル〔A〕と一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕2
で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステル〔B〕との混合物よりなる。
【0029】
ポリアルキレングリコール(モノエーテル)〔X〕は、ポリフルオロアルキルホスホン酸〔I〕に対して等モル量以上用いられ、そのモル比が2程度、一般には約1.5〜2.5程度のモル比で用いられた場合には、主としてモノエステル〔A〕が生成し、そのモル比が4程度、一般には約3.0〜4.5程度のモル比で用いられた場合には、主としてジエステル〔B〕が生成する。
【0030】
モノエーテル化されていないポリアルキレングリコールが用いられた場合にも、使用されたモル比に応じて、主としてモノエステル〔A〕またはジエステル〔B〕が生成するが、同時に両末端グリコール基にそれぞれポリフルオロアルキルホスホン酸が縮合して付加された生成物〔C〕も少量ではあるが生成される。
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OH)-O(RO)m-
P(O)(OH)-(CH2CH2)c(CF2CF2)b(CF2CH2)aCnF2n+1
【0031】
反応混合物からの未反応ポリアルキレングルコール(モノエーテル)、ポリフルオロアルキルホスホン酸モノエステルおよびジエステルの分離は、それぞれ分取液体クロマトグラフィーを用いて行われるが、未反応ポリアルキレングルコール(モノエーテル)を含有する反応混合物をそのまま離型剤調製に用いることができる。未反応ポリアルキレングルコール(モノエーテル)は、水の表面張力を下げ、濡れ性を向上させる効果を有するので、これを特に除去して用いる必要はみられない。
【0032】
ポリフルオロアルキルホスホン酸〔I〕とこのようにして得られたポリフルオロアルキルホスホン酸エステル〔X〕を用いた離型剤の調製は、〔I〕:〔X〕が1〜99:99〜1、好ましくは20〜90:80〜10の重量比で用い(ここで、〔X〕は未反応のポリアルキレングルコールまたはそのモノエーテルを含まない重量である)、これらの混合物の固形分濃度が約0.01〜30重量%、好ましくは約0.05〜3重量%の水溶液、水性分散液または有機溶媒溶液となるように水または有機溶媒により希釈することにより行われる。
【0033】
用いられる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等のポリオールまたはそのエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどの多価アルコール誘導体類、四塩化炭素、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、トリクロロフルオロメタン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などの少なくとも一種類が用いられる。ここで、有機溶媒は水と併用して用いることもできる。
【0034】
離型剤溶液中には、必要に応じて、前記アミン系中和剤以外に、離型剤の濡れ性を改善するイオン系、非イオン系などの各種界面活性剤、離型性、潤滑性を更に改善するシリコーンオイル、シリコーンワニスなどを添加することもできる。
【0035】
離型剤溶液の金型への塗布は、浸せき、吹き付け、刷毛塗り、エアゾル噴射、含浸布による塗布など、通常用いられる任意の方法によって行うことができる。また、離型剤が塗布された金型で形成される成形材料としては、例えばポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂などの樹脂類、天然ゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴムなどのゴム類が挙げられる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0037】
参考例1
(1) 温度計および低沸物除去用レシーバーを備えた容量1Lの四口フラスコ中に、
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)I (99GC%)
500g(0.92モル)およびトリエチルホスファイトP(OC2H5)3 213g(1.84モル)を仕込み、155℃で攪拌した。このとき、副生生物であるヨウ化エチルを反応系から除去するために、細管を使用して反応液中に窒素ガスをバブリングした。反応液を微量分取してガスクロマトグラフィー分析を行い、トリエチルホスファイトの残量を確認した後、さらにトリエチルホスファイトを1回に107g(0.92モル)宛4回分添し、合計18時間攪拌した。
【0038】
反応終了後、反応混合物を内圧0.2kPa、内温145〜155℃、塔頂温度138〜142℃の条件下で減圧単蒸留を行い、蒸留留分を水洗して、精製反応生成物(98GC%)407g(収率79%)を得た。
【0039】
得られた精製反応生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で表わされる化合物であることが確認された。
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)P(O)(OCH2CH3)2
【0040】
(2) 温度計およびコンデンサを備えた容量1Lの四口フラスコ中に、得られたホスホン酸ジエステル
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)P(O)(OCH2CH3)2 (96GC%)
300g(0.53モル)および約35%濃塩酸300gを仕込み、100℃で12時間攪拌した。冷却後、減圧ロ過して、固形分287gを回収した。この固形分を水洗して再びロ過し、さらにアセトンで洗浄してロ過し、目的物240g(0.49モル、収率93%)を得た。
【0041】
得られた生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で表わされる化合物(ポリフルオロアルキルホスホン酸A;MW492、F含量57.9重量%)であることが確認された。
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)P(O)(OH)2
【0042】
(3) 攪拌機、窒素バブリング装置および温度計を備えた容量500mlの反応容器内に、上記(2)で得られたポリフルオロアルキルホスホン酸A 99g(0.20モル)およびポリエチレングリコールモノメチルエーテル〔PEG-a〕(日油製品ユニオックスM-550;MW=496、m=約12)
HO(CH2CH2O)mCH3
201g(0.40モル)を仕込み、70℃に加温した後、窒素バブリングを行った。その後、反応容器内温を155℃まで昇温させ、濃硫酸1.2gを添加した。反応継続中窒素バブリングを続けることにより、反応で生成した水を反応系外に追い出しながら、48時間反応を継続した。
【0043】
得られた反応混合物を分取液体クロマトグラフィーで分離し、分離物の組成を19F-NMRおよび1H-NMRによって確認すると、PEG-a/生成物Ia/生成物Ib=重量比50/47/3であった。
生成物Ia(m=約12):
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)P(O)〔O(CH2CH2O)mCH3〕(OH)
生成物Ib(m=約12):
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)P(O)〔O(CH2CH2O)mCH32
【0044】
参考例2
(1) 温度計および低沸物除去用レシーバーを備えた容量1Lの四口フラスコ中に、
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)I (97GC%)
500g(0.90モル)およびトリエチルホスファイトP(OC2H5)3 208g(1.80モル)を仕込み、155℃で攪拌した。このとき、副生生物であるヨウ化エチルを反応系から除去するために、細管を使用して反応液中に窒素ガスをバブリングした。反応液を微量分取してガスクロマトグラフィー分析を行い、トリエチルホスファイトの残量を確認した後、さらにトリエチルホスファイトを1回に104g(0.90モル)宛4回分添し、合計18時間攪拌した。
【0045】
反応終了後、反応混合物を内圧0.2kPa、内温145〜155℃、塔頂温度138〜141℃の条件下で減圧単蒸留を行い、蒸留留分を水洗して、精製反応生成物(97GC%)397g(収率78%)を得た。
【0046】
得られた精製反応生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で表わされる化合物であることが確認された。
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)P(O)(OCH2CH3)2
【0047】
(2) 温度計およびコンデンサを備えた容量1Lの四口フラスコ中に、得られたホスホン酸ジエステル
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)P(O)(OCH2CH3)2 (95GC%)
300g(0.52モル)および約35%濃塩酸300gを仕込み、100℃で12時間攪拌した。冷却後、減圧ロ過して、固形分271gを回収した。この固形分を水洗して再びロ過し、さらにアセトンで洗浄してロ過し、目的物235g(0.48モル、収率92%)を得た。
【0048】
得られた生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で表わされる化合物(ポリフルオロアルキルホスホン酸B;MW492、F含量57.9重量%)であることが確認された。
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)P(O)(OH)2
【0049】
(3) 参考例1(3)において、上記(2)で得られたポリフルオロアルキルホスホン酸B 99g(0.20モル)およびPEG-a 201g(0.40モル)を用い、淡黄色ワックス状の反応混合物(F含有18.8重量%)を276g(回収率92%)得た。
【0050】
得られた反応混合物を分取液体クロマトグラフィーで分離し、分離物の組成を19F-NMRおよび1H-NMRによって確認すると、PEG-a/生成物IIa/生成物IIb=重量比50/47/3であった。
生成物IIa(m=約12):
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)P(O)〔O(CH2CH2O)mCH3〕(OH)
生成物IIb(m=約12):
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)P(O)〔O(CH2CH2O)mCH32
【0051】
実施例1
参考例1(2)で得られたポリフルオロアルキルホスホン酸A 0.2重量%および参考例1(3)で得られたポリフルオロアルキルホスホン酸エステル含有反応混合物(未反応PEG-aを含む)0.3重量%、イオン交換水99.4重量%およびトリエチルアミン0.1重量%よりなる離型剤水溶液を調製した。この離型剤水溶液を用いて、次のような2種類の測定方法で離型性の評価を行うと、金型離型性評価では0.1Nであり、離型寿命評価は26回であった。
【0052】
<金型離型性および寿命評価>
80℃に加熱されたポリウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン工業製品コロネートC-4090)100重量部と加熱溶融されたメチレンビス-o-クロロアニリン硬化剤(イハラケミカル製品イハラキュアミンMT)12.8重量部とを、気泡を巻き込まないようにしながら攪拌混合し、この混合物を80℃に予熱された上記離型剤水溶液スプレー塗布アルミニウム製金型(直径45mm、深さ50mm)内に注入する。金型空間部中央に、硬化した成形品を取出すためのフックを立てておき、120℃で1時間加熱硬化させた後、フックを引張って成形品を金型から取出す。この際の離型荷重を金型離型性とした。また、このようにして金型離型性を求めた後、1回の離型剤水溶液塗布で、49N以下の離型荷重条件下で、何回迄離型が可能であったかを測定し、金型寿命とした。
【0053】
実施例2
実施例1において、ポリフルオロアルキルホスホン酸A量が0.4重量%に、ポリフルオロアルキルホスホン酸エステル含有反応混合物量が0.1重量%に、イオン交換水量が99.3重量%に、トリエチルアミン量が0.2重量%に、それぞれ変更されて用いられた。
【0054】
実施例3
実施例1において、イオン交換水量が85.0重量%に変更して用いられ、イオン交換水と共にエタノール14.4重量%が用いられた。
【0055】
実施例4
実施例1において、ポリフルオロアルキルホスホン酸Aの代りに、同割合(0.2重量%)のポリフルオロアルキルホスホン酸Bが用いられた。
【0056】
比較例1
実施例1において、ポリフルオロアルキルホスホン酸Aが用いられず、ポリフルオロアルキルホスホン酸エステル含有反応混合物量が0.5重量%に、イオン交換水量が99.45重量%に、トリエチルアミン量が0.05重量%に、それぞれ変更して用いられた。
【0057】
比較例2
実施例3において、ポリフルオロアルキルホスホン酸Aが用いられず、ポリフルオロアルキルホスホン酸エステル含有反応混合物量が0.5重量%に、イオン交換水量が85.0重量%に、エタノール量が14.45重量%に、トリエチルアミン量が0.05重量%に、それぞれ変更して用いられた。
【0058】
比較例3
実施例1において、ポリフルオロアルキルホスホン酸エステル含有反応混合物が用いられず、ポリフルオロアルキルホスホン酸A量が0.5重量%に、イオン交換水量が99.35重量%に、トリエチルアミン量が0.15重量%に、それぞれ変更して用いられた。
【0059】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、離型剤水溶液各成分量(単位:重量%)と共に、次の表に示される。

実施例 比較例

〔離型剤水溶液〕
ホスホン酸A 0.2 0.4 0.2 − − − 0.5
ホスホン酸B − − − 0.2 − − −
ホスホン酸エステル 0.3 0.1 0.3 0.3 0.5 0.5 −
含有反応混合物
イオン交換水 99.4 99.3 85.0 99.4 99.45 85.0 93.35
エタノール − − 14.4 − − 14.45 −
トリエチルアミン 0.1 0.2 0.1 0.1 0.05 0.05 0.15
〔測定結果〕
金型離型性 (N) 0.1 0.1 0.1 0.2 4.5 5.0 14.0
離型寿命 (回) 26 24 25 20 10 11 9


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)(OH)2
(ここで、nは1〜6の整数、aは1〜4の整数、bは1〜3の整数、cは1〜3の整数である)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸またはその塩および一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕d(OH)2-d
(ここで、ROは炭素数2〜6の直鎖状または分岐状オキシアルキレン基であり、R′は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアラルキル基であり、nは1〜6の整数、aは1〜4の整数、bは1〜3の整数、cは1〜3の整数、mは1〜100の整数、dは1または2である)で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸エステルを有効成分とする離型剤。
【請求項2】
一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕(OH)
で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸モノエステルと一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cP(O)〔O(RO)mR′〕2
で表わされるポリフルオロアルキルホスホン酸ジエステルがポリフルオロアルキルホスホン酸エステルの混合物として用いられた請求項1記載の離型剤。
【請求項3】
さらに、ポリアルキレングルコールまたはそのモノエーテルを含有する請求項1または2記載の離型剤。
【請求項4】
水溶液として用いられる請求項1または2記載の離型剤。
【請求項5】
水性分散液として用いられる請求項1または2記載の離型剤。
【請求項6】
有機溶媒溶液として用いられる請求項1または2記載の離型剤。
【請求項7】
ポリフルオロアルキルホスホン酸およびそのエステルの固形分濃度が約0.01〜30重量%である請求項1乃至6のいずれかに記載の離型剤。
【請求項8】
成形用金型に塗布されて用いられる請求項1乃至7のいずれかに記載の離型剤。

【公開番号】特開2011−56836(P2011−56836A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210291(P2009−210291)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【特許番号】特許第4626715号(P4626715)
【特許公報発行日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】