説明

難分解性有機廃液の処理システム

【課題】 非平衡プラズマを用いた難分解性有機廃液の分解処理において、前記有機廃液を高効率で可燃ガスに改質し、加えて、人工グラファイトや炭素系高機能材料の生成が可能な処理システムを提供する。
【解決手段】 難分解性有機廃液の当量反応に満たない量で供給した酸素をプラズマ化させることにより反応性を向上させる。この状態で前記有機廃液を投入(噴霧)することにより、高効率で可燃ガスを生成する。また、マイクロ波の出力を高めること、又は、触媒の利用によって、人工グラファイト或いは炭素系高機能材料の生成も可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非平衡プラズマにより難分解性有機廃液を分解処理し、分解後の生成物として可燃ガスおよび人工グラファイト或いは炭素系高機能材料を生成し、当該可燃ガスを発電装置による発電に利用することのできる難分解性有機廃液の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器等に使用される電気絶縁油は定期点検による交換によって廃油となる。当該廃油の処理は、近年の環境保全の観点から環境負荷の少ない物質に分解処理する必要がある。
【0003】
廃油の処理方法としては、従来から、高周波誘導熱プラズマを利用した方法がその一例として知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−131757号公報
【0005】
上記特許文献1記載の処理方法は、アルゴンガスを酸素や水蒸気および水素等の廃油分解に適した反応ガスに置換した後、高温のプラズマフレームに晒されて1000〜2000℃に加熱された加熱部材に廃油を供給することにより、瞬時に廃油を蒸発・分解し、酸素等との反応を促進する。そして、分解物質は、排気口から外部に廃棄される。
【0006】
この処理方法によれば、廃油を処理するための酸素等の量は、廃油の分解処理に必要な最低限の量ですむため、排出ガス量を抑制できるといった効果を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
然るに、近年、環境保全に加え、資源の有効利用の観点から廃棄物を適正に処理した後、これを有効活用する社会的要請が高まりつつある。前記特許文献1記載の処理方法においては、排出ガスは無害なものであり環境保全の点からは優れているが、その一方で、廃油を分解処理し生成される生成物を直接有効活用することが、資源の有効利用の観点からより好ましい。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みて、難分解性有機廃液を分解処理して生成される可燃ガスを直接発電に利用することのできる難分解性有機廃液の処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、難分解性有機廃液をマイクロ波非平衡プラズマ中で分解処理する処理装置と、当該処理装置において分解,生成された可燃ガスを利用して発電する発電装置を備えて構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記処理装置は、反応ガスとして供給される酸素を、プラズマ反応管内に照射したマイクロ波を照射することによりプラズマ化させた状態で、プラズマ反応部に難分解性有機廃液を投入することにより、該難分解性有機廃液を分解処理することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2の何れかに記載の発明において、前記処理装置は、反応ガスとして供給される酸素量が、難分解性有機廃液の当量反応に満たない供給量とすることにより、分解後の生成物の大半を可燃ガスとすることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の発明において、前記処理装置は、プラズマ反応部内を減圧しグロー放電によって反応ガスである酸素をプラズマ化することにより、投入した難分解性有機廃液を分解処理することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の発明において、前記プラズマ反応部は、難分解性有機廃液を投入するプローブと、該プローブの先端に取り付けられ、投入した難分解性廃液を当該プラズマ反応部に噴霧するノズルを備えて構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の発明において、前記処理装置は、難分解性有機廃液を分解処理することにより、前記可燃ガスに加え、炭素系高機能材料或いは人工グラファイトを生成することを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の発明において、前記発電装置は、ガスエンジンまたはガスタービンを備えて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、難分解性有機廃液を分解処理して生成される可燃ガスを利用して発電装置によって直接発電することができるので、資源の有効利用を図ることができ、環境負荷の低減に貢献できる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、従前の熱平衡プラズマを利用した分解処理装置と比較して、非常に少ないエネルギーでプラズマ生成が可能となり、ランニングコストを大幅に低減できる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、反応ガスである酸素の量を当量反応に満たない供給量に制限することにより、低酸素下で反応性を高めることができ、マイクロ波非平衡プラズマによって難分解性有機廃液を分解した後の生成物の大半を可燃ガスとすることができるので、発電装置による発電量を向上させることができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、プラズマ反応部に、グロー放電によってプラズマを生成するので、安定した放電を実現することができ、一旦生成したプラズマが意に反して消失するといった問題はなく、分解対象である難分解性有機廃液を継続して効率的に分解処理することが可能となる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、プローブを通して投入した難分解性廃液をプラズマ反応部にノズルを利用して霧状に噴霧することにより、難分解性廃液の分解処理を促進することが可能となる。
【0021】
請求項6記載の発明によれば、廃液から有用な炭素系高機能材料或いは人工グラファイトを生成することができる。
【0022】
請求項7記載の発明によれば、既知のガスエンジンまたはガスタービンを利用することにより、生成した可燃ガスを利用して容易に発電することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る難分解性有機廃液の処理システムを示す全体構成図である。
【図2】前記難分解性有機廃液の処理システムを構成する処理装置におけるプラズマ反応部を拡大して示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図1および図2を用いて説明する。図1は本発明に係る難分解性有機廃液の処理システムAを示している。
【0025】
難分解性有機廃液の処理システムA(以下、単に処理システムという)は、マイクロ波発生装置1と、マイクロ波導波管2、難分解性有機廃液の投入部3、反応ガス供給部4、プラズマ反応管5からなる難分解性有機廃液の処理装置Bと、難分解性有機廃液を分解処理した後の生成物を利用する生成物再利用ユニット7によって構成されている。
【0026】
前記マイクロ波導波管2は、マイクロ波発生装置1から発振されたマイクロ波が反射してマイクロ波発生装置1内に入ることを防止するために、反射したマイクロ波を吸収するアイソレータ8と、マイクロ波の強度を調べるパワーモニタ9、マイクロ波を共振させ、プラズマの発生位置に焦点を合わせるスタブチューナ10を備えて構成されている。11は真空ポンプ6によって気圧調整されるプラズマ反応管5内の気圧を測定するための圧力計である。
【0027】
前記生成物再利用ユニット7は、難分解性有機廃液を分解して生成される生成物を冷却する熱交換器12と、真空ポンプ6が吸引,排出したガス利用して発電する発電装置13から構成されている。
【0028】
なお、14はプラズマ反応部X(図2参照)におけるプラズマの発生状況を目視するための観察窓であり、プラズマ反応部Xは、マイクロ波導波管2に対してプラズマ反応管5が垂直に設置され、その上部は投入部3と反応ガス供給部4に接続され、下部は熱交換器12に接続されている。
【0029】
プラズマ反応管5内には、上端を投入部3に接続した細管(以下、プローブという)15の下端が、マイクロ波によって生じるプラズマの発生位置上部に延出しており、当該プローブ15の先端(下端)には、投入部3からプローブ15を介して供給された難分解性廃液をプラズマ発生位置に霧状に噴霧するためのノズル(以下、噴霧ノズルという)16が取り付けられている。
【0030】
プラズマ反応管5は、例えば、透明の石英管によって形成されており、図1に示すプラズマ発生装置1から発振してプラズマ導波管2を通過したマイクロ波をプラズマ反応管5内に通過させる。
【0031】
次に、本発明に係る処理システムAによる難分解性有機廃液の処理方法について説明する。図1に示す処理システムAは、絶縁油等の難分解性の有機廃液を分解処理することができる。
【0032】
絶縁油としては、例えば、柱上変圧器用の電気絶縁油が存在し、当該絶縁油は、炭素および水素から構成され、その他の元素は含まれない純粋な炭化水素である。
【0033】
上記の絶縁油を分解処理するに当たっては、まず、図1に示す反応ガス供給部4から反応ガスとして酸素を供給するが、このときの酸素の供給量は、後述する当量反応に満たない量に設定する。供給された酸素は、プラズマ反応管5内を図1に示す下方へ通過し、図2に示すプラズマ反応部Xに供給される。
【0034】
次に、真空ポンプ6および圧力計11を用いて、プラズマ反応管5内を所定圧力(例えば、1.5kPa)に減圧・固定し、この状態でマイクロ波発生装置1によって生成したマイクロ波を所定の出力(670W等)で発振する。
【0035】
マイクロ波発生装置1から出力されたマイクロ波は、マイクロ波導波管2、アイソレータ8を介してパワーモニタ9に伝播し、パワーモニタ9により入射電力が検出される。このとき、アイソレータ8は反射したマイクロ波を吸収することによって、マイクロ波発生装置1を保護する。反射したマイクロ波の電力はパワーモニタ9によって検出される。
【0036】
導波管2内を通過したマイクロ波は、スタブチューナ10によって共振され図2に示すプラズマ発生位置に焦点が合わされ、プラズマ反応部Xに入射する。
【0037】
プラズマ反応部Xに入射したマイクロ波は、透明石英管等からなるプラズマ反応管5を良好に透過する。このとき、プラズマ反応管5内には、図1に示す反応ガス供給部4より反応ガスとして酸素が供給されており、この酸素は入射したマイクロ波によって電離してプラズマ化される。
【0038】
このとき発生するプラズマは、プラズマ反応管5内が一定圧に減圧(例えば、1.5kPa)されているので、グロー放電によって生じる。グロー放電は、コロナ放電と比較してより広範囲で安定した放電であり、アーク放電と比較して低エネルギーで生じさせることができる。
【0039】
プラズマ反応部Xにグロー放電プラズマを発生させたら、処理対象である絶縁油を液体の状態で投入部3から投入する。絶縁油の投入量は、反応ガスとして供給される酸素量が当量反応に満たない量に設定する。投入した絶縁油は、図1又は図2に示すプローブ15内を下降するが、当該絶縁油は常温で粘度が高いので、プローブ15内に滞留することが懸念される。
【0040】
そこで、投入部3に絶縁油を投入する際に、プローブ15に酸素等の気体(例えば、50ml/s)を導入する。当該気体の導入により、投入した絶縁油は、プローブ15内を下方に押し出され、図2に示す下端(先端)に取り付けた噴霧ノズル16からプラズマ反応部Xに霧状に噴霧される。
【0041】
このとき、プラズマ反応部Xにはグロー放電プラズマが生じている。したがって、噴霧ノズル16から噴霧された絶縁油は、霧状であるが故に、プラズマ反応部Xに生じているプラズマによって効率的に分解される。また、反応ガスとしての酸素が当量反応に満たない供給量であるので、低酸素下の反応により反応性を高めることができ、従来より多くの可燃ガスを生成することが可能となる。なおかつ、タール等の副生成物の合成を抑制することができる。
【0042】
前記生成ガスは、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、その他低分子炭化水素からなり、そのうち、水素、一酸化炭素、その他低分子炭化水素の割合が全体の7割を占めている。
【0043】
そして、生成された可燃ガスは、真空ポンプ6による吸引力により熱交換器12で冷却された後、発電装置13に排出される。発電装置13としては、ガスエンジンやガスタービンが用いられ、真空ポンプ6から排出された可燃ガスを利用してガスエンジンで発電機を駆動し、又は、ガスタービンを回転させて発電することができる。つまり、廃液から再生可能エネルギーを生成することが可能になる。
【0044】
また、前記可燃ガスのうち、二酸化炭素は、絶縁油を分解して生成された煤(炭素)と反応ガス供給部4より供給された酸素が結合して生成されたものである。当該二酸化炭素は、プラズマ反応部Xから下方へプラズマ反応管5内を下降するため、煤(炭素)がプラズマ反応管5内に付着することにより、マイクロ波が当該反応管5を透過することの阻害となることを阻止することができる。
【0045】
一方、前記可燃ガスの生成の他に、本発明では、酸素をマイクロ波を用いてプラズマ化させる構成であるので、反応性を向上させることができ、炭素系高機能材料や人工グラファイトを生成することが可能となる。
【0046】
炭素系高機能材料の生成は、マイクロ波の出力を高めること、或いは、所定の触媒を分解する廃液(絶縁油)に混入させることにより促進させることが可能となる。そして、生成した炭素系高機能材料や人工グラファイトは、未分解の絶縁油とともにプラズマ放電管5下部より回収することができる。
【0047】
以上の方法により、投入した絶縁油をプラズマ分解処理することによって、絶縁油等の難分解性有機廃液から発電用の可燃ガスと、炭素系高機能材料或いは人工グラファイトを生成することができる。なお、炭素系高機能材料としては、ダイヤモンドをはじめ、自動車やスポーツ用品等に利用され、今後は半導体としての利用が期待されるカーボンナノ材料、切削工具や自動車部品の表面加工に利用されるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等が考えられる。また、人工グラファイトは、潤滑剤や耐熱材料として利用可能である。
【0048】
以上説明したように、本発明の難分解性有機廃液の処理システムは、絶縁油等の難分解性有機廃液を高効率で分解し、可燃ガスや人工グラファイト或いは炭素系高機能材料に改質することができ、生成した可燃ガスは、ガスエンジンやガスタービンを利用して発電に利用することができる。
【0049】
また、グロー放電プラズマによって廃液を分解処理するので、安定した放電によって分解率の向上を図ることができる。
【0050】
さらに、廃液を噴霧ノズルから霧状に噴霧することにより、発生したグロー放電を消失させることなく、廃液を効率的に分解処理することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
マイクロ波非平衡プラズマを用いた難分解性有機廃液の分解処理に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 マイクロ波発生装置
2 マイクロ波導波管
3 投入部
4 反応ガス供給部
5 プラズマ反応管
6 真空ポンプ
7 生成物再利用ユニット
8 アイソレータ
9 パワーモニタ
10 スタブチューナ
11 圧力計
12 熱交換器
13 発電装置
14 プラズマ観察窓
15 細管(プローブ)
16 噴霧ノズル
A 難分解性有機廃液の処理システム
B 難分解性有機廃液の処理装置
X プラズマ反応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性有機廃液をマイクロ波非平衡プラズマ中で分解処理する処理装置と、当該処理装置において分解,生成された可燃ガスを利用して発電する発電装置を備えて構成したことを特徴とする難分解性有機廃液の処理システム。
【請求項2】
前記処理装置は、プラズマ反応管内に照射したマイクロ波を反応ガスとして供給される酸素に照射することによって酸素をプラズマ化させた状態で、プラズマ反応管内のプラズマ反応部に難分解性有機廃液を投入することにより、該難分解性有機廃液を分解処理するように構成したことを特徴とする請求項1記載の難分解性有機廃液の処理システム。
【請求項3】
前記処理装置は、反応ガスとして供給される酸素量が、難分解性有機廃液の当量反応に満たない供給量とすることにより、分解後の生成物の大半が可燃ガスとなるように構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の難分解性有機廃液の処理システム。
【請求項4】
前記処理装置は、プラズマ反応部内を減圧しグロー放電によって反応ガスである酸素をプラズマ化することにより、投入した難分解性有機廃液を分解処理するように構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の難分解性有機廃液の処理システム。
【請求項5】
前記プラズマ反応部は、難分解性有機廃液を投入するプローブと、該プローブの先端に取り付けられ、投入した難分解性廃液を当該プラズマ反応部に噴霧するノズルを備えて構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の難分解性有機廃液の処理システム。
【請求項6】
前記処理装置は、難分解性有機廃液を分解処理することにより、前記可燃ガスに加え、炭素系高機能材料或いは人工グラファイトを生成するように構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の難分解性有機廃液の処理システム。
【請求項7】
前記発電装置は、ガスエンジンまたはガスタービンを備えて構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の難分解性有機廃液の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−240212(P2011−240212A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111833(P2010−111833)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000116666)愛知電機株式会社 (93)
【Fターム(参考)】