説明

難燃カチオン可染性ポリエステル組成物およびその製造方法

【課題】ポリエステルと共重合する難燃成分を非共重合系の難燃成分に置き換えることにより難燃性能およびカチオン染料可染性を維持しつつ、耐光堅牢性や耐熱性に優れた難燃カチオン可染性ポリエステル繊維とすることのできるポリエステル組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】ポリエステルを構成する全酸性分に対し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8〜4.0モル%および下式で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜8000ppm共重合させ、非共重合性のホスホン酸化合物またはホスフィン酸化合物をリン元素換算で1000〜5000ppm含有するポリエステルで達成する。


〔式中、RおよびRは異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性とカチオン染料に対する染色性の両性能を兼ね備えたポリエステル組成物に関するものであり、詳しくはポリエステルに共重合する難燃成分量を減らし、非共重合系の難燃成分に置き換えることにより、ポリエステルを繊維に成形した際の難燃性能およびカチオン染料での染色性を良好に維持しつつ、耐光堅牢性や耐熱性に優れた難燃カチオン可染性ポリエステル繊維を提供しうるポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造されるポリエチレンテレフタレートは、その機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば衣料、寝具、カーテン、カーペット用途等に、好適に使用されている。
【0003】
しかし一方で昨今火災予防への意識が高まる中、多種多様な用途に適用されているポリエチレンテレフタレート製品に対しては特に難燃性を付与することが強く望まれ、これまでもその対策に努力が払われてきた。
【0004】
従来、ポリエステルに難燃性を付与する方法としては、難燃剤を成形品の表面に付着または内部までしみ込ませる方法(後加工法)や、難燃剤をポリエステル製造時に添加して共重合する方法(共重合法)等が提案されている。これらの方法の中では、洗濯等による難燃性能の低下、風合いの低下、難燃剤のしみ出し等の欠点が少ないことから、共重合法が最も好適である。
【0005】
共重合法において使用できる難燃剤として、これまでは特に優れた難燃性能を示すエステル形成性官能基を有するハロゲン化合物が好適とされ、幅広く使用されてきた。しかし一方でこのハロゲン化合物は難分解性・高蓄積性であり、人体や環境中に残留し易いとされ、年々化審法等による規制が厳しくなっているのが実状である。
【0006】
このような状況において、ハロゲン化合物の次に難燃性能が優れるとされるリン化合物を適用する技術が広がりを見せており、今日まで様々な技術の提案が成されている(特許文献1)。
【0007】
しかし上述した通りこのような難燃性能を有するポリエステルは家具等の用途に好適に用いられており、その中でも特にカーテン用途においては意匠性等を発現させるためにカチオン染料での染色性を同時に有するポリエステルが強く望まれ、従来の分散染料で染色するポリエステルではこれを満足することはできない。このような要望に応えるために、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等に代表される金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を共重合させた難燃性とカチオン染料での染色性を兼ね備えたポリエステルやそれから得られる繊維に関する技術の提案が数多く成されている(特許文献2、3)。
【0008】
しかしながらこれらの技術は難燃性能とカチオン染料での染色性能のそれぞれの機能を有する共重合成分同士の組み合わせに過ぎず、この場合ポリエステル中の共重合量が単純に増えてしまい、ポリエステルの分子構造を著しく乱すことに繋がる。分子構造の乱れ具合が大きいと特に熱による分子構造の破断が起こり易く、例えばポリエステルが本来持っている繊維としての高い強度レベルを著しく低下させる要因となる。
【0009】
またこのような分子構造の乱れは染料の出入りにも大きく影響する。ポリエステルを繊維に成形して使用する場合、ほぼ全ての用途において必要な色彩に染色する工程を伴う。またポリエステルの染色性能は共重合成分の量に依存することは一般的に知られている。例えば共重合成分量を増やすと染料がポリエステル分子鎖中に取り込まれ易くなり、すなわち染まり易いポリエステル繊維が得られる。しかしその反面、取り込まれた染料が抜け出し易い状態ともなり、すなわち色褪せが発生し易いポリエステル繊維となり、例えば紫外線に対する色褪せ度合いの指標である耐光堅牢度を著しく低下させる要因ともなる。
【0010】
このように実際には難燃性とカチオン染料での染色性を両立させることは極めて難しい。これに対しポリエステル製造条件を適正化し、副生成物であるジエチレングリコール量を5モル%以下まで低減させ、耐光性を改善する技術が提案されている(特許文献4)。
【0011】
しかしながら、この技術も基本的には難燃成分と金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の共重合ポリエステルであることに変わりはなく、この場合ポリエステルの品質はこれら2種の共重合成分固有の特性に支配され、ジエチレングリコール量を多少減らしても耐光性改善効果は期待できない。
【0012】
すなわち上述した背景技術では、難燃性とカチオン染料での染色性の両性能を兼ね備えたポリエステル繊維を提供しうるポリエステル組成物に関して、本発明の目的である難燃性能およびカチオン染料に対する染色性能は維持しつつ、耐光堅牢性や耐熱性に優れた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物を得ることはできない。
【0013】
耐光性を改善させる方法として紫外線吸収剤や光安定剤を用いる方法があるが(特許文献5)、この場合も難燃成分と金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の2種の成分を共重合したポリマ組成物では、得られるポリエステルが2種類の特性に支配されやすくなり、十分な耐光性の改善効果を得ることができない。
【0014】
なお難燃性能を有するスルホン酸塩を用いた技術も提案されているが(特許文献6)、ここで例示されている技術はポリカーボネートを基本としている他、本発明の目的である難燃性とカチオン染料での染色性を両立する繊維に関する課題の提言が無く、本発明の技術とは明確に異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平5−65339
【特許文献2】特開2005−320533
【特許文献3】特開2006−169687
【特許文献4】特開2004−107516
【特許文献5】特開2011−144317
【特許文献6】特開2003−335954
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はポリエステルに共重合する難燃成分の一部を非共重合系の難燃成分に置き換えることにより、ポリエステルの難燃性能およびカチオン染料に対する染色性能は維持しつつ、耐光堅牢性や耐熱性に優れた難燃カチオン可染性ポリエステル繊維を提供しうるポリエステル組成物およびその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記した従来技術では解決できなかった課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0018】
すなわち本発明は、ポリエステルを構成する全酸性分に対し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8〜4.0モル%および化1で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜8000ppm共重合させ、さらに非共重合系の化2および/もしくは化3で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜5000ppm含有することを特徴とする難燃カチオン可染性ポリエステル組成物およびその製造方法により達成できる。
【0019】
【化1】

【0020】
〔式中、RおよびRは異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基〕
【0021】
【化2】

【0022】
〔式中、R〜Rは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基〕
【0023】
【化3】

【0024】
〔式中、RおよびRは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Mは金属原子、nは金属原子の価数〕
【発明の効果】
【0025】
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物は、公知の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物に比べて耐光堅牢性に優れるため、例えばカーテン生地のような紫外線に晒される用途に最適であり、また耐熱性にも優れるため、製糸性が良好であることに加え、高い強度を保持することができるので、例えば繊維として活用する場合は生地の破れ等が発生しにくく、カーテン用途の他、カーペットやカーシートなどにも好適な難燃カチオン可染性ポリエステル組成物およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物は、ポリエステルを構成する全酸性分に対し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8〜4.0モル%共重合させる必要がある。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が0.8モル%より少ないと、得られるポリエステルの色調や耐熱性、またそのポリエステルを用いた繊維の強度および耐光堅牢性が不良となり、且つカチオン染料に対する染色性が不十分となる。一方、4.0モル%を越えると、得られるポリエステルは耐熱性レベルが不十分となり、その結果強度レベルや色調、耐光堅牢性が不良となる。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分としてより好ましくは0.9〜3.5モル%であり、更に好ましくは1.0〜3.0モル%である。
【0027】
なお本発明の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分とは、公知の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の何れのものも適用出来るが、好ましくは、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルである。
【0028】
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物は、化1で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜8000ppm共重合させる必要がある。化1で示されるリン化合物がリン元素換算で1000ppmより少ないと、得られるポリエステルの色調や耐熱性、またそのポリエステルを用いた繊維の強度および耐光堅牢性が不十分となり、且つ十分な難燃性を得ることができない。一方、化1で示されるリン化合物がリン元素換算で8000ppmより多いと、得られるポリエステルの耐熱性レベルが劣り、その結果高い強度レベルや良好な色調、耐光堅牢度を維持することができない。化1で示されるリン化合物としてより好ましくは、リン元素換算で2000〜7000ppmであり、更に好ましくは3000〜6000ppmである。
【0029】
なお本発明の化1で示されるリン化合物とは、ホスフィン酸もしくはその誘導体であれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは、2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸、2−メトキシカルボニルエチル(フェニル)ホスフィン酸、2−ヒドロキシエトキシカルボニルエチル(フェニル)ホスフィン酸、2−カルボキシエチル(メチル)ホスフィン酸、p−2−カルボキシエチル(クロロフェニル)ホスフィン酸、2−フェノキシカルボニルエチル(ヘキシル)ホスフィン酸等、もしくはこれらのエチレングリコールエステル化物である。
【0030】
【化1】

【0031】
〔式中、RおよびRは異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基〕
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物は、化1で示されるリン化合物と共に非共重合系の化2および/もしくは化3で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜5000ppm含有する必要がある。化2および/もしくは化3で示されるリン化合物が1000ppmより少ないと、耐光堅牢性は良好なまま維持できるものの、十分な難燃性を得ることができず、更に化2、化3は耐熱剤としても効果を発揮するため、ポリエステルの耐熱性も悪化する。一方、化2および/もしくは化3で示されるリン化合物が5000ppmより多いと、リン化合物同士の結合もしくは凝集し粗大な粒子を生成し、本発明のポリエステルを用いて繊維を成型する際にはこの粒子が基点となり繊維の断裂が起りやすくなるため、強度が著しく低下し、更に毛羽などの品位低下が発生する。また化2、化3が非共重合系であると、ポリエステルの分子構造を必要以上に乱すことがないため、耐熱性や耐光堅牢性を良好なまま維持できる。化2および/もしくは化3で示されるリン化合物の含有量としてより好ましくは1300〜4000ppmであり、更に好ましくは1500〜3000ppmである。
【0032】
なお本発明の化2で示されるリン化合物とは、芳香族縮合リン酸エステルであれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの縮合リン酸エステル等である。
【0033】
また本発明の化3で示されるリン化合物とは、ホスフィン酸金属塩もしくはその誘導体であれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは、ジエチルホスフィン酸亜鉛である。
【0034】
【化2】

【0035】
〔式中、R〜Rは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基〕
【0036】
【化3】

【0037】
〔式中、RおよびRは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Mは金属原子、nは金属原子の価数〕
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物は、リン元素換算で、化1のリン化合物を化2および/もしくは化3のリン化合物の総量の1〜4倍量含有することが好ましい。リン元素換算で、化1のリン化合物を化2および/もしくは化3のリン化合物の総量の1倍量(等量)以上添加することで耐熱剤としての効果が得られ、ポリエステルの耐熱性が向上するとともに、十分な難燃性も得られるため好ましい。一方、リン元素換算で、化1のリン化合物を化2および/もしくは化3のリン化合物の総量の4倍量以下添加することでポリエステルに対する共重合成分の割合が少なくなり、良好な耐光堅牢性が維持できる他、耐熱剤としての効果が良好である。リン元素換算で化1のリン化合物を、化2および/もしくは化3のリン化合物の総量の1〜3倍量添加することがより好ましく、更に好ましくは1〜2倍量である。
【0038】
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物は、化1、化2、化3で示されるリン化合物の総量として、リン元素換算で2000〜10000ppm含有することが好ましい。化1、化2、化3で示されるリン化合物の総量が2000ppmより多いと、得られるポリエステルの色調や耐熱性、またそのポリエステルを用いた繊維の強度および耐光堅牢性は良好なまま維持できる他、十分な難燃性も得られるため好ましい。化1、化2、化3で示されるリン化合物の総量が10000ppmより少ないと、本発明の目的である耐熱性、耐光堅牢性の向上により効果を発揮する他、リン化合物同士の凝集が発生し難いため、生産効率や繊維強度、毛羽品位等が高いレベルで維持できるようになるため好ましい。化1、化2、化3で示されるリン化合物の総量としてより好ましくはリン元素換算で3500〜8000ppmであり、更に好ましくは5000〜7000ppmである。
【0039】
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の製造方法は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を重縮合触媒の存在下で重縮合して得られるポリエステル組成物を製造する方法において、ポリエステルを構成する全酸性分に対し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8〜4.0モル%添加し共重合させる必要がある。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が0.8モル%より少ないと、得られるポリエステルの色調や耐熱性、またそのポリエステルを用いた繊維の強度および耐光堅牢性が不良となり、且つカチオン染料に対する染色性が不十分となる。一方、4.0モル%を越えると、得られるポリエステルは耐熱性レベルが不十分となり、その結果強度レベルや色調、耐光堅牢性が不良となる。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の共重合量としてより好ましくは0.9〜3.5モル%であり、更に好ましくは1.0〜3.0モル%である。
【0040】
なお本発明の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分とは、公知の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の何れのものも適用出来るが、好ましくは、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルである。
【0041】
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の製造方法は、化1で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜8000ppm添加し共重合させる必要がある。化1で示されるリン化合物がリン元素換算で1000ppmより少ないと、得られるポリエステルの色調や耐熱性、またそのポリエステルを用いた繊維の強度および耐光堅牢性が不十分となり、且つ十分な難燃性を得ることができない。一方、化1で示されるリン化合物がリン元素換算で8000ppmより多いと、得られるポリエステルの耐熱性レベルが劣り、その結果高い強度レベルや良好な色調、耐光堅牢度を維持することができない。化1で示されるリン化合物の共重合量としてより好ましくは、リン元素換算で2000〜7000ppmであり、更に好ましくは3000〜6000ppmである。
【0042】
なお本発明の化1で示されるリン化合物とは、ホスフィン酸もしくはその誘導体であれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは、2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸、2−メトキシカルボニルエチル(フェニル)ホスフィン酸、2−ヒドロキシエトキシカルボニルエチル(フェニル)ホスフィン酸、2−カルボキシエチル(メチル)ホスフィン酸、p−2−カルボキシエチル(クロロフェニル)ホスフィン酸、2−フェノキシカルボニルエチル(ヘキシル)ホスフィン酸等、もしくはこれらのエチレングリコールエステル化物である。
【0043】
【化1】

【0044】
〔式中、RおよびRは異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基〕
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の製造方法は、化1で示されるリン化合物と共に非共重合系の化2および/もしくは化3で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜5000ppm添加する必要がある。化2および/もしくは化3で示されるリン化合物が1000ppmより少ないと、耐光堅牢性は良好なまま維持できるものの、十分な難燃性を得ることができず、更に化2、化3は耐熱剤としても効果を発揮するため、ポリエステルの耐熱性も悪化する。一方、化2および/もしくは化3で示されるリン化合物が5000ppmより多いと、リン化合物同士の結合もしくは凝集し粗大な粒子を生成し、本発明のポリエステルを用いて繊維を成型する際にはこの粒子が基点となり繊維の断裂が起りやすくなるため、強度が著しく低下し、更に毛羽などの品位低下が発生する。また化2、化3が非共重合系であると、ポリエステルの分子構造を必要以上に乱すことがないため、耐熱性や耐光堅牢性を良好なまま維持できる。化2および/もしくは化3で示されるリン化合物の添加量としてより好ましくは1300〜4000ppmであり、更に好ましくは1500〜3000ppmである。
【0045】
なお本発明の化2で示されるリン化合物とは、芳香族縮合リン酸エステルであれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの縮合リン酸エステル等である。
【0046】
また本発明の化3で示されるリン化合物とは、ホスフィン酸金属塩もしくはその誘導体であれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは、ジエチルホスフィン酸亜鉛である。
【0047】
【化2】

【0048】
〔式中、R〜Rは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基〕
【0049】
【化3】

【0050】
〔式中、RおよびRは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Mは金属原子、nは金属原子の価数〕

なお本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の製造方法において適用する主原料としては、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体であれば公知の何れの物も適用できるが、安定したポリマ品質を得るために、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを重縮合触媒の存在下で重縮合して得られるポリエステル組成物を製造する方法が好ましい。
【0051】
更に本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物およびその製造方法においてより優れた耐光堅牢性を得るためには、ポリエステル組成物を製造する工程において、紫外線吸収剤および/もしくは光安定剤を添加することが望ましい。かかる改質剤は得られるポリエステル組成物に対して0.05〜3.0wt%含有させることが好ましい。紫外線吸収剤および/もしくは光安定剤の含有量は得られるポリエステル組成物に対して0.05wt%以上であると得られるポリエステルの色調や耐熱性、またそのポリエステルを用いた繊維の強度が良好に維持したまま、更なる耐光堅牢性向上効果が得られる。なお、紫外線吸収剤および/もしくは光安定剤の含有量が得られるポリエステル組成物に対して3.0wt%以下であれば改質剤の凝集発生が少ないので、繊維強度、毛羽品位等を高いレベルに維持できる。紫外線吸収剤および/もしくは光安定剤の含有量としてより好ましくは0.1〜2.0wt%であり、更に好ましくは0.3〜1.5wt%である。
【0052】
なお紫外線吸収剤とはポリエステルの着色や劣化をもたらす紫外線を吸収する効果があり、一方光安定剤とは紫外線エネルギーによって生じる有害なフリーラジカルを効率よく捕捉する効果を有する。このように紫外線吸収剤と光安定剤はそれぞれ異なるメカニズムを有することから、耐光堅牢度等の紫外線に対する耐性をより効率良く得るため、紫外線吸収剤と光安定剤を併用することも可能である。
【0053】
また本発明で用いる紫外線吸収剤ならびに光安定剤は、紫外線吸収効果、紫外線エネルギーによって生じる有害なフリーラジカルの捕捉効果を有していれば公知の何れのものも適用できるが、好ましくは、紫外線吸収剤として、2,2−(p−フェニレン)ジ−3,1−ベンゾオキサジン−4−オンに代表されるようなベンズオキサジノン型紫外線吸収剤、光安定剤として、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートに代表されるようなヒンダードアミン型光安定剤等である。
【0054】
紫外線吸収剤ならびに光安定剤の添加方法としては、本発明のポリエステル組成物を得るまでのエステル交換反応工程、重縮合工程、ならびに得られたポリエステル組成物への後加工による混練の何れの方法でも構わないが、紫外線に対する耐性をより効率良く得つつ、生産効率や生産コストとの両立を図るためには、重縮合工程で添加することが好ましく、特に重縮合工程の後半で添加することがより好ましい。
【0055】
なお本発明のポリエステル組成物の製造方法としては、公知の何れの方法でも得ることができるが、より良好な品質のポリエステル組成物を得るためにテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応ならびに重縮合反応によってポリエチレンテレフタレート組成物を得る方法が好ましい。
【0056】
また本発明のポリエステル組成物には、本発明の目的や効果を損なわない範囲で艶消し剤として二酸化チタンを用いても良い。
【実施例】
【0057】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
(1)リン元素含有量
(i)ポリエステル中のリン元素含有量
本発明の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物6gを溶融し板状に成形し、蛍光X線分析(理学電気社製蛍光X線分析装置3270型)により強度を測定して、既知含有量のサンプルで予め作成した検量線を用いて、リン元素含有量とした。
(ii)非共重合系リン化合物(化2,3)由来のリン元素含有量
難燃カチオン可染性ポリエステル組成物を凍結粉砕処理しトリクロロメタンに溶解した後、目開き0.5μmのフィルターで濾過した抽出液を用いて、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析装置)でリン化合物の含有量を測定し、分子量からリン元素含有量を算出した。
(iii)共重合系リン化合物(化1)由来のリン元素含有量
(i)の方法で測定したポリエステル中のリン元素含有量から(ii)の方法で測定した非共重合系リン化合物由来のリン元素含有量を引いた差分を共重合系リン化合物由来のリン元素含有量とした。
(2)紫外線吸収剤、光安定剤含有量
難燃カチオン可染性ポリエステル組成物を凍結粉砕処理しトリクロロメタンに溶解した後、目開き0.5μmのフィルターで濾過した抽出液を用いて、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析装置)で紫外線吸収剤、光安定剤の含有量を測定した。
(3)ポリエステルの色調
色差計(スガ試験機製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ペレット状態でのハンター値(b値)を測定した。なおバッチ重合においては通常、吐出工程の重量換算で半分にあたる時間でサンプリングしたポリエステルの色調を用いる。例えば、1トンのポリエステルを吐出する場合は、500kg時点のポリエステルをサンプリングし、以下の基準で判定した。
17.0未満 :◎
17.0以上20.0未満:○
20.0以上 :×
(4)ポリエステルの耐熱性
乾燥した難燃カチオン可染性ポリエステル組成物8gを、300℃窒素雰囲気下で8分間加熱処理した際の絶対粘度と、360分間加熱処理した際の絶対粘度を測定し、それぞれの絶対粘度から下式を用いて算出した値を耐熱性の指標とした。なお判定基準は以下の通りとした。
0.27×((1/〔ηt〕)(4/3)−(1/〔η0〕)(4/3)
η0:300℃×8分加熱後の粘度(基準)
ηt:300℃×360分加熱後の粘度
1.50未満 :◎
1.50以上1.70未満:○
1.70以上 :×
(5)ポリエステルの濾過性
乾燥した難燃カチオン可染性ポリエステル組成物を300℃で溶融し、目開き5μmの不織布フィルターヘエクスルーダーを用いて10g/分の速度で供給し、供給開始から30分後の圧力と360分後の圧力の差を測定し、以下の基準で判定した。
2.0MPa/6hr未満 :◎
2.0以上3.0MPa/6hr未満:○
3.0MPa/6hr以上 :×
(6)ポリエステルの強度
後述する方法にて仮撚糸を得た後、以下の方法で測定した。
(i)繊度〔dtex〕の測定
得られた糸を長さ100mカセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値の100倍とし、同様に測定して得た3回の値の平均値を繊度とした。
(ii)強度〔cN/dtex〕の測定
(i)測定した繊度を用い、試料をオリエンテック(株)製TENSILON UCT−100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に示される定速伸長形でつかみ間隔20cmの条件で測定し、以下の基準で判定した。
3.0cN/dtex以上 :◎
2.7以上3.0cN/dtex未満:○
2.7cN/dtex未満 :×
(7)ポリエステルの難燃性
後述する方法にて仮撚糸を得た後、22ゲージで筒編み地を作製し、この筒編み地をJIS L1091 A−1法に従い測定し、以下の基準で判定した。
(i)残炎時間
1秒未満 :◎
1以上3秒未満:○
3秒以上 :×
(ii)燃焼面積
10.0cm未満 :◎
10.0以上30.0cm未満:○
30.0cm以上 :×
(iii)難燃性総合評価
(i)(ii)評価で何れも◎判定 :◎
(i)(ii)評価で何れも○判定以上:○
(i)(ii)評価で何れかが×判定 :×
(8)ポリエステルの染色性
後述する方法にて仮撚糸を得た後、22ゲージで筒編み地を作製し、この筒編み地をR−black ED(日本化薬製)の10%owf浴で120℃×30分間染色を行い(2)の方法で色調L値を測定し、以下の基準で判定した。
20.0未満 :◎
20.0以上30.0未満:○
30.0以上 :×
(9)ポリエステルの耐光堅牢性
後述する方法にて仮撚糸を得た後、22ゲージで筒編み地を作製し、この筒編み地をKAYACRYL BLUE GSL−ED(日本化薬製)の0.3%owf浴浴で120℃×30分間染色を行い、JIS L 0842法(第三露光法)にて耐光堅牢度を測定し、以下の基準で判定した。
4−5級;◎
4級 ;○
3級以下;×
実施例1
(重合方法)
精留塔を備えたエステル交換反応槽にテレフタル酸ジメチルを14kg、エチレングリコールを8kg、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対し1.4モル%となるように仕込み、撹拌しながら200℃以下で溶解した。その後、アンチモン化合物をアンチモン元素換算で400ppm、酢酸マグネシウム・4水和物をマグネシウム元素換算で500ppm、酢酸リチウム・2水和物をリチウム元素換算で1600ppm含有するように添加した。その後、エステル交換反応槽の温度が240℃となるまで徐々に昇温しながら、エステル交換反応時に発生するメタノールを反応系外に留去させ反応を進行させた。その後メタノールが留出しなくなった時点でエステル交換反応を完了させ、重合反応槽へ移送した。移送終了後直ぐに、重合反応槽に1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)を得られるポリエステルに対してリン元素換算で2000ppm含有するように添加し、次いで2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸を得られるポリエステルに対してリン元素換算で4000ppm含有するように添加し、更にその後二酸化チタンを0.07wt%含有するように添加し、その後重合反応槽内を240℃から290℃まで徐々に昇温し、同時に重合反応槽内の圧力を30Paまで下げながらエチレングリコールを留去させ、所定の攪拌機トルク(電力値)となった時点で反応系を窒素パージし、常圧に戻して重合反応を完了させた。その後ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエチレンテレフタレートのペレットを得た。
【0058】
得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物のb値は16.6、耐熱性は1.43%、濾過性は1.5MPa/6hrと極めて良好な結果を得た。
(紡糸方法)
この難燃カチオン可染性ポリエステル組成物を乾燥後、紡糸機に供し、紡糸温度270℃、口金ヒーター290℃、吐出量27g/分の条件で溶融させ、この溶融したポリエステルを丸孔24ホールの口金ノズルから吐出させた後、糸条を冷却風によって冷却固化させ油剤を付与した後に、巻き取り速度2700m/minで巻き取り、繊度100dtexの部分配向糸を得た。
【0059】
次いで仮撚機を用いて、得られた部分配向糸を2本合糸し、速度500m/min、第1段熱セット温度170℃、第2段熱セット温度150℃、倍率1.8の条件下で仮撚加工し、繊度168dtexの仮撚糸を得た。
【0060】
得られた仮撚糸の強度は3.3cN/dtex、難燃性は残炎時間が0秒、燃焼面積が5.2cm、濃黒染色後のL値は19.4、淡青染色後の耐光堅牢度は4−5級と極めて良好な結果を得た。
【0061】
実施例2
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対し0.8モル%となるように仕込んだ以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は実施例1と比較してほぼ同等の品質を示しており、また仮撚糸については染色性が僅かに劣位であったものの、強度、難燃性、耐光堅牢度含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0062】
実施例3
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対し4.0モル%となるように仕込んだ以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、何れも目標の品質を示しており、また仮撚糸については強度、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、難燃性、染色性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0063】
実施例4
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で1000ppm、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をリン元素換算で1000ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は実施例1と比較してほぼ同等の品質を示しており、また仮撚糸については難燃性が僅かに劣位であったものの、強度、耐光堅牢度、染色性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0064】
実施例5
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で8000ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、濾過性含めて目標の品質を示しており、また仮撚糸については染色性、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、強度、難燃性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0065】
実施例6
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で5000ppm、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をリン元素換算で5000ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、濾過性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、耐熱性含めて目標の品質を示しており、また仮撚糸については強度、染色性、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、難燃性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0066】
実施例7
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で8000ppm、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をリン元素換算で5000ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、何れも目標の品質を示しており、また仮撚糸については強度、染色性、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、難燃性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0067】
実施例8
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、難燃性、染色性、耐光堅牢度は実施例1と比較してほぼ同等の品質を示しており、極めて良好な結果を得た。
【0068】
実施例9
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は実施例4と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は実施例1と比較してほぼ同等の品質を示しており、また仮撚糸については難燃性が僅かに劣位であったものの、強度、耐光堅牢度、染色性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0069】
実施例10
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は実施例5と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、濾過性含めて目標の品質を示しており、また仮撚糸については染色性、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、強度、難燃性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0070】
実施例11
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は実施例6と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、濾過性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、耐熱性含めて目標の品質を示しており、また仮撚糸については強度、染色性、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、難燃性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0071】
実施例12
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は実施例7と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、何れも目標の品質を示しており、また仮撚糸については強度、染色性、耐光堅牢度が僅かに劣位であったものの、難燃性含めて目標の品質を示しており、良好な結果を得た。
【0072】
実施例13
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)とジエチルホスフィン酸亜鉛をリン元素換算で1000ppm含有するように添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、難燃性、染色性、耐光堅牢度は実施例1と比較してほぼ同等の品質を示しており、極めて良好な結果を得た。
【0073】
実施例14
重縮合反応工程において、所定の攪拌機トルク(電力値)到達予想時間の10分前に、紫外線吸収剤の2,2−(p−フェニレン)ジ−3,1−ベンゾオキサジン−4−オンを得られるポリエステル組成物に対して0.05wt%添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、難燃性、染色性は実施例1と比較してほぼ同等、耐光堅牢度については実施例1と比較してやや優位であり、極めて良好な結果を得た。
【0074】
実施例15
紫外線吸収剤の添加量を3.0wt%とした以外は実施例14と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の濾過性および仮撚糸の強度は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、ポリエステル組成物の色調、耐熱性、および仮撚糸の難燃性、染色性は実施例1と比較してほぼ同等、耐光堅牢度については実施例1と比較して優位であり、極めて良好な結果を得た。
【0075】
実施例16
重縮合反応工程において、所定の攪拌機トルク(電力値)到達予想時間の10分前に、光安定剤のテトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートを得られるポリエステル組成物に対して0.05wt%添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、難燃性、染色性は実施例1と比較してほぼ同等、耐光堅牢度については実施例1と比較してやや優位であり、極めて良好な結果を得た。
【0076】
実施例17
光安定剤の添加量を3.0wt%とした以外は実施例14と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の濾過性および仮撚糸の強度は実施例1と比較して僅かに劣位であったものの、ポリエステル組成物の色調、耐熱性、および仮撚糸の難燃性、染色性は実施例1と比較してほぼ同等、耐光堅牢度については実施例1と比較して優位であり、極めて良好な結果を得た。
【0077】
比較例1
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対し0.5モル%となるように仕込んだ以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、難燃性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、染色性は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0078】
比較例2
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対し8.0モル%となるように仕込んだ以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の濾過性は目標の品質を示したものの、色調、耐熱性については実施例1と比較して大幅に劣位であり、また仮撚糸については強度、難燃性、染色性は目標の品質を示していたものの、耐光堅牢度は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0079】
比較例3
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で8000ppm添加し、他のリン化合物は添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の濾過性は目標の品質を示したものの、色調、耐熱性については実施例1と比較して大幅に劣位であり、また仮撚糸については難燃性、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、強度は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0080】
比較例4
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸は添加せず、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)のみをリン元素換算で5000ppm添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は目標の品質を示した。仮撚糸については強度、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、難燃性は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0081】
比較例5
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で500ppm、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をリン元素換算で500ppm添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、難燃性は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0082】
比較例6
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で10000ppm添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の濾過性は目標の品質を示していたものの、色調、耐熱性については実施例1と比較して大幅に劣位であり、また仮撚糸については強度、難燃性は目標の品質を示していたものの、染色性、耐光堅牢度は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0083】
比較例7
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で4000ppm、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をリン元素換算で8000ppm添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性は目標の品質を示していたものの、濾過性については実施例1と比較して大幅に劣位であり、また仮撚糸については難燃性、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、強度は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0084】
比較例8
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸をリン元素換算で10000ppm、1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をリン元素換算で8000ppm添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物および仮撚糸について、難燃性を除く全ての品質が実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0085】
比較例9
2−カルボキシエチル(フェニル)ホスフィン酸は添加せず、ジエチルホスフィン酸亜鉛のみをリン元素換算で5000ppm添加した以外は実施例1と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性は目標の品質を示した。仮撚糸については強度、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、難燃性は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0086】
比較例10
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は比較例4と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性、濾過性、および仮撚糸の強度、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、難燃性は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0087】
比較例11
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は比較例5と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の濾過性は目標の品質を示していたものの、色調、耐熱性については実施例1と比較して大幅に劣位であり、また仮撚糸については強度、難燃性は目標の品質を示していたものの、染色性、耐光堅牢度は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0088】
比較例12
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は比較例6と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の色調、耐熱性は目標の品質を示していたものの、濾過性については実施例1と比較して大幅に劣位であり、また仮撚糸については難燃性、染色性、耐光堅牢度は目標の品質を示していたものの、強度は実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。
【0089】
比較例13
1,3−フェニレンビス(ジキシリジルホスフェート)をジエチルホスフィン酸亜鉛に変更した以外は比較例7と同様の方法で難燃カチオン可染性ポリエステル組成物と仮撚糸を得た。得られた難燃カチオン可染性ポリエステル組成物および仮撚糸について、難燃性を除く全ての品質が実施例1と比較して大幅に劣位であり、満足できる結果ではなかった。

【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを構成する全酸性分に対し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8〜4.0モル%および化1で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜8000ppm共重合させ、非共重合系の化2および/もしくは化3で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜5000ppm含有することを特徴とする難燃カチオン可染性ポリエステル組成物。
【化1】

〔式中、RおよびRは異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基〕
【化2】

〔式中、R〜Rは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基〕
【化3】

〔式中、RおよびRは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Mは金属原子、nは金属原子の価数〕
【請求項2】
リン元素換算で、化1のリン化合物を化2および/もしくは化3のリン化合物の総量の1〜4倍量含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物。
【請求項3】
化1、化2、化3で示されるリン化合物の総量として、リン元素換算で2000〜10000ppm含有することを特徴とする請求項1および2のいずれか1項に記載の難燃カチオン可染性ポリエステル組成物。
【請求項4】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を重縮合触媒の存在下で重縮合してポリエステル組成物を製造する方法において、ポリエステルを構成する全酸性分に対し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を0.8〜4.0モル%および化1で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜8000ppm添加し共重合させ、非共重合系の化2および/もしくは化3で示されるリン化合物をリン元素換算で1000〜5000ppm添加することを特徴とする難燃カチオン可染性ポリエステル組成物の製造方法。
【化1】

〔式中、RおよびRは異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基〕
【化2】

〔式中、R〜Rは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基〕
【化3】

〔式中、RおよびRは同じかそれぞれ異なる炭素数1〜20の炭化水素基、Mは金属原子、nは金属原子の価数〕

【公開番号】特開2012−180504(P2012−180504A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2817(P2012−2817)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】