説明

難燃剤の製造方法、及び難燃性重合体組成物の製造方法

【課題】卓越した難燃性を付与可能な難燃剤及びその難燃剤を含有する難燃性重合体組成物を提供すること。
【解決手段】芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)からなる共重合体(A)、ゴム状重合体(3)と芳香族ビニル単位(1)とのグラフト重合体(B)、及びゴム状重合体(3)と、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)とのグラフト重合体(C)から選ばれる重合体であって、イオン基を含有していることを特徴とする難燃剤、及びそれを配合した難燃性重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃剤に関する。更に詳しくは、卓越した難燃性を付与可能な難燃剤及びその難燃性重合体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性重合体または熱可塑性エラストマー等の重合体は、成形性に優れることに加え、耐衝撃性に優れていることから、自動車部品、家電部品、OA機器部品を始めとする多岐の分野で使用されているが、重合体の易燃性のためにその用途が制限されている。重合体の難燃化の方法としては、ハロゲン系、リン系、無機系の難燃剤を重合体に添加することが知られており、それによりある程度難燃化が達成されている。しかしながら、近年火災に対する安全性の要求がとみにクローズアップされ、更に高度な難燃化技術の開発と共に、環境上の問題や機械的性質の低下のない技術開発が強く望まれている。
【0003】
一方、ポリスチレンスルホン酸塩等の無機酸塩を芳香環に置換した芳香族ビニル系樹脂を配合した組成物が知られている。例えば、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム塩とポリ塩化ビニルとの安定化樹脂の製法(特開平7ー268028号公報)、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム塩とポリオレフィンとの安定化樹脂の製法(特開平6ー248013号公報)、ポリスチレン/ポリフェニレンオキサイド系アロイからなるの耐熱樹脂〔Proceedings of the 6th Sony Research Forum p.552(1996)〕、ポリスチレン/ポリフェニレンオキサイドにスルフォン酸塩を導入したポリマーシステムの相溶性〔Polymer,Vol.33,Nr6,1210(1992)〕等である。
【0004】
また、ABS樹脂またはHIPS樹脂にイオン基が導入された水溶性高分子電解質(特開平10ー101731、特開平10ー249194号公報)が知られている。しかしながら、上記公報及び文献にはスルフォン酸塩等を含有した芳香族ビニル系重合体が卓越した難燃性を付与可能であることは開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7ー268028号公報
【特許文献2】特開平6ー248013号公報
【特許文献3】特開平10ー101731号公報
【特許文献4】特開平10ー249194号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Proceedings of the 6th Sony Research Forum p.552,1996年
【非特許文献2】Polymer,Vol.33,Nr6,1210,1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような現状に鑑み、上記のような問題点のない、即ち卓越した難燃性を付与可能な難燃剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは重合体の難燃性を鋭意検討した結果、本発明の特定の置換基を有する難燃剤が重合体に対して、難燃性を飛躍的に向上せしめることを見出し、本発明を完成した。即ち本発明は、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)からなる共重合体(A)、ゴム状重合体(3)と芳香族ビニル単位(1)とのグラフト重合体(B)、及びゴム状重合体(3)と、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)とのグラフト重合体(C)から選ばれる重合体であって、イオン基を含有していることを特徴とする難燃剤、及びそれを配合した難燃性重合体組成物を提供するものである。
よって、本発明は、熱可塑性樹脂に添加して、当該熱可塑性樹脂の難燃性を高める難燃剤の製造方法であり、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)からなる共重合体(A)と、ゴム状重合体(3)と芳香族ビニル単位(1)とのグラフト重合体(B)、及びゴム状重合体(3)と、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)とのグラフト重合体(C)から選ばれる原料重合体に、無機酸を接触させるスルフォン化工程と、前記スルフォン化工程後の前記原料重合体に無機アルカリを接触させ、前記原料重合体にスルフォン酸塩の基を導入する中和工程とを有する。
前記無機酸としては、濃硫酸と、無水硫酸と、発煙硫酸と、クロロスルフォン酸とからなる群より選択されるいずれか1種以上の無機酸を用いることができ、前記無機アルカリとしては、アルカリ金属の酸化物と、アルカリ金属の水酸化物と、アルカリ金属の炭酸塩と、アルカリ金属の炭酸水素塩と、アルカリ金属の酢酸塩と、アルカリ金属の硫酸塩と、アルカリ土類金属の酸化物と、アルカリ土類金属の水酸化物と、アルカリ土類金属の炭酸塩と、アルカリ土類金属の炭酸水素塩と、アルカリ土類金属の酢酸塩と、アルカリ土類金属の硫酸塩とからなる群より選択されるいずれか1種以上の無機アルカリを用いることができる。
前記スルフォン化工程は、スルフォン酸塩の基が、該重合体の全単位に対して、50〜300モル%になるよう、反応時間及び/又は無機酸の添加量を制御することが望ましい。
前記原料重合体として、前記共重合体(A)、前記グラフト重合体(C)中の芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)が、不飽和ニトリル単位、アクリルアミド類単位、メタクリルアミド類単位、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、ビニルアルコール単位、多官能単量体単位から選ばれる単位であり、ゴム状重合体(3)が共役ジエン単位であるものを用いることができる。
さらに、前記原料重合体として、前記共重合体(A)において、芳香族ビニル単位(1)が10〜90重量%、芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)が10〜90重量%であり、前記グラフト重合体(B)において、芳香族ビニル単位(1)が50〜95重量%、ゴム状重合体(3)が5〜50重量%であり、前記グラフト重合体(C)において、芳香族ビニル単位(1)が45〜85重量%、芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)が10〜50重量%、ゴム状重合体(3)が5〜50重量%であるものを用いることもできる。
上記製造方法により製造された難燃剤を、熱可塑性樹脂と混合して難燃性重合体組成物を製造することができる。
その熱可塑性樹脂として芳香族ポリカーボネイト樹脂を用いることができる。
また、前記熱可塑性樹脂と前記難燃剤とを混練して、難燃性重合体組成物とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃剤を配合した難燃性重合体組成物は、VTR、分電盤、テレビ、オ−ディオプレ−ヤ−、コンデンサ、家庭用コンセント、ラジカセ、ビデオカセット、ビデオディスクプレイヤ−、エアコンディショナ−、加湿機、電気温風機械等の家電ハウジング、シャ−シまたは部品、CD−ROMのメインフレ−ム(メカシャ−シ)、プリンタ−、ファックス、PPC、CRT、ワ−プロ複写機、電子式金銭登録機、オフィスコンピュ−タ−システム、フロッピ−(登録商標である)ディスクドライブ、キ−ボ−ド、タイプ、ECR、電卓、トナ−カ−トリッジ、電話等のOA機器ハウジング、シャ−シまたは部品、コネクタ、コイルボビン、スイッチ、リレ−、リレ−ソケット、LED、バリコン、ACアダップタ−、FBT高圧ボビン、FBTケ−ス、IFTコイルボビン、ジャック、ボリュウムシャフト、モ−タ−部品等の電子・電気材料、そして、インスツルメントパネル、ラジエ−タ−グリル、クラスタ−、スピ−カ−グリル、ル−バ−、コンソ−ルボックス、デフロスタ−ガ−ニッシュ、オ−ナメント、ヒュ−ズボックス、リレ−ケ−ス、コネクタシフトテ−プ等の自動車材料等に好適であり、これらに環境上の問題や機械的性質の低下をもたらすことがなく卓越した難燃性を付与することができるので、産業界に果たす役割は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明の難燃剤は、特定の共重合体(A)、特定のグラフト共重合体(B)、(C)から選ばれる重合体が、イオン基を含有する。ここで、イオン基を含有することが重要である。芳香環に置換されたイオン基は比較的に脱離しやすく、燃焼時に架橋点となり、チャー形成に寄与する。またイオン基の種類により脱離したイオン由来の酸がチャー形成を促進する。本発明におけるイオン基は、このような作用を発現するものであり、特に制限されない。具体的には、スルフォン酸及び/またはその塩、アクリル酸単位、メタクリル酸単位等のカルボキシル基及び/またはその塩、−PO(OH)2 基及び/またはその塩、−CH2 PO(OH)2 基及び/またはその塩、−NO2 、水酸基及びその塩、クロロメチル化アミン基及び/またはその塩、そしてアクリルアミド類単位、メタクリルアミド類単位、ビニルアルコール単位もイオン基に含まれる。
【0011】
本発明において、イオン基が上記作用を発現するためには、難燃剤のベースの重合体の全単位に対して、イオン基が1〜300モル%含有することが好ましく、更に好ましくは20〜200モル%、最も好ましくは50〜150モル%、極めて好ましくは70〜100モル%である。本発明の難燃剤は、共重合体(A)、特定のグラフト共重合体(B)、(C)から選ばれる重合体を酸及び/またはアルカリ処理することにより、イオン基を導入する方法(方法I)、またはイオン基を含有する単位とその他の構成単位と共重合またはグラフト共重合する方法(方法II)及び必要に応じて、方法IIで得られた重合体にイオン基を導入する方法(方法III)により製造することができる。
【0012】
本発明の難燃剤の第一番目の製造方法(方法I)において、特定の重合体を酸及び/またはアルカリ処理することにより、芳香族ビニル単位には、スルフォン酸基等の酸性のイオン基が導入され、不飽和ニトリル等の、芳香族ビニル単位と共重合可能な単位は、アミド基やカルボキシル基もしくはその塩に転換され、共役ジエン等のゴム状重合体には、水酸基もしくはその塩やスルフォン酸基等の酸性イオン基が導入される。このためにABS樹脂、HIPS樹脂のようなグラフト共重合体(B)、(C)は、芳香族ビニル単位にスルフォン酸基等の酸性のイオン基が導入されることに加えて、共役ジエン等のゴム状重合体にも、水酸基もしくはその塩やスルフォン酸基等の酸性イオン基が導入されるためにチャー形成性が極めて高い。その結果、重合体への難燃剤の添加量を削減しても難燃性を保持することが可能となる。
【0013】
ここで、アルカリ処理に用いられるアルカリとしては、無機アルカリが好ましい。無機アルカリとしては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩の化合物及びその水溶液が挙げられる。またイオン架橋構造形成のためには、上記アルカリ処理において、Cu、Ag、Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Hg、Al、Fe、Co、Ni等のIB、IIA、IIB、IIIB、VIII族の第四周期の金属イオンを含む多価金属塩を用いることが好ましい。
【0014】
上述したアルカリと特定の重合体とを反応させることにより、不飽和ニトリルと共役ジエン部は、加水分解を受けることになり、それぞれアミド基や水酸基が導入される。更に、アルカリを加えることにより、アミド基はカルボキシル基やその塩、または水酸基は水酸塩に置換される。酸処理に用いられる酸としては、無機酸が好ましい。無機酸としては、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルフォン酸、硝酸、発煙硝酸、燐酸、塩化燐、酸化燐等が挙げられる。これらの中では、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルフォン酸が好ましく、特に70重量%以上の濃硫酸が好ましい。
【0015】
上述した無機酸と特定の重合体とを反応させることにより、不飽和ニトリルは加水分解を受け、アミド基やカルボキシル基に改質され、芳香族ビニル及び共役ジエンには、スルフォン酸基や−PO(OH)2 基、−CH2 PO(OH)2 基、−NO2 基等のイオン基が導入される。なお、上述した酸処理において、スルフォン化剤を用いる場合、ルイス酸基を併用しても良い。上記製造方法は、特開平10ー101731、特開平10ー249194号公報に詳細に開示されている。
【0016】
本発明の難燃剤の第一番目の製造方法(I)において用いられる重合体は、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位と共重合可能な単位(2)からなる共重合体(A)、ゴム状重合体(3)とそれにグラフトされた芳香族ビニル単位(1)とからなるグラフト重合体(B)、及びゴム状重合体(3)とそれにグラフトされた芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位と共重合可能な単位(2)とからなるグラフト重合体(C)から選ばれる重合体であり、熱可塑性重合体及び/または熱硬化性重合体である。上記芳香族ビニル単位(1)は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等であり、スチレンが最も好ましいが、スチレンを主体に上記他の芳香族ビニル単位を併用してもよい。
【0017】
また前記芳香族ビニル単位と共重合可能な単位(2)は、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単位、炭素数が1〜8のアルキル基からなるアクリル酸エステル、そして、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等の単位、更に、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、P−キノンジオキシム、P,P’−ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2−ポリブタジエン等の多官能単量体単位であるが、中でも不飽和ニトリル単位が最も好ましい。
【0018】
そして、ゴム状重合体(3)は、ガラス転移温度(Tg)が−30℃以下であることが好ましく、−30℃を越えると耐衝撃性が低下する傾向にある。このようなゴム状重合体の例としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)等のジエン系ゴム及び上記ジエンゴムを水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム及びエチレン−プロピレ共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー三元共重合体ゴム(EPDM)、エチレンーオクテン共重合体ゴム等の架橋ゴムまたは非架橋ゴム、並びに上記ゴム成分を含有する熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0019】
本発明の難燃剤の第一番目の製造方法において用いられる重合体の中のグラフト共重合体(B)、(C)は、芳香族ビニル系重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなる重合体をいい、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル単位及び必要に応じ、これと共重合可能なビニル単位を加えて単位混合物を公知の塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の重合方法により得られる。このようなグラフト共重合体の例としては、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0020】
グラフト共重合体におけるゴム状重合体は、好ましくは5〜80重量%、特に好ましくは10〜50重量%、グラフト重合可能な単位混合物は、好ましくは95〜20重量%、更に好ましくは90〜50重量%の範囲にある。そして、グラフト共重合体中のゴム粒子径は、0.1〜5.0μmが好ましく、特に0.2〜3.0μmが好適である。
【0021】
グラフト共重合体の分子量の尺度であるマトリックス部分の還元粘度ηsp/c(0.5g/dl、30℃測定:マトリックス樹脂がポリスチレンの場合はトルエン溶液、マトリックス樹脂が不飽和ニトリル−芳香族ビニル共重合体の場合はメチルエチルケトン)は、0.30〜0.80dl/gの範囲にあることが好ましく、0.40〜0.60dl/gの範囲にあることがより好ましい。上記還元粘度ηsp/cに関する上記要件を満たすための手段としては、重合開始剤量、重合温度、連鎖移動剤量の調整等を挙げることができる。
【0022】
本発明の難燃剤の第一番目の製造方法(I)において用いられる重合体は、新たに製造されたバージン材であってもよいし、樹脂原料や成形品の生産過程での排出品(半端品)、電化製品や自動車等に使用された筐体等の各種部品材料、チューブやホース等の各種緩衝材等の、ある特定の用途を目的として成形された使用済みの樹脂である廃材であってもよい。排出場所としては、工場、販売店、過程等のいずれであっても良いが、過程からの一般廃棄物より工場や販売店等から回収されたものの方が、比較的組成が揃った物が多いためにより好ましい。
【0023】
また、この重合体は、他の重合体とのアロイであっても良く、染顔料や安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、硫酸塩等の酸塩基、その他補助剤等の添加剤を含んでいる廃材であってもよい。または、廃材とバージン材との混合物であってもよい。本発明の難燃剤の第二番目の製造方法(II)は、スルフォン酸基等の酸性のイオン基を含有した芳香族ビニル単位、アミド基やカルボキシル基もしくはその塩を含有するビニル系単位、水酸基もしくはその塩やスルフォン酸基等の酸性イオン基を含有した共役ジエン等のゴム状重合体と、共重合可能な単位とを共重合もしくはグラフト重合する方法である。
【0024】
本発明の難燃剤の製造方法(II)の具体例として、不飽和ニトリル単位、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルアルコール、スルフォン酸金属塩含有スチレンから選ばれる単位を公知のラジカル重合法により重合する方法である。その際にゴム状重合体として共役ジエン系ゴムの存在下に上記単位をグラフト重合することができる。本発明の難燃剤を重合体に配合することにより、卓越した難燃性が発現する。本発明の難燃剤を配合することが可能な重合体は、ゴム状重合体、熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂等であるが、特にその中でも熱可塑性樹脂が好ましい。上記重合体の一つのゴム状重合体は、本発明の難燃剤の第一番目の製造方法(I)において用いられる重合体の中で用いられるゴム状重合体で例示される。
【0025】
本発明の難燃剤を配合することが可能な重合体の中でも最も好ましい熱可塑性樹脂は、本発明の難燃剤と相溶もしくは均一分散し得るものであればとくに制限はない。たとえば、ポリスチレン系、ポリフェニレンエーテル系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリカーボネート系、ポリメタクリレート系等の単独もしくは二種以上を混合したものを使用することができる。特に熱可塑性重合体としてポリフェニレンエーテル系、ポリスチレン系、ポリカーボネート系の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0026】
本発明の難燃剤を配合することが可能な熱可塑性樹脂の一つの芳香族ポリカーボネートは、芳香族ホモポリカーボネートと芳香族コポリカーボネートより選ぶことができる。製造方法としては、2官能フェノール系化合物に苛性アルカリ及び溶剤の存在下でホスゲンを吹き込むホスゲン法、あるいは、例えば、二官能フェノール系化合物と炭酸ジエチルとを触媒の存在下でエステル交換させるエステル交換法を挙げることができる。該芳香族ポリカーボネートは粘度平均分子量が1万〜10万の範囲が好適である。ここで、上記2官能フェノール系化合物は、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジプロピルフェニル)プロパン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等であり、特に2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕が好ましい。本発明において、2官能フェノール系化合物は、単独で用いてもよいし、あるいはそれらを併用してもよい。
【0027】
本発明の難燃剤を配合可能な熱可塑性樹脂の一つのスチレン系樹脂は、ゴム変性スチレン系樹脂及び/またはゴム非変性スチレン系樹脂であり、特にゴム変性スチレン系樹脂単独またはゴム変性スチレン系樹脂とゴム非変性スチレン系樹脂からなることが好ましく、本発明の難燃剤と相溶もしくは均一分散し得るものであれば特に制限はない。また、ゴム変性スチレン系重合体は、ビニル芳香族系重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなる重合体をいい、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル単位及び必要に応じ、これと共重合可能なビニル単位を加えて単位混合物を公知の塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の重合方法により得られる。
【0028】
このような重合体の例としては、本発明の難燃剤の第一番目の製造方法(I)において用いられる重合体の中で用いられるグラフト重合体等である。本発明の難燃剤を配合することが可能な熱可塑性樹脂のもう一つのポリフェニレンエーテルは、次式(1)で示される結合単位からなる単独重合体及び/又は共重合体である。
【0029】
【化1】

但し、R1 、R2 、R3 、R4 は、それぞれ水素、炭化水素、または置換炭化水素基からなる群から選択されるものであり、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
このポリフェニレンエ−テルの具体的な例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体等が好ましく、中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。かかるポリフェニレンエ−テルの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3,306,874号明細書記載の方法による第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6キシレノールを酸化重合することにより容易に製造でき、そのほかにも米国特許第3,306,875号明細書、米国特許第3,257,357号明細書、米国特許3,257,358号明細書、及び特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報に記載された方法で容易に製造できる。本発明にて用いる上記ポリフェニレンエ−テルの還元粘度ηsp/c(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.20〜0.70dl/gの範囲にあることが好ましく、0.30〜0.60dl/gの範囲にあることがより好ましい。ポリフェニレンエ−テルの還元粘度ηsp/cに関する上記要件を満たすための手段としては、前記ポリフェニレンエ−テルの製造の際の触媒量の調整などを挙げることができる。
【0031】
本発明において、更に一層高度な難燃性が要求される場合には、必要に応じて、その他の難燃剤として、ハロゲン系、リン系または無機系難燃剤、トリアジン骨格含有化合物、シリコ−ン系難燃剤、有機シリケート、金属塩系、シリカ、アラミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維、フッ素系樹脂、ノボラック樹脂から選ばれる一種以上を配合することができる。
【0032】
前記ハロゲン系難燃剤は、ハロゲン化ビスフェノ−ル、芳香族ハロゲン化合物、ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン化芳香族ビニル系重合体、ハロゲン化シアヌレート樹脂、ハロゲン化ポリフェニレンエーテル等が挙げられ、好ましくはデカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロムビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールAのオリゴマー、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカ−ボネ−ト、ブロム化ポリスチレン、ブロム化架橋ポリスチレン、ブロム化ポリフェニレンオキサイド、ポリジブロムフェニレンオキサイド、デカブロムジフェニルオキサイドビスフェノール縮合物、含ハロゲンリン酸エステル及びフッ素系樹脂等である。前記必要に応じて配合可能な難燃剤としてのリン系難燃剤は、有機リン化合物、赤リン、無機系リン酸塩等である。
【0033】
上記有機リン化合物の例としては、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ビホスフィン、ホスホニウム塩、ホスフィン酸塩、リン酸エステル、亜リン酸エステル等である。より具体的には、トリフェニルフォスフェート、メチルネオペンチルフォスファイト、ヘンタエリスリトールジエチルジフォスファイト、メチルネオペンチルフォスフォネート、フェニルネオペンチルフォスフェート、ペンタエリスリトールジフェニルジフォスフェート、ジシクロペンチルハイポジフォスフェート、ジネオペンチルハイポフォスファイト、フェニルピロカテコールフォスファイト、エチルピロカテコールフォスフェート、ジピロカテコールハイポジフォスフェートである。ここで、特に有機リン化合物として、次式(2)の芳香族系リン酸エステル単位、次式(3)の芳香族系リン酸エステル縮合体が好ましい。
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

(但し、Ar1 、Ar2 、Ar3 、Ar4 、Ar5 、Ar6 、Ar7 、Ar8はそれぞれ独立に無置換または炭素数1〜10の炭化水素基で少なくとも一つ置換されたフェニル基から選ばれる芳香族基である。Ar6 は炭素数6〜20の二価の芳香族基である。mは1以上の整数を表わす。)
前記リン系難燃剤の一つの赤リンは、一般の赤リンの他に、その表面をあらかじめ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンよりえらばれる金属水酸化物の被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンより選ばれる金属水酸化物及び熱硬化性樹脂よりなる被膜で被覆処理されたもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンより選ばれる金属水酸化物の被膜の上に熱硬化性樹脂の被膜で二重に被覆処理されたものなどである。前記リン系難燃剤の一つの無機系リン酸塩は、ポリリン酸アンモニウムが代表的である。
【0036】
そして、前記必要に応じて配合可能な難燃剤としての無機系難燃剤は、イオン基導入に際して用いられる酸及び/またはアルカリ処理の結果生成する硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズの水和物等の無機金属化合物の水和物、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等の金属酸化物、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、ニッケル、銅、タングステン、スズ、アンチモン等の金属粉、そしてホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等が挙げられる。これらは、1種でも2種以上を併用してもよい。この中で特に、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトからなる群から選ばれたものが難燃効果が良く、経済的にも有利である。無機系難燃剤の中でも、燃焼初期に溶融または軟化し、燃焼中期の激しい熱分解時に増粘、固化あるいは架橋による硬化反応が促進されするガラス類が好ましく、例えば、水和ガラスSiO2-MgO-H2O,PbO-B2O3 系、ZnO-P2O5-MgO系、P2O5-B2O3-PbO-MgO 系、P-Sn-O-F系、PbO-V2O5-TeO2 系、Al2O3 ・H2O 系、ハロゲン化錫系、ホウ珪酸鉛系等のガラス状化合物である。
【0037】
必要に応じて配合可能な難燃剤としてのトリアジン骨格含有化合物は、リン系難燃剤の難燃助剤として一層の難燃性を向上させるための成分である。その具体例としては、メラミン、メラム、メレム、メロン(600℃以上でメレム3分子から3分子の脱アンモニアによる生成物)、メラミンシアヌレ−ト、リン酸メラミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、メチルグルタログアナミン、メラミン樹脂、BTレジン等を挙げることができるが、低揮発性の観点から特にメラミンシアヌレ−トが好ましい。
【0038】
必要に応じて配合可能な難燃剤としてのシリコーン系難燃剤は、直鎖状のポリジオルガノシロキサンであるシリコーンオイルまたはSiO2 、RSiO3/2 、R2 SiO、R3 SiO1/2 の構造単位を組み合わせてできる三次元網状構造を有するシリコ−ン樹脂である。ここで、Rはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、あるいは、フェニル基、ベンジル基等の芳香族基、または上記置換基にビニル基を含有した置換基を示す。ここで、特にビニル基を含有したシリコ−ン樹脂が好ましい。 このようなシリコ−ン樹脂は、上記の構造単位に対応するオルガノハロシランを共加水分解して重合することにより得られる。
【0039】
必要に応じて配合可能な難燃剤としての有機シリケートは、例えばオルソケイ酸エステル及び、その加水分解縮合物、またはオルガノアルコキシポリシロキサン、オルガノアリーロキシポリシロキサン等の有機シリケート、または例えば、主鎖(Si−O)に対して、側鎖Si−O−Rを必須成分として、必要に応じてSi−R’(R、R’は炭化水素基)を有するポリシロキサンにおいて、Si−O−Si等で表される分岐または架橋構造を含む有機シリケート等である。
【0040】
必要に応じて配合可能な難燃剤としての金属塩系難燃剤は、例えば、トリクロロベンゼンスルフォン酸カリウム、パーフルオロブタンスルフォン酸カリウム、ジフェニルスルフォンー3ースルフォン酸カリウム等の有機スルフォン酸金属塩、芳香族スルフォンイミド金属塩、あるいはスチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル等の芳香族基含有重合体の芳香環に、スルフォン酸金属塩、硫酸金属塩、リン酸金属塩、ホウ酸金属塩が結合した、ポリスチレンスルフォン酸アルカリ金属塩等の金属塩系難燃剤である。このような金属塩系難燃剤は、特に重合体としてポリカーボネートの場合には、燃焼時に脱炭酸反応を促進して難燃性を向上させる。
【0041】
必要に応じて配合可能な難燃剤としてのシリカは、無定形の二酸化ケイ素であり、特にシリカ表面に炭化水素系化合物系のシランカップリング剤で処理した炭化水素系化合物被覆シリカが好ましく、更にはビニル基を含有した炭化水素系化合物被覆シリカが好ましい。必要に応じて配合可能な難燃剤としてのアラミド繊維は、平均直径が1〜500μmで平均繊維長が0.1〜10mmであることが好ましく、イソフタルアミド、またはポリパラフェニレンテレフタルアミドをアミド系極性溶媒または硫酸に溶解し、湿式または乾式法で溶液紡糸することにより製造することができる。
【0042】
必要に応じて配合可能な難燃剤としてのポリアクリロニトリル繊維は、平均直径が1〜500μmで平均繊維長が0.1〜10mmであることが好ましく、ジメチルホルムアミド等の溶媒に重合体を溶解し、400℃の空気流中に乾式紡糸する乾式紡糸、または硝酸等の溶媒に重合体を溶解し水中に湿式紡糸する湿式紡糸法により製造される。
【0043】
必要に応じて配合可能な難燃剤としてのフッ素系樹脂は、樹脂中にフッ素原子を含有する樹脂である。その具体例として、ポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を挙げることができる。また、必要に応じて上記含フッ素モノマ−と共重合可能なモノマ−とを併用してもよい。
【0044】
必要に応じて配合可能な難燃剤としてのノボラック樹脂は、フェノ−ル類とアルデヒド類を硫酸または塩酸のような酸触媒の存在下で縮合して得られ、その製造方法は、「高分子実験学5『重縮合と重付加』p.437〜455(共立出版(株))」に記載されている。本発明において、必要に応じて配合可能な難燃剤の添加量は,重合体100重量部に対して、0.001〜100重量部が好ましく、更に好ましくは1〜50重量部、最も好ましくは、3〜20重量部、極めて好ましくは、5〜15重量部である。
【0045】
本発明において、必要に応じて、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪族アルコ−ル、金属石鹸、オルガノシロキサン系ワックス、ポリオレフィンワックス、ポリカプロラクトンから選ばれる一種または二種以上の離型剤または流動性向上剤としての加工助剤を配合することができる。上記加工助剤の量は、重合体100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、更に好ましくは、0.5〜10重量部、最も好ましくは、1〜5重量部である。
【0046】
本発明において、耐光性が要求される場合には、必要に応じて、紫外線吸収剤、ヒンダ−ドアミン系光安定剤、酸化防止剤、活性種捕捉剤、遮光剤、金属不活性剤、または消光剤から選ばれる一種または二種以上の耐光性改良剤を配合することができる。上記耐光性改良剤の量は、重合体100重量部に対して、好ましくは0.05〜20重量部、更に好ましくは、0.1〜10重量部、最も好ましくは、1〜5重量部である。
【0047】
本発明の難燃剤を含有する重合体組成物の製造方法としては、例えば重合体と難燃剤を混合し押出機で溶融混練する方法、重合体をまず溶融し、次いで、本発明の難燃剤を添加し、同一押出機で溶融混練する方法、または重合体、または必要に応じて本発明の難燃剤を配合したマスタ−バッチを製造した後、上記マスタ−バッチと、残りの重合体または残りの本発明の難燃剤もしくは他の難燃剤を混練する方法等がある。
【0048】
本発明の難燃剤を用いて得られる難燃性重合体組成物は、上記各成分を市販の単軸押出機あるいは、二軸押出機などで例えば溶融混練することにより得られるが、その際熱安定剤、滑剤、充填剤、ガラス繊維等の補強剤、染料や顔料等の着色剤、硫酸塩等の酸塩基等が含有されたり、必要に応じて添加することができる。このようにして得られた組成物を例えば、射出成形機または押出成形機を用いて長期間連続成形することが可能であり、そして得られた成形品は難燃性、耐熱性及び耐衝撃性が優れている。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。尚、実施例、比較例における難燃性の測定は、以下の方法もしくは測定機を用いて行なった。
(1)難燃性UL−94に準拠したVB(Vertical Burning)法により、自己消火性の評価を行った。(1/8インチ厚み試験片)
【0050】
実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いた。
(1)ゴム変性ポリスチレン(HIPS)
旭化成工業(株)製〔ポリブタジエン/ポリスチレン(10/90:重量比)商品名 スタイロン(HIPSと称する)〕
(2)ABS樹脂(ABS)
旭化成工業(株)製〔アクリロニトリル/ポリブタジエン/スチレン(24/20/56:重量比)商品名 スタイラックABS(ABSと称する)〕
(3)AS樹脂(AS)
旭化成工業(株)製〔アクリロニトリル/スチレン(25/75:重量比)商品名 スタイラックAS(ASと称する)〕
【0051】
(4)変性HIPS
(I)ポリスチレン単位、ポリブタジエン単位合計に対するスルフォン化率が35モル%以上の変性HIPSの製造法
100重量部の前記HIPSを、900重量部の1, 2ージクロロエタンに溶解させ、50℃に保ち、128重量部の60%発煙硫酸を30分かけて滴下し、さらに30分間、同温度でスルフォン化反応を行った。尚、反応の進行と共に、反応液中にスラリー状の生成物が生じたが、反応終了時までゲル化物が反応容器の壁面に付着することがなかった。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を反応系中に徐々に加えて中和を行った。その後、加熱により反応系中の1, 2ージクロロエタンを留去し、残留物の水溶液を水酸化ナトリウムで最終的にpH8に調整した。そして、このようにして得られた水溶液から水を除去し変性HIPS(以下、変性HIPSー1と称する)を得た。この変性HIPSー1については赤外吸収スペクトルによりスチレンとブタジエン部分の両方にスルフォン酸ナトリウムが確認された。また硫黄の元素分析及びH−NMR分析により、スルフォン化率が100モル%であった。また反応時間、発煙硫酸の添加量によりスルフォン化率を35モル%〜300モル%(例えば、表5の実施例48〜51の50,70,90,110モル%)まで制御した。
【0052】
(II)ポリスチレン単位、ポリブタジエン単位合計に対するスルフォン化率が35モル%未満の変性HIPSの製造法
100重量部の前記HIPSを、900重量部の1, 2ージクロロエタンに溶解させ、60℃に保ち、濃硫酸(97重量%)5重量部と無水酢酸6重量部を含有した1, 2ージクロロエタン溶液96重量部を30分かけて滴下し、さらに5時間、同温度でスルフォン化反応を行った。反応終了後、同反応混合物を熱水中に注ぎ入れ、溶媒の留去および生成物の洗浄と再沈殿を行い乾燥した。得られた沈殿物のスルフォン化率は、硫黄の元素分析及びH−NMR分析により4モル%(表5の実施例46)であった。次いで、上記スルフォン化物をテトラヒドロフランに溶解し、ここに水に溶解した水酸化ナトリウムをスルフォン基に対して等モル量添加する。その後、反応液をn−ヘプタンに注いで再沈殿を行い乾燥した。また濃硫酸と無水酢酸の仕込量により、35モル%以下(例えば、表5の実施例47の20モル%)のスルフォン化率を制御した。
【0053】
(5)変性ABS
100重量部の前記ABSを、96重量%の濃硫酸3000重量部中に加え、80℃で5分間反応させた。反応終了後、反応系中の固形物を濾過し、水洗後、水酸化ナトリウム水溶液にて中和を行った。中和後、更に水洗を行いグラスフィルターで濾過後、乾燥して変性ABS(以下変性ABSー1と称する)を得た。この変性ABSー1については赤外吸収スペクトルによりスルフォン酸塩、カルボン酸基、アミド基が確認された。スルフォン化率は、硫黄の元素分析及びH−NMR分析により35モル%であった。
【0054】
(6)変性AS
変性ABSの製造において、ABSを前記ASに変更する以外同様の実験を繰り返し変性AS(以下、変性ASー1と称する)を得た。この変性ASー1については赤外吸収スペクトルによりスルフォン酸塩、カルボン酸基、アミド基が確認された。スルフォン化率は、硫黄の元素分析及びH−NMR分析により35モル%であった。
【0055】
(7)HIPSベースのテレビキャビネット廃材のスルフォン化
1, 2ージクロロエタン875重量部とトリフェニルフォスフェート30重量部を反応器に添加して20〜25℃に維持し、更に発煙硫酸(SO3分:60重量%)を117重量部と、テレビキャビネット廃材100重量部を1,2ージクロロエタン875重量部に溶解したものを30分かけて滴下した。この時の反応温度は20〜25℃となるように維持した。滴下終了後、同一温度で1.5時間熟成を行い、水酸化ナトリウム68重量部を溶解した10重量%の水溶液を添加して中和を行った。この後、有機層を取り除き、反応液(水相)は加熱により残留溶媒分を留去した。得られた水溶液は、pHが8となるように水酸化ナトリウム水溶液で更に調整を行った後に、乾燥し粉末状のスルフォン酸ナトリウム塩(以下、廃材ー1と称する)を得た。この廃材―1のスルフォン化率は、硫黄の元素分析及びH−NMR分析により89モル%であった。
【0056】
(8)HIPSベースのVHSカセットシェル廃材のスルフォン化
シクロヘキサン1900重量部とトリフェニルフォスフェート35重量部を反応器に添加して50〜55℃に維持し、更に発煙硫酸(SO3分:60重量%)を135重量部と、VHSカセット廃材100重量部をシクロヘキサン5000重量部に溶解したものを30分かけて滴下した。この時の反応温度は50〜55℃となるように維持した。滴下終了後、同一温度で1. 5時間熟成を行い、水酸化ナトリウム80重量部を溶解した10重量%の水溶液を添加して中和を行った。この後、溶媒を蒸留により取り除き、得られた水溶液は、pHが8となるように水酸化ナトリウム水溶液で更に調整を行った後に、乾燥し粉末状のスルフォン酸ナトリウム塩(以下、廃材ー2と称する)を得た。この廃材ー2のスルフォン化率は、硫黄の元素分析及びH−NMR分析により72モル%であった。
【0057】
(9)イオン交換樹脂廃材
半導体製造工場で純粋製造用に使用された、イオン交換樹脂廃材のアンバーライトIR124(総交換容量:4. 4mg当量/g(乾燥時)−SO3Na型)(以下、廃材−3と称する)を、スルフォン化変性架橋スチレン系難燃剤として使用した。
(10)芳香族ポリカーボネート(PC) 1
住友ダウ(株)製 〔ビスフェノールA型 商品名 カリバー13(以下、PCと称する)〕
(11)ポリプロピレン(PP)
日本ポリオレフィン(株)製 ホモポリプロピレン(以下、PPと称する)
【0058】
(12)ポリフェニレンエーテル(PPE)
旭化成工業(株)製ポリフェニレンパウダー、商品名 ザイロン(以下、PPEと称する)〕
(13)リン系難燃剤:トリフェニルホスフェート(TPP)
大八化学工業(株)製、商品名TPP(以下、TPPと称する)
(14)リン系難燃剤:ポリリン酸アンモニウム(APP)
チッソ(株)製、商品名テラージュ(以下、APPと称する)
(15)窒素系難燃剤:メラミンシアヌレート(MC)
日産化学工業(株)製、商品名MC(以下、MCと称する)
(16)珪素系難燃剤:ポリメチルフェニルシロキサン(SI)
信越化学工業(株)製 (以下、SIと称する)
(17)臭素系難燃剤:デカブロモジフェニルオキサイド(BR)
アルベマール(米国)社製 (以下、BRと称する)
【0059】
(18)水酸化マグネシウム(MgOH)
協和化学工業製、Mg(OH) 商品名 キスマ (以下、MgOHと称する)
(19)三酸化アンチモン(SbO)
日本精鉱(株)製、Sb(以下、SbOと称する)
(20)ポリアクリロニトリル繊維(PAN)
旭化成工業製、(以下、PANと称する)
(21)酸化チタン(TiO2)
白色顔料として、市販の酸化チタンを用いた。(以下、TiO2と称する)
【0060】
(実施例 1〜54,比較例 1〜3) 表1〜5記載の量比で機械的に混合し、東洋精機製作所製ラボプラストミルを用いて、溶融温度230℃、回転数50rpmで5分間溶融した。このようにして得られた樹脂組成物から圧縮成形法により1/8インチ厚の試験片を作製し、難燃性の評価を行なった。表1〜5にその結果を記載した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に添加して、当該熱可塑性樹脂の難燃性を高める難燃剤の製造方法であって、
芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)からなる共重合体(A)と、ゴム状重合体(3)と芳香族ビニル単位(1)とのグラフト重合体(B)、及びゴム状重合体(3)と、芳香族ビニル単位(1)及び芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)とのグラフト重合体(C)から選ばれる原料重合体に、
無機酸を接触させるスルフォン化工程と、前記スルフォン化工程後の前記原料重合体に無機アルカリを接触させ、前記原料重合体にスルフォン酸塩の基を導入する中和工程と、
を有する難燃剤の製造方法。
【請求項2】
前記無機酸として、濃硫酸と、無水硫酸と、発煙硫酸と、クロロスルフォン酸とからなる群より選択されるいずれか1種以上の無機酸を用い、
前記無機アルカリとして、アルカリ金属の酸化物と、アルカリ金属の水酸化物と、アルカリ金属の炭酸塩と、アルカリ金属の炭酸水素塩と、アルカリ金属の酢酸塩と、アルカリ金属の硫酸塩と、アルカリ土類金属の酸化物と、アルカリ土類金属の水酸化物と、アルカリ土類金属の炭酸塩と、アルカリ土類金属の炭酸水素塩と、アルカリ土類金属の酢酸塩と、アルカリ土類金属の硫酸塩とからなる群より選択されるいずれか1種以上の無機アルカリを用いる請求項1記載の難燃剤の製造方法。
【請求項3】
前記スルフォン化工程は、スルフォン酸塩の基が、該重合体の全単位に対して、50〜300モル%になるよう、反応時間及び/又は無機酸の添加量を制御する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の難燃剤の製造方法。
【請求項4】
前記原料重合体として、
前記共重合体(A)、前記グラフト重合体(C)中の芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)が、不飽和ニトリル単位、アクリルアミド類単位、メタクリルアミド類単位、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、ビニルアルコール単位、多官能単量体単位から選ばれる単位であり、ゴム状重合体(3)が共役ジエン単位であるものを用いる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の難燃剤の製造方法。
【請求項5】
前記原料重合体として、
前記共重合体(A)において、芳香族ビニル単位(1)が10〜90重量%、芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)が10〜90重量%であり、前記グラフト重合体(B)において、芳香族ビニル単位(1)が50〜95重量%、ゴム状重合体(3)が5〜50重量%であり、前記グラフト重合体(C)において、芳香族ビニル単位(1)が45〜85重量%、芳香族ビニル単位(1)以外の共重合可能な単位(2)が10〜50重量%、ゴム状重合体(3)が5〜50重量%であるものを用いる請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の難燃剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の製造方法により製造された難燃剤を、熱可塑性樹脂と混合する難燃性重合体組成物の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂として芳香族ポリカーボネイト樹脂を用いる請求項6記載の難燃性重合体組成物の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂と前記難燃剤とを混練する請求項6又は請求項7のいずれか1項記載の難燃性重合体組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−90390(P2010−90390A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284118(P2009−284118)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【分割の表示】特願平11−174307の分割
【原出願日】平成11年6月21日(1999.6.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】