説明

難燃性に優れたスエード調人工皮革およびその製造方法

【課題】難燃性、耐光性及び耐摩耗性に優れ、更に際付き発生がなく、非ハロゲン系難燃剤で処理された難燃性スエード調人工皮革、及びその製造方法の提供。
【解決手段】表面に起毛または立毛を有しポリウレタン樹脂が含浸された織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを含んだ組成物からなる難燃加工剤が付与された難燃性に優れたスエード調人工皮革。および表面に起毛または立毛を有しポリウレタン樹脂が含浸された織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを含んだ組成物からなる難燃加工剤を付与する難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れたスエード調人工皮革とその製造方法に関する。
【0002】
さらに詳しくは、表面に起毛または立毛がされた熱可塑性合成繊維布帛にポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布をベースとしてなる人工皮革であり、ハロゲン系の難燃薬剤を使用することなく、良好な難燃性を有するとともに、際付き(きわつき)がなく、柔らかく、風合いにも優れた難燃性に優れたスエード調人工皮革とその製造方法に関するものである。
【0003】
ここで、際付きとは、難燃性組成物を付与されたスエード調人工皮革において、表側から雨等の水滴・水分が付着して、後に乾燥したときに、その濡れていた部分が白い斑点状や染み状になる現象を言う。
【背景技術】
【0004】
従来から、ポリウレタン等の高分子弾性体が含浸された極細熱可塑性合成繊維からなる不織布、織物あるいはや編物の表面をバフィングして熱可塑性合成繊維の立毛を表面に形成させたスエード調立毛人工皮革は、高級衣料素材として広く展開がされてきた。
【0005】
近年は、このようなスエード調立毛人工皮革を、衣料用途だけでなく、資材用途、例えば、高級乗用車のカーシートや内張りなどの車輌内装材用途や、椅子張り、壁材等の家具・インテリア用途、建築材用途に展開することなども行われてきている。
【0006】
これらの非衣料用途分野では、特に、非常に優れた難燃性能を有するものであることが要求されることがある。
【0007】
このため、従来技術レベルでの難燃性を超える難燃性能を実現せんとして、通常の合成繊維製の織編物などにはない、スエード調人工皮革に特有の下記(1) から(4) の問題を克服することを目標に種々の検討が行われてきた。
(1)立毛間部分に空隙があり、構造的に燃えやすいこと。
(2)高分子弾性体と熱可塑性合成繊維の難燃化機構が異なること。
(3)難燃剤が、スエード調立毛人工皮革の表面外観・表面品位ならびに耐光性を低下させること。
(4)難燃加工が染色堅牢度の低下や風合い硬化を誘発すること。
【0008】
上記した(1) から(4) の問題点を解決する方法として、ハロゲン化燐酸エステルを、アクリル酸エステル樹脂とともに立毛面の裏面側に付与するという方法が提案されている(特許文献1)。
【0009】
また、不織布等に含浸させるポリウレタン等の高分子弾性体にあらかじめ難燃剤を含ませておくという方法が提案されている(特許文献2)。
【0010】
また、有機燐成分を共重合させた熱可塑性合成繊維を用いるという方法が提案されている(特許文献3)。
【0011】
しかしながら、ハロゲン化燐酸エステルをアクリル酸エステル樹脂とともに立毛面の裏面側に付与するという特許文献1の方法では、難燃性には優れるものの、ハロゲンに起因した、燃焼時に発生する有毒性ハロゲン化ガスやダイオキシンならびにハロゲン化合物を生体内に蓄積することになる等の問題があった。
【0012】
また、不織布に含浸させるポリウレタンにあらかじめ難燃剤を含ませておくという特許文献2の方法では、経時的にポリウレタン重合度が低下することがあり、ポリウレタン等の高分子弾性体が脆化することがあるために、長時間の使用後、スエード調立毛人工皮革の強度劣化を招き、破れ、モモケ、残留歪み等が生じるだけでなく、染色の耐光堅牢度が低下する等の問題があった。
【0013】
また、有機燐成分を共重合させた熱可塑性合成繊維を用いるという特許文献3の方法では、重合設備投資や品種切り替えに伴う製造コストアップという問題があるだけでなく、共重合繊維に特有の、強力特性が不十分という問題や耐光堅牢度も不十分とならざるを得ないという問題があった。
【0014】
また、自己消火性を有する優れた防炎性を有しかつ風合いが良好で染色堅牢度の低下がなく、しかも、焼却時にダイオキシンなどの有毒ガスが発生し難いスエード調の繊維構造物として、表面に立毛部を有する熱可塑性合成繊維布帛の表面に、アクリル酸エステル樹脂を主成分として、かつ芳香族リン酸エステル化合物および金属系酸化物を含む樹脂組成物が付与されてなるスエード状の繊維構造物についての提案がされている(特許文献4)。
【0015】
また、防炎性と防融性に優れたスエード状繊維構造物として、すなわち、自己消化性を有する優れた防炎性と防融性を有し、かつ風合が良好で染色堅牢度の低下がなく、しかも焼却時にダイオキシンなどの有毒ガスが発生し難いスエード状繊維構造物として、その表面に立毛部を有するスエード状繊維構造物であって、該スエード状繊維構造物にはアクリル酸エステル樹脂および有機フッ素化ポリマー系撥水剤が付着されており、かつ該スエード状繊維構造物の裏面には、芳香族リン酸エステル化合物及び金属系酸化物を含むアクリル酸エステル樹脂組成物が付着されているというスエード状繊維構造物が提案されている(特許文献5)。
【0016】
また、難燃性、耐光性および摩耗耐久性に優れ、かつ非ハロゲンである合成繊維からなる難燃性立毛人工皮革として、単繊維繊度1デシテックス以下の合成繊維を含む織物、編物または不織布、および高分子弾性体を含んでなる布帛の片面に、燐酸グアニジン、ポリ燐酸アンモニウム、ポリ燐酸メラミンおよび燐酸アミドから選ばれる少なくとも1種の燐酸化合物、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、メラミン、ジシアンジアミド、デンプン類、セルロース類およびソルビトールから選ばれる少なくとも1種の化合物およびバインダー樹脂を含む難燃性組成物が付与されている人工皮革が提案されている(特許文献6)。
【0017】
しかし、特許文献4、5の難燃化についての従来技術では、自動車用シートの燃焼性試験方法であるFMVSS、No.302水平燃焼速度の試験に溶融しながら燃焼するため、該試験法をクリアしての適応が困難であった。
【0018】
また、特許文献6のものは、難燃性はクリアできても、際付き性の点でいまだ問題を有するものであった。
【特許文献1】特開昭58−013786号公報
【特許文献2】特開平7−18584号公報
【特許文献3】特開2002−294571号公報
【特許文献4】特開2004−36011号公報
【特許文献5】特開2004−308051号公報
【特許文献6】特開2005−2512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、上述したような従来技術に鑑み、難燃性、耐光性および摩耗耐久性に優れ、また、際付きの発生がなく、かつハロゲン系薬剤を用いていない、所謂、非ハロゲンの難燃剤で処理されている、新規な難燃性スエード調人工皮革とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した目的を達成する本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革は、以下の(1) の構成を有するものである。
(1)表面に起毛または立毛を有するとともにポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを少なくとも含んで構成されてなる難燃加工剤が付与されてなることを特徴とする難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【0021】
また、かかる本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革において、より具体的に好ましくは、以下の(2) 〜(7) の構成からなるものである。
(2)燐酸化合物Aが、ポリ燐酸アンモニウム、ポリ燐酸メラミン、燐酸アミド、ホスファゼン化合物から選ばれた少なくとも一つを含むものであることを特徴とする上記(1) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
(3)ビニル基含有樹脂Cが、酢酸ビニル樹脂エマルション、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、アクリル酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、ビニル酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、分岐脂肪酸ビニル酢酸ビニル共重合樹脂エマルションから選ばれる少なくとも一種を含むものであることを特徴とする上記(1) または(2) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
(4)水不溶性の増粘剤Dが、アルカリ増粘型アクリル樹脂またはエチレンオキサイド高級脂肪酸エーテルであることを特徴とする上記(1) 、(2) または(3) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
(5)難燃加工剤が、水不溶性燐酸エステルBを含むことを特徴とする上記(1) 、(2) 、(3) または(4) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
(6)水不溶性燐酸エステルBが、縮合燐酸エステル、芳香族燐酸エステルから選ばれた少なくとも一種を含むことを特徴とする上記(5) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
(7)難燃加工剤が、さらにアクリル樹脂を含むことを特徴とする上記(1) 、(2) 、(3) 、(4) 、(5) または(6) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【0022】
また、上述した目的を達成する本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法は、以下の(8) の構成を有するものである。
(8)表面に起毛または立毛を有するとともにポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを少なくとも含んで構成されてなる難燃加工剤を付与することを特徴とする難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。
【0023】
また、かかる本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法において、より具体的に好ましくは、以下の(9) 〜(10) の構成からなるものである。
(9)難燃加工剤として、水不溶性燐酸エステルBを含むものを用いることを特徴とする上記(8) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。
(10)難燃加工剤として、さらにアクリル樹脂を含むものを用いることを特徴とする上記(8) または(9) 記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
請求項1〜7にかかる本発明によれば、難燃性、耐光性および摩耗耐久性に優れ、また、際付きの発生がなく、かつハロゲン系薬剤を用いていない、所謂、非ハロゲンの難燃剤で処理されている、難燃性スエード調人工皮革が提供されるものである。
【0025】
また、請求項8〜10にかかる発明によれば、難燃性、耐光性および摩耗耐久性に優れ、また、際付きの発生がなく、かつハロゲン系薬剤を用いていない、所謂、非ハロゲンの難燃剤で処理されている、難燃性スエード調人工皮革の製造方法が提供されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、更に詳しく本発明にかかるスエード調人工皮革とその製造方法について説明をする。
【0027】
本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革は、表面に起毛または立毛を有するとともポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを少なくとも含んで構成されてなる難燃加工剤が付与されてなることを特徴とする。
【0028】
本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革の構成要素である、表面に起毛または立毛を有するとともにポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛は、従来から極細の熱可塑性合成繊維(一般的には、0.0001〜1.1dtexの極細繊維)と、ポリウレタン樹脂とを用いたスエード調の人工皮革として繊維産業界において知られているものである。
【0029】
本発明においては、かかる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に対して、一般には、スエード調人工皮革製品の表側の面と反対側の裏面に対して、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを少なくとも含んで構成されている難燃加工剤を付与してなるものである。
【0030】
該難燃加工剤には、水不溶性の増粘剤Dが含有されているものであり、該難燃加工剤の粘度は、一般に、好ましくは1000〜10000mPa・sの範囲内、より好ましくは3000〜7000mPa・sの範囲内、最も一般的には、5000±1000mPa・s前後に調整されているのがよい。該難燃加工剤の粘度をこのような範囲内に調整することによって、難燃加工剤のスエード調人工皮革シートへの適度な浸透を可能にしつつ、必要以上に、スエード調人工皮革の表側面にまで浸透してしまって風合い、タッチ、表面外観を損なってしまうことを防止することができる。
【0031】
本発明にかかる該難燃加工剤は、増粘効果を有していて粘度の小さいいわゆるシャバシャバのものではないため、該人工皮革の内深層部、さらには反対側表面である製品の表側にまで浸透してしまうことがなく、人工皮革製品の裏面側の表層部付近で止まっており、極細繊維などからなる微妙な人工皮革製品の表側の面のタッチ、風合い、外観を損なうことがないのである。
【0032】
かかる観点から、難燃加工剤の付与量は、30〜150g/m2 の範囲内、好ましくは40〜100g/m2 の範囲内とすることがよい。
【0033】
本発明の人工皮革においての本来の難燃化特性は、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cとからもたらされる。
【0034】
水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aは、炭化・脱水反応により難燃化の作用をなし、一方、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cは、強固な炭化層を形成して燃焼の継続を止める作用をなす。
【0035】
燐酸化合物Aは、ポリ燐酸アンモニウム、ポリ燐酸メラミン、燐酸アミド、ホスファゼン化合物から選ばれた少なくとも一つを含むものであることが、溶解度が1%以下であり、炭化・脱水作用が強い点から好ましい。
【0036】
また、ビニル基含有樹脂Cは、酢酸ビニル樹脂エマルション、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、アクリル酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、ビニル酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、分岐脂肪酸ビニル酢酸ビニル共重合樹脂エマルションから選ばれる少なくとも一種を含むものであることが、これら酢酸ビニル、または酢酸ビニル共重合樹脂と燐化合物を併用することによる炭化物の生成が、難燃化を促進することとなり、特に人工皮革の水平燃焼に対する難燃特性の向上に効果を発揮するものであって好ましい。
【0037】
また、水不溶性増粘剤Dは、アルカリ増粘型アクリル樹脂またはエチレンオキサイド高級脂肪酸エーテルであることが好ましい。なお、該増粘剤Dが水不溶性であるとは、該乾燥剤がいったん乾燥されると、もはや水に溶解しなくなる特質を持つ増粘剤であることをいい、具体的には、乾燥条件100℃×60分で乾燥機で乾燥させた増粘剤のフィルム1gを25℃、100ccの水に入れて、1時間放置して溶解しようとしたときに1%以上溶解しないものであることをいう。
【0038】
増粘剤としては、本発明においては、水溶性糊剤を使用せずに、上述の如くにアルカリ増粘型アクリル樹脂またはポリオキシエチレン高級脂肪酸エステルなどから選ばれる、乾燥すると水に溶解し難い増粘剤を使用するものである。水溶性の糊剤を使用すると際付きが発生し好ましくない。
【0039】
また、本発明において、難燃加工剤は、水不溶性燐酸エステルBを含むものであることが好ましく、水にほとんど溶解しない燐化合物を難燃加工剤中に用いることにより、より良好な際付き性のない難燃性を付与することができる。特に、水不溶性燐酸エステルを使用すると、際付きのない難燃性を補助的に実現できることと、人工皮革製品の全体に柔軟性を付与することができる。
【0040】
また、本発明では、上述した酢酸ビニルまたは酢酸ビニル共重合樹脂の炭化物生成に影響しない程度の他の樹脂、例えば、アクリル樹脂やSBR樹脂やMBR樹脂を使用してもよい。特に、難燃加工剤が、さらにアクリル樹脂を含むようにすれば、風合いの柔軟化と水に対する難燃加工剤の耐水性を向上させる効果が得られる。
【0041】
上述のように、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aを使用することにより、際付き性のない難燃性を付与することができ、さらに、増粘剤などの他の成分としても、水不溶性のものを使用することが好ましい。
【0042】
本発明の難燃性に優れたスエード調人工皮革は、ビニル基含有樹脂と燐化合物を併用することによって炭化物の生成が行われ、これが難燃化を促進し、特に人工皮革の水平燃焼特性において効果をもたらす。
【0043】
特に、従来の防炎剤は、水溶性の防炎剤も多く使用されていたが、本発明によれば、該水溶性防炎剤や水溶性糊剤を使用しないことによる際付きの発生のない難燃性を付与できるものである。すなわち、従来の一般的な防炎剤は水溶性燐酸グアニジンなどであり、また、水不溶性の場合にはハロゲン系のものも多かったが、本発明ではハロゲン系の薬剤は使用しないのである。
【0044】
本発明において、難燃剤には上述した成分の他に、さらに難燃助剤として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、金属酸化物等を使用することもできる。
【0045】
本発明のスエード調人工皮革は、ポリウレタンなどの高分子弾性体を含浸、立毛した極細繊維からなる人工皮革基布に対して、染色処理を施した後、ハロゲン非含有の前述した燐酸化合物A、前述したビニル基含有樹脂と、水不溶性増粘剤Dを含む難燃加工剤を、人工皮革基布の片面、好ましくは裏面側に、反対面側の表面にまで浸透することがないようにして付与することにより得ることができる。
【0046】
スエード調人工皮革としては、単繊維繊度が1デシテックス以下の極細の合成繊維を含む織物、編物または不織布に、ポリウレタンなどの高分子弾性体を含浸させたものが使用されるのがよい。好ましくは0.5デシテックス以下の合成繊維、より好ましくは0.3デシテックス以下の合成繊維を含むものである。
【0047】
織物、編物または不織布を構成する極細合成繊維には、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維に代表されるポリエステル系合成繊維、ナイロン6やナイロン6,6に代表されるポリアミド系合成繊維、ポリプロピレン系などの合成繊維を用いることができる。中でも、染色性、染色堅牢度ならびに耐摩耗性に優れるポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。
【0048】
スエード調人工皮革の製造方法は、特に限定されるものではなく、近年、合成繊維産業界で既に広く行われている方法を用いることができる。
【0049】
例えば、海島型複合紡糸法によりポリスチレンを海成分、ポリエステルを島成分とする複合繊維を紡糸し、該複合繊維を用いて、スパンボンド、メルトブロー、抄紙法、カードとクロスラッパーとを組み合わせた方法等により繊維ウエブを形成し、該繊維ウエブを用いて、ニードルパンチ処理あるいはウオータージェットパンチ処理などの絡合処理を施すことにより、絡合不織布を形成する。次に、複合繊維の海成分を、溶剤抽出または熱分解等の方法で除去する。高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、アクリロニトリル、ブタジエンラバー、天然ゴム、ポリ塩化ビニルなどを使用することができる。また、高分子弾性体の付与方法としては、高分子弾性体を塗布あるいは含浸して乾燥、固着させる方法等を採用することができる。続いて、高分子弾性体を付与した不織布に対して、表面をサンドペーパーなどを用いて起毛処理することにより、スエード調の立毛面を有する人工皮革基布を得ることができる。
【0050】
さらに、該人工皮革に対して染色処理を施すときは、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理ならびに、ローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染、真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、柔軟な風合いが得られること等の品質・品位面から液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に樹脂仕上げ加工を施してもよい。
【0051】
本発明においては、スエード調立毛面の裏面側に難燃加工剤を付与するが、付与方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ロータリースクリーン、ナイフロールコーター、グラビアロールコーター、キッスロールコーター、カレンダコーター等の装置を用いて所望する付与量の難燃加工剤を付与することができる。
【0052】
本発明で得られる難燃性に優れたスエード調人工皮革は、その用途として、衣料用途だけでなく、資材用途や自動車シート、自動車内装材などがある。
【0053】
そして、難燃加工に対する必要物性としては、難燃性の実現はもちろんのこと、前述した際付き発生の防止、良好な風合いの実現、それらの耐光堅牢度を低下させないこと、摩擦堅牢度を低下させないこと、フォギング発生のないこと、ジャングル試験(長期劣化促進試験)をクリアすること、ブロッキングの発生のないこと、外観を損なうものでないこと、フレームラミ性に優れていること、作業性・安全性に問題がないこと等があるが、本発明にかかる難燃性に優れた人工皮革は全ての特性を満足するものである。
【実施例】
【0054】
以下の説明において、各物性評価は以下のとおりとして行った。
(1)燃焼性試験
FMVSS.No.302の自動車内装材燃焼試験規格により、水平燃焼速度を測定した。
(2)際付き性試験方法
ウレタンフォームの上に人工皮革サンプルを置き、表面に水5ccを載せてそのまま放置して風乾させ、表面に輪染み等ができたかを観察した。
(3)耐光堅牢度試験
耐光試験は、JASO M 346−93(自動車内装部品のキセノンアークランプによる促進耐光性試験方法)に従い、使用機器はスガ試験機製SC−700FTを用い、試験片の裏面にはウレタンなどの裏打ちなしで試験した。
【0055】
評価判定は、変退色用グレースケールにて等級判定し3級以上を合格とした。
(4)霞み度(フォギング度)試験
ウインドスクリーンフォギングテスター(スガ試験機製)を用い、80℃で20時間加熱して、容器下部に設置したサンプルからの昇華物が容器上部のガラス板を曇らす度合いを霞み度として、積分球式測定装置を用い光の透過率を測定して表した。
【0056】
評価判定は、ガラス霞み度(透過率)の低下が10%以下を合格とした。
実施例1
目付360g/m2 のポリエステル基布スエード調人工皮革の裏面に、表1の記載の難燃加工剤をロータリースクリーン法で塗布した後、温度110℃で15分間乾燥してスエード調人工皮革を得た。
【0057】
なお、付着量(固形分)は、加工前後の重量変化により算出した。得られた評価結果を表1に示す。
【0058】
難燃性、際付き性試験結果、耐光試験結果、フォギング性試験結果は優れたものであった。
実施例2
表1に示したように、ポリ燐酸メラミンおよび難燃助剤として水酸化アルミニウムを使用した以外は、実施例1で用いた芳香族燐酸エステルを用いない処方についての加工と評価を行った結果を表1に示した。
【0059】
難燃性、耐光堅牢度、フォギング性、際付き性は優れているが、風合いが少し硬めであった。
実施例3
表1に示したように、エチレン酢酸ビニル樹脂とアクリル樹脂を併用した処方について実施例1と同様に加工と評価を行った。
【0060】
得られた結果を表1に示す。難燃性、際付き性試験結果、フォギング性試験結果、耐光試験結果、風合いも優れたものであった。
比較例1
芳香族燐酸エステルとアクリル樹脂、三酸化アンチモンの配合品を用いて実施例1と同様に加工を行った。
【0061】
得られたスエード調人工皮革の評価結果を表1に示すが、難燃性は満足できる結果ではなかった。
比較例2
表1に示したように、増粘剤として水溶性糊剤を使用した以外は、実施例1と同じ処方の難燃加工剤を実施例1と同様に加工した。
【0062】
得られた評価結果を表1に示す。難燃性や耐光堅牢度、フォギングは満足のいくものであったが、際付き試験において不良であった。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に起毛または立毛を有するとともにポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを少なくとも含んで構成されてなる難燃加工剤が付与されてなることを特徴とする難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項2】
燐酸化合物Aが、ポリ燐酸アンモニウム、ポリ燐酸メラミン、燐酸アミド、ホスファゼン化合物から選ばれた少なくとも一つを含むものであることを特徴とする請求項1記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項3】
ビニル基含有樹脂Cが、酢酸ビニル樹脂エマルション、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、アクリル酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、ビニル酢酸ビニル共重合樹脂エマルション、分岐脂肪酸ビニル酢酸ビニル共重合樹脂エマルションから選ばれる少なくとも一種を含むものであることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項4】
水不溶性増粘剤Dが、アルカリ増粘型アクリル樹脂またはエチレンオキサイド高級脂肪酸エーテルであることを特徴とする請求項1、2または3記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項5】
難燃加工剤が、水不溶性燐酸エステルBを含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項6】
水不溶性燐酸エステルBが、縮合燐酸エステル、芳香族燐酸エステルから選ばれた少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項5記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項7】
難燃加工剤が、さらにアクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革。
【請求項8】
表面に起毛または立毛を有するとともにポリウレタン樹脂が含浸されてなる織物、編物または不織布からなる熱可塑性合成繊維布帛の片面に、水に対する溶解度が1%以下の燐酸化合物Aと、燃焼時に炭化骨格のできるビニル基含有樹脂Cと、水不溶性増粘剤Dを少なくとも含んで構成されてなる難燃加工剤を付与することを特徴とする難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。
【請求項9】
難燃加工剤として、水不溶性燐酸エステルBを含むものを用いることを特徴とする請求項8記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。
【請求項10】
難燃加工剤として、さらにアクリル樹脂を含むものを用いることを特徴とする請求項8または9記載の難燃性に優れたスエード調人工皮革の製造方法。

【公開番号】特開2007−16357(P2007−16357A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200481(P2005−200481)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(592092032)大京化学株式会社 (19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】