説明

難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物

【課題】高い熱伝導率を有し、耐熱性、難燃性に優れた熱伝導性樹脂シート状物を提供する。
【解決手段】1013hPaおよび25℃において90000mPa・s以下の粘度を示す官能性アクリル系共重合体を、硬化剤により架橋してなるシート状物であって、架橋密度がTHF抽出のゲル分率において90%以上であること、および前記官能性アクリル系共重合体100重量部に基づいて250〜500重量部の金属水酸化物と、前記官能性アクリル系共重合体100重量部に対して15〜40重量部のポリリン酸アンモニウムを含有することを特徴とする、難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。該シート状物は、UL−94V−0規格を満足できる程に高度に難燃化でき、内部に気泡を有さないため熱伝導率も高く、さらに耐熱性も良好で、十分な可饒性を兼備し、熱伝導性シート状物として好ましく使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の部品の熱を速やかに放熱部品へ伝導するための材料であって、一般にサーマルインターフェイス(Thermalinterface)材として称されるものに関する。さらに詳しくは、局部発熱するICチップ、CPUチップ、GPUチップ等からの発熱をヒートシンク等の放熱部位に伝導するために使用されるものであり、熱を放熱部位に速やかに伝導し得ると共に優れた難燃性に優れたアクリル樹脂熱伝導性シート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器等の部品は使用時に発熱するため、熱によるこれら部品の破損を防止するために、また部品の安定作動を目的として、電子機器装置内に金属製のヒートシンク等が設けられている。また、必要に応じてヒートシンクをファン等により強制的に冷却することも行われている。さらに大きな発熱を伴う部品に対しては、水循環による水冷や、半導体素子の一種であるペルチェ素子等を用いて強制的に冷却させる等の方法も用いられている。
【0003】
これらの冷却装置を発熱体に取り付ける際には、双方の間の接触を密にして発生した熱を効率良く冷却装置に伝導させる必要がある。そして、このような役割を果たすものとして熱伝導材がある。熱伝導材は、冷却装置と発熱体との間に介在して使用されるものであり、双方の間での熱伝導を促進するものである。
【0004】
このような熱伝導材として、一般には熱分解安定性および難燃性の観点からシリコーン系グリスや、熱伝導率を高めたシリコーンゴムシート/シリコーンゲルシートが使用されている。
しかしながら、シリコーン系グリスは高粘度液状物のため取り扱いが困難であり、発熱体に塗布する際の塗布量の制御が難しい上、高温になるにつれてグリスの流動性が高まり流出(ポンプアウト)を起こす等の問題もある。また密着性が十分良好でないので、大きな凹凸面への使用は実質的に困難である。さらに、シリコーン系材料であるため、シロキサンガスの発生が僅かながら存在し、該ガスが電極接点等に付着すると二酸化ケイ素が生成して接点不良を発生させる惧れもある。
他方、熱伝導率を高めたシリコーンゴムシートや、より低硬度のシリコーンゲルシートは、原料となるシリコーン樹脂自体が高価であり、また加硫工程を必要とするため容易に製造することはできない。さらに前記シリコーン系グリスと同様に、シロキサンガスの発生に伴う問題もある。
【0005】
シリコーン系グリス並びにシリコーンゴムおよびゲルシートの問題点を解決するために、アルミナ、窒化ホウ素等の熱伝導性を持つ充填材を混合したゴム系、ウレタン系およびアクリル系の熱伝導材が提案されている。しかしながらこれらの熱伝導材は、それぞれ個別の問題点を有し、一部の限定された用途に使用可能なのみである。
例えば、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系樹脂に熱伝導性充填材を混合して得られるゴム系熱伝導材の場合、加硫工程が必要となり製造工程数が増加する、熱伝導性充填材を高比率で混合することが困難である、難燃性が低い等の問題点を有する。また加硫工程を必要としない熱可塑性エラストマーを用いた場合でも、やはり熱伝導性充填材を高比率で混合することは困難であり、さらに得られる熱伝導材の耐熱性は低い。
また、ウレタン系樹脂に熱伝導性充填材を混合した熱伝導材の場合、既重合のウレタンエラストマーを使用したものでは耐熱性に問題があり、また金属水酸化物充填材を混入した単分子ポリオールとイソシアネートとを反応させて得たものも、耐候性、耐熱性の面で長期使用には適さないものであった。
さらに、アクリル系樹脂に金属水酸化物充填材を混合した熱伝導材の場合、従来技術では既重合のアクリルゴムを樹脂マトリクスとして使用していたため、混練により、固形のアクリルゴムに金属水酸化物を添加しなくてはならず、流動性物質に添加する場合に比べて、金属水酸化物を高比率で混合することが困難であり、得られる熱伝導材の耐熱性も劣るものであった。
【0006】
加えて、アクリル樹脂を溶剤に溶解してなるかまたはエマルジョン系アクリル樹脂を水に分散させてなる市販の熱伝導性感圧接着剤に金属水酸化物を混合したものから、熱伝導性を有する薄膜を形成することも行われている。この薄膜は、該感圧性接着剤を離型性フィルム等にコーティングすることにより形成できるが、その反面、型にエマルジョンを流し込み、溶剤を気化させる方法であるため、厚いシート状物を製造することができず、また生産効率も悪い。
【0007】
例えば、エチルアクリレート系重合体60〜90重量%およびエチレン−メチルアクリレート共重合体10〜40重量%とからなるバインダー樹脂100重量部に対し、金属水酸化物系難燃剤100〜150重量部、赤リン1〜10重量部および熱伝導性粉末500〜700重量部配合したことを特徴とするノンハロゲン難燃性放熱シートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この難燃性放熱シートは、金属水酸化物と赤リンを併用することにより、良好な熱伝導性を有すると共に難燃性に優れ、かつ燃焼時に有害なハロゲン系ガスが発生するのを防止し得る。
【特許文献1】特開2003−238760
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、上述の問題を有さず、かつシリコーンゴムシートおよびゲルのように高価でなく複雑な加工無しに、高度に難燃化された熱伝導材についての要求が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、実質的に溶剤を含まないアクリル系樹脂オリゴマーを高度に架橋させ、さらに難燃剤と熱伝導性充填剤の双方の特性を併せ持つ金属水酸化物をある一定量以上混合し、さらにリン酸系の難燃剤を組み合わせて作製したシート状物は、UL−94V−0規格を満足できる程に極めて高い難燃性を発現し得ることを見出した。しかも該シート状物が含む樹脂成分は、架橋の際に内部で気泡が発生し難くいため熱伝導率が高く、さらに耐熱性も良好で、十分な可饒性を具備するため、熱伝導性シート状物として好ましく使用できることを見出した。
【0010】
従って本発明は、
1013hPaおよび25℃において90000mPa・s以下の粘度を示す官能性アクリル系共重合体を、硬化剤により架橋してなるシート状物であって、
架橋密度がTHF抽出のゲル分率において80%以上であること、および
前記官能性アクリル系共重合体100重量部に基づいて250〜500重量部の金属水酸化物と、前記官能性アクリル系共重合体100重量部に対して15〜40重量部のポリリン酸アンモニウムを含有すること
を特徴とする、難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物
に関する。
【0011】
本発明の好ましい態様は、
熱伝導率が1W/mK以上であることを特徴とする、前記難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物、
厚さが500ないし3000μmであることを特徴とする、前記難燃性アクリル樹脂熱伝
導性シート状物、
前記金属水酸化物は水酸化アルミニウムであることを特徴とする、前記難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物、
前記官能性アクリル系共重合体が有する官能基はカルボキシル基であることを特徴とする、前記難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物、および
前記硬化剤は、1013hPaおよび25℃において90000mPa・s以下の粘度を示すグリシジル化合物であることを特徴とする、前記難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物は、熱伝導性充填剤と難燃剤との双方の特性を有する金属水酸化物充填材と、ポリリン酸アンモニウムとを配合したアクリル系共重合体を硬化剤により架橋してシート状とすることにより、高度に難燃化することができる。さらに熱伝導性が良好でかつ耐熱性にも優れ、このような特性を満足するアクリル樹脂を主成分とした熱伝導性シート状物は従来存在しなかった。そして、本発明の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物を電子機器等の熱伝導体として使用すれば、電子部品等の部品で発生した熱を冷却装置に良好に伝導することができる。しかもアクリル系共重合体の粘度が90000mPa・s以下であるため、溶媒を添加することなく製造でき、製造時にシート状物が発泡することもない。さらに、十分な柔軟性を有するため凹凸に対する高い追従性を有し、発熱体と冷却装置との双方に密着して、熱伝導を良好に発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の熱伝導性シート状物を構成するアクリル系共重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンおよびこれらの誘導体のような重合性二重結合を有する化含物を、一般にラジカル重合開始剤の存在下、溶液重合法(ソリューション法:例えば、乳化重合法(エマルジョン重合法)、懸濁重合法(サスペンジョン重合法)等)および塊状重合法(バルク法)によって重合して得られる。これらの共重合体は、成形体、粘着剤、塗料、繊維、シーリング材等の種々の用途に利用されているものである。
上述の重合法のうち、溶液重合法(乳化重合法、懸濁重合法等)によって製造される共重合体は、反応溶媒や分散媒等の液体中で重合させるため、重合条件の制御が容易であり、目的とする重合体を均質かつ高効率で比較的容易に製造できる。しかしながら、液体中での重合方法は、生成する重合体が固化するならば比較的容易に分離を行えるが、液状の重合体が生成する場合には分離が難しく、分留、濾過、洗浄等の複雑な操作が必要となり、また重合体以外の液分を完全に除去することは容易でない。
【0014】
一方、塊状重合法(バルク法)は、媒体を使用しないことから、液分の分離や、不純物の残留等の問題がなく、効率良く高純度の重合体を生成できる利点があるが、特に(メタ)アクリル樹脂重合体に関しては重合反応の制御が難しく、生成される共重合体の構造、分子量の均一性に劣るものであった。しかしながら近年、これら塊状重合法の問題点が触媒の選択、開始剤としての性質を兼ね備えたモノマーの使用等によって解決され、高効率で比較的均一な分子量分布の重合体を得ることができるようになりつつある(特表昭59−6207号公報、特開昭60−215007号公報、特開平10−17640号公報、特開2000−239308公報、特開2000−128911公報、特開2001−40037公報参照)。
【0015】
本発明のアクリル系共重合体は、2種以上のモノマーを共重合させたアクリル系共重合体の他、異なるアクリル系単独重合体同士のブレンド、アクリル系単独重合体とアクリル
系共重合体とのブレンド、またはアクリル系共重合体同士のブレンドをも含み得る。ここで、該アクリル系共重合体は、共重合体を構成する成分のうち、少なくとも主成分のポリマーのガラス転移温度(Tg)がDSC法により測定される値で−60〜−20℃であることが好ましく、全てのポリマーのガラス転移温度が該温度範囲内であってもよい。主成分のポリマーのガラス転移温度が高すぎると、得られる熱伝導性シート状物が硬度が高くなり好ましくない。熱伝導性シート状物の硬度としては、ASKER−Cで50以下、好ましくは40以下である。
【0016】
本発明のアクリル系共重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算で、数平均分子量が800〜20000、特に2000〜15000であることが好ましい。分手量が800より低いものは、極低分子量体(モノマー、ダイマー、トリマー等)が共重合体に混入し易く、熱伝導性シート状物とした際にブリードアウトする傾向にあるばかりか、ボイドを形成する原因にもなり好ましくない。他方、分子量が20000を超えると、共重合体の流動性が悪化し、金属水酸化物等の適量添加が困難になり、また作業性に劣るため好ましくない。
【0017】
本発明のアクリル系共重合体は官能性を有することを特徴とするが、官能基がカルボキシル基の場合、その割合は例えば水酸化カリウム(KOH)滴定による酸価(AV)で20〜150、好ましいのは50〜150である。酸価が20より少ない場合、架橋点が十分でなく耐熱性の高いシート状物が得られず、また難燃性についても好ましくない。他方、酸価が150を越えると架橋密度が上昇しすぎ、熱伝導性シート状物の可撓性が不足する。
【0018】
本発明のアクリル系共重合体へカルボキシル基を導入する方法としては、官能基を有さないアクリル系モノマーを主体に、これに共重合可能なビニル系モノマーおよびカルボキシル基を有するモノマーを同時に重合(共重合)することや、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーと他のアクリル系モノマーを共重合させることがある。さらにアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーを重合させ、停止反応としてカルボキシル基を有する分子により末端停止反応を行うことでもカルボキシル基を有する共重合体を得ることが可能である。従って、アクリル系共重合体中のカルボキシル基は分子鎖末端または分子鎖中間に存在することができ、また側鎖上または主鎖上のどちらに存在してもよく、さらにランダムに共重合したものであってもブロック共重合したものであってもよい。さらにその構造も単一である必要はなく、様々な繰り返し単位のアクリル系共重合体のブレンドであることができる。
【0019】
本発明のアクリル系共重合体の主成分である官能基を有さないアクリル系モノマーとしては、メチルアクリレート(アクリル酸メチル)、エチルアクリレート(アクリル酸エチル)、プロピルアクリレート(アクリル酸プロピル)、iso−プロピルアクリレート(アクリル酸−iso−プロピル)、n−ブチルアクリレート(アクリル酸−n−ブチル)、iso−ブチルアクリレート(アクリル酸−iso−ブチル)、tert−ブチルアクリレート(アクリル酸−tert−ブチル)、2−エチルヘキシルアクリレート(アクリル酸−2−エチルヘキシル)、オクチルアクリレート(アクリル酸オクチル)、iso−オクチルアクリレート(アクリル酸−iso−オクチル)、デシルアクリレート(アクリル酸デシル)、iso−デシルアクリレート(アクリル酸−iso−デシル)、iso−ノニルアクリレート(アクリル酸−iso−ノニル)、ネオペンチルアクリレート(アクリル酸ネオペンチル)、トリデシルアクリレート(アクリル酸トリデシル)、ラウリルアクリレート(アクリル酸ラウリル)等のアクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリシクロデシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等の脂環式アルキルアクリレート;メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、エチルメタクリレート(メタクリル酸エチル)、プロピルメタクリレ
ート(メタクリル酸プロピル)、iso−プロピルメタクリレート(メタクリル酸−iso−プロピル)、n−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−n−ブチル)、iso−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−iso−ブチル)、tert−ブチルメタクリレート(メタクリル酸−tert−ブチル)、2−エチルヘキシルメタクリレート(メタクリル酸−2−エチルヘキシル)、オクチルメタクリレート(メタクリル酸オクチル)、iso−オクチルメタクリレート(メタクリル酸−iso−オクチル)、デシルメタクリレート(メタクリル酸デシル)、イソデシルメタクリレート(メタクリル酸イソデシル)、イソノニルメタクリレート(メタクリル酸イソノニル)、ネオペンチルメタクリレート(メタクリル酸ネオペンチル)、トリデシルメタクリレート(メタクリル酸トリデシル)、ラウリルメタクリレート(メタクリル酸ラウリル)等のメタクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等の脂環式アルキルメタクリレート等が挙げられる。
【0020】
上述のアルキル系モノマーのうち、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、特にn−ブチルアクリレート(アクリル酸−n一ブチル)、2−エチルヘキシルアクリレート(アクリル酸−2−エチルヘキシル)が好ましい。
【0021】
上述のアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとしてはビニル系モノマーが挙げられ、具体的にはアクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ジメチルアクリルアミド、N−ジメチルメタクリルアミド、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
官能基としてカルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、これらから誘導される官能性モノマー等が拳げられる。
【0023】
本発明のアクリル系共重合体は、1013hPa、25℃において90000mPa・s以下の粘度を有する。粘度が90000mPa・sより高いと、共重合体の流動性が悪く、金属水酸化物等の添加が難しくなり作業牲に劣る傾向がある。さらに、重合した際にボイドの発生がないよう、実質的に溶剤を含まない原料を使用するのが好ましい。なお、本明細書で記載した粘度は、ブルックフィールドBH型回転粘度計での測定値である。該アクリル系共重合体の流動特性は、チキソトロピック流動を示す場合、剪断速度を上げた状態で粘度が90000mPa・s以下になれば好ましく、またダイラタント流動を示す場合、剪断速度が極低剪断のときにおいても粘度が90000mPa・s以下となるのが好ましい。
【0024】
また、本発明のアクリル系共重合体を反応により架橋させる硬化剤は、該アクリル系共重合体がカルボキシル基を有する場合、好ましくは、少なくとも分子中に2個以上のグリシジル基を有する化含物である。そして該硬化剤のエポキシ当量(WPE)は、80〜400の範囲内であることが好ましい。エポキシ当量が80以下であると、アクリル系共重合体と反応させるために多量の硬化剤が必要となり、得られた熱伝導性シート状物の特性が十分満足とはならない。他方、エポキシ当量が400以上であると、反応速度が速すぎて成形が困難となる。
また、硬化剤は1013hPa、25℃において液状であり、かつ1013hPa下で、150℃で10分間加熱した後の重量滅少値が、加熱前の重量に対して3%以下である実質的に溶媒を含まないものが望ましい。重量減少値が3%より大きいと、硬化剤との反応による鎖延長の障害となる上、得られるシート状物の内部に気泡を発生させる原因とな
る惧れがある。なお、本明細書で使用する加熱重量減少値は、メトラー・トレド株式会社製HG53型ハロゲン水分計を用い、常圧(1013hPa)下で、試料5gを150℃、10分間加熱したときの重量変化を測定し、加熱前後の重量比較により減少率を算出したものである。
【0025】
本発明で用いる硬化剤のうち、グリシジル基を有するものとしては、種々のものが使用できるが、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル(SORPGE)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(PGPGE)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(PETPGE)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(DGPGE)、グリセロールポリグリシジルエーテル(GREPGE)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(TMPPGE)、レゾルシノールジグリシジルエーテル(RESDGE)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(NPGDGE)、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(HDDGE)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDGE)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(PGDGE)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPGDGE)、ポリブタジエンジグリシジルエーテル(PBDGE)、フタル酸ジグリシジルエーテル(DGEP)、ハロゲン化ネオペンチルグリセロールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(DGEBA)、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル(DGEBF)等が使用され、特に好ましくは、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(TMPPGE)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(SORPGE)等である。
【0026】
硬化剤の添加量としては、アクリル系共重合体の官能基100当量に対して、硬化剤の反応基0〜150当量の範囲内にあることが好ましい。硬化剤の添加量が80当量より少ない場合、架橋が十分に進行せず、アクリル系共重合体が完全に固化しない惧れがあり、また耐熱性および難燃性が悪化するため好ましくない。他方、添加量が150当量より多い場合、過剰な未反応硬化剤が熱伝導性シート状物中に残存するため、経時でのブリードアウトが起こり、さらに難燃性も悪化するため好ましくない。
【0027】
本発明に使用される金属水酸化物は、難燃剤としての機能と熱伝導性充填材としての機能を兼ね備えたものである。該金属水酸化物としては、分解温度が250℃以上のものであり、具体的には水酸化アルミニウム、水酸化バリウム等である。分解温度が250℃より低いと、放熱材として十分な要求性能を果たせず好ましくない。
なお、本明細書における分解温度の測定は、金属水酸化物のみを熱重量計(TGA:Thermo Gravimetric Analyzer)により、大気雰囲気下、窒温から600℃まで昇温速度10℃/分で昇温しする際、重量減少を生じる温度を測定して分解温度とするものである。
【0028】
本発明の金属水酸化物の大きさ、形状は特に制限されるものではないが、粒径は約0.5〜30μm、形状は似球状のものが特に好ましい。粒径が0.5μmよりも小さくなると、添加した際にアクリル系共重合体の粘度が高くなりすぎ、他方、粒径が30μmよりも大きくなると、同様にアクリル系共重合体に混入し難くなる上、熱伝導性シート状物としたときに金属水酸化物を均一に分散させ難くなる。
また、同じ種類で粒径の異なる金属水酸化物を組み含わせて使用することも可能である。金属水酸化物の添加量を増加させる必要がある等の場合には、特に粒径の異なるものを数種類組み合わせて使用することにより、アクリル系共重合体の粘度を低いまま維持することができるので好ましい。
【0029】
金属水酸化物の添加量は、アクリル系共重合体100重量部に対して250重量部以上であり、好ましくは260重量部以上である。金属水酸化物の添加量が250重量部より少ない場合、十分な難燃性が確保できない。また、金属水酸化物の添加量が500重量部
より多い場合、金属水酸化物を添加した架橋前のアクリル系共重合体の粘度が高くなり過ぎ、加工性が劣る上、高硬度となり発熱体との密着性が悪化する。
【0030】
さらに、本発明の熱伝導性シート状物は、他の熱伝導性充填材をさらに添加することも可能である。そのような充填剤としては、窒化ホウ素、窒化アルミ等の窒化物;アルミナ、マグネシア等の金属酸化物;炭化ケイ素、カーボン;銅、銀、アルミ等の金属粉末等がある。さらに熱伝導的には必ずしも優れない、炭酸カルシウム等の炭酸金属;クレー、カオリン等の充填剤の添加も可能である。
【0031】
本発明の熱伝導性シート状物が含むポリリン酸アンモニウムは、次式
【化1】

で表され、主に難燃剤として機能する。該ポリリン酸アンモニウムは、常温常圧下で粉末状態であることが好ましい。さらに、該粉末の粒径は特に制限されないが、充填のし易さから粒径5〜10μm程度のものが好適に使用される。
ポリリン酸アンモニウムの添加量としては、アクリル系共重合体100重量部に対して20重量部以上、好ましくは25重量部以上である。また、ポリリン酸アンモニウムを40重量部以上添加しても難燃性の向上は見られない。
【0032】
本発明の熱伝導性シート状物は、アクリル系共重合体を硬化剤により架橋して得られるが、架橋させる際にはさらに反応性触媒を用いることが好ましい。該反応性触媒は、例えば4級アンモニウム塩、3級アミン塩、環状アミン塩(例:イミダゾール化合物、DBU)、環状アミン塩、リン系化合物、ルイス酸等が好適に使用される。
【0033】
前記4級アンモニウム塩としては、具体的には、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド(TEBAC)、テトラブチルアンモニウムクロライド(TBAC)、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)等が挙げられる。
前記3級アミン塩としては、具体的には、トリエチレンジアミン(TEDA)、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
前記イミダゾール化合物としては、具体的には、1,2−ジメチルイミダゾール(1,2DMZ)、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(1B2MZ)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、2−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ−CN)等が挙げられる。
前記DBUまたはその塩としては、具体的には、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)およびそのアルキル酸塩等が挙げられる。
前記リン系化合物として、具体的には、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
前記ルイス酸としては、具体的には、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化錫、三フッ化ホウ素等が挙げられ、特に好ましくは三フッ化ホウ素のモノエチルアミンおよびエタノールアミン化合物が挙げられる。
【0034】
前記反応性触媒の中でも、特に3級アミン塩またはイミダゾール化合物を使用することが反応性の点で好ましく、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)が特に好適に使用される。特に、アクリル系共重合体が有する官能基がカルボキシル基であり、硬
化剤が有する官能基がグリシジル基である場合、イミダゾール化合物は双方の官能基間の反応触媒として作用すると共に、余剰のグリシジル基と連鎖的に反応できるため、未反応の硬化剤による物性の低下を防止できるものと考えらえる。
反応性触媒の添加量は、アクリル系共重合体100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
反応性触媒を添加する方法としては、アクリル系共重合体に、反応性触媒を予め添加しておき、その後、硬化剤を混合することが好ましい。
【0035】
さらに、本発明の熱伝導性シート状物は、所望の要求性能に応じて酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱安定等を適宜添加することが可能である。
【0036】
アクリル系共重合体に金属水酸化物、ポリリン酸アンモニウムを所望の比率で添加する際には、各々を計量し混合攪拌する。このときの混合攪拌方法は特に制限されないが、共重合の組成、粘度、金属水酸化物の種類、添加量等により選択され、具体的には、ディゾルバーミキサー、ホモミキサー等の攪拌器を用いることが可能である。硬化剤と金属水酸化物とを予め混合する場合も、同様に行うことができる。
また、混合攪拌後、未分散の金属水酸化物等を除去する目的で、必要により濾過してもよい。さらに、混合攪拌中に生じた気泡を滅圧下で脱泡してもよい。
【0037】
本発明の熱伝導性シート状物の代表的な成形加工方法としては、金属水酸化物およびポリリン酸アンモニウムを均質に混合したアクリル系共重合体と、硬化剤とを混合攪拌して得られたぺースト状の混合物を加熱架橋させることが好ましい。アクリル系共重合体と硬化剤との組み合わせにより、常温での反応の進行が遅い場合、触媒成分を適宜添加して反応速度を調整することができる。反応時の加熱温度は特に限定されないが、120〜180℃程度に設定することが好ましい。さらに攪拌器で攪拌した後、減圧脱泡により混入した気泡を取り除くと、得られる熱伝導性シート状物中に気泡が少なくなり、良好な熱伝導率を得ることができる。
【0038】
そして、前記ぺースト状の混合物を剥離処理がなされたフィルム(セパレーターフィルム)、紙(離型紙)等の上に所定の厚さでコーティングし、その後オーブン等の加熱装置により加熱架橋させて本発明の熱伝導性シート状物が得られる。
本発明の熱伝導性シート状物の厚さは、0.5〜3.0mm、さらに好ましくは1.0〜2.0mmとすることが好ましい。0.5mmより薄いと十分な難燃性を得ることはできない。熱伝導性シート状物は所要により切断でき、任意の形状に成形して熱伝導が必要な部位に容易に貼着させることが可能である。
【0039】
本発明の熱伝導性シート状物は、構成するアクリル系共重合体の架橋密度が90%以上であることを特徴とする。この架橋密度は実質的に架橋に関与しない金属水酸化物およびポリリン酸アンモニウムも含めて測定された値であり、これら架橋に関与しない成分が含まれていることを考慮するとアクリル系共重合体と硬化剤とが非常に高度に架橋されていると言える。架橋密度が90%未満であると、燃焼時に架橋したアクリル系共重合体が融解または分解して滴下し、難燃性を悪化させるために好ましくない。
【0040】
本明細書における架橋密度は、簡単で再現性の良いTHF抽出法を用いて測定されたものである。即ち、架橋した熱伝導性シート状物(厚み:t=1.0mm)を25×25mmの寸法に切断して試料とし、これをTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬して12時間後に不溶解分を200メッシュ濾過布により分離し、150℃×1時間乾燥オーブン中でTHFを蒸発させ、浸積前後の重量減少を次式に従って算出することにより求められる:
架橋密度=(THF浸積12時間後の不溶解分の重量g)/(浸積前の重量g)
【0041】
本発明の熱伝導性シート状物は、UL(Underwriters Laboratories Inc.)のプラスチックの難燃性規格であるUL−94V(Vertical Burning Test)でV−0程度の難燃性を示すことを特徴とする。
UL−94V−0の規格では、シートを127mm×127mmに切断したものを試料とし、以下の5項目を満足することを規定している:
1)10秒間接炎後10秒以内に消炎すること、
2)5試料1組として10回の接炎で燃焼時間の合計が50秒以下であること、
3)試料を挟んだ先端まで燃え続けないこと、
4)ドリップ(滴下炎)があっても12インチ下に置かれた脱脂綿を燃焼させないこと、5)2回目の接炎後のGlowing timeが30秒を越えないこと。
尚、表中において、「不合格」とは、UL−94 V−2に合格しないことを意味する。
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1〜13および比較例1〜7
以下の表に示す成分のうち硬化剤以外の成分を混合攪拌して十分に脱泡した後、硬化剤を添加し、再度減圧脱泡したペースト状混合物を表面がシリコン離型処理されているポリエステルフィルム上にコーティングした。コーティング後、170℃のオーブン中で7分間加熱することにより混合物を架橋させ、さらに常温にて24時間放置することにより養生して熱伝導性シート状物を得た。
各成分を混合したペースト状混合物について、粘度および脱泡性を、また得られた熱伝導性シート状物について、架橋性、気泡の発生、硬度、高温圧縮による変形、ブリードアウト、耐熱性および難燃性について評価した。
各実施例および各比較例の熱伝導性シート状物の組成および評価結果を以下の表に示す。なお、表中での各成分の量は重量部で表す。
【0043】
【表1】

【0044】
*1:アクトフローCB−3060、綜研化学株式会社製、官能基:−COOH、粘度:30000mPa・s
*2:アクトフローCB−3098、綜研化学株式会社製、官能基:−COOH、粘度:45000mPa・s
*3:アクトフローUT−3001、綜研化学株式会社製、官能基:−OH、粘度:18000mPa・s
*4:グリシジル硬化剤、SR−MK3、阪本薬品工業株式会社製、粘度:1250mPa・s
*5:グリシジル硬化剤、SR−TMP、阪本薬品工業株式会社製、粘度:125mPa・s
*6:イソシアネート硬化剤、コロネート−1040、日本ポリウレタン工業株式会社製*7:テラージュC−60、チッソ株式会社製、平均粒径=7.5μm
*8:2−エチル−4−メチルイミダゾール、キュアゾール2E4MEZ、四国化成工業株式会社製
*9:錫メルカプタイド、U−340、日東化成株式会社製
【0045】
上記の表から解るように、本発明の熱伝導性シート状物は、THFゲル分率が80%以上であり、かつ金属水酸化物とポリリン酸アンモニウムを特定量配合することにより、熱伝導率と難燃性の両方に優れたものであった。
それに対し、比較例1は、実施例と同様のアクリル系共重合体を使用しているが、その配合割合やアクリル系共重合体の種類、硬化剤の種類、アクリル系共重合体と硬化剤の組み合わせにより、THFゲル分率が変化し、金属水酸化物とポリリン酸アンモニウムが好ましい添加量であるにも関わらず、THFゲル分率が低下することに起因して難燃性が悪化した。
また、比較例2は、THFゲル分率が80%以上であり、金属水酸化物の添加量が好ましい範囲であるにも関わらず、ポリリン酸アンモニウムの添加量が少ないことに起因して難燃性が悪化した。
比較例3は、THFゲル分率が80%以上であり、ポリリン酸アンモニウムの添加量が好ましい範囲であるにも関わらず、金属水酸化物の添加量が少ないことに起因して熱伝導率が低くなると共に難燃性が悪化した。
以上のことから、本発明の熱伝導性シート状物は、金属水酸化物の添加量、ポリリン酸アンモニウムの添加量、THFゲル分率の全てが条件を満たすことにより、これらの相乗効果として、熱伝導性と難燃性の両方に優れた熱伝導性シート状物を得ることができることが解る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1013hPaおよび25℃において90000mPa・s以下の粘度を示す官能性アクリル系共重合体を、硬化剤により架橋してなるシート状物であって、
架橋密度がTHF抽出のゲル分率において80%以上であること、および
前記官能性アクリル系共重合体100重量部に基づいて250〜500重量部の金属水酸化物と、前記官能性アクリル系共重合体100重量部に対して15〜40重量部のポリリン酸アンモニウムを含有すること
を特徴とする、難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。
【請求項2】
熱伝導率が1W/mK以上であることを特徴とする、請求項1記載の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。
【請求項3】
厚さが500ないし3000μmであることを特徴とする、請求項1記載の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。
【請求項4】
前記金属水酸化物は水酸化アルミニウムであることを特徴とする、請求項1記載の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。
【請求項5】
前記官能性アクリル系共重合体が有する官能基はカルボキシル基であることを特徴とする、請求項1記載の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。
【請求項6】
前記硬化剤は、1013hPaおよび25℃において90000mPa・s以下の粘度を示すグリシジル化合物であることを特徴とする、請求項1記載の難燃性アクリル樹脂熱伝導性シート状物。

【公開番号】特開2006−1966(P2006−1966A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176654(P2004−176654)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】